No.343722

災厄再び?!変態獣討伐大作戦!! そのご

うたまるさん

皆様お久しぶりです。
ラウンジでネタになったリレー小説の続きです。
え?そんなものを書いていないで、本編を書けと?
…………すみません。気長にお待ちください。

続きを表示

2011-12-05 19:16:55 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:7644   閲覧ユーザー数:5251

 

 

 

 

 

『  災厄再び?!変態獣討伐大作戦!! そのご  』

 

 

 

 

 学園の一角にある第五部活動地区。その片隅にある部室棟にある部室にて、学園の一部で起きている一大騒動とは関係なく、今日も生徒達が部活動に勤しんでいた。

 広大な土地を持つ学園に置いて離れていたと言う以外にも、あまりにも多彩な部活があるため、外史の管理者達の引き起こした騒動すら、その学園の生徒にとっては、

「何か今日は騒がしいわね。 何かあった日だったかしら?」

「ポン菓子同好会が、また巡業してるんじゃないの?」

「ああ、あれ美味しいけど、作る時煩いのが欠点よね」

「それとも地質学研究同好会がまた温泉を掘り当てようとして、噴き出た天然ガスを爆発させたんじゃないの?」

「ああ、土建部と共同開発で温泉施設作ろうと言うやつ? あり得るわね」

「温泉かぁ。出れば嬉しいけど、この間みたいに溶岩が噴き出るのは勘弁してほしいわよね」

 と、この部活の生徒の発言からして、この学園の異常さからして見れば、違う地区での騒動など少し騒がしい程度で収まってしまうらしい。

 生徒の自主性を尊重すると言う学園の方針から、部活動などでは部費などを学園に頼らず自らの活動で賄っていたりするなど、逞しく育っている生徒の姿は皆活き活きとしていた。

 そしてこの部活の生徒達も自らの活動で部費を稼いでいる行動派の集まりだったりする訳だが。

「そんなのほっといて、本気で仕上げないと間に合わないわよ」

「最終期限はいつだっけ?」

「5日後よ。でも報酬の3割増しでいいなら、10日後まで待てるとは加奈も言ってたわ」

「げっ。あの守銭奴人の足元見やがって」

「期日を守れば良いだけの事よ。それに加奈ちゃんの印刷部が年末に忙しいのは何時もの事だし、これでも優遇してくれてる方だと思うよ」

「うわぁぁ………オワタ。 あと9ページ……ムリ」

「そこっ! 無理なんて言葉は言わないっ。 そんな泣き言は作品を完成させるか、命が尽きてから言いなさい」

「部長の鬼ぃーーーーーーーっ!」

「ねぇ薔薇トーン余ってない?」

「小さいほうのホモトーン用のなら、あと10枚はあるよ」

「それそれ。貸しといて。 あっ、今更だけどここの所手をもう少し下の方がよくない? 相手のお尻を揉むだけじゃなくて、持ち上げるような感じでの方が、より強引と言う感じが増すと思うし」

「ちょと~~っ!今更そんな事言わないでよっ!! ………はぁ、書き直そう、あんたが言ってるのも納得できるし」

 

 と、10数名の女生徒達がお喋りをしながら、ひたすらに手を動かしている状態からして。どちらかと言うと外の騒ぎに構っていられる状態ではないと言うのが本当の事なんだろう。

 彼女達は文芸部の生徒。幾つもある文芸部の中で女生徒しかいないと言う稀有な部活である。別に男子生徒を敬遠している訳では無いが、その活動内容からして男子生徒が近寄ってくる事は無いだけの事。

 例え可愛い女の子目当ての勇気ある男子生徒だとしても、其処は鬼門と言わざる得ない。その部活の正式な部名は、

 

『第八文芸部』

 

 部活動の顧問は在って無きに等しい存在。その代わりこの部活の事実上の顧問は外来の女性二人。一人は長い黒髪を左右2つに分けた女性で名を輝里と言う。

 実はこの外史の管理者の娘の一人だったりするのだが、この学園には上の学部の留学生として入ってきている。もう一人は彼女の知り合いで、この外史の管理者の知人でもあり猫をトレードマークにした同じくウタマルと名乗るの黒髪の女性で。何故か二人とも生徒と同じ制服を着ていたりするのだが、この際似合うので問題なし。

 分かる人間は此処でこの二人が誰なのか想像がついたと思う。

 そしてこの二人が関わっている文芸部と言えば、その活動内容と言うか創作内容は言わなくても分かっていただけたでしょう。

 『第八文芸部』誰もその名では呼ばずに学園の関係者は別の名で呼ぶ。

 

 『八〇一本』と。

 

 ちなみに、何故『本』が付くかと言うと、この文芸部から幾つもの同継の部や研究会が派生し、今なおその数が増え続けているため、八〇一文芸部『本部』の『本』である。

 そう言う訳で男子生徒が入った所で素材にされ、玩具にされ、脳内で散々口では言えない事をされた挙句に、下手をすればそれを作品として書き上げられて世間に出回る危険性があるのに、敢えてこの部活に係わろうとする男子生徒はいないだろう。と言うか男性教師達すらこの部活には関わりたくないと異口同音の感想を漏らしている。

 なにせ世の中は美系の男性主人公だけではなく。中年のオジさんを対象にした作品の需要が在ったりするし、数年前の彼女達の先輩が文芸集の中に残した作品の中で、生徒に屈辱と悔し涙に塗れながらも、禁断の関係に染められてゆく、ある男性教師をモデルにした話を発表された過去は教師達の記憶にはまだ新しい。

 これが逆の立場なら、セクハラだの変態だのと槍玉にあげられると言うのに、女性から男性に対してはいくら想像を巡らせても、男性陣は何も言えない理不尽さは、この外史の世界でも同じようだ。

 

 そんな男性陣からしたら腐敗した活動内容も、其処の中にいる者達にとっては居心地の良い花園。

 同好の志が集まり、互いにその作品を見せあい。そして互いに高め合いながら、雑談交じりに作品の傾向を話し合う楽しき場。例え、それが締切間近の修羅場状態一歩手前だとしても。

 まぁ言ってしまえばオタクの集まりと言えば終わりなのだが、男性陣の混じった其れとは違い。女性同士のみと言う気軽な空間での会話は、気の弱い男子ならば在りもしない用事を思い出してその場から足早に逃げ出すような内容だったりと、平気で生理や男性陣の品評会どころかアレな事やコレな事を微笑みを浮かべて交わされていたりする。

 そんな乙女達の聖域の中で、特別顧問である二人は、薫り高い紅茶を口にみながら、彼女達の作品に目を通していた。

 …わけだけど、そんな至福の時間を邪魔をする無粋な電子音の奏でるメロディーが部屋に響く。

 

 音と振動の発信源である携帯電話は、輝里のスカートの中から響き渡り、その奏でられた曲目によって相手が誰なのか分かってはいる彼女は一瞬眉を顰めながらも小さな溜息を突く。その意味とするのは、趣味の時間を邪魔された事に対してなのか。それとも無視する訳にはいけない浮世の義理に対してなのかは、その電話相手と彼女しか知りえない事なのかもしれない。

 スカートのポケットの中から携帯電話を、くだらない用件だったらどうしてくれようかと小さく呟きながらも出る彼女の姿に、もう一人の特別顧問であるウタマルは、なんやかんやと文句を言いながらも面倒見が良い所や相手の言う事を訊いてあげる辺りが彼女の可愛い所なのよねぇと思いながら、原稿の端から笑みを浮かべていた訳だけど。

「はぁっ? あいつ等此処に来てるのっ?

 うん、分かった。捕獲するのに手伝えって事ね。

 言っとくけど父様の敵は私の敵って理由じゃなく、女の敵だから手伝うんだからね。其処の所勘違いしないでよね。それと今度アッチ行ったら、あの店の菓子買って来てよね。

 なによっ。たかだが4時間程並ぶくらいで文句言わないの。じゃあまた後で」

 電話を切るなり慌ただしくする輝里の姿に眉を顰める部員一同。

 そんな部員の視線を気にせずに輝里は手早く手荷物を纏めて部屋を駆け出ようとした所で言い忘れたと言わんばかりに此方に振り向き。

「御免、用が出来たから先に上がるね。

 それと『HE★N★TA★I』が、うろついているらしいからみんな気を付けてね。出来る限り厚着した方が良いわよ」

 そう言うなりバタンッと音を立てながら、再び駆け出す輝里の姿を呆然と見送る文芸部の面々。

 変態など、まぁこんな学園である以上幾らでもいる。何せ『スク水愛好会』だの『うなじ魅力研究会』だの『幼女を愛でる会』だの、常人では理解不明な部や会が成立しているのだ。それ故に今更変態の一人や二人で騒ぎにするまでもない話。

 まぁ一応彼等もギリギリの範囲で節度は守っているものの、裏ではどうだか妖しいのだが、そのあたりは表向きですら規制ギリギリの作品を扱っている彼女達も同類なので深く突っ込む気はなかった。

 そもそも不埒な輩に対しては十分自衛をすれば良い事だし、出たら出たで素材として活用するだけモノとしか思っていなかったりする。

 結局、人それぞれ事情があるのだろうと、首を傾げながらも各々自分の作業に戻ろうとした所に一陣の風が部屋に吹き荒れた。

 

 突然の突風に製作中の原稿が宙を舞い。

 電源コードが外れたのかPCの電源は突然落ち。

 高く舞いあがる彼女達のスカート。

 立っている者どころか座っている者ですら、何故か舞い上がったスカートに慌てて抑えた頃には、彼女達は妙な違和感に、血の気が引くのを体感する。

 下半身を襲う妙な肌寒さに不安を感じるのだ。

 在るべきモノが無い無防備な感覚に。

 やがて思考はその答えに行きつくものの、その答えを否定していた理性もやがて羞恥心が塗りつぶし。

「ひっ」

「な、なんでっ?」

「ぁっ…う、うそ?」

「え、えっえーーーっ」

「ふ、ふえっ」

 顔を赤くしスカートの端をしっかりと握りながら抑え。その口から毀れ出る小さな悲鳴を上げながら狼狽する彼女達。

 そんな中、同じように顔を真っ赤にに染めながらも「あ、あいつっ!」と一カ所を睨みつける女性が居た。

 特別顧問である彼女は、しっかりとその眼に一陣の風の正体を捉えていた。

 油断をしていた故に盗られてしまったものの。犬の姿をしたアイツの存在をっ!

「ウヒーヒヒッ。腐女子の花園、此れもまたなかなかの香りと温もり♪ 眼福眼福っ♪」

 被害者の羞恥心を煽り立てるかのように、気持ち悪い笑い声が部屋に響く。

 その口に幾つもの色鮮やかな小さな布キレを咥えているだけで突拍子もないのに、更に犬が喋ると言う異常すぎる光景に、女生徒達は逆に冷静さと共に怒りを取り戻したのか。

「何よこの犬っ!」

「どっから入って来たのよ」

「か、返しなさいよっ」

「それ私のっ。ちょっ、な、舐めないでっ!」

「えっ、あの可愛いの部長の? い、以外に純情派なのね」

「……ボクの、返すの」

 突然乱入してきた小型犬を取り囲むように迫る彼女達、そんな輪の後ろで事情を正確に理解していたウタマルは、それがただの躾の悪い犬ではなく。外史のあちこちで女とみれば子供だろうと熟女だろうと、下着を盗み集めた挙句に、その舌で悪戯しまくる超変態として指名手配されているヒトヤ犬である事を知っていた。

 彼女自身は認めたくはないが、あれでも一応管理者側の存在で、一応同性である事は知ってはいるものの、中身が変態親父そのものではとても同性とみる事などできなかった。

 何にしろ、まさに性獣の名に相応しい相手を憎々しげに睨みつけたウタマルは、

「ア、アンタねぇ! 一般人になんて事しているのよこのクサレ犬」

「おや、何処かで嗅いだ匂いだと思えば、お前だったか。 ウヒヒッ、くんくんっ。これはまだ花摘みに行って間もない匂いだな」

「こ、こここっ、このっ!」

 まだ温もりがしっかりと残る物を高らかに加えながら、同類(管理者)に対して笑みを浮かべながら恥ずかしい事を言うヒトヤ犬は、顔を更に真っ赤にして高らかに揚げられた自分の物を取り返そうと駆けだすウタマルに向かって、

「ウヒヒッ、俺は親切だから教えてやるが良いのか? 俺にばかり気を使っても」

「へっ?」

 なにをいったい?

 そう疑問が浮かぶものの、脳裏にさっきの輝里の電話相手との会話が浮かぶ。

 

『はぁっ? あいつ等此処に来てるのっ?』

 

 輝里ちゃんは複数形で言っていた。それにさっきの突風は目の前の相手だけが起こしたにしては範囲が広すぎた。

「し、しまっ」

 ヒトヤ犬の言葉と無音で羽ばたく空気の流れに、振り向いた先に突っ込んでくる鳥影に、この距離なら何とか避わせる。そう思った矢先だった。

「ウヒーヒッ。足元が御留守だぜ」

「えっ?」

 下半身を襲う軽い衝撃。

 膝裏を柔らかなボールが打った程度の衝撃。

 だけど背中から向ってきた鳥に対処するために慌てて振り向いた直後のため、ヒトヤ犬の膝カックン攻撃にウタマルはアッサリと膝を崩されて仰向けに倒れ込んでしまう。

 そんな絶好の機会を、ヒトヤ犬と並ぶ程の変態鳥であるティマイ鳥が見逃す訳もなく。

 ε~~~~~⊂ ( °>°)⊃パタパタ

「オッパイオッパイ♪。 うんうん小ぶりだが柔らかくて暖かいなぁ」

「…ひっ!」

「さらに御豆発見♪ ぱくっ」

「っ! ↓Д★жЙ§ΘξёЮっ!!」

 声のならない悲鳴を上げながら固まるウタマルを余所に、散々その胸を弄んだ鳥はそれで満足することなく、更なる被害者を周りに求め始めた。

 その後はもう阿鼻叫喚でしかなかった。

 あまりにも欲望丸出しの犬と鳥の言動とエロに掛ける妄執に、女生徒達は怖気が走るあまり動けなくなり、只々二匹の標的に成り果てるしかなかった。

 

「(\Y/))?<?((\Y/) パフパフ、ん?。 巨乳ちゃんかと思えば残念上げ底か。でも、これもまたよし」

「ウヒーーヒッ。ペロペロ。 羞恥心一杯に敏感に反応してしまう可愛い表情がたまらないぜ、鳥よ」

 服の上からとは言え鳥に散々胸を揉まれ。

 太腿や首筋や耳元といった微妙に敏感な場所を犬に舌を這わされ。

 やがてその部屋にいる全員を楽しんだことで満足したのか、二匹が立ち去った後には呆然とする少女達の姿が残されているだけだった。

 傍から見れば小型犬に甘えられ、柔らかな羽毛の丸い鳥が少女達の胸でその羽を休めていただけと見えたかもしれない。

 事実、純潔が穢されるような真似は一切なかったものの、彼女達は確かに二匹にその心を凌辱された。

 例え犬と鳥の姿をしていようとも胸をモフろうとする鳥の姿は、脱がしたての下着を頬ずりした挙句に少女達の太腿と首筋を這わせる犬の姿は、人語を解しながら其処らの変態とは次元の違う欲望を巻き散らかしながら迫る姿は、間違いなく少女達にとって己が純潔を奪う抗う事の出来ない変態以外の何者でもなかった。

 悪夢のような出来事に少女達涙したり、本当に躰を穢されなかった事への安堵感に放心したり、起きた出来事について行けずに呆然とするものと様々だったが、二匹の獣がこの部屋を去ってから数分が過ぎた頃彼女達はユラリと立ち上がる。

 その顔の穏やかな微笑みを浮かべて。

 

「うふふふふっ。ねぇ、確か犬って昔は精力剤として良く食べられてたって聞いた事ない?」

「ははははっ。そう言えば最近は鴉も調理法しだいで美味しく食べられると聞くから、きっとあんな変な鳥でも大丈夫よね」

「やっぱりツクネよね。そう言えば鳥はともかく犬の場合もツクネって言うんだっけ?」

「普通に肉団子で良いんじゃない?」

「前読んだ本の中に犬神は確か首から下を地面に埋めて、目の前に餌を置いて散々苦しめてから首を刎ねて作るって書いてあったけど、試してみるいい機会よね~」

「それなら生きたままのゴキを丸呑みさせて見ない? きっとお腹の中で卵産んで、卵から孵ったらゴキが腸を喰い破って行くと思うし」

「えっ、それ消化されちゃわない?」

「何億年もあの姿ままの生き物よ。きっとそれくらい大丈夫よ」

 

 何時ものように少女特有の高い黄色い声で燥ぎながら交わされる会話。

 ただ、其々が自分の鞄の中から護身用として入れておいた獲物取り出していたり、明るい声とは裏腹にその眼がちっとも笑っていなかったりと言う事を除けばと言う条件が付くが。

 バチバチと手に持ったスタンガンや携帯型スタン棒を鳴らしていたり、電気銃を壁際のゴミ箱に向かって試射したり、体を解す者と様々だったりだが皆の心は一つに纏まっていた。

 復讐と言う名の心に。

 ただ一人を除いて。

 

「みんな待ちなさいっ!」

 

 努めて冷静でいようとする声が、皆の纏まった心に水を差そうとする。

 暴力事の嫌いなウタマルの手が催涙スプレーとスタングレネードを両手に持つ副部長と、ゴム散弾と十字ゴム弾を装填したHK69を持って手にその重さと感触を馴染ませている部長の肩に手を置く。

 非殺傷能力とは言え、こんな物騒な物を普通の娘が手に入れれるだなんて、狼様はいったいどんな管理をしているのよ。と内心顔を引きつらせながら。

「中途半端な力では何も解決しないわ。

 それに作品の締め切りはどうするつもり? もし怪我でもしたら期日に間に合わなくなるわよ」

「金で解決します。夏の売り上げも突っ込んだ上での大赤字覚悟なら、即売会の三日前でもいける計算です」

「真正の変態には社会的死をっ!

 その鉄則を忘れて此処で私達が引いては、学園中の女性全ての貞操の危機が訪れます」

「……そう。其処までの覚悟があるの。 なら何故私達は私達の戦い方をしないの?

 私達は何? 此処は何処? 答えは皆の手の中に在るじゃないのっ?」

 ウタマルは暴走しようとする少女達を一生懸命に説得する。

 幾ら武装しようと管理者には普通の人間は敵わないが故に。

 彼女達を更に悲しませるような事態を防ぐために。

 なによりウタマル自身が、彼女達にそんな事をして欲しくないがために。

 だから彼女達の悲しみと怒りの矛先を誘導する。

 彼女達の所属する部の存在意義へと。

 この集りの本来の目的へと。

 言葉巧みに捻じ曲げゆく。

「………在りね」

「報われない想いの吐け口として」

「魔法で姿を変えられたと言う考えもあるわよ。

 例え相手の姿が変わろうとも愛は変わらないと言う表現も」

「……逆も在りじゃない? 鬼畜な彼氏の命令で、彼の目の前で獣に犯されると言うのも」

「でも売れるかしら?」

「なに言ってるのよ。売れるように作るのが腕の見せどころじゃない」

「零から作り直す時間は、……まぁ元々、大赤字覚悟だった訳だし」

「どうやら決まりね。 今期は利益は諦める事にするわ。みんな悪いけど来週から始める期末試験の結果も諦めて頂戴。 でも、その代わり最終期日までに誰一人欠ける事なく満足のいく作品を完成させなさい。これは部長命令と思ってもらっても構わないわ」

 最後に部長が皆の意見を纏めた指示を出すと共に、彼女達はその手の物騒な獲物を再び鞄の中にしまい込むなり、欠きかけの作品を片づけて新たな作品の創作活動へと掛かり出す。

 あの二匹への怒りが彼女達の創作意欲を駆り立てて行く。

 まるで神が降りてきたかのように次々と湧き上がるネタを一つの話へと纏め上げて行く。

 ウタマルによって腐女子魂に火がついた彼女達を止めれるものは誰もいない。例え神や悪魔であろうとも彼女達の創作意欲をかき消す事は出来ないであろう。

 問題はあまりに過激な内容になり過ぎて発禁にならないかだけど、彼女達もアマチュアながらもその意識はプロと同様にある以上はギリギリの所を見極めてくれるだろうし、仲間が互いに支え合ってくれるはず。

 こうして教師達と一部モデルにされた男性達に阿鼻叫喚の悲鳴を上げさせたものの、かつて無い程の『鬼畜』と『堕』をテーマにした彼女達のあの二匹への復讐を兼ねた作品は、学園において新たなる伝説を生み出す事となったのだが、それはまた別の話。

 ウタマルはそんな彼女達の劫火の様な創作意欲を己が作品へとぶつける姿に、こっちはもう安心ねと小さく呟きながら、誰にも気が付かれる事なく部屋を後にする。

 

「ひぁ~~」

 誰の視線も無い階段の陰でウタマルは小さく猫のように鳴くと、一瞬その空間がぼやけたかと思った後には一匹の猫……と言うにはあまりにもまん丸な虎模様の猫の姿が在った。

 そのまるで巨大なキナコ餅のような丸猫こそ、ウタマルの管理者としての姿で、先程の鳴き声も実際は高速呪文詠唱で猫の鳴き声のように聞こえてしまっていただけの事。

 彼女がこの姿になったのは、この方が管理者としての力が出しやすく小回りが利くと言う事もあるが……。

 ……流石にスカートを穿いているとはいえ、その下に何も穿いてないと言うのは不安よね。今日ばかりはこの姿に感謝しなきゃね。

 まったく幾ら油断していたとはいえ、あの二人どうしてくれようかしらっ。

 幾らなんでも、今回ばかりはやり過ぎよ。

 

 そう心の中で呟きながらウタマルの姿は階段の陰から掻き消える。

 瞬間移動。彼女の管理者としての能力の一つ。

 例外として、外史そのものが其れを望んだ以外を除いて管理者に対抗できるのは管理者だけ。その為に彼女は空間を跳躍したのだ。

 まだこの学園内にいるであろう二匹を追うために。

 輝里の口ぶりから、この学園にいる仲間と合流するために。

 

 

 

 屋上にその姿を現すなり周りの様子を見まわすウタマル。

 外は予想した通り、女子生徒達が部活動そっちのけで、其々固まって駆けまわっている。

「そっちにはいたっ?」

「いなかったわ。 でも学食地区の方で悲鳴を聞いたとさっき連絡在ったわ」

「分かった。此処は3個小隊を見張りに残して、残りはそっちに向かわせて頂戴。

 全運動部の誇りに掛けてあの二匹を狩るわよっ!」

 携帯電話から伸ばしたインカムでそれぞれ連絡を取り合いながら、弓道部とアーチェリー部と薙刀部が地面をものすごい剣幕で駆けて行くのが見える。

 その様子を窺いながらも、ウタマルの意識は全くの別の場所に向いていた。

 あんな変態行為が大好き大好きで大好きで大好きで止められない二匹だが、あれでも一応管理者。とても同じ場所に止まっている様な迂闊な行動をするとは思えない。

 そう思って探索の術で探っていたのだけど………。

 流石ああ見えても能力だけなら上の方々に匹敵すると言われるだけの二人。私程度の術では尻尾も掴めやしないわね。 なら素直に輝里にと言うか狼様と合流した方が早そうね。

 小さく溜息を吐いた彼女は、真ん丸な肉球のある猫の手で器用に携帯電話を操作した後に聞こえてきた声は、予想した相手では無く。

 

「あっ、狼様にゃ?」

「悪いが狼も俺も今忙しいんだ。

 知りたくもない趣味の話なら後でゆっくり狼相手にしてやってくれ。プツン」

 と言う失礼極まりない内容と対応をした戦国様の声だった。

 つまり狼様に掛けた電話に戦国様が出て、一瞬とは言えその向こうから狼様の掛け声染みた罵声が聞こえると言う事は、どうやら何人かの管理者がこの外史に来ていてあの二匹と交戦中と言う訳ね。

 そんな状況だから戦国様の対応は仕方ない事だからいいとして、あの二匹の事だから適当に戦国様達をおちょくりながら移動しているだけなんでしょうね。

 まぁ良いわ。とりあえず今の電話で居場所は分かったから、とりあえず跳躍んでから考えましょう。

 そうして、またあの猫の鳴き声のように聞こえる呪文を唱えると共に、校舎の屋上の縁に佇んでいた丸猫の姿は、まるで始めから何もなかったかのように、誰にも気が付かれる事なく掻き消える。

 

 

 

「このちょこまかとっ!」

「戦国、そっち行ったぞ、なんとしても抑えろ」

「今度こそ『虚無の領域』を喰らわせてやる。 黒山羊奴等の頭を押さえてくれっ」

「まかせろっ! ドリィーちゃんズ一斉射撃っ!」

「ウヒーーヒッ、ムダムダムダムダーーーーーッ!!」

「ウィリィィィィィ----!」

 騒がしい喧騒と破壊音に混じりって、例の二匹は余裕なのか何処かで聞いたような台詞を発しながら

狼様と戦国様そして黒山羊様の攻撃を敢えてギリギリのところで交わし続けている。

「だぁぁぁっ! 黒山羊もう少し考えて撃ってくれっ。 これ以上俺への請求を増やすなっ」

「わははははっ、このさい細かい事は気にするな。ちっ、これでも躱すか。あいつらの速度を相手に50口径程度呪詛弾くらいではでは幾ら撃っても無駄か。 狼、戦国、120mm XM1028 キャニスター弾の一斉射撃に切り替える。当たるなよっ」

「「む、無茶言うなぁぁぁぁっっっーーーーーーーーー!!」」

 

 黒山羊の活き活きした表情で発せられた言葉の後、二人の絶叫の声をかき消すかのように弾丸一発の重量22.9kgの巨大な弾が撃ちだされる。 それは唯の巨大な弾ではなく初速が1400m/s以上の速度で撃ちだされた弾は、中に内蔵された直径数ミリの散弾数千発、約11kg分が空中で大きく広がりながら標的をズタズタな肉塊に変えんとものすごい速度で迫って行く。

 唯の一発でも戦車ですらハチの巣にするそれは、黒山羊の管理者としての能力を更に加えて黒山羊が率いる数十匹のドリィーちゃんズの持つ巨大な機銃からも撃ちだされているため、更にその密度を高め。まるで巨大な壁と化して二匹と二人に向かってゆく。

 その様子に私は、ああ何時もの光景ねぇと諦めの気持ちと共に溜息を吐きながらも、元気に騒いでいる彼等をちょっとだけ羨ましく思うものの。

「……とてもあの非常識の中に入れる神経は無いにゃ」

「アレが若さの特権と言うやつだ。それは置いておいてヌコよ何時まで俺の頭の上にいるつもりだ?」

 

 不意に下から聞こえる声に、私は空間転移後直後に映った呆れるばかりの光景に意識が言っていたため、着地位置の事が疎かになっているのに気が付く。

 そして丸猫の姿の私の下には丈二様の髪……最近ますます彼が盟友とするゴリラに外観が似てきたから、このさい毛と言っても良い気がするけど、何にしろ彼の言うとおりいつまでも頭の上に載っているのは失礼なんだろうけど………う~ん、なんとなく座り心地が良い。

 そんな気持ちが通じたのか、丈二様はそれ以降何も言わずに意識を再び阿鼻叫喚地獄と化した場所へと向け出す。

 いつも一歩引いた所から彼等を見守るスタンスを置くことが多い丈二様だけど、ここまで騒ぎを引き起こしているあの二匹に対して動かないのは珍しいと思っていると。そんな丈二様の代わりに後ろから。

「丈二には私の手伝いをしてもらってるんです」

 物腰の柔らかな振る舞いで、顔に掛かった長い艶やかな髪を払いながらテノールの声で話しかけてくるマリア様。 一見育ちの良いお嬢様に見えるかもしれないけど、こう見えてもれっきとしたXY染色体の持ち主なのよねぇ。

「周辺に学園関係者が居ないのはマリア様の結界のせいにゃ。つまり丈二様は」

「いわばマリアの電池役と言うわけだ」

 肩をすくめながら言葉を引き継いで言う丈二に、マリアは信頼の瞳を彼に向けながら再び術へと意識を向ける。

 その術にうたまるも少しだけ意識を向けてみたのだけど、人避けや此処での被害が外に漏れないようにする術以外にも、どうやら結界の外に向かって走って行ってもいつの間にか戻ってくると言った類の術が掛けられている様子。

 八門遁甲の系列を見せ札とした迷走系の術が幾重にも相互補完する様に仕組まれているのが分かった。しかもそれを幾つかパターンを変えて掛け続けている。

 こんなものを狼様達があれだけ暴れられるだけの術強度と規模と掛けていたら、たしかにマリア様だけでは体力と氣が持つわけもなく、丈二様がこうして黙ってマリア様に力を貸しながら見守っているのも理解できる。羨ましい事にそれだけの信頼関係が二人にはあるのだけど……。

「丈二様の事だから、戦国様達の良い成長の場だと思ってるんだにゃ」

「ふん、買い被りだ」

 

 一瞬だけ此方に目を向ける素振りをしながら、肩を竦めてみせる丈二にウタマルは優しい瞳で溜息を小さく吐く。そんなウタマルに丈二はふと思い出したかのように。

「そう言えばヌコは何しに来たんだ?」

「うん、ちょっとあの二匹を懲らしめにね」

「攻撃力能力を持たないヌコがか?

 何が在ったかはだいたい想像つくが、それは俺達に任せておけ。なによりヌコに黒山羊達のような真似は似合わん。日向ぼっこでもしている方が余程お似合いだ」

 乱暴で言葉の足りない物言い。

 だけのウタマルは其処にある丈二の優しさを違える事なく受け止めていた。

 争いや暴力事を嫌うウタマルへの配慮であり。

 あの二匹のために今まで守ってきた想いと信念を曲げべきではないと。

 力に訴えずに解決できる手段が在るのならば、それを求めていけばよいのだと。

 その心をウタマルは嬉しく感じる。それでも丈二の優しさを受け入れてなお。

「ありがとうにゃ。

 でも女の敵は容赦してはいけないって事は分かってるから、私は私なりにやらせてもらうにゃ」

 ウタマルのそんな答えに丈二は、そっかと短く答えたあと頭に載るウタマルを落とす事無く、地面にどっしりと降ろしていた腰を上げて立ち上がる。

 ならば力を貸してやると。

「ありがとう。何度も言わせてもらうにゃ」

「で、どうする?」

「あの二匹を一瞬だけで良いから同じ個所に固めて欲しいにゃ。

 足止め程度の結界だけど、結界が解けた瞬間少しだけどあの二匹は無防備になるはずにゃ」

「一瞬で良いんだな。心得た」

 丈二はそう言うなり一瞬でその場から掻き消える。

 ウタマルのように術で飛ぶのではなく、純粋な膂力による跳躍でその場から一瞬で姿を消して見せる。

 跳ぶかのように足元を蹴りつづける丈二。其処が地面であろうと水であろうと、何もない空気であろうと関係なく蹴って見せる。

 術を何一つ使う事なく鍛えぬいた身体能力でのみで空を飛んで見せる事が出来るのは、非常識な力を持つ管理者の中でも異端な存在。

 力に溺れることなく、力に頼りすぎることなく、彼は彼の想いと共に力を振るう。

 相手を壊すためではなく、何かを守り抜いて見せるための力を。

 

 そしてほんのの瞬きする間に小さな穴ぼこだらけの地面と瓦礫と化した場所に辿り着くなり、頭に載っていたウタマルを地面にそっと降ろすなり。

「此処で機会を待ってろよ」

「御気を付けてにゃ」

「ふん、その言葉は奴らに言ってやるんだな」

 そうして、全身に戦車の装甲ですら穴のあく散弾を喰らってなお元気に応戦し合う二匹と仲間達の元に辿り着いた丈二はサングラスの下にある口を不敵に笑みを浮かべさせながら、その手に力を貯める。

 鍛えぬいた力を、全身から少しづつかき集めた力を。

「戦国、狼、黒山羊、よく見とけ。 相手の動きを止めると言うのはこうやるんだ」

「へっ」

「おぃ」

「まさか」

「げっ」

「ひょぅ」

 見学を決め込んでいた筈の丈二のいきなりの参戦に四人とも驚いた瞬間を狙って丈二はその拳を振るう。

 ヒトヤ犬の足元の地面へと、マイティ鳥がその上を飛んでいるその一瞬を見逃す事無く地面へと力の塊と化したその拳を叩きつける。そして次の瞬間。

 

っ!!

 

 無音の爆発が起きる。

 凝縮された力の載った拳によって、ヒトヤ犬の足元の地面が一瞬にして融解…いや、一瞬にして蒸発し光と化す。

 丈二の攻撃は直撃しなかった…否っ敢えて当てる気が無いと分かりきっていた攻撃故に生じた油断が、ヒトヤ犬を更に驚愕させる事になる。

 いきなり足元が掻き消えた事実に対処する暇もなく、次の瞬間には丈二の放った高密度の力の解放の揺り返しによる二次爆発によって、地面が大きく吹き飛んだのだ。

 先程の黒山羊の放った散弾とは比べ物にならない巨大な地面の欠片が、爆風と共にヒトヤ犬と、そのすぐ上を飛んでいたマイティ鳥に襲い掛かる。

 その攻撃にあの二匹と言えども無傷ではいられなかった。 いや正確には今までの戦国達の攻撃によって与えられていたダメージや疲労が二匹に無傷でいる事を許さなかったのだ。

 爆風と下から吹き上がる溶岩の塊に晒されながら二匹は、その小さな身体を空高くに打ち上げられ。やがて地面へと落下をし始める。

 このまま地面へ叩きつけられれば異常な回復力を保つを持つ二匹であろうとも、流石に動きを止めざる得ないだけのダメージを被るだろう。ウタマルの希望通りに丈二はその役割を果たして見せる。

 そして爆発のほぼ中心部にいた丈二自身はと言えば、その鍛えぬいた身体によってあの爆発の中に置いてなお無傷で直径三百メートルを軽く超す巨大なクレーターと化した地面に立っていた。

 サングラスどころか着ている服さえも傷つけることなく。

 

「鍛えてるからな」

 

 後のその事をこう語る丈二に仲間の皆が呆れた顔をしたのか、尊敬を眼差しを送ったのかはさておき、二匹の動きを止めた丈二にウタマルは感謝しつつ。

 ……への接続終了、術式レベルは……術の展開速度優先で術核の生成終了。目標への展開を開始。

 二匹を完全な無防備状態に持ち込むため、己の内の中で独自の結界術式を完成させたウタマルは、瞑っていた眼を薄く開きながら術を例の猫の鳴き声の様な高速圧縮言語で展開し始める。

「ひゃ~~~『ごがっ』くぴっ!…」

 だが、なんという不幸だろうか。

 術を展開しようとしていたウタマルに、先程丈二の打ち上げた岩の欠片が遥か上空から堕ちてきて、事もあろうにウタマルに脳天に直撃してしまったのだ。

 天の悪戯か、悪魔の微笑みか、その不幸と言うべき衝撃に意識が遠のきながらもウタマルは、丈二の力添えに応えるべく結界を展開し終える。

 痛みと衝撃の余りに手元がくるってしまった事にも気が付かずに二匹ではなく。

 丈二、狼、戦国、黒山羊を結界に閉じ込めてしまう。

 結界は四人を巻き込み、その姿をその場から消してしまう。

「ウヒヒヒッ。なんか知らんがラッキーだぜ」

「此れも普段の行いが良いからさ。

 さあ今の隙にいかん。

 新たなオッパイが俺を待っている ε~~~~~⊂ ( °>°)⊃パタパタ」

 

 そして丈二と言う名のエネルギータンクを失ったマリアの結界をあっさり撃ち破って、二匹もその場から素早く去って行く。

 そんな何と言って良いか分からない状況の中、一人残されたマリアは気絶したウタマルを何とか揺り起こそうとするが、巨大なタンコブがウタマルのダメージを物語っているのか一向に目を覚まさない様子に、マリアは深い溜息を吐き。

「………足止め程度とか言ってたけど、とても私では解けそうもないですね。この結界」

 何もない空間を見つめながら、さらに大きなため息をもう一度だけ吐く。

 やっぱり、こういう展開はこの娘には似合わないませんね。と。

 

 

 

 一方、不幸な事故によりウタマルの結界空間に閉じ込められた四人はと言うと。

「うはははははっ、ヤブレ、ヤブレ、ヤブレーーーーっ こんな薄い膜(結界)など俺の機関銃で破って見せるわぁぁぁーーー」

「はぁぁーーーーっ!『虚無の領域』×二乗」

「でぇぇぇぇぃっ!! オラオラオラオラオラーーーーッ」

 二匹を追いかけている時以上のハイテンションで結界の壁に向かって攻撃を仕掛ける三人。

 だがその眼には恐怖の影潜んでいた。

 後先を考えない程必死になって己が持つ力をぶつけていた。

 

 そしてそんな三人を黙って見つめていた丈二だが、

「やはり駄目か」

 重い溜息と共に毀れ出た言葉に三人は

「まだだ、俺はまだ犯(や)れる。 俺の機関銃に破れない膜(結界)なんてあるものか」

 恐怖の為か、言葉に怪しさが混じり出す黒山羊。

 だけどM82A1を握っているとはいえ、その台詞を言いながら体を前後に揺するのはどうかと思う。

「くそぉ。今のでも駄目かっ!

 今までで最高の攻撃だと思ったのに」

 自分の技の進化に確かな手応えを感じながらも、今はまだ届かない事を悟る戦国。

「何なんだよこの強力な結界は。

 管理者たる俺達をこうまで完璧に閉じ込めるだなんて、幾らなんでも異常だ。

 とりあえず普通の術式では解ける様な代物では無いようだが、丈二お前の方はどうなんだ?」

 あの咆哮からは考えられないほど、冷静に結界の強度を分析していた狼は逆に丈二に問い返す。

 狼のその言葉に三人は最後の希望を掛けて丈二を見つめるが。

「"出来ない"としか言えんな」

 重く低い声で聞かされる丈二の答えに、三人は今までの疲労もあってとも地面へと座り込む。

 その鍛えぬいた身体能力のみで、今迄ありとあらゆる術や結界を文字通り力付くで撃ち破って来た丈二の能力ですら"出来ない"と言われては、その言葉を信じるしかなかった。

 

 この結界に閉じ込められて、はや一週間近くが経とうとしている。 むろん結界の外と中では時間の流れが違うため、実際には結界の外の世界では数十分しかたっていないのだが、四人にとっては今いる空間で起きた事が現実でしかない。

 外史と外史を渡り歩けるだけではなく、外史そのものを管理する事の出来る彼ら管理者にとって、いくら強力であろうとも結界術とは、所詮時間稼ぎの嫌がらせでしかないにも拘らず。四人は未だに結界から出る事を果たせていなかった。

 実際に管理者を相手とした結界の強度を高める方法はいくつかあり。先程マリアがやっていたように相手が術を抜け出す速さ以上に術を掛け続けるやり方もその一つだが、これは相手に術のパターンを読まれないようにするのはもちろんのこと膨大な"氣"を必要する。そう言った幾つものやり方の中で一番シンプルなのが、結界と言う意義を失わせるやり方。

 要は閉じ込められた空間だから、中からの力や爆発などの内圧に耐えられず壁が崩壊するわけだから、その力や爆風を逃すための抜け道があればよいだけの事。その抜け道と言うか穴が大きければ大きいだけ、結界の強度が上がる理屈である。

 そう言う意味ではこの結界は非常にシンプルであった。

 何せ最初から【解除条件】が提示されているのである。

 しかも場合によっては小学生でも実行は可能な程の簡単な【条件】。

「時間軸や因果律の干渉すら受け付けん。と言うか何ら手応えすら感じん」

「結界壁は確かにあるのに力は素通りするから、何の反応も反射もないため強度を測る事も出来ん」

「単純すぎる故の落とし穴か。それにしても幾らなんでも強力過ぎるだろ此れ。 いったいどこからこれだけのエネルギーを集めてきたんだ?」

 戦国、黒山羊、狼は此処数日と同じ結果に頭に手を当てて落ち込む。

 ありとあらゆる手段でもって、この術を力付くで破壊して抜け出そうとしていた。

 物理的に簡単な脱出手段が提示され、それさえこなせば簡単にこの結界空間から出られると言うのにも拘らずに。

 

「むふふ~♪」

 

 三人は聞こえてくる上機嫌な声に気が付かないフリをしたまま、諦めずにこの結界を力付くで破るための相談を再開する。

「今迄の事から幾つか分かった事がある。信じられない事だがこの結界はどちらかと言うと封鎖された【空間】では無く、文字通り【界】何だと思う」

「時間軸や因果律までもが通用しないのはどう言う事だ」

「……多分完成された【界】だから干渉するだけの隙も揺らぎもないんだ」

「それこそ馬鹿な。完成された【界】なんてありえない。それは【界】の死であり、無でしかないんだ。存在なんてできやしない」

「ああ、だからこそあの【条件】なんだと思う。多分それこそがこの【界】の存在目的なんだろうね」

「つまり、この結界はもともと【結界】として造られたものではないと言う訳か」

「作った奴が作った奴だし十二分に考えられる話だな」

「「「…はぁ~…」」」

 戦国と黒山羊の言葉に狼が冷静に状況と観測結果と考えを述べると言った形での会話は、自分達が如何にどうしようもない状況に陥っているかを、あらためて思い知るだけとなっただけだった。

 

 溜息とともに始まった、重く長い沈黙の空間を破ったのは、何処までも前向きに突き進んでゆく戦国だった。「なぁ、どうする?」

「どうするったって、俺は嫌だぞあんな【条件】」

「あんな【条件】をこなすくらいなら、此処に永久に閉じ込められていた方がマシだ」

「俺も同感だが、実際そう言う訳にもいかんだろ。 今頃あの二匹は野放しになってるんだぞ」

「ん~~♪」

 また聞こえる鼻歌に、三人は顔色を益々青くさせる。

 あの鼻歌の主は楽しんでいるのだ。四人が諦めて【解除条件】をこなす事を。

 狼、戦国、黒山羊が地面を見ながら横目で鼻歌の持ち主をそっと視界におさめる。

 其処には、一人の人物が今か今かと期待の籠った瞳で体をくねらせながら此方を眺めていた。

 瑞々しい肌を持ち、艶やかな黒髪を後ろで二つの三つ編みにし、まるで子供向けの少女漫画に出てきそうな輝きを放つ瞳、そして薄桃色の唇の人物。

 問題なのは、身体を鍛える事が趣味の丈二がほぉ~、と感嘆の息を漏らすほどの筋肉の持ち主。

 腕の太さ等はマリアの胴回り以上はあり。筋肉隆々という言葉では収まらない程の肉体美を持ってなお、丈二の言葉によれば魅せるための身体ではなく実際に使うための身体らしい。

 更に問題なのが、そんな筋肉隆々の人物がピンクのビキニを着ている事ではなく、股関節辺りがしっかりと盛り上がっている事。 つまり、その人物は戦国達と同じXY染色体の持ち主。つまり♂なのだ。しかもおっさんと言っても良い顔つき。

 その上に何の冗談なのか、三つ編み下後ろ髪だけ残してスキンヘッドと言うおまけつき。

「「「…う゛っ」」」

 思わず吐き気を抑える三人。

 そして最大の問題は、結界の【解除条件】がその筋肉隆々でチョビ髭の生えたおっさんに愛を語り口説き落とせと言うのだ。しかも心からっ。

 物理的には簡単な条件。だけどそっちの気のない四人にとっては不可な条件。

 心が無ければ至極簡単な作業。だけど心が無ければできない作業と言う相反した行為。 しかもなんとしてもこの結界から抜け出なければならないと言う四面楚歌な状況に四人は陥っている。

 

 結界術【腐敗神話】

 

 それは文字通り腐女子のネタ作りの為だけに輝里の協力の元でウタマルによって作られた術。

 普通の結界術とはその概念どころか基幹構造からして全く異なり、狼が指摘したように限定的とはいえ完成された【界】を作り出す術。

 おそらく本史、外史のある【世界】を作った存在とほぼ同質の術なのだろう。

 もっとも【世界】と比べるにはあまりにも極小な【界】ではあるが、それ故に術者の影響を大きく受ける【界】とも言える。

 ただ【界】と言っても所詮は一管理者作り出した【界】。 故にその内に取り込まれた対象に対する強制力は未完成で、その中で起きた事実は実際には夢でしかなくその躰が穢される事は無いのだが、その代わりに其処であった事は事実として【世界】に記録され。

 時間軸や因果律の干渉も受け付けずに実際にあった事実として、幾ら記憶を消そうが、改竄しようが、対象者の魂の記憶に残り続けると言う特性を持っている。

 実際はどうあれ、周りがそう伝えてしまう【神話】のように。

 故に【腐敗神話】

 

「……夢でも嫌すぎる。」

「……悪夢だけで終わらないと言うのも性質が悪いぞ」

「……コレさえなければ良い奴なんだけどな、あの腐猫め」

 料理好きで自分が作った料理を美味しそうに食べてくれる姿が好きと言うウタマルは、よく美味しい御菓子やお弁当を食べ盛りの戦国達に持って来てくれたりと一見普通に見えるのだが、やはり管理者に真面な人格の持ち主はいないのか。彼女の最大の欠点が人を平気で腐海に巻き込むあの腐女子ぶりである。

 本人曰く、男子も平気でその手の話をするんだから問題ないでしょ。と言う事なんだが健全な男子である戦国達にとって女が絡まない腐話は想像するだけでも悍ましい話でしかない。

 此れがまだマリアのような一見女性と見間違えるほどの男性と言うのなら、最悪の手段として選択肢として入れれるだろう。

 だが問題の人物はどう見てもピンクのきわどいビキニよりレスラーパンツの方が余程似合っている様な相手。しかもそんな相手がクネクネと悩ましげに体をくねらせて此方を期待を込めた瞳で見つめているばかりか、何を想像したのか時折頬を染めて気色の悪いポーズをとっているのだ。

 

(((( あんなのに愛なんか語った日には死ぬっ))))

 

 四人の想いは同じだった。

 あの二匹を止めるためにも、なんとしても此処から抜け出さなければと言う想いも含めて。

 だがどうすればいい? 戦国は顔に手を強く押しつけながら必死に悩む。此処数日の間ありとあらゆる手段を試したものの、結界を破る手かがりが見つける事は出来ず徒労に終わってしまった。せめてもの救いがその才に技を磨けたと言う事だが、それもこの結界からでれなければ何の意味もない事。

 アァァァ、いったいどうしたらいいんだっ!

 

 考えが行き詰まりになり、心の中で声を上げた所に一つの静かに影が立ち上がる。

 影はビキニ姿の筋肉達磨の方にゆったりと足を進めてゆく。

「丈二。無駄だあいつを倒した所で結界は破れない」

「ああ、分かってる」

 狼の声に丈二の静かな声が帰ってくる。

「……っ! おいまさかっ」

「その、まさかさ」

 戦国の驚声に覚悟を決めた瞳で答える丈二。

 そんな丈二に黒山羊は丈二を止めようと。

「止めるんだ丈二。他に手は絶対にあるはずだ。死ぬ気かっ!」

「ふっ。家族や仲間のために死ねなくて何の男か。

 俺は家族を仲間を守るためなら喜んで死地に向かってみせる。

 それが大猩々を盟友とする俺の生き方だ」

 

 其処には笑みさえも浮かべてみせる丈二の姿が在った。

 三人の止める声さえ振り切って、仲間のために死地へと赴く漢の背中が…。

 何時も三人を温かく優しい目で見守り続けた、真の漢の生き様を語った後姿が在った。

 やがて丈二が相手の元に辿り着いた時。

 

「う~ん。美しい男の友情ね。あなたは真の漢ね。惚れちゃいそうよ」

「それは困る。口説く前に終わられては興覚めと言うものだ」

「うふっ、すごい自信ね。いいわぁ貴方。いいえ丈二、私を貴方の声と言葉で口説いて。

 貴方の重く痺れるような声で私の名前を呼んで。 私は・」

「必要ない。此処にはお前と俺だけだ。なら名など不要。

 必要なのは此処だ。違うか」

 自分の左胸を力強く示す丈二にビキニの男は、その太く逞しい腕をまるで嫋やかな乙女のように丈二の首にかけ、その躰を相手の身体に預ける。

「そうね。なら聞かせて、貴方の声を、貴方の想いを」

 

 

 

 

「う、う…ん。…ぁ…」

「気が付いた?」

 頭を撫でる感触に眼が覚めた事で、自分が気絶していた事に気が付いたウタマルは、マリアの心遣いに応えるかのように猫の身体を思いっきり伸ばして見せる。

 そんな私にマリアは私が気絶した要因と、その事で間違って狼様達を結界に閉じ込めてしまった事や、あの二匹が再び自由に学園内を暴れ回っている経緯を話してくれたのだが、あれから30分程しか経っていないので被害はまだそう出てはいないと思う。

 問題は誤って結界内に閉じ込めてしまった戦国様達四人だけど。

「ウタマル。悪いけど早く結界を解いてもらえるかな」

「…………ぇ…と…その…」

 状況説明を終えるなり、四人の解放を求めてくるマリアの言葉にどう説明しようか困っていると、一瞬ガラスが割れるような音が辺りに小さく響くと共に、30分ほど前に戦場の中心であった場所に四人の姿が浮かび上がる。

 狼、戦国、黒山羊、共に外に出れた事に安堵の息を吐くのが見える。だが、

 

 ドタッ

 

 重い物が倒れる音が響く。

 誰よりも屈強な体を持つ丈二が、髪を真っ白にして地面に膝をついたのだ。

 そんな丈二にマリアは慌てて駆けつけ、自分よりも大きな身体を支えながら、丈二に治癒の術を施そうとするが……。

「……ひ、必要ない。 怪我をしている訳では無いからな」

「そんなフラフラで、顔まで真っ白にしてなにを言ってるんですか」

 気丈に振る舞おうとする丈二の言葉を無視して術を掛け続けるマリアは、丈二を心配して駆け寄ってくる黒山羊達に、此処は良いから二匹を止めるように言う。 だが、自分達のために己を犠牲にした丈二を放っておけないと言う彼等にマリアは、

「丈二を心配するのなら、丈二が何のために貴方達を無事に脱出させたかを考えなさい。

 丈二が大丈夫と言っているのならば、今最優先にすべき事は二匹を捕らえ懲らしめる事ではないんですか」

 何時も穏やかなマリアとは思えない程強い口調の言葉に、狼達は己が成すべき事を思い出し、その場から一瞬で姿を消す。

 丈二の想いに応えるために……。

 彼等の狩りを続けるために……。

 この外史の平穏を取り戻すために……。

 

 そんな彼等の背中を見送りながら、再び丈二の治療に意識を集中させようとした時、小さな肉球が丈二の身体に触れる。

「ヒヤァ~」

 そんな鳴き声と共に、丈二の身体を包んでいたマリアの術が目視できるほどまでに強く輝く。

 丈二の状態をマリアより理解しているウタマルの治癒術である。

 そんな二人の想いに応えるように丈二の髪の色が元に戻り、眼の下の深い隈が薄くなってきた頃には、丈二は静かにゆったりと立ち上がる。

 先程のような危うさはもうない。

 まるで地面に根が張ったかのように力強い立ち姿を、マリアとウタマルに見せる。

 まるで、もう心配はいらないと言わんばかりに。

 そんな丈二の姿に静かに安堵の息を吐くウタマルは。

 

「丈二様、ご、ごめんにゃ」

「ああ、分かってる。 ヌコに悪気が在ったわけでもなく、あれが事故だったと言う事わな」

「う、うん。でもごめんにゃ」

 珍しく素直に謝るウタマルの姿を余所に、丈二は目線で離れるように促す。

 その気配を敏感に察したウタマルは静かにスリ足で交代しようとするが、丈二の視線によって止められてしまう。

 猫の姿のせいなのか本能が今逃げ出すのは危険と警告した結果なのだが、ウタマル自身此処に留まっているのも危険と判断しているのに足が動かなかった。

「え……えーと、怒ってるにゃ?」

「怒ってなどいない。不運な事故を怒っても仕方なき事」

「…その言葉は嬉しいにゃ。……でもその割には…その……なんか変なオーラが出てないかにゃ?」

「気のせいだ。 そんな事よりもヌコよ。罪と罰と言う言葉を知っているか?」

「……たしかドステフスキー著書の」

「そっちも知っているなら話は早い。なら俺が言いたい事は分かるな」

「……そ、その、暴力反対にゃ」

 丸猫の身体を丈二の大きな手が持ち上げるなり、

「ああ、俺も暴力は嫌いだ。 だが罪には罰は必要だとも思っている」

 

ゴズンッ!!

 

「ぷぎゃっ!」

 凄まじい音と悲鳴と共に、宙に浮いていた丸猫の姿が地面と共に地中に潜り込む。

 だが痙攣する暇も与えずに第二弾が丸猫に頭上から襲い掛かる。

 

ドスッンッ!!

 

 地面の一瞬が蒸発するほどの衝撃を受け。ウタマルは悲鳴を上げる事も出来ず。その衝撃と激痛は魂に刻み込まれるかのように襲い掛かる。

「…や、やっぱり怒って、うきゅっ!」

 

スダンッ!!

 

「怒っていない。怒りは拳を鈍くする。

 故に決して怒ってなどいないっ」

 それが何度も何度も繰り返され、丈二の攻撃の手が止まる頃には、岩が真っ赤に燃え上っているクレーターの中心は地表から50メートルくらいの深さになり。クレータの縁には土砂が山となって積みあがっていた。

 そのクレーターの中心から肉塊と化したウタマルを片手に掴んで飛び出してきた丈二は、マリアの前にその肉塊を置くなり。

「悪いが治療をしてやってくれ」

「……ぁ、はい」

 いきなりの起きた惨状にマリアは呆気にとられながらも肉塊と化したウタマルに治癒術を掛け始めると、あれほどの傷がみるみると治って行くウタマルの姿にマリアは心の中で、なんやかんやと言いながらも丈二は優しいなぁと安堵の溜息を吐く。

 ウタマルへの鉄槌にしたって、ちゃんと利き腕で無い方で叩いていたし、こうしてすぐに治療させる所は不器用なりに彼なりの優しさなんだ。

 少なくても丈二がキッチリお仕置きしたと言えば、狼君達は事故として笑って治めてくれる。

 ウタマルも困った趣味があるとはいえ、それ以外では悪い娘ではないからね。それは狼君達も十分わかっている。

 そう思いながらウタマルの治療を終えた時だった。

 

「ふぅ、自業自得とは言え、酷い目にあった・にゃ~~~っ!?」

 丈二が再びウタマルを掴みあげるなり、自らが作り出したクレーターの中に飛び込む。

 そしてっ。

 

 ドズンッ!!

 

「ぶぎゃっ!」

 再び繰り返される地響きと、噴火と思えるほどの燃え上がる岩と土砂の吹き上がり。

 じょ、丈二?

 あの、もしかして本気で怒ってる?

 いったい結界の中で何が?

 そう思っていると、再び私の前に肉塊と化したウタマルが転がされる。

 ………あの、まさか?

「何度も悪いが、治療をしてやってくれ」

「………」

 そんな事が何度繰り返された事だろうか。

 そろそろ一度休まないと術が仕えなくなって来たため、その事を丈二に言うと。

「仕方ない。瞬間移動や空蝉で逃げずに罰に服した事に免じて今回は此れくらいで許してやるか」

「う、うん、そうだね。その方が良いと思うよ」

 我ながら自分の頬が引きつるのを感じながら丈二の言葉に頷いておく。

 とりあえず丈二の気も収まったようだし、躰が治っても起き上がる元気の無くしたウタマルを介抱しながら、本当にいったい何が在ったんだろうと思うも、聞かない方が良いだろうな。丈二が話さないと言う事はそう言う事だろうしね。

「ヌコよ。言いたい事はあるか?」

「………腐、腐は不滅にゃ……がくっ」

 猫の身体をマリアの膝に横たわらせながら、そんな事を言い残して疲労のために眠りにつくウタマルの姿に、丈二は、

「はぁ……、人に言われたくらいで曲げるような信念などに価値は認めんが、此処までされて曲げないのであればそれもまた真実。どうやら矯正は無理のようだな」

 溜息と共に薄っすらと笑みを浮かべた丈二は、マリアの膝の上で静かに眠るウタマルをそっと掴みあげるなり自分の頭に載せる。ウタマルはその感触に目が覚めるが、そのまま丈二の頭の上で文字通りミンチにされた心を休ませていると。マリアの上着のポケットの中から電子音が鳴り響く。

 

「大変だマリアっ!」

 

 マリアと携帯電話から僅かに聞こえてくる声から、相手はどうやら戦国らしいが酷く慌てている様子だ。

 いったい何が? そう思っているとマリアが電話先の戦国が居るであろう方向から丈二に視線を移す……いや正確にはその上のウタマルに視線を向けると。

「大変っ。どうやら狼君が娘さんの輝里ちゃんを応援に呼んだらしいんだけど、あの二匹の餌食になりそうになったのを狼が身体を張って間に入ったのは良いけど。輝里ちゃんが放とうとしていた術に狼君が取り込まれたらしいです。

 幸い狼君の輝里ちゃんは黒山羊君の援護射撃で二匹の餌食にならずに済んだらしいんだけど、二匹の姿はまた見失ってしまったようです」

「……輝里ってあの輝里か? なんだか嫌な予感がするんだが」

 マリアの言葉に、丈二は目の下を引き攣らせながら言葉を零す。

「どうやら、ウタマルと同じ結界術みたいなんだけど。ウタマル、大至急に解いてあげて欲しいと言ってきているんだけど、体は大丈夫?」

「無理にゃ」

「どれくらいで回復しそう?」

「そう言う意味じゃなくて、あの術は解けないにゃ。

 アレは正確には結界術ではなく腐【界】と言う名の【世界】の一部を作り出す術にゃ。

 【世界】を壊す事なんて誰にもできないにゃ。たとえ界の綻びを見つける【直視の魔眼】でも無理にゃ」

 

 ウタマルの説明にマリアは顔を青くし、丈二ならばと視線を移すが、

「たしかに【世界】は壊せないが、極小の【界】ならば俺が本気の中の本気を出せば壊せるかもしれない。

 だが狼には悪いが"出来ない"な」

「何故?」

「なに、単純な話だ。【界】の崩壊するエネルギーと俺の本気の本気の拳によって、この外史どころか近くにある外史を巻き込んで消滅しかねないからさ。

 幾つもの外史に生きる魂を犠牲にしてまで自分だけが助かろうなんて真似は俺の矜持が許さんからな」

「………そんなすごい結界だったの?

 と言うかそんな【界】を作るエネルギーは何処から?」

 丈二の言葉にマリアは驚愕しつつも、浮かび上がった疑問を丈二の頭の上に座る丸猫に視線を移すと。

「純粋なる乙女の想いにゃ。

 本史、外史、過去、未来、を含めてこの【世界】に住む全ての、同胞の想いに指向性を持たせてあの【界】を形造っているにゃ」

「………つまり腐女子の想念があの腐【界】を作り上げていると言う訳か………と言うか、そんなにいるの?あなたや輝里ちゃんみたいの趣味の持ち主が?」

 

 マリアの頭が痛いと言わんばかりの質問に、ウタマルは答える。

 聖書の中にソドムとゴモラの街が在ったように、幾つもの神話の中で語られているように、神代の時代より腐女子は存在し、人類の進化と共に共に歩み続けてきた正当なる文化遺産の存在を。

 男と女の二人が居れば恋物語が描かれるように、男が二人居れば当然の如く恋物語が描かれるのだと。

 腐女子は伝統ある文化の継承者であり、高貴なる文化の伝道者であると。

「……随分と嫌な文化遺産もあった物ですね」

「……同感だ」

 思いっきり苦いものを口に含んだような表情のマリアと丈二は、戦国と黒山羊に狼の事は此方に任せて、二匹の索敵&捕獲を続けるように御願いするなり電話を切る。

 

「……で、ああは言ったけど、狼君の事どうする?」

「あいつも立派な一人の漢だ。放っておいても直に出てくるさ。

 家族を守るためなら、娘の後始末くらい笑ってするだけの気概は持っている」

 狼の身に何が起こっているか丈二は話さない。

 話したくもないし、他人に話すべきではない事だから。

 ただ、狼の心の傷を触れないよう黙って見守ってやる事が一番なのだと分かっているからだ。

 それでも友として、仲間として狼にしてやれる事が一つだけある。

 

「ヌコよ。分かっているだろうが、俺と狼の分の【世界】の記憶に封鎖をしておけよ」

「………分かったにゃ」

「言っとくが、確認のためと言って読んでから封鎖するなんて考えるなよ」

「ギ、ギクッ」

「ヌコよ」

「分かったにゃ。輝里ちゃんにも言っておくにゃ」

 心底残念そうに頷く丸猫の姿を余所に、マリアと丸猫を頭に載せた丈二は二匹を追うためにその場から姿を消す。

 途中、先程の丈二と同じように髪を真っ白にし、虚ろな瞳の狼を見つけ回収したものの。マリアとウタマルの治癒術で意識が正常に戻ってくるなり、

 

「カイゼル髭なんて、でぇぇぇーーーーーきれぇーーーーだぁああああああああっ!!」

 

 太陽に向かって魂の底から声高に吠える狼の姿に、丈二は何も聞かずにそっと頭上に載る物体を差し出す。

 

「にゃ!? ちょっと待つにゃ。 今度は私のせいじゃないにゃ。

 にゃぎゃぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳で一郎太様、後をよろしくお願いします。

 

【あとがき】みたいなもの

 

 討伐リレーなのに、まさか自分が討伐される側になるとは…………。

 そして、作品のために犠牲となってくださった丈二様、狼様、申し訳ございません。そして本当にありがとうございます。

 お詫びと感謝の言葉をこの場にて代えさせて頂きます。

 また他にも出演してくださったマリア様、黒山羊様、戦国様に深い感謝を申し上げます。


 
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