No.405615

特捜戦隊デカレンジャー & 魔法少女まどか☆マギカ フルミラクル・アクション

鈴神さん

見滝原市にて、謎のエネルギー反応が続発する。一連の現象について調査をすべく、見滝原市へ急行するデカレンジャー。そこで出会ったのは、この世に災いをまき散らす魔女と呼ばれる存在と戦う、魔法少女と呼ばれた少女達。本来交わる事の無い物語が交差する時、その結末には何が待っているのか・・・
この小説は、特捜戦隊デカレンジャーと魔法少女まどか☆マギカのクロスオーバーです。

2012-04-09 19:20:37 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2027   閲覧ユーザー数:2007

Episode.08 ロストソウル・セイバー

 

狂気の笑い声と共に、崩れて行く景色。それは、結界を維持していた影の魔女が息絶えようとしている様子を物語っていた。ひび割れていく周囲の景色に目もくれず、少女――さやかは只管剣を振るい続ける。

 

「やり方さえ分かってれば簡単なもんだね・・・これなら負ける気がしないわ。」

 

さやかの身体に浮かび上がる、楽譜を模した魔法陣。それらが現れると同時に、さやかの身体の傷が瞬く間に癒えていく。

やがて結界が消滅すると、辺りの景色は一変し、工業地帯の作業現場へと戻った。

 

「さやかちゃん・・・」

 

デカスーツの装着を解除したバンは、さやかの傷が癒えた様子を見ても尚心配そうに彼女を見つめていた。一方さやかは、魔女が落とした物であろうグリーフシードを拾うと・・・

 

「あげるよ。そいつが目当てなんでしょ?」

 

後ろで立っていた杏子に向かって投げ渡した。魔法少女にとってソウルジェムの清浄を維持するのに必要不可欠なグリーフシードを手にした杏子だが、その表情は優れない。

 

「あんたに借りは作らないから。これでチャラ。良いわね?」

 

それだけ言うと、さやかは杏子の横を通り過ぎて行く。杏子はその背中をただじっと見つめるだけだった。

 

「じゃあ帰ろうか。まどか、バンさん。」

 

魔女退治のために同行していた仲間二人の元へ歩み寄ると、魔法少女化を解除し、見滝原中学の制服姿へと戻るさやか。だが、さやかは変身を解除した途端、糸の切れた人形のように倒れる。

 

「さやかちゃん!?」

 

いきなり倒れたさやかに慌てながらも、その身体を受け止めるバンとまどか。

 

「・・・ごめん。」

 

「おい、本当に大丈夫なのか?」

 

病人同然のさやかの姿にバンもまどかも気が気でない。三人から離れた位置にいる杏子も、さやかの様子に顔を顰める。

 

「ちょっと疲れちゃった・・・」

 

「無理するなって。ほら、背中に。」

 

ふらふらと立っている事すらも困難な状態のさやかの体調を気遣い、バンがしゃがんでおぶさるよう促す。未だに大丈夫だと言い張っていたさやかだったが、まどかの説得もあって、自身が歩くことすら困難だと自覚しバンの背中におぶさる事にした。

 

「・・・・・あの馬鹿。」

 

バンの背中におぶさりながら、これからも無茶を続けるであろう魔法少女の背中を見送る杏子。自身と同様の境遇にありながら、自分とは相容れようとはしないさやかの姿に、杏子は大きな不安を感じていた。

 

 

 

曇り空が街を覆い、雨が降り出してきたので、バンとまどかとさやかは近くのバス停で雨宿りをする事にした。魔女との激しい戦闘で憔悴しきっていたさやかも幾分か回復し、バンの背中から降りてまどかと隣同士椅子に座っていた。

 

「さやかちゃん・・・あんな戦い方・・・ないよ。」

 

狂気に駆られて剣を振り回すさやかの姿に、さやかがさやかでなくなってしまう事に恐怖したまどかは、友人を心配する一心で説得しようとする。

 

「痛くないなんて嘘だよ・・・見てるだけで痛かったもん。感じないから傷ついても良いなんて・・・そんなの、駄目だよ。」

 

「・・・・・」

 

涙ながらにさやかに訴えかけるまどか。その声には、さやかを心の底から心配する様子が見て取れた。バンもまどかの言葉に黙って耳を傾けていた。

 

「・・・ああでもしなきゃ勝てないんだよ。あたし才能ないからさ・・・」

 

「勝てないのが当たり前なんだ。才能云々の問題じゃない・・・戦いって言うのは、この間まで普通の女子中学生だった子供が生き残れるような甘い物じゃない・・・・・本当なら、俺達がやるべきものなんだ。」

 

「あんなやり方で戦ってたら、勝てたとしても・・・さやかちゃんのためにならないよ。」

 

バンは叱りつけるように、まどかは尚も心配した様子でさやかを説得しようとする。だが、

 

「・・・“私のために”って何よ?」

 

突然椅子から立ち上がり、青いソウルジェムをまどかとバンに付きつけるさやか。降りしきる雨が激しくなるのに従い、さやかの発する雰囲気がより強い負の感情を織り交ぜた物へと変化する。

 

「こんな姿にされた後で、何が私のためになるって言うの?」

 

「さやかちゃん・・・」

 

「今の私はね・・・魔女を殺す、ただそれだけしか意味の無い、石ころなのよ。死んだ身体を動かして生きているフリをしているだけ。そんな私のために、誰が何をしてくれるって言うの?考えるだけ無意味じゃない・・・」

 

苛立ちの込められたその言葉の裏には、魔法少女という人間の理から外れた存在になった事への悲しみが多分に込められていた。そんなさやかに対し、バンは再度、自分たちへの協力を申し出てくれるよう頼み込む。捜査のためではなく、さやか達魔法少女のために・・・

 

「・・・なあ、今からでもまだ遅くは無い筈だ。俺達に協力してくれないか?魔法関係なら頼れる人を知ってる。さやかちゃんやマミちゃん、あの杏子って子も、もとに戻れるかもしれない・・・普通の人間として幸せを掴めるかもしれないんだ。だから、」

 

「そんなの信じられるわけないじゃないですか。」

 

だが、バンの言葉は信じられないの一言で切り捨てられた。魔法少女が宇宙警察を信用していないのは百も承知だったが、さやかの言葉にバンは硬直せざるを得なかった。

 

「私、見たんですよ。宇宙警察の人が、魔女と戦って、食べられそうになって・・・この間の戦いでも、結局私達を止める事も出来なかったんですよ。今更、宇宙警察の人達に何が出来るって言うんですか。」

 

宇宙警察が魔法関係に関わってからのこれまでを振り返れば、さやかからしてみれば信用できるものではなかった。バンは自分達の事を信用できないだけでなく頼り無いとまで言われて言葉を失っている。

 

「さやかちゃん・・・そんな言い方は・・・」

 

「何よ・・・あんただって同じじゃない。なんなら、あんたが戦ってみる?」

 

バンをフォローしようと口を開いたまどかだったが、さやかからは逆に衝撃的な言葉を返された。

 

「キュゥべえから聞いたわよ。あんた誰よりも才能あるんでしょ?私みたいな苦労をしなくても、簡単に魔女をやっつけられるんでしょ?」

 

「私は・・・そんな・・・」

 

信じていた友人から告げられた言葉に込められた意味に戸惑い、まどかもバン同様に言葉を失う。そして、さやかの勢いは止まらない。

 

「私のために何かしようって言うなら、まず私と同じ立場になってみなさいよ。無理でしょ?・・・当然だよね。」

 

バス停の出口へと向かうさやか。後ろでは、先のさやかの言葉に硬直したままのバンとまどかが居た。

 

「ただの同情で、人間やめられるわけないもんね!!!」

 

「同情なんて・・・!!」

 

「さやかちゃん、それは言い過ぎだ!!」

 

流石のバンも今の言葉には声を荒げて反論しようとする。まどかの心中は、友人であるさやかをただ純粋に心配する一心であって、さやかが言う様な軽薄な物ではないからだ。だが、さやかの視線は非常に冷たく・・・

 

「何でも出来るくせに、何もしないまどかと、何か出来るような口を叩く割に、何も出来ない宇宙警察の代わりに、私がこんな目に遭ってるの。それを棚に上げて、知った様な事言わないで。」

 

「さやかちゃん!!!」

 

今度のさやかの言葉には、バンは半ばキレた様子だった。自分達宇宙警察が不甲斐無いと言われる分にはまだ良い。だが、友達を大切に想うまどかの優しさを全否定する様な言葉だけはどうしても許せなかった。怒りをぶつける様な視線に、さやかは目もくれず、降りしきる雨の中へ歩き出す。

 

「ま、待って・・・」

 

「ついて来ないで。」

 

慌ててその後を追おうとしたまどかだが、さやかの冷酷な一言に固まってしまう。自分を心配する友人と、自分を助けようとする大人を振り切り、さやかは降りしきる雨の中を走りだす。その背中は、全てを拒絶していた。

 

「馬鹿だよ私・・・何て事言ってんのよ・・・もう救いよう無いよ・・・!!」

 

雨に打たれて頭が冷え、まどかとバンが自分を真剣に心配してくれていた事と、そんな二人の気持ちを自分は踏み躙った事を理解する。後悔に涙を流しながら、ひたすら走り続ける少女の姿がそこにはあった。自身の魂に大きな濁りが出来た事にも気付かずに・・・

 

 

 

さやかが自身の心に闇を抱え、バンとまどかの手を振り払って一人宛ての無い逃避行に走っていた頃、とある建物の部屋の中に三人の魔法少女が集まっていた。暁美ほむら、巴マミ、佐倉杏子である。

 

「まさか、あなたからこんな申し出が来るなんて思ってもみなかったわ。」

 

「そうね・・・でも、事が事だし、いがみ合っている場合じゃないと思うけど?」

 

マミの言葉に冷たく返すほむら。ほむらがこの三人での共同戦線を提案し、マミと杏子がそれを受け入れたのだが、三人の関係は魔法少女として利害が一致しただけのドライなものでしかなかった。

 

「どうでもいいけどよぉ・・・さっさと始めようぜ。」

 

ムール貝のパスタを食べながら話を促す杏子にほむらは頷き、テーブルの上に置かれた地図を指さす。

 

「ワルプルギスの夜の出現場所は、この範囲。」

 

「ワルプルギスの夜・・・本当にそんなものが現れるなんてね。それで、根拠はあるのかしら?」

 

「統計よ。」

 

「統計?」

 

歴史上で語り継がれる強大な魔女の出現を未だ信じられずにいたマミは、ほむらにその予測の根拠を聞くが、彼女は『統計』と言った。つまり、ワルプルギスの夜の出現について以前から記録を取っていたと言う事であり、

 

「以前にもこの街にワルプルギスが来たなんて話は聞いた事が無いよ。一体何をどう統計したっていうのさ?」

 

「・・・・・」

 

「はぁ・・・お互い信用出来る間柄じゃないけど、もう少し手の内を見せてくれても良いんじゃないかしら?少なくとも、これから命がけで戦うわけだし。」

 

ほむらが嘘偽りを述べていない事を二人は察しているが、根拠となる情報に関しては全くと言っていいほど話そうとしない。流石に協力関係を結ぶ以上は互いの手の内をある程度は見せあった方が良いと考えるが、ほむらは首を縦に振らない。と、そこへ・・・

 

「それは是非とも僕も聞きたいね。暁美ほむら。」

 

部屋の片隅に現れたのは、魔法少女との契約を取り持つ存在・・・白い小動物の姿をしたキュゥべえだった。キュゥべえの姿を見るや、嫌悪感を露わにする一同。杏子に至っては槍の切っ先を向けていた。

 

「キュウべえ・・・」

 

「どの面下げて出てきやがったテメエ。」

 

「やれやれ・・・招かれざる客ってわけかい?今夜は君たちにとって、重要な筈の情報を報せに来たんだけどね。」

 

「重要な情報?」

 

マミが訝しみながらもキュゥべえの言葉に若干ながら耳を傾ける。

 

「美樹さやかの消耗が予想以上に早い。魔力を使うだけでなく、彼女自身が呪いを生み始めた。」

 

「誰のせいだと思ってんだよ・・・」

 

「このままだと、ワルプルギスの夜が来るより先に、厄介な事になるかもしれない。注意しておいた方が良いよ。」

 

「どういう意味かしら?」

 

「僕じゃなくて、彼女に聞いてみたらどうだい?君なら既に知っているんじゃないかな?暁美ほむら。」

 

ほむらの名が出た事で、マミと杏子の視線が彼女へ向かう。当の彼女は沈黙を維持したままで、口を開こうとしない。キュゥべえはそれを肯定と見ていた。

 

「やっぱりね・・・どこでその知識を手に入れたのか、僕はとても興味深い。君は・・・」

 

「聞くだけの事は聞いたわ・・・消えなさい。」

 

「ほっとくのかよ、アイツ?」

 

「アレを殺したところで、何の解決にもならないわ。」

 

まるで以前にも殺した事のある様な言い草に、マミがさらに訝しむ。この少女は間違いなく、自分達が知らない何かを掴んでいる。

 

「それよりも美樹さやかだ。アイツの言ってた厄介事ってのは何なんだ?」

 

「そうね。美樹さんは私の後輩でもあるのだから、きちんと教えてほしいわね。」

 

「彼女のソウルジェムは穢れを溜めこみ過ぎたのよ。早く浄化しないと、取り返しのつかない事になる。」

 

「・・・その取り返しのつかない事って言うのは、何なのかしら?もっとはっきりと教えてもらえないかしら?」

 

半ば威圧するような形でほむらに迫るマミ。その表情は真剣そのもので、知っている事を言うまで一歩も引きさがらないと言っているかのようだった。やがてほむらが口にする真実・・・それに対し、二人の魔法少女は驚愕と戦慄を覚えるのだった。

 

 

 

突然降り出した雨に濡れながらもデカベースへと帰ったバン。その姿には、かつて火の玉と呼ばれていた頃の燃えるような威勢の良さは無い。どれだけ真摯に向き合おうとしても、目の前の少女一人さやか助ける事は出来なかったという現実にバンは打ちひしがれていた。

だが、デカベースのオフィスに辿り着いたバンを待っていたのは、彼に更なる追い打ちを掛ける報せだった。

 

「捜査は打ち止めって、どういう事ですか!!ボス!!!」

 

オフィスへ戻って早々、署長であるドギーから言い渡されたのは、現在デカレンジャーが捜査に当たっているエネルギー反応の調査――魔法少女の事件から地球署は手を引くようにという命令だった。

当然、いきなりこんな命令を受けても納得出来る筈もなく、バンはドギーに向かって異議を唱えるのだが・・・

 

「宇宙警察本部からの通達だ。今回のエネルギー反応の追跡及び魔法少女関連の事件について、宇宙警察が関与する事を禁止する。そして、これまで集めた捜査資料は迅速に処理するようにとの通達だ。」

 

「何が通達ですか!!ボス、まさか本気でこんな命令受け入れるつもりなんですか!?」

 

「バン、落ち着け。」

 

「そうよ、ボスに怒鳴り散らしても何もならないわ。」

 

頭に血が上りっぱなしのバンを落ち着かせるべくホージーとジャスミンが両脇からバンを抑える。バン以外の通達を既に聞いていたメンバーも同じ気持ちなのだろう、皆表情は暗かった。バンもそれをようやく理解し、少しは落ち着きを取り戻す。

 

「上層部からの命令である以上、逆らう事は出来ない。直ちに捜査は打ち止めとする。」

 

「・・・ロジャー。」

 

デカレンジャー一同に背を向けた状態で支持を下すドギー。バンを含め、メンバー一同はそれ以上抗議する事はせずに、その命令を聞き入れた。ドギーのにぎりしめた拳が、命令を下す背中が、組織に属する人間としての遣る瀬無さと、刑事としての仕事を全うできない不甲斐無さで震えていたのを見て、ドギーとて自分達と同じ気持ちなのだと理解したからだ。

 

 

 

その翌日の夕方。まどかは、昨夜の戦いで別れた後、学校にも登校していないさやかを心配して家を訪れていた。

 

「帰って、ないんですか・・・昨日から・・・はい。分かりました・・・失礼します。」

 

だが、エントランスのインターホン越しにさやかの母親から伝えられたのは、さやかが昨日から帰っていないと言う知らせだった。まどかはさやかがどこかへ消えてしまったという事実に戸惑いながらも、インターホンを切ってその場を後にする。

 

(さやかちゃん・・・探さなきゃ!!)

 

踵を返してさやかを探すべく走りだすまどか。と、まどかが横断歩道へ差し掛かったところで、一台の車が止まった。それは警察車両であり、つい最近見慣れた型のものだった。

 

「まどかちゃん!」

 

「バンさん!!」

 

警察車両――マシンドーベルマンから現れたのは、昨日も魔女退治に同行してくれたバンとジャスミンだった。

 

「バンさん・・・なんで・・・」

 

「うん・・・やっぱり、心配になってね。」

 

ドギーからは捜査中止の命令が下ったが、ファイヤースクワッドのチームに戻るまでには時間を持て余していたバンは、地球署の通常勤務に参加し、パトロールの帰りにまどかやさやかの様子を見に来たのだった。ちなみに、隣の席に座っていたジャスミンも心中は同じで、バンの行動を止めようとはしなかった。

 

「急いでるみたいだったけど、何かあったの?」

 

「あ、あの・・・さやかちゃんが、昨日の夜から帰ってないんです!!」

 

「さやかちゃんが!?」

 

まどかの言葉に驚愕すると同時に、脳裏に不安がよぎる。昨夜のさやかの様子は、明らかに初対面で知り合った時のものとはまるで違う・・・本当に危ない精神状態だったとバンは思い出す。

 

「分かった・・・俺達もさやかちゃんを探すのを手伝うよ。」

 

「待ちなさい、バン。」

 

さやかを捜索すると言ったバンを止める様に口を挟むジャスミン。それもその筈。

 

「私達は魔法少女の一件から手を引くように言われている筈よ。これ以上の干渉は出来ないわ。」

 

ジャスミンの言葉に戸惑うまどか。昨夜、魔法少女に関する捜査は打ち止めとされた以上は、魔法少女の動向に関与する行動を取るわけにはいかない。だが、バンは平然と返して来た。

 

「“行方不明の子供の捜索”は、俺達警察の仕事だろう?」

 

「成程・・・確かにその通りね。」

 

バンの言葉に、ジャスミンは笑みを浮かべて答える。魔法少女に関する捜査は禁じられたが、行方不明になった子供の捜索であるならば、何の問題もない。ジャスミンはバンの言葉の意味を理解すると、SPライセンスを取り出す。

 

「こちらジャスミン。子供の行方不明事件が発生。捜索を願います。」

 

捜索対象がさやかであった事に皆驚いた様子だったが、誰ひとりとして捜査に難色を示す事は無く、捜索は開始された。

 

 

 

今まで想いを寄せていた・・・ただただ、一緒にいたかった・・・大好きだった、少年。

傍にいるのは、いつだって自分だった。彼が怪我をする前も、その後も。そして、これからはもっと一緒にいられる、そう思っていた・・・

でも、魔法少女になった事で自分はヒトの理から外れた存在になったのだと知って、それは叶わぬ夢だと知った・・・

そして自分が居た場所には今、自分の親友が・・・自分が魔法少女となって助けた親友が居た・・・

想い人のために全てを捧げた自分の願いは、全てが自分の思う通りにならず、空回りした運命の糸は、自分を締め付けていた・・・

そんな自分を心配してくれる友人達の手すら振り払って・・・ただただ、後悔に後悔を重ね続ける。

 

「うわぁあああああ!!!」

 

魔法少女――美樹さやかは、自身の心に覆いかぶさる暗闇を振り払おうとするかのように、ただただ剣を振るう。魔女を殺す事、自分の価値はそれしかないと信じ、只管に戦い続けていた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

やがて、敵である使い魔を殲滅したさやかは、変身を解除してソウルジェムを握りしめる。魔法少女として戦いに勝利したにも関わらず、彼女の心は全くと言っていいほど浮かばれなかった。

そんな彼女のもとへ、近づく足跡が一人分。さやかはその人物を視認すると、心底嫌そうな顔をする。

 

「どうして分からないの?ただでさえ余裕が無いのだから、魔女だけを狙いなさい。」

 

「・・・大きなお世話よ。」

 

さやかのもとへやってきた少女――ほむらの忠告に、さやかは眉を顰める。客観的に見れば、ほむらの忠告はもっともなのだが、意固地になっているさやかは素直にそれを受け止めようとしない。むしろ険が増している。

 

「もうソウルジェムも限界の筈よ。今すぐ浄化しないと。使いなさい。」

 

そう言ってほむらが投げつけたのは、魔女を倒した時に手に入る、魔法少女のソウルジェムを浄化するためのアイテム、グリーフシードだった。

だが、さやかはそれを受取ろうとはせず、後ろへ蹴り飛ばす。

 

「今度は何を企んでるのさ!?」

 

意固地もここまでくれば呆れるほかない。普段冷静な筈のほむらも、一瞬表情に変化が表れた。

 

「いい加減にして。もう人を疑ってる場合じゃないでしょ?そんなに助けられるのが嫌なの?」

 

「・・・あんた達とは違う魔法少女になる。私はそう決めたんだ。誰かを見捨てるのも、利用するのも、そんな事をする奴等とつるむのも嫌だ。」

 

自分に手を差し伸べようとした者達を拒絶し続けた末の、歪んだ価値観や理想が垣間見えるさやかの独白。それを聞くほむらは、沈黙するばかり。その視線が、どんどん冷めて行っている事に、さやかは全く気付かない。

 

「見返りなんていらない。私だけは絶対に自分のために魔法を使ったりしない。」

 

「あなた・・・死ぬわよ。」

 

「私が死ぬとしたら、それは魔女を殺せなくなった時だけだよ。それってつまり用済みって事じゃん・・・なら、良いんだよ。」

 

地面に膝をついて、死んだような目をして語り続けるさやか。ほむらの視線は憐憫の情さえ見え始めていた。

 

「魔女に勝てない私なんて、この世界には要らないよ・・・」

 

「ねえ、どうして?あなたを助けたいだけなのに・・・どうして信じてくれないの?」

 

「どうしてかなぁ・・・ただなんとなく分かっちゃうんだよね・・・あんたが嘘つきだって事。」

 

ほむらを見つめるさやかの視線には、信用など一欠片もない虚無に満ちたものだった。

 

「あんた、何もかも諦めた目をしてる。いつも空っぽの言葉を喋ってる。今だってそう。私の為とか言いながら、本当は全然別の事考えてるんでしょ?・・・誤魔化し切れるもんじゃないよ、そういうの。」

 

「・・・そうやって、あなたはますますまどかを苦しめるのね。」

 

「まどかは・・・関係無いでしょ。」

 

先日、自分の事を心配してくれながら、自分の一方的な癇癪から突き離してしまった友人の名が出た事に、さやかが若干動揺する。

 

「いいえ、何もかもあの子のためよ。」

 

次の瞬間、魔法少女へと変身するほむら。鉄面皮のほむらから、僅かながらの殺気が覗いている事に、さやかは気付いていた。

 

「あなたって鋭いわ。ええ、図星よ。私はあなたを助けたいわけじゃなく、あなたが破滅していく姿をまどかに見せたくないだけ。」

 

そう言ってさやかへと歩み寄るほむら。さやかは先の戦いの疲労もあって、身動きできない。

 

「ここで私を拒むのならば、どうせあなたは死ぬしかない・・・これ以上、まどかを悲しませるくらいなら、いっそ私がこの手で・・・今すぐ殺してあげるわ!!」

 

紫の魔力を帯びた手が、さやかへと伸びる。さやかは自身が殺されるという恐怖心に支配され、魔法少女となる事すら儘ならない。

 

「美樹さやか!!」

 

さやかの命を奪おうと伸ばされた手は、しかしさやかには届かなかった。ほむらの背後から飛んできた連結槍が、ほむらを絡め取り、さやかとの距離を離したのだ。もう一人の魔法少女――杏子の仕業だった。

 

「おい!!さっさと逃げろ!!」

 

ほむらを拘束した状態でさやかに逃げるよう促す杏子。さやかはふらふらとした足取りでその場から逃げて行った。

この時、この場に来たのが杏子ではなく、マミだったなら、違う結果となっただろう。意固地なさやかだが、魔法少女の先輩であるマミの言う事になら、多少は聞く耳を持つのだから。だが、運命のレールはさやかを絶望の底へと突き落とす方向へ分岐していた。

 

 

 

夜の公園の中、まどかは疲れ切った表情で立ち尽くしていた。昼間、バン達にさやかの捜索を頼んだ後、パトカーで家へと帰され、家で大人しくしているようにと言われていた。だが、さやかの事があまりに心配だったために、家を抜け出して彼女を探しに出ていたのだった。

そしてそんな彼女の前に現れたのは、皮肉にもさやかを魔法少女にした存在――キュゥべえだった。探せど見つからない、見つけたとしても絶望から救いだす手段が無い、八方塞のまどかに対して、キュゥべえの口から語られたのは、本人すら自覚していない、まどかの魔法少女としての資質だった。

 

「君が力を解放すれば、奇跡を起こすどころか、宇宙の法則を捻じ曲げる事だって可能だろう。何故君ひとりだけが、それほどの素質を備えているのか・・・理由は未だに分からない。」

 

キュゥべえの口から語られる、自分が秘めていると言う途方も無い可能性。それを聞かされたまどかは、ただ戸惑うしか出来なかった。

 

「私は・・・自分なんて何の取り柄も無い人間だと思ってた。ずっとこのまま、誰のためになる事も、何の役に立つ事も出来ずに・・・最後まで、ただなんとなく生きて行くだけなのかなって・・・」

 

本音を隠さないまどかの独白。日々の中で過ごす日常に不満があるわけではない。ただ、自分の存在する価値が見出せない事に悩んでいた少女の内心だった。

 

「それは悔しいし、寂しい事だけど・・・でも仕方ないよね、って思ってた。」

 

「現実は随分と違ったね。まどか、君は望むなら万能の神にだってなれるかもしれないよ。」

 

「・・・私なら、キュゥべえに出来ない事でも・・・私なら出来るのかな?」

 

「と言うと?」

 

「私があなたと契約したら、さやかちゃんの身体を元に戻せる?」

 

「その程度、きっと造作も無いだろうね。その願いは君にとって、魂を差し出すに足るものかい?」

 

絶望のどん底に突き落とされた友人を救う事が出来る。その事実は、自らの価値を自覚できないながらも、それを求め続けた少女にとっては、救済の言葉に等しいものであり・・・

故に、願った。

 

「さやかちゃんのためなら・・・良いよ!私、魔法少女に――」

 

だが、その願いが通る事は無かった。次の瞬間、けたたましい銃声と共に、キュゥべえの身体が、文字通り蜂の巣になった。

 

「!!!」

 

突然の出来事に硬直するまどか。そして背後からは、金属が地面に落ちる反響音。まどかが半ば恐怖して振り向いたそこには、肩で息をするほむらの姿。彼女の足元に転がる空薬莢が、キュゥべえを銃殺した事を語っていた。

 

「酷いよ・・・何も殺さなくても!!」

 

まどかの糾弾に、しかしほむらは耳を貸さず、むしろ苛立ちを露わにまどかへ近づいて行く。

 

「あなたは・・・何であなたは、そうやって自分を犠牲にして・・・」

 

「・・・え?」

 

「役に立たないとか・・・意味が無いとか・・・勝手に自分を粗末にしないで!あなたを大切に想う人の事も考えて!!いい加減にしてよ!!」

 

普段のほむらの雰囲気からはかけ離れた取り乱し様。その姿に、言動に、まどかは混乱する。

 

「あなたを失えば、それを悲しむ人が居るって、どうしてそれに気付かないの!?あなたを守ろうとしてた人はどうなるの!?」

 

「ほむらちゃん?」

 

地面に膝をついて泣きだすほむらに、まどかは立ち上がって傍に寄ろうとする。だがその時、まどかの脳裏にノイズが走った。それは、記憶に有って無い・・・非常に曖昧なもの。

 

「私達は、どこかで・・・どこかで会ったことあるの?私と・・・」

 

「それは・・・」

 

口ごもるほむら。だが、まどかは今自分が探そうとしている友人の事を思い出し、ベンチからバッグを取ってその場から去ろうとする。

 

「ごめん・・・私、さやかちゃんを探さないと。」

 

「待って。美樹さやかは、もう・・・」

 

「ごめんね。」

 

「待って・・・まどか!!」

 

涙ながらに訴えかけるほむらの叫びも空しく、まどかは走り去ってしまった。残されたほむらは、ただ絶望に打ちひしがれるばかり。と、そこへ、

 

「無駄な事だって知ってるくせに。懲りないんだな、君も。」

 

ほむらが顔を上げた、その視線の先には、鉄柵の上に居るキュゥべえの姿。

 

「代わりはいくらでもいるけど、無意味に潰されるのは困るんだよね。勿体無いじゃないか。」

 

そう言って、ベンチの上に転がる先のキュゥべえの死体へ駆け寄り、瞬く間に食し平らげる。一方ほむらも、先程の取り乱した状態から立ち直り、普段の冷静な表情に戻っていた。

 

「君に殺されたのはこれで二度目だけれど、お陰で攻撃の特性も見えてきた。時間操作の魔術だろう、さっきのは?」

 

キュゥべえの言葉に、僅かに揺らぐほむらの目。そして、キュゥべえは確信する。

 

「やっぱりね。なんとなく察しは付いてたけれど、君はこの時間軸の人間じゃないね。」

 

「お前の正体も企みも、私は全て知ってるわ。」

 

「成程ね・・・だからこんなにしつこく僕の邪魔をするわけだ。そうまでして、鹿目まどかの運命を変えたいのかい?」

 

「ええ。絶対にお前の思い通りにはさせない。キュゥべえ・・・いえ、インキュベーター。」

 

強い決意の籠った目で、目の前の存在――インキュベーターを見据えるほむら。対するキュゥべえ――インキュベーターは、相も変わらず無表情。

 

「やれやれ。まさか君が、宇宙警察よりも厄介な障害だったとはね。僕のノルマはもうすぐ達成される。これ以上邪魔をされるのは非常に困るな。」

 

そう言った途端、キュゥべえの背中の穴が開き、中から突起物の付いた球体、惑星を象った球体、穴の空いた球体が複数飛び出す。

 

『『『ウィーン!!ウィーン!!』』』

 

「くっ!!!」

 

ほむらを取り囲む、ドロイドの軍団。下級ドロイドのアーナロイドが五十体、中級ドロイドのバーツロイドが二十体、上級ドロイドのイーガロイドが十体である。全員銃と剣で完全武装している。

 

「時間操作が得意な君でも、これだけの大群を相手にするのは無理だろう?まどかがワルプルギスの夜を倒せば、莫大なエネルギーが得られる。君にはここで退場してもらうよ。」

 

キュゥべえの言葉と共に、ほむらへ襲い掛かるドロイド達。対するほむらは手持ちの銃器で応戦するも、地球外の技術で作られたドロイド達には力不足である。時間操作の魔術も、消費が多いため使えない。ほむらが絶体絶命の危機に立たされたその時、

 

「「ディーショット!!!」」

 

ほむらの前に展開するドロイドの軍団に向けて掃射されるビーム光線。攻撃を受けた前線のドロイド達は破壊されて動かなくなるか、後退する。

 

「そこまでよ!!」

 

「か弱い乙女をよってたかって苛めるとは、許さないわよ!!」

 

ほむらとドロイド達の間に入ったのは、黄色と桃色のデカスーツを身に纏った二人の刑事。

 

「デカレンジャー・・・」

 

デカイエローことジャスミンと、デカピンクことウメコだった。二人は圧倒的な数のドロイド達に臆することなく、手に持っているディーショットを向けて牽制する。

 

「やれやれ、宇宙警察までお出ましか。君達は僕の邪魔をしても良いのかい?」

 

「戦闘用ドロイドの活動はこの街の治安を乱すわ。明らかに違法行為よ!!」

 

「それに、私達はたまたまパトロール中に事件に出くわしただけだもんね。」

 

「そうかい・・・なら、仕方ないね。」

 

キュウべえの言葉を合図に、ドロイド達が再びデカイエローとデカピンク、そしてその後ろに居るほむらに襲い掛かる。

 

「ディースティック!!ディーナックル!!」

 

それに対してデカイエローとデカピンクは、パルスビーム拳銃形態のディーショットを、格闘攻撃用武装のディーナックルと十手型武装のディースティックに分離して対抗する。

近接主体の敵の攻撃に対し、ディーナックルで殴る、ディースティックを振り翳す攻撃で対抗し、敵を叩き伏せて行く。だが、ドロイド達の数は多く、一向にその数は減らない。

 

「ウメコ、スワットモードを使うわよ!!」

 

「OK、ジャスミン!!」

 

目の前の敵を粗方退けたところで、デカイエローとデカピンクはSPライセンスを取り出し、頭上の掲げる様に構える。

 

「「スワットモード・オン!!」」

 

コールを受けたデカベースから放射された、スワットアーマーとディーリボルバーが二人の身体に装備される。デカレンジャーの強化武装、スワットモードである。

 

「ディーリボルバー!!」

 

強化型ビームマシンガン、ディーリボルバーから射出される光弾が、ドロイド達を下級、中級、上級問わず次々破壊していく。八十体居たドロイド達は、みるみる内にその数を減らしていった。このまま殲滅できるのでは、と思ったその瞬間、

 

『かかれぇえ!!』

 

「なっ!!」

 

「ウメコ!!」

 

デカピンクに襲い掛かる、イーガロイドの刃。生き残った七体が、デカピンク目掛けて四方八方から切り掛ったのだ。このままでは避け切れず、袋叩きに遭うのは必定。そう思った時だった。

 

「ちょ、ちょっと君!」

 

突如、デカピンクの傍に現れたほむら。驚くデカピンクの様子を余所に、ほむらは彼女の手を握ると、左手に装備した羅針盤を機動させる。

 

「こ、これって?」

 

次の瞬間、周囲の景色がモノクロに変色する。それだけではない、自分に飛びかかろうとしていたドロイド達が、空中で静止しているのだ。それは文字通り、時間が止まったかのような光景・・・

 

「長くはもたないわ。早く・・・」

 

「あ、うん!!」

 

ほむらに手を引かれるままに、ドロイド達の攻撃の包囲から抜け出すデカピンク。やがて、周囲の景色に色が戻ると同時に、ドロイド達が再び動き出した。

 

『何っ!?』

 

『どうなっている!?』

 

「え?ウメコ?」

 

ついさっきまでそこに居た筈のデカピンクの存在が消失している事に混乱するドロイド達。それはデカイエローも同様。だが、そんな時間は無く、

 

「今の内に片付けて・・・」

 

「あ、そうだった!SPライセンス・セット!!」

 

ほむらの言葉に我に返ったデカイエローとデカピンクは、SPライセンスを胸部から抜き取り、ディーリボルバーにセットする。そして、

 

「ディーリボルバー・ストライクアウト!!」

 

デカベースから供給されたパトエネルギーによって強化されたディーリボルバーの光弾が、一カ所に集まったイーガロイド達のもとへ向かう。

 

『『『ぐぁぁああああ!!!』』』

 

回避する暇もなく、光弾に晒されたイーガロイド達は断末魔と共に爆散した。

 

「ふぅ・・・これにて一件、コンプリートかな?」

 

「まだそれには早いんじゃない?結局、あのウサネコ君には逃げられちゃったし。」

 

変身を解きながらそう告げるウメコ。だが気付けば、インキュベーターの姿は既にその場には無かった。いつのまにか逃げたのだろうか。

 

「でも、大丈夫じゃない。だって、その子がいれば・・・」

 

デカイエローから変身を解いたジャスミンが、ウメコの隣に立つほむらを見ながら口を開く。だが、当のほむらは・・・

 

「う・・・」

 

「え、ちょっと!!」

 

うめき声も僅かに、その場に倒れてしまった。魔法を使って消耗したのだと二人は判断し、ジャスミンも慌てて傍へ駆け寄る。

 

「この子・・・どうしよう?」

 

「この時間帯じゃ、病院は無理ね。この子の身の安全を考慮するなら・・・」

 

「デカベースへ“仕方なく”運ばなきゃならないよね。」

 

こうして二人は、“市民の保護”という名目のもと、魔法少女事件の真相を知る少女を基地へ連れ帰る事に成功したのだった。

 

 

 

とある駅前の道路に止められた警察車両。その運転席から、シートベルトを外して降りる一人の刑事が居た。

 

「マーフィー、ここか!?」

 

『ワンッ!!』

 

刑事――バンの問いかけに、その脇に居たロボット――マーフィーが、肯定の意を示して吼える。マーフィー、正式名称マーフィーK9は、デカレンジャーが所有する警察犬であり、武装であり、仲間である。その能力は非常に優れており、警察犬として対象の臭いを嗅ぎ分け、居場所を特定する事すらできるのだ。そして現在、バンの頼みでさやかの居場所を特定したのだった。

 

「お前はここで待ってろ。」

 

『ワン!』

 

バンの指示に従い、その場に座って帰りを待つマーフィー。バンは、既に終電を迎えて、その機能を停止させつつある駅のホームへと駆けあがって行く。その途中、

 

「君は・・・佐倉杏子ちゃん!!」

 

「あんた、あの時の刑事じゃん!!」

 

先日知り合った魔法少女、杏子に遭遇した。出会いざまはお互い驚いていたが、その目的が一緒である事は瞬時に理解した。

 

「やっぱり、ここにさやかちゃんが?」

 

「ああ。さっさと行くぞ!!」

 

「あ、ちょっと!!」

 

杏子の後を追うように、既に止まっているエスカレーターを駆け上がるバン。やがてホームへ出ると、目の前のベンチにさやかが座っているのが見えた。

 

「さやかちゃん!!」

 

「バン・・・さん?」

 

杏子と共に傍へ駆け寄るバン。間近で見るさやかの様子は、先日の戦いの後よりも酷く衰弱している様子で、精神的にもやつれている事は明らかだった。

 

「やっと見つけたよ・・・あんたさ、いつまで強情張ってるわけ?」

 

「さやかちゃん、心配したんだよ。」

 

さやかの隣に座りながら菓子を食べる杏子と、非常に心配そうな顔でさやかに声を掛けるバン。一件対照的に見えるが、二人ともさやかを心配していたのだった。

 

「ごめんね。手間かけさせちゃって。」

 

「なんだよ?らしくないじゃんかよ・・・」

 

「うん・・・別にもう、どうでもよくなっちゃったからね。」

 

「?」

 

「結局私は、一体何が大切で、何を守ろうとしてたのか・・・もう何もかも、わけ分かんなくなっちゃって。」

 

「さやかちゃん・・・一体、何を言って・・・」

 

憔悴しているのもそうだが、さやかの様子がおかしい事に気付くバンと杏子。一方、さやかは手のひらにある物を取り出す。それは・・・

 

「なっ!!」

 

「これは!!」

 

それは、黒く濁った・・・否、汚染された彼女の魂の本体、ソウルジェム。その色は、彼女の心情を如実に物語っており、それを見たバンと杏子は、本能的に恐怖した。

 

「希望と絶望のバランスは差し引きゼロだって・・・いつだったか、あんた言ってたよね。今なら、よく分かるよ・・・」

 

さやかの独白に、杏子とバンはただ聞き入るしか出来ない。さやかの心が、とてつもない闇に呑まれようとしている事を感じ取っているにも関わらず・・・

 

「確かに私は、何人か救いもしたけどさ・・・だけどその分、心には恨みや妬みが溜まって・・・一番大切な友達さえ傷つけて・・・」

 

「さやか、あんたまさか・・・」

 

「さやかちゃん!!!」

 

「誰かの幸せを祈った分、他の誰かを呪わずにはいられない。私達魔法少女って、そう言う仕組みだったんだ。」

 

杏子とバンの方を振り向いたさやかの頬を伝う涙。それは、心身ともに摩耗し、信念すら見失った、絶望の末の涙。その一滴が雫となり、ソウルジェムへ降りかかる――

 

 

 

あたしって、ほんとバカ

 

 

 

次の瞬間、暗く濁り切った絶望の奔流が迸る。バンと杏子は、その衝撃に身体を吹き飛ばされ、駅の手すりに捕まって耐え凌ごうとする。さやかのソウルジェムの殻を突き破り、さやかの身体を完全な抜け殻として生まれたのは、魔女が身籠る絶望の種・・・それを核に、周囲の空間が歪んで行く。さやかの恨みを、妬みを、呪いを、絶望を反映するかのように・・・

 

「さやかぁぁああああ!!!」

 

「さやかちゃん!!」

 

二人の叫びは空しく、暗く深い絶望に陥り、自らの存在を呪いそのものに貶めた少女の魂には、届かなかった―――――

 

 

 

この国では、成長途中の女性の事を、『少女』って呼ぶんだろう?

だったら、やがて魔女になる君達の事は、『魔法少女』と呼ぶべきだよね。

 


 
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