No.384445

双子物語-34話-(彩菜編)

初音軍さん

時雨先輩を強引に大地とデートさせて、あわよくば二人が
付き合って彩菜と 離れてくれればいいと目論む春花。
だけど、その先輩は一癖二癖もあり・・・。

2012-02-28 17:25:04 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:415   閲覧ユーザー数:364

【春花】

 

 先輩と大地くんのデートに対して、彩菜の二人の後をつけようよ。

 

 その言葉に度肝を抜かれながらも、私は頭の隅で。

ま、まぁ、これはこれで私達のデートもできるからいいかもしれない。

 

 とか、どこか楽観的で甘い考えも持っていたのかもしれない。

そして私は彩菜のその言葉に乗っかるのだった。

 

 それに、大地くんと先輩を心配する彩菜の気持ちもわからないでもないし。

そう、言い訳気味に思っていたのだ。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 デート当日。私と彩菜が看板の裏からこっそりを様子を見に来た。チケットを買う

入り口付近に大地くんが立っていた。約束までには1時間くらい早い時間帯である。

場所は某有名なファンシーな遊園地に待ち合わせをしている。

 

 そこでふと不安が頭に過ぎる。それは、先輩がちゃんとこの場所に一人で来れるか

ということだった。彩菜から聞く情報から、あまり一人で遠くまで行動していることが

少ないとは聞いていたが、もしかしたらどこかで右往左往しているのかもしれない。

 

 心配とかじゃないけど。ここでデートが破綻するのは何だか悔しいと思ってしまうのだ。

だから私は彩菜を見張りとして置かせてから、一度駅までの道を戻っていくと、その途中

で野良猫と戯れてる先輩を見つけた。

 

「先輩、どうしたんですか!」

 

 声を張り上げて先輩の名前を呼ぶと、きょとんとした表情で私の顔を見上げている。

呼ばれても立ち上がろうともしないのである。

 

 しかもすごくやたら面倒そうな表情を浮かべる彼女に私は駆け寄って、胸ぐらを

掴んで立ち上がらせた。傍にいた猫は怖がって走り去っていき、そこまでされても

表情一つ変えない先輩の顔が不気味に映る。そして、一言呟いたのだ。

 

「めんどくさい」

「えぇ、わかってますよ。顔を見てれば!心底嫌そうですね!」

「やっぱりやめる・・・」

「はぁっ・・・!?」

 

 いきなり何を言い出すのかと思いきや、我が侭を言い出してきた。これは厄介である。

元より自分の意志で決めたことでないから、ここで逃げ出される可能性も出てきた。

 

 逃げられないように私は先輩の肩を掴んで近くの塀に押し付けて離さないようにした。

せめて説得が上手くいくまでの間だけは。イライラを抑えながら私は先輩に言った。

 

「あんた、いくら自分の意志じゃないからって、決めたことくらいは終わるまで責任

持ちなさいよ・・・!」

「・・・」

「それに・・・」

「?」

 

 私が言葉を呟こうとして黙ると、どうしたのかと視線だけ私と合わせることをした

先輩。表情は一切変わらない。というよりは人形のような無表情みたいで、少し怖い。

 その後、目だけ細めてから行く手を塞ぐ手をどかして、私が歩いてきた方向へと

向かっていく。何歩か歩いてから振り向いた先輩の背中に太陽の光が髪の毛に反射して

眩しく、綺麗に見えた。まるで雪に光が反射したかのような輝き。

 

「仕方ないわね・・・。今回はがんばってみる・・・」

 

 その淀んだ目の奥にはおそらく彩菜の姿が映し出されているのだろう。彩菜のために

受けたようなものだ。

 

「え、ええ・・・」

 

 私はそれ以上の言葉が浮かぶことも口から出ることもなく、ただ歩き続ける先輩の後を

大地の姿が見える所まで一緒についていった。独特の・・・緊張の糸が張り巡らされて

いるのが見えるような雰囲気である。

 

 しかしその後、何事もなく大地くんの元へ小走りで向かう先輩を見届けてから、私は

彩菜が隠れてる看板へと戻った。それから間もなくどんどん人の数が増えていき、

大地くんがフリーパス券を買って二人で中へと入っていく。

 

 その際に大地くんが先輩の手を握ろうと頑張っていたが、あっさりと振り払われて

背中を見ただけでもわかるくらい、がっかりしていた。あれしきで落ち込むなんて

打たれ弱い男である。

 

 私達は気づかれないように後を追わないといけないので、二人が見えたのもここまで

だった。私達は二人が見えなくなるとすぐにチケットを買いに向かうがどこも長蛇の列で

なかなか前に進まない。彩菜が並んでいる間、私は座って待っていた。

 

 見上げると綺麗な青空と空気が澄んでいて気持ちよい。さっきまで同じ場所にいたのに

先輩と話していたときとはかなり感じ方が違う。何かから解放された気分である。

 

 だけどそう感じるのは現実逃避をしたいからなのか、疲れたからなのか。

今の私の頭は何かを考える力があまりなくて、ただボ~ッとしていた。

勝手なのは私の方なのかもしれない。

 

 彩菜と一緒にいたいってだけで、こういうデートを無理にこじつけようとしているの

だから。

 

「買ってきたよ。行こう、春花」

「えっ・・・」

 

 彩菜から呼ばれる声で我に返る私は時計を見るともう30分以上は軽く過ぎていた。

どれだけ意識が散漫しているのかが、よく窺える。人の数は減りそうになく、

彩菜に手を繋がれて引っ張られた。

 

 このまま、ここにいても仕方がないとばかりに焦るように私を引っ張りまわす彩菜。

やはり、先輩のことが心配なのだろうか。胸に針が刺さったように少し痛かった。

 

 嫌だ、この感覚。胸の奥からこみ上げるようなヘドロのような感じ・・・。

独占欲が吹き上げそうで、彩菜をどうにかして自分のモノにしたいという気持ちが

たまらなく嫌に感じた。

 

『大丈夫だよ』『私達がいるよ』『春花のこと応援してるから』

 

 その時、頭の中で雪乃がいつも不安でいた私に囁いてくれた言葉が今どうしてか

聞こえたような気がする。あぁ、久しぶりに雪乃の声が聞きたくなってしまった。

私にとっては最大の恋敵であるはずなのに。

 

「春花!」

「あ・・・。な、なに?」

 

 急に揺さぶられて声をかけられた私は意識を現実に戻して彩菜の顔が間近にあり

ドキッとした。その時、私はベンチに座って彩菜が私の耳元で囁いてることに

気づいた。どうやら彩菜の様子を見るに二人を見つけたようだった。

 

 まるでどこかの探偵になったかのように、子供みたいに喜ぶ彩菜。いつもなら

可愛いと喜ぶところだが、その気持ちが私に向いていないのがわかって

どこか寂しく感じていた。

 

 時間が経つにつれ、周りとのテンションと合わなくなる私達と大地くん達。

本当に何をやっているのだろう、私は。こんな寂しい気持ちになるのわかっていて

こんなデートを組ませたのか。

 

 その時だった。彩菜と一緒に見ていた時、キャラモノの風船が木に引っかかって

泣いていた子供に大地くんが一生懸命取っているその横で微かに先輩が微笑んでいる

ように見えた。

 

 少しは楽しんでいると思っていいのだろうか。そう思いながらも予定の時刻まで

残された時間は僅かである。周りは既に暗くなっていて、パレードが始まって

大きな花火が打ち上げられた。その間だけでも、私は彩菜と楽しみたいから

私は両腕を彩菜の腕に絡めて、その光景をジッと見つめていた。

 

 

***

 

 それから盛り上がる場面が一通り終わってからグッタリとしていた

大地くんの元へ私達が姿を現すと、何も知らなかった大地くんだけが大袈裟に

驚いていた。

 

 お詫びにとファーストフード店で奢ろうとしたが、本人は拒否してきて、各々自分の分

を払うことにした。騙されたとばかりに盛大に溜息をついたが、彼の隣に座っていた

先輩がとても珍しく、ほとんど聞こえなかったが声に出して笑った気がした。

 

「悪くはなかったわ・・・。こういうの久しぶりだし・・・」

「先輩?」

 

 ほとんど口を開かなかった先輩から、少しだけ感情を出して話してきたものだから

私達は驚いていた。もしかしたら、これは良い傾向なのかもしれないと思ったのか、

大地くんが先輩に少し顔を近づけて目を輝かせていた。

 

「だったら、俺と付き合ってみる?」

 

 まるで犬が尻尾を振るような感じで、すごい喜んでいるのが見え見えであるが

そんな大地君の顔をチラッとみた先輩はすぐにプイッと視線を逸らして注文した

ハンバーガーに手を伸ばして、紙の包みを解いて齧り付いた。

 

「ダメ」

「え~、なんで・・・」

 

 一度断られたからってそんなにガックリ肩を落とすもんじゃないだろう。

可哀想に感じながらも、その姿を見るや少しずつイライラが募ってくる。

 

「あなたと遊んでいてもやっぱり、彩菜と居るより楽しいとは思わなかったの」

「彩菜ぁ~、何でお前はいつもいつも美女を虜にしていくんだよ・・・」

 

 恨めしそうに呟く姿がより惨めさに拍車をかけていく。それとは逆に彩菜は

自慢気にドヤ顔で返した。

 

「へへ~、いいでしょう~」

 

 言ってる場合か。隣に彼女がいるにも関わらずこの言動か。私はそんな彩菜の足を

思い切り踏んづけてやったが、一瞬顔をゆがめただけで、すぐにヘラヘラした緩い表情に

戻っていった。

 

 

 これだから浮気癖のありそうな彼女を持つと困るのだ。本命が私じゃないことに

自分が気づいているから。だから嫉妬してしまうのだろう。振り向いて欲しいから。

 

 今日あったことや、他愛のない会話をしながら飲み食いをしていて思ったが。

こんな内輪なやりとりで先輩はつまらないのではないかと思ったが、表情は変えずとも

話は聞いているようだった。

 

 思えば、先輩の存在を知ったのはここ最近のことでそれまでは全然聞いたことが

なかった。こんな不思議な先輩がいればすぐに噂が広がるものだろうけど。

私達が一年の頃はこんな人がいることすら気づかなかった。

 だから興味本位だからだろうか、会話の流れで少し先輩に話が触れると

私は無意識の内に口からその言葉が出た。

 

「先輩っていつから、そうだったんですか?」

 

 自分でも呆れるほど抽象的な質問だったのだが、先輩はその意図を解っているか

のように苦笑してから少しの間、黙り込んだ。人間喋りたくないこともあるだろうに。

私は慌てて訂正しようとした、一瞬前に先輩が語り始めた。

 

「去年までは・・・。そうね、人の中に溶け込みたいと思ってたわ・・・。みんなに

合わせて普通に彼氏作って、普通に青春を謳歌したかった」

「したかった・・・?」

 

「そう、去年まではね」

 

 軽く微笑むその表情の奥には少し黒いものが滲み出てそうな雰囲気が出ていた。

やはり外見が少し雪乃に似ていてもその中身は逆のモノ。むしろ私のソレに近いものが

ある。そう、感覚的にヒシヒシと感じていた。

 

「そんな大したことじゃないけど。私は他の子たちよりコミュニケーションが苦手で。

絵を描いてるのが一番の楽しみだったの」

 

 淡々と話していく先輩にみんなは聞き入るように黙り込んでいた。

 

「でもやっぱり人間ってね。普通であることに憧れることがあるの。普通に友達と

話して彼氏作ってね。だから、私なりに頑張ってみたの・・・。普通ってやつを」

 

「それで彼氏もできたし、尽くしたけど・・・待っていたのは裏切りだった。ねぇ、

こんなに頑張ったのに酷い話よね」

 

 口の端が歪んで笑みを浮かべるが、それは笑っているのではなく。奥の方に憎悪が

満ち溢れているような気がしていた。

 

「彼の浮気、それは友達と思っていた子だったし、それをきっかけにクラスの子の

態度も冷ややかなものになってきた。これまで頑張ってきたことが自分のせいじゃない

のに、泡と化したのよ。そうね、理不尽だと思わない?」

 

 本人は楽しくおしゃべりしているようだったが、思った以上の重さで誰もが口を

開くことができなくなっていた。

 

「これじゃあ、自分が死ぬか、相手が死ぬかしかないわよね。ふふふ・・・。でも幸い

それから間もなく、彼も相手の彼女も屋上から飛び降りたけど。

 一命は取り留めたらしいね。それはもう、ずっと寝たきりだけど、命って大切だからね」

 

「そ、それってもしかして・・・先輩が?」

 

 そのタイミングでそんなことが起きて、先輩が全く関与していないというのを信じろ

という方が無理な話だった。無謀にも私はそのことを聞いてしまうが。

 先輩は何故か残念そうに首を横に振った。

 

「残念ながら、ただの事故だった」

 

 何が残念なのだろう。気のせいか最初の内は暖かささえ感じていた店内の空気が

寒くなったような気がして、少し身震いをしていた。

 

「だから馬鹿馬鹿しいじゃない。無理して人と付き合うっていうのは」

 

 だからか、話もあまり広がらないし、学校側も隠したがるわけである。それに

気を使わない彩菜との出会いは傷ついた先輩には心地よかったのかもしれない。

自分の全てを曝け出しても一緒にいてくれる相手なんてそうはいないのだから。

 

「それから授業も面倒になって出なくなっちゃった。先生は絵画コンクールの

為に絵に集中してくれればいいって言うけど、それって私のことより学校に箔をつけたい

だけ、だからよね・・・。だからずっと美術室使ってるけど・・・」

 

「先輩・・・。じゃあ、何で今日のことを了承したんですか。私が強引に推し進めた

としても、先輩は断ることが出来たはず」

「あ、やっぱり貴女だったの・・・。薄々わかっていたけれど。そうね、彩菜・・・と

貴女が勧める相手だから悪くはないと思っていたのだけど・・・。悪くなかったわね」

 

「きょ、恐縮です・・・」

 

 すっかり下僕みたいになってる大地くんは深々と頭を下げる。まぁ、こんな話を

聞かされたら気弱な大地くんじゃ精神が持たないかもしれない。

 

 事情を知らないとはいえ、トラウマになってると思われる先輩にこういうデート

とかに誘うべきではなかったのかもしれない、と。ちょっとだけ罪悪感はあったが、

先輩自体はさほど気にしていないらしく、昔を振り返っているかのように見えた。

 

 結局は彩菜の方がいいということで、元の鞘に戻ったわけなのだが、先輩のことを

色々知れてよかったのかもしれない。とはいえ、彩菜を渡す気は毛頭ないけどね。

 

 それでも、前よりは気持ちよく先輩をライバル視できそうである。

しかし、こういう話を聞かされると彩菜は弱いので先輩の方に持っていかれないか

心配で私は慌てて隣にいる彩菜の腕にしがみついた。

 

 だって、彩菜が先輩のこと、ずっと見つめているから。というか、ぼ~っとしている

というか。だから我に返ってもらおうと少しだけこうやってくっついて気づいて

もらうのだ。

 

「彩菜・・・!」

「あ、ご、ごめん」

 

 

****

 

 すっかり遅くなってしまったが先輩の家は大丈夫なのだろうか。と心配していたが

携帯で連絡を取っているのを見て、少し安心した。私達と家の場所が逆方向なのか、

先輩と私達は駅前で別れることになった。

 

 ただのデートをさせるつもりが、とんだ深い話を聞いてしまって、びっくりだったわ。

だけど、予想外にも先輩に近づいたような気がした。それが良いのか悪いのかはこれから

なんだろうけど。

 

 そんなことを考えてるような余裕は今の私。いや私達には無く、混んでいた場所に

長い間、気をつかっていたせいか帰りの電車で3人並んで座って寝ていたのだった。

 

 特に何とも進展しなかった一日にだるさを感じて私は家に帰った後に

ベッドの上に体を力なく預けた。ふわふわした感触が心地よくて、そのまま

睡魔に任せて意識が沈み込むように消えてなくなっていく。

 

 完全に途切れる前に、思ったこと。明日になったら雪乃に久しぶりに会話を

したくなったから、電話をしよう。

 いつの間にか、安心できる居所が遠い場所にいることに私は気づいたのだった。

 


 
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