No.402005

レッド・メモリアル Ep#.21「中枢」-2

『エレメント・ポイント』に続々と集まってくる者達。決着の時は近いのです。

2012-04-03 08:25:30 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:629   閲覧ユーザー数:614

 

 

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 シャーリは前々から父に聞かされていたから、もちろんその事は知っている。自分には9人の兄弟姉妹がいて、それは世界各地に離散している。その内の一人であるレーシーは、彼女が幼い頃から姉妹のように接してきた。アリエルはと言えば、小学生から同じ学校に通ってきていた。

 だが、残りの7人については、顔を合わせたのも今が初めてだった。彼らが本当に父の息子や娘達なのかという事など、外見からは全く分からない。父はわざと、異なる人種の女性と関係を持った。だから7人それぞれが異なる人種の血と、父の血を受け継いでいる。

 しかしそれを証明する事ができる手段が一つある。それは、彼ら、彼女らが『レッド・メモリアル』を起動させる事ができるかだ。もし父の子であるならば、シャーリ達と同じように、脳の中に小さなチップが埋め込まれていて、それが脳に直結しているはずだ。それによって『レッド・メモリアル』を動かすことができる。

 父はそのテストの為に、彼らに『レッド・メモリアル』を渡した。彼らはすでに、父が発した啓示のようなものを受け取っているはずで、ここにやってきた7人の男女は皆、脳の中にあるデバイスに導かれてこの地へとやって来た。父はこれからそれが本当の事かどうかテストしようとしていた。

 だがそんな中シャーリは、父の部下の一人であるジェイコブに呼ばれ、ある男の存在を知らされていた。

「シャーリ様。あのストラムと名乗った男は、この地の存在を知っていました。いかがいたしましょう?」

 その男、ストラムの存在はシャーリも気にかかっていた。無関係のものとしては、あまりにも自分達の事を知りすぎている。そして、全身を焼け爛れたと言う姿で、指紋などから身元も分からないらしい。

 これから行う計画を進めるためには、ストラムの存在は邪魔だった。

「わたしが話を聞き出してやるわ。お父様の手を煩わせたくはない」

 シャーリはそう言って、テストが行われている部屋から、室内でもフードを目深く被った、ストラムを部屋から出させた。しっかりと彼の背後には大柄な部下をつけさせ、少しの隙も見せないようにする。

 しかしながらストラムは、そんな事など構わないとでも言うかの様子で、その醜い顔をシャーリへと見せつけてきていた。

「一体、どうなさったのですかな?」

 シャーリはストラムの目を見て理解した。この男は、その醜い顔の背後から、隙を伺っている。彼はこちらの動きを探ろうとしているのだ。

 隙を見せまいと、シャーリは彼の前に堂々と立つ。こうした連中に言う事をきかせるため、剥き出しのショットガンを片手で担ぎ、攻撃的な視線を相手へと向けた。

「あなたは、どうしてここにいるの?どうやって、この場所を知った?」

 シャーリはストラムにそう尋ねる。だが、彼の表情は変わらなかった。

「ふふ。私は『ジュール連邦』政府と少し繋がりがありましてね。更に、あなたのお父上の演説をも聞いた。わたしもあなた達と同じ意見です。古き体制は滅び、新しき世の中になる日があると私も思う。

 あなた方が作ろうと思っている王国に、私も是非とも参加をさせてもらいたいのですよ?いかがでしょうか?」

「そのためにはお父様の許可がいるわね。そう簡単にあなたの思い通りになんてならないわ」

 まだ手の内は見せない。この男が何者であるのか、それを完全に知っておく必要があるのだ。

「確かに、それはあなたの言う通りですな。ですが、このわたしに一体何ができると言うのです?できる事と言えば、こうしてあなたと話すくらいのものだ」

 ストラムはそのように言う。同情でも誘って来ようとでも言うのだろうか。だがそんなものを感じるシャーリではない。

「あなたの体を検査させてもらうわ。それで、何も異常がなければそれでいい。更に、何を知っているかも、洗いざらい話してもらうわよ」

 そう言って、シャーリはショットガンの台尻の部分で部下達を促した。

「おー怖い。ですけれども、私が知っているのは、今話した通りですよ。そして身体検査をしても無駄だ。私は何も持って来ていないのですからね」

 ストラムはそう言ってうそぶいた。

「せいぜい言っていなさいよ」

 シャーリはそのように言って、後は部下に任せる事にした。この手負いの男を尋問して楽しむシャーリではない。

 だが、まだ安心する事はできない。この男が現れたと言う事は、きちんと肝に銘じておかなければならないだろう。

 そして、自分の兄弟たちもだ。父はあの者達を歓迎すると言っていたが、シャーリにとってはそうではない。いくらシャーリと同じように、体内に『レッド・メモリアル』を有しているとはいえ、まだ得体のしれない者達ばかりだ。

 シャーリは目を離すつもりは無かった。自分はお父様のために、決して警戒を揺るがすわけにはいかないのだ。

 

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《ボルベルブイリ》郊外『WNUA軍』駐屯地

 

 《ボルベルブイリ》の郊外にはかつて、ほんの一か月前までは『ジュール連邦』の軍施設があり、首都の防備に目を光らせていたが、今となってはその軍施設は『WNUA軍』によって制圧されるものとなり、『ジュール連邦軍』で使われていたほぼすべての兵器や、軍の防衛システムが押収されていた。

 それらはほとんど旧時代のものであって、『WNUA軍』がそのまま流用するには、あまりにも時代遅れ過ぎるものばかりであったが、こうした大国が解体した際に、最も警戒を払わなければならないのが、安価な兵器類が、国内外のテロ組織や過激派に流れてしまわないかと言う事にある。

 現に核の兵器に関しては細心の注意が払われていた。核兵器を開発していたと目されている『ジュール連邦』内の大半の施設は制圧されていたが、そこで核兵器や核燃料棒といったものは、全ての所在が明確にされた。

 現在では、国外や、東側の国に流れ出している核兵器類を初めとする、ありとあらゆる兵器の追跡調査が軍によって行われている。

 

 『ジュール連邦』解体後、新たに動き出している国内の情勢の下、『WNUA軍』に最重要命令が下されていた。それはベロボグ・チェルノの組織に対する攻撃命令だった。

 『タレス公国』のカリスト大統領をはじめとする、各国の首脳から同時に出されたその命令は、『WNUA軍』全てを動かす。今や、ベロボグ・チェルノは世界の西側の国々にとっては最も脅威となる存在だった。

 彼は、その気になれば世界の半分を手中に収めることができる力を持っている。第二の『ジュール連邦』になろうという事は明らかだった。

 ベロボグ・チェルノはその気になれば、東側の大国の最高権力者でさえも処刑する事ができ、軍事技術力も『WNUA』に匹敵するものを持っている。それはもはや、この世に君臨する怪物でしかない。

 彼らの本拠地がエレメント・ポイントと呼ばれる場所である事が判明し、全軍がその場所の制圧に向けて動き出していた。

 軍の者達が慌ただしく、しかしながら整然と攻撃に向けて動き出している中、組織のメンバーである、リーとタカフミもその攻撃に参加しようとしていた。

「危険な真似をする事になるな。俺達は後ろにいればいいだけだろう?」

 攻撃に参加しようとしているリーに向かって、タカフミは背後から言うのだった。

「ベロボグ・チェルノの組織の解体を、この目で見なければ、安心する事はできないだろう。それに、『レッド・メモリアル』の事がどうしても気になる。ベロボグはあれを使って、世の中を支配するつもりだろう。

 そして、『WNUA軍』だったら、我々組織の方が、よくあのデバイスの事を知っているからな」

 駐屯地で次々と大型ヘリや、軍用機が動かされている中、リーはその光景を見つめて言っていた。ここにやって来ている軍の兵器は皆、『WNUA』側から持ち込まれたものだ。旧時代の兵器類は全て一新され、この国にも新しい兵器がやってきている。

 もちろん、ベロボグに対する最終攻撃を仕掛けるのも、そうした最新兵器を用いた攻撃によるものだ。

「お前は、あのデバイスを破壊するつもりだな?」

 タカフミは、そんな最新鋭の兵器を見つつ言った。

「必然的にそうなるだろう。『WNUA』は、エレメント・ポイントの空爆を決行するだろうから、完全に奴らの組織もろとも破壊されてしまうと言うわけさ」

 そのように無機質な声で言うリー。彼は何を考えているのか。それはタカフミでも分からない。

「しかしベロボグの事だ。そんな事くらいはすでにお見通しだろう。軍に空爆される事くらいは分かっている。前回も地対空兵器を備えていた」

「それは、『WNUA』側も同じだ。ベロボグが備えをしている事くらい分かっている」

 と、タカフミ。

「いいや、ベロボグは、要は『レッド・メモリアル』を守るつもりだ。あれの中に全ての情報が含まれている。その情報を奴だけが持っている。それが奴の最終目的だ。『WNUA』との戦争に勝とうとなどはしていない」

「だから、お前はそれを破壊して、ベロボグの脅威を取り払おうと考えているのか?だが、組織の目的は、『レッド・メモリアル』の回収…」

 タカフミがそう言いかけた時、彼らがいる元へと、『タレス公国軍』に所属している一人の軍人がやってきた。これから攻撃を仕掛けようとしている奇襲部隊の部隊長、ハワード少佐だった。

「リー・トルーマンさん。もし我々の奇襲攻撃に参加されるのでしたら、すぐにもヘリに乗り込んでください」

 ハワード少佐は何か気に入らなそうにそのように言ってきた。無理も無い。つい一か月前、リーも同じ『タレス公国軍』にいた。しかしながらそれは表面上の立場であり、彼は軍を裏切って組織のために動いた。

 軍に所属している者が、軍を裏切る事は国家反逆であり、当然の事ながら、国に忠誠を誓う者達からは嫌悪の目で見られる。だが、リーは正しい事をした。だからこそ、ベロボグの陰謀が暴かれているのだ。それはカリスト大統領も認めている。

 しかしながら、ハワードにとっては、リーは得体のしれない者、軍を裏切った者として映るらしい。

「ああ、分かっているさ」

 リーはそう答えるだけだった。もはや、自分が『タレス公国』の軍人にどう思われようが、そんな事など関係は無い。

 リーを伴いながら、ハワードは言ってきた。

「私の一存では、あなたを連れていくつもりはありません。ですがこれは大統領命令だ。あなた方が、ベロボグ・チェルノについて詳しく知っているから、だから連れていくだけです。もし、余計な事、例えば、作戦に差し障るような事をすれば…」

「分かっている。作戦を妨害するような真似は許さんのだろう?私も元軍人だからそのくらいの事は分かっている」

 リーはハワードの言葉を遮ってそう言った。

「それが分かれば、あなたはただ見ているだけだ。爆撃機による空爆が成功すれば、いちいち地上に降りる必要も無くなる。例の物についても海に沈むだけで済む」

 と、ハワードは言うのだが、リーはその言葉で納得などしなかった。

「ベロボグが、そう簡単に空爆はさせてはくれまい。奴はただのテロリストじゃあない、もう一つの王国を作っているんだ」

「なるほど。では、我々奇襲部隊が行く意味もあるわけだ」

 ハワードがそこまで答えたところで、リー達は『タレス公国軍』のロゴが入れられた大型ヘリの入り口までやって来ていた。

 これを使って、ベロボグの拠点地、エレメント・ポイントまで向かうのだ。

 続々とヘリや、ジェット機が動きを見せている。すでに海上に展開している『WNUA軍』空母にも作戦開始命令が伝わっており、それらが一斉に攻撃を開始するのだ。

 果たしてこの攻撃にベロボグはどのように対処するのだろうか。

《ボルベルブイリ》郊外

 

「少しお手洗いに行かせてもらえませんか?街を出る前に行っておきたくて」

 アリエルは養母であるミッシェルと共に、保護されたまま、行き先も知らされぬままに連れられていく。まだ彼女らの保護観察は続けられており、西側の国の者達によって、遠くの地、父の目の届かないところへと向かおうとしている。

 もう《ボルベルブイリ》の街並みを見ることも無いのだろうか。名残惜しい気持ちを自分の中に秘めつつも、アリエルは車を止めさせた。

「いいですよ。ただし、トイレの中までお供します」

 そう言ってきたのは、女性の護衛官だった。もうすでに、この一か月の拘留の間で、顔なじみになっている。

「ええ、扉の外で待っていてくれれば」

 アリエルはそう答えた。

 車が止まったのは、《ボルベルブイリ》郊外にあるホテルの前で、アリエルはこの通りを知っていた。それも遠い昔の事であるかのような気がしていたけれども、学校に通っていた時、よくこの通りをバイクで走り抜けていったものだった。

 ホテルの中のトイレにまで案内されたアリエル。ホテルに宿泊客はまるでいないらしい。それどころか、ホテル自体が閉鎖されており、中には係員はおらず警備員しかいなかった。

 『WNUA軍』の駐屯の後も戒厳令が敷かれており、このホテルも閉鎖されており、更に『WNUA軍』の駐屯地の一つとされているようだった。

 中には軍関係者が緊急で宿泊するようになっている。だから緊張感のようなものが漂っていた。

だがアリエルは自分に言い聞かせる。自分は拘束されているわけではなく、保護されている身なのだ。背後からついてくる女性の護衛官も、決してアリエルに銃を向けたりしているわけではない。

 ただ、父ベロボグの手先がどこに来ているかという事も分からない今、アリエルを彼らに渡さまいと警戒しているだけに過ぎないのだ。

 アリエルはトイレに入り、その護衛官もトイレの中に入ったが、個室の中までは入ってくる事がなかった。

 ホテルのトイレだがあまり衛生的ではない。この一か月間、管理もあまり行き届いていないようだった。

 窓のない個室。そして外には護衛官がいる。だがアリエルにはしなければならない事があった。

 

「アリエルさん。いい加減にしてください。入りますよ」

 トイレの中に20分近くもいたのだ。アリエルには鍵のかかった扉が蹴破られる音が聞こえていた。

 だがその時にはアリエルは、男子トイレ側から飛び出しており、ホテルの裏口へと向かって走っていたのだ。

 

 アリエル達が入っていったホテルの方で何かがあった、という事は、外の車の中にいるミッシェルも気が付いていた。ただ単にトイレに入っていっただけにしては、あまりにも時間がかかり過ぎている。

 そして自分達を車の中で待たせている護衛官が無線機でやりとりをしている。

「何?それで、彼女はどこへと向かったのだ?」

 車の中にいる護衛官の口調が変わったことは、ミッシェルにもはっきりと分かっていた。

 普段落着き、何事にも動じない彼らがそこまで慌てている。これはただ事ではない。ミッシェルにはすぐに分かった。自分達の護衛艦である彼らが騒ぎ立てているのだから、これはアリエルに何かあったのか。

「ねえ、アリエルに何かあったって言うの!?」

 ミッシェルは後部座席から運転席にいる護衛官に向かって叫ぶ。

「あなたはここにいてください」

 護衛官はそう言うばかりだ。

「わたしが聞きたいのはそんな事じゃあなくって、アリエルに何かあったかって聞いているのよ」

 しかしながら車の護衛官は無線機の方に集中したままだ。

「それで、すぐにホテルの警備へとは伝えたのか?でも見つからない?急いでホテルを固めるんだ。彼女をどこにも行かせてはならん」

 その言葉を聞いて、ますますミッシェルも落ち着いてはいられなくなってしまった。

「一体、アリエルはどうしたっていうのよ!」

 後部座席から身を乗り出してミッシェルはそう言い放っていた。すると護衛官は無線機を離し、彼女の方を向いて答えてきた。

「お嬢さんがいなくなりました。ですがご安心ください。すぐに見つけて保護をします」

 その護衛官の言葉ぐらいミッシェルには分かっていた。だが彼女は、

「護衛官は、何をしていたのよ…」

 と呟くことしかできなかった。次に彼女が思った事は、アリエルは何を考えているのかと言う事だった。彼女の考えそうな事をミッシェルも同じく考えようとする。そうすると、どうやら一つの事しか思い当たらない。

 アリエルは、もう行ってしまったに違いない。

 ミッシェルにアリエルが再びいずこかへと行ってしまった、という事が告げられていた頃、彼女はホテルから裏路地へと出ており、そこから急いで表の通りへと向かっていた。

 ホテルの警備は甘かったから、簡単に護衛官たちを巻くことができたが、あまりのんびりもしていられなかった。それに、これから自分が向かうべき行き先を知られるわけにもいかない。

 アリエルは表通りに駐車してあった、一台のバイクを見つけた。東側の国で使われている旧時代のバイクだが申し分ない。燃料もきちんと入っているようだから、目的地まではこれで向かう事ができるだろう。

 アリエルは素早くバイクのハンドル下から配線を引っ張り出し、手慣れた事であるかのようにエンジンをつけた。

 保護をされていた一か月間、バイクに乗る機会などなかった。自分の自慢のバイクはもう《イースト・ボルベルブイリ・シティ》陥落時に倒壊したビルや、実の母と運命を共にした。だから今は他人のバイクを借りるしかないのだ。

 素早くバイクにまたがるアリエル。これは他人のバイク。それにヘルメットも無いままだったが、すぐにエンジンをふかしたアリエルは一気にバイクを加速させ、静かな《ボルベルブイリ》の街を疾走していった。

 

「お嬢様の行き先に心当たりはありませんか?」

 車の中で、再び護衛官がミッシェルに向かって訪ねてきた。

「するとあの子は、またどこかに行ってしまったと言うのね」

 ミッシェルは頭を抱え、そう言うのだった。

「トイレに行くと言って、そのまま個室から脱出したのです。しかしながら誘拐されたと言うわけではありません。自らの意志で、どこかへと向かわれたのです。お嬢様の行き先に心当たりはありませんか?」

 護衛官がそのように言って来るので、ミッシェルは再び頭を抱えて答えるのだった。

「あなた達、わたし達の護衛官なんでしょう?だったら、あの子がどこに行くかといったら、もう一つしかない事くらい、分かっているんじゃあないの?」

 呆れたかのようなミッシェルの声。だがアリエルは何故、あの者達の居場所を知る事ができているのか。当てもなくどこかへと行ってしまったはずがない。アリエルは確固たる意志を持ったからこそ、彼らの元へと行ったはずなのだ。

 

        6

 

エレメント・ポイント

 

「お父様、思った通りだよ」

 ベロボグのすぐ目の前で接続をしていたレーシーが、まるで面白いものを見たかのように言った。

「何だね?レーシー」

 今ではうまく言葉を並べる事さえ難しくなっているが、愛しく、まだあどけないレーシーのためにと、平静を、そして心優しい父親を装って彼女へと答えるのだった。

「あの子だよ。アリエル。彼女が《ボルベルブイリ》の街を出た。もう彼女の『レッド・メモリアル』の位置で分かるもん。彼女、こっちに来ようとしている。まっすぐ、ブレイン・ウォッシャーが待っているところに行っているからね」

 レーシーの言葉に、ベロボグはもう笑えば醜い表情へとなってしまうが、その顔をひきつらせたかのように笑みを浮かべたつもりだった。

 やはり、アリエルは分かっていてくれたか。彼女はこの一か月間『WNUA』側の厳重な保護下にいたと、ベロボグは知っていたが、どうやらこの段階に来て彼女は移送か何かをされたようである。

 だが、アリエルの居場所はベロボグには手に取るようにわかっていた。何せ彼女のデバイスそのものが発信器となっており、今、それを起動させているレーシー達にとってみれば、手に取るかのようにその場所を知ることができるのだ。

 レーシーは頭の中にその地図を出すことができて、アリエルの正確な居場所を探知する事ができる。

「して、ブレイン・ウォッシャーはアリエルの接近を知っているのかね?」

 ベロボグはそのように尋ねる。だがレーシーは頭の良い子だ。心配する必要などない事だった。

「もちろん。アリエルを出迎えるつもりでいる。でも、もしも彼女が追われていた時の為に、きちんと警戒を怠らないようにとも伝えておいたよ」

 そのようにレーシーは付け加えるのだった。

「ふふ。どうやらアリエルはきちんとその使命を忘れてはないなかったようだ。何よりもの私にとって嬉しき事かな」

 ベロボグは自分の微笑を隠せずにそのように言うのだった。

 その時、ベロボグとレーシーのいる広間に、シャーリが姿を見せる。扉を開けて中に入ってきた彼女は何ともない表情をしていた。まさしく無表情。感情が欠落してしまったかのような表情だ。

 ベロボグはシャーリのその表情が気になり、彼女に声をかける。

「どうだね?ストラムとやらは何か知っていたか?」

 シャーリにはストラムの尋問を任せていたのだ。もし何か彼が知っていたら、それをきっかけとして全てが崩壊しかねない。ストロフがどこまで知っているのか。ベロボグはそれを知る必要があった。

 だがシャーリは、

「お父様。幾ら私でも、全身に火傷を負っているような男を痛い目に遭わせる事はできませんわ。今はただ拘留しているだけ。ですが、あの者達全員の『レッド・メモリアル』さえ起動してしまえば、もう問題はないでしょう?中枢は起動して、お父様の王国は完成する事になる」

 随分とぶっきらぼうな声だとベロボグは思う。大抵、このような時は、シャーリは自分が構ってもらえない事を不満に思っているのだ。

「ああ、分かっている。だがシャーリよ。計画にほころびが出るときというものは、大抵その最後にあるのだ。最後の詰めを誤る事によって、計画の全てが崩壊する事になりかねん。私はそれを恐れている」

 ベロボグはシャーリを構ってやるように、そしてしっかりと言い聞かせるように彼女へと言うのだった。

 だが、シャーリは、

「だったら、さっさとアリエルを捕まえてこちらによこしたらどうなのです?10個の『レッド・メモリアル』のデータがあってこそはじめて、エレメント・ポイントは起動するのでしょう?」

 そうシャーリは言い放つように言った。乱暴な言葉だ。シャーリは今、明らかに何かに嫉妬しているかのようだ。

「安心したまえ、シャーリよ。アリエルはこちらに向かってきている。自分の使命を知ってか、それとも別の目的があるのか、アリエルは確かにこちらに向かってきているのだ。これで、計画を最終段階へと導くことができる」

 ベロボグがそこまで言うと、シャーリは話をそらした。

「ここにいた、わたしの兄弟姉妹たちのテストはどうなったんです?」

 それが、シャーリの嫉妬の言動だろう。彼女は大分前から、自分には異母兄弟姉妹がレーシー以外にも8人いる事を知っていたが、実際に対面してみて、彼女は彼らに不快を感じたのかもしれない。

 父の子供は自分だけでいい。自分だけ溺愛されていたい。シャーリはそういう子だ。10人の兄弟姉妹の中ではやっていく事は難しいだろう。

「すでに5人は同期を開始させたよ。彼ら共々、自分達の中に秘められている能力に驚いているようだ。残りの2人も間もなく同期をさせる。そしてアリエル。シャーリ、レーシー。これで全ての鍵が揃う。

 そうすれば、この『エレメント・ポイント』の中枢を目的地に向かって起動させる事ができるのだ」

 それは娘達にはすでに知らせておいた事だ。『エレメント・ポイント』が何故存在するのか、そして何故『レッド・メモリアル』という生体コンピュータが必要なのか。それについては自分も娘達も分かっている。

「中枢部は本当に目的地までたどり着く事ができるんですの?」

 シャーリは確認を取るかのようにベロボグに言ってきた。

「ああ、もちろんだとも」

《ボルベルブイリ》郊外『WNUA軍』駐屯地

11:09P.M.

 

「何?アリエルがいなくなっただと?それも2時間も前か?護衛は一体何をしていたってんだ?」

 『WNUA軍』駐屯地にいるタカフミが、アリエル失踪の連絡を受けたのは、彼女がホテルのトイレから行方不明になってから2時間も経ってからだった。

「それで、アリエルがどこに行ったのか、っていうのは分からないのか?」

 携帯電話に向かってタカフミは言い放つが、その返事は何とも頼りの無いものだった。

(すでに街を出ていると思われます。どこの検問にも引っかかっていません)

 やれやれと思いつつ、タカフミは階段を上った。そこは、『WNUA軍』駐屯地の指令本部になっている場所で、ここからベロボグ・チェルノ掃討作戦の指揮が行われる事になっていた。

「ああ、彼女を見つけたらすぐに連絡しろよ」

 そのようにタカフミは言うものの、実際の所、アリエルの保護は彼ら組織の範疇の外にあるものだった。幾らアリエルが行方不明になったとしても、それを聞かされるのが二時間も遅れている事からも明らかだ。

 作戦本部へとやって来たタカフミは、そこで全モニターを閲覧する事ができる場所にいる、この作戦の指揮官、ブルグ将軍と出会った。

「将軍、作戦実行まではあとどのくらいだ?」

 タカフミは、軍の将軍に話しかけるなど、慣れきったかのような口調でそのように尋ねた。

「1時間とかからまい。奇襲攻撃を仕掛ければ、あとはこちらのものだ」

 ぶっきらぼうな様子で、ブルグ将軍はそのように言って来る。二人はそれほど歳も離れていないが、軍に所属もしていない人間に、なれなれしく声をかけられるのが気に入らないのだろう。

「だが問題発生だ。アリエル・アルンツェンがいなくなった」

 タカフミは携帯電話を片手にそのように言う。しかしながら、ブルグ将軍は再び作戦の全体像が分かるモニターの方に目を向けるばかりだ。

「それが何か問題か?」

「ああ、問題だ。アリエルが今向かう所がどこか、それは一つしかない。ベロボグ・チェルノの所だ。まさにあんた達が奇襲を仕掛けようとしている所だ」

 しかしブルグ将軍はどうとはないという様子で、

「大した問題にはなるまい」

 彼はタカフミの方は振り向かずに、あたかもこの場には彼などいないような素振りを見せるのだった。

「問題は二つある。まずあんたらは民間人を犠牲にしようとしている。もう一つは、アリエルがベロボグの元に向かう事によって、彼らは何かをしでかすつもりだ」

 タカフミは背中で相手に話されている事は気にせずに言った。

「何かとは?」

「ベロボグがいるのは、『エレメント・ポイント』だ。そして、アリエルの頭の中に入っているチップの情報では、その『エレメント・ポイント』には何かがある。彼女はその何かを引き出す鍵になっているのだろうと、俺はそう思っている」

 タカフミはそのように説明する。

「だが作戦は上からの命令だ。それだけの事。いちいち口を出さないでもらおう」

 ブルグ将軍はそう言うばかりだ。軍人は命令に従うばかりでいう事を聞かない。タカフミにとってやりにくい存在だ。

「リー・トルーマンに連絡を取りたいんだが」

 タカフミはそう言った。すると、ブルグ将軍の元にいた情報官がコンピュータデッキを操作して、無線をつなげてくれる。

 リーは今、作戦部隊の中にいる。ブルグ将軍は奇襲攻撃で全てを片付けると言っていたが、『WNUA』の目的はタカフミも知っていた。空爆による奇襲攻撃は二次攻撃によって行われるものであり、その前に彼らに与えられた命令がある。

 その命令の方が優先されるはずだ。リーは、『レッド・メモリアル』を回収する部隊と行動を共にしている。

「リーか?たった今入った情報なんだがな、アリエルが行方をくらましたらしい」

 タカフミが無線に向かってそのように言うと、

(アリエルはベロボグの元に向かったのか?)

 すぐさま彼はそう言葉を返してきた。

「捜索している護衛官達にもその行方はまだ分からないらしい。だが、彼女がわざわざ逃げていって向かう場所と言ったら、ベロボグの所以外に一体、どこがあるって言うんだ?彼女はもしかしたら、例のチップで操られているんじゃあないのか?」

 と、タカフミが言うと、リーは少し考えたらしく、間をおいて答えてきた。

(彼女は、操られているんじゃあない。自分の意志で行動しているんだろう。それが正しい事であると信じている)

「もし、アリエルがベロボグの元に向かったら、軍の奇襲部隊の攻撃で助からないぞ」

 するとリーは、

(ベロボグは、そう簡単に攻撃をさせてはくれないだろう。生半可な奇襲作戦など恐らく失敗する。だが、アリエルがもしベロボグの元へと向かったのならば、私はそれを助けよう)

 そのように答えてきた。彼のその言葉には感情がこもっていたのか。彼は潜入任務という仕事柄か、いつしか言葉に感情がこもらなくなってしまっていた。だが今のリーは少し違った。確かにアリエルを助けようと言う意志が言葉から感じられたのだ。

「どのくらいで、エレメント・ポイントには着くんだ?」

 タカフミがそう尋ねた時、無線機の向こう側から重厚なエンジン音が鳴り響くのが聞こえてきた。

(今から出発する。ベロボグ達の攻撃も無く、何事も無ければだが、2時間で目標の地点にはたどり着くだろう)

「2時間か。結構かかるな」

 タカフミはこれから起ころうとしている事を危惧しながらそのように言った。

(任せておいてくれ。そっちはバックアップを頼む)

 タカフミはリーよりも10歳年上だったが、彼の期待には応えてやらなければならない。

「ああ、分かった」

 そのように彼は答えると、自分に与えられた指令室の席へと座るのだった。

 

        7

 

国道55号線

 

 アリエルが行方不明になったという事で、にわかに騒ぎ始めた『WNUA軍』の事など、遠い世界にあるかのように、アリエルは国道55号線をひた走り、極寒の地へとやって来てしまっていた。

 彼女はなるべくの防寒着を着てきていたけれども、それでも相当に寒い。バイクのエンジンは温まっているから問題は無いけれども、路面が氷結しており、今すぐにでもスリップしてしまいそうだった。しかも彼女の走っているスピードでは尚更だった。

 アリエルは全ての彼女を拘束している者から解放されるかのように、バイクを全快にしてここまでやって来ていたのだ。何にも縛られるという事は無く、そして、自分の生きる目的の為にこの地を目指す。

 リー達には言っていなかった。もちろん何が何でも自分がベロボグの元へと向かう事を止めようとするだろうという養母のミッシェルにさえも、それは言わなかった。

 自分の脳の中に埋まっていると言うデバイスは、ただあの時、プリントアウトされた情報だけが全てではなかった。

 自分の父のベロボグはそれだけではなく、彼女にある言葉を残していた。それはあたかも置手紙であるかのように彼女に残されていたものがあったのだ。それをアリエルは感じることができる。

 頭の中に埋まっているデバイスは、実は今でもまだ作動しているらしかった。

 しかし、リーや養母達の前で動かしていた時とは違う。それは一枚の紙に印刷されたものであるかのように、地図が表示され、そこにまるで自分をいざなっているかのようにあるポイントが示されていた。

 その事は誰にも言っていない。まるで、自分の頭の中に埋まっているデバイスが、自分を突き動かしているかのように、そこへと向かえと言っているかのようだった。

 だからアリエルはそのポイントを目指して向かう。

 そうする事で、父との決着をつける事ができると思っていたのだ。

 夜の国道55号線は真っ暗で、アリエルのバイクのヘッドライトしか点灯していない、非常に危険ではあったが、アリエルは3時間ほどかけて、ようやくその地へとたどり着くことができた。

 ここは『WNUA軍』の進駐部隊もやって来ていないようである。

 全速力でバイクを飛ばしてきたものだから、どうやら《ボルベルブイリ》からは相当に離れている場所までやって来てしまったようである。

 この場所で間違いない。地図のポイントが示しているのはこの場所であり、アリエルは父によってここへ導かれたのだ。

 もう恐ろしいとは思わない。父は確かに自分を狙っているのかもしれないが、それが悪意あるものでないという事は分かった。父は自分を必要としているのだ。だからこそアリエルはここへとやって来た。

 国道沿いには何も見られなかった。少し道から外れ少し奥へと行った場所に、どうやら小屋のようなものがあるらしい。

 その小屋には誰も住んでいないかのようだったが、ひっそりと何かが佇んでいるかのような気配がある。人影というほどの大きさのものではない、もっと大きな何かがそこに佇んでいるのだ。

 アリエルは周囲の状況を確かめながら、バイクのエンジンを切り、ゆっくりとその場所へと近づいていく。

 辺りは一切の闇だ。感覚として、雪を踏みしめるという感覚だけが伝わってくる。雪を自分が踏みしめる音だけが響く、あまりにも静かな場所だった。

 だが、確かに目の前には何かがいる。

 すると、向こう側からも足音が近づいてきた。闇の中、向こうから誰かがやって来る。一切の闇、そして極寒の中、誰かが迫ってきているが、アリエルはそれを恐れる事はしなかった。

「誰かいるんですか?」

 アリエルは闇の向こう側に向かってそのように尋ねていた。しかし、闇の向こうからくる人物は、慎重に足元を踏みしめているだけで、何も答えようとはしない。不気味で、恐ろしいまでの静寂が辺りを包んでいる。

 やがて、アリエルに向かって細い懐中電灯の光が照らされた。

 思わずその眩しい光に目をくらまされてしまう。何も言われずにいきなり懐中電灯の光を照らされたのだ。とても眩しい。

 アリエルは警戒の姿勢を取るが、相手はこちらに向かって近づいて来る。そしてその人物が、アリエルの知る人物であると言う事はすぐに分かった。

 彼女は何も言わずにアリエルを見下ろしてきている。せめて何かを言ってきてもいいものを。そのように思ったが、それが不可能であることは、アリエルには分かっていた。

 彼女はブレイン・ウォッシャー。聾であって、彼女は口をきくことができないのだ。だが、聾人用のための装置を使って、電子音声を組み合わせ、アリエルに向かって話してきた。

「アリエル・アルンツェン。ようやく来ましたね」

 アリエルに向かってそのように言って来る。電子音声の組み合わせでは、全く感情がこもっていないが、待ちわびていたのかもしれない。こんな暗く、寒い場所で彼女は待っていたのだから。

「私の父はどこですか?」

 懐中電灯の光にも慣れ、アリエルはブレイン・ウォッシャーにそのように尋ねた。

「ここにはいません。かの地にいます。あなた達を初めとした、全ての者達が集結しようとしている。そしてあなたのお父様の計画は完遂しようとしているのです」

 無機質な聾人用の会話装置を使って、ブレイン・ウォッシャーはそのように言ってきた。

 アリエルもそれをもちろん知っている。『レッド・メモリアル』を通じて、彼女はすでに感じることができていた。自分の父親の計画、そしてそこに何が必要なのかという事さえも全て知っている。

「そう。だから私はここに来た」

 アリエルがそう言ったとき、突然、ブレイン・ウォッシャーの背後で動きがあった。突然、激しい物音が響き渡り、今まで暗闇の中に隠されていたものが姿を表そうとしている。大きな物体、そして黒色に塗りつぶされたその姿は、ヘリコプターだった。

 今まで暗闇で気が付かなかった。だが、ヘリコプターはそこに隠されていたのだった。

「さあ、行きましょう。わたし達の国へ」

 ブレイン・ウォッシャーはそのように言って、アリエルをヘリの方へといざなった。

(アリエルの確保は無事に完了。彼女は自分の意志でこちら側へと来た)

 そのように、ベロボグの元へとブレイン・ウォッシャーからのメール連絡が、レーシーを通じてやって来た。

 ブレイン・ウォッシャーは電話はほとんど使わない。やはり音の無い世界に生きてきているから、文字での連絡の方がやりやすいのだろう。特に一方的に連絡をする場合は、彼女は電話を使う事は無い。

「そうか、それは良かった」

 ベロボグは安堵のため息をつき、レーシーの前でそう言うのだった。

「これで、全ての段階が成り立ちますわね、お父様」

 シャーリが言って来る。ベロボグもそれに同感だった。長年待ち望んでいた希望が、いよいよこの地から誕生しようとしているのだ。

 ベロボグ達は、エレメント・ポイントの施設の地下部分にいた。そこは、海上に設けられた灯台のような施設の下部に位置している、司令部のすぐ下にある中枢部分だった。

 そのフロアは円形に作られており、ドーム状の屋根が設けられている。中央部分には大きな柱があって、その部分には幾つもの光学画面が現れて、すでにその巨大な装置が作動している事は明らかだった。

 柱を取り囲むようにしてあるのが幾つもの寝台のようなものだった。しかしそれは寝台と呼ぶにはあまりにも無機質すぎる。それは端末だった。端末は中央部分の柱に直結をしており、そこに横たわれば、接続する事が可能だった。

 しかしこの巨大な装置に直接接続をする事ができるのは、『レッド・メモリアル』を使う事ができる者達だけだ。そうでなければ、ここにある装置を使う事は出来ない。

「おい、あんたらよう。俺達はこんな所で何をやるってんだ?」

 そのように不満ありげに言ってきたのはジェフだった。彼はすでに接続している。頭の部分に脳波を計測するようなケーブルが備え付けられて、それによって彼は接続をする事ができているのだ。

「それについては、すでにレクチャーしたじゃない」

 シャーリがそのように言う。

「ああ、聞いたぜ。俺達は鍵なんだってな?何か、エネルギーって奴を探すための装置の鍵なんだろ?俺のこの頭の中にそれが埋まっているってな」

 ジェフは寝台の上にだらしなく座り、そのように言ってきた。とても挑発的な口のきき方だ。ジェフはシャーリよりも少し年上。『タレス公国』で育った者であって、義理の両親に甘やかされて育ってきた男だから無理も無いのか。

 だが、彼のその態度は、この場においても余裕を持つことができるからこそ、出すことができる態度。ベロボグはそのように見抜く。

「ああ、君たちは鍵だ。そして、新しい世代の担い手でもある。君達が、この装置に接続された『レッド・メモリアル』の力を最大限に高める。そして、秘められたコードを解析して、この人類史上に残るエネルギー掘削装置を動かすのだ」

 ベロボグが指さした先には、レッド・メモリアル10本がすでに差し込まれているスロットがあった。無線接続ではなく、直接『レッド・メモリアル』と接続する。こうする事によって、この装置が持つ本来の力を発揮する事ができるのだ。

「あんたらは、ここに10人揃うって言ったぜ。何でも俺との兄弟なんだってな。だが、今いるのは9人だ。残り一人はいいのか?」

 ジェフがそう言って来る。いい質問だ。するとベロボグは、

「もう一人は今ここへと向かってきている最中だ。焦る事は無い。明日にはこの世界が変わっているのだ」

 アリエルの到着は、おそらく午前0時ぐらいになるだろう。文字通り、彼女が来ればこの巨大な装置が完成するのだ。

 ベロボグはじっと寝台の一つを見つめた。その寝台はアリエルのために用意されている。早く彼女にここに来て欲しい。ベロボグはそのように切に思い、自分の車椅子の肘掛を強く握った。

 


 
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