No.401202

戦姫絶唱シンフォギア ~騎狼の絶咆~ 3節

岸辺_翔さん

改稿済み転載。
いやー、最終回よかったですね!
感動の嵐! なんてパワーなんでs(ry

2012-04-01 18:17:04 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:7217   閲覧ユーザー数:7073

3節 「Cage of Eden」

 

 

 

―――俺は、創られた時から戦士だった。

 

人を超えた身体能力を持ち、その身を戦場にのみ置き続ける創られた戦士。

だが、今では俺を創った組織は消え、俺はただの戦闘マシーンになってしまった。人から依頼を受け、報酬を貰い、任務を完遂する人形だ。

 

 

 

 

―――あの日…………あの時までは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

……瞼が…………重い……

 

……………………息苦しい…………

 

…………あたしは……なにやってんだ……

 

……思いっきり歌って………………それで…………

 

 

「――――――……………………そうだ…………あたしは……絶唱を…………」

 

 

   【絶唱】

あれは……あたしを殺すのに十分な威力を持っていた。

もうなにもわからなくて、それでも……あたしを抱いてくれた、あの人ことが忘れられなくて……。

 

 

「…………はは…………生き…………てんのか……?」

 

 

息苦しい酸素マスクを取って、大きく深呼吸する。…………う……胸の当たりが重い、怪我してんだろうなぁ。

そう思って軋む体を起こすと、二度と会えないと思ってたあの人が…………寝ていた。

なんだよちくしょう…………そんな寝顔見せるなよ……くそ……。

 

 

「…………ただいま……隼人」

 

 

あたしは眠っている彼の頭を撫でながら、再び眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

†★†★†★†★†★†★†★†★†★†★

 

 

 

 

 

…………鼓動が聞こえる。

優しい…………安堵感を得られる鼓動。

……戦など忘れて、ここにいたい…………。もう人など殺さずに、平和に過ごしたい…………。

 

 

―――《お前だけは戦ってくれ……俺達の、希望なんだ……!》

 

 

…………いや、そうだな……。俺は戦わねばならない。

託されているのだ。俺は、あいつらの望みを―――未来を。

 

 

―――《変えるんだ。俺達は世界を……人の意思を変革させてくれ。俺達の成し遂げられなかった夢を!》

 

 

ああ、俺達は変えなければならない。

世界の意思も、人の意思も、全てを変える。

変えて……俺達も変わる。

そうでなければならない。

 

 

―――《俺は……俺達は戦うことしかできない。だが、戦うことで自分を表現してきた。誰の意思でもない…………己の意思で……!》

 

 

…………皆まで言うな。

俺は……戦いを辞めない。

例え世界が武器を手放したとしても、俺は……俺だけは銃を構え続ける。

そうだ…………今、こんな所で狼狽えている場合ではない。戦わなければ…………戦って、戦い続けて、任務を完遂しなければ。

 

 

「……………………奏……? …………お前、起きて……」

 

 

頭に乗せられていた腕をどかし、彼女の頬を伝う涙をすくい取った。

つけていた筈の酸素マスクも取られ、バイタルサインも安定していた。今までは反応すら示さなかったというのに……。

…………やっと……帰ってきてくれたか。

 

 

「よくぞ帰還した……奏」

 

 

彼女の―――奏の手を握ると、弱々しくも握り返してきた。

寝ぼけているのか、無意識なのか……。だが生きていることが確信できただけで、俺の行き場のない思いはふくれあがっていた。

もう二度と失いたくない。この手を―――離すものか。もう二度と、俺は手放さない。次は……翼を助ける番だ。

 

 

「しばらくは療養に専念してくれ。俺はその間、お前が何も心配しなくていいように……戦い続ける……守り続けてやる」

 

 

右目から流れる涙。

気づいた時には頬を伝って手に垂れており、俺は急いで涙を拭った。

俺の柄ではない。涙はやめろ、俺。

 

 

「……行ってくる」

 

 

離れ際に手の甲へ口を落とし、瞳から溢れる雫が床へ落ちぬ間に……俺は、その場を去った。

 

 

 

俺の家から本部は遠くない。

バイクで数分の距離だ。俺は普段、翼の通っている私立リディアン音楽院の非常勤講師として働いてはいるものの、実際は警備員といった立場のほうが強い。

俺は潜入任務のために昔から多芸だったし、基本的に何でもできるように創られた。音楽もひと通りはできる。

それも相まってか、非常勤講師兼警備員という微妙な立場を譲渡されたわけだ。

 

 

「おはようございます、先生」

 

「ああ。番を代わろう」

 

「いいえ、大丈夫ですよ。まだ勤務時間ですから」

 

「……では、それまで頼む」

 

「はいよ」

 

 

60を過ぎた門番と挨拶を交わし、職員用の駐車場にバイクを停める。

俺の勤務時間は0630(マルロクサンマル)時から2230(フタフタサンマル)時までだ。それまでは講師と警備員2つの顔を持ち合わせる事となる。

非常時となれば、特別警備員として戦場にも出るがな。

 

 

「ああいう物腰の良い人ばかりならば、世界に戦争などなかったのだろうな……」

 

 

今門番をやっている翁は、俺が血まみれで帰ってきた時も何も言わなかった。ただ静かに、救護隊を呼んでくれた。肝が座っているのか、それとも年の功という奴なのか……。

俺は昔から戦士であり、兵士であった。どれだけの事をしても意味はなく、ただ任務の為に命を懸けて戦い続けた。生まれ、育ち、死ぬ時まで俺は戦場に居続ける。常在戦場とはそういうことだ。

 

 

「…………まあ、考えるだけ無駄か。今日も一日、馬鹿どもに護身術でも教えるとしよう」

 

 

……こんな俺の専科は、体育。

正確には、女学院であるが故の簡易的な護身術と、体育教科全般の教官だ。

少しでも被害を減らすためにも、人の戦火を減らすためにも……俺は講師を引き受けた。人は逃げ方1つで、その生命を左右してしまうから。

 

 

「今日は…………3限からか」

 

 

それまでは暇だな。

まあ本部にいればいい話しなのだが…………いかんせんやることはない。事前会議(ミーティング)は夜だし、勤務上家に戻ることもできない。

…………この時間で誰もいないとなれば、やはり屋上だな。あそこは拓けているし講師も生徒もいない。サボりにはもってこいだ。

 

そうと決まれば即実行。エレベーターから階段に移り、解放されている屋上へ忍び入る。ザボりがバレたら何を言われるかわからん。

芝生やベンチの設備が行き届いた屋上は実に快適で、この上ない開放感があった。ふむ…………一眠りするか。そうすれば丁度頃合いだろう。

日差しも丁度いいし、時折流れる風邪も心地よい。これは……平和と言わざるを得ないな―――

 

 

 

 

 

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「…………この……力は……」

 

 

先日、ガングニールの反応が検知された夜。1課の人たちが事後処理をしている中、銀狼は1人思考の海に流されていた。

黒い霧になってM134 MINI GUNが消えたあとも、その右手からは瘴気が溢れでていたのだ。心の中に蓄えていた闇が滲み出るように、ゆっくりと蒸発するように。

 

 

「駄目だ……抑えられん。やはり不明確な力は使うべきでは……」

 

「……どうしたんですか」

 

「翼……。なに、問題はない。気にするな」

 

 

心配をかけまいとして、銀狼は右手を死角に隠した。自己犠牲をモットーとしている銀狼からしてみれば、それはいつも通りで、極自然の動き。

けれど片翼を失った彼女からしてみれば、それは〝裏切り〟に等しかった。

 

―――パンッ

 

響き渡る機械音の中で放たれたそれは、2人以外の耳には入らない乾いた音。

驚きのあまり頬を抑えて見開く狼と、その目に怒りを灯す剣。確かな闘志に気づいた狼は、すぐに翼を睨み返した。

今の翼は風鳴翼ではない―――そう感じ取ったのだろう。

 

 

「…………私には、自身のことを話す価値すら無いと……?」

 

 

大切な人を守れなかった防人。そんな自分では怪我の1つも明かしてくれないのかと、悲しみに満ちていた。

それを知ってか知らぬか、確かめるように狼は静かに尋ねた。

 

 

「……では逆に、お前は俺の全てを知るほどの『力』があるというのか」

 

 

他人(ヒト)の全てを知る力。

それがなんなのかなど、知る筈もない。

あえて答え無き問を出したのだろう。

 

 

「…………貴方の稽古を受けて10年余りの時が過ぎました。異変に気付けないとでも思っていましたか」

 

「それは力とは別のモノだ。経験による観察眼というのは個人感情が介入しやすい」

 

 

答えなどないことがわかっていた狼は、すぐに言葉を返した。

その答えは違う、教えられないと。

 

 

「なら……その右手から出ているものを説明してください」

 

「断る」

 

「力が無いから……ですか?」

 

「ああ。お前は確かに防人ではあるが、まだ成りたてのヒヨっ子だ。子供(ガキ)が大人の心配など笑わせる」

 

 

  一触即発

まさにその名の通り。どちらかが動けば必ず相対するであろう空気。

しかし銀狼は突っぱねるようにしながらも、内心は穏やかではなかった。キツく握られ血の滴る左拳がモノを言っている。

 

 

「……先刻の行為は俺の不注意によるものとしておく。だが次は敵対行動とみなす、覚悟しておけ」

 

 

銀狼はポケットに右手を突っ込んだままどこかへ行ってしまい、わからず終いの翼は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

他人の事を知る『力』―――知ることの許される『力』とは、なんなのか。それすらも理解出来ない者に教える価値など無い………………翼はそう捉えてしまった。

 

 

「十余年も修行を積んできたというのに、私に何が足りないというのですか……師範代……!」

 

 

ヒトを知る力とはなにか、そんなものは存在しない。

 

 

『あの、あったかいもの、どうぞ』

 

『ああ、あったかいものどうも……』

 

「っ…………」

 

 

 

 

―――しばらく考えていた翼だが、遂には答えが出なかった―――

 

 

 

 

 

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「今日も一日、ご苦労様……」

 

「なに、昔の職場に比べれば楽なものさ」

 

 

リディアン音楽院事務室。職員室などのある中央塔に作られている一室で、俺は今朝の翁と茶を飲んでいた。

生徒たちが帰寮し、門限も過ぎたこの時間、俺たち警備員には一時の休息が訪れる。といっても、本来は業務の引き継ぎのための時間であり、決して休み時間ではない。あとサボりでもない。

 

 

「今日の分の物資搬入は終わっていますから、なにか来たら確認してください」

 

「心得た。夜間外出に出た者は」

 

「いませんねぇ……。健康的でいいことですよ」

 

「まあな」

 

 

ゆっくりとした口調で話す翁は、常に微笑を絶やさない。逆にそれが、俺の心情を見透かされているようで気持ちの悪い部分もあるが……これは慣れるしか無いだろう。

 

 

「それににしても……夜は冷えますねぇ」

 

「仕方あるまい。気温の変化など自然の事だ」

 

「なんですけどねー……」

 

「―――ん、こいつはお揃いで。お疲れ様」

 

 

制服を着た男が部屋に入ってくると、そそくさと椅子に座った。

室外警邏に行ってきたようだな。少々強ばっている。

 

 

「寒かったでしょう。はい、温かいものどうぞ」

 

「はは、こいつはありがたい。温かいものどーも」

 

「……そうだ、確か家に茶が余っていた気がするな。今度持ってこよう」

 

 

茶を渡している姿をみて、ふと思いだした。

 

 

「いいねぇ、俺も紅茶があるから持ってこようか」

 

「では、お茶会でもどうですかね」

 

「日程は任せる」

 

「では、明日にでも?」

 

「じゃあここで」

 

「心得た」

 

 

3人で茶を啜り、ほうっ……と息をつく。

…………俺だけ眼帯で長髪だがな。どう考えても場違いだ。周りはザ・日本人のような見た目だというのに……。

 

 

「……今日は、夜のお仕事は無しで?」

 

「さあな。必要ならば出るのみだ」

 

 

夜の仕事―――そう称されるのは、俺が行なっているノイズ討伐だ。

こいつらは俺が何をしているのかを知っているし、俺が戦っていることに関してなんら疑問を抱いている様子もない。

ま、それはそれでいいのだがな。

 

 

「我々にも、護身用の武器くらいは頂きたいものですがね」

 

「できるのならそうしたいが……お前らでは耐えられんだろう。あの反動に」

 

「ですよねぇ……」

 

 

俺の創りだした特殊音響弾(A・N・A)は同口径弾の5倍から10倍、下手をすればそれ以上の反動を持つ銃弾だ。

口径にもよるが、ノイズに対する威力は保証できる。

だが…………それを普通の人間が使うというのは、あまりにも自殺行為だ。9ミリパラベラム弾ならばともかくとして、確実な威力が期待できる44マグナムとなるとその反動は凄まじい。

 

 

「アンチ・ノイズ・アモニション……。ノイズに対して唯一有効な実弾兵器であり、その運用は非常に厳しいものである……。それが、一般的な認識ですよね……」

 

「……ああ。あまりにも反動が強過ぎるが故に、設置できる場所・運用できるモノは限られている」

 

「例え走行車両に設置したとしても、十数発の連射で横転してしまうほどの強烈な反動。地面へ直接固定するには5メートル以上の杭を打たねばならない……」

 

「恐ろしい兵器ですな……。いつから……こんな世界に」

 

「……すまんな、翁。俺がもう少し有能ならば……こうはならんだろう」

 

 

シンフォギアに変わる兵器を生み出した。それはもう昔のことだ。

だがそれはシンフォギアを使うことよりも厳しい制限がつき、現在扱えるのは俺1人。その反動は強烈過ぎるが故に運用できる銃も改造が必要で、尚且つ弾の製造法は明かしていない。

コストはかかるものの、実用的な兵器であることに変りはない。シンフォギアのように近接戦闘が主ではないからな。例え2キロオーバーでも狙い撃てる。

早期対処が可能だが……しかし……。

 

 

「人間ではノイズに勝てない……知っての通りですから」

 

「ま、いざって時に俺達を守ってくれよ」

 

「……差別はできん。俺はただノイズを駆逐するのみ……そこにお前らがいるかどうかなど、関係のない話だ」

 

「厳しいねぇ」

 

「公平なんですよ……きっと」

 

「……………………等しく平等に、無下にしているだけだ」

 

 

空になった湯のみを盆に戻し、立ち上がって部屋を出る。

校舎内の見回りと寮の確認、あとは本部へ行って定時ミーティングか。響が来るだろうから、監視カメラの細工と情報消去……それに……。

 

 

「…………小日向・未来……。奴にも、気取られないようにせねばな……」

 

 

ピアノ奏者、小日向・未来。響のルームメイトだ。

……何度か、その身体能力には驚いたがな。

 

 

「はぁ……、無駄な戦火が増えるのは好まんが……いたしかたあるまいか。―――闇の底で開いて、君の心受け止めて……♪」

 

 

つい口ずさむ歌。俺があいつに教わった、闇の歌。

人の心を失った人形が、人のために戦い続け、やがて人の手で心を取り戻す歌。

その創られた温もりに共鳴した世界が瘴気を振り払い、争いなき光の世界へ解放されていく……理想の夢。

破壊しかできない俺の歌とは違い………………表に出るべきの、明るい歌だった。

 

 

「解き放て 内なる(ひかり)……終わりを知らぬ永久(とわ)の光を―――」

 

 

闇に生まれ、闇に屠られる俺の存在。

光と無縁だった筈の俺は……今こうして、表舞台に立ってしまった。こうなったからには破壊の限りを尽くし……再び闇に戻るしか無い。

破壊者とは、いつまでたっても悪だ。義にはなれない。

 

 

「己ト云ウ闇広メ、世ノ先ヘ……。その先に如何なるモノ憚ろうとも、我が道を駆け抜ける……」

 

 

―――……ッ。

ふと立ち止まった。

フラッシュライトを持つ右手から、先日と同じ黒い瘴気が溢れていた。この前は家に戻ってから4時間掛かりで抑えこんだというのに……再び出るか、この力は……。

……大丈夫だ。まだ形を成していない。ただ漏れているだけだ……これなら問題はない。

 

 

「抑えられていない……わけではなさそうだな。だが…………」

 

 

強大な力ほど、その制御は不可能に近く……また暴走もしやすい。俺が今回得た力は……授けられた力は、かつての膨大な魔力と同じように……また仲間を……。

俺はもう…………失いたくない。失いたくなど……ないのに……。

 

 

「夜響き、闇の縁。内なる焔を穿初の矛先へ―――」

 

 

ヴーッ、ヴーッ、ヴーッ……

……携帯? 誰だ、この時間に……。

ポケットに押し込んである武骨な携帯を取り出し、モニタに表示されている番号を見て驚いた。

―――俺の……家にある固定電話だ。誰がいる。何故俺の家の電話が……。俺の家は警備を固くしてある。だというのに……何故……?

 

 

「……………………俺だ」

 

『…………ぁ…………はぁ…………』

 

「…………誰だ。名を名乗れ」

 

 

掠れた声。…………いや、声ですら無い、吐息だ。

誰かが…………何かを―――救いを求めている?

 

 

「現状を報告しろ。まずは名乗れ」

 

『…………んた、はや……か? あた…………だ』

 

 

雑音(ノイズ)

何故か重要な部分を隠すかのように……。

 

 

「…………緊急事項と判断\エネミーライン))。((現場へ急行する(ムービング)

 

 

いつでも声をかけられるよう携帯をつないだままポケットに押し込み、事務室にいる2人に声をかけてから駐車場へ急いだ。

嫌な予感がする。なにか…………大きな決断を迫られているような、考えたくもない嫌な予感だ。2年前の事件と同じような……。

 

 

「クソッ。なにが起きようとしている……」

 

 

アクセルを全開にし、砂塵を巻き上げながら飛び出た。

政府の効力―――2課に所属している権限を使い、前を走る車たちを押しのけて駆け抜ける。間に合ってくれ。俺はもう…………二度と失いたくなど無い。俺の目の前で再び焔が散るなど―――守ると決めた者が散る姿など、絶対にありえてはならない!

各世から授けられた力を行使してでも、俺は戦を……血の雨を止めねばならない。例えそれが私的行為だとしても、俺は戦を停めるために命を使う。

それだけが生きる意味―――使命だ。騎士(デストラクター)として俺に託された唯一の生きる意味。

 

 

「弦十郎、聞こえているか」

 

 

バイクに付けてある通信機を取ると、すぐに返事が返ってきた。

 

 

『丁度いい。たった今ノイズの信号が出た。向かってくれるか』

 

「―――なッ……!? …………場所は、どこだ」

 

『学園のすぐ近くだ。行けるか』

 

「……………………了解した。現場へ急行する」

 

『頼む。翼も向かわせる』

 

「やめろ! 今……あいつを出すな。精神的に不安定すぎる」

 

 

ガングニール。

あの名が出た時、俺でさえ揺らいだ。だというのに翼が安定しているわけがない。

俺以上に思い入れのある名であり、それだけ大事な存在だったはずだ。

 

 

「出すのなら足止めだけにしてくれ……俺がやる」

 

『…………了解だ』

 

 

モニタに地図が表示されたと同時にブレーキをかけ、アクセルターンで道路を外れる。サイドカーを分離させ、フルスロットルで砂塵を巻き上げた。こういう時のために電子ロックにしておいてよかった。

サイドカー(こんなもの)があっては出るはずの速度も出ないからな。

 

 

「世界が再び俺に試練を与えようというのであれば、俺は全戦力を以って駆逐させてもらう。もう二度と―――」

 

 

二度と―――失わないために

 

俺のいた場所からそれほど距離はなかったらしく、ものの数分で現場に到着できた。周りには道路意外なにもない、人気のない通路だ。ここならばM134を使っても被害は少ないだろう。

人型が20に蛙のようなのが30……。そこそこに多いが、この程度ならば問題ない。

 

 

「……………………ヴェフ……ヴァンデーフェン……絶対の十字架(フル・クロス)

 

 

バイクから降りると同時に、右手にDESERT EAGLE 14inchが収まる。右目の眼帯を外し、左手に斬馬刀を持てば―――準備完了だ。

あとはノイズをこちらの世界に引き出すのみ。これはシンフォギア無しでは本来不可能だが…………俺はもう、それを覆すことに成功した。

 

 

A・N(アンド)インパクト開放ッ」

 

 

宣言すると共に右目から衝撃が走り、ノイズたちの色がより一層濃くなった。

これはシンフォギアシステムが発動した際に発生する、ノイズを物理法則下に固定する周波を擬似的に再現したものだ。本物より効力は落ちるが、実用性は非常に高い。

 

 

「焔となりて消えろ……塵芥ッ!」

 

 

ガガガガゥンッ!

放たれた4発の弾丸は目標を貫いたが―――駄目だ。DESERT EAGLEでは連射力に乏しい。これでは面制圧に欠ける。

武器を切り替えるためにもたついていると、ノイズは一斉に色を変えて融合していた。巨大な蛙のような…………一言言うならば、兎に角気持ちの悪いノイズだ。特に歯が剥き出しなあたりとか。

 

 

「――――――ぉぉぉおおおおお!!」

 

「なっ……馬鹿か!?」

 

 

どこからかオレンジ色の馬鹿が飛んでくると、巨大な蛙に飛び蹴りを入れてひるませていた。馬鹿だ、あいつは馬鹿だ、着地を考えていない。あれでは足元をすくわれるぞ!

蛙の背ビレのようなものを全て撃ち落とすと同時に蒼い斬撃が蛙を切り裂いた。あれは……翼の技だ。すぐにわかる。

 

 

「師範代!」

 

「…………翼……」

 

「あの力は、一体……?」

 

「……見ていたのか」

 

「…………あれは、シンフォギアの波動では」

 

 

…………最初から見られていた、か。

 

 

「ああ。あれはシンフォギアの発するインパクトだ」

 

「―――翼さー……先生!?」

 

「…………お前か」

 

 

翼は馬鹿の姿を見るなり、そっぽを向いてしまった。

なんだ、確かに気に食わんやつだが……一応は味方だ。挨拶ぐらいはしろ。

 

 

「あのっ、私今はまだ足手まといかもしれないけど……一生懸命がんばります! だから、私と一緒に戦ってください!」

 

 

…………こいつも、所詮は人間か。

力を手に入れた途端、自分が人より上にいると思い上がる。でなければこのような発言はできない。

 

 

「―――そうね。貴女と私…………戦いましょうか」

 

「……ふぇ……?」

 

「……翼?」

 

 

瘴気でできた武器をしまっていると、翼は天羽々斬の切っ先を馬鹿に向けていた。

……どういうことだ。武器を向ける理由がわからん。これでは止めるべきかどうかも判断できんぞ……。

 

 

「……翼、なにをしている」

 

「私は防人としてこの身を鍛えてきました。ですが、私は―――風鳴翼がこの娘を受け付けられるはずがありません」

 

「ッ……。だがこいつもシンフォギア装者だ。認めざるをえまい」

 

「常在戦場の覚悟も持たない者を、どうやって認めろと言うのですか」

 

「理由など無い。こいつは貴重な戦力になりうる」

 

 

奏のシンフォギア。

ガングニールとは、翼の中ではこの認識しかないのだろう。

覚悟を持たずに遊び半分で戦場に出てきたこいつに、複雑な思いを抱いているのはわかる。だがそれだからと言って、簡単に仲間割れをさせるわけにもいかん。

 

 

「…………試させて頂きます、その娘を」

 

「なに……? 翼、それはどういう―――」

 

 

俺の言葉も聞かずに翼は跳躍し、剣を構えていた。

―――あれは……マズい。―――【天ノ逆鱗】―――それを、馬鹿に向けてやろうとしていた。駄目だ、迎撃は間に合わない。あの武器は……あの瘴気を造形する武装は、展開・格納共に時間がかかる。

どうする。この馬鹿は防げるような術を持っていない。無理矢理にでも展開するしか!

 

 

「―――ハァッ!」

 

 

右手から溢れていた瘴気が形成し終わる前に振り抜くと、剣の形をした何かが天ノ逆鱗を相殺させていた。

重い一撃だ、これほどまでに……翼は成長していたのか。だが……なァッ!

 

 

「ッ……せいッ!!」

 

 

勢いを殺したと同時に力で抑えこむと、変形したアームドギアは元に戻り翼は宙に放り出された。

それでも失われなかった衝撃が地を襲い、数メートル先までアスファルトを剥がしてしまう。どこかの水道管もやられたのか、噴水のように水が噴き出していた。……クソ。俺がついていながらも被害を拡大させてしまうとはな……。

 

 

「…………翼、なにを錯乱している。こいつが装者であることに変わりは…………む、お前泣いて―――」

 

 

水でよくわからないが、いつもと空気が違うことだけはわかった。

 

 

「―――泣いてなんかいませんっ。涙なんて、流していません……」

 

「……だが……」

 

「風鳴翼は、その身を(ツルギ)と鍛えた戦士です。だから…………」

 

 

見ていられん。

今までの状況をモニタで見ていたであろう弦十郎が走ってきたので、地べたに座り込んでいる翼を任せることにした。

剣のない空いた左手で翼の頭を撫で、頬から伝う涙を見えないようにした。

 

 

「……銀狼、その剣は何だ」

 

「む…………。これは……」

 

 

無我夢中で振り抜いた剣。

本来ならば形成に数秒かかるはずだが……なんだ? これは。見覚えのある形だが……。

 

 

「何故お前が翼のアームドギアを構えているッ」

 

「………………」

 

「答えろ……銀狼」

 

「………………」

 

 

弦十郎の言っていることは正しかった。

本来アームドギアとは、同じ聖遺物を使ったとしても形の変わるものだ。だが、俺が今右手で持っているツルギは色こそ違えど翼が使う天羽々斬そのものだ。

瘴気で創られたのが明白であるかのように、その刀身は黒く靄を出している。

 

 

「…………後で説明しよう。俺ですら……理解できていないことがある」

 

「絶対だぞ」

 

「……ああ」

 

 

ツルギは形を崩し、瘴気となって右腕に吸い込まれていった。

俺でも理解できていないことを……どう説明しろというのだかな。まったく。

 

 

「あのっ……。私、自分が全然ダメダメなのはわかっています。だから、これから一生懸命頑張って―――」

 

 

小走りで馬鹿がやってきたかと思うと、俺ですら耳を疑うようなことを発していた。

よもや馬鹿でも言うまいと思っていたが―――このクズは……!

 

 

「―――頑張って、奏さんの代わりに(・・・・・・・・)なって見せます!」

 

「……? ―――ッ!!」

 

 

今の言葉が引き金になったのだろう。

翼は反射するように弦十郎を振りほどき、ふらつきながらもその目に闘志を宿していた。

 

ガゥンッ!

 

 

「……………………ぇっ…………」

 

「…………翼、お前の心中は察する。俺も同じだ(・・・・・)

 

 

俺は気がつけば、この馬鹿の向かって発砲していた。

足を掛け、倒した直後に頭の横へ。……這い上がるな、向かってくるなという……威嚇射撃だ。

 

 

「弦十郎、翼を」

 

「……間違っても、問題を起こすなよ」

 

「…………ああ」

 

 

弦十郎は翼を抱きかかえ、静かに本部への帰路に移った。

かくいう俺は実弾を装填したDESERT EAGLEの銃口を馬鹿に向け、雨のように降り注ぐ水を浴び続けている。

 

 

「あ、あの…………先生? それは……あの……」

 

「………………確か…………お前は、立花響……だったか」

 

 

俺とて一応は教職員。生徒の名は見たことがある。

 

 

「お前は今……なんと言った」

 

「……えっ? で、ですから、奏さんの代わりに―――」

 

 

ガゥンッ!

 

 

「ひゃうっ!?」

 

「…………笑わせるな。貴様が天羽奏の代わりだと? 反吐が出る……ッ。貴様ごときにあいつの代わりが―――貴様ごときが奴の代わりになどなるものか!」

 

「確かに、私はまだ未熟だし、戦い方だってしりません……。けどっ」

 

「未熟云々を言っているのではない!」

 

 

自分でも興奮しているのがわかる。

落ち着こうとしても、自分の中のなにかがそれを許さないのだ。

 

 

「あいつは―――奏は、誰かがそう簡単に成り代われるものだとでも思っているのか! あいつは……血塗られた俺に……!」

 

 

なにを言いたいのかもわからない。

何を言えばいいのか、考えても答えがみつからない。思考もうまく回らない。どこから話せばいいのかもわからない。

頭の中が何者かに掻き乱されるような、今まで味わったことのない嘔吐感がこみ上げてくる。

 

 

「……クソッ! 警告だ、立花響。二度と……二度と貴様はあいつの名を出すな。次は外す自信がない……いいな」

 

「ぁ………………はい……」

 

 

DESERT EAGLEを後腰のホルスターに収め、やり場のない思いにいらつきながらもバイクに跨った。

俺は何を口走っていた……。今まで千年以上の時を過ごしてきたが、なんだこの思いは……。理解……できん……!

 

 

「クソッ……クソ! 落ち着け、銃騎士・銀狼! お前はなんだ、世界を守るための狼だろう。心を持つな、意思を断ち切れ、悪意を撃ち壊せ、戦火の火種となる全ての歪みを消し去れ、銃騎士……!」

 

 

世界は俺に結果を伝えるばかりで、なにも教えちゃくれない。

ただただ、いつものように『救え』と一言しか口にしない。

誰が生き、誰が死に、誰が報われるのかなど、何一つ教えてはくれない。

やり方も戦いも全て俺に放棄して、自分はただのうのうと待っているだけ。

全てを俺に押し付けて……受身の姿勢ばかりを撮り続けやがって……!

 

 

「いつまでも俺が大人しくしていると思うなよ……!」

 

 

俺はこの世界に来るまでに、数多のモノを失った。

それは俺を支えていた能力だけではない。欠けてはいけない何かも、失いたくなど無かったモノも、全てを失った。

だからこそ……俺は解き放たれる。新たな力を―――守るためだけの力を得るために、俺は変わってみせる。

 

 

 

 

 

  絶対の十字架(フル・クロス)

 

世界を殺す猛毒(エクリプス)の代わりに得た、何者をも救わぬ聖域(ダート・クロス)

俺の矛となり盾となる、攻防一体の怪力だ。だが…………―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  《解き放て、狼よ。全を司る終わりの地(エデン)の檻を》

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

作者 「どうも初めまして、作者です」

銀狼 「……俺だ」

作者 「今回は改ページ機能とやらを乱用してみました。その結果あとがきを最後のページに書くしか無い事に気づいた私です」

銀狼 「まったく……。ああそれと、現在悩んでいることが作者にあるそうだ」

作者 「はいまあ。別サイトのほうで読んで頂いてる方々は知っているかもしれませんが、私はご感想のお返事をあとがきでやらせていただいていました。

 そしてなんですが、こちらでも同じようにあとがきでやるのか、それとも元々ある『お返事ボート』とやらでやるかを悩んでいます」

銀狼 「もしも希望があれば教えてくれ」

作者 「では、ご感想お待ちしてまーす」


 
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