No.344508

【改訂版】真・恋姫無双 霞√ 俺の智=ウチの矛 三章:話の六

甘露さん

今北産業
・おおっ
・貼り付け
・内輪もめ

続きを表示

2011-12-07 20:05:23 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:5491   閲覧ユーザー数:4908

 

 /風

 

 風はどこか南の、多分揚州とか交州辺りの立派な商家に売られました。

 風の役目はご主人様である趙さんの一人娘、朱佐ちゃんのお世話係です。

 このお役目をもらえたのは、多分風が文字が読めて簡単な計算が出来たお陰なのです。

 ご主人様は風をとても大事に、まるでもう一人の娘の様に大切にしてくれました。

 

 風は奴隷です。でも、凄く幸運でした。

 こんなに人格者な人物は中々居ないと思うのです。

 そこで2ヶ月。何不自由なく風はお勤めをさせていただきました。

 

 そして、ある春先の日のことです。

 『一度北の方へ商隊を率いて商売に向かうことになった。仲徳の故郷にも立ち寄るだろう。

  丁度いいから、一度休暇を兼ねて里帰りをしてはどうかな?』

 

 そうご主人様から言われました。

 風は、思わずその場で涙を流してご主人様に平伏しまったのです。

 もう二度と母様にはあえないものだと思っていたのに、たった三ヶ月で母様にもう一度会えることになったのです。

 その幸運に天に感謝し、その溢れんばかりの厚意にご主人様に感謝したのです。

 

 ご主人様はそんな風を見て困ったように笑い、それでいて平伏する優しく風を立たせてくれました。

 風は、本当に幸運で、幸せな人間なのです。

 

 そうして、風の二度目の旅が始まりました。

 

 一度目の旅では、風は悲しみと先の見えない不安で景色を見る余裕すらありませんでした。

 でも、今回は違うのです。

 もうすぐ二歳になる朱佐ちゃんを膝に乗せ柔らかい椅子に腰かけ外を眺めました。

 温暖な大陸の南の情景、恐ろしく広大な黄河や長江、行き交う沢山の人達。

 沢山のものを見て、沢山の街に止まって、沢山の人に出会って。

 それはそれはとても楽しい一月でした。

 段々北に行くほどに、ぽつぽつと雪が見え始め、空気は冷えて、春先の温かいけど寒い不思議な空気を感じだすのです。

 それは、風の故郷にそっくりで、段々と母様の元へ近づいている事が感じられるのです。

 

 風は、まだ幸せと幸運を噛みしめて、ご主人様から頂いた給金で母様に何を贈り物しようか考えていました。

 

 ──この時までは。

 

 

 **

 

 

 ある、春雨の降る夜でした。

 母様の元まで二十里の邑というところで、ご主人様の商隊は商売をすることになりました。

 今日此処で商買をして夜を明かし、明日には風の生まれ故郷に着く、という話でした。

 

 ご主人様の商売は無事終わって、ホクホク顔でご機嫌なご主人様の帰りをお出迎えして、

 そのまま朱佐ちゃんを寝かしつけていた時のことです。

 

 どぉーん、と低く響く音が邑を揺らしました。

 そして、哨戒の人の警戒の鐘の音が邑にけたたましく鳴り響きました。

 音にびっくりした朱佐ちゃんが目をぱちくりさせ、そのあと不満げに愚図りだしました。

 

 あの鐘が鳴ると言うことは、良く無い何かが起こったと言うことです。

 風は不安にかられ、朱佐ちゃんを抱きかかえながら扉に向かって走りました。

 あと少し、という所で扉が勢い良く開かれ思わず目をつぶった風は……優しく撫でられました。

 

 ご主人様がそこにいたのです。

 でも、普段の優しそうな顔とは違って、何処か焦った様な表情でした。

 

 「何が起きたのですか?」

 

 と、風が尋ねても。

 

 「仲徳、朱佐と一緒に寝台の下に隠れていなさい。私が戻るまで、絶対に出ては駄目ですよ」

 

 と答えるだけで、それ以上語ろうとはしませんでした。

 その姿が益々風を狼狽させます。 

 

 「え……、ど、どういうことなのですか?」

 「良いから、私達の事は心配しなくても大丈夫です」

 

 そう言うご主人様の顔色はすこぶるよろしく無かったのです。

 とても大丈夫には見えませんでした。そこへ……。

 

 「趙誡様! 迎撃出来そうにありません! すでに正面門は突破されました!」

 「ちっ、時間稼ぎにもなりませんでしたか。 仕方ありません、護衛と守備兵を全部出しましょう」

 「御意!」

 

 ばん、と大きな音を立てて扉が開かれると、息を荒げた男の人が居ました。

 口から出る言葉はどれも物騒な単語ばかりだと、風にも分かりました。

 

 「あの……一体何が起こって……」  

 「仲徳はなにも心配しなくていいのですよ、朱佐と一緒に居てあげてください。それだけで十分ですから」

 「でも……」

 

 未だ口ごもる風を見かねたのか、ご主人様がぽん、と風の頭に手を置きました。

 

 「此処から動いてはいけません。知らない人が入ってきたら直ぐに隠れて、寝台の下からも出ては絶対にいけませんよ。分かりましたか?」 

 「……はい。了解したのです」

 「よろしい。では、朱佐を頼みましたよ」

 

 風がやっと頷いたのを見て、少し嬉しそうな笑顔を浮かべると、ご主人様は走り部屋から飛び出してゆきました。

 

 ──それが、風が生きたご主人様を見た最後でした。

 

 

 **

 

 形容しがたい、まる地の底から鳴り響くような断末魔と心底楽しげな笑い声、どう考えてもこの二つは相反するものなのに。

 その二つがさっきから一緒に風と朱佐ちゃんの耳に響き続けます。

 

 それが何を意味するか、なんて風でも分かるのです。

 盗賊さんの襲撃です。

 邑を襲い燃やし奪い犯す。妖怪やお化けよりもずっと現実じみて、ずっと残酷な人たち。

 

 外ではご主人様の部下の人たちが戦っているのか、キィンと鋼のぶつかり合う音と怒声とが響いています。

 幸いにも風と朱佐ちゃんの隠れる部屋にはまだ誰も来ていませんでした。

 でも、ここまで来るのも時間の問題なのだと風でも分かりました。

 

 願わくば、誰も来ませんように。

 ご主人様と奥様がご無事でありますように。

 

 風はそう願いました。

 神様か、仏様か、天子様か。誰でもいいのです。

 何も悪いことをしていない風や朱佐ちゃん、ご主人様に奥様、部下の人たちやこの邑の人々。

 殺されなければいけない道理なんてこれっぽっちも風には感じられないのです。

 

 でも、願いは届かなかったのです。   

 

 「ぐはっ」

 

 誰かの断末魔と一緒にドォン、と扉が吹き飛び、どかどかと盗賊さんがなだれ込んできました。

 吹き飛んだ扉にはご主人様が磔にされていました。お腹を青龍刀で突き刺され、両方の腕には小刀が刺されて万歳の容でした。

 どかどかとなだれ込んできた盗賊さんの一人がご主人様の顔を踏みつけました。その拍子に首がぐるんと回り、風と目が合いました。

 死んだ目には光が無くて、まるで生気が感じられないのに、その目は風をにらんでいるように感じました。

 そして思わず、

 

 「ひっ」

 

 と短い悲鳴を上げてしまいました。

 それを、盗賊さんの誰かが聞きつけたのか。

 

 「……おい、今声が聞こえなかったか?」

 「いや、俺には聞こえなかったが。お前はどうだ?」

 「俺も聞こえなかったな。聞き間違えじゃないのか?」

 「聞き間違えか……? 女の声だったと思ったんだが……」

 

 なんて、風たちの真上で会話をし始めました。

 動いたり見つかったりしたらどうなるか、それの答えは目の前で惨殺体になっているご主人様が証明してくれています。

 それを思うと、風は歯の根も合わないくらいに、どうしようもなく震えがとまらなくなりました。

 

 がちがちがち……ととまらない震えを止めようと自分自身に言いかけます。

 でも、やっぱり止まってくれません。

 朱佐ちゃんは風の腕の中で大人しくしてくれていましたが、いつ朱佐ちゃんに恐怖がうつるかも分かりません。

 

 気づかないで、早く何処かに行って!

 そう願いました。さっきは叶わなかったけど、次こそは……。

 

 でも、やっぱり叶いません。

 何を思ったのか盗賊さんたちは、どかと座り込むとなにやら話し出してしまいました。

 

 「おい、ここを襲ってよかったのかよ?」

 「いいんだよ。大体こうでもしなけりゃ俺たちは打ち首確定だからな」

 「だからって、邑ひとつ潰さなくても」

 「んだよ、いまさら怖気づいたって言うのか!?」

 「そ、そうは言ってねぇだろ! でも……」

 

 なにやら内輪で意見が分かれているようでした。

 罪悪感を感じているのでしょうか?

 

 「何だ、あんな貧乏人どもが大事だとでも言うのかよ。

  どうせ商人なんて奴らは賄賂を贈るかゴマするか位しか出来ねえ奴らで、こんな片田舎の貧乏人なんてサルとかわらねぇだろ。こいつみたいにな」

 「そうだそうだ。言葉を喋るだけで、サルを殺して何が悪いんだってんだ」

 「だろ? それに俺たちゃ官軍の兵だぜ。あんなサルと一緒の生き物ですらねぇよ」

 「で、でもよぉ……。打ち首を逃れるために邑潰すなんて」

 

 風は驚きました。人たちをサル呼ばわりし、挙句尊厳をぐしゃぐしゃ踏みにじるような言動に。

 公平で優しい人格者のご主人様を、正しく足蹴にし、死して尚その人物を侮辱するような発言に。

 その光景を見た後、風にはこの盗賊さんたちが風と同じ"人"なんだと思えませんでした。

 人の皮を被った悪魔だといわれたほうがすんなり来ます。

 そして何より風を驚かせたのが、この人たちは天子様の兵である官軍だった、ということです。

 天子様はこの大陸を治める方。その肩の手となり足となり、民を異民族や無法者から守るはずの官軍の兵が、何よりの外道だった。

 己の命大切さ故に、まったく関係の無い風たちを殺しつくそうとたくらんでいるのですから。

 しかも、首をはねられるかもしれない理由は、この人たちが作ったものなのに。

 

 「けっ、いまさら正義の味方か? 死にたくなきゃ俺たちはたまたま通りかかった邑で賊に襲われ塩を盗まれた兵士になるしかないんだよ。

  外で暴れてる馬鹿共相手に孤軍奮闘したが叶わず、隙を見て逃げ出し隣邑に命辛々たどり着いて増援と一緒にあの馬鹿な賊共を打ち倒す。

  塩は賊に持ち去られたが、俺たちは200対5で戦い抜き、民を出来る限り守ろうとした英雄になれる。 何がわるいってんだ?」

 

 どうやら、外で暴れている盗賊さんたちもこの外道官軍さんたちが連れてきたようです。

 村を陵辱する盗賊さんに同情の余地なんてありませんが、官軍に嬲り殺されるであろう近い未来を想像すると、哀れというほかありませんでした。

 

 「うぐ、で……でも!」

 「あー、もう。煩い人ですね。死ね」 

 「な、ちょ……俺は別に反対って訳じゃ!」

 「ちょーどいいぜ。お前は俺たちを裏切り賊に情報を流した最低野郎ってことで」

 「ま、待って」

 「死ね」

 

 内輪もめから、仲間割れになってしまいました。

 一人すこしまともな外道だった官兵さんに全部の責任を押し付けて、殺してしまったのです。

 ひゅん、と刃物が宙を切る音がして、一瞬の後に胴をなくした首がぼとん、と落ちてきました。

 この人たちには外道という言葉すら生ぬるいです。この人たちは畜生にすら劣ると風は思いました。 

 

 そして、そこでひとしきり話が付いたのか、外道さん達は部屋から出てゆきました。

 やっと動ける、と思い腕を動かそうと思いましたが、動けませんでした。

 それどころか、足の指一本でさえ風の思い通りに動いてくれません。

 初めて人が死ぬ瞬間や遺体を見たせいだったのでしょうか?

 

 そうして部屋に残されたのは風と朱佐ちゃん。ご主人様の遺体に、やんわり外道さんの首の無い屍でした。

 

 

 

**

 

割と短いです。甘露です。

次回も風ちゃんもりもりで往きます。救いはある筈です。多分、恐らく、だといいなぁ…

ご主人様とやらは完全に使い捨てキャラです。再登場(笑

 

風ちゃんを原作の雰囲気残しつつゆがませるにはこれっきゃないって思って書きました。

もう原作ぶれいくもいいとこですよね。

霞の出生といい風ちゃんの受難といい。実は風ちゃんの不幸には地味に一刀が関わったりしてます。

ヒントは官軍さん共が護送してた物資。

 

さて、思春さんと明命ちゃんはどんな目に会うのやら…(ぇ

 

では

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
56
4

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択