No.415189

黒い三連星

みかつうさん

1997年作品。
よくよく考えてみれば、黒い三連星と言えども、対MS戦闘をやったのはガンダムが最初で最後なんですよね。
だからあのジェットストリームアタックは、対ガンダム用に考え出されたものだったのかもしれません。艦船相手にあれやってもねえ。
初稿ではガイアは地球で療養中ということにしてましたが、グラナダへ行ってまた戻ってくるのもなんなので、本国で療養中に書き直ししました。従ってマ・クベもモニター出演w

2012-04-28 11:36:08 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:744   閲覧ユーザー数:744

「ガイア・フィジャック大尉でいらっしゃいますね?」

 恵みの太陽を遮った細身のシルエットに、ガイアは身を起こした。

「大尉ってのはやめてくれ。今は休暇中だ」

「申し訳ありません、フィジャック様」

 ガイアは、白いテーブルに残っていたドライシェリーを飲み干して、ダブルのスーツを着込んだ細身の男を恨めしそうに一瞥した。

「暑くないか?」

「は、私には紫外線があまりよくありませんので」

「人工でもか?ふん、エリートは厄介なものだな」

 大儀そうに立ち上がると、ガイアは陽に焼けた身体に白いガウンを纏って、男の後ろに続いた。

「本当にキシリアが、・・・司令閣下がお待ちなのか?」

「はい。応接室でお待ちです」

「ふん・・・」

 あの腰の重いキシリア少将が、わざわざ療養中の自分のところまで出向いてくるなど、ガイアにはどうしても信じられなかった。

 話には聞いていたが、そうなると連邦のあの木馬とかいう独立部隊が、次第に力を付けつつあるということなのだろう。あのシャア奴が討ち洩らすほどだ。今はランバ・ラルの隊が追撃しているらしいが。

「新型モビルスーツ、でありますか?」

 キシリアは、静かに頷いた。

『そうだ。新型だよ、ガイア殿』

 キシリアの傍らには、腕を組んだマ・クベ大佐がモニターの中で不敵な笑みを浮かべていた。

『プロトタイプは既にロールアウトしている。今グラナダでテスト中だ。・・・で、ガイア殿・・・』

「その新型で、オデッサに加われと、おっしゃるので?」

「・・・察しがよいな、大尉」

「は・・・」

 キシリアは、虚ろな目を細めてガイアを見つめた。

「貴殿だけではない。アンスバッハ中尉と、サラトフ技官にも来てもらうことになる」

「オルテガとマッシュも、でありますか?」

『黒い三連星の復活だよ、ガイア殿。君たち三人には・・・』

 マ・クベは、モニターから顔を逸らすと、何やら呟いた後に深々と敬礼して通信を切った。

「・・・連邦は、徐々に力を付けつつある。モビルスーツの量産が始まったという話も聞いている」

「それほどなのでありますか?」

「私も、最初は信じていなかった。シャアの報告を聞くまではな。そして、あのガンダムとかいう連邦のモビルスーツ、パイロットはニュータイプではないかという噂なのだ」

「ニュータイプ、でありますか・・・」

 ガイアは、まだ見ぬ敵に戦慄と闘志を覚えていた。

「だからこそ・・・」

 キシリアは、消えたモニターを一瞥してマスクを外した。

「だからこそ、貴殿の力が欲しいのだ。このまま木馬の隊がオデッサに加われば、マ・クベの軍勢とて持ち堪えられるかどうか定かではない。その前に、連邦のガンダムと木馬を・・・」

「キシリア閣下、もうそれ以上何も申されませぬよう。このガイア・フィジャック、黒い三連星の名誉に賭けて、木馬とガンダムとやらを討ってみせましょうぞ」

 キシリアの赤い唇が、僅かに震えていた。

 

 グラナダは、ルウム戦役以来だった。腎臓を患わなかったら、そのまま前線にいたかもしれない。

 二人と会うのも久しぶりだ。オルテガは、療養中に一度見舞いに来てくれたことがあった。それも作戦行動中にだ。マッシュは、何度か手紙をもらった。本国でMSの教練をやっているらしく、多忙で来れないことを文面でしきりに詫びていた。

 オデッサまで十日とないが、昔の勘を取り戻すのにそう時間は必要ないだろう。新型MSのドムにも期待している。眼下に迫る月面を見ながら、逸る気持ちを押さえるのが精一杯だった。

「よう! ガイア!」

「遅かったな」

 タラップの降り口で、二人が出迎えに来てくれていた。

「おう、元気そうだな、二人とも」

「それはこっちのセリフだ」

「もう身体は大丈夫なのか?」

「でなけりゃ来るものかよ」

「そりゃそうだ」

 アフリカ戦線で現役のオルテガは、以前より身体が引き締まっている。マッシュは、やはり神経を使うのか少し痩せたようだが、体型は維持している。一番問題なのはガイアかもしれなかった。

「で、もう新型には乗ったのか?」

「いや、まだだ」

「どうせなら、みんな揃ってからのほうがいいと思ってな」

 ガイアは、スーツケースを下士官に放り投げると、三人こぞって整備棟へ向かった。

「ほう! こいつがドムか」

 整備ハンガーに三機、まだカラーリングされていない鈍色のモビルスーツが横付けされていた。

「ザクよりだいぶでかいな」

「こいつが量産されれば、各地の戦線も優位に立てるぜ」

「新型もいいが、インターフェイスやソフトウェアの改良も平行してやってほしいものだ」

 三人は、それぞれの立場で感想を抱きながら、目の前のMSを眺めていた。

「ちょっとちょっと、勝手に入ってきちゃ困る・・・」

 まだ若いその整備兵は、スーツ姿の三人を怪訝そうに見つめながらも、やがて驚愕の表情で身体を強ばらせた。

「し、失礼しましたっ、黒い三連星殿っ!」

「ふん、そういう呼ばれかたも珍しいが」

「おい若いの、これ、色は何色なんだ?」

「やっぱり、黒く塗るのか?」

「は、はっ、その通りであります」

「ふん・・・」

 ガイアは、訝し気に機体を見上げた。

「わざわざねえ・・・」

「い、いえ、大尉殿、このドムは、プロダクションカラーが黒なのであります」

「ほう、そうなのか」

「はいっ」

 別にあやかっているわけでもないだろうが、ガイアはなんとなくいい気分だった。

「ガイア、そろそろ戻ろうぜ」

「キシリア閣下に帰還のご挨拶をな」

 もう一度機体を見上げて、ガイアは踵を返した。

「じゃあな、若いの。整備しっかり頼むぞ」

「はっ、ご一緒できて光栄です。黒い三連星殿っ!」

 三人は、苦笑いを浮かべながら整備棟を後にした。

 

 実戦から遠退いていたガイアにとって、勘の鈍りは予想以上だった。シミュレーションプラクティスも、予定の半分しかクリアしていない。さしもの二人も、これではオデッサまでに間に合うかどうか心配になっていた。

「ガイア、2時の方向だ!」

「フォーメーション・・・、α6じゃ間に合わん!」

「パターンFで回避しろ、ガイア!」

「くそおっ!」

 コクピット内が赤く照らされ、自機が撃破されたことを示すメッセージがメインパネルに表示された。

「またか・・・」

「ガイア、少し休憩しよう」

 ガイアは、シミュレーターのハッチが開くなりヘルメットを投げ付けた。

「なんであの白い奴があんなに速いんだ!」

「ラル隊が送ってきたデータだ。確かだよ、ガイア」

「くそっ!」

 シミュレーションルームを出ていくガイアを、誰も止めようとはしなかった。オルテガもマッシュも、正直これほど酷い状態だとは思ってもみなかったからだ。

「まずいな・・・このままでは、木馬を沈めるどころか、まともに戦うことすらできやしない」

「ああ、だが、もう何をするにも時間がない。連邦はオデッサデイを早めるらしいからな」

「・・・堕ちたものだな、黒い三連星も」

「言うなよ、オルテガ。・・・信じるしかないだろう、一番辛いのは奴なんだ」

 二人からついて出るのは不安の溜息だけであった。

 

 ガイアは、整備棟にいた。ノーマルスーツの腰の辺りからは、データ収集用のコネクタがぶら下がったままだった。

 ドムの整備は順調に進んでいた。カラーリングも施され、照明に威風堂々とした姿が浮かび上がっている。ガイアは、呆然とたちすくんだままその姿を見つめていた。

「・・・何が黒い三連星だ、くそったれ・・・」

 ハンガーに固定された各機に整備兵が取り付いて、最終の調整作業が行なわれていた。

「大尉殿!」

 整備兵の一人が、ガイアの姿を見つけて下へ降りてきた。

「おう、こないだの若いのか」

「はいっ、お見知りおきいただいて光栄であります」

「どうだ、ドムの調子は?」

「はっ、整備は順調に進んでおります。十二時間以内で出撃可能であります」

「ふん、そうか」

「よろしければ、お乗りになられますか?」

「いいのか?」

「それで、でありますが・・・」

 何か言いにくそうな若い整備兵は、振り返ってドムを一瞥した。

「その・・・」

「なんだ、はっきり言ってみろ」

「は、はいっ。ご、ご一緒に、しゃ、写真を撮らせてはいただけないでしょうかっ!」

 頭の天辺から爪先まで硬直しきっている整備兵に、ガイアは苦笑した。

「ああ、構わんぞ」

「はっ、ありがとうございますっ!」

 整備兵は、リフトを操作してガイアをコクピットまで上げた。

「し、しばらくお待ちくださいっ」

 そう言うと、整備兵はまた下へ降りていった。

 ガイアは、コクピットハッチの縁に手を掛けたまま、中の様子を見渡していた。やがて、意を決したようにシートに飛び移った。

 イグニッションはロックが掛かっていたが、コンソールには火が入っていた。軽くシート位置を合わせて、左右の操縦桿の感覚を診た。ガイアの中に、あの感覚が蘇った。頭蓋が痺れるように震えた。ジオン公国に黒い三連星ありと謳われた、あの日の戦いを。

「た、大尉殿!」

 その声にコクピットの外を見ると、リフトに溢れんばかりの整備兵が乗り込んで上がってきた。

「よ、よろしいですか?」

 ガイアは、笑顔で手招きした。

 

「ようし、休憩は終わりだ」

 意気揚揚とシミュレーションルームに戻ってきたガイアを、オルテガもマッシュも奇異な眼差しで見つめざるを得なかった。

「何ぼーっとしてるんだ二人とも。さあ、あれをやるぞ」

 ガイアは、颯爽とシミュレーターに乗り込んだ。

「あれをやるのか、ガイア?」

「おうよ。黒い三連星の恐ろしさ、連邦のガンダムとやらに味わわせてやるのさ」

 ガイアのその目の輝きに、二人は顔を見合わせて頷いた。

「行くぞオルテガ、マッシュ。白い奴にジェットストリームアタックだ!」

 

copyright (c)crescent works 1997


 
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