No.387299

真・恋姫†無双 外伝:幼なじみは耳年増 ~今日はなんの日?その3~

一郎太さん

という訳で、AC711様とのコラボ企画第20弾!(嘘。でもイラストの許可は頂いてます)
やり過ぎた感はある。でも反省はしていない。後悔もしていない。
誰かに似た名前が出てくるけど、きっと気のせいだよ!
ではどぞ。

2012-03-05 17:50:27 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:10188   閲覧ユーザー数:7248

 

 

 

幼なじみは耳年増 ~今日はなんの日?その3~

 

 

恋人―――のようなものが出来てから、2ヶ月と半分ほどが経過した。少しくらいは何かが変わるのかな。雪の積もる道を歩きながら、あの時はそんな事を思っていた。だが、そんな思考とは裏腹に、俺達の関係は驚くほど変化しなかった。

 

「――――――いいから放せ、コラ」

「んみゅぅ……やぁ………」

 

今日も今日とて俺は、自分の服にしがみついて放そうとはしない幼なじみに悪戦苦闘している。無理矢理外せないのがもどかしい。

 

「おらぁっ」

「ぁぅっ……」

 

寝惚け眼。というよりも、まったく起きる気配のない少女の鼻先を指でつつく。力弱い反応と共に眼から涙が滲んだ。申し訳ない気分になる。が、俺はこんな事では甘やかさない。その小さな鼻をつまむ。彼女の両手が力なく開いた所で、俺は布団から抜け出した。

 

「はぁ……」

 

ひとつ溜息を吐き、立ち上がる。いつものように伸びをして、トレーニングウェアに着替え、iPodを準備する。そこで。

 

「おにぃちゃん……どこぉ………」

 

バレた。布団から這いずり出る小妖怪・座敷童。もとい、雛里。

 

「ほら、雛里。俺は此処にいるよ」

 

甘やかしすぎているような気がしなくもない。だが、朝だけは許してくれ。これほど哀しそうな声を出されてしまっては、無下に扱う訳にもいかない。俺は再度膝をつき、布団に眠る少女の頭を撫でる。

 

「ふみゅぅ………………あれ………お兄ちゃん?」

 

その感触に覚醒したのか、雛里は目を開いた。だが、すぐに少し瞼が下がる。半分閉じた眼で俺を見上げ、問うた。

 

「あぁ。俺はこれから鍛錬に行くけど、雛里はどうする?もう少し寝とくか?」

「……一緒がいぃ」

 

こんな感じ。先ほども述べたが、甘やかしている自覚はある。だが、もう少しくらいはこうさせてくれ。

ぐしぐしと両の拳で眼を擦る雛里に俺のパーカーを着せる。服達磨。ジッパーを上げる。蒼い髪も襟の内側に入れておいてやった。そのまま抱え上げ、部屋を出る。3月なのに寒い。というか、毎年3月は寒い。息が白かった。大気は汚れているようだ。

 

 

 

 

 

 

「さて、それじゃぁ今日も裏山かな」

「最近は全然表を走ってないね」

 

縁側に雛里を座らせて、準備運動をする。関節ごとに解す。パキパキという音が気持ちいい。本当はいけないらしいけど。しばらく続けていると、雛里が問うてきた。

 

「誰の所為だと思ってんだ」

「あわっ……」

 

ひと睨みで縮こまってしまう。可愛いなぁ、もう。俺はロリコンではない。

 

「雛里を背負ったまま走ってたら、俺が変質者扱いされてしまうかもしれないからな」

「ごめんなしゃぃ……」

「冗談だ。雛里が負荷になってくれてるから、距離を短くしてるんだよ。それに登り降りがあった方が鍛錬にもなる」

 

涙目になった。そろそろやめておこう。

俺は雛里の前に背を向けてしゃがむ。彼女も慣れたものだ。座ったまま上体を傾け、俺の背に乗った。小妖怪から子泣き爺に進化した。言ったら泣くから言わないけど。それにしても成長していない。いや、どこがとは言わないが。でもホラ、背中に感触はない。

 

「ホレ、着けてろ」

「うん」

 

左に首を捻れば、左耳からイヤホンが抜かれた。くすぐったい。雛里はそのまま自分の耳にさし直す。ステレオだから、片耳だけだとメロディーが中途半端。設定ってどうやって変えるんだっけ。

 

「じゃ、いくか」

「れっつごー」

 

声が全然レッツゴーじゃない。そんなこんなで、裏山へと向かう。雛里がぎゅっとしがみついてくる。少しだけ、速度が上がった。

 

「よし、それじゃぁ飯にするか」

「おう」

 

爺ちゃんと鍛錬。ぶっちゃけ、既に俺の方が強い。よって、ウェイトを着用している。腕に5kgずつ、足にも5kgずつ。………あれ、やり過ぎじゃね?まぁ、いい。それを外す。重いのはいいんだけど、蒸れる。夏は汗疹が出来そう。それだけが嫌だ。

 

「雛里も行くぞ」

「うん」

 

壁際で座布団に座って、稽古を見ていた雛里に声を掛ける。婆ちゃんが淹れてくれたお茶の湯呑みを両手に抱え、雛里は立ち上がった。悪戯的な思考。

 

「おら」

「あわわっ!?」

 

雛里を抱き締め、汗臭い道着を鼻に押し付ける。彼女ではないが、将来的なそれである。イチャつく事に対して、俺の自制心が少しだけ弱まっていた。落ち着け。

 

「お兄ちゃんの匂いだね」

「………」

 

予想外の返事。

 

 

 

 

 

 

飯も終え、雛里は1度隣家の自宅に戻る。俺もシャワーを浴びて汗を流し、制服に着替えた。学年末テストも終わっているから、あとはいつも通り過ごすだけだ。もう1度教科書を確認し、家を出る。隣家の呼び鈴を押せば、雛里の母親が出てきた。流石仕事人。スーツ姿がカッコいい。

 

「おはよう、一刀君」

「おはようございます。雛里は?」

「もうちょっと待ってね。すぐ来ると思うから」

 

まぁいつもの事だ。待たせてもらおう。………ちょっと待て、そのニヤニヤした顔はなんですか。

 

「いやー、うちの娘と付き合うようになってそろそろ3ヶ月でしょう?どこまで進んだのかな、って」

「なんもねーよ」

 

やっぱり駄目人間だった。雛里の耳年増は、絶対母親の影響だ。

 

「お赤飯はまだ必要ないかしら?」

「あと数年は待ちなさい」

「あら、頑固ね」

 

実はそうでもないです。クスクスと笑う母親の影から、小さな影。赤いランドセルを背負った幼女。なんというか、似合い過ぎ。

 

「お、お待たせしましゅたっ!………はぅ」

「大丈夫よ、雛里。一刀君は雛里にぞっこんだって言ってたから。少しくらい遅れても文句は言わないわよ」

「はわわっ!?そうなの、お兄ちゃん?」

「いってきまーす」

 

頬を赤らめ、上目遣いで見上げる雛里。そしてニヤニヤが止まらない母親。その2つの視線を無視して、俺は歩き出す。

 

「あっ、待ってぇ!」

「いってらっしゃーい」

 

後ろから見送りの声と、駆け寄る足音が聞こえてくる。数秒もしないうちに雛里が俺の横に並び、右手を握ってきた。歩調がゆっくりになる。

 

「おはよー、雛里ちゃん」

「おはよう、朱里ちゃん」

 

いつもの場所で、いつもの少女。雛里と同じくランドセルを背負った朱里登場。何故俺の手を見てくる。

 

「ほら」

「えへへ、ありがとうございますっ」

 

鞄を肩に掛け直し、左手を差し出す。いつもの光景だった。

 

「雛里ちゃん、明日の事はもう話してあるの?」

「うぅん。でも、明日は部活もないって言ってたから、きっと大丈夫だよ」

「なんの話だ?」

 

俺を挟んで会話をする2人。腹の前を行き交う声。

 

「お兄さん、明日って暇ですよね?」

「あぁ。って、俺の話だったのかよ」

「はい」

 

ちなみに、朱里がいるといつもの敬語モード。どうやら、人前でお兄ちゃんは恥ずかしいらしい。難しいお年頃。

2人の話を要約すれば、なんて事はない。保護者役の依頼だった。明日の土曜日に、人の集まるイベントに行くとかで、ついて来て欲しいと。というか。

 

「もっと早くに言いに来なさい」

「だって、部活がない週末はいつも遊んでくれるから」

「俺を私物化しやがって。彼女かってーの」

 

呆れる俺。

 

「………えへへ」

 

何故そこで笑う。ほら、意味深な事をするから朱里が眼を見開いているじゃないか。

 

「まさか……雛里ちゃん………」

「なに、朱里ちゃん?」

「もしかして……一刀さんと……………」

 

誤解しくさりやがってる。雛里もそこで意味ありげに俯くんじゃない。

あーぁ、及川の顔に死相が出てるじゃないか。

 

「――――――って、いたのか?」

「かずピー……まさか、本当に小学生に手を出すとは………」

 

いつの間に来たのやら。眼鏡の級友は、どす黒いオーラを醸し出している。漢字1文字で表すなら、『怨』とか『妬』とか『嫉』とかだろう。どうみても『祝』ではなかった。

 

「かずピーの裏切り者ぉっ!こうなったらクラスの皆に、かずピーがロリコンだったって言い触らしたる!」

 

叫び、駆け出す。アイツならやりかねない。

 

「という訳で、雛里、朱里。今日はここまでだ」

「え?」

「はわっ!?」

 

両手の力を緩める。フリーになった左手で鞄を持ち直す。肩に掛けたままだと走り難い。先を走る眼鏡との距離は、およそ100m。眼鏡に換算すると、およそ666眼鏡分。

30秒も経たずに追いつき、その背中に跳び蹴りを喰らわせた。

 

 

 

 

 

 

時は流れて、土曜日早朝。昨晩は珍しく雛里が布団に潜り込んでこなかった。本日のイベントが楽しみなんだろう。何のイベントなのか、何処でやるのかも教えてくれなかったけど、俺も楽しみだ。遠出をするのは悪くない。それが遊びの為であれば、まったくもって悪くない。今日もいい天気だ。

 

「「おはよーございまーす!」」

 

鍛錬後の朝食とシャワーを終えて、居間に戻る。婆ちゃんの入れてくれた茶を啜りながらテレビを見ていると、玄関から元気な挨拶。ちび達がやって来たようだ。

 

「「お邪魔しまーす!」」

 

婆ちゃんが出迎えに行き、そのまま招き入れる。足音もなく淑やかに歩く婆ちゃん。それと対照的に、とてとてと小動物のような足音を立てる朱里と雛里。それぞれデカいバッグを抱えている。何が入ってるんだ?

 

「内緒ですよ、お兄さん」

 

これが年頃か。

俺も一旦部屋へと戻り、準備をする。ジャケットを羽織り、財布に携帯をポケットに。しまった。昨日の内にATMで下ろしておくんだった。手数料が取られてしまう。というか銀行は前日手数料を0円にするべきだと思う。どこかのテーマパークみたいな名前の銀行は、コンビニでも平日の日中は0円。どうせなら休日もやってろ。費用は変わんないんだし。

 

「「「いってきまーす」」」

 

爺ちゃん婆ちゃんの見送りを受けて、家を出る。何故かキャリーケースを渡される。結構重い。ジッパーの隙間から、布に包まれた棒状のものが突き出ている。ついでだしと、荷物を持ってやろうとする。断られた。あまり乱暴には扱っていない。壊れものでも入っているのだろう。………ワイングラスとか。そんな訳ない。

 

「楽しみだね、雛里ちゃん」

「うん、楽しみだね」

 

とてとてと歩く2人の後ろを歩きながら、空を見上げる。3月の空は、碧い。天気予報でも晴れだと言っていた。遠出をするにはもってこいだ。ふと視線を下ろせば、壁の向こうに映えている梅の木が花を幾つか咲かせていた。風流。

 

「片道いくらだ?」

 

訊いてみれば、往復で大体1000円。朱里と雛里からカードを奪い取る。驚く2人を無視して、それぞれ英世を1人ずつチャージ。なんで諭吉だけ変わらなかったんだろうな。

礼を言う2人の頭を撫で、改札をくぐる。扉が閉じる。俺の分のチャージを忘れていた。

2度ほど乗り換えて、目的地へと到着する。到着したくなかった。というか、ここが目的地であって欲しくなかった。地下のホームから長いエスカレーターを登り、改札を出る。電車の中ですらあれほどの込み具合。改札の外はもっとやばかった。

 

「ヌーがいる」

「「?」」

 

あと3ヶ月ほどで雨季が来るが、大移動にはまだ早い。

少し歩けば、人の群れが向かう先に、逆三角形が2つ並んだような建物上部。紛う事なく、年に2回大イベントをやる会場。春にも似たような行事があったのか。

行軍はそこへと真っ直ぐ続いている。誰も列を乱さない。恐ろしい。歩道は広いのに、皆がサンルーフの下を歩いている。恐ろしい。俺のようにキャリーケースを引く猛者や、デカい紙袋を抱える猛者などなど。

階段を登れば、そこは既に人の海。変な格好をした人もたくさんいる。

 

「私の勘が言ってるわ。ここにはお宝があるって♪」

「ふっ……孫呉の兵は既に配置した。いつでも行けるわ、雪蓮」

 

 

やたら露出の多い美人のお姉さんがいた。チャイナ服を崩したような格好だが、スリット開き過ぎ。そして胸デカい。1人はお腹が見えてる。そして胸デカい。寒くないのだろうか。

 

「はわわっ、雪蓮と冥琳のコスプレだよ、雛里ちゃん!」

「うん、後で一緒に写真撮って貰おうね、朱里ちゃん!」

 

そしてそれを見た幼女2匹が興奮していた。元ネタを知っているのか?

 

「どうする?このまま入るのか?」

 

2匹に問えば、首を横に振る。え、ここじゃないの?ちょっと安心………できないな。

雛里たちについて、そのまま歩く。右手の階段を降り、そのまま公園のような場所までやって来た。

 

「一刀さん、そのケースをください」

 

朱里にキャリーケースを渡す。その場で倒し、ジッパーを開いた。何やらカチャカチャと組み立てている。え、兵器?最後にそれを一気に引き上げた。円形の、カーテンがついている装置。簡易の更衣室のようだ。

 

「じゃぁ、私から着替えるね、雛里ちゃん」

「うん」

 

言って、朱里がその中へとバッグごと入って行った。とりあえず人が近づかないように気をつけておこう。俺って紳士だし。衣擦れの音が生々しい。

数分後、着替えを終えた朱里がカーテンを開いた。入れ替わりに雛里が入る。

そこにいたのは何かのキャラのような服装をした少女。折り目のついた紺色のスカートに花弁のような、金色の枠のついた白いレイヤー。白いタイツを履いている上着は小豆色で金の刺繍入り、首元には鈴が2つ付いている。同色の帽子は、ハロウィンの時に雛里が被っていたものだ。

さらに数分後、雛里も着替えを終えて出てきた。スカートは小豆色で、金枠つきの白いレイヤー。上着は紺で、首元には薄桃色のボンボンがついている。頭の上には同じくハロウィンで朱里が被っていた魔女帽子。

そして、2人共巻き方や結び方こそ違えど、パステルグリーンのリボンを腰と帽子に巻いていた。

 

「じゃぁ、お兄さんはこれに着替えてください」

「え゙?」

 

さらに手渡される、白い上着と青いスラックス。見覚えがある。というか、俺の制服。

 

「早くしないと始まってしまいますよ」

「そうだよ、お兄さん」

 

更衣室へと押しやられる。胸元に押し付けられた、俺の制服。溜息しか出て来なかった。

 

 

 

 

 

 

着替えを終えて、日本刀を渡される。って、これうちの道場に置いてある奴じゃねぇか。あのクソジジイ。1枚噛んでやがったな。

2人に先導されて会場へと戻る。先の入口ではなく、別の場所。

 

「こちらです、ご主人様」

「……………」

「あわわっ!ご主人様の表情がかつてないほど辛辣なものに!?」

 

事情を聞く。簡単に言うと、3人とも同じゲームに登場するキャラクターのコスプレらしい。そのゲームの中で、俺の服の男は朱里と雛里が着ているような服の少女にご主人様と呼ばせている。なんというペド野郎。ちなみに、そのゲームが18禁だと知るのはもう少し後の話。

 

「ちなみに、名前は私が諸葛亮孔明で、雛里ちゃんが鳳統士元です」

「え、三國志?」

「ちなみに、さっき入口にいた桃色の髪の人が孫策伯符で、その隣にいた眼鏡の人が周瑜公瑾です」

「ちなみに、真名というのもあって――――――」

 

頭が痛くなってきた。とりあえず分かったのは、こういう場ではキャラ名で呼び合うらしいのだが、朱里と雛里はそのまま読んで構わないらしい。よくわからん。

 

「で、俺のキャラの名前は?」

「「北郷一刀です」」

「…………」

 

著作権料的なものってもらえないのかな?

 

「一刀じゃない。貴方も来ていたのね」

「あぁ、北郷か。久しいな」

 

と、女性の2人組に話しかけられた。確か――――――。

 

「………孫策と周瑜か」

「なに堅苦しい呼び方してるのよ。真名は預けたでしょう?」

 

マナって何?カナもあるのか?

 

「孫策が雪蓮で周瑜が冥琳ですよ、ご主人様」

 

後ろから雛里がこっそりと教えてくれる。

 

「あ、あぁ……そうだったな。雪蓮、冥琳………」

 

もの凄く気恥ずかしい。誰か俺を優しく殺してくれ。キリング・ミー・ソフトリー。

 

「あら、朱里と雛里もいるのね。よく出来てるわね。自分で作ったの?」

「はわわっ、はい!自分で作りましゅた!」

「あわわ!ご主人様のお婆様に手伝ってもらったんでしゅ!あわわ……」

 

役作りも完璧ね。雪蓮は感心していた。違います。それは素です。

 

「北郷も自分で縫ったのか、それは?」

 

いいえ、これは制服です、冥琳さん。

 

そんなこんなで一緒に写真を撮って貰う。そのまま、同じ作品キャラという事で行動を共にする事に。何をすればいいんだ?

 

「撮らせてくださーい!」

 

またか、コンチキショウ。

 

「朱里ちゃーん、こっち向いてー!」

 

うるせぇ、ハゲ。

 

「Sieg Heil HINARIN( ゚∀゚)o彡°Sieg Heil HINARIN( ゚∀゚)o彡」

 

日本語で喋れ、山羊。

 

異文化の果てに迷い込んでしまった所為で、少し口が悪くなっていた。

 

 

 

 

 

 

そのまま撮影は進む。だが、海風が冷たい。

 

「携帯は持ってるか?」

「あ、はい。ご主人様。どこか行かれるんですか?」

「………」

 

役になり切ってやがる。

 

「ちょっとお花を摘みに」

 

よくわかんないけど、2人の主らしいので言葉に気を遣ってみた。首を傾げられた。

トイレへの行列を見て泣きそうになったのが、42分前。なんとか尊厳を保つ事が出来たのが8分前。そして雛里たちがいるであろう場所に戻ってきたのが、1分前。

なんだ、アレ?

 

 

 

 

 

 

視線の先に、人だかり。波打っている。そして繰り返し打ち上げられる幼女。

 

『ひなりん!ひなりん!ひなりん!ひなりん!』

 

 

というか、うちの妹だった。その人垣の外でそれを見上げる姿が3つ。雪蓮は腹を抱えて大笑いし、冥琳は頭を抑えて溜息を吐いている。そして残る1つは。

 

「朱里、アレ何?………………って何!?」

 

見れば、ものっそい渋い顔をした金髪幼女がそこにはいた。

 

「ご主人様……今日が何の日かご存知ですか?」

 

口調がいつもより若干固い。え、こんな状況でもキャラになり切ってんの?

 

「今日?3月3日だから……耳の日だっけ?」

「そんなボケは要りません」

 

一蹴された。

 

「あとは雛祭りくらいか」

「その通りです。そして、あの娘は誰ですか?」

「誰って……雛里だろ。どう考えても」

「その通りです」

 

頷く。当たりのようだ。

 

「今回のイベントは、3月3日と4日の開催です。明日はまた別として、3日は雛祭りという事で、『真・恋姫†無双』の『雛里』のコスが多い事は予想されていました」

 

言われて、周囲を見る。確かに大小さまざまではあれど、うちの雛里と同じような格好の割合が多かった。というか男もいるのかよ。生足を出すなら毛くらい剃っとけ。ジャングル地帯。

 

「皆さんそれぞれ力作を作っていらっしゃいますが、それでも雛里ちゃんには勝てません。何故なら、雛里ちゃんは正にあれくらいの少女で、髪や瞳の色も同じ。雛里ちゃんが1番の雛里ちゃんのハマリ役なのです。何より、雛里ちゃんはその名前や性格、口癖ですら雛里ちゃんと同じなんです」

 

ややこしい。

 

「雛里ちゃんの持つ雛里ちゃんの資質が内から醸し出され、雛里ちゃんファンの皆の審美眼に適ったのでしょう。皆の雛里ちゃんへの愛は治まるところを知らず、伝播し、昇華されていったのです」

 

だからややこしい。

 

「昇華って………何に?」

「――――――――狂気!」

 

 

だから渋い顔は辞めなさい。

 

「その狂気に呑まれた人々もまた雛里ちゃんへの愛に動かされ、彼女を讃えているのです。………そう、今日は3月3日。雛祭りならぬ……雛里祭り!」

 

上手くないから。

 

『ひなりん!ひなりん!ひなりん!ひなりん!』

「たっ、助けてくださいっ、ご主人様ぁぁああっ!?」

 

とりあえず助けに行こう。

 

 

 

 

 

 

足下にじゃれついてきた犬を蹴り飛ばす。そのまま跳び上がって、雛里を胴上げしている男たちの上を飛び、邪魔な鳥を殴り落として、雛里をキャッチした。

 

「ふぇぇえええん、ご主人様ぁあぁあああっ!!」

「よしよし。もう大丈夫だぞ」

 

そのまま反対側に飛び降りる。ナイス着地。

 

オマ「あっ!雛里ちゃんを!」

エラ「見ろ!アイツ一刀のコスしてやがる!」

 

違います。普段着てる服です。

 

黒山○「俺達のひなりんを返せ!」

 

山羊の恰好をした男が何かを投げてきた。咄嗟に右手で腰の刀を振り抜く。………正当防衛だよね、コレ?

 

琥○「おい、アレって本物か!?」

氷○「んな訳ねぇだろ!なんで一般人が日本刀持ってんだよ!」

 

本物です。免許もあります。

 

「ふぇぇ…ご主人様ぁ……」

 

野獣たちの怒声で雛里が怯えている。仕方がない。今日はここらで終わりにしておこう。

 

「孔明!撤退するぞ!」

「はわわっ!かしこまりゅましゅまろ!?」

「しっかり掴まっていろよ、雛里」

「ふぇっ――――――」

 

雛里を抱えたまま、地面を蹴る。そのままトチ狂った男共の間をすり抜け、刀を鞘に納める。男共が倒れる。安心しろ。峰打ちだ。

 

「朱里、荷物は大丈夫か?」

「はいっ、いつでも撤退できます、ご主人様!」

「よし。我らの居城に退くぞ!」

 

キャリーケースに朱里を座らせる。左腕に雛里を抱えたまま、ケースを引いて俺は走り出した。

 

「はわ゙わ゙わ゙わ゙わ゙わ゙わ゙わ゙――――――」

 

段差がキツイ。口閉じてないと舌を噛むぞ。茫然とする男たちを無視して、俺はそそくさと逃げるのだった。

とりあえず、ムカつく空は青い。

 

 

 

 

 

 

そのまま駅の方まで走り、大きな陸橋を超える。階段を降り、テニスコートの裏に周ったところで、俺はようやく脚を止めた。

 

「――――――とりあえず、ここまで来れば大丈夫だろう」

「はわわ……階段が怖かったですぅ………」

「ふぇぇん……怖かったよぉ………」

 

雛里は腕の中で俺にしがみついている。キャリーケースから降りた朱里は、ない胸を撫で下ろす。腕が垂直落下。俺はケースを椅子代わりに腰を落ち着かせた。

 

「いやー、走ったわね。下着が見えそうで危なかったわ」

「ふっ……私は裾におもりを入れているから問題ない」

 

ん?

 

「………朱里、雛里。後ろを振り向くな」

「ふぇ?」

「なんでですか?」

「後ろに巨乳お化けがいる。目が合ったら栄養を吸い取られ、一生胸が成長しなくなるぞ」

「はわわっ!?」

「あわわわわ……そんなお化けがいるんですかぁ!?」

 

スパァン!小気味いい音が後頭部から直接脳内に響いてきた。痛い。

 

「失礼な事言うわね、ロリコンの癖に」

「まったくだ。ロリコンの癖に」

 

んだと、コラ。

 

「まぁ、冗談は置いておくとして……なんでアンタらも逃げてんだ?」

 

俺達の背後には、雪蓮と冥琳がいた。マジで、なんで?

 

「だって、貴方達とずっと一緒に行動してたのよ?同じグループと思われてるって、絶対。あのまま残ってたら、どんな槍玉にあげられるか分かったものじゃないわ」

「その通りだ。おかげで予定よりも早く出てきてしまったではないか」

「あー…そら悪かった」

 

確かに、申し訳ない事をしてしまった。後で何か奢るから許してくれ。

 

「ホント?ありがと!あたしお酒でいいわ」

「雪蓮、まだ陽も出ているぞ。というか私達は未成年だ」

 

というか、いつまでその設定続けるんだ?

 

「何言ってるのよ。私も冥琳も本名よ」

「マジで?」

「マジで。そういう貴方こそ、そっちのおちびちゃん達の事キャラ名で呼んでたじゃない」

「こっちも本名だ。3人共」

「マジで?」

「マジで」

 

なんともまぁ、凄い偶然もあったものだ。

 

「まぁ、いい。とりあえず着替えるか。この恰好は目立ちすぎるからな。朱里、朝のアレ、準備してくれ」

「はい、ご主人様」

 

それはもういいから。朱里がキャリーケースを開け、簡易更衣室を組み立て始める。

 

「あら、何それ?」

「着替える場所だよ」

「準備がいいわね」

 

俺も吃驚したよ。それより、こいつらは荷物持ってないな。駅のロッカーにでも預けてるのか?

 

「何言ってるの?あたし達は家からこの恰好よ?」

「あぁ。荷物など財布と携帯くらいで十分だ」

「はわわっ!?」

「あわわ……揺れてます………」

 

言って雪蓮は袖から、冥琳は胸の谷間からそれぞれ形態と財布を取り出す。

 

「………………」

 

変な友人が出来た。

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

という訳で、やっちゃった感が半端ないひなりんSSでした。

前書きにも書いたけど、どこかで見た事あるような名前が出てきましたが、きっと気のせいだよ!

 

あと、細かいところの指摘はなしで。そういうものだと受け止めてやってください。

 

全然話は変わるけど、今回少し書き方を変えてみた。

ナレーションのところね。

どんな感じに読めたかの感想もくれると嬉しいです。

 

では、最後に。

yagami様。以前使用させて頂いたイラストを再び使わせて頂きました。ご容赦をば。

AC711様。いつも許可を頂き、ありがとうございます。

次の作品も楽しみにしております!

 

ではまた次回。

 

バイバイ。

 

 

 


 
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