No.368143

真・恋姫無双  乙女の秘密

y-skさん

今回の一刀君は若干はっちゃけ気味です。

2012-01-25 15:44:29 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:2549   閲覧ユーザー数:2206

戦乱は終わり、三国同盟は成った。

これからは、俺たちのように、力を持つ一部の人間だけではなく、この大陸に根付く人々も力を尽くさなければならない時代だ。

そんな時代の始まりは順風満帆といっていいだろう。

三国の首脳たちは真名を交わしあい、新たな世の始まりを示すには充分である。

ただ、俺には一つだけ、どうしても気になることがあった。

 

 

 

「話とは何でしょうか?」

 

冷たさを感じさせる相貌に切れ長の目。縁なしフレームの眼鏡を掛けた彼女は、かの曹操に、奉考さえ生きていれば赤壁での敗戦は

なかった、と言わしめたほどの名軍師である。

最も、この世界の彼女は存命であり、赤壁の敗戦もなかったのだが。

 

「あぁ、稟、呼び出して悪かったね。忙しかった?」

 

彼女は一つ溜息をつき、じろり、とこちらを眺める。

よく言えばクールビューティー、悪く言えば冷徹な印象を与える彼女が、ジト目をすると、何というか、こう、蛇に睨まれた蛙のような心境に陥る。

背中に冷汗が流れてくるのを感じた。

 

「三国の同盟がなったばかりの今、私が忙しくないとでも?」

 

「あぁ、えっと、その……ごめん。」

 

卓上の杯を口に運び、喉を潤わせる。

さて、どうしたものか……

人差し指で眼鏡の位置を正す彼女に何と切り出すべきか言葉を選ぶ。

いくつかの言葉が脳裏を巡った所で、結局何を選んでも同じだろうという結論に達した。

あまり気が進まないが、ストレートに告げるほかになく、恐らく、物凄く呆れた顔をするんだろうな、と思いながら尋ねる。

 

「風……というか、何というか、宝譿のことなんだけど……。」

 

はぁ?と彼女は予想していた通りに思い切り眉を顰める。

 

「宝譿がどうしたというのです。」

 

「いや、ちょっと気になったんだけどアレってどうやって動いてるのかなって思ってさ。」

 

「……もしかして、そんなことを聞くために呼んだのですか?」

 

一気に室内の温度が下がるのを感じるも、ここは退けない。一度気になってしまったら眠れそうにないのだ。

 

「うん、まぁ、ね?ほら、華琳の所に来るまでは風と一緒だったんだろ?だから何かしらないかなぁって……」

 

だんだんと語尾が弱くなっていくのを感じながら、再び卓上に手を伸ばすも杯の中身は空だった。

どうやら先ほど全て飲み干してしまったらしい。

呆れ果てた風情の彼女は、これ見よがしに、はぁ、とこちらに聞こえるほどの溜息をつく。

眼鏡の奥の瞳は、やれやれ、しょうがないですね、と語っていた。

 

「確かに、風とは旅路を共にしてはいましたが、アレに関しては何一つと言っていいほどわかりません。

 一度聞いてみたこともあるんですが、のらりくらりとかわされましたよ。」

 

あぁ、聞いたことあるんだ、と返すと、彼女は当然でしょうと答える。

 

「あんな摩訶不思議な物を目にして、気にするな、というのは無理な話です。

 それに軍師としては未知の物を追求せずにはいられませんしね。」

 

軍師としてどうの、はひとまず置いておき、やはり稟でもアレは気になるんだな、と失礼ながらも俺は意外に感じた。

彼女には実利以外に興味なし、といったイメージがあるのだ。

 

「何か、失礼なことを考えていませんか?」

「いえ、そんなことはアリマセンヨ?」

 

ぴかりん、と眼鏡の奥が光った気がした。

思わず即答した俺はせめてにと、精一杯の笑顔を見せる。

なんだか却って怪しまれた気がしないでもない。

 

「他に用はないのですか?」

 

「あぁ、うん。ごめん、下らないことで呼んで。」

 

全くです、と再び、じろりとこちらを眺めてから、これ以上の長居は無用と彼女は踵を返していった。

 

ふむ、稟が駄目となると次は彼女か。問題はこんな下らない話を聞いてくれるかなのだが……

僅かながらも勝率を上げるために俺は流琉の元に向かうことにした。とりあえず、手土産でも持ってお茶に誘ってみよう。

 

 

厨房を訪ねてみると都合がいいことに、それはもう、本当に色々な意味で都合のいいことに、琉流が甘味の準備をしている

ところだった。

 

「あっ、兄様。どうしたんですか。」

 

俺に気付いた流琉は前掛けで手を拭いながら、とてとてと走り寄ってくる。

 

「やぁ、流琉。何を作ってたんだい?」

 

「胡麻団子です。呉の亞莎さんが好きだというので、今度のおもてなしに、と思って練習していたんですよ。」

 

にこにこと笑いながら言う彼女は本当に可愛らしく、いつも荒んだ俺の心を癒してくれるのだ。

主に、春蘭とか桂花とかに滅多打ちにされた心を。

おまけに胃袋までもを癒してくれるのだから言うことなしだろう。

ちなみに、亞莎が胡麻団子を好きなのは俺が関係していたりもする。

 

「なぁ、この胡麻団子、いくつか貰ってもいいかな?」

 

「えっと、それは、華琳様の所に持っていくので……。兄様が食べるのならもう少し作りましょうか?」

 

本当にいい子だ。しかしそれには及ばないのである。

 

「いや、俺も華琳の所に持っていこうかと思っていたから大丈夫だ。一緒に行ってもいいかな?」

 

流琉は顎に手をやり、考え込むような様子を見せてから、

 

「兄様なら大丈夫だと思います。それでは行きましょうか。」

 

笑顔でそう言った。

俺は彼女から胡麻団子が入った籠を受け取ると、華琳がいるという庭へと向かう。

 

 

「げぇっ!」

 

もはや顔を見ずとも誰だか分かるだろう。

いきなり、無礼千万な言葉を俺に投げつけてくるような人物は、うちの陣営では桂花以外にいない。

ちょっとした悪戯心もこめて、俺ができる最大限の笑顔を向けてやることにした。

 

「やぁ、いい天気だね。桂花。」

 

有名人も裸足で逃げ出すほどに素敵な笑顔なはずなのに、彼女は、それはもう、おかしなものを見るかのようにしてから、

アンタ悪いものでも食べたんじゃないの?、と、とてもとても心温まる一言を掛けてくれた。

桂花の正気を失わせ、桂花に正気かを疑われるほどの笑顔。どう考えても誇れそうにない。

そんなものなら確かに芸能人も裸足で逃げ出すだろう。

まぁ、彼女の辛辣さ、ほぼ俺に対してのみだが、を考慮すればそれほど酷い笑顔ではなかっただろうと思う。

 

多分、きっと……

そうだったらいいなぁ。

 

遠い目をしている俺の横で調子を取り戻した桂花が、それはもう、口に出すのを憚れるような罵詈雑言を繰り出しているが

誰も気にもとめない。

言われる方も聞く方も慣れてしまったのだ。言われる方とすればこんなことに慣れたくは無かったけど。

そんな特殊な性癖は残念ながら持ち合わせていないのだ。無論、聞かされている方もだとは思うが。

全く反応しない俺が面白くないのか、舌打ちをしたきり、彼女は黙りこむ。

そうした頃合いを見計らったように、俺の正面に座る華琳が話しかけてきた。

 

 

「貴方も来たの?珍しいわね。それと流琉、ご苦労さま。それで、一刀、一体どうしたのかしら?」

 

ありがとうございます、と答えお茶の支度をする流琉を横目に見ながら、ずっと気になっていたことを、稟にした問と同じもの

を口にした。

 

「宝譿がどうやって動いているか、ですって?」

 

「アンタ馬鹿なの?そんな益体もないこと考えてないで、もっと時間を有効的に使いなさいよっ!

 それともアンタの脳みそはそんなことも分からないほどに残念なの?」

 

「確かにちょっと気になりますねぇ。」

 

一人は呆れ気味に、また一人は馬鹿じゃないの?死ぬの?といった風情で、最後の一人は若干の興味を持って、と正しく三者三様の反応を示した。

こうした反応が返ってきた時点で望み薄だが、とりあえず何か参考にならないかと、さらに突っ込んでみる。

 

「そうね……、確かに気にはなるのだけど、私にはちょっと分からないわね。」

 

「やっぱり、華琳でも分からないか。」

 

「ええ、こればかりはね……。風の意志で動いてはいるみたいだから、案外、アレも彼女の一部なのかもね?」

 

悪戯っぽく言ったあと、からからと笑い、桂花、貴方はどう思うかしら?と魏を取りまとめる軍師の一人に尋ねる。

 

「申し訳ありません、華琳様。アレは私の理解の範疇を超えています。」

 

「ふむ、桂花でも駄目か……。琉流、貴方はどう思う?」

 

「済みません。私にもちょっと……」

 

困ったように眉根を下げる彼女たちに、いいのよ、と笑いかけながらこちらを向きなおす。

 

「悪いのだけど、力になれそうにはないわね。ただ、興味深くはあるから、もし何か分かったのなら報告なさい。いいわね?一刀。」

 

わかったと頷き返すと、満足そうに微笑み、この話はお仕舞いとばかりに胡麻団子に手を伸ばす。

それに倣い俺たちも其々に甘味を楽しむことにする。

 

 

余談ではあるが、一口目を口にした華琳がほんの一瞬、ただの女の子のように頬を綻ばせたのを俺と桂花は見逃さなかった。

至福の表情を見せる華琳に思わず、互いに目線を交わし笑みを浮かべるた俺たちは、耳まで赤く染まった彼女にお仕置きという名の折檻を受けることとなる。

半刻程に渡る折檻の後、俺と桂花の間に戦友のような奇妙な連帯感が生まれたものの、程なくして我に帰った彼女に相変わらずの罵声を浴びせられ、俺は世の無常を嘆いた。

なんと世知辛いのか、世の中というものは。

 

 

そんな、ひと時の甘くも辛い歓談を終え、三人と別れたあと、俺は仕事である警邏に向かうため町中の詰所まで出向いていた。

馴染みの隊員と軽く雑談を交わしながら、三羽烏の到着を待つ。

午前中の警備状況を訪ねると、迷子の子供の相手をしたくらいで、実に平和だったという。

北郷隊が暇なのは素晴らしく良いことだ。これは別に俺が暇で嬉しい、ということではないので、勘違いをしないで頂きたい。

確かに暇であることは歓迎すべきなのだが。

迷子の子供を世話した隊員は、無事に親へと送り届けられたことをまるで自分のことのように、喜んで語ってくれた。

別れ際に、ありがとう、と叫びながら手を振り続ける幼子の笑顔が非常に胸に残ったと言い、その隊員の口から、この仕事をやっていて良かった、と零れる。

それを俺は誇らしげに、それにきっと笑顔で聞いていたのだろうと思う。

北郷隊の仕事は、主に町の警備である。

そのため、他の兵士たちと比べ、住人と接する機会が多い。

だからこそ、自分たちの職務が直接的にこの町に住む人々を笑顔にできると感じているし、その報酬が笑顔であり、

俺たちの成果だと言えよう。

それを見るために、得るために、北郷隊の面々は頑張ってくれている。

ただ、俺にとっては、こうして自身の職務を誇りに思い、その成果を嬉しそうに話す、彼らの笑顔も一日の癒しとやる気を漲らせてくれる大事な要素であったりもする。

恥ずかしくて面とむかって言ったことはないが。

何というか、自分の子供を誇る親の気持ちとは、こういったものなのかも知れない。

そうなると、将来酷い親馬鹿になりそうだな、と割とどうでもいいようなことを考えていると、どたどた、がやがやと俄かに

騒がしくなってきた。

 

女を三つで姦しいとは良く言ったものだ。

 

「ほら、見ろ、お前たちが遅いから、隊長をお待たせしてしまったじゃないか。申し訳ありません、隊長。」

 

「いや、集合時間前には着いているから、気にしなくていいよ。」

 

「そうなのー。ちゃんと間に合ったんだから、気にする必要なんてないの。凪ちゃんはちょっと、お堅いのー。」

 

「せや、せや。真面目なのもええけど、あんまり眉よせとると、皺がふえるで。」

 

あいかわらず、きゃぴきゃぴと騒ぎ、時には凪の拳が炸裂する様子を、俺を含めた警備隊の面々は苦笑いをしながら眺める。

いつものことではあるが、常日頃から俺の頭を痛めている原因だったりもする。

そのうち、一人の隊員が耳元で囁いた。

 

「よく、あの方たちの手綱を握れていますね。」

 

俺もそう思うけど、本当に握れているのかね……

何時までもこうしているわけにもいかず、やれやれと、一つ、溜息をつくと、それまで、と両手を打ち鳴らして、ようやく動きを止めた彼女たちを引っ張り出し、詰所を後にする。

その際に聞こえた、隊長、頑張ってください、との声援は、色々な意味を含んでいそうな気がしたが、ありがたく受け取っておくことにした。

 

 

警邏、なんて言っても、実質散歩のようなものだ。

魏の都は非常に治安も良く、騒動が起きるようなことは殆どない。

それどころか、稀に起きる騒ぎの原因を辿ってみると、俺であったり、春蘭であったり、真桜であったり、またまた俺であったりと、

まぁ笑えない状況だったりする。

一つ、付け加えれば、俺個人としては、騒動を起こしておらず、巻き込まれているだけだ、と声を大にして言いたい。

しかし、都の住人にとっては主犯だろうが、巻き込まれただけだろうがどちらでも良いらしく、いつも、兄ちゃんが……

とか北郷様が……と噂するのだ。

知名度が高いというのも考えものである。

ちなみに、蜀では犬に追いかけまわされる焔耶や子供たちに振り回されている桃香に謎の華蝶戦隊。

呉では町中を駆け巡る雪蓮に猫と戯れる明命や、虎に跨り、通りを闊歩する姫君と何処も彼処も似たような問題を抱えている。

最初に、国の重鎮を取り締まった方が早い気がしないでもない。

そんな警邏は、やはり、いつものように散策の体をなしていた。無論、警邏である以上、目的がないわけではないのだが。

 

沙和に

「あの店のお洋服が可愛いのー。隊長、ちょとだけ見に行きたいの。」

とか言われたり、

真桜は

「あの部品や!あの部品さえあれば、カラクリ夏候惇将軍は新たな高みへと昇れるっ。

 でも予算が……おっちゃん、ちょっとまけてぇえな?」

と露店に付きっきりになったたりと、何というか、小学生の遠足を引率する先生の気分である。

 

そのたびに、凪が済まなそうな顔をして彼女たちの暴走を止める、という本当にいつもと同じ一日だ。

凪には俺以上に迷惑がかかっているのではないかと一時期思ったりもしたが、あれが彼女たち流のコミュニケーションの取り方らしい。

らしい、となっているのはそれを言ったのが、真桜と沙和の二人という、物凄く説得力のない二人だからである。

まぁ、それでもじゃれている三人の様子は非常に楽しげな様子であり、なんとなく、名族の人たちの立ち位置に似ているなぁ、と思ったのは内緒だ。

凪が斗詩とすると、残りの二人はどうだろう?

そんなどうでもいいことを考えながらも見回りは一段落といったところで、茶店で人心地つくことにした。

俺は先ほど琉流の胡麻団子を食べてきたのでお茶だけなのだが、真桜と沙和は好き放題に頼んでいる。

凪も口では二人を止めようとしてはいるが、甘いものの誘惑には打ち勝てないらしく、その口調に力はない。

やはり、三人とも女の子なんだなぁ、と和やかに眺めているのはちょっとした現実逃避なのかも知れない。

言うまでもなく、ここの代金は俺持ちである。

 

 

卓上が綺麗になったところで、今日一日、俺の頭を悩ませている疑問をぶつけてみることにする。

疑問とは言うまでもなく、宝譿のことである。

この国随一のカラクリ発明家に、あの物体をカラクリと称していいのかは疑問だが、期待の目を寄せるもあまり芳しくはなさそうだ。

頭を掻きながら、愁眉を下げる様子に落胆を感じながらも残る二人の反応を窺う。

 

「沙和にもわからないの。沙和たちに聞くより、風ちゃんに聞いた方が早いとおもうのー。」

 

確かに、それが一番手っ取り早いのだが、相手はあの大軍師、程昱こと風である。

面白いように言いくるめられたあと、ふふふー、と勝ち誇ったように笑みを浮かべられる未来しか見えない。

これは、今夜は眠れそうにないかな、と諦めかけたその時、思いもよらぬ所から解決の糸口を掴んだ。

 

「もしかしたら……アレは気によって動いているのかもしれません。」

 

口を開いたのは、我が国きっての気の使い手、凪である。

 

「気ってあの凪みたいに、こう、ぐわって感じの?」

 

我ながら馬鹿みたいな言い草だと感じたが、真剣なのが伝わったのか、凪は笑わないでいてくれた。

沙和と真桜は顔を背け、思いきり肩を震わせていたので、後でお仕置きしてやるとそっと心に決める。

 

「はい、ぐわっとしているかは分かりませんが……」

 

二度目のぐわっと、は耐えられなかったらしい。

二人は顔を卓に押し付け必死で笑いを堪えていた。

そんな二人の様子に、どうしたのだ?と凪が尋ねているが返事はないだろう。

こうした、僅かに覗かせる天然な所も彼女の可愛らしさだ。

首を傾げながらも、凪は言葉を続ける。

 

「風様は、我々武官のように気を扱っておいでです。ただ、その量が僅かなので、他の方々には気が付きにくいのでしょう。」

 

私は、恥ずかしながら気の扱いに長けていると自分で思っていますので、他の人に比べ気づきやすかったのではないかと思います、

と挟み、

 

「あの量では戦闘にはあまり向きませんが、宝譿殿を動かすには充分なのではないでしょうか。」

と答えた。

 

なるほど、確かに何でもありなこの世界では、気によってあの物体Xを自由自在に操れるのかも知れない。

もしかしたら、某セブンよろしく、アレを飛ばして攻撃とかできるんじゃないかなぁ。

 

「それに……」

 

「それに?」

 

「気を扱うというのは非常に体力を必要とするので、風様が頻繁に寝てらっしゃるのはその体力の回復に努めているのかも

 知れませんね。」

 

あの狸寝入り?にはそんな秘密があったのか。今度はじっくり寝かせてやろうかな。

まぁ、起こさなかったら起こさなかったで、むぅー、と不満そうにこちら見てくるんだけどね。

 

「それと、話が変わるのですが、隊長も気を扱える素質をお持ちです。よろしければ一度、鍛錬をしてみませんか。」

 

今、凪は何と言った?

俺に気が使えるだって?

もしかしたら、少年の頃に置いてきた夢を叶えられるのかもしれない。

 

戦闘種族が、腰だめに構えた両手から気弾を発射。

 

霊界探偵の得意とする、手でピストルを形作り、人差し指からビーム。

 

光の巨人の、十字にクロスさせた腕から光線。

 

師匠の名を冠した、逆手に握った刀から放つ剣閃。

 

もしかしたら、風のように頭に宝譿を乗せ、好き勝手に動かせるかも知れない。

俺の頭上を見て、むぅー、お兄さんは意地悪なのです、と頬を膨らませる彼女と勝ち誇る俺。

ちょっと良いかもしれない。

 

なんと素敵なのだろうか。

なんと素晴らしいのだろうか。

 

想像が、夢が広がる凪の提案に諾と答え、さっそく鍛錬をお願いする。

彼女は照れ臭そうにしながらも明日から始めましょうかと微笑んだ。

 

 

明くる日、意気揚々と俺は彼女の元へと向かう。

 

 

 

彼女との修業は熾烈を極めた。

 

 

 

 

 

(何かそれっぽいものを想像してください。)

 

 

 

 

傍目から見ると、ただ川に飛び込んでばかりだったり

 

水のひと雫をなんとか見ようとしたり

 

凪が投げた石を時間内に拾ってきたり

 

拳が岩に触れた瞬間、再び拳をぶつけて、抵抗が無になった岩に効果的な打撃を与えたり

 

飛び交う燕を一刀のもと、叩き落としてみたり

 

よく分からない鎧、というかギプス、を装着させられたり

 

 

それはもう、本当に苛烈であった。

 

 

そして、

 

季節は巡り、冬。

 

ついに私こと北郷一刀は気の扱いをマスターしたのだ。

 

 

 

庭に一人佇み、精神を集中させる。

すると、全身は金色に輝き出す。赤く光るのはいけないのだ。

両手を腰だめに構えると、掌の間に輝きが満ちる。

その光の奔流を丸く、丸く形作り。

 

そして

 

裂帛の気合いとともに放つっ!

 

放たれた気弾は、金色の尾を引いて、二十歩ほど離れた木に見事炸裂した。

 

 

 

神様、ありがとうございます。俺は長年の夢を叶えました。この手に男のロマンを掴みました。

 

 

さて、準備は万全である。

 

思い返してみればかなりの遠回りをしてきた気がしないでもないが、ついにあの宝譿の謎を解くのだ。

彼女の頭から自身の頭へとソレを移し、得意げに微笑む。

ああ、何と胸が躍るのだろう。

 

逸る気持ちを抑えつつ、俺は風の元へと向かった。

 

彼女を見つけるのは容易である。

つい先日、真桜とともに完成させた炬燵が置かれている俺の部屋に入り浸っているのだ。

なんで毎日いるんだ、と嘆きたくなる日もあったが、今日ばかりは感謝せずにはいられない。

炬燵に足を突っ込み、ぐでん、と上半身を卓上に投げ出している彼女の様子を窺えば、すやすやと眠っているようである。

あの体勢で、なぜ宝譿がずり落ちないのかは甚だ疑問ではあるが、これは又とない好機である。

いつか、炬燵で眠る華琳も見てみたいものだ、と思うも彼女に限ってそんなことはないだろうと振り払う。

 

時は来たれり、と頭の中で叫びながら、宝譿へと手を伸ばす。

 

 

油断であったのだろう。

なぜ、この時、馬鹿正直に正面から挑んだのだと俺は後々思い返すことになる。

 

 

息を潜め、伸ばした手がそれに触れようとした瞬間。

 

 

風同様に目を閉じていた宝譿の両目が見開かれ、

 

錐揉み状に回転しながらこちらへと猛スピードで飛び放たれた。

 

つのドリル

 

何故かそんな言葉が浮かぶ。

 

 

あまりにも予想を超えた事態に、まともな反応を取れなかった俺の額を、ソレは綺麗に撃ち抜いた。

そのまま後ろに倒れこみ、後頭部を強打。

 

やっぱり、アレって飛ぶんだなぁ、と、いつかの想像が正しかった事を知った。

 

 

 

「乙女の秘密を探ろうとは太ぇえ野郎じゃねーか、にーちゃん。」

 

 

そんな言葉を、薄れゆく意識の中で聞いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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