No.352899

真恋姫無双「すーぱー龐統伝 イケイケ♪ 走る暴風たちと鳳雛先生」

Thyleさん

超久しぶりの1話完結の短編です。今回は雛里が主人公です。第二回同人恋姫祭り参加作品です・・・ってもう第三回じゃないか!
中々遅筆で前回はパスしました今回はクリスマスなのでなんとかクリスマスネタを盛り込みました。
読みにくい点やあやしいニホン語があるかもしれませんが、宜しくお願い致します。

追伸:投稿時間1分49秒オーバー・・(見なかったことにしてくださいw)

続きを表示

2011-12-26 00:01:49 投稿 / 全20ページ    総閲覧数:3022   閲覧ユーザー数:2778

真恋姫無双

 

<すーぱー龐統伝 イケイケ♪ 走る暴風たちと鳳雛先生>

 

 

 

 

 

 

 

 

                 龐統、字は士元 道号を鳳雛という。

            

              また人々から尊称を受け ”鳳雛先生” と称されている。

             その才 政略の伏龍、軍略の鳳雛と言われ、

             どちらかを臣下にしたならば天下を獲れるであろうと豪語

             されていた。

 

 

              しかし、龐統が歴史の舞台に登場したのは遅く、従父であ

             る龐徳公から脱ニートを言い渡され呉の孫権の下に渋々仕官し

             ていたが重用されず、馬鹿、もとい 人格者 の呉の重鎮 魯

             粛の推挙により劉備に仕官。

 

             

              その後、頭角を現し作戦立案から戦術指導と幅広く劉備軍の

             軍政と軍令を預かるようになった。

 

 

 

           そして今、赤壁の戦いが終戦してから数ヶ月後、劉備軍は天下三分の計

          の足がかりに荊州の武陵(ぶりょう)長沙(ちょうさ)桂陽(けいよう)零陵(れいりょう)

           南部四郡から西の益州 巴蜀を侵攻しているのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朱里ちゃんへ

 

 巴蜀では初雪が降り始めました。

 

お元気ですか。 私は元気です。

 

 愛紗さんとの荊州の防衛はどうでしょうか?赤壁の戦いが終わった

今、呉の孫権さんは南部四郡奪還に兵を動かしてくるかもしれません。

しかし、荊州に朱里ちゃんがいるから私は大船に乗った気持ちで入蜀できます。

 

 

 今回の入蜀で大軍を率い戦をするのは私は初めてなので、緊張し舌を噛まず

に喋れるか、みんなが私の命令のとおり動いてくれるか等色々と不安や心配があります。

けど、朱里ちゃんが桃香様やご主人様に入蜀には私の才を用いるように説得したくれた

お陰で皆さんも私に信頼して頂けております。

 

この信頼に答え桃香様やご主人様にいっぱい褒めてもらえるように頑張ります。

 

エッへへへ。

 

それでは朱里ちゃんも体に気をつけてね。

 

追伸

成都の八百一本贈るから楽しみにしていてね。

                              雛里

 

 

 

 

 

 

 

 

 

********

 

 

 

「あわわわ、りゅ…りゅう、劉州牧を討つには三つ計略がありますしゅぅ」

 

 雛里は顔を真っ赤にして、つば長の帽子を深くかぶり出来る限り雛里の言葉

に傾聴している人達を見ないようにしていた。

 

 

 桃香達は成都にいる益州州牧 劉璋から招聘され益州防備の為に成都へと兵馬

を動かしていた。しかし、劉璋の家臣から桃香達を成都に招くことは虎を招くこ

とと同様と説得され優柔不断な劉璋はその諫言を受け入れ桃香達をここ益州にあ

る巴の小城に駐留を余儀なくされていた。

 

 

 これを聞いた一刀以外の主だった将軍達は激怒したが、(あるじ)である

桃香が同じ劉姓であることを理由に表立って不平不満を出さないでいた。

 

 

しかし、劉璋は桃香達を慰撫するどころか漢中の米賊  張魯天師 討伐を 『命令』 してきた。

 

 

 これに対して流石の桃香でも憤慨したが 仁義を錦の御旗(みはた)に揚げ

ている手前劉璋を討つ口実ができなかった。

 

そこで雛里は劉璋に兵と糧米を借り受けることを願い出て

 

                 こちらの要請に応じるならば劉璋は信義があるとし、

                 応じなければ信義はないとして討つ口実になること

                                     

                                      を進言した。

 

 

そして、劉璋から送られた兵は皆老兵であり、糧米もごく少量であった。

 

 

 

 

これにより桃香の意思は決定し、成都にいる劉璋をどう攻めるかが検討されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雛里の正面には椅子に座った桃香と脇に立っている一刀

左右には鈴々・星等の将軍や実戦部隊の長達が雛里に注目していた。

 

 

                      「さぁ 雛里、話を続けて」

 

 一刀は優しく微笑みながら雛里に策を披露するように促した。

 

                      ご主人様の声……

                       重く心に響く、それでいて深い安らぎ

                        を与えてくれるような……

                         なんて心地良い声なの

 

雛里は天の御遣いの甘い声を聞き、あまりにも神々しい御姿(おすがた)に見惚れていた。

 

「雛里、どうしたのだ」

 

星の言葉に雛里は我に返った。

 

              「あわわッ! は、はい、

                  

                  上計としては昼夜強行軍で成都を強襲。

      

                  中計は関所を守る劉州牧の将を欺いて兵権を奪い成都を目指す。

      

                  下計では州境にある白帝城まで兵を引き劉州牧と対峙する

 

                                       でしゅぅ……」

 

 

雛里は赤面になりながら提示した策が間違っていないだろうかと心配になり恐る恐る一刀を見た。

 

                            「正 解」

 

 一刀はまるで模範解答を聞いた教師のように満足した表情をしていた。

 

                    

                       よかった。ご主人様も同じ考えだったんだ。

 

 

 雛里は安堵のため息を出し、一刀のいる位置より一段高く設けられた上座に座る頭領が

どのような決断を下すか固唾を呑んで見ていた。

 

 

                 「上計は寝ないで行くなんてカラダに悪そうだし…… 

                      下計では劉璋に弱腰のようにみえるし……」

 

 

 桃香は 「う~ん」 と唸って頭を捻っていた。

 

                      「雛里ちゃん、関所を守る将は?」

 

               「確か……

                 白水関を守る劉璋の将は楊懐と高沛という女性です」

 

                          「女か……」

 

ただ一言(つぶや)くと一刀は妖美に笑った。

この呟きを聞いた雛里は何故か背筋が寒くなるような恐怖を感じた。

 

               「あーご主人様がワルい顔をしている。 ワルい人♡

                 うん うん、ご主人様も乗り気だし。

                     よーし雛里ちゃん。中計でいこう 中計♪」

 

                           「ハイ♪」

 

桃香の家臣の中で新参者にすぎない雛里の策が採用され、

雛里は天にでも昇るような満面の笑みを浮かべた。

 

このときの一刀と桃香の妖しげな談笑が後日の禍乱(からん)を引き起こす前触れ

だったとは機略縦横の智謀を持つ雛里ですら予想もしなかったのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

********

 

 

朱里ちゃんへ

 

 

巴蜀ではまばらに雪が降り始めました。

お元気ですか。 私は元気です。

 

 

朱里ちゃん 聞いて。 今日重要な軍議で私の提示した策が桃香様に採用して頂けたんだよ。

この軍議で策を披露するとき私の心臓はバクバクするし何度も舌を噛んで物凄く緊張したんだ。

でも、ご主人様の優しい応援があったから最後まで言えたんだ。えッへへへ。

 

 

 万巻の経書を読み、六韜三略を究め尽くしてやっと念願の軍師中郎将になったんだから 

この戦で私の智謀の限りを尽くして勝利に導くように頑張るよ。見てて朱里ちゃん。

 

 

それでは朱里ちゃんも体に気をつけてね。

 

 

追伸

桃香様はとてもお優しいし、ご主人様も物凄く素敵だね。

                           雛里

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

********

 

 

「生きて虜囚(りょうしゅう)の辱めを受ける気はない!」

 

「あわわわっ、ですから楊将軍 

    お願いですからどうか桃香様のお話を聞いてください」

 

 

 桃香は雛里の策を用いて、全兵を荊州に転進するという噂を巴蜀中に広めた。

白水関を守る楊懐と高沛は成都の反劉備派からこれが事実がどうかを調べろとの

命を受けて、桃香達を慰撫する名目で劉備軍の居留地に訪れた。

 

そして桃香達は両名に対して返礼とばかりに宴が開かれた。

 

 この宴こそ雛里の策であり、かねての指示どおりに酒には薬が盛られ酔い

つぶれた両名の身柄を拘束することが目的であった。しかし楊懐の身柄を拘束する

ことが出来たが、運良く席を外していた高沛は桃香達の魔の手からまんまと

逃げられてしまった。

 

 

 

 

そして、宴の後片付けもそのままに縛り上げられた楊懐に桃香の志を聞いてもらい

漢王朝復興の大義に賛同してもらうために雛里は一生懸命に楊懐を説得しているのであった。

 

 

 

 

「力のない人を苛める世の中を、私がぜーったいに変えてみせるんだから!」

「我らはおっぱい村のおっぱい村長などを(あるじ)に選らばん!」

 

                     「……おっぱい村……」

 

桃香は涙目になりながらも必死で楊懐に理解してもらう為に多弁になっていた。

 

                     「桃香様……」

 

そんな様子を見ていた雛里は桃香をとても不憫に思い自分の胸を見た。

 

                る~る~る~♬ ツ~ルペ~タ~の~平~原~♪ 

 

雛里ははぁーと溜息をつき我が身の不甲斐なさを呪うのであった。

 

                「楊将軍……

                   どうしても……ダメなの……」

 

桃香は俯き加減に小声で尋ねた。それに対して楊懐は「口説い」の一言で一蹴した。

 

               「そう…… うん。うん。そうだよね。

                 騙し討ちのようになったけど

                  楊将軍をもてなそうとした礼だけは信じて欲しいの」

 

 

そう言って桃香は手を叩くと、銀製の大皿を持った一人の女官か静々と天幕の中に入ってきた。

 

               「……炒飯? なんのつもりだ」

               「宴ではお酒ばかりだったから、 

 

                     最期の晩餐に、 

 

                    炒飯を作らせたの。これで和解♪」

 

そう言って桃香は笑顔で炒飯をのせた銀製の蓮華(レンゲ)を楊懐の口元に差し出した。

 

楊懐はいぶかしそうな目つきで桃香をみた。

桃香は喜色満面な様子で楊懐を見ていた。

桃香から敵意は感じられない。

そう考えると炒飯の芳香に空腹を感じた楊懐は乱暴に差し出された炒飯を食べた。

 

 

                    「んぅ―――!?」

 

 

 口の中に広がるコクと芳醇な死の香り。

まるで死神が喉の奥で死のワルツを踊るかのような痛みと苦しみ。

最後の審判に墓穴から死者が這い出すかのような喉越し。

 

 

突然苦しみだした楊懐を見て雛里はあわわわッと驚いた様子で桃香を見た。

桃香は先程と一寸も変わらない笑い顔で楊懐を見ていた。

「早馬を出して愛紗ちゃんにとーても美味しーい炒飯を作ってもらったの」

 

「あわわわッ、 とっ、桃香サマそれは毒……」

「グフッ……はぁはぁ、私は、私は武人だ! 炒飯ごときで己の信念を変えるつもりはない!!」

「そう、楊将軍。 まだ たぁーくさん あるから残さず食べてね♪」

満面の笑みを浮かべながら桃香は更に蓮華(レンゲ)を差し出した。

 

そして、

愛紗特製の炒飯を完食したときには楊懐はもはやぐったりとしており、

 

 

                「劉備様は仁恵の素晴らしい聖君です……

                 劉備様は仁恵の素晴らしい聖君です……」

 

 

                           と小声でブツブツ呟く人形になっていた。

 

                「……雛里ちゃん。

                      悲しいけどこれが戦争なのね」

 

桃香は空の大皿を胸に抱きかかえハンカチで目元を押え悲痛な思いを雛里に語った。

 

                「ウン! よーし、

                 これをバネに蜀のみんなとも仲良くしようネ♪ ガンバルぞー!」

 

 この阿鼻叫喚を見ていた雛里は帽子を抱え、

  子兎のようにビクビクしながら桃香に弱々しく「御意」と答えたのであった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

                            五 日 後、

 

 

今にも雪が降り出しそうな天候のなか雛里は戦場(しょくば)で奮闘していた。

 

                    「あわわわッ! 

                      まず右翼はその場で待機してください。

                       次に中央、左翼の順に突撃してください」

 

 

雛里は伝令兵にテキパキと命令を出し、眼前にそびえ立つ白水関の攻略をしていた。

 桃香から下賜された子馬の 的盧(てきろ)に乗って前線を駆け巡り、複数の伝

令兵に命令を出し戦局を縦横無尽に変化させるまでに成長するようになっていた。

 

                        「ふうっ、これでよしと」

 

 

 白水関を一望できる残雪が残る小高い丘に登り

雛里は流れる汗をハンカチで拭いながら白水関を見た。

 

 

 白水関を守る高沛は少数の兵を率いて徹底した籠城戦をしかけていた。

雛里は親劉備派の法正・張 松に連絡をとり成都の撹乱を引き起こし

実質的に白水関は孤立無援の状態にしたのであった。

 

 しかし、白水関が落ちるのも時間の問題と考えていたが高沛の将兵の士気は高く

自体は膠着状態となっていたのであった。

 

雛里は一段落したのでこの丘で遅い昼食にと肉まんを背負袋から取り出し食べだした。

 

                           モグモグモグモグ゙

 

                        朱里ちゃん、どうしているかな……

 

                            モグモグモグ

 

                  この白水関を一日で陥落して、三日で成都に強襲したら驚くだろうな。

 

                             モグモク

 

                      これで朱里ちゃんに勝っかな。 えへへへっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                        「鳳雛先生!何処に!鳳雛先生!」

 

 

                       丘のあぜ道の方から雛里を呼ぶ声がした。

 

                        「は―い? 私はここです―」

 

 

 

 

 

 

雛里が返事をすると数人の兵士達が慌てた様子で駆け寄ってきた。

 

「鳳雛先生! 御遣い様が、御遣い様が はぁはぁ」

 

「ご主人様がどうしたのですか」

 

 

雛里は小首を傾げてながらこの小隊の長に水筒の水を渡した。

 

長は水を一気飲みするとやっと落ち着いたのか事情を説明しだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                「高 速 言 語 

 

                     カクカク―― シカジ――カ!」

 

 

 

                「エッ! 

                 ご主人様が撤退する部隊の殿をした為に敵中に孤立してしまったのですか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……鳳雛先生、カクカクしか言ってないのに何故理解できたのですか?」

雛里はこの長との異様なやり取りを見ていた兵にささやかなムネをそらしながら言った。

「それは私が軍師だからです♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

******

 

 その頃、一刀は指揮官として撤退する部隊の殿(しんがり)を引き受け

敵中に一人孤立していた。

 この戦が激戦であったかを物語るように一刀の周囲の残雪はまだらな真紅に彩られていた。

その雪の下にはかって味方であった者やそうでない者など無数の兵が死屍累々と横たわっていた。

 

 

敵兵はあたかもこの天の御遣いを恐れるかのように一刀を中心に蠢めく円を形成していた。

 

 

一刀は閉眼していた。

まるで今の自分の身に起きている危機を楽しむかのように。

 

 

両者の間の緊張がピークに達したとき、一刀は四方に鳴り響くように言った。

 

 

             「俺の名は北郷一刀。雑兵ども聞いたことがあろう!

 

                             そう俺が天の御遣いだ」

 

 

 光り輝く白銀のように反射する衣をまとい、

これ程の敵兵に囲まれても臆することがなく精悍な顔つきの若者

一刀の周囲を遠巻きに囲んでいた兵士達の間で動揺が走った。

 

 おい、アレが本当に噂の天の御遣い 北郷一刀か?

先の赤壁の戦で敵のみならず味方まで甚大な被害を出したという。

確か『死の運び手』というトンデモナイ技を使うらしい。

死の運び手!? ぷっ、なんだその恥ずかし呼び名は

だがヤツに……天の御遣いに挑んだものは皆五体満足にはいられないそうだ。

 

 

                  「何を迷っているのです。姦賊はただ一人です」

 

 

張りのある声を聞いた雑兵達は声の主の為に道を開いた。

 

                    「高沛将軍か」

 

細身の体に銅色の鎧を身にまとい、漆黒の髪を束ねたうら若き女将軍は

一刀の問いかけに露骨に嫌悪感をあらわに長剣をかざした。

 

            「天の御遣い、貴様はもう私の手中にいるのです。

                          大人しく投降しなさい」

 

            「勝気なお嬢さんだ。俺は逃げも隠れもしない。

                  さあ、俺を楽しませてくれるヤツは誰だ」

 

高沛は一刀の余裕の態度に苦虫を噛んだ表情で周囲の兵達に命令した。

 

 

            「あの者を縛り上げ、私の元に連れてきなさい!」

 

 

だが、兵達は一刀を恐れるかのように誰一人とも進み出るものはいなかった。

 

            「あの姦賊を捉えた者をこの戦の武功第一位とします」

 

高沛の戦功を聞いた兵士達にどよめきが走った。

だが一刀の周囲にいる兵士達から進み出る者はおらず、

何かを恐れているかのように遠巻きに囲んでいるだけであった。

 

                   「どけ、貴様ら」

 

乱暴に人垣をかきわけて一人の若武者が一刀の前に進みでた。

          

            「貴様が天の御遣いというなら、

                       このオレと勝負してみろ」

 

そう言って若武者は大斧を構え一刀にいつでも打ち構える体勢をした。

 

 

            「フッ、どうやら、我が真の能力(ちから)を開放する

                           必要があるみたいだな……」

 

 

                       一刀は半眼となり猫足で立ち正拳突きの構えをした。

 

 

オイ、あの御遣い武器もなしに剛の者と名高い左児(ザコ)に打ちかかるというのか

 

あまりにも無謀だ

 

 一刀と若武者の周りを取り囲むように集まっていた雑兵達は

口々にこれから始まるであろう死合に固唾を飲んで見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                 「我が必殺の奥義、とくと味わえぇぇぇぇぇェ!」

 

 

 怒号と共に左児は大斧を大振りに打ち下ろした。

 だが一刀に振り下ろされた大斧は一刀を袈裟切りにすことなく別の何かに阻害された。

大斧に当たったのは先程までこの場にいるはずもなかった味方の兵士であった。

 

左児はとっさの出来事に困惑した。

だが状況判断をする暇もなく、突然左児は股間を押さえ その場に崩れ悶え苦しみ出した。

 

 

 

                 「ハッハハ これで終わりか。次は俺からだ!

                    エタナール・ゴールドボール・クラッシュ!! 」

 

 

 

一刀は盾にしていた敵兵は放り投げ、左児を再起不能にする

とばかりに連続金的攻撃を繰り出した。

 

 

この場にいた多く兵達は我が目、我が耳を疑った。

 

 

いつの間にか天の御遣いの盾とされた名も無き兵の哀れな末路。

神の使徒なのに悪魔の弟子のように容赦ない怒涛の金的攻撃。

 

 

 

 

 

今この場に対峙していた者が何者なのか知り兵達は股間を押さえながら怯えだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もッ、もしや、ヤツが率いていた兵達の殆どは……」

「ああ、全て俺たちと戦って戦死したのではなくヤツの盾となり散っていた……」

 

 

 

異能生存体

異常に高い生命力と、強靱な生存本能に裏打ちされた行動力、

そして奇跡と言える程の強運によって、生還が絶望視されるような戦場で

特攻同然の作戦に参加しても、生き残る。

その為、天の御遣いは不思議な力、そう御遣いには隠された力があり、

自己の能力を極限までに高めるという選ばれし能力(ちから)を持つと

民草に語り継がれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし以前、華佗という医者がこの天の御遣いを目の当たりにし診断した話があった。

 

 

                      病名 『厨 二 病』 

 

            「クックックッ、さあこい 俺の最凶(さいきょう)を貴様らに奏でてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

                 「大変です。桃香様、大変です」

 

 

 

 雛里は慌てて桃香のいる天幕に駆け込んだ。

「うにゅ~ あ~♡ 雛里ちゃんどうしたの?」

桃香は溜まっていた未決済の書面と格闘していたのを放り出して

雛里の登場に便乗して政務を投げた。

 

 

「桃香様大変です。

  ご主人様が、ご主人様が敵中に孤立しております。すぐにお助けしないと……」

 

雛里は己の用兵の失敗でご主人様を死地に追いやってしまったとの

自責の念を感じ涙目になりながら桃香に訴えかけた。

 

それを聞いた桃香は青ざめた顔になり雛里に食いつかんばかりに詰め寄った。

「雛里ちゃん。ご主人様はどういう状態なの」

 

 

 

                      ・・・・

 

 

雛里は半泣きになりながら事の次第を桃香に説明した。

 すると先ほどまで血相を変えていた桃香は話を聞いているうちに段々と

桃香は頭をかきながら雛里に説明するように話だした。

 

 

「あー雛里ちゃん。ご主人様だったら……大丈夫だよ。ウン多分……」

「しかし、桃香様ご主人様は敵陣のど真ん中にいるのですよ。これではご主人様はもう……」

 

 

雛里はご主人様が以前八百一本で読んだように

                 

                   太った男のの兵に蹂躙されたり、

                   美形の将軍に後ろから襲われ、

                   十字架に縛られローソクやムチ

                   を打たれている

 

                     のではないかと色々な想像をして顔は赤面になりながらも一刀の身を案じた。

 

「うー雛里ちゃん。

  これはご主人様のいつもの手なんだよ。まぁ、これでこの戦は勝ったかな」

「いつもの手……ですか」

「ウンウン。

  赤壁のときもそうだったけど……

   まあこの戦も終わったことだし。

    じゃあ私は行軍の準備をしてくるからあとの政務をお願いネ♡」

 

 

そう言って桃香は政務を雛里に押し付けて自分は天幕から一目散に逃げ出した。

「そんな、とっ、桃香様……」

 

雛里は山のような竹簡と逃げ出す桃香を交互に見てため息をついた。

 

 

 

               『はわわわッ、いい雛里ちゃん!

                 どーしても問題が解決できない時や困った時があったら

                                これを絶対に読んでね!!』

 

 

そのとき、雛里の脳裏に入蜀に際して出発するとき

朱里から一通の封書をもらったことを思い出した。

 

 

雛里は背負鞄をあさり、朱里から貰った封書を取り出した。

雛里は緊張した顔つきで封書を開けるかどうか思案していたが、今がその時だと判断し

 

封書を開けた。

 

すると封書の中に朱里の殴り書きの文字で紙にはいつくかの要点が書かれ

その一番上の表題には

 

 

                     『桃香様とご主人様の取扱説明書』

 

                                   と書かれていた。 

 

                    「……朱里ちゃんナニがあったの……」

 

 

 

           これを見た雛里はもきゅ?と首を傾げ不思議そうな顔をしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

                 「あわわッ、

                    こっ、これからご主人様を救出作戦を展開します!!」

 

 

一刀が敵の手中に落ちてから一日が経過してしまった。

敵が天の御遣いを斬首したならば、今頃その首級は(さら)されている。

だが、その徴候がないことを考えると敵も天の御遣いをどのように扱うべきかと思案している。

雛里の推測ではご主人様の生死は五分五分。

 

 

 それなら、早急に救出部隊を編成し白水関を陥落すればご主人様を助けだせる確率が高くなる。

雛里はそう判断すると広範囲に分散していた各部隊を一旦後方に下がらせ部隊を再編成した。

しかし、雛里の能力を持ってしても大部隊の再編成に一日の時間を必要としてしまった。

この時間的損失に雛里は苦渋の表情で、白馬の毛で作った払子(ほっす)を握りしめた。

 

 

                 白水関の外壁には

                  『高』の一字を刺繍された幾つかの旗幟(きし)が寒風でなびいていた。

 

 

 

 

士気を鼓舞する為の銅鑼や太鼓等が打ち鳴らされ、

桃香の将兵は雁行の陣という戦闘陣形に隊列を変形していった

 

 

 

 逆八字形のこの陣形は主として地形を利用した防衛に使うものであるが

雛里は全部隊の戦力を白水関に強襲させることを考えこの陣形に布陣させた。

この陣形の先頭は最も敵の攻勢が強いことから部隊の中で最精強部隊が配置

されているのが通常である。

 しかし雛里は先頭が一斉攻撃で関壁に襲撃されるがこの先頭部隊自体 

敵兵を引き付ける囮であり、戦端がきられると同時に中央の部隊が突出し関門

を打ち破るという中央突破の作戦を立案した。

 

 

 

                     「桃香様……」

 

自分の失策の為、一刀の生死が判らず沈痛な思いの雛里は、

隣に馬に乗った桃香に進軍の許可を求めた。

 

桃香は雛里の心配が伝播したのかやや緊張した表情で雛里に頷いた。

 

雛里は涙目になりながら震える手で払子を振るい、全将兵に白水関へ進撃の命を下した。

 

 

 

 

死なないでご主人様……

 

 

 

幾つかの障害物である柴営を越え、陣形は白水関の直下まで進軍した。

肉眼でも関壁に設けられた凹形の欠けこみや矢を放つ銃眼をもった土塀が見えた。

しかし、その向こう側に居る筈の哨戒の敵兵の見られなかった。

 

 

雛里はこの異変に敏感に気づき進軍を止めた。

 

高沛将軍は桃香達を打ち破る何らかの奇策を張り巡らしたのかと懸念した。

この戦が短期決戦のために、井関(せいらん)巣車(そうしゃ)といった

高所からの偵察や攻撃ができる大掛かりな攻城兵器が造れなかったことが悔やまれた。

 

 

                  「鳳雛先生!  あれを!!」

 

 

桃香を守る待衛(じえい)が関壁を指さしながら叫んだ。

 

                   「……ごっ……ご主人様♡」

 

 

その人影を見た雛里は感極まって思わず泣き出してしまった。

そこには土塀に足を置き、仁王立ちしている天の御遣い 北郷一刀の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

二十四節気の冬至(12月22日)を2日過ぎ、一年で昼が最も短く

 

夜が最も長くなる季節となった。ここ数日の大雪により白水関に足止めとなった

 

桃香達であったが、一刀の功績により白水関を占領した桃香の将兵は一兵に至る

 

まで戦勝気分に浸り、その士気は天に登るほど高かった。

 

 

 関壁では警護の兵が巡回しており、関内の広場では歩兵が歓声を上げながら調練

 

をしていた。

 

 その様子を白水関の一室から眺めながら戦後処理をしていた雛里はなんとなく心

 

が晴れ晴れしない様子であった。憂いていた理由は、ご主人様が単身で到底不可能

 

とされる白水関を陥落したことであった。

 

 雛里の学んだ軍略をもってしても、とても普通では考えも想像もできず、天の御

 

遣い 北郷一刀という存在が自分のココロの中で次第に大きくなっているのであった。

 

 

 

 

 

                     二 日 前、

 

 

 

                     「ご主人様♡」

 

 

 

雛里は桃香と共に無事であったことに安堵し天の御遣いの元に駆け寄った。

すると一刀の横には鎧を着ておらず薄服に身を包み、うつむいた一人の女性がいた。

 

 

            「ご主人様、その隣りのオ・ン・ナは、ダ・レ・なんですか?」

 

 

桃香のところどころに棘のある質問に益荒男(ますらお) 北郷一刀は臆することもなく答えた。

 

 

                     「あぁ、高沛だ」

                       

                       「エッ!?」

 

 

一刀の答えに驚きの目でそのうつむいている女性を見た。

万夫不当の剛勇を鳴らし、率先して戦場を駆け巡っていた黒髪の女傑が

今では一刀の前で赤面した一人の弱々しい乙女になっていた。

 

あまりの高沛将軍の豹変振りに桃香達は驚愕を露わにした。

「ご主人様、どうやってあの高沛将軍を篭絡(ろうらく)したのですか?」

雛里の質問に一刀は意味ありげに笑いながら答えた。

 

 

 

             「篭絡か……

               それはもうヤリあった仲だからな。

                                なぁ高沛」

 

 

             「()りあったのですか!? ご主人様凄いです!! 

                あの群衆のいる中で()りあうなんて!」

 

 

             「オイオイ雛里、俺は公衆の面前でヤリあう趣味はないぞ」

 

 

                   「エッ? でも……」

 

 

 

 雛里と一刀の噛み合わない会話に必死に笑いを堪えている桃香

と耳まで真っ赤になった顔を両手で隠している高沛であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

                  24日夜 雒城(らくじょう)

 

 

 その夜、桃香主催の戦勝祝いの立役者として雛里は各将から名実ともに

桃香の軍の仲間として認められた証として敬酒を受けていた。

雛里は趙雲将軍から飲めないお酒を並々と注がれ半ば意識が朦朧となるまで

飲まされ、宴会が中盤になった頃に酔いがまわったので雛里は少し涼しい風

に当たろうと席を中座した。

 

 

 回廊を歩き中庭に赴くと、中庭に設けられた庭園は一面銀世界が広まっており

大広間の喧騒とは打ってかわり、雛里しかいないこの世界では静粛が支配していた。

 

 

雛里は雪が溶けた石畳の小道を歩きながら庭園にある<坡>と呼ばれる緩やかな丘

にある亭まで散策した。

 

 

新雪が残る亭に近づくとなにやら人影らしきものが見えた

 

雛里は恐る恐る覗いてみるとそこには

 

赤松に寄りかかるよにして一刀が一人酒を飲んでいた。

一刀は何を考えて、何を思っているのか、ただ盃を重ねているようだあった。

 

雛里はそのようなご主人様の様子を見て話しかけるか迷っていた。

 

 

                       誰?

 

雛里の存在に気づいた一刀がこちらを見た。

 

              「あわわッ、ご主人様、何を見ているのですか」

 

雛里の問いかけに一刀は憂いるような表情で雛里を見た。

 

                     月を見ていた。

 

                   「お月様をですか?」

 

               ああ、この世界も俺がいた世界も月は何も変わっていないんだなと思ったいたんだ

 

             雛里は一刀の横に座ると同じように月を見上げた。

         新雪が残る庭園の上空には雲ひとつない夜空に月は光々と輝いていた。

       今いるこの世界にはあたかも一刀と雛里だけしかいないような錯覚を感じさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雛里の心臓はドキドキと鳴り響き、顔を薄っすらと赤くなってきた。

 

 

              (……お酒のせいかな……それとも……)

 

 

雛里が色々と考えていると一刀の方から話しだした。

 

 

          今回の戦で、俺を助けるために雛里が奮闘してことは聞いたよ。

                   

                   雛里ありがとう。

 

               「イエ!臣下として当然のことです」

 

                     臣下か……

一刀は雛里の真面目さに苦笑し雛里に言った。

 

              雛里にはお礼をしなければな……そうだ雛里

 

そう言うと一刀は優しく雛里の口に接吻をした。

 

               「ごっ、ご主人様いきなり何をするのです!?」

 

雛里は己の心臓の鼓動は早く、顔が瞬時に真っ赤になっているのを感じた。

動揺を隠せない雛里を一刀は優しく雛里の頬を撫でながら答えた。

 

 

             俺のいた世界では、24日の夜に良い子はプレゼントが貰えるんだ。

              だから雛里に俺からのプレゼント

 

 

                「……ぷれぜんと、ですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                     ド キ ド キ

 

 

雛里は潤んだ瞳で一刀を見た。

 

               ご主人様の唇……柔らかく優しかった……

 

               それに、今私を見ているご主人様の真剣な眼。

 

                 ご主人様の手が優しく私の肩に……

 

                   心臓がドキドキしている。

 

                  もしかして…これが恋なの……

 

 

                     

                

                     「……ご主人様」

 

 

まだ動揺を隠せず雛里は一刀の顔を覗き込んだ。

 

一刀は優しく微笑みながら小声で

 

 

 

 

 

 

 

              

                「……クスッ、落鳳(ちょー現代口語訳:雛里落ちたな)」

 

 

 

 

 

 

そう言って雛里の肩を優しく、しっかりと、逃げられないように抱き寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                        その時だ!!

 

 

何かが一刀の鼻面をかすめ、雛里の帽子を吹き飛ばした。

見ると雛里の帽子には矢が突き刺さっていた。

数瞬それを見た一刀は何かを悟ったかのようにいきなり立ち上がり周囲を警戒した。

 

 

 

                     「ご~しゅ~じ~ん~さ~ま~」

 

 

煉獄の底から這い出た悪鬼ような怒気を顕にした長身の女性が弓を構え

こちらにゆっくりとやってきた。

 

               「げっ、愛紗。何故、荊州にいる愛紗がココにいるんだ」

 

愛紗は第二射を放つために弓を構えた。

 

               「早馬で匿名の文が届き、昼夜を問わず馬を飛ばし

                こちらに先程来たのです。何ですかこの文の

 

                  『愛紗、俺現地妻できた。ヤリ♡放題』」

 

                とな何ですか、事と返答次第ではそれ相応の報いを……」

 

 

愛紗はそう言うと第三射・第四射と矢を放った。

 

一刀はトゥ!と叫びながら亭の塀を飛び越え一目散に逃げ出した。

 

               「ご主人様、まだ桃香様共々、色々と諫言したいことがあります。

                               あ!お待ちください」

 

愛紗は弓を投げ捨てると背にあった青龍偃月刀を取り出し、

それを振り回しながら一刀のあとを追跡した。

 

一刀と愛紗では身体能力に差があることから愛紗に捕まることは時間の問題であった。

 

 

「あわわわッ」

雛里は愛紗の放った流れ矢に辛うじて避けたが、恐怖のあまりそのまま気絶し

消え行く意識の中で

 

                

                 『ご主人様!討ち取ったりー!!』

 

 

                      という愛紗の鬨の声が耳に残ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                その後、史書においては龐統の自伝は書かれていない。

               しかし、ある私書曰く、天御遣いである一刀の毒牙や君主

               である桃香の魔の手により朱里は自分のようにならないよ

               うに親友の雛里の身を案じ、守る為に策を用いて、その結

               果、天の御使いと劉備は、関羽からの叱責により真面目に

               戦争をするようになったとも書かれている

 

 

                また、ある書では雛里は桃香から入蜀合戦の功績により

               <関内侯>という封号されたがそれを固辞し、対人関係

              (特に一刀と桃香の世話)で精神的疲労により水鏡女学院に

               戻り師範代になったとも記されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<終劇>

 

 

 


 
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