No.345220

杉浦綾乃の一日

初音軍さん

【過去作】ツイッターのフォロワー様からリクエストいただいた
内のSS。
千歳との絡みで書きました。百合っぽくなってればいいなぁって
感じですが。どうだろう。

2011-12-09 17:12:16 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:6938   閲覧ユーザー数:461

 

【綾乃視点】

 

 いつも歳納京子に目を奪われてばかり、しっかりしなくちゃっ!と気合を入れていた

のは生徒会室の中。目を通さないといけない書類をやっている内に集中力が切れてきて

無意識に歳納京子の顔が浮かんで少し顔が熱くってしまったのだ。

 

「こんなんじゃ・・・こんなんじゃいけないわ!」

「ずいぶん、燃えあがっとるね~綾乃ちゃん」

 

 勢いよく高らかに叫ぶ私の前にはいつもニコニコと見てるほうが落ち着くような笑顔を

浮かべている千歳がいつものように微笑みながら私を見ていた。同じように仕事を

している割に私より変わらないで黙々と仕事をこなしている千歳。

 

 正直ちょっと眠かったりしている、ほぼ同じことの繰り返しで気をつけないといけない

箇所も少ない。かといって生徒会の副会長たるもの、こんなザマじゃあ、よくないわ。

 

「あれ、綾乃ちゃん。今日なんか疲れとる?」

「えっ・・・?どうして?」

「なんかいつもより元気ないなぁ思ってなぁ」

「さっき燃えあがってたでしょう?大丈夫よ!」

 

 言われてみれば少し体がダルい気もしてきたが、弱音なんて吐いていられない。

そんな私の性分を千歳はよく知っているから見抜かれているのだろうか。

あからさまに心配そうな表情を浮かべる千歳。だけど、再び笑顔に戻ると。

 

「無理だけはせんといてなぁ」

「わ、わかってるわよ・・・」

 

 そのちょっとした切なくみえた表情が私の胸の中をチリッとさせた。

放課後の静かな中での二人でのやりとり。後輩の二人も他の用事でちょっと席を

立っているから、自然とまた頭の中がぼ~っとしてくる。

 

 千歳が私に何か話しかけているように聞こえるが全然耳に入ってこない。

本格的に調子がよくないようだ。私は千歳に何の話かを訊ねようとして顔を上げた

途端、視界がグラッと揺れて、ガクッと頭を思わず下げて目を閉じた。

 

「綾乃ちゃん!?」

「だ、大丈夫よ・・・!」

 

 気になって立ち上がり私に近寄ってくる千歳。私は慌てて手を振りながら否定すると、

今度は千歳は少し怒ったような表情をしながら、私の顔に近づけて額と額がくっつく。

千歳の顔が間近にあって、ひょっとした瞬間に口が触れそうな距離間である。

 

 心臓の音が少しずつ高まるのを感じながら私は千歳が額を離すのを待っていた。

そっと離れたとき、千歳は複雑な表情を浮かべていた。

 

「熱はないみたいやけど、念のために保健室いこな?」

「あっ・・・でも仕事・・・」

 

 ガラッ!

 

『お待たせしましたー!』

 

 我が我がとばかりに同時に二人が入ってきて、肩同士でぶつかり、押し付け合いながら

私の前に来る。そこには古谷さんと大室さんの姿があった。いつもと違う光景だったのか、

様子がおかしいと気づいた大室さんが声をかけてきた。

 

「先輩・・・?どうしたんですか、具合悪いんですか?」

「せやねん。だから、悪いんやけど、二人には残りの仕事をやってもらえんかな?」

「いいです・・・」

 

 大室さんが胸を張って言おうとした際に隣で並んで同じように胸を張って先に古谷さん

がその先の言葉を言い放った。

 

「後はこの私に任せてください!」

 

 勢いよく張ったせいで、言った後にたゆんたゆんと揺れる胸を凝視した大室さんの

目つきが変わって悲鳴にも似た叫びを上げていた。

 

「うぉおおおのれええ!このおっぱいめ!!見せしめか!えぇ、見せしめかあああ!」

「ちょっ、櫻子!?やめなさい!」

「ボイーン!ボイーン!」

 

 騒がしくなってきて頭痛が始まってきた私をすぐに千歳が立ち上がらせてくれて、

肩を貸してもらい、扉まで歩いていくと、私は心配になって千歳に聞いたのだ。

とてもこの様子で仕事が続くとは思えない。大丈夫なのかって・・・。だけど。

 

「あははっ、確かに心配やなぁ」

「ならっ」

「でも今まで見てきたやろ。あの子ら何だかんだで、ちゃんとやることやってるやん」

「あっ・・・そういえば」

 

 廊下に出て少しずつ騒がしさが収まってくるのを感じて、千歳は私に言い聞かせるよう

に呟いていた。その言葉に私の胸が痛むようだった。

 

「可愛い後輩を信じてやらんとな?」

「そうね・・・。その通りだわ」

「だからたまには、強がらないで私らに頼ったらええよ」

「ありがとう、千歳・・・」

 

 

 千歳の話に私の心は打たれながら、保健室にたどり着いた。入って中にいた養護教諭の

先生に診てもらったら、ただの疲労の蓄積だという。休んでいれば治るとのこと。

私は先生に指定されたベッドにふらつきながら歩いて一旦ベッドの上に座る。

 

 一息吐くと千歳が近くにあった椅子に座って微笑みながら私を見つめていた。

 

「も、もういいわよ。戻っても」

「あかん」

「えっ・・・?」

「今戻っても、綾乃ちゃんのことが心配で手がつけられへん」

「えっ、だって何ともないって」

「それでもや」

 

 横になり?って言われて私は千歳の言う通りに横になって枕の上に頭を乗せた。

ちょっとだけ背中の部分が固く感じるけど、清潔な布団と独特な匂いにすぐに

眠気に誘われる。

「寝てもええんよ」

 

 千歳の優しい心が落ち着く声に私は吸い込まれるように意識が遠ざかったいった。

今まで寝にくかったのが嘘のように私は深い深い眠りに落ちていった。

 

 どのくらい寝たのだろうか、数時間?それとも数十分?朦朧とした頭の中、少しずつ

目を開いていくと、目の前に大きな何かが覆いかぶさるように私の顔に近づいていた。

私は慌てた声を上げると驚いた千歳が離れて私は上半身だけ起き上がる。

 

「ななな、なにしてんのよ!?」

「あっ・・・ちょっと・・・」

 

「えっ・・・?」

「綾乃ちゃんのほっぺが柔らかそうで、つい・・・な?」

 

「なっ・・・!」

 

 もじもじしながら赤くなる千歳に私は絶句した。そして千歳は気まずいながらも

ことの説明を話し始めた。

 

「ここ最近、綾乃ちゃんといるともやもやしてまうねん」

「それで?」

 

「綾乃ちゃんは歳納さんのことが好きなのわかっとるけど」

「んな!」

 

「寝てる綾乃ちゃんの姿を見てしまったら。最初のうちは辛抱してたんやで。

でも、どんどん胸が苦しくなってきて・・・」

「ついやってしまったと・・・」

 

「あはは、ごめんなぁ」

 

 いつものように明るく振舞っているようだけど、さすがに千歳も誤魔化すのが

辛かったのか、笑顔のわりに体の動きがぎくしゃくして、手が僅かに震えていた。

もう、誰が無理している・・・よ。私だけじゃないじゃない。

 

「そんなん、綾乃ちゃんかて困るよなぁ。綾乃は寝といて。私戻るわ」

 

 やや顔を俯きがちに伏せてから振り返って戻ろうとしていた千歳の手を取って

残った力を振り絞って引き寄せた。反動でベッドに飛び込む形で私の上に乗った

やや涙目になっていた千歳の顔の頬に私は軽くキスをした。

 涙が伝って頬を濡らしていた部分だったから少ししょっぱかった。

 

「あ、綾乃ちゃん!?」

「さ、さすがに口には無理よ!」

「そ、そんなことより・・・」

 

 戸惑う千歳に私は強く彼女に強く言った。

 

「確かに歳納京子のことも考えてるけど!同じように貴女のことも気にかけてるの」

「綾乃ちゃん・・・」

「無理なお願いはダメだけど、私と同じように、たまには甘えてもいいのよ」

「綾乃ちゃぁん・・・」

 

 その言葉をきっかけに千歳は崩れ落ちるように涙と赤い液体が垂れて・・・垂れて。

 

「きゃああ、鼻血ぃ!!!」

「あっ、またやってもた」

 

 感動のシーンに当たる場所のはずだったのにいつもの千歳の鼻血で台無しになって

しまった。でも、その後。鼻血のおかげで和んだ私とティッシュを鼻に詰めた

千歳は思わず堪えきれずに笑いがこみ上げてきた。

 

 本当に嬉しそうにしている千歳は、少し申し訳なさそうに。

 

「でも、歳納さんに悪いなぁ。綾乃ちゃんの熱いチューもらってもて」

「だ、大丈夫よ!そんなの全然、問題ないないナイアガラなんだから!」

 

「あはっ、デレた」

「はっ・・・!い、今のは勢いで言っちゃっただけで深い意味はないのよ!!」

 

 否定すればするほど墓穴を掘っているように感じる私に千歳は笑って謝った。

 

「ごめんなぁ、なんか綾乃ちゃんが可愛くてからかってしもうて」

「ちょっ・・・!もう、千歳ったら・・・」

 

 でも、なんだか千歳のおかげで元気が出てきたかも。残った時間も少ないけれど

一応副会長なんだから、顔くらいは出しに行かないと。って、思って体を起こして

千歳に声をかけた。

 

「さぁ、生徒会室に戻るわよ」

「もう大丈夫なん?」

「えぇ、しっかり休んだから大丈夫よ」

 

 その証拠に今度は私が千歳の手を握って引っ張って保健室を出る。その際に私と千歳は

先生にお礼を言ってから廊下に出ると来た道を戻って生徒会室の前までたどり着いた。

さて、どのくらい仕事が残っているのだろうか。

 

 

 あの後輩二人は上手くやっているのだろうか。開ける前から胸が少しざわついていた。

すると、千歳が先に扉の傍に行ってちょいちょいと私に手招きをした。私は頷いて

千歳の隣に行くと、一息ついて扉を開けたら、二人の後輩は笑顔で迎えてくれた。

 

「おかえりなさい、先輩方」

 

 後輩たちの前に並べられている書類を見ると全ての記入が必要な部分がきちんと

書かれていた。ぱら見だったけど、一見全てに記入が施されてあるではないか。

 

「え、全部終わってる?」

「そうですよー!ほとんど私がやりました!」

「うそおっしゃい!櫻子は遊んでばっかだったじゃありませんの!」

「デカぱいは黙ってろ!」

「意味が解りませんわ・・・」

 

 いつものように足を引っ張りあってるようにしか見えない二人の間にもこうして

確かな、本人たちも気づかないような互いの能力を高める何かがあるんだろう。

ただケンカしているようにしか見えないときもあるけれど。

 

 それは、私達も同じよね、千歳・・・。私は視線を千歳に向けると千歳は二人を

なだめながらケンカの仲裁に入っていた。なんだかそれが微笑ましくて、笑ってしまう。

その時、私は以前、多めにアイスを購入していたことを思い出す。こんなにみんな

がんばってくれたのだ。

 

「よし、じゃあ。みんな今日はがんばってくれたから私がアイスを奢りましょう」

「やったー!」

「よ、よろしいのですか?」

「ええ」

 

 よろこぶみんなを見て、久しぶりに歳納京子のことを考えないでいられた気がする。

たまにはこういう日もいいかもしれないわね。私がみんなを見て微笑んでいたら

古谷さんが私を見て訊ねてきた。

 

「何か良いことでもありました?」

「え?」

「また歳納さんのことでも考えてるんやって~」

「んなっ!ち、千歳!?そ、そんなことないわよ!」

 

 こうやって、また騒ぎながらも忙しくも楽しい日々があるのだろう。

でも、この仲間たちがいれば私は安心していられるような気がしていた。

そういえば、私のアイスはどこにいったのだろう。確か4つあったはずだけど。

 

 笑顔で何も持ってない自分の手を見てたら隣にいた千歳が私にこう言った。

 

「最後の一個は・・・会長に」

「え、会長いたんですか!?」

 

コクンッ

 

「う、うう・・・楽しみにしてたのに・・・」

「まぁまぁ、私の半分食べ?」

 

 何だか自由すぎる生徒会に千歳の食べかけを食べながら早くもくじけそうな

杉浦綾乃なのであった。トホホ。

 


 
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