No.331407

真・恋姫†無双 真公孫伝 ~雲と蓮と御遣いと~ 1-23

真・恋姫†無双 真公孫伝 ~雲と蓮と御遣いと~ 1-23
更新させていただきます。

あとがきにじゃなくて、ここに章題を載せた方がいいんかな?と思う今日この頃。
今回は諸侯と一刀の初対面。

続きを表示

2011-11-08 00:11:42 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:8977   閲覧ユーザー数:5758

 

この作品は【 恋姫†無双 】【 真・恋姫†無双 】の二次創作です。

 

三国志の二次創作である物に、さらに作者が創作を加えたものであるため

 

人物設定の違いや時系列の違い。時代背景的な変更もありますので

 

その辺りは、なにとぞご容赦をお願いいたします。

 

上記をご理解の上、興味をお持ちの方はそのままお進み下さい。

 

 

 

 

 

 

 

司州、汜水関。

両側を高い崖に挟まれ、自然の地形を軸に要塞とした、大陸に五つと無い堅固を謡われる関。諸侯が続々と集まる中、その堅固な関を遠巻きながら、一刀はじっと見ていた。

 

 

「報告では関に立っている旗は、“張”と“華”の二つとのことです」

 

 

後ろでは斥候からの報告を受けた燕璃が、それを白蓮と雛里に告げている。

 

 

「おそらく、張遼と華雄だと思います。董卓軍の将の中でも随一の将ですね」

 

「神速の張遼に華雄か……厄介だな。でもここを取られたら洛陽までは虎牢関の一関だけだから当たり前だよなぁ」

 

「はい。加えて汜水関は両側を斬り立った高い崖に囲まれている為、道は正面にしか有りません」

 

「迂回路も有りませんから……難しいですね」

 

 

公孫賛軍大将である白蓮。軍師の表情をした雛里。事実を淡々と告げ、最も現実的な道を模索しようとする燕璃。見事に三人で一つの輪が出来あがっていた。

 

 

「まあ、とりあえず俺たちだけで考えていても仕方ないんじゃないか?一応しばらくすれば集まった諸候達で全体的な軍儀開くんだから」

 

「そうなんだけどさぁ……なんか嫌な予感がするんだよ。主に麗羽――袁紹方面で」

 

「白蓮様がこう言っているので、とりあえず私達だけで考えてみようかと思ったんです。どちらにしてもこの連合には様々な思惑を持っている方々がいますから、完璧な連携は出来ないでしょうし」

 

「そっか。そりゃそうかもしれないな。……俺も、もう少し勉強しておけばよかったかな」

 

「ん?いや、これは私の勘だから一刀が気にすることじゃ無いって。というか一刀はうちでも一番勉強量が多いと思うけど」

 

「そ、そうです!北郷しゃっ?!……ほ、北郷さんは誰よりも努力してると思います!」

 

「あはは、二人ともありがとう。……でも、そういうことじゃないんだよな」

 

「……」

 

 

雛里の頭にポンと手を置いた一刀が一瞬、ふと表情を曇らせ漏らした一言は白蓮と雛里、二人の耳に入ること無く流れていった。唯一、一刀を見てなにか思案顔になった燕璃を除いては。

そこに、天幕の外から兵が一人走って来て、片膝を着いた。

 

 

『申し上げます。劉備様とそのお連れの方々が陣へ入る許可を頂きたいと』

 

「ああ、通してくれ」

 

『はっ』

 

 

白蓮の指示に頷くと兵は去っていき、一分と絶たず後ろに数人の女の子を引き連れてきた。

 

 

『お連れしました』

 

「ありがとう、下がってくれ。あ、そうだ。あと趙雲と周倉に兵を少し休ませるように告げてくれ」

 

『はっ』

 

 

再び指示を受け、兵は去っていく。

だが、一刀は見逃さなかった。その兵の眼が去り際、桃香の胸に一瞬むいたことを。

後でシメるべきか、それとも気持ちは分かると同意するべきか、結構本気で悩んでいるうちに桃香、愛紗、鈴々の見知った顔にもう一人、その後ろを着いてくる背の低い金髪の女の子が白蓮の前にやって来た。やはり、というべきか相変わらずデジャヴのような感覚が一刀の脳裏には渦巻いていた。

 

 

「別に許可なんて取らなくてもよかったぞ、桃香。兵たちだって知らないわけじゃないんだから」

 

「ううん。一応、白蓮ちゃんは太守様だから、こういう礼儀も必要かなって」

 

「お、前回の教訓が生きてるみたいだな」

 

「私だって少しは成長しますよ~えへへ」

 

「一刀殿、息災で何よりです」

 

「ああ、桃香も愛紗も鈴々も久しぶり。元気してたか?」

 

「鈴々はいつでも元気なのだ!」

 

「そりゃ何よりだよ。鈴々は腹出してるから風邪でも引かないかと心配だったんだけどな」

 

 

冗談交じりで桃香、愛紗、鈴々との再会を喜ぶ。桃香に至っては前回、幽州の城で教えた教訓が息づいていることを嬉しく思った。

そんな中で所在なさげに立ち尽くす金髪の女の子。そこにトコトコと雛里が近寄っていく。

そして

 

 

「朱里ちゃぁぁん!!」

「雛里ちゃぁぁん!!」

 

 

ヒシと抱き合って二人は、お互いの存在を確かめ合った。

この乱世、友が別れて再び会える保証は低い。その再会が予期せず早くに叶ったのだ。

こんなに嬉しいことは無いだろう。二人の目尻には、また生きて親友に会えた喜びと安堵の涙が光っていた。

 

 

 

 

 

 

とはいえ、いつまでもそうしているわけにはいかず、ある程度気の済むまで再開を喜びあった辺りで中断してもらう。そこそこの人数の前で醜態をさらしたのが恥ずかしかったのか、二人とも顔を赤くし俯いていた。

無論、今の光景を“醜態”の二文字で片付ける者はこの場にはいなかった。

 

 

「えっと……姓は諸葛、名は亮、字は孔明、真名は朱里です。よろしくお願いします」

 

「真名まで教えちゃってもいいのか?まだ会ったばっかりだし……」

 

 

白蓮が言うことも最もだったが

 

 

「いえ、雛里ちゃんからの手紙で真名を皆さんに許しているのは知っていますし、桃香様達からも信用できる方達だと聞き及んでいますからだいひょぶっ?!……だ、大丈夫です」

 

 

おそらく二つの意味での“大丈夫”なのだろう。噛んだことは自身で醜態だと思っているらしく、再び顔を赤くして諸葛亮改め、朱里は俯いた。

 

 

「そういや桃香は幽州を発った後、曹操と一緒に動いてたんだろ?なにか得る物はあったか?」

 

「…うん、色々」

 

 

スッと真面目な表情を作り、肯定する桃香。親友の白蓮でさえ初めて見る表情だった。どこか大人びた表情。それは経験によって培われた証なのだろう。

 

 

「私はあまり曹操殿のことは好きになれない。なにかと辛辣な物言いばかり、もう少しこちらの心情に配慮してくれてもいいものだと思うが」

 

「でも、圧倒的な存在感でした。もちろん、周りにいる人達も」

 

「まあ、曹操のところは諸侯の中でも頭一つ抜き出てるからなあ……」

 

 

愛紗の苦虫を噛み潰したような表情に苦笑しながら、白蓮は朱里の言葉に相槌を打つ。

一方で鈴々は会話に加わること無く、再び汜水関を遠く仰ぎ見た一刀の横に並んで共に同じ物を見ていた。

 

 

「なにか見えるのかーお兄ちゃん」

 

「う~ん、なんも見えない。俺、視力は良い方なんだけどな」

 

「……?でも、なにか見てるのだ。お兄ちゃん、今そんな顔をしてたのだ」

 

「あー……流石は張翼徳。白蓮たちにもバレてないといいけど」

 

「なんか隠し事かー?」

 

「まあ、ね。でも気にするほどのことじゃないよ。色々と覚悟も決めなきゃなってこと。一回決めたことなのに笑えるぐらい揺らいじまう」

 

 

一刀は失笑を浮かべる。おそらく自身に当てた物だろう。

 

 

「ふ~ん。考えること多くて大変なのだ」

 

「ああ、大変だ。でもまあ、“考えてる暇があったら行動しろ”ってね。少しぶらついてこようかな。白蓮、いいか?」

 

「えっ?」

 

 

後半、大きく声を上げて白蓮に問い掛けたものの、前半は自分に言い聞かせるような声で言っていたため聞こえていた筈も無く、キョトンとした顔と間の抜けた声が返って来る。

 

今度は失笑では無く、苦笑を顔に浮かべつつ

 

 

「ちょっとぶらついてくるけど大丈夫か?ああ、一応軍議までには戻るつもりだけど」

 

「ああ、うん。なら大丈夫だ。軍議の場所は多分、袁紹軍の天幕になるから。場所は分かるよな?」

 

「ん、了解。大体、他の天幕の様子を見れば軍議が始まるかどうかも分かると思うし。んじゃ」

 

 

白蓮に了解を取り、その場の皆に失礼の意味も込めて片手を上げ、一刀は陣から出ていった。心配顔の白蓮と、急な退陣にポカンとした表情を浮かべた劉備軍の面々を残して。

 

 

 

 

 

 

陣から去った一刀はのんびりとした足取りで各諸侯の陣を練り歩く。フランチェスカの制服は持って来ているものの、着用はしていないので周囲の兵から好奇の視線を浴びることも無かった。

大体、鎧の色と旗で勢力の大半は確認でき、やはり規模がでかい連合なんだな、と感心する。チラリと眼に入っただけで“孫”や袁紹のところとは違う色の“袁”、“曹”や“劉”などと様々だった。そしてふと足を止めたある陣の前。旗は“馬”。

 

 

(“馬”ってことは西涼の馬騰か?)

 

 

顎に手を当てながら首を傾げていると、後ろから近づく気配。

なんとなく気にしつつも“馬”の旗を見上げつつ思案に耽る――と

 

 

「お兄さん、何か用?」

 

「ん?」

 

 

少し舌っ足らずな口調で掛けられる声。

さっきの気配の持ち主だろう、と振り返ると、まず眼に入ったのは茶色の髪。

一瞬固まり、相手の背が自分より低いのだという結論に至った。そして、視線を下げる。

 

普通に女の子だった。全体的にオレンジ色の鎧を着込み、頭には鉢金をした女の子。その子はキョトンとした顔で一刀を見ていた。だが、一刀は直感する。なんとなくだが、悪戯好きの匂いがする、と。

 

 

「ね、ね。どうしたの?聞こえてる?何か御用ですかーっ」

 

「あ、ああ。悪い。ちょっと呆けてた。いや、用は無いけどちょっと各諸侯の様子でも見ておこうかなって思っててさ」

 

「へ~……じゃあお兄さんもどこかの将なの?」

 

「将っていうか、一応役職上は文官かな。幽州公孫賛軍、北郷一刀だ」

 

「北さん?」

 

「いや、北郷が姓で、一刀が名前。残念だけど真名ってのは持ってない」

 

「真名が無いんだ~珍しいね。あっそうだ。えっとね蒲公英は蒲公英って言うんだよ!」

 

 

女の子は拳を作りそれを高く上げ、元気にガッツポーズをする。舞流と同じく、快活な笑みが似合うな、なんて思ったりしたがとりあえず一つ思い当たる。ああ、鈴々と同じタイプだ……と。

 

 

「……えーととりあえず二つ、いいかな?」

 

「え?なになに?」

 

「えっと、さっき言った単語は君の真名で良いんだよな?」

 

「うん」

 

 

何を言っているんだと言わんばかりに当たり前のように肯定する少女。

 

 

「で、なんでそれを俺に?」

 

「うん?えーとね、お兄さん良い人そうだったから」

 

「……」

 

「あ、あれっ?なんでお兄さん陣作ってる木の杭に頭付けて項垂れてるの?」

 

「……状況説明ありがとう蒲公英ちゃん。少し現実逃避してただけだよ」

 

 

なんでこの世界にはこうまで無防備な女子が多いのでしょうか神様。

俺は真名という存在がここまで軽い物だとは思いませんでしたよ……。

この世界で誘拐事件が起きないか、俺はとても心配です。

 

 

「へ、へ~…面白いことするね」

 

「引くなよっ!誰のせいだ誰のっ」

 

「えへへっ。でも蒲公英、人を見る目だけはあるんだよ?」

 

「だけ、と自分で限定するのも如何なものかと思うけどな」

 

 

ここでなんとなく脳内に図式が出来上がった。

鈴々+星÷2=蒲公英

うん。間違えてない自信がある。

 

 

「それより、ちゃん付けはちょっと止めてほしいな~?じゃないとお兄さんのこと“かずかず”とか呼んじゃうよ?」

 

「それは嫌だな。そんじゃ蒲公英。これでいいか?」

 

「うん!よろしく一刀さんっ」

 

「うおっ」

 

 

なぜかよろしくの挨拶と共に腕に抱きつかれる。未だ未発達でそこまで大きくはないものの、腕に二つの膨らみが当たっており気が気で無い。いや、嬉しいか嬉しくないかで言ったらもちろん前者ではあるけれど。

 

 

「あれ?」

 

 

そう不謹慎なことを考えていると蒲公英が声を上げ、パッと腕から体重が消失する。

と、共に今度は腕を触り始めていた。その小さい指でグッと押したりパンチしたり。

 

 

「あの、蒲公英?少し痛いんだけど」

 

「あっごめん。……一刀さん文官だって言ってたっけ」

 

「ん?いやまあ、それがどうかしたか?」

 

「ううん。文官の人にしては筋肉付いてるなぁって。この筋肉の付き方って文官の人より、蒲公英達みたいな武官に多いんだよね」

 

「ああ、一応毎日の鍛錬は怠って無いからな。これでも結構強いとは思うんだけど、周りがなぁ……って武官!?蒲公英って武官!?」

 

 

一瞬自分語りに入りそうになって慌てて軌道を修正する。危うくスルーするところだった。

 

 

「うん。だから鎧着てるの。お姉ちゃんにはまだ勝てないけど蒲公英も結構強いよ?」

 

「そ、そっか。馬一族で武官か……蒲公英ってさ、姓は馬とか?」

 

「あれ?教えて無かったっけ。そうだよ、蒲公英は馬一族の馬岱だよ?」

 

「いや、そっか。真名を先に知るってどんな状況だよ……ん、お姉ちゃん?蒲公英は姉妹がいるのか」

 

「うん、いるよー?私より強いけど女の子としてはまだまだかなー」

 

 

なんか可愛らしい顔で随分と達観したことを仰ってるんですけど。蒲公英のお姉さーん、妹さんから女として下に見られてますよー。なんて心の中で思う。もちろん、口には出さない。

 

そんな時“馬”の旗が掲げられた陣に金色の鎧を着込んだ兵が入っていく。

 

 

「そろそろ軍儀かな。俺も行かないと」

 

「あ、一刀さんも軍儀に出るんだ?お姉ちゃんも出るからよろしくねっ」

 

「うん、まあ善処するよ。なにをよろしく言われてるのか分かんないけど」

 

 

自軍の陣を出た時と同様、蒲公英に背を向け、片手を上げた挨拶でその場を去る。

 

 

「お姉ちゃんの名前は馬超って言うから!可愛いからって襲っちゃ駄目だよーっ!」

 

「誰が襲うかっ!人を変質者扱いすんなっ!」

 

 

流石にその言だけは無視できずに反論したが。

予想していたというか想像通り、蒲公英の姉は馬超らしい。

その馬超という名に何故か、聞き覚え――いや、懐かしさのようなものを感じた。それは愛紗や鈴々、朱里に感じた物と、とてもよく似ていた。

 

 

 

 

 

 

袁紹軍本陣天幕前

 

ちょうど天幕にむかう白蓮と雛里。

それに続いて桃香と朱里も入っていくのを見かけ、急いで走り寄った。

 

 

「ギリギリ間に合ったか?」

 

「あ、白蓮ちゃん。一刀さん来たよー?」

 

「どこまで行ってたんだよ一刀。まあ、間に合ったならそれでいいけどさ」

 

「悪かったって。意外に遠かったんだよ、ここまで」

 

 

白蓮の呆れ顔に困り顔で返しつつ、女子4人の輪の中に入る一刀。

そして、共に天幕の入り口を潜る――と、一瞬だけ足が止まった。

 

原因?はっ!野暮なことを聞くなよ。ある程度の予想はしていたけどな!

 

女、女、女、女、女……全員、女の子。あ、いや数人だけ年配の男性がいた。

 

まったくもって自分がイレギュラー過ぎるのを痛感する。

だがいつまでも呆けているわけにもいかない。

一瞬止まった足を次に瞬間には動かし、白蓮の後に続く。

白蓮と雛里、桃香と朱里が座ったのを見届け、天幕の壁に背を預けた。

 

 

「皆さん集まったようですわね。進行は三公を輩出したこともある名門袁家の長、この袁本初が務めさせていただきますわ!」

 

 

高らかに軍議の始まりを告げる袁紹。

本人は自身に酔っていて周りが見えていないようだったが、不快そうに鼻を鳴らす者、興味なさげにその宣言を右から左に聞き流す者、頭痛の種と言わんばかりに額に手を当てる者など様々だった。

これに気付けないのはある意味才能だろう。

 

 

「分かったから早く始めなさい麗羽。進行役は迅速に事を進めるのが当たり前よ。それに、あまり長く時間も取っていられないわ」

 

「華琳さん如きに言われなくてもわ、わかっていますわよ。それでは皆さん、初対面の方もいらっしゃるでしょうし。まずはそれぞれ名乗りを」

 

 

華琳、と呼ばれた金髪の子から促され、少し狼狽する袁紹だったが最低限進行の役務は分かっているらしい。自分はもう名乗ったからと言わんばかりにドカッと名門らしからぬ仕草で席に着いた。

 

 

「はあ……許昌の曹操よ」

 

 

溜息を吐き、金髪の女の子――曹操はそれだけ告げて腰を降ろす。

その名だけで諸将は興味有り気に曹操をチラリと一瞥した。

曹操の名乗りが終わった所でその隣にいる茶髪ポニーテールの女の子が立ち上がる。

 

 

「西涼の馬超だ。母、馬騰の名代でこの連合に参加する」

 

(……あれが蒲公英の言ってた馬超か。確かに可愛いな)

 

 

天幕の壁に背を預け、腕を組みながら、一刀は曹操から馬超に視線を移す。

明らかに場違いなことを思いつつ、どこかで見覚えがある気がするという最近おなじみの、既視感のような物を感じていた。ただ、頭の中には

 

容姿=愛紗

髪色、髪型=馬超

愛紗+馬超=舞流

 

という式が出来ていたことを知る者はいない。

 

 

「あら、馬騰さんは参加しませんのね。…まあ、いいですわ」

 

 

ふと、袁紹が興味を示しかけたが、それほど気に掛けることでも無いと考え直したのだろう。すぐに興味なさげな、早く次に行きたいというふうな表情をつくった。

 

 

「妾は袁公路なのじゃ」

 

 

馬超のすぐ隣に座っていた女の子がそれだけ言うとすぐに視線を下に戻す。

こういう場に慣れていないのだろうか、なぜか震えているようにも見えた。

と、次は順番的に桃香に行くかと思われたが

 

 

「袁術」

 

 

曹操の短い声が発せられた。立ち上がろうとしていた桃香が途中で止まる。

 

 

「な、なんじゃ曹操。妾はもう名乗ったぞよ?」

 

「分かっているわよ。そうじゃなくて、その後ろの客将は紹介しないのかしら?」

 

 

袁術の後ろ、一刀と同様に立ったまま天幕の壁に背を預け腕を組んでいる桃色の髪色をした女の子を曹操が示す。

 

 

「む、仕方がないのう……孫策」

 

「孫伯符よ」

 

 

袁術に促された女の子――孫策は一度だけ曹操に眼を向けると不快そうに視線を外した。

必然、視線を外した先、自分と同じく壁に背を預け立っている一刀と眼が合う。

一瞬の視線の交差。孫策が薄く笑った気がした。

 

 

「え、えっと義勇軍の劉玄徳です。よろしくおねがいしますっ」

 

 

気を逃してはいけないと思ったのか、勢い込んで名乗る桃香。

焦って座ろうとしたのが災いし、胡床(折り畳みの椅子)を倒してしまう。

恥ずかしさで顔を赤くしながら座りなおした桃香を白蓮がフォローしていた。

 

 

「さあ、皆さん名乗りは終わりましたわね。では――」

 

「ちょっと待てぇぇぇぇ!」

 

 

吠えた。

白蓮が、吠えた。

 

 

「だいたいこうなるんじゃないかって予想は付いてたけど、本当にやられるとは思わなかったよっ」

 

「あら白蓮さん、居たんですの?」

 

「麗羽お前……後で見てろよこの野郎」

 

「落ち着けよ白蓮。はい、名乗りどうぞ」

 

 

なんとか猛る白蓮を宥め、名乗りを促す一刀。

一つ深いため息を吐いて、白蓮は立ち上がった。

 

 

「……幽州太守の公孫賛だ。こっちは軍師の鳳統で、後ろにいるのが北郷。一応、天の御遣いだ」

 

 

不服そうに名乗り、律儀にも雛里と一刀を紹介する。天の御遣いの占いには懐疑的な為、一応という言葉を使ったにも拘らず、諸将の眼は白蓮では無く一刀に向けられた。

 

頭の中で一刀は、自分以外は女子でその全員の目に晒されるってなに?どんなプレイ?などと考えていたが、表情は生真面目に困り顔。隊を指揮する時とはまた違った注目のされ方に居心地の悪さを覚えながら、頬を掻いていた。

 

 

 

 

 

 

 

それぞれ諸将は数十秒ほど一刀のことを観察すると、満足したのか興味が無くなったのか定かではないが皆、眼を外した。そして白蓮に続き残った諸候も名乗りを上げる。というか、今名乗ってる諸侯のことも飛ばそうとしたんだよな、袁紹。どんだけだ。

 

その諸候の名はどれもが、聞いたことが有る、という程度のものだった為、一刀は他の目ぼしい諸将、曹操や馬超、孫策を観察していた。いやもちろん、目の保養という意味だろと問われれば否定はできなかったであろうが。全員分の名乗りが終わり、袁紹が待ちに待ったという風に勢いよく立ち上がる。

 

 

「さあ、白蓮さんの名乗りも終わったことですし、次に何を決めるのか分かりますかしら?」

 

「やっぱり汜水、虎牢の両関。その攻め方だろ。むこうは一応籠城戦を決め込むだろうしその――」

 

「ち・が・い・ますわよ馬超さん!」

 

「うわっ!な、なんだよ……」

 

 

馬超の声を遮って袁紹が大きな声を上げる。大半の諸将は耳を塞いで、非難めいた視線を袁紹に浴びせた。

 

 

「その前にもっと大切な決め事がありますわ!」

 

「……一応言ってみなさい。聞くだけ聞いてあげるから」

 

 

曹操が呆れ顔で先を促す。袁紹のことを詳しく知らない一刀でさえ、この後に袁紹の口から語られる言葉が多分ろくでもないことだろうということは大いに予測できた。そして

 

 

「この連合を率いる大将!つまり一癖も二癖もある皆さんを誰がまとめ、指揮するか!ですわ」

 

 

ろくでもないことを高らかに、なぜか誇らしく胸を張った袁紹が言い放った。

もちろん、その弊害で諸将の心には呆れやその他諸々が入り混じった感情が、最大瞬間風速で吹き抜けていったが。

 

 

「皆さんは誰が相応しいと思ってらっしゃいます?まあ私は一人しかいないと分かっていますけど!おーっほっほっほっ」

 

 

白蓮、それからおそらくこの世界でも旧友という立ち位置にいるであろう曹操の眉間に皺が寄っていく。こめかみもピクピク動いている。他の諸将も呆れて押し黙っており、唯一袁紹以外でなんらかの動きを見せているのは、そわそわと落ち着きの無い袁術だけだった。

しばらくの間、緊張感と呆れという相反した空気が漂うかと思われた中、曹操が、抱え込んでいる感情をそれに乗せて放出するかのように大きく息を吐いた。

そして

 

 

「もうあなたでいいわよ、麗羽」

 

 

と、その場にいる諸侯の総意を伝えた。

 

一瞬戸惑う袁紹だったが、さすがに曹操一人の進めだけでは弱いと思ったらしく、満面の笑みを浮かべることはせずに微妙な表情をつくった。

 

 

「いいんじゃないか麗羽。私も適任だと思うよ」

 

 

そこに何を思ったのか白蓮が賛成の意を示す。

有る程度予測していたのか、雛里と一刀は何も言わない。

 

 

「私も袁紹で良いと思う。少なくとも私は自分の軍だけで精一杯だからな」

 

「い、いや…妾がっ」

 

「いいんじゃない?私も賛成よ」

 

「わ、私も賛成です。……賛成で良いんだよね?朱里ちゃん」

 

 

白蓮に続き、馬超、孫策、桃香が次々と賛成の意を示し、他の諸侯もそれに倣い始めた。

途中、誰かの小さい声がそれによって掻き消されたが。

 

 

「そ、それでは僭越ながらこの袁本初がこの連合を指揮させていただきますわ!ぜ、全員が賛成なのだから文句は有りませんわよね?」

 

 

全員に賛成を受けるとは思わなかったのだろうか、少々テンパリ気味に連合をまとめることを宣言した袁紹。諸侯全員は無言で頷く。間違うこと無き同意の証でもあり、面倒事は袁紹に任せた、という暗黙の了解であった。無論、気付いていないのは袁紹本人とガックリと項垂れる袁術だけ。

兎にも角にも、軍儀はこれにより正式に開かれることとなった。

そして、思いもよらない命令――というかもはや心構えにすらなっていない袁紹の案が採用、通達されることとなる。それは――

 

 

 

 

 

「華麗に、雄々しく、勇ましく、前進しますわよー!!おーっほっほっほ」

 

 

 

 

 

 

 

 

【あとがき】

 

 

 

真・恋姫†無双 真公孫伝 ~雲と蓮と御遣いと~ 1-23

【 反董卓連合 いつものデジャヴ? 】

更新させていただきました。

 

 

 

人生とは何が起こるか分からない。

周りに何を言われようと自分が最も後悔しない道を選べ。

そうすれば、自分の最後がどんなに惨めだろうと

どんなに周りから侮蔑のこもった眼で見られようと、笑って逝ける。

 

 

 

 

はい。どうも今晩は。日中に呼んで下さっている方はこんにちは。

上の文は気分で転載しただけなので深い意味はありません。多分。

 

 

やっとこさ反董卓連合編に入ったわけなのですが、一言。

 

とっ、登場人物が一気に増えた……。

 

これでまた各キャラの書き分けが困難に。

しかも敵軍……つまり董卓軍の面々も増えるわけで。

 

くっそー厳しい。

まあ挫折するのもカッコ悪いので頑張らせていただきますが。

今、仕事の片手間に小説を。仕事と小説の片手間に真・恋姫†無双をやり直し。

う~ん。時間は有限ですね。学生時代どれだけ時間があったか分かるというものです。

 

それでは箸にも棒にも掛からぬこの小説。末永くよろしくお願い致します。

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
62
5

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択