No.367711

居場所(spn/sd)

ディーン1/24ハピバ記念その1。ムーパラの修羅場に入る前の手馴しがてら(という言い訳で、単にどうしても書きたいじゃない誕生日だもの!)もしかしたら初S/Dですかね。相変わらず書きなぐっての投下なので、誤字脱字は大人の対応でスルー推奨。自サイトで更新する際、書き直しますよ多分。 作中で出たある台詞は「粗忽長屋」から引用しました。月光の映画見たので、なんとなく。そして私は独り言が癖の不審者でございます。

2012-01-24 05:07:04 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:5071   閲覧ユーザー数:5068

「今日は夜から朝にかけて大雪だ」

 モーテルでチェックインする際、受付をしていたじいさんが言ってきた。勘弁してくれ、明日は聞き込みやら調べもので忙しいってのに。

 どうせ年寄りの戯言だろうと聞き流していたが、ローカル放送で天気を担当している巨乳の姉ちゃんも言ったので、食料を買い溜めするべく、帰り際にサムとスーパーに寄る事にした。

かくしてモーテルに戻ってもやることは限られ、弟はいつものラップトップと仲良く睨めっこ。新聞なんてとうに読み終わった俺は、ビール片手にテレビをザッピングするしかなくなった。

 そんな折、ふと目に止まったコメディドラマ。どんなストーリーかは全く分からないものの、名前の知らない女優の台詞により、チャンネルを変えていた指が止まる。

『生まれた時は別々だけれど、死ぬ時は別々に死にましょうと誓い合った仲なの』

「そりゃ当たり前だろ」『そりゃ当たり前だろ』

 思わずソファに埋もれながら、テレビに対して言い返してしまった。しかも誰かも知らない男優と、台詞のモロ被りときた。

「ん?何が当たり前なの」

 ラップトップから顔を上げたサムが声をかけてくる。

「いや、何でも無い」

 反射とはいえ、まさかテレビにツッコムとは。独り言はハンター時だけで十分。またチャンネルを変えると、今度は南半球の話題をニュースの題材で上げていた。確かに上が冬なら下は夏。サンタがサーフィンする国は、こことは違ってずいぶんと暑そうだ。

 画面の中は常夏でも、モーテルの窓の外は雪が降っている。この降り方が続くなら、俺の愛するインパラも真っ白に埋もれているかもしれない。

「明日エンジンかかるかな」

 しまった、また独り言を呟いている。けれど今度はサムも、何も言ってはこない。調べ物に夢中で気付かなかったらしい。

 癖にならないようにしないとな、とビールを飲み干す。

 だってなあ、テレビや雑誌相手に声を出して喋るのは、いくらなんでも寂し過ぎるだろ。もし一人でやってみろ、度が過ぎれば下手すりゃ不審者扱いで、即効病院に隔離も有り得る。

少なくとも今はサムが居るから通報はされないが、ハンターとして幽霊がいるかの質問をされるか、違うなら不審者のレッテル貼られるかでしかない。

独り言が弟の気を振り向かせる手段だったのも、ほんの瞬き程度の時期だけだ。無意識もしかり、俺がわざとらしく何かを言えば、犬の耳が立つような仕草をし、好奇心旺盛な笑顔で近寄ってきた。ああ、あんなに可愛かったのにな。全くもって思春期やら反抗期やらってのは難しいと、思わず今や俺を平気で押し倒す男に育った経緯ごと振り返りたくなってしまう。

 どこで教育を間違えたのかと思うべくもなく、最初から特異だからどうしようもない。

 こいつがまだ幼かった頃、親父が狩りから帰ってくるまでの間、今以上に俺達の世界は狭かった。

 時間が過ぎるのを確かめるように、静かにテレビを見たソファ。夜が過ぎるのを待ったベッド。向かい合って食事をしたテーブル。こんな寒い夜はバスタブだった。

 こいつが離れようとしなかったのか、俺が離れたくなかったのか。少なくとも子供にとっては長くも、今は短い時間、俺達は世界にたった2人ぼっちだった。

 きっと俺にとっての、母親が殺された不幸の下で生まれた、幸福な2人ぼっち。

 ふと、さっきのコメディドラマで吐かれた台詞が頭をよぎる。

―生まれた時は別々だけれど、死ぬときは別々に死にましょうと誓い合った仲なの。

 一瞬しか見なかったが、どうも出演者同士が勘違いで進むコメディに思えた。だから本当は「生まれた時は別々だけど、死ぬときは一緒よ」と言うべきで、場面上では笑う所だった筈。実際、テレビでは嘘くさい笑い声が入っていた。だが俺はあの女優の台詞に対し、正にその通りだと言ってやる。

何故なら俺達は何度も死んでは何度も生き返るという、イカレた事実が現実だからだ。時に片方だけ死んでは生まれ、時に同時に殺されては黄泉がえる。

 いつになったらこんな茶番から抜け出せるのか。考えるのも馬鹿らしいぐらいに先が見えない。大人になれば広がる世界も、俺達は死んだ先でも狭いまま。

「……なあサミー」

「サムだ。何だよテレビに飽きたからって僕に悪戯とかするなよ」

 ただ名前を呼んだだけだってのに、よくぞそこまで防波堤を築いてくれるな、お前。日頃の行いなんて糞くらえ。俺はソファから起き上がると、冷蔵庫から新しいビールを二本出してサムに近寄った。

「お前も飲めよ」

 飲みながら、既に開けたビールを差し出すも、弟は一瞥しただけで首を横に振った。

「……なら、あと5分してからにする」

「なんだそれ」

 2度寝みたいにビールを断るとは変な奴だ。炭酸抜けるぞ。

 思ったままが顔に出ていたのか、サムは作業していた手を躊躇いつつも止めて俺を見上げてきた。そしてポケットからスマートフォンを出すや、俺に画面を見せてくる。

 日付は1/23。時刻はPM11:56。

「もうすぐディーンの誕生日だろ……。あと4分になった」

 無言で眼を丸くする俺を見て、サムが眼を細めて小さく笑った。それこそ、サミーと呼ばれても怒らなかった頃のように。

「……やっぱり気付いてなかった?そう思って、本当は色々したかったんだけど」

 サムはそう言いながら肩をすくめ、携帯をポケットに戻した。そして俺の手から差し出されたビールを受け取る。

「ネット開けても何も浮かばなかったから、サプライズするの諦めたよ」

 一度は断った開けて間もないビールを口にする。俺はただ立ち尽くし、弟がする仕草や言葉を見聞きするしかできなかった。

 ……なんだって?こいつは、何て言った……?

「……誕生日、て……言われたらそうかもしれねえけど。ていうかプレゼントとかそんな事、今日一度も聞いてこなかったじゃねえか」

「だからサプライズしたかったから。スーパーで何かあるかなって見たけど、変に買ったらバレるしさ」

「ビール多めとか、おやつたっぷりとかって事か?」

「それ兄貴の機嫌直しの度に買っているから、むしろ誕生日の思い出がそっちにシフトしそう」

「お前の思い出基準かよ。俺はさっきので全然良いぞ」

「うん知っている。以前しただろ。あと道すがら花でも買おうとしたけど、それも昔したしなあって」

「1人に1回しか花を贈れないなら、花屋は潰れるぞ」

「そうだろうね。でもそんな法律どこの州にも無いから、潰れるとすれば別な理由だろ」

「……商売ってのは難しいな」

 混乱する思考を整理する為に、思いついた事を一つ一つ聞いているが、どうも弟の返答はずれている気がする。

「本当に、難しい……。何かをしてあげたいと思っても、あれこれ考えるだけで、どうすれば良いか分からなくなっちゃって。結局、何も用意出来てない」

 そうして照れくさ気に、俺と同じメーカーの酒を飲むだけで、俺には十分なプレゼントだ。

 同じ言葉をもし、あの自分の命を一年とした時ならば、これほど痛々しい物はないだろう。

 それがどうだ。たった一人の弟から祝われる対象として教えられる秘密となると、どんな物よりも俺を喜ばせる極上の言葉となる。

「嬉しいよ」

 俺は素直に応えた。

「お前がこの瞬間に、俺の傍に居てくれる事で十分だ」

「そんな風に言う兄貴って珍しいよね」

 何だか僕にとってのサプライズみたいだ、とまた笑う。

「殊勝にも珍しく、弟らしい事考えるからだろ」

 お前からの連絡をただ待ち、いつしか諦めたあの頃を思えば、俺はまた誰かの不幸の下で、こうして幸福に浸っている。

 世界は相変わらず狭くて、いつまでたってもイカレたまま。あれから何年経ってもモーテルのベッドで、ソファで、そしてテーブルで過ごしている。さすがにバスタブぐらいは一人で良いが、一緒に入るのも悪くない。

 紆余曲折あろうと、今も俺達は2人ぼっちの世界で生きている。

 だがいつかは、その世界も終わりを告げる時が来る。サムが一度は俺や親父を捨てたように。それが弟の幸せなら、俺は構わない。だから生まれた腹は同じでも、生きる道が別々なように、死ぬときも別々だ。それで良い。それが正しい世界だ。

 付けっぱなしだったテレビはいつの間にかまた天気予報になり、予報は変わらずに雪のままだった。そして最後に、天気を教えていた誰かが午前0時を告げる。

「日付が変わったね」

「そうだな」

 今日が昨日になり、明日が今日になる。そんな当たり前と同じく、いつかこのイカレた狭い世界にも正常な時間がやってくる。

「そういえばホワイトクリスマスがあるなら、ホワイトバースデーなんてのもあるのかな」

「聞いた事ないぞ。ていうか明日のインパラを思うと、俺は嬉しくねえな」

「ははは、じゃ積もったら雪だるまでも作ろうか」

「俺のベイビーの上には作るなよ、リトルサミー」

「サムだ」

「リトルはスルーかよ」

「……今だけはね。兄貴の弟であるのが嬉しいからにしておく」

 でもサミーとは呼ばれたくないんだなという返しは胸中に押し留めた。からかうのを失せる程度には、こいつの何気なく言った「俺の弟であるのが嬉しい」という言葉に参っている。思わず顔を片手で覆った。やばい、表情に出てないか、俺。

 どこまで気づいているのか読めないサムは、俺の様子など気にも止めずに椅子から立ち上がると、半分飲んだビールを俺のビールにコツンと当てる。

「ハッピーバースデー、ディーン。愛しているよ」

ビール味のキスなんて今更だけど、このタイミングって所に、居た堪れなかった羞恥が吹き飛んだ。だって祝福のキスにアルコールが混ざってるんだ、笑いがこみ上げても仕方がない。

「サンクス」

 俺も半分だけ残ったビールを、サムの持っている瓶に当てて乾杯をした。

 正しい世界が祈る神に背を向けた俺は、母さん、そして弟の愛した女に膝を折る。そして親父には、あんたの望むべき―危険ならば弟を殺せとした―世界を選べなかった弱者の告白を。

 懺悔ではないのだから、赦しはいらない。いつか俺だけが堕ちれば良い。

 だからほんの少し、もう少しだけで良い、俺にとって唯一無二である弟に愛される場所で。

「俺も愛している、サム」

ただ幸福だけの2人ぼっちで居させてくれ。

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択