No.330656

真・恋姫無双~君を忘れない~ 六十二話

マスターさん

第六十二話の投稿です。
ついに足を踏み入れた南蛮の地にて、彼の大王孟獲に出会った。その愛くるしい相貌に困惑しつつも、一刀は彼女たちと和平出来ないかと思案する。しかし、その楽観的な考えはすぐに崩れ去ることになったのだ。
始まりました。南蛮編。駄作なのはいつも通り、生温く見守り下さい。それではどうぞ。

コメントしてくれた方、支援してくれた方、ありがとうございます!

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2011-11-06 18:40:46 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:8896   閲覧ユーザー数:5792

一刀視点

 

「こ、こいつが……南蛮の王、孟獲……っ!?」

 

「そうだじょっ! みぃがここで一番の大王様にゃのにゃっ! 偉いんだじょっ! 跪くがいいじょっ!」

 

 胸を張ってそう仰る大王様――いやいや、そう来るか。確かに傍若無人であるという想像は外れてはいなかったけれど、これは子供のそれじゃないか。こんな予想の斜め上でくるとは思わなかった。

 

 猫耳に、虎柄の布を身体に纏い、手にはしっかり肉球まで備わっている。くりっとした緋色の瞳が実に可愛らしく、どう見ても癒し系のキャラにしか思えない。

 

 だが、油断は禁物だ。決して侮ってはいけない。見た目は幼女であっても、鈴々の例もある。もしかしたら、彼女はとんでもない怪力の持ち主であるとか、猫娘だけに虎とかを本当に操れるのかもしれない。

 

 しかも、俺たちはこれだけの兵士を率いているというのに、彼女は単身じゃないか。それは彼女が自身の実力にそれほどの自信があるということを意味しているのではないか。そうだとしたら、俺たちもすぐに臨戦態勢を――

 

「うわーっ! 可愛いーっ!」

 

 そんな心配をよそに、桃香が何の躊躇もなく孟獲へと近づいた。

 

「桃香、待って――」

 

「髪の毛、さらさらーっ! この肉球もプニプニして気持ちいいよーっ! ねぇ、これって本物なの?」

 

 孟獲に抱きついて、その身体を存分に弄り回す。

 

「にゃっ! にゃにするのにゃっ! これは本物にゃのにゃーっ!」

 

「えーっ! 本物なんだーっ! すごいねっ!」

 

 何がすごいのかは分からないけれど、そう言いながら、孟獲の頭を撫でる桃香。

 

 孟獲の方も、それが心地良いのか、目を細めて桃香に身を摺り寄せている。そして、それが桃香の愛護欲を刺激しているのか、更に孟獲を強く抱きしめて愛で始めた。

 

「…………」

 

「にゃーん、ゴロゴロ……」

 

「おい、孟獲」

 

「はっ! こら、離すのにゃっ! みぃに気安く触れるにゃっ!」

 

「あぅっ」

 

 俺が声をかけると、我を取り戻したのか、桃香を乱暴に振り解いた。

 

「みぃを怒らせたら怖いんだじょっ! お前らにゃんかすぐにぎったんぎったんにしてやるのにゃっ!」

 

 寂しそうに戻ってきた桃香を後ろに下げて、俺と孟獲が睨み合った。

 

 ふしゃーっと毛を逆立たせながら俺を威嚇する孟獲に向かって、俺は静かに口を開いた。

 

「おい、孟獲」

 

「にゃんにゃのにゃっ!」

 

「…………」

 

「にゃんにゃのにゃーっ!」

 

「もしもお前が本物の南蛮大王であるのなら、この言葉を復唱してみろ」

 

「いいじょっ!」

 

「斜め七十七度の並びで泣く泣くいななくナナハン七台難なく並べて長眺め」

 

「にゃにゃめにゃにゃじゅうにゃにゃどのにゃらびでにゃくにゃくいにゃにゃくにゃにゃはんにゃにゃだいにゃんにゃくにゃらべてにゃがにゃがめ」

 

「かぁーわぁーいーいーっ! ……ふぎゃっ!」

 

 その圧倒的破壊力に思わず俺も孟獲に向かって飛び付きそうになってしまったが、誰かが俺の頭を掴んで地面に打ち付けた。おかげで顔面を強かに打ってしまった。

 

 誰がそんな非道なことをしているのかと思えば、後ろに控えていた将の面々が、いずれもじと目で俺のことを睨みつけていたので、咳払いをしながら、再び孟獲と対峙した。

 

 不可抗力というものを認めて欲しいものだ。

 

「まったく、お館様ともあろう御人が、このような猫に誑かされるとは情けないの」

 

「本当よ。後できちんと説明してもらいましょうね」

 

 溜息交じりに俺の前に歩み出たのは、桔梗さんと紫苑さんだった。

 

「これ、猫。お主が南蛮王だというのなら、話は早い。儂らの――」

 

「にゃにゃっ!」

 

「ん?」

 

 桔梗さんが話しだそうとすると、孟獲は見るからに驚いたように、桔梗さんを見つめた。しかし、その視線は桔梗さんの顔ではなく、胸部に向いていた。さらに、その隣に立つ紫苑さんと見比べて、さらに瞳を見開いた。

 

「バ……」

 

「ば?」

 

「バインバインにゃのにゃーっ!」

 

 そう叫びながら、桔梗さんの胸にしがみ付く孟獲。その温もり、柔肌を顔全体で堪能している。すぐに今度は、紫苑さんの方に飛び移り、そちらも楽しんでいる。

 

「な、何て羨ましい」

 

 俺の無意識の呟きに、焔耶が素早く反応して、俺の尻を蹴り上げた。

 

「――ではなく、何て破廉恥な。桔梗さん、紫苑さん、好機です。孟獲を捕らえて下さい」

 

「うむ」

 

 紫苑さんの胸の谷間に顔を埋めているという、何とも恨めしい行為に励む孟獲を捕らえようと、桔梗さんが手を伸ばすが、意外にすばしっこく、本物の猫のようなしなやかな跳躍でその手を掻い潜った。

 

「みぃを捕まえようなんて百年早いのにゃ。コブンどもーっ!」

 

 孟獲の声に呼応して、後ろから三人の配下らしき人物たちが現れた。

 

 

「にゃーっ!」

 

「がおーっ!」

 

「……ふぁぁ」

 

 やっぱり猫耳娘たちだった――猫耳というよりも、虎の顔を模した帽子を被っている感じだ。いずれにしろ可愛いことには変わりないし、後ろの桃香や愛紗が、あぁ、という感嘆の声を漏らしている。

 

 ちょっと気の強そうな紺色の髪をした少女と、活発そうな栗色の髪をした少女は、こちらを警戒した様子であった――それでも、小動物的な可愛さに全く変わりはないが、最後の桃色の髪をした少女に関しては、今にも眠りそうで、あくびを漏らしている。

 

「あらあら、可愛い子分さんね」

 

 さすがの紫苑さんも苦笑を禁じ得ないといった様子だ。

 

「どうにゃっ! 恐れ入ったにゃっ!」

 

 偉そうに振舞う孟獲であったが、恐れ入るも何も、寧ろ俺たちとしてはこんな幼女たちを相手にするとは予想だにしていなかったわけで、ただただ困惑するだけだった。

 

「にゃにゃっ!」

 

 子分たちは俺の後ろにいる将たちを見るや否や、驚いたように目を見開いた――先ほどの孟獲と同じ反応だった。もしかして――

 

「バインバインにゃのにゃーっ!」

 

「はぁ……」

 

 思わず漏れる溜息。

 

 孟獲と全く同じく桔梗さんや紫苑さんの胸に飛びかかる子分たち。

 

 よくよく考えてみれば、その二人以外にも、愛紗や桃香、焔耶もそれなりに豊満なバストを持っており、それぞれが好み(?)の胸に襲いかかる。最初、孟獲が桃香に反応しなかったのは、きっと露出度の関係だろう。

 

 桔梗さんと紫苑さんはやれやれといった感じで肩を竦めているが、他の三人はその愛玩動物的魅力の虜にされていた。胸に挟まれた頭を優しそうに撫で続けている。既に戦意を喪失してしまっていた。

 

「はわわぁ……、可愛いですね」

 

 そう言いながら、朱里が紺色の少女に触れようとしたときだった。

 

「にゃっ!」

 

 その朱里の手を、拒絶するように乱暴に弾いたのだ。

 

 朱里がそれに驚き、他の少女たちを見ると、彼女たちも朱里に対して、嫌悪感を露わにしていた。他の将に対しては、すぐに懐いたというのに、朱里にだけはまるで蔑むような眼差しを送っているのだ。

 

「え? どうして……?」

 

 朱里はどうして自分だけ嫌われているのか理解出来ないようであったが、それを見て、孟獲が朱里を指さしながら告げた。

 

「つるぺたに用はにゃいのにゃっ! お前のようにゃひんにゅーはみぃたちに触れちゃダメにゃのにゃっ! ひんにゅうは人に非ずにゃのにゃっ!」

 

「は、はわわぁっ!」

 

 容赦なく突き付けられた貧乳差別発言に、朱里は顔を真っ青にして、正に絶望的な表情を浮かべてしまった。この場にいる将をきょろきょろ見回し、自分の胸だけが慎ましやかなことに気付き、さらに落ち込んだ。

 

 他の将は困った表情で朱里を見つめることしか出来ずにいる。朱里が以前から胸のサイズにコンプレックスを感じていたことは周知の事実ではあるが、自分たちが慰めの言葉でもかければ、単なる嫌味にしか聞こえないことを分かっているのだろう。

 

「いいんですよぉ……。どうせ私は貧乳ですからぁ……。兵士さんたちだって、いつもいつもいつもいつもいつもいつも桃香様や愛紗さんの胸ばかり見ているのは知ってます」

 

 ダメだ。完全にいじけてしまった。兵士にまで侮蔑の眼差しを送り始めている。こうなってしまっては、孟獲たちと事を構える前に、俺たちの士気は朱里によって暴落させられてしまう。

 

 こうなったら――

 

「朱里っ!」

 

「はわわっ!」

 

「いいかっ! お前は確かに貧乳だっ! 脂肪の一切ない平らかな胸だっ! しかし、俺は知っているっ! 巨乳には巨乳の、貧乳には貧乳の、素晴らしいところがあるとっ!」

 

「で、ですが、御主人様もどうせ巨乳と貧乳のどちらかを選べばと言われたら、巨乳を選ぶんでしょう?」

 

「まさかっ! 俺にとっては巨乳も貧乳も等しく乳っ! 俺は乳をこよなく愛し、そして、紫苑さん、桔梗さん、桃香のように自己主張の激しい我儘乳だろうが、朱里や雛里のように、控え目で繊細ながらもしっかり強い芯を持った大和撫子乳だろうが、乳は乳である以上、俺は差別することなく愛するっ!」

 

 俺の熱の籠った弁舌にしばしの間沈黙が流れた。きっと俺の情熱が朱里にも――いいや、この場にいる全員に伝わったに違いない。

 

「……誰が、自己主張が激しい乳だ、戯けが」

 

 桔梗さんが蔑むように嘆息した。

 

「私のおっぱいは我儘じゃないもん」

 

 桃香が不満そうに頬を膨らませながら、自分の乳を両手で持ち上げる。

 

「…………」

 

 紫苑さんは、何も口には出さないながらも、確実にひいた目で俺を見つめていた。

 

「あ、あれ……?」

 

 他の面々を見まわすと、さすがの愛紗や焔耶も俺をフォローする気はないようで――いや、俺が言ったことをまるで無かったこととするように、未だに胸にしがみ付く猫耳娘を弄んでいた。

 

「御主人様……」

 

 朱里が俺に手招きし、俺が朱里と視線を合わせるために腰を屈めると、俺を慰めるようにぽんと肩に手を置いた。

 

 こ、こんなはずでは……。どうして、朱里を励まそうとした俺が、逆に朱里に励まされているんだ。

 

 しかし、そのときであった。

 

「よくぞ申したっ!」

 

 どこからかそんな声が聞こえたのだ。

 

 

「だ、誰にゃっ! どこにいるにゃっ!」

 

「ここじゃっ!」

 

 声は俺たちの上から聞こえた。

 

「とうっ!」

 

 掛け声と共に、俺たちの側に生えている木から颯爽と飛び降りる人影が二つ。

 

「お、お前らはにゃにものにゃっ!」

 

「名乗るほどの者ではない」

 

「……いや、桜と向日葵じゃないか」

 

 現れたのは永安で留守番をしているはずの桜と向日葵であった。

 

「どうして、お前らがここにいるんだよ?」

 

「何故かと訊かれれば答えなければなるまい。話せば長くなるが――」

 

「桜がお兄様と離れ離れになるのが寂しくて仕方ないと煩いので、私がここまで護衛しながら連れてきたのです」

 

「向日葵、お主っ!」

 

 とても簡略的に教えてくれた向日葵。

 

「桜……」

 

 俺が責めるような視線を向けると、さすがの桜も申し訳なさそうな顔を浮かべた。

 

「仕方なかろう。余はずっとお前様に会いたかったのじゃ。美羽は荊州でずっとお前様と一緒におられたが、余は独りじゃったのじゃ。せっかく永安に帰って来てくれたのに、すぐに行ってしまうんじゃ、余だって悲しいのじゃ」

 

 俯きながらそう本音を漏らす桜を、さすがにこれ以上責めることも出来ない。仕方なく、溜息交じりに頭をぽんぽんと撫で、今回だけは特別に許してやる、と告げると、嬉しそうに俺にすり寄ってきた。

 

「みぃを無視するにゃにゃのにゃーっ!」

 

 完全に蚊帳の外状態だった孟獲が怒りを露わにしながら、猛抗議し始めた。

 

「む、そうじゃ。すっかり忘れておった。お主たち、先ほどの発言は余としても聞き逃すことは出来んぞ」

 

 身を翻して孟獲と睨み合う桜。制止しようとすると、向日葵が私に任せて下さいと桜の横に並び立った。

 

「桜と同意見なのは、私としても不満ではありますが、確かに私も聞き逃せません」

 

「にゃ、にゃんにゃのにゃ……?」

 

 激しく憤る二人からは謎の圧力が生み出され、孟獲を威嚇する。それに気付いた子分三人も素早く――しかし、名残惜しそうに、胸元から離れて、孟獲の後ろに控えた。

 

「孟獲とやら、もしもお主の言が真のものならば、それは自分たちの存在も否定していることになると何故気付かぬのじゃっ!」

 

「にゃっ!? どういうことにゃっ!」

 

「まだ分からないんですか? 貧乳が人に非ず――だとしたら、あなたたちだって同じことだということですよ。自分たちだって、まったくもって無駄肉のないまっさらな胸じゃないですか。すなわち、あなたたちも人間ではないんですよ」

 

「にゃっ!」

 

 孟獲がそれに気付き、自分の胸に触れるが、勿論、彼女たちにも桃香のように持ち上げるだけの豊かなバストがあるわけはなく、手はスムーズに胸を行き来していた。

 

 向日葵はしたり顔になりながら、口角を歪め、さらに続けた。

 

「もっとも、あなたたちはどうやら本当に人間ではなく、単なる猫――所詮は家畜ですからね。黙って私たちに食われるのがお似合いですよ」

 

「にゃにを言っているにゃっ! みぃたちは人間にゃっ!」

 

「はぁ? 猫が何か騒いでいるようですね。どこかに鼠でもいるんでしょうか? ちょうど小腹も空いてきましたし、猫でも頂きましょうか?」

 

 そう言って、得物である双戟を取り出すと、嗜虐的な笑みを張りつけて、孟獲たちに歩み寄ろうとした。

 

「にゃっ! み、みぃたちを食べてもおいしくにゃいのにゃーっ! きっとお腹を壊してしまうのにゃーっ!」

 

「大丈夫ですよ。こう見えても、私は拾い食いしたって何ともないくらい丈夫な身体をしてますから」

 

「そんにゃの、自慢ににゃらにゃいのにゃーっ!」

 

「さぁ、大人しくしてくださいねー。痛くしないように一瞬で終わらせますからね」

 

「ふぇ……」

 

「え?」

 

「うぇぇぇぇぇぇん……」

 

 急に変な声を上げたので、向日葵の動きが止まると、何と孟獲は泣いてしまった。瞳から大粒の涙が絶え間なく溢れ出て、子供のように号泣したのだ。

 

「あー、泣かせた」

 

 非難めいた声が上がった。

 

「え? い、いや、私は――」

 

「やり過ぎだぞ、向日葵」

 

「あ痛」

 

 俺は向日葵に近づき、軽く頭を叩いた。

 

「お兄様ぁ……」

 

 涙目で俺を見上げる向日葵。こうしているとただの可愛い少女にしか見えないのに、どうすればこんな娘からあれだけの罵詈雑言を吐きだすことが出来るのだろうか。

 

「ひっく……ひっく……」

 

 孟獲は配下の三人に慰められながら、肩を震わせながらしゃくり上げていた。

 

 

「もう大丈夫だからな」

 

 そんな孟獲に向日葵の保護者代表として謝りつつ、彼女が落ち着くように頭を撫でた。

 

「ホントにゃのにゃ?」

 

「あぁ」

 

「もう食べにゃのにゃ?」

 

「食べないよ」

 

「よかったのにゃー」

 

 ホッと胸を撫で下ろす孟獲だったが、敵の総大将たる俺に慰められていることに気付く、再び身を反転させて俺から距離を取り、唸りながら俺を威嚇する。

 

 南蛮を支配している人間が孟獲だとしたら、争わずに何とか和平案を採ることが出来ないのだろうか。冷静に話し合うことが出来れば――孟獲たちも幸いなことに、巨乳な将たちを気に入ってくれたみたいだし、無駄な戦いを避けることが出来るかもしれない。

 

 ――と、楽観的に考えていたときだ。

 

「どうしたんだい、大王? 何だか騒がしいみたいだけど?」

 

 後ろの茂みから新たに人物が一人現れた。孟獲のことを大王と呼んでいることから、孟獲の配下の一人であることは想像出来たが、どうやら、話し方は普通のようだ。

 

「祝融にゃっ? あいつらがみぃたちをイジメルのにゃっ!」

 

 祝融――確か、演義においては孟獲の妻とされた人物であるが、こちらの世界では孟獲と婚姻関係はないのだろうか、演義通りの女性の姿だった。

 

「な……に……?」

 

 しかし、俺は祝融の姿を視界に捉えると、思わず声を失ってしまった。

 

 孟獲たちとは違い、祝融は大人の容姿を持っていた。すらりと伸びた手足、きつそうな性格を思わせる切れ長な瞳、綺麗な金髪を腰までたなびかせながら歩いてきた。

 

 そして、もっとも俺の目を引いたのは、その褐色の肌の中央に聳え立つ二つの峻厳な山――見た目は孟獲と違って幼女ではないものの、纏っているのは彼女たちと同様、単なる布切れだけだった。

 

 その布ではほとんど存在を隠すことなど出来ない巨大な果実。正直に言えば、俺が見たことない程の大きさだった。それは益州でもトップレベルの紫苑さんや桔梗さんよりも大きかった。

 

 巨乳――否、爆乳――否、これは暴乳と称すべきかもしれない。それほどまでの大きさに、俺はつい興奮してその胸元を凝視してしまった。

 

「……お前様」

 

「……お兄様」

 

「……御主人様」

 

「はっ! 違うんだっ!」

 

 それに気付いた我が軍が誇る貧乳ーズが俺をじと目で睨め付けたところで、やっとのことで我に戻り、弁明を試みるも、既に彼女らの心は俺から遠く離れつつあった。

 

「おいおい、こいつらは誰だい? こんなところに大勢の兵士を連れてくるなんて、物騒な連中じゃないか」

 

「こいつらは蜀の人間にゃのにゃっ! みぃたちを食べるって脅したのにゃっ!」

 

「大王を食べるだって? それはあまり穏やかなことじゃないね」

 

 そう言って、俺たちに視線を移す祝融。

 

 俺と目が合うと挑発的な微笑みを浮かべた。その瞬間、先ほどまで考えていた、孟獲たちとの和平が不可能であることを悟った。背筋にぞくりと怖気が走るような殺気が、急激に辺りに膨らんだのだ。

 

 それを察して、他の将もすぐに臨戦態勢をとり、愛紗が兵士たちに檄を飛ばした。

 

「お館様、あの女、只者ではありませぬぞ」

 

「分かっているよ。ほら、桜、お前は危険だから皆の後ろに隠れるんだ」

 

「分かったのじゃ」

 

 と、俺は桜を下げようとすると、祝融はそこで初めて桜の顔を視野に入れたようで、何か気付いたように、おや、と声を上げた。

 

「何だい、あんたは生きていたのか?」

 

「む?」

 

「とっくに死んでいると思ったんだけどね。そっか、まぁ、あたしにはもう関係のないことだから、どうでもいいことだけど」

 

「待つのじゃ、お前様」

 

「な――」

 

「お主、祝融と申したか? 余のことを知っているようじゃな」

 

「ふふん。よぉく知っているよ」

 

「詳しく申せ。お主は余にとって何なのじゃ?」

 

「そう。もう忘れちゃったんだ。じゃあ――」

 

 祝融は妖しく微笑むと、桜の瞳をじっと凝視した。

 

「思い出させてあげるよ、劉璋ちゃん」

 

あとがき

 

 第六十二話の投稿です。

 言い訳のコーナーです。

 

 さて、今回から本格的に始動した南蛮編。初回はコミカル描写を散りばめながらお送りしました。我ながら、本当にギャグは書けないのだなぁと思い知らされました。

 

 コミカルを重視するあまり、パロディも多く(ぱくりと言わないで下さいね)、皆様に満足して頂けたのかどうかは、非常に疑わしいところでありますが、猫、巨乳、貧乳、で連想した結果、この流れを思いついてしまったのです。

 

 前回のコメントで蒲公英はいないのか、という質問を受けましたが、彼女がこの場にいない理由は一つ。以前、毒舌幼女の向日葵ちゃんから指摘されていましたが、蒲公英は貧乳でも巨乳でも一般的なサイズだからです。

 

 今回のメンバーは、朱里以外は巨乳である人材を集めてみました。

 

 孟獲たちが巨乳好きという設定は、確かアニメ版ではそうだったような記憶があったので、原作とは少し異なる展開で絡ませてみました。

 

 桜と向日葵はオリキャラの中でももっとも動いてくれる優秀な人材ですので、今回の南蛮編には出演して頂きました。向日葵と桜がいつ仲良くなったのかは定かではありませんが、向日葵に関してはほとんど役目を全うしてもらったので、次回以降も活躍してくれるのかは分かりません。

 

 さてさてさて、そんなつまらないコミカル描写が続きながらも、終盤から少しずつシリアスな雰囲気に。登場したのは、オリキャラの祝融さんです。一刀くん曰く、あれは爆乳ではない、暴乳であると。

 

 美以たちをシリアス化することが出来ない以上、新しいキャラを投入して、シリアス成分を生み出せば良いのだと思います。それが功を奏すかは分かりませんが。

 

 さてさてさて、次回から二三話に渡って、この南蛮編は続きます。もし宜しければ、作者の駄展開にもうしばらく付き合って頂けると嬉しいです。

 

 南蛮編、どうして書こうと思ったのか、必然性に駆られたのか、はたまた単なる見切り発車だったのか、もう既に作者の心は折れ欠けていますが、物語を終結に導くために頑張りたいと思います。

 

 相も変わらず駄作ですが、楽しんでくれた方は支援、あるいはコメントをして下さると幸いです。

 

 誰か一人でも面白いと思ってくれたら嬉しいです。

 


 
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