No.412917

Pと楓の朝

ですてにさん

Pと楓さん中心の話。
思いつきで書いているから、厳しい突っ込みは勘弁ね。

いきなりそういう関係の描写が入ります。注意。
25歳児だからこそ出来る表現…。

2012-04-23 05:11:36 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:4821   閲覧ユーザー数:4099

ふとした腕の痺れと、カーテンの間から差し込む日光を感じて、目を覚ます。

ギシッ…僅かな身体の動きにも、学生時代から使用している、

ある意味年季モノのスプリングベッドが軋む音。

 

「いい加減買換えなけりゃダメだな…」

 

まして、このベッドは本来シングル用。いくら、体型は細身であるとはいえ、流石に手狭といえた。

…そう、彼の隣には。

彼の片腕を『くの字』に変えて、しっかりと枕にしている、楓の姿があるからである。

 

「…枕、持ち込んでるはずなのにな」

 

彼の呟きは、気持ち良さそうに未だ寝息を立てる彼女に聞こえることは無いのだった。

 

 

高垣楓。634プロダクション所属。

この業界では大手である、765プロダクションから枝分かれしたメンバーが立ち上げた経緯がある。

実質、分社のような位置づけになっており、

プロデューサーである彼自身も、彼女も765プロからの移籍組であった。

 

765プロは今や大手となり過ぎて、小回りが利きにくくなっている現状もあり、

634プロが極度な拡大路線を引かないこともあり、ある意味緩やかな協力体制が築けている関係にある。

…と、そんな内部事情はさておき。

 

その634プロにおいて、楓は堅実に売上をあげるという、珍しいタレントになりつつあった。

当初は見た目が完全に10代に見えることもあり、アイドルとして売り出したのだが。

 

「今日はいつものラジオの収録だったね」

 

「はい。貴音さんとまたお話できるのが楽しみです」

 

ダジャレと親父ギャグをこよなく愛する、やや口下手な25歳児。それが、楓を端的に表す言葉である。

765プロの四条貴音と共に番組レギュラーを務めているが、毎回不思議な世界を作り出しており、

半年ほど続いている中で安定した人気を得ていた。長期番組化が既定路線となっているぐらいには。

ここから派生して、トーク番組にお呼ばれする事も増えつつある。

 

(…四条さんは、楓の波長に合うんだろうな。

まぁ、当初のアイドル路線からは完全に外れたけど、楓が満足そうなら、それでいい)

 

番組内で二人が一曲を披露するコーナーから派生した、CDデビューの話も順調に進んでいた。

アイドルとしてはダンスが決して得意ではない彼女も、シンガーとして優れたモノを持っている。

 

「プロデューサー。今日は『眠り姫』、歌うんです。聴いていて下さいね」

 

楓が微笑みながら、本日の披露曲の種明かしをする。

この番組自体、進行表はあれど中身は楓と貴音にお任せ、という緩い部分も多く、

それがさらに二人の不思議空間を加速させるという、ある種のいい循環となっている。

 

「如月の曲か…そりゃ、楽しみだ」

 

だが、楓の言葉は、彼にとって衝撃的で。

 

自分がとても及ばない、765プロの敏腕の先輩がプロデュースする、蒼の歌姫・如月千早。

その千早の代表曲を、貴音と一緒に披露するという。

楽しみだ、と言いつつ、嫌な汗が浮かんできそうになる。

 

番組内の1コーナーで歌うだけ。そう思いながらも、楓が如月の楽曲に飲みこまれはしないか。

カップを持つ手が知らず固まり、力を込めてしまう。

口下手が高じて、人間観察が隠れた趣味となっている彼女は、それを見逃すはずもなく。

 

「私、本当に楽しみなんですよ。

貴方が褒めてくれる私の歌声が、どこまで如月さんに近づけるだろうって」

 

そっと添えられる手。少し得意気に微笑む顔。

 

「歌で気持ちを伝える方法もあるって教えてくれたのは、プロデューサーです。

ふふっ、プロデューサーは私の足りない言葉でも、ちゃんと汲んでくれますけど」

 

移籍直後に担当すると決まり、初めて間近で彼女と話してから、

ずっと惹かれてやまない、蒼と緑のオッドアイ。

見据えられると、思春期に帰ったかのように、うまく言葉が出なくなって。

 

「……さん。だから、今日の仕事ってわーくわくしてます」

 

「ここで言うのな、ソレ」

 

「ふふ、でも、力は抜けたでしょう?」

 

「ん、ありがとうな、楓」

 

普段はプロデューサー、と呼ぶものの、ここぞという時には、彼の下の名前を呼ぶ。

それは、こういう関係になってから、彼女に許した『特別』で。

 

「さて、シャワー浴びて準備しよう。昨日は少し呑み過ぎた。酒とか臭いがまだ残ってる」

 

「…私の匂いも染み付いてるかもしれないからですか?」

 

「…っ! そうだよっ、楓の移り香自覚したら、俺が仕事にならないだろっ」

 

頬に朱が差すのを、怒った風で誤魔化し、彼はすっくと立ち上がる。

 

(私は、貴方の匂いがついたままでもいいんですけど。今もYシャツ勝手に使ってますし…)

 

彼の愛しい背中を見ながら、楓はそんなことを一人思うのであった。


 
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