No.403675

本日、お稲荷日和。~ぬくぬくっ~

冬といえば炬燵!というわけでリビングでのんびりする橘音と蓉子。そこに八郎が現れて・・・・・・?

前回のおはなしはコチラ http://www.tinami.com/view/403668

2012-04-06 19:38:25 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:340   閲覧ユーザー数:340

季節も冬に突入して、山の木々が寒そうに風に揺られている。

 

その様子をリビングに鎮座するコタツでぬくぬくしながら、蓉子が眺めていると……。

 

うーんと伸ばした蓉子の脚を、ふぁさふぁさとした橘音の尻尾がくすぐった。

 

首を伸ばして正面やや下方を覗くと、きつね色の長い髪と狐耳。

 

コタツに入ったまんまでうつ伏せに寝転ぶ橘音は、すっかり「こたつむり」と化してしまってた。

 

「おばーちゃん、寝転んでミカン食べないで。お行儀が悪いから」

 

スーパーなんかのチラシを箱型に折った「ごみ入れ」を量産しながら、蓉子が口を尖らせる。

 

おばーちゃんと孫の立場が見事に逆転していた。

 

「いいじゃない、減るものじゃ無し」

 

「うん、減ってはないね。むしろ増えてるよね」

 

綺麗に皮を剥かれたミカンが橘音の口のなかに消えていく。

 

そのたびに、橙色の皮が山盛りのごみ入れが橘音の周囲に増えてってた。

 

それはまるで橙色の万里の長城の様に橘音を取り巻いている。

 

「蓉子ちゃん、お茶」

 

ごろんと寝返りをうって、仰向けになった橘音さん。

 

「お茶はセルフサービスです」

 

チラシを折る手を休め、コタツのテーブルに顎(あご)をのっけた蓉子がジト目で告げた。

 

「じゃあ、コーヒー」

 

「コーヒーもセルフサービス」

 

コタツのなかで、橘音の尻尾が蓉子の足をびたんびたんひっ叩いた。

 

「じゃあ、紅茶」

 

「紅茶もセルフ(以下略)」

 

「抹茶は?」

 

「抹茶も(以下略)」

 

「蓉子ちゃんのケチ」

 

「ケチじゃありません」

 

取りつく島もない蓉子。

 

業を煮やした橘音がガバッと起き上がると……。

 

「蓉子ちゃん、可愛くな~い!!」

 

手足をバタバタ動かして駄々をコネ始めた。

 

橘音の脚で蹴り上げられるコタツのテーブルが、その衝撃でガタガタと少しずつズレていく。

 

おまけにテーブルの上の湯呑みや急須、蓉子の頭部が紙相撲みたく細かくバウンドする。

 

「おばーちゃ……、ちょっ……、やめ………、はぐっ!?」

 

案の定、舌を噛む蓉子。

 

口元を押さえて悶絶する孫を尻目に、すっかり冷めた急須のお茶を湯呑みに注ぐ橘音。

 

なんとも言えない空気と柑橘類の香りがリビングに漂った。

 

「みふぁんほにほひ?(ミカンの匂い?)」

 

ズキズキ痛む舌と漂う爽やかな香りに、蓉子が眉をひそめる。

 

「曲者!!」

 

鼻をひくひくさせた橘音が、廊下側の引き戸を勢いよく開けた。

 

もちろん、膝から先はコタツのなかに入ったまんまで。

 

「時代劇の見過ぎじゃあねェかい?」

 

リビングの入り口、その先の廊下には……。

 

竹カゴを抱え、苦笑いを浮かべるハチが立っていた──

 

 

「おぅ、お構い無く」

 

蓉子と向かい合う橘音の、左側からコタツに入ったハチがお約束の社交辞令の言葉を吐き出した。

 

ハチの傍らにはオレンジ色の果実が山盛りの竹カゴが置かれている。

 

ひとまず蓉子が新たに淹れたお茶を啜るハチのおでこを、橘音が指先で突(つつ)いた。

 

「熱っ、あちいじゃねぇか!?」

 

突かれた拍子に湯呑みからこぼれたお茶にハチが悲鳴をあげる。

 

「何の御用かしらん?」

 

ニコニコ微笑みながら、ハチのおでこを突き続ける橘音さん。

 

間違いなく八つ当たりである。

 

「わかった!わかったからよォ!!」

 

そそくさと湯呑みを置いたハチが、竹カゴに山盛りの果実をひとつ掴んで橘音に差し出した。

 

「なんですか、それ?」

 

オレンジ色の果実を指差して、蓉子がハチに尋ねた。

 

「ん?お嬢は知らねぇのか」

 

鼻で笑われました。

 

「八朔(はっさく)ってんだよ、コレは」

 

小さめの夏みかんみたいな果実をハチが蓉子に投げて寄越した。

 

「ふ~ん……」

 

八朔を受け取った蓉子がしげしげと眺める。

 

「今年は豊作でな。お裾分けってヤツよ」

 

ドヤ顔でハチが八朔の皮を剥く。

 

白い薄皮も剥くと、むき出しのひと房の果肉をつまんで、蓉子を手招き。

 

「なんですか?」

 

近寄った蓉子が口を開くと、剥いた八朔の果肉をハチが蓉子の口のなかに放り込んだ。

 

「ひゃっ!?」

 

びっくりする蓉子に、ハチがいたずらっ子の表情で笑う。

 

「ハハッ。手間ぁかかるが、うめぇだろ?」

 

口いっぱいに広がる甘味とほどよい酸味に、蓉子がコクコクと頷いた。

 

さっそく、手にしたはっさくを剥き始めた蓉子を温かく見守るハチ。

 

その肩を橘音が叩いた。

 

「わたくしの分も剥いてくださらない?」

 

途端にだらだらとハチの顔に冷や汗が浮かぶ。

 

「いや~……、急用を思い出したぜ」

 

わざとらしく大声で言ったハチが立ち上がろうとする。

 

けれども、ハチの肩に置かれた橘音の左手がそれを許さない。

 

ハチの肩に爪が徐々に食い込みはじめる。

 

蓉子に助けを求めようにも、蓉子は八朔に夢中。

 

打つ手無しの状況に、ハチが力無く頷く。

 

その視線の先には、満面の笑顔で両手いっぱいの八朔を抱える橘音がいた……。


 
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