No.362002

ロウきゅーぶ! 真帆アフター ~Shiny-Frappe・真夏に咲く大輪の花~3

羅月さん

ひなたがあのキャラに見えた方は概ね正解です。メモ帳に書く程の事でもない話ですが。

2012-01-11 20:08:55 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:990   閲覧ユーザー数:980

「てか何だよその服、袖が余ってんじゃないか。何か、自分の小ささを棚に上げて見栄でも張ったか?」

「ボクの身体のサイズじゃ胸が大きくて入りきらないんだ。この年齢にもなって未だにすっとん共和国のキミには未来永劫分からないだろうが」

「言いやがったな……」

 

どうやら会えない4年間が色々変えてしまったらしい。純朴なヒナを返してくれ。などと思っていると、また誰か入ってきやがった。

 

「まあ今日はボクだけ来てるわけじゃないんだが……」

「久しぶりだな、真帆」

「ナツヒっ……そうか、そう言う事かよ。そこがくっついてたなんて全然知らなかった」

 

竹中夏陽(タケナカナツヒ)、かつては何やかんやで何時も喧嘩していた喧嘩仲間だ。だが幼き日の彼とはまるで違う。大人びていて背も高い。声も低くて、その隣にいるヒナの父か何かに見えてしまう。

 

「まあ、色々あったからね……とりあえず手短に用件を言わせて貰おうか」

「なんだよ、何かあんのか?」

「硯谷女学園と慧心学園の親善試合がね。ついでに、あの時の雪辱を晴らしたいとの要請が藍田未有(アイダミユ)から来た。どうせなら、親善試合の日にやりたいらしい」

「あのちびリボン……それで……私にその試合参加しろってのか?」

「ついでに慧心の後輩たちにも色々指導してやって欲しいと、我らが恩師の要望だ」

「にゅふふ、そう言う事なのだよ。別にあんたんとこ来月末まで暇だろ、愛莉からOK貰ってるし、大学でもなお続けて……」

 

駄目だ、話にならない。私は踵を返した。ちょっと待てよ……そんな声が聞こえた気がするがどうでも良い。知らないわけじゃないだろうあんた達、よくいけしゃあしゃあとそんな事が……

 

「また逃げるのかい?」

「……ヒナ、今何つった?」

「また逃げるのかいって言ったんだ」

「はん、高校入ってすぐバスケ辞めたあんたに言われたくないね!!!!」

「それでもキミよりましだと思うけどね……何なら、勝負するかい?」

 

あからさまな挑発だった。それに乗ってしまった自分が悪いのだが。だがひなたが中学卒業と同時にバスケも卒業したのは本当の話だ。

 

そんな奴に……確かに悪いのは自分だが、それをまた蒸し返されるなど死んでもごめんだ……!!!!

 

「折角広いコートを使えるんだ。時間は1分、それまでにボールをボクから奪ってゴールにシュート出来たら勝ちだよ。何せ、敵に体当たりでぶつかって活路を見出す、それがPFの役目だろう?」

 

バスケットボールを持ちコートの真ん中に歩いて行くひなた。袖ダボダボで胸きつきつ(少々許し難い面ではある)、おおよそスポーツ向きではない服装で、一分も時間をくれるなんて舐め過ぎにも程がある。

 

「10秒でけりをつける」

「面白い……やってみろ」

 

容赦は無かった。数秒でけりをつけるつもりだった。フェイントも何も無い速攻、風が吹き抜けるようにボールをかすめ取る。

 

ボールは自分の右手の中にあった。それをそのままドリブルしゴール手前にまで走る。他愛もない、だが本気で完膚なきまでヒナを負かさなければならなかった。

 

息を吸う。いつものフォームでゴールを見据える。かなり低いゴールネット、それでも狙いは一つ。膝を屈め、腕を伸ばした。

 

……しかし。

 

「行けっ……っ!!!?」

「気付かなかったみたいだね」

 

先程自分が見せた神速を越えるスピードで、ヒナはゴール前に移動し、その身長に見合わない跳躍でボールを奪い取った。

 

類稀なる努力の末フォワードとしての適性を開花させたヒナのスピードとジャンプはあの時と比べても遜色ないどころか遥かに上回っている。

 

だがそれ故に非常に腹が立った。全てが彼女の筋書き通りだったのかと思うと、非常に腹立たしく怒りがこみ上げてくる。

 

「っ……まだ終わってないっ!!!!!!」

 

どちらも本気だった。ヒナは自分の武器を最大限生かし低空ドリブルのままスピードを以てひっかきまわす。自分もそこまで背が高い方ではないがヒナのつくボールは非常に奪い辛い。

 

小学生用の狭いはずのコートがこんなにも広く感じるなんて……そしてやっとコーナーに追い詰めた、一対一ではボールをパスする相手もいやしない。時間は残り十秒、強引に当たりヒナの機動力を無効化しボールを奪う、時間が無い、私はゴールましたに入り込み、そのまま高く跳びあがった。

 

「くっ……させるかっ!!!!!」

 

ヒナの最高点は私の最高点よりも高かった。このままではダンクを決める前にボールを弾かれてしまう。以前もこんな事があった、同じ境遇で対策を練っていないわけが……

 

「無駄だぁあああっ!!!!!!」

 

ダンクでは無く、ほぼ垂直にボールを打ち上げる。ヒナの手はボールをかすめ、ボールは上空へと投げ上げられる。ヒナとボールは同じように重力に引かれ、その距離は伸びこそすれ縮む事は無い。

 

『頑張れ、マホ……っ!!!!!!』

「……っあぁああぁああああっ!!!!!!!!」

 

フッ……ガタンッ、ガタンッ、ガタンガタンガタンガタンッ……

 

ドン、ドン、ドン、ドン……

 

「……………」

 

タイミングも狙いも完璧だった。だがヒナの掠めた右手がボールの軌道を僅かに変化させ、枠に散々弾かれたボールはネットの外へ転げ落ちたのだった。少なくとも周囲はそう思っていた。

 

「……………」

「あっ、待てよみs……」

 

美星の説得も聞かず、踵を返してその場を後にする。悔しさと哀しさをその身に湛えたまま。

 

「あんた……バスケ辞めたって……」

「ああ、そうだよ……ボクの進学先のバスケ部はボクが入ってすぐに潰れたよ。兄(に)ぃの気持ちが痛いほどよく分かった。でもそれをそのまま伝えるのは酷だったんだよ……」

 

気丈に振る舞っていたヒナが悲痛な表情をかつての恩師に見せる。達観した所はあっても年相応の幼さが顔をのぞかせていた。

 

「あれからバレー部で鍛えながら自主練も欠かさなかったんだけど……本当はズタズタにプライドを引き裂いて、奮起してほしかったんだ。だけどやっぱりマホは凄い。凄いからこそ……凄く悲しいんだよ」

「ヒナ……」

 

哀愁は風の音に乗って。荒涼とした体育館を撫でては別の所へ流れて行く。


 
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