No.387530

He is ALICE‐Secret Collection‐ 【紳士的な態度をしたい】

燐咲さん

文字と響きだけなら可愛らしい女の子を彷彿するだろう。__
帽子屋×アリス/今日もリヴェルさんのクレイジーっぷりはご健在です。/腐向け/ほのぼの…?

2012-03-06 00:05:21 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:370   閲覧ユーザー数:369

 

 

「踊ろう、アリス。」

 

正しくは有栖川 愁耶。

文字と響きだけなら可愛らしい女の子を彷彿するだろう。

しかし、真っ黒な髪と太い黒縁フレームの眼鏡は童話のようなアリスとは正反対。

 

「ああ、本当に自分の頭をかち割ってしまいたいよ。

 何が悲しくて小説のように異世界トリップなんかしてるんだ。」

 

確かにやや高いが決して女の子の声ではない。

ここに座り、仏頂面でイチゴを食べているのは紛れもない青年だ。

アリスと呼ばれた青年は自分の周りを踊り歩くイかれた男を見ないように目を閉じ、

更にイチゴを頬張った。

 

「君の唇にダイブしたい。」

「君、相方の三月兎(ハーティス)みたいなことをいうね。」

「踊ろう、アリス。」

「嫌だ。僕は踊りたくない。

 もっと言えば、静かにしてくれ。」

 

「アリス。」

 

耳元にゾクリとするような声で囁かれる。

その声はまるで脳に直接囁かれたようにはっきりと届いた。

驚いて目を開くと帽子屋(リヴェル)は耳元ではなく、

正面の席に座っていた。

この距離では耳元まで顔を近づけるのは無理だ。

少なくとも常識的観点から見ればそうなる。

しかし、帽子の中からティーセットを出しているところをマジマジと見てしまうと

改めてこの世界ではなんでもアリなのだと痛感してしまう。

 

「私はね、君の前では実に紳士的な――優しい人でありたいと思っているんだ。」

「あ、そう。」

「本当の私は―――…きっと。」

 

 

”欲深くてずる賢くて冷酷だ。”

 

そのとんでもなく真面目すぎる表情と声に思わず持っていたイチゴが落ちる。

冷酷、と言ったときの少し楽しげな目の動きはこの男が嘘を言っていない証拠なのだと思う。

帽子屋リヴェルは微笑を浮かべたままイチゴを手に取る。

 

「こんなに美味しそうな苺だって、こうしてしまえば―――ほら、食べたくなくなる。」

 

ぶちゅ。

帽子屋(リヴェル)の指先がイチゴをつぶす。

半透明の赤い果汁が赤黒い種を纏って指を流れ落ちていく。

 

「どんなに外見がよくったって、中身を見てしまえば

 台無しなんだ。」

 

ベトベトになった指をティーカップで洗い、立ち上がる。

そして愁耶に手を差し伸べて微笑んだ。

楽しそうに。

 

「さあ、踊ろうアリス。」

「…今までの下りいらないじゃん。

 ……大体、潰したって味は変わらないじゃないか。

 つまりは、君がどんなに変わったって根本的なところは変わらないのさ。」

「アリス…君は優しい。

 優しすぎて、怖いよ。」

「あ、おいっ。」

 

ガシャンッ、と小さなテーブルを上に乗っていたものと一緒にけり倒す。

そしてそのまま愁耶の腕を引っ張ると強引に抱きしめた。

 

「この世界できっと一番優しいんだ、君は。

 だから、私は優しくできない。」

「別に、優しくしてくれなんていってない。

 というより、君を優しいと思ったことは一度もないな。」

「このまま君の中に解けてしまいたい。」

「僕は頭を叩き割って死にたい。

 それから、君と融合なんてしたくない。」

 

ぐいぐいと帽子屋(リヴェル)を押し退けてずり落ちた眼鏡をかけなおす。

そのとき初めて帽子屋(リヴェル)の顔から表情らしいものがないことに気がつく。

恐怖はない。

愁耶の肝が据わっているせいもあるだろう。

 

「死ぬなんて許してあげないよ、アリス。

 私はアリスを気に入っているんだからね。」

「あ、そう。」

「初めてなんだ、優しくしてあげたいと思ったのは。」

「あ、そう。」

「だけどね、私には出来ない。

 優しいって具体的になんだろうね?」

「知らないな。

 強いて意見を言わせてもらうなら、

 別に無理して人格を変える必要はないと思う。

 人道的な道を踏み外さなければどんな人格でもいいだろ。」

 

さして興味がなさそうに別の椅子を探す。

しかし、あんなに沢山合ったはずの椅子は一つもなく。

邪魔なほど長いテーブルも、無駄に多いティーセットたちも。

なくなっていた。

 

「怖いな。優しすぎる。」

「全否定されたいの?」

「冷たいのに、優しすぎる。

 いっそ全否定されたほうが冷酷になれるのに。

 私も君のようになりたいよ。」

「深く考えるのをやめたらいい。

 優しくしたいとか冷たくしたいとか。

 そういうのって関係ないだろ。

 僕は自分のしたいことをしてるだけだし、言いたい事をいっているだけ。

 つまりは、相手を一番に考えるんじゃなくて自分を一番に考えればいい。」

「自分のしたいように…。

 たとえば、そうだ。私は君に口付けたい。」

 

愁耶の顎を救い上げ見つめる。

その何の表情いろも無い瞳を見つめ返しながら

口を開く。

 

「僕はそれを全力で阻止しよう。」

 

素早く帽子屋リヴェルの手を払いのけた。

 

「僕は君とキスをしたいと思わないから。」

三月兎(ハーティス)にならしてもいいのかい?」

「何が?」

 

帽子屋(リヴェル)は目を細めて笑うと、

何処からともなく生えてきた椅子に腰掛けた。

気がつけばなくなっていた椅子やテーブルが元通りになっている。

 

「私はね、見たんだ。

 君と彼が口付けあっているのを。」

「僕の意思じゃない。

 あの時、僕の両腕は拘束されてたんだ。」

 

不愉快そうに傍の椅子に腰掛けると愁耶はテーブルに頬杖をついた。

 

「まったくもってあの時は本当に死にたかったな。

 少し気を抜いて眠っているだけであんな目にあうなんてとんでもない世界だよ、ここは。」

「あんな目ってどんな目だい?

 私でよければ相談にのろう。」

「相談という名目で話して君が納得してくれるのなら話そうか。

 つまりのところ、彼は僕を抱きたいらしくてね。

 抵抗の出来ないように両手を拘束して事に及んだものの、

 自由な僕の両足で大事な…そう、男として最も大切にしなくてはいけない

 詳しく言えば両足の間にあるアレを思い切り蹴り潰されたわけさ。」

 

帽子屋(リヴェル)が僅かに眉を顰める。

しかし、気にした様子もなく愁耶は続けた。

 

「大体、君たちは揃いも揃って何なんだ。

 もっと言えば、この世界で女性をみた記憶がないのは気のせいかな。」

「ああ、それには答えられるね。

 この世界で女性である事を許されるのは正真正銘のアリスだけなんだ。」

「…ああ、本当に呼び出されるはずの美少女ね。」

「君も充分美しいと思うけどね。

 アリスは国王の妃になるために呼び出されるんだ。

 だから本当は君も王様の妃になるかもしれないんだ。」

 

愁耶のめがねがずりおちる。

王様ジェルグの妃。嫁。

あのヒゲと結婚なんて考えたくもない。

 

「そんなことになるくらいならチェシャ猫(チャーリー)

 世を儚んで死ぬね。」

「おや、私と心中はしてくれないのかな。」

「どうだろう。

 君はなんだかんだで僕に死なせてくれそうにないからね。」

「違いない。」

 

僅かに笑って紅茶を注ぐ。

 

 

「君が国王の妃にされそうになったら、私が全力で阻止してあげよう。」

「それは…ありがとう、嬉しいよ。」

「だから、これからも私と紅茶を飲んで踊ろう。」

「踊らないけど、紅茶は飲むさ。」

 

愁耶も同じように紅茶を注いだ。

 

 

 

Fin...

 

 

 


 
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