No.393113

魏√after 久遠の月日の中で17

ふぉんさん

お待たせしました17話をお届けします。
今話はなかなかの難産でした。

2012-03-17 16:09:04 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:20754   閲覧ユーザー数:16605

呉に戻ろうと町を歩いていると、偶々おじいちゃんとその息子さんに会い家に招待された。

おじいちゃんの嬉しそうな顔を見ると、付いて行ってあげて良かったと思う。

 

おじいちゃん達に別れを済ませ、再び町を歩く。

とりあえず馬を買わなきゃ。指でぼうるぺんを遊びながら考える。

そういえば彼、私がぼうるぺんを持って行ったことに気付かなかったわね。

冥琳に良いお土産ができたわ。

 

それにしても、彼はこれからどうするのかしら。

あれだけ焚き付けたんだし、華琳達のためにも戻ってあげてほしいんだけどねぇ。

 

ん?あれって……

目に留まったのは、広場の片隅で呆けた様子で立っている銀髪の女性。

やっぱり。

そんな言葉が脳裏に浮かぶ。

彼の部屋には彼女の武器らしきものが置いてあった。

彼がこっちに戻ってきてからの経緯は聞いていないが、今は彼女と共に旅をしているのだろう。

 

「こんな所に突っ立って、何してるのかしら」

 

歩み寄り、声をかける。

振り返った顔はやはり見覚えのあるものだった。

が、浮かべている表情に驚いた。

 

「華雄……あんた、泣いてるの?」

 

正確には、今にも泣きそうな顔をし、潤んだ瞳でこちらを見返していた。

こんな華雄は、四年前話し合い和解した以前からも見た事が無い。

 

「……雪蓮か。こんな所で会うとは思わなかった。何、連れと少し……な」

 

「連れねぇ……北郷一刀の事かしら」

 

華雄は俯き気味だった顔をバッと上げ、私を睨む。

 

「何故雪蓮が一刀の事を……」

 

「ちょっと前に、会って少し話したわ」

 

持っていたぼうるぺんを見せる。

すると、華雄は合点がいった様子で眼を伏せた。

 

「なるほどな……何故急に決心を固めたのか疑問だったが、お前の仕業だったか」

 

……そういう事ね。

今の華雄の言葉で、大体は理解した。

 

「ねぇ。暇なら少し話さない?」

 

「あぁ、私も暇を持て余していた所だ」

 

こうなった原因が少なからず私にもある事は分った。

今の華雄は少し見ていられない。どうにかしてあげたいわね。

日が沈み、日課の鍛練を終え宿に戻る。

部屋に入るが華雄の姿は無い。荷物はそのままなので、あれから戻っていないようだ。

華雄が帰ってきたら、まず謝ろう。

自分からお願いして旅に同行し、決心がついたら魏に戻る。

あまりの自分勝手さに、自己嫌悪してしまう。

 

溜め息を一つ吐き、寝台に座る。

戻るにしても、資金難な事には変わりはない。

とりあえずはこの街で資金繰りをしなければいけないな。

 

これからの事について思案していると、騒がしい足音と共に勢い良く扉が開いた。

驚き視線を向けると、虚ろな目をし頬を蒸気させた華雄が立っていた。

 

「か、華雄……?」

 

あまりに常軌を逸した状態に、戸惑いを隠せない。

華雄は俺の問いかけに答えず、大股で俺へ近づいてくる。

距離が無くなり、ずいっと華雄は顔を近づけてきた。

自然と体が仰け反ってしまう。尚も顔を近づけてくる華雄に、半身が完全に寝台に寝ころんでしまった。

華雄の吐息が顔にかかる。

う……酒臭い。

 

「急に旅に着いてきたいと言い、決心が着いたら曹操の下に戻り私はポイなのか」

 

そのままのしかかってき、華雄の胸が俺の胸板に押しつぶされる。

それだけでも堪らないのに、華雄は俺の体に手を這わせ、女性の柔らかい肢体の感触が全身で感じられる。

 

「ちょっと華雄……まずいって」

 

「申し出を断ったくせに、私の心をどんどん奪っていって……」

 

体を這っていた手は、俺の頬へと持って行かれた。華雄の指が俺の唇と撫でる。

ただでさえ近かった華雄との距離が、さらに狭まる。

 

「私は諦めない事にした。一刀にも責任をとってもらうぞ」

 

「近いって華雄!……ッ」

 

華雄との距離が0になった。

唇に柔らかい感触を感じる間も無く口内にお酒の風味が広がる。

長らく感じていなかった感触。自分の舌が蕩ける様な錯覚を覚える。

唇が離れると、華雄との間に銀色のアーチが掛かった。

自分に起きた事が理解できず呆然としていると、華雄は頬を蒸気させたまま笑みを浮かべた。

唯でさえ高鳴っていた鼓動が、更に激しくなった。

そのままとさりと華雄の顔が俺の顔の横に倒れる。

身動きがとれずしばらくそのままでいると、寝息が聞こえてきた。

 

「……はは」

 

五月蠅く鳴り続ける鼓動の中、必死に頭を働かせる。

女性関係に鈍いと言われていた俺でも、これだけアプローチされれば気づいてしまう。

華雄は俺に好意を持ってくれている。

そして、そんな華雄に惹かれている自分がいた。

 

───────あぁああああッ!

激しく自己嫌悪。心の中で頭を抱える。

自分の顔の横で幸せそうな寝顔を浮かべる華雄が、少し恨めしく思った。

微睡む意識の中、頭痛により目が覚める。

 

「うぅ……頭が痛い」

 

手で頭を押さえながら半身を持ち上げる。

昨日は雪蓮と飲み、それから……記憶が無い。

どうやら宿に戻り寝たようだ。

時刻は恐らく早朝。となりの寝台では一刀が寝息を立てている。

気怠い体を持ち上げ、一刀の寝る寝台に向かう。

静かに寝息を立てる一刀を見て、自然と笑みが浮かんだ。

昨日の雪蓮との会話を思い返す。

 

『何?諦めちゃうの?折角見つけた幸せなのに』

 

『しかし一刀には既に相手が……』

 

『彼が魏で何人と関係を持ってると思ってるの?一人くらい増えたって問題ないでしょ』

 

『だが……』

 

『長い間会ってなかったけど、随分と大人しくなったのね貴方』

 

『何?』

 

『こういう時くらい、昔の猪だった頃に戻ってみなさいな。何も考えず、目標に向かって一直線。そんな昔の貴方も私は好きだったわよ?』

 

雪蓮には感謝しないといけないな。

おかげで踏ん切りがついた。

 

「私は遠慮しないぞ?覚悟するんだな」

 

寝たままの一刀に接吻をする。

次は一刀から……そんな望みを胸に、私は唇を離した。

あとがき

 

 

このまま華雄さんが身を引くとでもお思いか!

 

さて昔と仕様が変わったTINAMIさんですが、改ページの意味があまりなくなったと私的に思いますので、ページ数は少な目にしてみました。

文字数は今までと変わらないと思います。

 

雪蓮の言う昔も好きだったというのは、強いて言うのならば華雄の攻め込む姿勢ですかね。

乱世の頃の雪蓮も、華雄の人柄自体を嫌っていた訳ではないと思ったのでそう書かせていただきました。

 

ではではまたお会いしましょうー。


 
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