No.367054

東方忘却記 神社編

赤谷蒼士さん

行動に移った三人だったが、まずは神社の結界を何とかしなければどこにもいけない。しかし、神社の結界は一筋縄ではいかない代物であった。

2012-01-22 21:34:58 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:965   閲覧ユーザー数:960

「さて、まずは神社の結界を解かないとね」

「どうやったら解けるんでしょうか」

「さあね。とにかく行動しないと何も分からないわ」

 

 霊夢は結界に近付き、おもむろにお札をかざした。

 しかし何も反応はなく、お札を懐へと戻した。

 

「駄目ね、これで解除できるって思ったんだけど」

「どうやって解除するつもりだったんだ?」

「お札と結界を干渉させるのよ。普通の結界なら私のお札の力に負けて解除できるんだけど……」

「駄目なんですね」

「原因も分からないしねぇ。しょうがない、ちょっと怖いけど直接触ってみよう」

 

 そう言って袖捲りをする霊夢。

 早苗と魔理沙は危険が無いようにと少し離れた場所で見るように指示されていた。

 

「っと……」

 

 霊夢が結界に触れると、少しだけ反応があった。

 いきなり境界がゆらぎ、霊夢を弾き飛ばしたのだ。

 

「うわっ!!」

「霊夢!」

「霊夢さん!」

「まったく危なっかしいわね……」

 

 しかし、その直後にスキマから現れた紫が霊夢を抱き止めていた。

 幸い霊夢に怪我は無く、抱き止められたことで衝撃も無かったようだ。

 

「弾き飛ばされるとはね。やってくれるわ」

「……」

「紫?さっさと下ろしてよ」

「あれは……まさか……」

「ちょっと紫!」

「あ、ああ……ごめんなさいね霊夢」

「どうしたってのよ」

「あれ……あの結界の編み方、あなた見覚えがないかしら?」

「はぁ?編み方なんて……え?」

 

 結界にも、人それぞれ展開の仕方がある。

 早苗も本来は巫女であるため九字刺しの結界や星形の結界を展開できるのだが、その展開の仕方が【編む】事なのだ。

 編み方によって強弱も決まり、例えば九字刺しは結界として上等なものに当たる。

 霊夢の二重結界も同じで、本来は一重のものを二つ重ねることによって強化しているのだ。

 そして、霊夢の結界……二重結界は、本来霊夢の母親、先代の博麗の巫女の物である。

 目の前にあるのは、その結界の強化版……いや、まったく別物と言えるが、先代の結界、それと同じものなのだ。

 

「どうしてお母さんの結界が……?」

「確か……あの娘は霊夢に後を任せて境界の外に出て行ったはず……なのになぜこんなところに結界が……」

「でもとにかく、これで方法は何となく掴めたんじゃないの?」

「まあそうね……この事について追求は後回しにしましょう」

「じゃ、どうやって破るの?」

「……私の四重結界と、霊夢の二重結界を合わせればなんとかなりそうだけれど……リスクも伴うわね」

「リスク?」

「失敗すれば……良くて大怪我、悪くて死ぬわよ」

「んー……まあここでウダウダやっててもしょうがないっちゃしょうがないし。いっちょやりますか」

「話を聞いていたのかしら??霊夢」

「半分ね」

 

 そう言って霊夢と紫は笑いあった。

 なんだかんだで、このコンビはいいコンビなのである。

 

「それじゃ霊夢、タイミングは貴女に合わせるから」

「了解。魔理沙と早苗はさっきと同じで離れてた方が良いわよ」

「は、はいっ!」

「スタコラサッサとな」

 

 魔理沙と早苗がちょうどいい距離まで離れた瞬間、場の空気が変わった。

 空気が震えている。

 霊夢と紫が、呼吸を合わせ始めた。

 威圧感が、辺り一帯を包んでいる。

 

「博麗の名において、眼前に立ち塞がる如何なる結界をも許しはしない!」

「『幻想郷の賢者』八雲紫の名において、我が眼前に存在する結界は打ち破る!」

「夢符!」「境符!」

「「夢との境『六重結界』!」」

 

 二人が同時に宣言したスペルカードは新たなスペルカード、夢境『六重結界』に変化していた。

 本来ならば一人が一つのスペルカードを使うのだが、今回は勝手が違う。

 幻想郷の異変に挑む為に、二人が生み出したものなのだ。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 結界同士が干渉を始めた。

 ゆっくりと、だが確実に蝕んでいる。

 しかし、後一歩。

 後一歩、足りない。

 

「霊夢っ……!このままじゃまた弾き飛ばされるわよ……!!」

「分かってる、分かってる!けど……これ以上はっ!!」

 

 

「ところでさ、誰か一人……火力重視な奴を忘れてないかい?お二人さん」

 

 突然、白と黒の洋服を着た少女が視界に入ってきた。

 それは紛れも無く、火力ばかりを追い求めている魔法使いで、その手には、白黒と同様に彼女を象徴するアイテムが握られている!

 

「魔理沙!?記憶が戻ったの!?」

「いいえ霊夢、彼女は元から記憶はあったの。ふざけて忘れているフリをしていたみたいだけど」

「とにかく、一歩が足りないんだろう?あと10秒保ってくれ」

「……!!」

「面白いじゃない、やるわよ霊夢!」

「もちろん!」

 

 それからの十秒は、とても長かった。

 魔理沙が魔力の充填を開始し、二人は結界からの反発に絶えているだけだったが、それは彼女たちにとってとても長い時間だった。

 7

 

「くぅぅっ!!」

「博麗の巫女とあろうものがこんなところで音を上げるのかしら?みっともないわよ!」6

「ざっけ、ちょっと気が抜けただけ!」5

 

 4

 

「もうすぐだ!」3

「まだ……まだぁ!!」2

「ぐぅぅぅぅぅぅぅっ!!」1

「待たせたな二人とも!」

「遅い!」

「もっと早く出来ないのか……しらっ!」

「さあお見せしようか、この魔法使いの力を!魔砲!『ファイナルマスタースパァァァァァァァークゥゥゥゥ』!!」

 

 魔理沙が持つ八卦炉から、七色の光が放たれた。

 閃光が辺りを包む。

 一瞬、無音の世界が訪れた。

 そして、後に残ったのは。

 

「結界は……破れた!」

「はぁ、良かったわ……疲れた……」

「はぁ……はぁ……やっぱ……火力だよなぁ……」

「みなさーん!」

 

 跡形も無く消滅した結界と、ボロボロになった少女たちだけだった。

 

「……さて、紫様も霊夢もボロボロのクタクタだろうからとご飯を作って迎えに来て見ればやっぱりそうだ」

「らーん、疲れたわー」

「はいはい……」

 

 紫が駄々をこねている。

 早苗はどうしたものかと慌てていて、霊夢も魔理沙も疲れきって地面に寝転がっている。

 

「あー……神社だけでこんな大変なんて嫌がらせじゃない……」

「いいんじゃないか、面白くて……」

「あんたは気楽ねぇ……」

「気楽なほうが楽しいじゃないか……」

「まったく……」

「ほら霊夢、魔理沙、二人とも一回マヨイガに戻るわよ!」

「あいつは楽でいいなぁー……藍におんぶされて……」

「まったくだぜ……」

 

 終始愚痴を言っていた霊夢と魔理沙だったが、最後には早苗に叩き起こされた。

 神社の結界は解けたが、残りはまだまだある。

 結界の謎。

 記憶と能力の消失の謎。

 この異変は、始まったばかりだった。


 
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