No.399344

真説・恋姫†演義 仲帝記 幕間の五 「嫌よ好きよも心の内、のこと」

狭乃 狼さん

仲帝記、幕間の五です。

今回は陳蘭こと千州と、諸葛玄こと秋水、
この二人がメインのお話です。

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2012-03-28 21:19:14 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:7783   閲覧ユーザー数:6458

 人付き合いに関する良し悪し。

 

 それはおそらく、ほとんどの人間に、必ずあるものだと思われる。

 

 好き、嫌い、興味ない。

 

 極論を言えば、多くの者はこの何れかの感情を、他人と関る事でその心に持つようになる筈である。

 

 今回はその他人対する接触手段と、その後の対応というものについて、とある二人の人物に焦点を当てて見て行きたい。

 

 諸葛玄こと秋水。

 

 陳蘭こと千州。

 

 舞台の始まりは汝南の城の一角にある、煉瓦造りのその建物から。

 

 では、外史の様子を覗くとしましょう……。

 

 

 

 「幕間の五・嫌よ好きよも心の内、のこと」

 

 

 袁術の現在の居城である汝南の城の敷地内には、母屋と言うべき城の中心的な建物以外に、もう一つ、とても衆人の耳目を惹き付ける外観をした、離れのような建物がある。

 焼成煉瓦、いわゆる赤煉瓦造りのその建物は、広さはおよそ五十畳、高さは屋根の上に付いている煙突も含めると、約6間、およそ10メートル辺りで、汝南の城よりも少し低い程度、といった所である。

 煙突からはほとんど途切れる事無く白い煙が中天へと上がり続け、日中の晴れた日であればかなり遠目からでもそれを確認する事が出来る。とはいえ、さすがに夜はこの建物の主も眠りに着いているか、例え起きていたとしても、安全性の面を考慮して火を使わない様にしているため、精々遅くても夕刻までぐらいしか、煙を確認する事はないが。

 

 「で、だ。これをこうして固定して、取っ手の着いたこの蓋をしてしっかりと閉める。後は、この取っ手を思いっきり、暫く回してやると……っ」

 「……お、おお?」

 

 赤煉瓦のその建物の前で、なにやらドラム缶を連想させる形をした、金属製の円筒形の箱の前に、袁術と張勲、そして陳蘭と雷薄の四人が集まって居た。

 その円筒形の箱、実は中に暫く前に南陽に建設された、袁家直営の養蜂場から送られて来たばかりの、板状をした蜂の巣が入っている。そして、その箱の上に付いた取っ手を陳蘭が少しの間回し続けると、その箱の下部に取り付けられた細い口の部分から、見事なまでの黄金色に輝く、絞りたての蜂蜜が潤沢に流れ出始めた。

 

 「見よ七乃!こっちの小さい所から、どんどん蜂蜜が出てくるのじゃ!」

 「ほえ~。すっごいものですねえ。えっと、『遠心分離機』……でしたっけ?なかなかやるものですねー、千州さんも」

 「流石は千ちゃんですね~。一刀さんから~、お話を聞いただけで~、こんなに簡単に~、同じものを~、再現するんですから~。ほんと~に~、器用ですよね~。にゅふふふ~」

 「……まあ、なんだ。その、そんなに、難しい物でもなかったしよ。……まあ、さんきゅ」

 

 箱から流れ出る蜂蜜を、目を輝かせながら見つめる袁術と、その袁術の傍で感嘆の声を挙げ、陳蘭の発明に珍しく素直に感心している張勲を横目に、蜂蜜をある程度絞り終わり、額の汗を拭いながら水を口に含む陳蘭の横へと寄って来た雷薄が、彼のことをいつもののんびり口調で手放しに褒める。

 雷薄からそうして褒められた陳蘭は、自分の顔を見つめる彼女のその茶色がかった瞳から、さりげなく視線を外して顔を濡れ手拭いで拭きながら、一言、照れ隠しじみた返事だけを返した。

 

 「はてはて~?さんきゅ、ですか?……どう~いう~意味でしょ~?」

 「あ、ああ。悪ぃ。……ありがとう、っていう、天の国の言葉なんだとさ。一刀の奴から前に聞いててよ。なんとなく語呂が良かったもんだから、何時の間にか普通に使うようになっちまってて、うっかりしていたぜ」

 「ほほ~。一刀さんからですか~。相変わらず~、仲良いですね~、お二人~。にゅふふふ~」

 「……なんだよ、その妙に意味ありげな笑いは」

 「いえいえ~。特に意味は無いですよ~」

 

 どうぞお気になさらず~、と。陳蘭の訝しげな視線を惚けて誤魔化すと、雷薄はさも今思い出したかのように、話を無理矢理別のものへと変える。

 

 「ところで千ちゃん~?この後~、一緒にお買い物に~、付き合ってくれるんですよね~?」

 「ああ、そういやそんな約束していたっけか。じゃあ、お嬢に七乃?その遠心分離機、後で棗の姐さんに渡しておいてくれよな?量産する為の資金繰りとかの段取り、つけて貰わないといけないからよ」

 「うむ。分かっておるのじゃ。ぬふふ~、これが沢山造れる様になれば、今までよりも沢山、その上安く、蜂蜜を口に出来るようになるのじゃ。うー。今から楽しみじゃ~。のう、七乃?」

 「ですね~。けどお嬢様?嬉しいからと言って、食べ過ぎちゃあ駄目ですよ?ぽんぽん壊しちゃいますからねえ~?あーでも、それで病床に臥したりでもすれば、一刀さんに付きっ切りで看病、してもらっちゃたりするかもですね~」

 「な、なんでそこで一刀の名前が出てくるのじゃ?!いや、それは確かにそうなったら嬉…ではなくなじゃな!だからその……!」

 

 突然出てきた一刀の名前と、付きっ切りで看病、と言う言葉でそこから何を連想したのか、真っ赤になった状態で早口のまま、一人で勝手に言い訳を始める主君のその慌てっぷりを見ながら、張勲はいつもの如く、恍惚とした表情で息を荒くする。

 そんな毎度のやり取りを呆れた視線で眺めつつ、陳蘭と雷薄は街へと出るために、その場を立ち去るのであった。

 

 

 

 「しっかしお嬢と七乃も変わらねえよなあ。よくまあ毎度飽きもせず、似たようなネタで似たような事がつづくもんだ」

 「ですね~。でもまあ~、七乃ちゃんの~場合は~、前より少し~、変わって来て~、居るんですよ~?千ちゃんには~、それが何か~、分かりますか~?」

 

 汝南の街の南側の大通り、数多の商店が軒を連ねるその前を、行き交う大勢の人々に混じって歩きながら、先ほどの袁術と張勲のやり取りを会話に、ゆっくりと歩いていく。

 袁術がこの汝南を治めるようになって以降、この汝南の街も宛県の街と同様に、東西南の三本の大通りを基点とした造りへと改築された。

 その区分けは主に、東の通りには鍛冶屋などの技術系の店が集まる職人街、西の通りには宿や酒場などの憩いの場が集まる歓楽街、そして二人が今歩くこの南の通りには、食事処や雑貨等を扱う店を中心とした店が並ぶ商店街、と言う風になっている。

 もちろん、大通りやそこから延びる小路などの格辻には、宛県でもその効果を遺憾なく発揮した交番が各所に設置されており、街中の治安維持に大きく貢献している。

 

 「七乃の変わったところ、ねえ?……俺からしてみたら、特に代わり映えはしていない様な気がするが?」

 「あらら~、千ちゃんてば~、以外に節穴さんな目を~、しているんですね~」

 「……悪かったな、節穴な目で。で?アイツの何処が、前と変わったってんだ?」

 「ん~、一言で言えば~、毒をあんまり~、吐かなくなった~、そんな感じですか~」

 「……そうかあ?」

 

 張勲は何気に、その言葉の端々に毒と言うか、相手をからかう言葉を時折含ませ、その反応や出方を見て、会話相手の力量をそれで測っている事が往々にしてある。

 彼女のそういった毒に対し、気がつかない者はその価値無しと見て全く歯牙にもかけず、気がついたとしても何も反論してこない者は、先のそれとほぼ同等の扱いに彼女の中ではなる。

 では、気が付いた上で何かしら反論をする者が居た場合はと言うと、その人物が自分と袁術の敵にさえならなければ、結構高い信用度合いでもって接し、時には助力まで請うこともあるほど、重要な人物として位置づけるようである。 

 もっとも、ほぼ普通の精神をした人間は、彼女のその毒に途中で辟易してしまい、まず自分から接触しようとする事が無くなりはするものだったりするが。 

 

 「今の七乃ちゃんは~、例え嫌いな人が相手でも~、美羽様さえ辱めなければ~、かな~~~~~~~り、やわらか~い言葉で~、接する様に~、なってますよ~」

 「……ちなみにさ。それ、前が十だったとしたら、今はいくつ位に減ってる?」

 「ん~、そうですね~。……八ぐらい?」

 「……ほとんど一緒じゃねえかよ……ん?あれって……」

 

 雷薄のその返事に呆れかえった陳蘭が、ふとその視線を正面へと向けると、そこに一人の男性が、左右に女性を侍らせながら闊歩して来る所が目に留まった。

 

 「……あれって、秋水さんじゃないか?」

 「あ~、ほんとですね~。女性ものの羽織をはおって~、街の中を~、あれだけ堂々と~、歩けるのは~、秋水さんぐらいですし~」

 「……まーた、あの人は……今度は何処で軟派なんかして来たんだか……」

 

 徐々に縮まってくるその人物、普段の着崩し気味の衣装の上に、何故か女性用の大きな羽織を、まるでマントの様に靡かせて居る諸葛玄と、陳蘭は大きく嘆息しながらの呆れ顔、雷薄はいつものほんわか空気を纏った笑顔という、そんな対照的な表情をして出くわしたのだった。

 

 

 「おや。これはこれは千州くんに美紗ちゃん。お二人揃って通りを練り歩くなんて、もしかして、逢引の最中ですか?」

 「……な、なに馬鹿なこと言ってんですか!お、俺が美紗と逢引だなんて、そんなこと」

 「そですね~。どちらかと言うと~、出来の悪い弟に~、お姉ちゃんの~、荷物持ちをさせてあげている~、と言うところでしょうかね~」

 「……」

 

 諸葛玄のからかい文句に狼狽する陳蘭の横で、ピクリとも眉一つ動かす事無くそう言ってのける雷薄のその態度に、陳蘭は色々と複雑な心境になってその眉をひそめる。

 

 「ほほう。ただの買い物、ですか。……残念ですねえ、千州くん?まあ、何がとは言いませんが」

 「……秋水さん……」

 「おお、怖い怖い」

 「ところで~、秋水さんは~、また~、例のご病気ですか~?」

 「……病気とは酷いですねえ。僕はただ、一期一会を大事にしている。それだけですよ?」

 

 両手に華状態の諸葛玄のことを、いともあっさりストレートに、笑顔を崩さないまま揶揄して見せた雷薄の言葉に、諸葛玄はさも当然と言った感じで、その両脇にいる二人の女性の肩に回した腕を少しだけ引き寄せながら、全く悪びれる事無く笑って見せる。

 

 「一期一会、ねえ。……そう言って大切にして来た出会いって、これまでに何度ありましたっけ?」

 「千州くん?過去の出会いという物はね?すべからく現在の出会いへと繋がる為の布石、なんですよ」

 「……はいはい、蒸し返すなってことですね……」

 「物分りが良くて助かりますよ」 

 

 実際の所、陳蘭が諸葛玄と知り合って以降、ほとんど毎日と言って良いほどに、諸葛玄はその隣に連れ立っている女性が違っていて、良くこれで後ろから刺されたりしないものだと、陳蘭はほとほと呆れると同時に関心もしていたりしたものである。

 

 「……ところで~、秋水さん~?今日は~、翡翠ちゃんに~、見つからなかったんですか~?」

 「翡翠ですか?ああ、それは大丈夫ですよ。あの娘は今頃、巴ちゃんと一緒に一刀くんに付きっ切りで、軍学のお勉強をしているはずですからね」

 「そ~ですか~。……それじゃあ~、さっきから後ろに居るのは~、私の目の錯覚なんですね~。にゅふふ~」

 「…………え」

 

 くるうり、と。雷薄の台詞を聞いた諸葛玄が、恐る恐ると言った感じでその背後を振り向くと、そこにはなにやら背後に黒いオーラを背負った、彼の姪っ子三姉妹の長女、諸葛瑾がとってもいい笑顔で立っていた。

 

 「や、やあ、翡翠。えと。今日も、可愛らしい……ですねえ……あ、あははは」

 「……」

 「あ、あははははは……。えと、その、か、一刀君の勉強は……もう、終ったんですか?」

 「……ええ。つい先ほど、一刀くんが警邏に出る時間になりましたので、打ち切ってそれを見送ってきた所です、一真伯父様」

 「そ、そうですか。あ、そうそう!僕もこれから仕事に戻らないといけないんでした!じゃあ、そういうことで、千州君、美紗ちゃん、また」

 

 そそくさと、背後から受ける姪のその圧迫感から逃れるかの様に、その場を立ち去ろうとした諸葛玄だったが、その場を動こうとしたその瞬間、諸葛瑾にその肩をがっしりと掴まれてしまった。

 

 「伯父様?確か本日は、伯父様は完全休暇の日、でしたよね?だから、昼間っから女性を侍らせて、お酒の匂いをぷんぷんさせているのではないですか?」

 「……全くもってその通りで」

 「ふふ、思い出して頂けて何より。それじゃあ、ちょっとこれから、私に付き合って下さいませね?……すこ~し、O☆HA☆NA☆SHI☆、が、ありますので。あ、そうそう。一応言っておきますが、伯父様には拒否権も黙秘権もありませんからね?」

 「ちょ、ま、翡翠!別に休みの日に何をしてようと、大人の僕の勝手で、痛たたたっ!分かりました!大人しく自分で歩きますから、耳、耳離してください!千切れちゃいますって!」

 

 ずるずると。姪に耳を引っ張られながら、街の大通りを人ごみに紛れて去って行く諸葛玄。そんな彼に対し、陳蘭と雷薄がもった感想はと言うと。

 

 「……秋水さんも、アレがなければ、渋くて格好良い部類に入るのになあ……」

 「にゅふふ~。さすがの秋水さんも~、姪っ子さんには~、頭が上がらないんですね~」

 

 遠くへと去って行く諸葛玄の、その悲鳴にも似た叫びを聞きながら、その後は何事も無かったかのように、買い物へと戻っていった陳蘭と雷薄の二人であった。

 

 

 

 ちなみに、その後雷薄が陳蘭と行った買い物先は、女性用の衣服専門店と下着専門店だったこと、この場にて追記しておくものである。

 

 「……なんで、男の俺が、女の服やら、し、下着やらを見繕わないといけないんだよ……」

 「まあまあ~、これも~、何かのお勉強だと~」

 「思えるかー!何の拷問だこれはー!ちくしょー!二度と女と買い物なんか行かねーぞー!」

 「とか言いながらも~、やっぱり付き合いの良い~、千ちゃんでありました~。ま~る」

 「……ぬぐ……」

 「にゅふふ~♪」

 

 

 

 

 

 

 幕間の五、了。  

 

 

 

 狼「はい、幕間のその五、お送りしました」

 輝「今回、一刀さんの出番、無かったわね」

 命「じゃな。巴と翡翠にみっちりしごかれておったのかの?」

 

 狼「さて、今回は人付き合い、という物をテーマにしたわけですが」

 輝「でもまあ、そこまで深い話ではなかったわよね」

 命「そうじゃな。まずは表面的な人と人との交わりというか、そんな感じかの?」

 千「……そりゃ良いんだけどよ。なんで、女の買い物ってあんなに長いんだ?」

 狼「お?居たのか千州」

 千「るっせい。ったく、美紗の奴、人をあんなに長い時間、好奇の目に晒しやがって・・・・・!」

 命「じゃが、別に悪い気はしておらんのじゃろ?」

 千「・・・・・・・」

 輝「それに、男が女の買い物に付き合うのは、世の中の当然の義務です。つーわけで、男ならぶつくさ言わないの」

 千「ちぇ」

 

 狼「さて、続いては秋水さんだけど」

 千「女たらしの面がついに公開されたな」

 輝「しかも、姪の翡翠には全く、頭が上がらないと言う、意外性と言うか情けない部分も、ね」

 命「・・・二人とも容赦無いの・・・ところで親父殿?秋水といえば女物の衣を今回は纏っておったが、あれは?」

 狼「キャラ提供者の南華老仙さんから、追加要素は何か無いかと聞いたら帰ってきたのが、実はあれだったりしたわけで」

 千「秋水さんの基になったキャラって、確かブ○ーチの隊長さんの一人だったよな?容姿もそっちがモデルだっけ?」

 狼「そそ。基キャラのあの人もそういうキャラだったもんで、やるならとことんやっちまえ、と」

 輝「・・・・・引っかかったりしないといいけどね」

 

 狼「では、次回の幕間は楽就と周倉こと、樹と椛の話となります」

 輝「まあ、どんな内容になるかは、二人の出自を考えたら、ある程度は予測できると思うけどね」

 命「じゃが、それが出来ても言わぬのが、大人のマナーと言う奴じゃから、先読みのコメントは控えてやってくれな?」

 千「俺の出番は?」

 狼「次回まで秘密♪というわけで、今回はここまで。それではみなさん」

 

 全員『再見~!!』

 

   


 
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