No.346052

君の今日に夜が来る

siroさん

スクアーロとヴァリアー。

2011-12-11 13:06:45 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:997   閲覧ユーザー数:996

 

 

ヴァリアーという存在について、スクアーロは疑問に思った事は無かった。

剣の道を追い求めるあまりに剣帝を倒しただけの話で、最初からヴァリアーになる気も無く、流れ流れで今に至る。ヴァリアーにいれば、そりゃあ剣に通じた強い奴にも会えたし、嫌だとも思ったりしなかったのだ。

……そんなスクアーロに、転機が訪れたのは今日の事である。

 

ヴァリアーを解散させる、と提案したのはやはり綱吉だった。彼の事だから、深く考える必要も無いだろう。九代目もそれは考えていた事らしく、誰も反対する者はいない……かに見えた。

「……イヤだね。」

意外にも、そう言ったのはベルフェゴールだった。

最終的な決定を告げる為、ヴァリアーのメンバーに会いに来た綱吉に、ベルは正面から向かう。ヴァリアーに自ら入隊し、ボンゴレ一我が儘な彼。確か今年で二十七歳になったらしいが、性格は変わらずだ。

「……悪いけど、決定事項だから……申し訳ないけど。」

「知らねーよそんなの。勝手に決めんな。」

綱吉の前に立ち、メンチを切るように殺気を作る。ボンゴレの元で、ボンゴレの為にと、"許された"殺しがもう出来なくなってしまう。それは彼にとって死活問題なのだ。趣味が出来なくなる……。

「決定です。」

「……確か、ボンゴレの約束で無かったっけ?何か決める時は、誰か一人でも反対したら成立出来ないって。そこんとこどうよ?」

「……。」

黙ってしまった綱吉に、ベルはいつものようにししし、と笑う。綱吉が作ったボンゴレは究極の民主主義である。性格のせいで作られたそれは、平和を求め、争いを嫌う。だから何かを決める時は、お互い妥協し合い、納得出来るようにしなければならない。自ら作った約束に、綱吉はこの時ばかりは呪った。

「……スクアーロはどう思う?」

「あ゙ぁ?」

ヴァリアーのボスが座る、中心の椅子でぼんやり二人を眺めていたスクアーロは、急に振られて目を見開く。正直、どっちでもよかった。

剣を極めたに近い今、強い剣豪はこっちから出向かなくても来るようになったので、ヴァリアーの名を使って躍起になる必要も無くなったのである。山本もたまに来るし。そんな理由から、スクアーロは鈍い反応しか出来なかった。

「そーだ!スクアーロが決めろよ!ボスだし!」

「……何言ってんだお前。」

「そうだね。そうしようか。……期限は三日あげるよ。スクアーロの答えを、ヴァリアーの答えって事にする。」

それだけ言うと、綱吉は部屋から出ていった。残されたヴァリアーのメンバーは、スクアーロに注目する。

「で、どうするの?」

「……っていわれてもなぁ。」

ルッスーリアに近距離で問い詰められたが、答えようがない。どちらでもいいなんて、思ってはいてもボスとしてその答えはダメだろう。それは解っている。ちら……とベルを見ると、静かにこちらを見つめていた。何かを訴えるように。

スクアーロに与えられた時間は三日。三日の間に、一つの組織を潰すか存続させるか決めなければならない。───それって結構、大変な事なんじゃないのか───スクアーロは今になって、事の重要さを知った。

ヴァリアーが、本当にボンゴレに必要なのかどうか、こんなに真面目に考えた事は無かった。

解体したところで、自分やベルを始めとするヴァリアーのメンバーは、それからのボンゴレでどんな立場になるのだろう。つい最近まで、人殺しを仕事をしていた奴等に、書類とにらめっこなんて出来るのだろうか?

……スクアーロは、寝転んでいた自室のベットから立ち上がり、締め切っていたカーテンを開ける。薄暗い空がそこにあり、まだ夜明け前なのだと知った。そして眠れなかったという事も。

眠気も感じないまま、スクアーロはとりあえず着替えた。一人では難しい問題にぶつかった今、誰かに相談するかと思いついたのである。

その相手は……。

 

 

******

 

 

「めっずらしいじゃねえか!」

「……世話になるぜぇ。」

単身、キャバッローネの私邸を訪れたスクアーロ。ヴァリアーの一人が突然現れたのだ。驚かなかったのはドン・キャバッローネ、ディーノだけだった。

古い友が現れた事で、ディーノは嬉しそうだが、痛々しかった。何故なら、目の隅がひどく、仕事に追われているのがまる解りだったのである。

スクアーロがそれに気付かないわけがなく、

「忙しいみてぇだなぁ。」

「んな事ねーぜ?茶でも飲もう。」

とりあえず心の中で詫びる。

執務室に通されたが、スクアーロ独特の黒い私服(ヴァリアーの服でも変わらないが)は目立つ。ディーノの明るい執務室に、濃い染みが付いたようだった。

「んで、何の用で来たんだ?茶を飲みに来たんじゃねえだろ?お前の事だから。」

「ちっ……。」

ディーノが出した紅茶を口にしながら、スクアーロは自分に科された事を話す。罰ではないのだが、まるで罰のように重い決断の事を。

「ついに来た、って感じだな。」

ツナの事だからなぁ、とディーノは笑う。

「スクアーロ、お前はどう思うんだよ?」

「どうでもいいんだぁ、実際。そもそも俺は、ボンゴレに恩義やら何やら、そんなもんはねえ。」

「……だと思ったよ。」

「ヴァリアーってのは歴史だって薄い。残すもんなんかありゃしねえ。だから……。」

「スクアーロ。」

急に、ディーノが強くスクアーロを呼んだ。

その強さに、スクアーロは紅茶を置いてしまう。何か意志を感じたのだ。

「残すもんがねえ、ってのは言っちゃいけねえぜ。」

「あ?」

「これは俺にも言えるんだけどよ……"人を殺した事は残しちゃならねえのか"?」

「……。」

言葉が詰まる。そうだ。今まで自分がしてきた事は、命を奪うという行為だったのだ。

今になって、とんでもない事だと理解する。後ろも向かずに切った敵。標的であった親ついでに切った子供。少しだけ、知り合いだった人間も切った。スクアーロはディーノに返す言葉が見つからない。

「スクアーロ、ヴァリアーを解体するとかどうかの前に、考える事があるんじゃないのか……?」

 

 

小さい子供を切った時、心に何か重いものが出来た。何かと思う前に、次の仕事が来た。その仕事を終わらすと、また新しい仕事が来た。その繰り返し。

あの重いものは、どこに行ったのだろう。

 

 

ディーノの所に行って一日が終わり、残された時間は二日となった。

また眠らぬ躯の足で、ヴァリアーの会議室と向かう。召集をかければ、大抵そこに集まる。スクアーロは主要メンバーだけ召集をかけ、会議室のドアを開けた。

「集まってるかあ。」

「うぜえー。」

行儀悪く、テーブルに足を乗せながらスクアーロを迎える、ベル。見るからに不機嫌だ。

その奥にいるのは、いつものメンバーである。

スクアーロは中心の椅子に座り、間髪を入れずに言った。

「……ヴァリアーは、解体する。」

空気が、一気に張りつめた。それは破ったのはやはりベルだ。

「カスザメ。お前が決めんな。」

「テメーには決める権利はねえ。だが、俺にはある。決めた。」

「ふざけんな!!!」

バシュ、とベルの手からナイフが飛び、スクアーロの頬を掠って後ろの壁に刺さる。だがスクアーロは微動だにせず、ベルを見つめていた。

「……ベルよぉ。」

「あぁ?」

「人殺しの他にも、楽しい事は沢山あんだぜえ。お前の世界は狭すぎる。」

「黙れよ。」

「人殺しは、重い。テメーにも、解る日が来る。」

「知るか。」

「とにかく、決めたぜえ。」

もうベルは、何も言わなかった。スクアーロが、急に人殺しについて何か言い出すなんて、思いもしなかったのだ。今まで、意識せずに行って来た事を。

ベルには、重みなんで未だ解らない。だがスクアーロは知っている。それが、スクアーロとベルの差だった。

「綱吉に、報告してくるぞお。」

ヴァリアーの短い歴史が、明日、閉じる。その歴史には、無数の命が関わっているという事は……ドン・ボンゴレは知っているのだろうか。

 

スクアーロは、久々にスーツを来た。髪も結った。

ドン・ボンゴレに意志を伝える為に正装したなんて、初めてかもしれない。だがスクアーロは、緊張なんかしなかった。

「ゔぉい、入るぜえ。」

「どうぞ。」

待ってましたという顔。

綱吉は真面目なそれでスクアーロを迎えた。スーツ姿に驚いたが、意志を感じ取って何も言わない。

「遠回しな事は言わねえ。」

「ああ。」

「ヴァリアーは解体する。」

「それが、答えだね?」

「そうだあ。」

「ありがとう。」

ありがとう?何だその言葉は?

スクアーロの琴線に触れたそれは、綱吉の笑みで強くなった。まさか、まさか……。スクアーロは黙っていようと思ったが、その"軽い言葉"で思わず口を開いた。

「……お前は知ってんのかぁ。」

「はい?」

「お前と俺は今、事実と歴史を消したんだぞ。命と一緒にな。」

「それは……。」

「俺等のした事は、許される事じゃねえ。だが、表面上は、"お前"……ドン・ボンゴレの為だ。解るか?つまり、お前が"ボンゴレ"という"コート"をヴァリアーという人殺しに貸したんだ。」

「俺、は……。」

「ヴァリアーの解体は、これからのボンゴレの為だと思うならやめちまえ。それは、冒涜だ。」

「違う!」

スクアーロは、ボスである綱吉を圧倒するように言葉を紡ぐ。

事実を消す、という事は、白紙に戻すという事だ。文字が書かれた紙なら、別に問題は無い。だが紙に書かれたものは文字ではない。人の命を奪ったという事実だ。

「違わねえよ、ガキ。綺麗事ばっかいいやがるテメーには解らないだろうが、ヴァリアーに関わらず、ボンゴレには奪った命の上に重ねられた歴史がある。テメーがやろうとしている事は、冒涜だ。人の命を忘れるなんて、殺すよりひどい。……最近、俺も知った。」

「スクアーロ……。」

消せない事実は、消せない。

解っていたはずなのに、綱吉は辛くなる。命を軽んじていたわけではない。冒涜していたわけではない。

ただ、スクアーロ達が、人殺しをするのが、可哀想で、やるせなくて、我慢出来なかっただけだ。仲間が人殺しをするなんて───綱吉には耐えがたい。

「俺は……あなた方に殺しをさせるのが嫌だった。たとえ、今更と言われても。あなた方にも、光が当たってもいい筈なんだ……。」

「光、か……。」

おせえよ、何て言えなかった。あまりにも綱吉が真面目に言うから。

「綱吉……。」

「はい。」

「光が当たるべきなのは俺達じゃねえぞお。今まで、奪ってきた命があるという、重みだ。」

綱吉は、静かに涙を零した。綱吉の小さな肩には、沢山のものが乗っている。それは、自分も含むに違いない。そして自分自身も沢山のものを背負っているのだ。

 

数日経って、正式にヴァリアーは解体した。

ベルやルッスーリアなど、幹部はボスの警護に付き、その他は一般の部下と同じ仕事をする事になったらしい。

だがスクアーロだけは、あの暗いヴァリアーの会議室で、仕事をしている。

無数の書類を、ずうっと見続けている。

今まで奪った命を、一つ一つ背負うように。

 

 

 

 

 

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択