No.397308

高みを目指して 第9話

ユキアンさん

アリス、メイサ、オレはどうしたらいいんだ?
by零樹

2012-03-24 19:42:01 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1975   閲覧ユーザー数:1912

マキシマム、正義、過去

 

 

side 零樹

 

 

ヒーローを始めてからそこそこの時間が経過した。今日までに色々な事件を解決してきたが、こいつは中々強力なネクストだな。身体をダイヤと同じにする能力か。これはマキシマムしか無いな。

 

「二人とも退け、オレがやる」

 

バックルからメモリを取り外しスタートスイッチを押す。

 

<<SKULL!!>>

 

それをベルトのマキシマムスロットに挿入する。

 

<<SKULL!! MAXIMUM DRIVE!!>>

 

同時にオーラを纏う。

だが、それに違和感を感じる。

 

「くっ、なんだこれは」

 

あまりにも膨大なオーラに装甲が軋み始める。

内心で焦りながらもそのまま飛び蹴りを犯人に決める。

その蹴りはダイヤになっていた皮膚を粉々にして犯人を昏倒させる威力があった。

 

「ぐぅ」

 

だが、その反動で変身が解除されてしまう。また全身にダメージが入る。久しぶりの痛みをこらえて帽子を深く被ることで顔を曝すことが無かったのは幸いだ。

 

「大丈夫かスカル」

 

タイガーが駆け寄ってくるがそれよりも先に路地に逃げ込む。そのまま逃げる様に格納庫に転移する。

 

「クソが」

 

格納庫にある休憩用のソファーに倒れこみ悪態を吐く。

 

「大丈夫かい?」

 

「フェイトか、あまり良くないな。久しぶりのまともなダメージに身体が付いてこない。鍛え直す必要がある」

 

「そうか、それよりドライバーとメモリの点検をしにきたんだが」

 

「ああ」

 

ロストドライバーとメモリを投げ渡す。それを受け取るとフェイトはすぐに分解して整備を始める。

 

「なるほど、これは興味深い」

 

「何か分かったのか」

 

「ああ、原因はメモリにある。簡単に言うならメモリの進化かな」

 

「メモリの進化?なぜそんなことが起こる」

 

「分からない。レイトが残していったオリジナルの物は大半が完全に解析することが出来ないからね。推測でもいいなら聞くかい?」

 

「そうしてくれ」

 

「ガイアメモリは地球の記憶を封じ込めた物というのは知っているよね」

 

「ああ、だからこそ宇宙関連のメモリは存在していない。もしかしたら『隕石』位なら存在するかもしれないがな」

 

「ここからが重要なんだけど、もし自動でアップデートが行なわれるとしたらどうだい?」

 

「アップデート?するものなんて、まさか」

 

「そう、僕達のいた世界の地球の記憶とこの世界の地球の記憶が交ざりあって変革しているとするならあり得ると思うんだ」

 

「ということは他のメモリも」

 

「おそらくはね。普通の変身でもギリギリの力を内包している以上、マキシマムには絶対に耐えれない。どうする?」

 

「……ダブルドライバーを作るしか無いか?」

 

「まともにマキシマムを使うなら必要になるだろうね」

 

「分かった。造ってくれ。当分の間はマキシマムを使わない様にしてスカルを使い続ける」

 

「了解。ただし時間がそれなりにかかるよ。何せ設計図が中途半端にしか残っていないんだから」

 

「分かってるさ。だが、これからも使っていてアップデートが行なわれて使用出来なくなるのは問題だ。ドライバーの改修の為のデータが取れるなら時間をかける必要はある」

 

「そうだね。なら優先的にダブルドライバーの製作に入ろう」

 

「頼む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヒーロー諸君、私の声が聞こえるか。君たちの語る正義は実に脆い。救うことも裁くことも出来ない。哀れなヒーロー達よ、まだ己の愚かさに気付かないというのか。そんな諸君らに本当の正義を教えてあげようじゃないか』

 

うざいな、こいつは。

本当の正義だと?

そんな物は在りはしない。

それが在るのは空想の中だけだ。

 

「正義、正義うるせえんだよ。この道化師が。オレたちは誰かを救いたいと思ってやっているだけだ。そもそも本当の正義が在るというのなら今すぐ全人類を救ってみろ。善人だろうと悪人だろうと全てを」

 

ボウガンから放たれる炎をスカルマグナムで撃ち落としながら追い続ける。

 

『私の名はルナティック。私は私の正義で動く』

 

「ならその正義は本当の正義じゃねえ。ただのエゴだ」

 

体術に持ち込もうとするとすぐに距離を離そうとすることから接近戦は苦手なようだ。ならば接近戦だ。

スパイダーショックを腕に巻き付け引き寄せる。

焼き切ろうとしているようだがオリハルコン製のワイヤーを切るのは不可能だろう。

 

「そして、そのエゴを貫き通した奴が正義を名乗れる。正義が勝つんじゃない勝った奴が正義だ」

 

ベルトからメモリを引き抜きスカルマグナムのマキシマムスロットに挿入する

 

<<SKULL!! MAXIMUM DRIVE!!>>

 

自分をも巻き込んだ上でスカルパニッシャーを叩き込む。

お互いに吹き飛ばされるもスパイダーショックによって一定以上の距離が開くことは無かった。帽子は飛んでいってがな。

スカルパニッシャーによってルナティックのスーツの大半は吹き飛んでいた。そこから覗く顔をオレは知っている。

 

 

ユーリ・ペトロフ

 

 

シュテルンビルト司法局のヒーロー管理官兼裁判官の男だ。数少ないオレの顔を知る男だ。彼がなぜこんなことをしでかしたのかは分からない。

それは置いておき、マキシマムに耐え切れずにスパークしているスカルマグナムを投げ捨てる。地面に落ちると同時に爆発を起こす。これで父さんと母さんが残した物が一つずつ無くなった。

 

「とりあえず殺人の罪で逮捕させてもらうぞ」

 

「断る。言ったはずだ、私は私の正義で動く」

 

「それが犯人を殺すということか」

 

「誤解だ。それはあくまでも凶悪犯に限る」

 

「どっちにしたって同じだろうが。シュテルンビルトでは死刑という罰無い。あるのは殺人という罪のみ」

 

投影を使ってメタルシャフトらしき物を造って構える。

 

「さあ、お前の罪を数えろ」

 

八つ当たりの気持ちも込めてメタルシャフトを叩き付ける。青い炎を出して反撃してくるが全部無視して殴り続ける。もちろん殺さない様に注意はしている。

途中でバーナビー達が追い付き、無事にルナティックの確保に成功した。

 

 

 

それから数日間帽子の行方を探し続けた。もちろん姉さん達にも手伝ってもらって。無事に発見した後スカルマグナムを破壊したことに対して折檻を受けることにもなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、この子は何なんだ」

 

「市長のお子さんだとよ。公務で街を離れる市長夫妻が預けて行ったんだよ」

 

「何故タイガーが?」

 

「言ってなかったか?これでも9歳になる娘がいるんだよ」

 

「……娘か」

 

「どうしたんだ」

 

「タイガー、お前はヒーローを止めるべきだ。少なくともその子が大きくなるまでは」

 

「おい、いきなり何を言い出すんだ」

 

「この仕事をやっている以上、生活が不規則になる。しかも今まで娘がいるなんて聞いたことが無い。ということは誰かに預けているな」

 

「ああ、実家に預けてる」

 

「正体は?」

 

「母ちゃんと兄貴には話してるけど楓には、な」

 

「それで自分の娘に寂しい思いをさせておいて、赤の他人を救うだと。巫山戯るな」

 

思わず怒鳴ってしまい、その声で市長のお子さんが泣き始める。

 

「すまんな。ほれ、良い子だから泣き止みな」

 

誰よりも早く赤ん坊を抱いて泣き止ませる。

泣き止むと今度はオレの帽子が気になるのか手を伸ばしてくる。さすがにこれを渡すわけにはいかないのでカバンから取り出す様に投影を使い、同じ帽子を渡してやる。

 

「オレはな、タイガー。昔、妻と娘を目の前で失っている」

 

その言葉に場の雰囲気が一気に暗くなる。

 

「しかも、娘とは血は繋がっていなかったせいもあって十分に愛してやれなかった。オレが娘とちゃんと向き合い始めたのは死ぬ半年前だ。半年、たった半年だが娘を失ったオレは絶望した。良いのかタイガー?娘を守れなくて、それでも自分はヒーローだと言い切れるのか」

 

「それは、それは……」

 

「……少しは考えてくれ、あの頃の自分みたいな奴は見たくないんだ」

 

市長の子供を傍に居たキッドに託してトレーニングルームから出て行く。

結局の所、タイガーはヒーローを続けることを選んだようだ。それに対してオレは何も言わない。

 

 

 

 

 

 

 

あんな話をしたせいか、この数日の間悪夢に魘される。

アリスが居なくなったあの日と、それから13年後のあの日を繰り返し見続ける。

その光景は見慣れた物で見たくはないが、ここでならオレはアリスとメイサに会える。

その夢もそろそろ終わりが見えてくる。

夢の中でのオレがアリスとアレとの間に割り込もうとしている。そしてアレからリライトに似た光が放たれる。

それを第三者の視線で見ているオレは……何もしていなかった。

どうやってもこの夢に干渉出来ないことは分かっているから。現実が駄目ならせめて夢の中でと何度も夢を操ろうとした。だが、他の夢は操れてもアリスとメイサが出てくる夢だけはどうやっても操作することが出来なかった。

だからオレはただ見ているしか無い。

だが、今日は違った。

突然、大量の鎖が世界を覆い尽くし、どこかに引きずり込まれる。

引きずり込まれた先には世界を旅してから見る様になったあの世界だった。

 

「オレに用があるのか?」

 

何度もここに来ることで声も音も無いが雰囲気で会話が出来る様にはなっていた。

 

「嫌い?何故そう思うんだ」

 

「情けないか、そうかも知れんな。ここ何日もあの夢を見ていると心が折れそうになる。こんな姿をアリスが見たらどう思うだろうな」

 

「怒るか、そうだな。今のオレはあの頃のオレとは全く違うと言ってもいい。あの頃の様な強さを無くして、あの頃の様な弱さを無くして、あの頃の自分を見失って。今のオレは父さんの劣化品の様な存在になってしまった。オレはどうしていたら良かったんだ?」

 

「オレはオレのままでいれば良い?そのせいでアリスとメイサを失ったのにか!!オレのままでは愛する人を守れなかった。ならば守れる人を真似るしかなかったオレを否定するのか」

 

そこで夢から覚める。寝汗でびっしょりとなったジャージが気持ち悪い。シャワーを浴びながら先程の会話を思い出す。

 

「オレは、昔のオレに戻った方が良いのか?あの頃の弱くても輝いていた頃のオレに」

 

その問に答えてくれる者はいない。

 

 

side out

 


 
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