No.394816

IS〈インフィニット・ストラトス〉 転生者は・・・

ISさん

第41話『紅椿』

2012-03-20 01:30:38 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:7108   閲覧ユーザー数:6871

 

 

 合宿二日目。

 

 本日の活動内容と言われれば、ISの各種試験装備運用及びそのデータ取り。

 これを今から夜まで丸一日。もちろん昼休憩などはあるけども。

 ちなみに専用機持ちの皆さんは大変だ。それぞれの所属国家から送られてきた専用パッケージ等、大量の装備のデータ取りをやらなきゃならないからな。

 俺は特にそういうのは無いから、まずはキュリオス・ガスト仕様の大気圏内運用とGNアームズでも使おうかと思ってる。

 後はデュナメスのトルペード……魚雷ってISの空戦でどう使えと? 相手をまず沈めてから追い討ちを掛けろと? ……えげつねぇな。

 他には、エクシアのアヴァランチとヴァーチェのフィジカルが使えるな。アヴァランチの粒子チャージに時間が掛かるのが悩みだけど。

 

 

「ようやく全員集まったか。―――おい、遅刻者」

 

「は、はいっ!」

 

 織斑先生に言われてビクッ、と身を竦ませたのは遅刻と一番無縁そうに見えるラウラ。……寝坊らしいけど何があった?

 

「そうだな、ISのコア・ネットワークについて説明してみろ」

 

「は、はい。ISのコアはそれぞれが相互情報交換のためのデータ通信ネットワークを持っています。これは元々広大な宇宙空間における相互位置情報交換のために設けられたもので、現在はオープン・チャネルとプライベート・チャネルによる操縦者同士の会話など、通信に使われています。それ以外にも『非限定情報共通《シェアリング》』をコア同士が各自に行うことで、さまざまな情報を自己進化の糧として吸収していることが近年の研究でわかりました。これらは製作者の篠ノ乃博士が自己発達の一環として無制限開放を許可したため、現在も進化の途中であり、全容は掴めていないとの事です」

 

 よくこんな長い文章をスラスラ言えるな……流石は現役軍人。

 俺もできるように"なった"んだろうけど、それまでの感覚が抜けない。

 

「流石に優秀だな。遅刻の件はコレで許してやろう。もしわからないなどと言ったら50キロマラソンでもしてもらおうかと思っていたんだがな」

 

 うわ、きっつ。

 良かったなラウラ。お前のほうが知ってるとは思うが、この人はマジで言ってるから洒落にならない。洒落にするつもりが無いんだろうけども。

 

「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え」

 

 はーい、と返事をした一同はてきぱきと動き出す。

 目的がISの運用なのでもちろん全員スク水―――ゴホン、ISスーツ姿だ。

 何かこの後に起きることを忘れている気がするが、まあ仕方が無い。

 それより―――さっきから俺のこめかみあたりに走るノイズみてぇのはなんだ? チリチリとするんだけど……? でもこの感覚、前にどこかであった気がするんだよ。いつだ?

 

 ―――まあ、これだけ考えても出てこないんだから後回しで良いか。さて、俺も始めるかな。

 

 

 

 ――ティエリア。

 

 ――君はこの時間どうするつもりだ?

 

 ――キュリオスガストで宇宙に出ちゃ……駄目だよな。

 

 ――当たり前だ。現時点で単独大気圏離脱、宇宙活動可能なISは存在しないからな、騒ぎになるから止めたほうがいい。

 

 ――んじゃ、大気圏内巡航で。待機(スタンバイ)よろしく。

 

 ――了解した。

 

 

 

 ちなみに今俺たちが居る場所は四方を崖に囲まれた秘密のビーチ、といった感じのところだ。外に出るには、一度海中に潜ってトンネルを抜ける必要がある。どこの映画の世界だっていう突っ込みは禁止だ。

 

 ふと周囲を見渡すと、訓練機組みの生徒がISを運び始めたところだった。

 

「ああ、篠ノ乃。お前はちょっとこっちに来い」

 

「はい」

 

 織斑先生が箒を呼ぶと、箒は一緒のグループの生徒にISの運搬を任せて織斑先生の元に。

 ―――ああ、思い出した。確かこの後……。

 

「お前には今日から専用―――」

 

 

「ちーちゃ~~~~~~~ん!!!」

 

 

 ズドドドドド……。と、なにやら砂浜の砂を巻き上げながら、ウサミミをつけた女性が猛スピードでこちらに走ってくる。

 そこまでは一万歩譲ってOKとしよう。だれがなんと言おうとOKな? 問題はそのウサミミの女性で――

 

「……束」

 

 織斑先生が若干あきれ気味にその名前を紡ぐ。

 

 ――そう、いま猛スピードで走ってきているのは稀代の天才……鬼才のほうが良いのか? ともかく、その『篠ノ乃束』博士だ。

 

「やあやあ! 会いたかったよ、ちーちゃん! さあ、ハグハグしよう! 愛を確かめ―――アヴルヘイmuっ!」

 

 束さん向けて織斑先生の『全人類平等アイアンクロー』が炸裂。

 

「うるさいぞ、束。それともなんだ、いま言いかけた危ない台詞など二度と吐けないようにしてやろうか?」

 

「ぐぬぬ、それは勘弁。……それにしてもやっぱり相変わらず容赦の無いアイアンクローだねっ」

 

 怖い、なんか今日の織斑先生いつもより怖いんだけど。

 そして束さん。なんでそのアイアンクロー抜けだせるんだ……やっぱり只者じゃないってことか。

 

 すたっ、と着地した束さんはくるっと箒の方を向く。

 

「やあ!」

 

「……どうも」

 

 相変わらず束さん関係になると複雑な表情を見せた箒。

 しかし束さんはそれは無視で話を進める。

 

「えへへ、お久しぶりだね。こうして会うのは何年ぶりかなぁ。おっきくなったね、箒ちゃん。特におっぱいが」

 

 絶対最後の一言は余計だと思う。

 

 ――がんっ!

 

「殴りますよ」

 

「な、殴ってから言ったぁ……し、しかも日本刀の鞘で叩いた! ひどい! 箒ちゃんひどい!」

 

 頭を抑えて涙目で箒に抗議する束さん。

 そんな様子を、他の一同はポカンとした表情で眺めている。

 

「え、えっと、この合宿では関係者以外―――」

 

「んん? 奇妙奇天烈なことを言うね。ISの関係者というなら、一番はこの私を置いて他に居ないよ」

 

「えっ、あっ、はいっ。そ、そうですね……」

 

 山田先生、束さんの前に撃沈。

 

「おい束。自己紹介くらいしろ。うちの生徒たちが困っている」

 

「えー、めんどくさいなぁ。私が天才の束さんだよ、はろー。終わり」

 

 自己紹介が適当だ……。

 確か、これでもずいぶんましになったんだよな。織斑先生の手によって。

 たぶんあれだ。そういう態度を取る度に殴られたり、アイアンクローされたりだったんだろうな。

 

 それでも、それを聞いた女子は目の前の人物が誰なのかを理解して、騒がしくなった。

 

 

「はぁ……。もう少しまともにできんのか、お前は。そら、手が止まってるぞ。こいつのことは無視してテストを続けろ」

 

 いや、ここまで有名でインパクトのある人を無視は……辛いんじゃ?

 

「こいつはひどいなぁ、らぶりぃ束さんと呼んでいいよ?」

 

「うるさい、黙れ」

 

 そんなやり取りに、山田先生がためらいがちに入っていった。

 

「え、えっと、あの、こういう場合はどうしたら……」

 

「ああ、こいつはさっき言ったように無視してもらって構わない。山田先生は各班のサポートをお願いします」

 

「わ、わかりました」

 

 そう言われて走っていく山田先生。

 束さんがふとこっちに目を向けたとき、なぜか俺と目が合った。

 

「ん? んん~? 君は玖蘭……拓神くん、だったかな?」

 

「はい。そうですけど、なにか?」

 

 織斑先生ならびに一夏と箒は、他人を嫌う束さん自ら他人である俺に関わったことに驚いていた。

 まぁ、あんな性格で身内……それも織斑先生と箒と一夏以外には関わりを持とうとしない人のはずだしな。

 

「君、いろいろと面白いね。特にISは。どうしてだろうねぇ」

 

 やっぱり目を付けられたか……。

 

「あの緑の粒子、重粒子を蒸発させることなく質量崩壊させ、陽電子と光子を発生させる……だっけ? 実に興味深いよ」

 

 どういうことだ? なぜそこまで知っている? このISには俺とティエリアの許可がないと開かないセキュリティーが掛かっているはずだ。

 たとえ相手が束さんであろうと。

 

「うふふ、どうして? って顔してるね。簡単だよ、君がそれを使ってるところは見てきたしね。いつも発生させてる緑色の粒子、それを生み出す方法を考えてみただけだよ。どうやら地球じゃ実現不可能みたいだけどね」

 

 それだけで、か。

 ……やっぱりダブルオーの原作に出てたエイフマン教授以上の天才だな、この人。

 

「だとしても、『マイスターズ』は渡しませんけど?」

 

「あら残念。というか、そういう名前だったんだ―――あ、無理やり奪ったりは絶対にしないから安心して。そんな方法をこの束さんが取るわけないだろう? それに久しぶりに持った研究対象だし、答えを見ちゃったらつまらないっしょ?」

 

 ―――そして、根っからの科学者みたいだ。

 

 

「あ、あの、姉さん……それで、頼んでおいたものは?」

 

 俺と束さんの会話(?)に、ややためらいがちに入ってきたのは箒だった。

 俺が束さんの中で箒よりも優先順位が上のわけも無く、すぐ束さんは箒に向き直る。

 

「おお、そうだった。―――ふっふっふ。それはすでに準備済みだよ。さあ、大空をご覧あれ!」

 

 びしっと真上の空を指差す束さん。その指と声につられて全員がそうした。―――直後。

 

 ズドーン!

 

 でかい衝撃と地響きを伴って、ひし形の金属の塊が砂浜に突き刺さる。

 

「のわっ!?」

 

「っ、と」

 

 俺と一夏がちょいとバランスを崩したが問題は無い。

 墜ちてきたそれはその外壁を量子に変換して消えて、その中身を陽光の下にさらす。

 

 

「じゃじゃーん! これぞ箒ちゃん専用機こと『紅椿(あかつばき)』! 全スペックが現行ISを上回る束さんお手製ISだよ!」

 

 装甲の色はアストレアTYPE-F2よりも明るい真紅。その装甲が、日光を浴びて輝いた。

 


 
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