No.394479

『欢迎、瑚裏拉麺』 其之弐―弐

ども、峠崎ジョージです。
投稿81作品目になりました。
今回の『瑚裏拉麺』はかなりネタに走ってみました。元ネタを知っている人はきっと俺と美味い酒が飲め……俺が飲めないので、きっと美味いメシが食えると思います。
各アバターはなるだけ御本人の要望を反映させてはいますが、基本的に俺の勝手は妄想の産物となります。

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2012-03-19 17:37:07 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:5548   閲覧ユーザー数:4820

「……あれ?」

 

丈二さんに呼び出され『働かないか?』と言われた翌日。時刻は間もなく正午を迎えようと言う頃。

早めに着いておこうと出てきてみると、店舗の前に人だかりが見えた。それも、構成しているのは見覚えのある顔ばかり。早い話、自分と同じく管理者関係の者達ばかりが集まって、賑々しく談笑に耽っていたのである。

 

「お、戦国も来たのか」

 

「狼さん。お久しぶりです」

 

「おう」

 

いち早くこちらに気付いて声をかけてくれたのは管理者の中でも親交の深い人物。紺色スーツに金縁眼鏡とぱっと見はエリートっぽく見えるが、左手の狼の顎を象った物々しい手甲が彼の中で暴れまわっている中学二年生を激しく自己主張している。

管理者名『狭乃狼』。率先して多くの企画を立ち上げるプランナーにして恐妻家の、このコミュニティ内に置いては最年長者である。

 

「これって、何の集まりですか? 今日、何かありましたっけ?」

 

「あれ? お前もあの夫婦に呼び出されて来たんじゃないの?」

 

「えぇ。実は僕、今日からここで働く事になりまして」

 

「ほぉ、それは聞き捨てなりませんね」

 

聞きつけて話に入って来たのは細身に道士のような衣服を纏った眼鏡の青年。管理者の中でもかなりの古参たる彼。管理者名を『南華老仙』といい、その名に違わず術式において右に出る者はほぼ皆無と言われる腕前を持つ。そして何を隠そうこの男、かつてあの貂蝉と漢女道の継承を争った過去を持つ元漢女であり、丈二とまともに戦う事の出来る数少ない人物の一人である。ちなみに未だに両刀との事で、時折貞操の危険を感じさせる発言を溢す事もしばしば。

 

「丈二とは長い付き合いですが、経営とはいえ彼が誰かに助力を求めるなど久しく無かった事です。事情が気になりますねぇ」

 

「まぁ、確かにアイツにしては珍しいとは思うけどさ、店員を雇う理由なんて人手不足の他にあるか?」

 

「そこです。あの丈二が取り仕切ってる店、ですよ? 十人力どころか百人、千人、下手をすれば数万人単位で働ける彼が、人を雇わなければならない程に疲弊するまでこの店が混雑している事って、今までにありましたか?」

 

「「……あ」」

 

言われてみれば確かにそうだ。

陽が昇る前に起床し仕込み。日付が変わって尚、後処理に追われ、更に異常なまでに鍛錬すら毎日欠かさない。字面だけ見れば凄まじいライフサイクルだが、それを実行しているのがあの丈二ならば話は別だ。一月以上、不眠不休で数百万の傀儡を相手に組み手を行った事もある『体力=リゲ○ン』な彼だ、一般人にとっての激務など、彼にとっては早朝のラジオ体操程度でしかないかもしれない。

となれば、余計に気になるのが人の性というもの。昨日の二人の言葉も嘘ではないだろうが。

 

「何を言っておられるんですか、そこのお三方は!!」

 

「「「?」」」

 

と、張り上げられた声は背後から。なのに、三人が振り返った先には人影はなく、若干視線を下に向けて、

 

「滅多に助力を願わない師父が『力を貸してくれ』と直々に言ってくれたならば、何も言わずに助けるのが真の漢と言うもの!! そこに理由や事情を差し挟む必要性など、一切合財皆無にござろう!!」

 

「おぉ、ひっとーだったのか」

 

どういう原理なのかは不明だが、そこには炊きたて独特の艶やかな光沢と綺麗な湯気が立ち上る白米の握り寿司が浮遊していた。海苔は典型的な一枚のみ。三日月のような角はその昔、奥州が筆頭の愛用した兜のそれと全く同じ。宮城県の観光PRキャラクター『むすび丸』そのままな姿の彼もまた管理者が一人。名前を『ひっとー』。峠崎丈二が、恐らく後にも先にも唯一であろう弟子として迎え入れた熱血漢である。

 

「相変わらず、丈二の事になると暑苦しいな、お前は。味噌塗っとけばその内焼きおにぎりになるんじゃないか?」

 

「……やはり思考回路が犬ですな。食い意地張ってメタボっても知りませんぞ?」

 

「……おほほぃ、言ってくれるじゃねえのよおにぎり風情が。お望み通り食い千切ってやろうか?」

 

「はいはい、二人とも落ち着いて。今日は喧嘩しに来たんじゃないんですから。ここで騒ぎを起こせば、丈二さんにも迷惑がかかるんですよ?」

 

「む……そうだな。ちと大人げなかったか」

 

「狼殿が大人げないのはいつもの事でござろう? 何を今更」

 

「んだとコラ」

 

「だ~か~ら、いい加減にして下さいって!!」

 

最早毎度のことだが、どうも時折この二人はこうして衝突する事がある。というのも狼は丈二に並び立つ事を生涯の目標としており、対してひっとーは丈二が最強だと崇拝に近い形で信じて疑っていないのである。彼が与える影響はよくも悪くも大きい事は、これで十二分に解っていただけるだろう。

と、

 

「全く、いい加減にして下さい、お二人とも」

 

「「あ゛ぁ!?」」

 

「いい加減にしないと、掘りますよ? 私はそれでも全くもって構いませんが?」」

 

「「………………はい、大人しくしますです」」

 

あ、黙った。流石は老仙さん、笑顔なのに物凄い圧力だ。

 

「で、私達の他にも大勢集められたみたいですけど、一体何をやるんでしょうねぇ」

 

「あれ、老仙さんも知らないんですか?」

 

「えぇ。私も何も」

 

見回せば他にも古参新参問わず大勢の管理者達が集められていた。

用意周到な丈二さんにしては随分と珍しい。少なくとも自分の中に、彼はこういうドッキリに近い突発的なイベントを催す人という印象は殆どなかった。

 

「となると、彼女の方が絡んでいそうですね」

 

「……あぁ、成程ね。なら納得だ」

 

急に首肯を繰り返す老仙と狼。自分達を呼び出した二人の内『彼女』という代名詞が当てはまる方と言えば、

 

「華陽さん、ですか?」

 

「そ。なんたってあの華琳の従姉だからねぇ……百合の気は元々なかったらしいけど、どうも色んな意味で快楽主義者みたいだからな、あの一族は」

 

前回の宴会以降、華陽と管理者達との交流はぐっと増えた。

普段は丈二が厨房で腕を振るい、華陽さんが注文や配膳を担当する、所謂『看板娘』のような位置あいにいる事。昨日のような、普段の丈二の意外な一面。話している内に彼女は華琳に似た容姿から受ける印象に反してかなり親しみやすく、フランクな性格の持ち主であると解った。

まぁあの『曹真』なのだから言い人物である事はまず間違いないのだが。演義での彼から例を挙げると、蜀の諸葛亮の離間工作によって群臣の多くが司馬懿を疑った時、『蜀か呉の計略ではないか』と一人彼を弁護したり、病気療養中に呉蜀が連合して魏に侵攻してきたという知らせを聞くや、自ら進んで都督の印綬を司馬懿に譲り、彼に全権を委ねるなど、基本的に公正で良識ある人物として描かれている。その一方で、司馬懿を諸葛亮と伯仲させるため、史実では曹真が諸葛亮を防いだ功績は『演義』では一貫して司馬懿の功績とされ、曹真はその引立て役に回されている。諸葛亮と対戦し、圧倒的に優れたその知略の前に連戦連敗を喫してしまう。腹心の王双を魏延に斬られ、同僚の司馬懿との賭けに負け、彼我の能力の差に愕然とする。決して暗愚ではなく人の意見を聞き入れる度量のある人物なのだが、なまじ聡明で諸葛亮や司馬懿と自らの力量の差がわかるため心中苦しみ続け、そのことが原因で病にかかってしまうほど、彼はあまりに優しすぎる男だった。その最期は、諸葛亮の罵言を記した書状を読み憤死とさえ記されている程に。それに、だ。あの丈二が娶る程の人物が、悪人である筈もない。

が、流石に根幹は違わぬとしても性格に多少の違いは出るようだ。それは今までの恋姫達を鑑みてもよく解るだろう。そもそも、同じ遺伝子情報から生まれる双生児やクローンでさえ差異が生まれるのだ、違わない方が不自然というものだろう。

兎に角、峠崎華陽という人物は思っていた以上に友好的で、思っていた以上に女性的で、思っていた以上に不相応だった。

序列の高い気丈な女性に見られる傾向の高い、後輩や年下、所謂格下の相手をからかう半面で慈しむような、矛盾しているようで噛み合っているような二つの行為が同居する言動。子供というほど未成熟でなく、しかし大人かと言えるほどには成熟していない、不思議な立ち位置。人生の先達として真剣に愚痴や悩みに向き合う事もあれば、沸き立つ悪戯心に身を任せるような事もしばしば。

 

「多分、今回も何か企んでるんでしょうな、彼女」

 

「だろうねぇ……」

 

そう呟いた、次の瞬間だった。

 

「はいはい、皆お早う。よく集まってくれたわね」

 

店の扉が開き、現れたのは予想通りの影。今日も今日とて陽光を受けて煌めく金髪の螺旋が一つ。

 

「華陽さん、お久しぶりです」

 

「はぁい、元気だった? 最近、二人ともスランプらしいわね。あの人も気にしてたわよ?」

 

「また、痛い所を突いてきますね……」

 

「あ~……まぁな」

 

気まずそうに言葉を濁す狼と老仙。

 

「まぁ、あの人もその毛はあるけどね。管理者なら一度は経験する通過儀礼みたいなものだし、焦る必要はないんじゃない? 急拵えの突貫工事で欠陥が見つかるくらいなら、じっくり納得のいくものを創った方がいいと思うわよ?」

 

「……んっとに君達夫婦は俺より年下なのか? 時々妙に達観した発言するよな、ホント」

 

「ふふっ、褒め言葉として受け取っておくわ。さてと、それじゃちょっと今から言う人達で纏まって別れてくれる? まずは―――」

 

と、急に始まった謎のグループ分け。取り敢えず皆が従うと、以下のように分けられた。

壱、大ちゃん、劉邦、龍々、berufegoal、一丸

弐、スターダスト、黒山羊、骸骨、森羅、ひっとー

参、ZERO、老仙、狼、甘露、瓜月

 

「……こりゃ一体、どういう別れ方なんだ?」

 

「さぁ?」

 

意図が全く読めず首を傾げる管理者メンバー達。

そして、

 

「……あの、華陽さん?」

 

「何、戦国くん?」

 

「僕だけ、名前呼ばれてないんですけど?」

 

「大丈夫、忘れてる訳じゃないわ。戦国くんにはちょっと別にして欲しい事があるから」

 

「はぁ、そうなんですか……」

 

「さてと。それじゃお願いね、貂蝉ちゃん」

 

『…………え゛?』

 

何やら聞いてはいけない固有名詞が聞こえたかと思った、その直後。

 

「ぶるあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

『来、来やがったあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!』

 

聞き間違う筈もない重低音の野太い声。蒼穹の彼方より飛翔、というよりは墜落に近い形でこちらへと向かって来るその物体は、距離が縮まるに連れて徐々に人影を象り始めて、

 

ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!

 

衝撃に揺れ轟く大地。舞い上がる砂塵の中から颯爽と表れるのは、やはり予想に違わぬ裸身……否、一応局部は桃色の布地で隠されている筋骨隆々な肉体美。

 

「愛と勇気の名の元にぃ、艶美な蝶が舞い降りるぅ!! 例え世界は違えども、名乗る名前はただ一つぅ!!」

 

下手をすれば一般人の胴回りはありそうな双腕。山脈のように連なる筋肉の隆起は、並大抵の鍛錬で表れはしない。その完全な『男性の』肉体をしなを作りながらくねらせ、突き出す拳は高らかにサムズアップ。

 

「華蝶仮面二号!! 新たな外史に再び参上よんっ!!」

 

『……おぇ』

 

その余りの気色悪さに耐え切れなくなった数名が『orz』の体勢で催した吐き気に口元を押さえる。

 

「……それ、丈二の前ではやらないでね? あの人、貴方の腕は認めてるけど、それだけは全否定してるから」

 

「なっ、なぁんでよん!? このアタシのかわゆい唇のように真赤なちょうちょは、アタシと『御主人様』との絆の証なのよぉん!?」

 

「あの人曰く『俺の趣味を穢されている気がする』だそうよ? もし目の前でやったら『本気』で原型留めなくなるまで殴る、ですって」

 

「…………………解ったわん」

 

(あの貂蝉が青い顔で即答したっ!?)

 

有り得ない事態に戦々恐々する皆を尻目に華陽は平然と話を進めていく。

 

「それで、準備の方は出来てるのかしら?」

 

「えぇ、大丈夫よん。いつでも行けるわん」

 

「……あ、あの~、華陽ちゃん?」

 

「はい、狼くん。質問を許可します」

 

おずおずと手を挙げる狼にピッと指を差し先を促す華陽。

 

「あのさ、俺達って『また宴会やる』って聞いたから集まったんだけども」

 

「……え? そうなんですか?」

 

「あれ、戦国は知らんかったの? そうだよ、ほれ」

 

差し出された狼の携帯端末、その画面に表示された一通のメール。内容は実に単純明快に記されていた。

 

『また宴会を催すから、食べたい料理と好きな食材を教えて頂戴♪』

 

「で、参加できるメンバーは今日の昼までに店の前に集合って事で、俺達はここに来てるって訳だ。……でもさ、まだ真昼間だろ?」

 

「そうね。夜には見えないわね」

 

「それに、丈二はどうしたんだ? 見た所、今日は閉店なんだろ?」

 

言われて店の入り口を見てみると『本日休業』と刻まれた木札が吊るされていた。

 

「丈二にはね、ちょっと先に現地に行ってもらってるの。色々と準備する事もあるからね」

 

「……現地? 移動するのですか?」

 

「えぇ。ちょっと、これ持ってて」

 

と、ふいに配られる白い封筒。各グループに一通ずつ別々に。そして、

 

「それじゃ、貂蝉。お願いね」

 

「了解よん。そぉれっ!!」

 

どこからともなく取り出した、恋姫ファンならば言わずと知れた銅鏡。それを3枚、地面に叩きつけたと同時、割れた破片と乱反射する光が徐々に構成するは世界と世界を繋ぐ門の入り口。

 

「それぞれ目の前の門に入って頂戴、向こうに着いたらその封筒を開けて頂戴。そしたら、事情を理解できると思うわ」

 

『は、はぁ……』

 

どうも自分の口から詳細を教える気はないらしい。状況から察するに丈二は既に向こうにいるという事なのだろうが、

 

「なんで、入口が3つもあんの?」

 

「それも、行ってみれば解るわよ」

 

「……ふむ、何が何でも教える気はないと」

 

「そういう事。ほら、早く早く。あの人も待ちくたびれてるから」

 

「は、はぁ」

 

「……それじゃま、行きますか」

 

「だな。ここで喋ってた所で何も変わらなさそうだし」

 

と、何とか自分を納得させ、それぞれ目の前の門へと足を踏み入れていく。

そして、

 

「さ・て・と、楽しくなりそうね♪」

 

(……うわぁ、嫌な予感しかしない)

 

そう言って、まるで悪戯の成功した子供のように笑っていた事に気付いた者は、隣にいた戦国のみであった。

 

 

 

 

…………

 

 

 

……………………

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

「―――っと、着いたみたいだな。全員いるか?」

 

そう言ってメンバーの確認をしているのは『berufegoal』であった。見た目は完全に直訳『龍玉』の主人公『孫悟空』だが、中身は正反対で冷静沈着な青年である。そして、

 

「ん、大丈夫みたいだね。皆いるよ」

 

答えたのは『大ちゃん』。『東○』の『大妖精』がそのまま具現化したような容姿をしているが、彼は立派なXY染色体の持ち主である。

 

「ふむ……ここは何処だ? 随分と景色はいいみたいだけど」

 

「大平原のど真ん中、みたいですね。北海道辺りでこんな光景、よく見られそうだ」

 

周囲を見回すのは二人。一人は一刀と同じ聖フランチェスカの白制服に身を包みながらも平成10代目な某ライダーのベルトを腰に巻いた青年『劉邦柾棟』と、龍の刺繍が特徴的な中華服に身を包んだ黒髪短髪の男『龍々(ロンロン)』である。

 

「それで、beruさん。その封筒には何て書いてあるんですか?」

 

そして、このグループ最後の一人。黒字に藤の華で彩られた着物を着た烏羽色の長髪の彼。今回宴に初参加となった、名前を『一丸』という。

 

「っと、そうだな。まずは見てみるか。なになに……?」

 

封を開け、取り出したるは数枚に綴られた手紙。

無言で読み進める内に、

 

「―――は?」

 

「……どうしたんですか、beruさん?」

 

思わず頓狂な声を上げた彼に皆が視線を向け、

 

「……いや、これ、読んでみろよ」

 

そんな彼等に、berufegoalはどこか唖然とした顔で呼んでいた便箋を差し出すのだった。

 

 

 

 

…………

 

 

 

……………………

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

一方、同じ頃。

 

「……海だ」

 

「……海ですね」

 

目の前に広がる真っ青な世界に間抜けな声を漏らしているのは自称『犬と鳥の狩人』こと『スターダスト』と『森羅』。そして、

 

「どうしたまたこんな砂浜なんでしょうねぇ……『黒山羊』さん、ここが何処か解ります?」

 

「いや、俺も断定は難しいな。特徴的な地形でも把握出来れば話は別だが、それもあくまで正史に限ればだし」

 

細身の体に灰色の髪が特徴的な前者の彼、実はこれが本当の姿ではない。彼の名は『骸骨』といい、その名が示す通り真の姿はまさに人間の骨格標本そのものなのである。決して、ヨ○ヨミの能力者な音楽家ではない。混乱を避ける為、普段はこの『偽体』を文字通り身に纏っているのだ。

そして後者、酒瓶を片手に辺りを見回す範○勇次郎を彷彿とさせる青年。今でこそこのような姿を借りてはいるが、中身は言わずと知れた管理者の中でも飛び抜けた酒豪であり雛里に命を懸ける男『黒山羊』である。

そして、最後の一人が、

 

「ぬうううううううううううううううううううううううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!! ここは、ここは正に奥州が三陸の海ではないかああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

この雄叫びで既に特定できたと思うが、『ひっとー』である。

 

「解るのか、ひっとーくん?」

 

「当たり前でござろう!! 戦国乱世の英雄豪傑が一人の魂の眠る地を、この拙者が間違える訳がなかろう!!」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「取り敢えず、その封筒、開けてみません? 丈二さんも見当たりませんし、何していいかも解りませんし」

 

「それもそうだな。開けてみるか」

 

今にもこんがり焼き上がりそうな炎を纏ったひっとーの熱さに唖然としつつ、森羅の進言に封筒の口を破いて手紙を取り出し、

 

「…………は? マジ?」

 

やはり、同じような反応を示すのだった。

 

 

 

 

…………

 

 

 

……………………

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

「……なぁ、老仙?」

 

「……何ですか、狼くん?」

 

「……ここ、どこだ?」

 

「……さぁ」

 

管理者の中でも古参の二人が珍しく驚愕の色を表している傍らで、

 

「あれ、牧場ですよね?」

 

「だなぁ……うわ、本物の乳牛とか始めてみたかも」

 

黒を基調とした衣服に身を包む『ZERO』が指差す先を見て、スラックスとYシャツを軽く着崩した『甘露』が物珍しそうにそう呟く。

そして、

 

「随分と広い土地ですね。日本なら間違いなく北海道や東北でしょう」

 

丁度于吉を短髪にし、髪を立たせたかのような彼、名前を『瓜月』という。白の燕尾服に黒い手袋という特徴的な姿をした彼は周囲の地形やら環境から現在地を推測していて、

 

「いや、んな事は見りゃ解るさ。俺が言ってんのはここが何の為の外史かって事」

 

「見た所、他に人もいないようですし……下手に動くよりも、まずは取り敢えずこの封筒を開けてみましょうか」

 

そう言って、手にしていた封筒を開く老仙。そして、

 

「…………え?」

 

「……どうした、老仙?」

 

彼にしては珍しく呆けたような表情に狼は傍らから紙面を覗きこんで、

 

「……はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?」

 

思わず上がった大声は、木霊を何度も残しながら虚しく空に吸い込まれていった。

 

 

 

 

…………

 

 

 

……………………

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

はぁい♪ 無事に目的地に着けたかしら?

 

皆、今回もタダで美味しいご飯が食べられると思ってたみたいだけど、残念ながら私は丈二ほど甘くはないのよ。

 

『働かざる者食うべからず』美味しいご飯が食べたいならそこで自分達で材料を調達して頂戴♪

 

グループは事前にとったアンケートの好きな食材で割り振りしてみたわ。野菜や果物の『農業』、海産物の『漁業』、お肉や乳製品の『畜産』、それぞれの苦労を身に染みて理解してみるのも、いい経験になると思うわよ?

 

ちなみに、この件は丈二も了承してるから、悪しからず。

 

それじゃ、頑張ってね~♪ 御飯はちゃんと届けに行くから、安心して頂戴♪

 

 

(続)


 
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