No.348802

そらのおとしもの~もしカオスが智樹のエンジェロイドだったら~

matonさん

これはそらのおとしもの2次創作です。
もしイカロスじゃなくて、最初にカオスが落ちてきたら、という設定で書いてあります。
あくまでアニメ版にそって書いていくつもりですが、ところどころ違う設定やオリジナル部分が出てきます。
それに自分は完全な素人です。
それでも良いという方は、読んでくれると嬉しいです。

2011-12-18 01:28:43 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4997   閲覧ユーザー数:4958

 
 

二人の少女がいる。

片方は青髪の少女。もう1人は金髪の少女。

青髪の女の子は眠っているもう1人の女の子を抱きしめて語りかける。

 

「お願い、あなただけが頼りなの。だから……私たちを……『空』から助けて……」

 

そう告げると、青髪の女の子は抱きしめていた手をそっと離した。

 

 

 

 

智樹はその夜、大桜の木の下で一人座り込んでいた。

理由は守形やそはらと、ここで、この時間に待ち合わせをしたからだ。

だが二人は約束の時間になっても姿を現さなかった。

 

「…………ふざけんな!俺は帰るッッ!!」

 

一番乗り気だった守形が来ない以上、ここにいても意味がない。

いきり立った智樹がその場から離れる直前、あたり一面が大きな影に覆われた。

何かと思い見上げると、そこには大きなブラックホールの様なものが突如として発生しており、その1点から『何か』が落ちてきた。

墜落の衝撃波によって智樹は吹き飛ばされ、さっきまでいた場所には、大きなクレーターができていた。

智樹はよろめきながらも落ちて来たものを確認し、そして言葉を失った。

 

 

智樹が見たものは、黒い修道服を身にまとい、髪を金色になびかせた幼い少女だった。

これだけでも信じがたい状況だが、彼女の背中にはさらに驚くべきものがあった。

手術道具を組み合わせたかのような、禍々しい3対となる羽。

 

「人……じゃない……人に羽なんて……っ!?」

 

瞬間、少女が降って来た穴から沢山の支柱の様なものが次々と落ちて来た。

智樹は身の危険を感じ、全力で立ち去ろうと駆けだし、突如足をとめた。

 

(……大丈夫だって……空から落ちてきても平気なんだ……だからこれくらい……)

 

だが意思とは反対に、智樹の足はさきほどの少女の元へと向かった。

彼女の体はかろうじて支柱をかわしており、智樹はすぐに少女をすくい上げ、クレーターから這い出た。が、それと同時に目先いっぱいに支柱が写っていた。

 

―――死ぬ

 

あまりの恐怖に目をつむる。だが予想していた痛みはやってこず、代わりに体が中に浮いている感覚が全身に伝わった。

おそるおそる目を開けると、見えたのは小さくなった空美町。そして自分の体を抱きしめている小さな手。

 

「いんぷりんてぃんぐ……かいし……」

 

幼い声が耳に入ってくる。それと同時に自分の手の平が固定されたように動かなくなり、後ろから伸びて来た鎖によって巻きつかれた。

ゆっくりと地面に降り立ってから、智樹はようやく後ろを振り返った。

さっきまで眠っていたはずの女の子が、こっちを見つめていた。

 

「はじめまして。私は、あいがん用えんじぇろいど、たいぷε、かおす。まい、ますたー」

 

 

 

 

 

 

智樹が目を覚ますと、小さな女の子が自分の顔を覗き込んでいた。

 

「おはよう、ますたー」

 

「………………あ~……そいや降って来たね……昨日……」

 

自分の事を愛玩用エンジェロイドと名乗る少女。

あの後、智樹はこの少女を家に連れ帰ってしまった。

始めは交番に連れて行こうとしたのだが、小さな女の子に首輪と鎖を付けている自分を見られると、変な誤解をされそうだったので思い直したのだった。

それに、カオスは初めて会ったはずの智樹の事が気に入ったのか、少し離れただけでもついて来るのだ。

それで結局こうなってしまった。

とりあえず智樹はカオスがいったい何者なのかを訊く事にした。

 

「それで……お前は一体何なんだ?」

 

「私はあいがん―――」

 

「あ~、それはもう昨日から何回も聞いたから……そうじゃなくて、そのエンジェロイドってのは何だ?」

 

カオスは瞬きを一度だけして答えた。

 

「ますたーを楽しませるためだけにつくられた、しなぷすのせいひんだよ」

 

聞きなれない単語とあまり理解したくない単語が少女の口から出てくる。

 

「シナプス?それにマスターとかせいひんって……」

 

「しなぷすについては私にもじょうほうがないの。ますたーは私のもちぬしってこと。私はますたーのしょゆうぶつ。だから、楽しめることをなんでもいって」

 

カオスはそれが当たり前だといった雰囲気だ。

対して智樹の方はより一層警戒感を強めた。

話を聞けば、どうやら彼女はこっちの世界で言うロボットの様なものなのだろう。

だが、それにしては人間に限りなく近い感情を持っているように見える。これが愛玩用の仕様なのだろうか。

 

(だいたい愛玩用って、作るんなら犬とか猫型のロボットじゃないのか?なんでこんな人間みたいに……)

 

智樹はシナプスとやらがどんな意図で少女型のロボットを作ったのかわからなかったが、少なくとも作った人に好感は持てそうになかった。

 

「楽しめること、ねぇ……」

 

「ほしいものでもいいよ」

 

「う~ん……」

 

これと言ってほしいものが思いつかない。けど少女はさっきから何か奉仕がしたいのか、ズイズイと距離を縮めて来た。

こんな小さな女の子に一体何ができるのだろうか。

智樹は考えた挙句、最初に思いついたものを口にした。

 

「やっぱ金……かなぁ……」

 

「おかね?ならいちおくえんくらいでいい?」

 

「え?一億?」

 

カオスはポケットから得体のしれないカードを1枚取り出すと、それが急に光を放ち、電卓の様な形状に変化した。

智樹がそれを見つめると、カオスの方は1の後に0を8回入力した。すると智樹の頭上から大量の紙幣が落ちて来た。

 

「な、なんだとーっ!」

 

それはきちんと透かしの入っている、正真正銘の1万円の札束だった。札束はとどまる事を知らずに降り注がれ、それが止んだ頃には、あり得ない額のお金が目の前に存在していた。

 

「ちょ、何それ!?」

 

「これはしなぷすから、ますたーのほしいものを取りよせるかーどだよ」

 

「ほ、他には!?他にはどんなカードがあるんだ!?」

 

「ますたーがのぞむなら、なんだってできるかーどがあるよ」

 

それを聞いた智樹の口が不気味につり上がった。

 

 

 

 

 

「ねーますたー、なにしてるの?」

 

「ん?これはちみっ子には難しいかもネ~」

 

今、智樹とカオスはある女の子の部屋の中にいた。

その部屋の持ち主でもある、幼馴染のそはらは全くの無警戒で着替えを行っている。

この状況を考えると、すぐに見つかって制裁を加えられるのがオチなのだが、二人の姿はそはらには気付かれていない。というよりは見えていない。

原因はカオスのカードによって、二人の姿が透明になっているからだ。

そして今まで見ているだけだった智樹がついに動いた。

ゆっくりとそはらの背後に回り込み、目標を定める。そして―――

 

「っっ!?キャアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

智樹はそはらの胸を後ろから鷲掴みした。そして一目散に立ち去る。

そはらの方は何が起きたのか全く分からず、辺りをキョロキョロと見回していた。

 

「ねーますたー、今のはなに?」

 

「今のはいつもチョップばかりする暴力女に対するお仕置きだ!」

 

そう言って気分良く駆けていく智樹の後ろで、カオスが自分の胸を触り、一体これの何がお仕置きなのだろうか、と考えていた。

それからも智樹の大胆かつ変態的な行動はとどまる事もなく、空美町全域に渡って繰り広げられていった。

 

 

 

 

 

 

夜になると、さすがの智樹の方も疲れから気分が落ち着いたのか、現在は家でおとなしく食事をしていた。

食事も例のカードによって何処からともなく現れたもので、和・洋・中、様々な高級料理が机を飾っている。

 

「ところで、この料理もシナプスから転送したのか?」

 

「ううん、これはにさんか―――」

 

「いや、やっぱいい。怖いからいい」

 

智樹は気を取り直して食事を再開した。

ある程度堪能した後で、カオスが待ってました、とばかりに近づいてきた。

 

「ますたー、他におねがいごとはないの?」

 

「ほかに……ねぇ……」

 

お金は今朝の1億円がまだある。ご飯だってカードがあれば何だって食べられる。

それ以外での智樹の願いと言ったら、あとはもう性欲処理しか思いつかない。

智樹はカオスの方をチラッとみたあとで、大きくため息をついた。

これでもしカオスが大人の姿をしていたら、智樹はそっち方面の命令をしたかもしれない。

だがいかんせん、見た目は5~6歳程度。さすがにそんな子に欲情はしないし、もししたならそれは変態だけではすまされない。

 

「まぁ、あと残ってるのは世界征服くらいかナ~」

 

智樹はそう冗談を言い、居間を後に風呂場へと向かって行った。

そんな智樹を、カオスは思い詰めたように、じーっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

「智ちゃーん!どうして昨日学校に来なかったの!」

 

そんなけたたましい呼び声で智樹は目が覚めた。

まだ眠りについていたい欲望を抑え、けだるい体を無理矢理起こしたところで、ふと異変に気付く。

カオスがいない。

出会ってから一時も自分から離れようとはせず、昨日の朝だって、起きたらすぐ目の前にいたハズだ。

不思議に思いながらも1階へと下りていき、そはらがいるはずの玄関を開ける。

しかし、そこには1着の制服とカバンが置いてあるだけで、そはらの姿はどこにもなかった。

不安になった智樹は家を飛び出し、辺り一帯を眺める。

そこにはやはり何着かの服が地面に置かれてはいるものの、人っ子一人いなかった。

急いで家に戻りテレビをつける。そして驚愕した。

 

「そ、そんな………………」

 

智樹はこの世界で自分以外の人間が消えてしまった事を悟った。

足腰から力が抜け、地面に手をつく。

 

(これから……俺はどうなるんだ……?)

 

この世にたった一人残されて、どうやって生きていけばいいのか。

絶望を感じて倒れ込みそうになったところで、タイミング良く、誰かの足音が聞こえてきた。

あわてて後ろに振り向くと、目に大きなクマを作ったカオスがそこにいた。

 

「お前、その目!一体どうし―――いや、それよりも俺以外の人がっっ!!」

 

智樹は半ばパニックになりながらカオスの肩をつかんだ。

初めてカオスに触れた感触は、機械にしてはあまりにも柔らかくて軽い、まるで本物の人間の様だった。

 

「いないんだ!俺が起きたときから、みんないなくなってて!一体どうして!?」

 

カオスは目をトロンとさせながら、マスターの疑問に答える。

 

「みんな……けしたの……」

 

「は?……え?」

 

「だれも……ますたーをおうさまだってみとめなかったの……だから……けしたの……」

 

あまりにも予想外だったのか、智樹はカオスの話に対して口をはさめなかった。

 

「もう少しまってて……あとはんにちで……のこりのにんげんをけしてくるから……」

 

そう告げると、カオスは眠いのか、目をこすりながら振り返って、もう一度家から出て行こうとしていた。

そこでようやく思考が正常に機能した智樹は、とっさに彼女の細い手首をつかんだ。

 

「なんで、なんでだよっ!どうして他の人間を消したりしたんだよ!」

 

「……え?だって……ますたーのごめいれいでしょ……?」

 

カオスが首をかしげて問い返してきた。

 

 

『まぁ、あと残ってるのは世界征服くらいかナ~』

 

 

この言葉を、カオスはマスターからの命令だと認識していた。そしてそれを確実に実行している最中だと。

智樹は今度こそ、本当に絶望し、その場に倒れ込んだ。

その様子をカオスはしばらく傍観し、ふと思い当たった可能性について訊ねた。

 

「もしかして……ごめいれいじゃなかったの……?」

 

智樹は黙ったまま、何も答えない。

それがいかにも肯定しているように、カオスの頭は感じ取った。

マスターの言動を間違って認識し、マスターの望まない結果を招いてしまった。こんなとき、自分はどうすればいいのだろうか。

エンジェロイドは常にマスターに従い、その命令を忠実に実行するのが存在意義。

それを破ったなら、それは存在意義を失ったのと同じ。それなら―――

 

「ごめんなさい……もし、ますたーがのぞむなら……私をはいきしょぶんにできるよ……?」

 

きっとこれが答えなのだろう、とカオスの思考は行きついた。

 

「……そうしてくれると……助かるよ……」

 

智樹から返ってきた答えも、カオスの考えていたものと同じだった。

カオスはマスターの命令に従い、カードから拳銃を取り出す。これを頭に当てて引き金を引けば、自分の廃棄処分は完了する。

その時のカオスには怖い、といった感情はなかった。ただマスターの命令を実行する義務感しかない。

なんのためらいもなく、銃口を自分のこめかみに向ける。

 

―――バンッ!

 

銃は見事に弾を発射し、薬莢が地面に転がった。しかし、その弾が誰かを傷つけることはなかった。

 

「ますたー……?」

 

「ははは……今の嘘、な?今の命令、取り消しな」

 

智樹はカオスにおぶさって、震える声で命令の中止を要求した。

 

「どうして……?だって、私のせいでみんないなくなっちゃたんだよ……?私ははかいされるべき―――」

 

「何でだよっっ!!お前はなんも悪くないだろ!?俺の命令に従っただけだろ!?頼むよ……俺のせいで、みんないなくなっちまって……だからお前だけは……ずっと、そばにいてくれよ……」

 

智樹は泣きながら、カオスの小さいを抱きしめた。いや、抱きしめたと言うよりは、すがりついたという格好になっている。

今の智樹にとって、カオスが唯一無二の存在だった。何があっても失いたくはなかった。

カオスはしばらくの間じっとしていたが、やがて銃を握っていた手を緩め、代わりにその手を智樹の頭に回した。

 

「だいじょうぶだよ、ますたー……私はどんなことがあっても……ますたーのおそばにいるから……」

 

自分がどうしてこんな行動をとったのか分からない。それに今、自分が感じている感情も。

それでも、カオスは智樹の頭を撫でる手を止めなかった。

 

「いっそ……全てが悪い夢だったらいいのに……」

 

智樹はそこで意識を手放した。

 

 

 

 

「智ちゃーん!ちゃんと準備できてるのー!?」

 

「って、ええええええええええええ?」

 

そんなのアリっ!?、と智樹は思った。

さすがに今までの事を、夢か現実か間違える事はない。

でも確かにそはらは今、自分の事を呼んだ。それはそはらがここに存在しているということ。

カオスによると、どうやらカードの力によって、今までの事を全部夢にしたらしい。

なんて滅茶苦茶な、と智樹は口にしながらも、内心はものすごく安堵していた。

だがそれに反比例するように、カオスの表情はあまり明るくないように見えた。

 

「ねぇ、ますたー……あれもゆめだったほうがいい?」

 

「あれ?」

 

「ずっと、そばにいてくれよって」

 

カオスはそのことをずっと気にかけていた。

初めてマスターから与えられた、自分の存在を必要としている、という言葉。それも夢に含まれるのかどうか。

智樹は顔を赤く染めながら、布団に潜り込んだ。

 

「……か……カオスの好きな方でいいんじゃないか!?そゆこと!」

 

智樹からの返答はそれで終わりだった。

自分の好きな方でいい。

カオスにとっての選択とは、全てマスターの意思に沿うことだった。だが今、マスターの意思はカオスには分からない。

どっちを選んだほうがマスターが喜ぶのか、カオスは悩んだ。

そして決断する。

 

「ありがとう、ますたー」

 

カオスは智樹が入り込んだ布団を見つめながら、感謝の言葉を述べた。

 
 

 
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