No.366146

東方天零譚 第四話

まっきーさん

序盤から強いと噂のアステファルコンさんです(笑)
思いつきで始めたシリーズですが、結構書いていて楽しいです。

2012-01-21 02:54:58 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:546   閲覧ユーザー数:538

エレベーターで上昇し、地上に出た。

一応、空は幻想郷と変わりないようだが、周りの景色は全然違った。

地面も建造物も全て人工物で出来た世界。

しかし、そのほとんどはヒビが入っていたり崩れていたりした。

「ふぅん。これがこの世界の景色なのね」

天子は周りを見渡し、一言で感想を述べる。

そんな天子の呟きにも、やはりゼロは返事をしたりなどしなかった。

まぁ、特に期待していたわけでもないのだが。

そのとき、天子が耳につけていたインカムから通信が入る。

「無事に外に出れた?」

「えぇ、この世界の景色を満喫していたところよ」

「この世界…?」

「あんまり深く考えなくていいわ。で、どこに向かえばいいんだっけ?」

「えっと…少し遠くに、黄色っぽい建物があるのが見える?」

「見えるわ。それなりの高さね」

「処理しせつは、その先よ!」

「了解。あの建物を超えればいいのね」

「おねがい、みんなを助けて!」

「もちろん、この天子様にまかせなさい!」

その言葉を最後に、シエルからの通信は途絶える。

そして、ゼロはそのやり取りを終えるのを待ってから、行動を開始した。

彼にとっても、この会話は意味のあるものだったからである。

わずかな時間ながらも、ゼロがどんな奴かわかっている天子なので、無口であることに対して特に何も言わなかった。

言わなかったけど、もう少し喋っても良いんじゃないだろうか、とは思っていた。

 

天子はシエルに協力することにした。

そして、そんな天子とゼロにシエルがお願いしたことは、レプリロイド処理施設の破壊である。

シエルは、まず真っ先に無実のレプリロイド達が処分されるのを防いでほしかったのだ。

そんなお願い―――ミッションとも言うらしい―――に対し、ゼロはもちろん、天子も二つ返事で了承した。

だが、ゼロはレプリロイドであるが故に問題なかったが、天子は生身であった。

そのため、シエルとの通信のやり取りには、専用の小型インカムを装着することにした。

また、天子は会話中に意思の疎通が図れなくては困るという理由から、この世界における大体の基礎知識は教えてもらった。

なので、エレベーターやインカムなどの幻想郷には無かった固有名詞についてはおおむね理解出来ていた。

しかし短時間でこれが可能なのは、天子が頭脳明晰であることとシエルが的確に教えたから、という理由がある。

また、天子は「まぁなんとかなるだろう」という幻想郷の住人らしい、ゆるい考えなので、ある程度聞いただけで終わったということもあったのだが。

 

そんな訳で、天子とゼロは処理施設目指して走り続けた。

途中、メカニロイドがぞろぞろと出てきたが、ゼロも天子も持ち前の武器で難なくこれらを撃破しながら進み続けた。

天子は、戦闘におけるゼロの動きをじっと見ていた。

遠距離からバスターの銃弾で敵にダメージを与え、近づいてセイバーで斬る。

ゼロの基本戦法はこのパターンであった。

たまにバスターをチャージして攻撃したり、小さくジャンプして敵を斬るなどの戦法もあった。

「でも、これは見習うべきね」

天子はそう言って、先ほどゼロが敵を倒したように、遠距離から要石を発射する。そして、ある程度ダメージを与えたところで緋想の剣で斬る。

そう、天子はゼロと同じ戦闘スタイルを取っていた。いや、とらざるを得なかったのだ。

「いたっ」

うっかり敵と接触してしまい、天子がうめく。

そう、この世界に来て以来、どうも体の調子がおかしい。

以前ならば接触してもどうということはなかったのだが、敵に触れるとダメージを受けるようになってしまったのだ。

それだけでなく、以前はそれこそ敵をバラバラに引き裂けるくらいに剣を振るうことが出来たのだが、今は横薙ぎに一振りすることしか出来ない。

要石にしても、もう少しチャージして威力を高めることが出来たはずなのに、今は少ししかチャージすることが出来ない。その反面、小さな要石であれば連射が出来るようになったというメリットもあった。

そして空を飛ぶこともレーザーを発射することも出来ない状況である。敵と接触しては駄目なのであっては、どすこーいっ! と敵に突っ込むことも出来ない。

出来ないことだらけで、正直やりにくい。

だからこそ、無駄なく戦うゼロの戦い方は参考になる。

というか、似ている。

ゼロも見た限り通常弾のチャージショット、それとセイバーを一振りしかしていない。

彼もまた、今の自分と同じようになんらかの制限を受けているのであろうか?

天子は、そんな風に考えていた。

そして、天子がゼロを見ていたように、ゼロもまた天子のことを、天子の戦う姿を、そっと見ているのであった。

 

しばらく進み、当面の目標であった黄色い建物についたあたりで雨が降り出し、風が吹いてきた。

だが二人はそんなことを気にせず、高い壁を蹴りあがってゆく。

屋上にあった緑の石がついた機械を斬り壊すと、風が止んだことから、どうやら風を発生させていた装置らしい。

そのまままっすぐ進んでいった辺りで、ふとゼロがセイバーを見た。

「…」

ゼロは何かを確かめるようにセイバーを軽く振るった後に、紫の頭を持ち胴体が地面から競りあがってくる敵にダッシュで一気に近づいた。

セイバーの一振りではあの敵の胴体を倒すことは出来ないはず。

そう思った天子であったが、ゼロはセイバーの一振りを二回行ったのではなく、セイバーを二振りすることで隙無く敵の胴体を斬り壊した。

「なるほどな…」

そう呟いたゼロは、調子よく敵を倒していく。

それを見て、天子はぶっちょう面をしていた。

「なによ、出来るなら初めからやりなさいよね……」

なんで天子はいちいちゼロに対して色々なことを考えているのか、本人にとっても良くわからなかった。

ただ、なんとなく気になる。ゼロは、そんな気にさせる存在であった。

最も、この時の天子にとってはただの興味本位から来るのかもしれないが。

そんな道中を経て、遂に二人は処理施設と思われる巨大な建物へとたどり着いた。

目の前には特徴的な壁がある。事前にシエルから聞いた話によると、触れると自動で開く扉らしい。

と、そこでシエルからの通信が入る。

「処理しせつはその向うよ」

やはりここが処理施設で合っていたらしい。そのことを確認して、二人は中へと入る。

二つの扉をくぐった先は、広い空間となっていた。

全体的に殺風景である中、壁には赤い血の跡がいつくもあった。恐らく処理されたレプリロイド達のものであろうと天子は予測した。

そして、部屋に入った二人に対し、目の前にいた何者かが話しかけてくる。

「私は、四天王ハルピュイアさまのごめいれいでスクラップどもの始末をしているアステファルコンだ」

胴体が緑色で、両手が細長い楕円の、全体的に鳥のような印象を受ける敵であった。

「ああ! 助けて! 助けてくれ~」

ふと床の底から助けを求める声が聞こえる。どうやらまだ無事らしい。

「オマエラもスクラップどもの仲間だな? ふふ、ついでだ。オマエラもいっしょに始末してやる!」

アステファルコンはそう言うと、一気にこちらに向かって突進してきた。

それと同時に床が動き出す。ゆっくり下へ下がっていることがわかった。

「ちょっと、もしかして処理装置が動いているんじゃない!?」

背後の壁を蹴りあがりながら天子が叫ぶ。その叫びを聞いてシエルが答えた。

「このままだと、あと数分で仲間が処分されちゃう!」

状況は一気に切迫していた。

「ゼロ! 処理装置の動力を探し出して壊して! 私はこいつの相手をする!」

こちらの世界の動力がどんなものかわからない以上、自分は戦闘をしていたほうが良いだろう、そう判断しゼロへと指示を出す。

ゼロは天子を見て一言、

「わかった」

とだけ言うと、部屋の奥や天井などを調べ始める。

「ふんっ、やっと話したわ、ねっ!」

喋りながらも攻撃を忘れない。壁を蹴りあがりながら要石を連射する。

いくつか被弾するもアステファルコンは動じずに腕を大きく広げる。

すると、壁蹴りをしていた天子の体と壁が離れる。敵の腕に吸い寄せられているのだ。

「ちょ、ちょっと吸い寄せとかずるい!」

慌てて離れるようダッシュするが、それでも引き寄せられる。

そして、唐突に体が軽くなり、思わずつんのめってしまう。

そんな天子の隙を逃さぬようアステファルコンは突進し、天子に体当たりをかます。

「うあっ!」

ダメージを食らい怯む天子。だがそれも一瞬、至近距離にいるアステファルコンに緋想の剣で切りかかる。

だが、どうも敵は連続してダメージを与えることが出来ないようだ。要石の連射も最初の一発は効果があるようだがそれ以降の弾が効いている様子は無い。

そして、もう一つ。天子には気がかりなことがあった。

……あれ、気質よね?

アステファルコンの体からは、細い糸のような、いわゆるオーラのようなものが立ち上っている。

確かにその形状はこれまで天子が見てきた、相手の体から放出される気質であった。

だが、これまで見てきた緋色ではなく、黄色であった。

なんで気質の色が違うんだろう?

そんなことを思考しつつ、敵の攻撃はきっちりとかわす。

アステファルコンは壁に張り付くと地面に向かって棘のようなものを射出する。

あれに触れるとダメージを食らうことは見て取れるので、敵とは反対側の壁を蹴りあがることで回避する。

そして、奴が突進してきたら、勢い良く壁を蹴った反動でジャンプをし反対側へ移動。しかる後に要石で射撃攻撃。

腕にあたると弾かれてしまうが、他の部分に当たる分にはダメージが通るようだ。

そうして、冷静に戦闘を続ける中で気質について思考する。

黄色……黄色……あれ?

ふと、天子は思い出した。

そういえば最初に緋想の剣で斬ったゴーレムから放出されていた気質も、黄色だった気がする。

あの時は無我夢中だったから深く考えてなかったけど、これってどういうことだろう?

そんな共通点を見つけた天子。だが、これ以上は考えてもしょうがないだろうと思考を中断する。

それよりも今はこの状況をなんとかしなくては。

今は要石でチマチマとダメージを与えている状況である。だが、果たしてこのペースで処分される前に倒すことは出来るのだろうか。

最悪、こいつを倒せなくてもゼロが動力を止めてくれればいいのだが……。

アステファルコンがまた壁に張り付く。それを見て天子は壁を蹴りあがる。

だが、そこで敵は地面に勢い良く腕を突きつけると、そこから電流の塊のようなものを地面に流す。

それは壁へと伝い、天子を襲った。

「きゃあっ!」

思わず地面へと落下する天子。そこへアステファルコンは突進し、天子を壁際へと吹っ飛ばす。

「このぉ……っ!」

接近戦は分が悪いので、距離を取って要石で反撃するが、腕にあたり弾かれてしまう。

もっと威力を高めないと……!

そう思っても、チャージが上手く出来ず、どうしても威力のある要石を射出出来ない。

やむなく連射するが、微々たるダメージでは間に合わない。

「もう、なんでチャージが出来ないのよ!」

そう天子が叫んだ時。

ふと、要石が光った気がした。

思わず要石を見る天子。そして、要石から力強さを感じた。

もしかして、今なら……。

敵の攻撃を回避しながら、要石へと力を注ぐ。

チャージが始まり、要石に力が溜まる。

一段階……さっきまでならこれ以上は溜まらなかった。

だけど、今。要石には更に力が溜まっていくのを感じる。

そう、この力が溜まった感じは、幻想郷で自分がいつもチャージ出来ていた段階だ。ならば……。

回避し、アステファルコンの隙を狙う。

「あいつは壁に張り付くはず……」

敵の攻撃の半分は、壁に張り付くことが攻撃の起点になっている。

そして、そのときはほぼ確実に攻撃は通るのだ。

「落ち着いて、そのときを狙う……っ!」

よけ際に緋想の剣で斬りつけつつ、チャンスを待つ。

アステファルコンが腕を広げ吸い寄せてきたが、ほどほどにダッシュすることでやりすごす。

そして、敵がしびれを切らして壁へと張り付いたその瞬間。

「今だっ!」

天子は最大にまでチャージした要石を撃ち放つ。

それは敵の頭部を狙いたがわず撃ち抜いた。

数度光り輝いたのち、アステファルコンは爆発した。

それと同時に、床もまた爆発し、天子は落下する。

だがすぐに地面に着地し、少し遅れてゼロが着地するのを見た。

「動力炉を破壊したら床も爆発した」

簡潔に事後説明を済ませると、もう話すことは無いと言った様子でゼロは佇んでいた。

「あっそ。あんた、もう少し喜んだりしたら?」

多少あきれつつも、でも無事に敵を倒せたことに天子は少なからず充実感を覚えていた。

「はは…ありがとう、まさか助かるなんて思ってませんでした」

震えながらも、三人のレプリロイド達は天子とゼロにお礼を言ってきた。

「本当に…ありがとうございます」

「よかったわね、あんたたち。命拾い出来て」

「本当です…感謝してもしきれません」

三人は口々に感謝を言うが、その内の一人がポツリと言った。

「私は、まだ足がすくんで動けません。ははは…」

無理に笑おうとしたがために変な顔になったので、天子は素直に笑った。

「あんた、変な顔になってるわよ」

「わ、笑わないでください、もう…」

一人恥ずかしがっているのを笑いつつも、別の一人が続けて言う。

「確かに足はすくんでいますが…あるけるようになったら私たちはベースに戻ります。もう大丈夫ですから、あなた達はさきに行ってください」

「そうね。そうするわ」

「ゼロ、天子。ありがとう」

ここで、シエルから通信が入った。

「目の前に、雷マークのチップが浮いているんだけど、わかる?」

そう言われて、天子は初めて空中に四角い何かが浮かんでいるのを認識した。

「それはサンダーチップのようね。とりわすれずにベースにもどってきて!」

と言われたので、とりあえず天子はサンダーチップへと近づいた。

と、そのとき、サンダーチップから黄色の気質が立ち上っているのを天子は見た。

「また、黄色の気質……?」

不思議に思う天子だが、そのときサンダーチップから立ち上る気質が天子の持つ緋想の剣へと吸い込まれていった。

「えっ……?」

戸惑う天子。なぜならば、緋想の剣を取り巻く気質が黄色に変わっていたからであった。

「緋想の剣の気質まで変わるなんて……」

これまで色が変わることなんて無かった。だが、良く考えれば違う色の気質を斬ったことが無いのだから当然かも知れない。

「なんだかよくわかんないけど、とりあえずこれはゼロに渡すわ」

そう言って天子はゼロにサンダーチップを渡す。ゼロはおとなしく受け取ると、出口のほうへとさっさと歩き出しいった。

「最後まで無愛想なんだから」

そう文句をつけつつも、これまでの幻想郷の生活とは全然違った、刺激に満ちたことばかりであったために、天子は嬉しそうにゼロの後を追いかけて行った。

 


 
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