その日その時間、
時折頁を繰る音だけが響く静かな空間。
あまりに静かすぎたから。
魔が差したのかもしれない。
「貴女は、彼のことをどう思っているのですか?」
こんなことをふいに聞いてしまうのだから。
「……」
規則的に頁を手繰っていた手が、一瞬、止まった。
「観察対象」
しばしの沈黙の後に返ってきた言葉はいつもと同じ。
無機質で無感情。
「いえ、僕は役割に応じた返答を求めているのではなく……個人的な物を聞いているのですが」
「…………」
彼女はいつもの無表情のまま、こちらを向いた。
まっすぐに見つめてくる瞳には感情が伺えない。
「……あなたこそ、彼についてどう思っている?」
静かに開いた唇から漏れた言葉は返答ではなく疑問の投げ返し。
「…………僕は……」
答えを聞く事も無く、彼女はまた手元の本に目を落とした。
「私たちは主役にはなれない」
「え?」
「この
もし、どちらかの役を求めても、そこに位置することはない」
「……分をわきまえろ、ということですか……?」
それきり彼女は黙り込み、また規則的に頁を繰る音が始まる。
「……わかっては、いるんですけれど、ねえ」
この世界を取るか、この想いを取るか。
決まりきった事なのに、それでも胸が痛んで仕方が無いのは。
「脇役には脇役なりの悩みがありますね」
静かに本を読み続ける彼女が、ゆっくりと、瞬きをした。
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
友人のハルヒ本に寄稿した短文。古泉と長門の会話。
一応古キョンとの依頼でしたがどうとでもとれますね。
誰そ彼。逢う魔が時