No.360143

天界での初日の出

あけましておめでとうございます。2012年になりましたね。今回は東方でひさしぶりに天子ちゃんを出したかったので衝動のままに書いてみました。ノリで書いた部分もあるので、結構粗があるかもしれないですが……。さて、ちょっとしばらく投稿をお休みしようかと思います。久しぶりにいいネタが浮かんだのでプロット作成と骨格づくりに時間を掛けようかと思います。アップできるようになったら挙げる予定です。

2012-01-07 23:59:59 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:380   閲覧ユーザー数:377

丑三つ時はすでに過ぎ、妖怪ですら眠りにつこうかというほど深夜の時間。雲海を遥か下に敷くここ、天人たちの住まう天界も、すべてのものが穏やかな旅立ちの世界へと堕ちてしまっていた。

そんな常世もかくやあらむ、というほどに真っ暗な闇の中。ぽつん、と一滴の水とも思える光が一つだけ灯っていた。

光は弱弱しく、ただし決して消えず。そこだけがかろうじて残った現世のようであった。

そこには、4人の人影が見える。

赤と白のドレスに身を包んだ、楽園の巫女、博霊霊夢。

白と黒の洋服とトレードマークのとんがり帽子をかぶった、魔法使い霧雨魔理沙。

ヒレのようなフリルが目に付く、リュウグウノツカイである永江衣玖。

そして青く長い髪を吹き上げる風が撫で付けるままに悠然と立つ、不良天人、比那名居天子。

これら4人の人影が衣玖の持つ明かり――カンテラの光に寄り添うように、天界の一角に集まっていた。

足元から強烈な風が昇ってくる。視線を下に向けると、底を見つけられないほどに暗い漆黒の闇。けれども、足を踏み外せば確実に死が訪れる。

そんな断崖絶壁の際に4人はいたのだった。

崖に腰を下ろした霊夢がブルブルと震えながら言った。

「ねえ。まだなの?」

「まだですね。あと四半刻は待つ必要があるかと思います」

 衣玖は平然と答える。霊夢は渋い顔をして遥か先の彼方へと視線を向けた。崖が怖いのではない。闇夜の冷気と強風が体温を無理やりに奪っているのだ

「いい加減にしないと本当に凍え死んじゃうわよ。なんでこんなところでこんな思いしなくちゃいけないの」

「そう文句言うもんじゃないぜ。それだけの価値があるってことだ……くちゅん」

 かわいらしいくしゃみをして、魔理沙は香霖堂で買ってきた白い袋を揉みしだいた。

店主の説明によると、それは中に細かい粒が入っており、空気と交じり合うと高温を発生させるという。

実際、その袋は今、かなりの熱を発している。そのおかげで魔理沙は霊夢ほど震えを起こしていないが、やはり寒いことに変わりはないらしい。魔理沙は必要以上に袋を揉み込んでいる。むしろ揉むことで意識を寒さから切り離しているのであった。

「なさけないわね。これくらいで音をあげるようじゃこの先生きのこれないわよ」

「この先ってどの先よ。……ていうか、なんであなたはそんな平然としてられるわけ?」

 じろり、と仁王立ちで平然とする天子を睨みつける。

 天子は冷気も強風もどこ吹く風、とでも言うように腕を組んでどこまでも続く闇を見据えていた。

「当たり前じゃない。天人をなめるんじゃないわよ」

「気合で我慢してるだけですものね、総領娘様」

「ちょ、衣玖!?」

「ははは。さすが天人さまだぜ。無念夢想の境地ってやつか」

「むー」

 天子がふてくされ、衣玖も魔理沙も笑い声をあげる。しかし霊夢は、ただ震えて歯を打ち合わせるだけであった。

「それにしても、霊夢さんはなぜそんな軽装でいらしたんですか?真夜中に山の上ともなればこれくらい寒くなるのはわかっているでしょうに」

「わかっていればわたしだってマフラーの一つや二つ持ってきてたわよ!」

 衣玖に噛み付くかのように霊夢は怒鳴り声をあげた。そしてすぐに、となりの魔理沙へと視線を向ける。

その目は、明らかに敵意を示していた。

「人がせっかく布団でぬくぬくいい夢みていたら、まだ暗いってのに突然叩き起こされて『山に行こうぜ』なんて言われて、無理やり連れてこられたんだから。そのせいで、わたしは何の準備もできなかったんだからね」

「……心中、お察しします」

「いやー、どうしても今日霊夢を連れて行きたかったからさー。なんというか、その」

 敵意の眼差しを向けられた魔理沙は、あさっての方角を向くことで視線を逸らす。それでもチクチクと刺さる視線はいまだ離れなかった。

「ま、地震は忘れた頃にやってくる。地震も不幸も警戒を怠たるべからず、というところね」

「……人事だと思ってこの不良天人は」

「人事だもの」

 天子は霊夢の視線にもどこ吹く風。まったく受け付けないで相変わらず遥か彼方の闇を見つめていた。

その見つめる先が、変化を始める。

「ん。そろそろね衣玖」

「そうみたいですね」

 闇ばかりが広がっていた雲海の端に、オレンジ色の光が現れる。始めは点であったそれは、だんだんと線となって広がり、面となって範囲を増し、やがて霊夢たち4人を包み込んだ。

「おー。思っていたい以上に綺麗だぜ」

「……まあ、そうね」

東の空より、太陽が昇る。

それはこの世界が新たに生まれ変わる一瞬でもあった。

闇が終わり、光が溢れる。

過去が流れ、未来が訪れる。

去年が終わり、今年が始まる。

「あけましておめでとう」

 誰からともなく、そう告げる声が聞こえた。

 

                      †

 

「ところで霊夢」

「なによ」

 太陽が完全に昇り、雲海をまばゆく照らすなか、天子は気になっていたことを霊夢に聞いた。

「あなた、神社の方はいいの?元旦なんだから初詣とかあるんじゃ……」

「あるわよ。だから昨日は早く寝てたんじゃない。それを……」

 ギギギ、と音が聞こえるようにゆっくりと首を回す。

その先には、今にも箒にまたがって帰ろうとする魔理沙がいた。

しかし、霊夢はまるで瞬間移動するように魔理沙のそばに近寄ると、箒をねじ切るように掴んだ。

 魔理沙が「ひっ」と呟く。

「あなたには言いたいが山ほどあるの。楽しみにしていろよ……」

「い、いや霊夢。こんなに綺麗な初日の出なんてそうそう拝めるものじゃないぜ。それを分かち合いたくてだな……」

「そう。じゃあ、このあとの書き入れ時も分かち合ってイタダキマショウカ」

「ちょ、鬼が……鬼巫女がーー!!」

 引きずるように天界を後にする霊夢と魔理沙を振り返らぬよう、天子と衣玖は昇る太陽に今年一年の安泰を願うのであった。

 


 
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