No.339456

人類には早すぎた御使いが恋姫入り 幕間2 春蘭√

TAPEtさん

これで拠点は終了となります。
作者は基本的に具体的な戦の表現は能力上できないので省いたりします。
張三姉妹捕獲に関しては、みなさんが期待していらっしゃるすごい策を持ってきた戦いよりも、あっさりとカットしてその次の話をしたほうがもっと建設的ではないだろうかと考えてるところだったりします。
何しろ一番の山は連合軍ですけどね……

2011-11-26 00:15:39 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:4651   閲覧ユーザー数:3682

春蘭√ 題名:あるものはあなたへの忠義、それだけ。

 

春蘭SIDE

 

それは朝廷からの命令で、黄巾党と交戦している官軍を助けろという伝令を聞かされてそこに向かった時のことであった。

 

「賊退治の際に他の君主の領地に突っ込んで問題起こした馬鹿が居るらしい」

「………むむっ」

「大きな問題にならなかったら良かったものを、もし袁術軍から抗議の文でも届いてたら、危うくこちらの情報が漏れるところだった」

「う、うるさい!何故お前にそんな言を言われねばならん!」

「お前の主及び妹らがお前の馬鹿さ加減呆れているから代わりに言ってやったんだ」

 

「「「…………」」」

「………」

 

か、華琳さま!

 

「……はぁ」

 

何故頭を抱えて唸っておられるのですか!

私があの無礼者にあんな酷いことを言われたのに……!

 

「あの、お兄ちゃん、春蘭さまのせいじゃないよ。あいつら、私たちを見た途端、そっちに逃げ込んじゃったから…それで、それを追ってたら知らぬ間に……」

「……文謙」

「申し訳ありません。その時私は官軍の将に当たっていました故、春蘭さまを止めることが出来ませんでした」

「……はぁ…」

 

ぐぬぬ…あいつ、また人の顔を見てため息なんてつきおって…いつも戦場にも出るはおろか部屋に篭ってる奴に戦が分かるか!

 

「で、春蘭、かの孫堅の娘、孫策、あなたはどう見たかしら」

「は、はいっ!今は袁術という籠に囲まっているような形ですが、孫策はまるで獣のような目をしていました。とても袁術ほどの者の手に収まる者ではありません」

「なるほどね……春蘭、今回の処分はその情報に免じて無しにしてあげる」

「はっ!ありがとうございます!」

 

華琳さま、その広い御心にこの夏侯惇、感服いたす限りです!

 

「では、他に意見する者はある?」

「はっ、以前凪が持って来た黄巾党本城に送った偵察からの報告です」

 

秋蘭が報告をした。

 

「偵察によると、情報通り、本城にて張三姉妹の様子も見かけたとのことです」

「中の様子はどうなの?」

 

この情報は確か凪が黄巾党の伝令を捕まえて得た情報で見つけたものと言ったな。

これなら、まだ誰もこのことを知らないだろう。

今華琳さまがそこを打って、張角らを捕まえば、華琳さまの名も天下に謳われるだろう。

 

「何やら、黄巾党たちが張三姉妹を囲って何かの儀式をやっているらしいです」

「儀式?」

「張三姉妹が中心になって中央で歌を歌ったり踊ったりなど……私も良くわかりません」

 

何をしているんだ、あいつらは?

何かの妖術の下準備か?

 

「数はどれぐらいだ?」

「報告上には十五万ほどと書いてあるが、次々と敗残兵が集まっているらしい」

「……そろそろかしらね」

 

うん?

 

「そろそろって、どういうことだ?」

「本城に攻め込む時期のことよ。春蘭、休まずに悪いけれど、もう一度出立する準備をして頂戴。今回はこの賊の乱を終わらせる最後の戦いになるわ」

「はい!分かりました。この夏侯惇、華琳さまのためであらば、この身が例え砕け散るとしても、何度でも戦場へ向かいます!」

「ふふっ、頼もしいわね、春蘭は」

 

ああ、華琳さま……

 

 

 

 

「む?」

 

会議が終わって部屋に戻ろうとしたら、アイツが凪と真桜と沙和を置いて何かを話していた。

 

「…………良いな」

「はっ、おまかせください」

「まかしときぃ」

「まっかせてなのー」

 

三人はアイツに頭を下げて向こうに行った。

 

「おい、貴様」

 

私は消えようとするアイツを呼び止めた。

 

「アイツらに何を言ったのだ」

「……それをお前に説明する義理はない」

「何!」

「あの二人は俺の直属部下だ元譲。何を命ずるがお前に言っておく筋合いはない」

「くっ、減らず口を……!」

 

まったくこいつはいつ見ても好かん!

何を考えているかも分からないし、見た目では従順と華琳さまに従うようにしてるが、後ろで何を考えているか分からぬ奴だ。

何故華琳さまはこのような怪しげな奴を側に置かれるのだ?

 

「話がそれだけなら、そろそろ俺は行くぞ」

「ま、待て、貴様!」

 

「ちょっと、アンタ!こんなところで何やってるのよ!」

 

何っ?!

 

「荀彧?」

「今から策立てないといけないんだから、アンタも早く来なさい!」

「なっ、待て、桂花!私はアイツを……」

 

私がアイツの手を掴む桂花を止めようとすると、

 

「あんたもこんなところで油売ってる余裕あるのだったらさっさと出立の準備しなさい!華琳さまがせっかく機会をくださったのに、また恥をかかせる気じゃないでしょうね」

「なっ!」

「……ほら、さっさと行くわよ」

「……」

 

痛いところをつかれた私は、桂花がアイツを連れ去るのを見ているしかなかった。

 

「ぐぬぬ……」

 

 

桂花SIDE

 

「アンタばっかじゃないの?何春蘭と真正面で喧嘩してるのよ」

 

角を曲って私の部屋までアイツを連れ込んだ私は呆れてアイツに言った。

 

「先に挑発したのは元譲の方だ」

「どっちも同じよ!はぁ……」

 

コイツ、今どれぐらい危うい状況なのかわかってやってるの?

 

「良い?!アンタは自分の能力で他の者たちを皆制圧してるつもりかもしれないけど、それは文官たちだけの話しよ!武官の中では、まだあなたの奇行やら無礼な行動の様々、そして男であるにも関わらず華琳さまの近くにいること、全部良しとされてないのよ!そして、その武官の頭に居るのが」

「夏侯元譲…というわけだな」

「そうよ」

 

実際に、春蘭のところにはコイツに関しての不満の数々が上がっている。

それを見ている春蘭本人もただでさえ突然現れたコイツを良しとしないというのに、あんな申し出ばっかり見ていたら印象が悪くなるのも当たり前よ。

秋蘭はまだ黙っている方だけど、確かにコイツのことを良くみてはいないし……

 

「あの二人は仮にも曹操軍最古参なのよ。何かの弱みでも掴まれたら、私でも助けてあげられないわ」

「……俺がそんなことをすると思っているのか?」

「いくらアンタがすることだとしても、万が一ということがあるのよ!」

「…荀彧、俺のことを心配してくれるのか?」

「なっ!ば、馬鹿言ってるんじゃないわよ!私は、アンタが原因で華琳さまの覇道のために大事なこの時期に部下たちの間の騒ぎを起こしたくないだけで……」

「…まぁ、良い。そこは荀彧に免じてこれからは慎むことにしよう」

「……はぁ…」

 

それに、不満まじりの報告があがってくるのは軍部の方だけじゃないのよ。実際にコイツが一度どこぞの部署を襲撃すると、その日にその部署に所属する文官たちのほぼすべての者たちから抗議の書簡が上がってくるのよ。大体は連中の方が腑抜けな真似をしていたのを突かれてることが多いけど、コイツの場合は本当些細なことにまで干渉してくるから、その部署たちの長たちからすれば、自分の職場を無視されたと思って、コイツの行動を慎むようにして欲しいと強力に主張してくる。

肩書きでは『警備隊隊長』の癖に、軍師である私よりも広く手を回しているのだから、周りが怒るのも当然よ。

 

「アイツらはアンタが見るに無能かもしれないけど、その立場に値する責任も持ってるわ。何の責任も持たないあなたがあっちこっち突いたら、敵が出来るのは当然のことでしょう?」

「……誰よりも孟徳の覇道を支えることを大事にする荀彧お前からそのような言葉が出てくるか。俺に孟徳の部下たちの権力構図にまんまと従えと」

「……それが筋ってものでしょ?」

「筋?何がだ?この乱世に置いて筋など通すには、自分の能力でするしかない。誰からもらった権力でも、財力でもなくただ己の能だけで上がってくるものにしか筋は言えない。それは荀彧、お前が知っている。元譲が知っている。そして孟徳が誰よりも良く知っている」

「っ…それは」

「俺は才のない連中が俺に対し、何をしようが、何を思うが興味ない。俺を動かせるほどの興味を持ってない者の文句なんて聞いてるだけ無駄だ」

 

アイツはそれだけ言って私の部屋を去ろうとした。

 

「ちょっと待って!」

 

アイツが『私の言葉に』足を止めた。

 

「最後に、一つだけ聞いて良い?」

「……それは俺に答えを求めなければならないものなのか?」

「ええ!どうしても…どうしてもあなたに付いて理解できないことがあるわ」

 

あれほどの智謀を持っていた。

私を越えて……華琳さまよりも更に向こうを見ていそうなそんな先見の才が彼にはあった。

なのに、

 

「アンタは、どうして自分の軍を作らないの?」

「………」

「アンタ、いつも隠してるけど、実は力もあるし、素手で戦っても春蘭に遅れを取らないほど、智謀といったら私や華琳さまも抜いて、大陸でアンタを越える者はないだろうって私は確信を持って言えるわ。そんなアンタはどうして、ここに居るの?」

 

春蘭や秋蘭がアイツを警戒する一番の理由は実はここにあったのだ。

アイツは強い。

すべての面において、私たちのような家臣の立場である者ではなかった。

どっちかと言うと…そう………同等の立ち位置にいる……助力者?

 

この中で、唯一、ただ一人、華琳さまが自分と同等の位置に居ると認めた者。

それが男で、不細工で、しかも気持ちわるいとかはこの際関係なかった。

華琳さまは、初めて会った時から、この男を自分の部下だなんて思っていなかったんだ。

私たちのような君臣の関係ではなく、いつか自分と同等な位置に立てる敵として、彼を側に置いていた。

それを、……アンタは解っているの?

 

 

一刀

 

 

「荀彧、俺は興味本位で動く。誰も『誰も』俺をすべて理解することはできない。だけど、ここまで辿り着いた荀彧、俺の期待に添えてくれたお前への感謝の気持ちを込めて、一つお前が興味深く思うことを教えてあげよう」

 

一刀は私の方に近づいた

そして、いつかそうしたように私の耳に口を近づけて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅー」

「はうん!」

 

 

 

 

 

 

って

 

「何してんのよ!!!!この変態精液男野郎が!!!!」

「お前は孟徳のことだけど考え、孟徳のことだけを心配すればいい。余計なことに気を逸らすな」

 

即座に側にあった花瓶を投げつけたけど、アイツは余裕にそれを避けた。

 

「黄巾党の件はお前に一任する。お前の言うとおり俺は暫く謹んでおこう。せいぜい頑張ってくれ、『魏の筆頭軍師』殿」

「ぐぬぬ……ふん!」

 

そう言ってアイツは、そのまま部屋を出て行った。

もういいわよ!誰がアンタの心配なんてしてあげるものですか。

もうどうなっても知らないわよ!

 

「あ、一つだけ言っておく」

「何よ!」

「例の黄巾党の本城、西に半里(2km)ぐらいに小規模で良いからうちの部下と兵をいくつかつけておくように」

「は?何のために……」

「張角らの逃亡ルートだ。現地踏査の時に丁度見つけたから頭に入れておけ」

「は!?」

 

アンタいつそこに行って来t……って、話だけ投げて消えたのよ!

 

 

 

 

流琉SIDE

 

基本的に私は兄様のお世話係ですけど、

 

「当分は許楮と一緒に親衛隊の仕事を努めてくれ」

 

って兄様に言われたので、季衣と一緒に訓練場に居ます。

突然そう言われた時は兄様に嫌われたのかと思って不安だったのですが、兄様がそんなことを言った原因を知ったのはそれから間もなくしてでした。

 

 

(それじゃあ、アイツを……)

(ああ、次の日の夜だ。……様から他の軍からも来ると言ってた)

(やっとあの生意気な奴の鼻をへし折ってやれるのですね)

 

 

「そこの人達、何をしているんですか!まだ訓練中ですよ!」

「は、はい!」

「じゃ、後で」

「あぁ」

 

………

 

それが今日の昼のことでした。それだけではなく、いくつか不穏な空気を感じた私は、夜、秋蘭さまにこの事を話しました。

 

「親衛隊一部の兵の人たちが集まって不穏な空気を出してるのを見かけました。何か企んでいるのかもしれません」

「…親衛隊もか」

「はい?」

 

秋蘭さま?

 

「いや、こっちの話だ…企んでいるって?」

「はい、何かは良くわかりませんけど…とにかくとても危険な感じがしてました」

「…分かった、私が調べてみよう。流琉はいつものように、訓練に専念してくれ」

「わかりました」

 

秋蘭さまの部屋を出ながらも、秋蘭さまがさっきつぶやいたこともあって、私はどこか不安になる感覚を消せませんでした。

 

 

 

秋蘭SIDE

 

「……親衛隊の連中までか……」

 

軍部で不穏な動きが見えるのは既に確認できていた。

でも、具体的に何かをしようとする動きもなければ、その範囲も広すぎた。

これがもし反逆の催しだとすれば、我々は軍部を一からひっくり返さなければならないほどの大きな問題だった。

何か原因になりえるものも心当たりがなかったし、大した動きも見せないから探るにも中を探れなかった。

でも、普段は軍部で働かない流琉まで気づくほどに動きが活発してるとしたら、放ってはおけぬな……

 

「取り敢えず、姉者と話してみるか」

 

・・・

 

・・

 

 

「何?!軍部で反逆の動きだと!」

「いや、反逆というわけではない。ただ、少し不穏が動きが見当たるというだけだ」

 

直ぐにカッとなる姉者を落ち着かせるために、私はそう言ったが、実際にこれが反逆だとしたら、今まで黙っていた私に責任があるのだろう。

 

「ならなんなのだ!反逆でないのにただ気持ち悪いだけだというのか?!」

「それは……とにかく、調査を行って、軍部で騒ぎを起こそうとしている者が誰か探ってみる必要がある」

「……もしや、アイツの仕業か!」

「アイツ……誰か心当たりがあるのか?」

「秋蘭も知っているだろ。北郷のことだ!」

「……あぁ…」

 

北郷か……

…いや

 

「それはないだろう」

「何故そう言い切れる!アイツは、誰よりも華琳さまにとって邪魔になりかねん奴なんだぞ?いつ我々の軍を乗っ取る企みをしてもおかしくないはずだ!」

「奴の不気味な姿と不気味な能力を考えればそう思うのも必然だろ。でも、姉者、あいつに限っては華琳さまに歯向かうということはない」

「………秋蘭はアイツのことを信用できるというのか」

「まさか、ただ、アイツはそんなことをするほどの度胸がないというまでだ」

「何?」

 

アイツは天下を取ることなんて考えてない。ましてや、華琳さまほどの能力があったにも関わらず、我々のように華琳さまの下で働いている。

才があるとしても、それを生かすほどの勇気と乱世を生きる度胸がなければ、その才も腐ってしまう。

そんな奴に、今更華琳さまと我々を裏切るなどのことが出来るはずがない。

 

「とにかく、今回のことに関して北郷は無関係なはずだ。詳しい調査が私が行うから、姉者はもしも何か動きが見当たったら直ぐに私に連絡をしてくれ」

「お、おう。わかった」

 

姉者に話を伝えた私は、早速調査に赴くため姉者の部屋を出た。

 

 

春蘭SIDE

 

軍部の不穏が動きだと?

…確かに最近何か良からぬ空気がざわめいている感じはしていたが、それほど脅威になりそうなものとは思えなかったので放っていたら、秋蘭が動くほどになったというのか?

 

秋蘭はああいうが、私はやっぱ北郷のことが怪しい。

もしこれが秋蘭の言うとおり北郷、アイツが転倒を企んでいるのではないとしてもアイツがこの事に関係しているのは間違いない。

武人としての勘だ。

 

「よし、そうと決まれば……さっさとアイツの所に行って事実を吐かさねば……!」

 

私はその場でアイツの部屋で向かった。

 

・・・

 

・・

 

 

アイツの部屋に近づいた時、ある兵士が多忙な様子でアイツの部屋の門を開くのを見た。

むっ?あの兵は……確か諜報部の者のはずだが……何故警備隊の服を着ているんだ。

 

「御使いさま、大変です!」

 

その声を聞いた私は直ぐ隣の部屋に入った壁際から向こうの話を聞こうとした。

 

「………警備隊の件なら文謙に言うようにしたはずだ」

「その楽進将軍さまから呼ばれてこうして参りました!今黄巾党の残党が街から逸れた屋敷に街の女や子供たちを捕まえて籠城中です。人一人に千金を用意しないと、一人ずつ殺すと言って……」

 

何!?

待て、それはもはや警備隊の仕事ではないぞ。今直ぐでも動かせる城の親衛隊でも動かして……

 

「何!それはどこだ。案内しろ」

 

なっ!何をしているのだ、アイツは!今直ぐ秋蘭や流琉にでも、これを伝えて正式軍部隊を動かすべきだろ!

 

「はっ、こちらです!」

 

外に走って行く音を聞いて部屋を開けると、アイツが兵士と共に穢した腕を抱えて走って行った。

直ぐに追わなければ……いや、その前に…

 

「おい、そこのお前!」

「は、はいっ!?」

 

通り過ぎてた侍女に向かって私は話した。

 

「今直ぐ許楮将軍に話して親衛隊全軍を連れて私のところに来るように伝えろ!直ぐにだ!」

「か、かかしこまりました」

 

それから私はアイツらを追った。

 

 

 

・・・

 

・・

 

 

 

アイツらが入った場所は街から逸れた廃家のようなところで、人気もほぼないところだった。

確か次から解体して街を拡張するとか朝議でアイツが言っていた所だ。

 

うん?何かがおかしい。

話では賊が中で籠城しているとか言っていたのに、何故警備隊が周りにいないんだ?

凪はどうした?

 

「この中です!」

 

中に入っていく。

おかしい。警備隊どころか周りには誰も居ない……

代わりにあの中には……

 

まさか……

 

私も中に入らねば……

 

 

 

 

 

 

一刀SIDE

 

『警備隊に変装した軍部諜報部隊所属の者』に付いて来られた先は人気もない大きな屋敷の中。

三階建てのその屋敷はここ数年、主であった貴族が賄賂などの罪で孟徳に懲罰されその財産を没収された。

 

「それで、文謙たちはどこだ?」

「……ふん!荀彧軍師を越える天才だと言われてるようだが、とんだ馬鹿野郎じゃないか」

「……どういうことだ」

「どういうことも何もあるか!まぁ、説明してやることもない。貴様はここで死ぬのだからな」

 

その者の言葉と同時に部屋の扉が閉ざされた。

日が暮れて、中は真っ暗だが、剣が抜かれる音と、月の光を反射する金属の光が屋敷のありとあらゆる場所にあった。

 

「安心しろ。簡単にころしはしない。貴様のその気持ちわるい顔が更に苦痛と恐怖に染められるまでじっくりと……『死』を味わせてやる」

「………」

「死ねーー!!!!」

 

 

 

「死ぬのは貴様らの方だーーーーー!!!!!!!!」

 

ドカーーンン!!!

 

という、爆破する音と共に、一階に『立っていた』すべての者たちが血を吹き飛ばして斬られた。

見えるわけではないが、剣が落ちる音を聞く限りそうであろう。

もちろん、俺は身を伏せていたから、『元譲の一閃で建物一階の敵を一掃する攻撃』には当たってない。

大した馬鹿力だ。

 

「な、何だ!何が起きている!誰が殺したんだ!」

「誰か教えてやろう!我こそ、曹孟徳さまの第一家臣!夏侯元譲!そして、貴様らのような腐った連中は華琳さまの軍には必要ない!失せろ!!」

 

タタッ!!

 

元譲の声が轟くと同時に、外から矢の音がする。

外で火矢を打ったのである。そしてそれは……

ドカーン!

 

「隊長!一刀様、ご無事ですか!」

 

ふっ

 

「見事だ、文謙。正確に私が提示した時間まで間に合ったな」

「はいっ!」

「なっ!どういうことだ!」

「元譲、話は後だ。取り敢えず出るぞ」

 

俺は元譲と楽進と一緒に屋敷を出た。

上では逃げようと降りてくる連中があったが、文謙の攻撃によって蹴飛ばされた。

 

 

 

春蘭SIDE

 

燃える屋敷の外に出ると、警備隊の凪だけでなく、真桜と沙和がいた。

そして、奴らの側にはまたどこかで捕まえたような兵たちが縛られていた。

各部隊ごと何人か捕まっていて、所属もバラバラ、何の共通点も見当たらない。

 

「奴らが動き始めたのは結構前からだ、元譲」

「何?」

 

それから私は、北郷から話を聞かされることになった。

 

「こいつらは全部、俺に悪事をバレた連中だ。街で無銭飲食から始めて、民や他の兵を強迫して金品を奪い取った者、軍資金を自分の手に回した者ども……その中でも罪の質が悪い連中ばかりだ。全部捕まえようとしたら、軍部に残る者が居なくなっただろうからな」

「なっ!私は知らんぞ、そんな話!」

「まだ暴露してなかったからな。上の者を捕まえるために奴らを利用していたんだ。そして、その者を捕まえるためには、俺自身が犠牲になる必要があった」

「何?」

「隊長はこいつらを操って軍の資金を横領していた、この事件の根となる者を捕まえようといらっしゃったのです。一刀様が動くと自分の罪が華琳さまにバレることを恐れて、部下たちを使って一刀様を暗殺するように……」

「なっ!」

 

じゃあ、コイツは最初から自分を狙っていると知ってここまで来たというのか?!

 

「ちなみに、元譲が親衛隊を連れてくるように言ったはずの侍女……アイツだろ?」

「なっ!?」

 

真桜たちが捕まえた者の中には、さっき私が季衣に伝達するように言った侍女まで居た。

 

「そういうことだ。もちろん、許楮も典韋も、そして夏侯淵も、ここまで間に合うことは出来なかっただろう」

「……ぐぬぬ……」

 

私は…私たちは…軍部を統率する者として失格だ。

事がここまで来るまで……

北郷が自分を犠牲にしてまで動いてくれなかったら、こいつらが後々華琳さまに歯向かうことになったことは当然だった。

 

「……北郷」

「しかし、妙才でもなく、元譲がここまで辿りつくとは思わなかった。関心した」

「は?」

「春蘭さま、ありがとうございます!春蘭さまが一刀様の後を追ってくださらなかったら、我々は間に合わなかったかもしれません」

「………ふん!貴様のことだから、どうせ奥の手があったのだろ?」

 

 

「なかった」

 

 

「…は?」

「文謙は事実何秒か動くのが遅かった。もし、あの場で元譲が現れて連中が混乱してなければ、俺はあのまま死んでいた」

「ば、馬鹿じゃないのか、貴様!何もないくせに、こんな危険なところまで頭突っ込んできたというのか!」

「……だが、元譲お前は俺に何も言われずにここまで付いてきた。お前の孟徳への忠誠心がそれを可能にしたんだ。それほどの武士が元譲に付いている。俺が今回本当に確認してみたかったのはそれだ。もし俺がこの場で死ぬようにするほどの軍なら、幾ら孟徳が興味深い対象としても、これ以上一緒に居ることは時間の無駄だからな」

「あ……」

「夏侯元譲、今日お前には命を助けてもらった。いつかこの『借り』を返す日が来るだろう」

 

………

 

北郷、

貴様にはいつか、正式に謝罪を言わねばならんようだ。

だが、それは今やることではないだろう。

 

「北郷!」

「何だ、元譲。俺はこれから戦後処理が忙しい」

「ふざけるな!ここからは軍部の仕事だ!貴様はこれ以上手を出すな!」

「…ほぅ、その軍部の仕事もろくにできなくて、警備隊隊長にこんな仕事をさせたのはどこの誰だ」

「五月蝿い!誰も貴様にこんな真似しろとは言っておらん!」

「…脳筋が」

「泥棒鼠!」

「……」

「くるるー……」

「…脳筋じゃなく獣か」

「誰が一度言ったら三秒で忘れる馬鹿だー!」

「そうは言ってないぞ、金魚頭となら思っているが」

「なんだと貴様ー!」

 

 

 

「なぁ、アレは止めへんでええの?」

「問題ないだろ。さ、我々は後片付けに回るぞ」

「えー、まだあるの?沙和はここに居る人たち捕まえるのだけでももうくたくたなの」

「弱音言うな、沙和。一刀様は自分の命も投げ捨てるようにしてまで今回の作戦を実行なさったのだぞ」

「むぅ……夜風は皮膚の大敵なの」

「まぁ、それにしても隊長もなかなかやるやん。いざとなったらこの『真桜特製爆弾』で、隊長が立っていたどまんなかの柱以外は全部爆発されるように仕組んでおいたくせにああいうんやから」

「しーっ、それは言うな」

 

・・・

 

・・

 

 

 

春蘭の知らない話

 

 

「以上が、今回の事件の終始だ。曹洪は既に拘束して他の罪もあるか調査中だ。何か質問はあるか?」

「一つだけあるわ」

「何だ?」

 

 

「自分の命を狙ってる連中がうじゃうじゃする屋敷に頭突っ込んで問題起こした馬鹿がいるらしいわよ?」

 

 

「………何のことやら」

「あ・な・た・の・こ・と・よ!!」

「…そう怒るな」

「怒ってないわよ!誰があなたなんかのために怒ってやるというの?私が言いたいことは、私のかわいい春蘭を勝手に巻き込んだことについてよ!」

「その方が逆におかしいだろ。元譲がそれほどの相手に負けるような者だったら、最初から俺の後をついても居ない」

 

 

「…………正直に言いましょう。あなたのこと、心配したわ」

「……」

「私の軍のために、わざと軍部責任者の春蘭と敵対するような構図を作ってるのはありがとう。でも、凪の時もそうだったけど、あなたは自分の体を大事にしなさすぎよ。これからは少し謹んだらどうなの?」

「俺も命は大事だ。俺が自分の体を犠牲にする時はそれほどの価値と興味を持たせる時だけだ」

「……少しは周りのことも考えなさいよ」

「俺の心配をするぐらいなら、

 

 

 

 

俺の膝の上から退け。重い」

 

「女性に重いと言うなんて死にたいの?」

「重くないから退け」

「嫌よ。だって机にすわったら下着が見えちゃうじゃない」

「椅子に座れと言っているんだ」

「あなたの部屋の椅子なんて汚くて座りたくないわよ」

「なんでもいい、退け。仕事に邪魔だ」

「きゃっ!ちょっとどこ触ってんのよ!」

 

 

・・・

 

・・

 

 


 
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