No.330021

少女の航跡 第3章「ルナシメント」 31節「神々の戦い」

強大で圧倒的な存在であるゼウスと戦う事になったカテリーナ。彼女の超人的な力をもってしても、ゼウスの力は圧倒的。劣勢を余儀なくされるのでした。

2011-11-05 19:46:06 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:924   閲覧ユーザー数:285

 

 この世界の誰も知らない。それこそ、最も長寿であるとされる生命でさえも知る事が無い、歴史上の事実があった。

 その、誰も知らないほどの大昔に、神々の戦いがあったと言う。

 強大な存在を持つ神同士の戦いは、当時の人間達を遥かに圧倒するものであり、この時代を生き抜く事が出来た人間は、ごくわずかであったと言う。

 その神々の戦いは、天地を引き裂き、全てを呑み込み、この時代に栄えていた文明を完全に滅ぼしてしまった。

 神達の戦いの目的を、人間やその他の言葉を話す事ができる命達が知る事は無かった。ただ彼らにとって、神々の戦いは、嵐であり、雷であり、地震であり、津波だった。

 全ての戦いが終わった時、焦土と化した大地に一人の神だけが残っていた。木々や草木さえも残らず、荒れ果てた大地に残っていたその神は、そこに新たな文明を築き上げ、生き残った者達は、その神を英雄として崇めた。

 3400年は、人間、亜人達にとっては、創造する事も出来ないほどに長き年月かもしれないが、神の前にとって3400年と言う時は、容易に一巡させる事ができる年月だった。

 ちょうど、その3400年という年月で、この世界に、星々が織りなす、重さの力が集中する事をある神は知っていた。

 その重さの概念は、まだ人々の間では知られていないものではあったが、その神々はその力について精通していた。

 3400年周期で行われている、巨大な輪廻の歯車に人間も、誰も気づいていない。それこそが適切な時間だった。

 全ては神々が決める事だ。それ以前に誰かが決めた輪廻を、彼らは適切に、そして忠実に守る事で、世の均衡を保つ。

 私の見ている目の前で戦いは展開していた。

 私達の肉体は変わらず外の世界で眠らされている。私はロベルトと共に白い世界に監禁されており、外の世界とは、越える事の出来ない水面が立ち塞がっていた。

 私が幾らその水面を叩こうと、水面は私を向こう側へと通さない。それはどんな力をもってしても打ち破る事の出来ない壁であるようだった。

「戦いが、始まったか」

 ロベルトの方はというと、腕組をしたまま、その水面の眼前に立ち、外の世界、異形の世界と化した《シレーナ・フォート》に聳え立つ塔を望んでいた。

「勝てるんですか?カテリーナは?」

 私はロベルトに向かってそう言った。彼女と、塔の上にいた存在、ゼウスという存在の姿は見えていた。だが、ゼウスという存在はカテリーナに対してあまりにも圧倒的な姿を見せつけている。

 それは、見えない境界線で仕切られている、この牢獄にも伝わって来ていた。

「それは分からないが、これだけは私も今までに全て目撃している。今まで、3人のカテリーナと同じように選ばれた存在が、ゼウスに立ち向かって来たが、その誰もゼウスに勝つ事はできなかった。

 何故ならば、彼らは、ゼウスや我々によって作られた存在であり、誰もゼウスを超えるほどの力は与えられていないからだ」

 ロベルトはそのようにはっきりと言った。彼の言葉は少しも揺れ動く事なく、しかと現実を見ているかのようだ。

 私は気が気では無かった。自分の手の届かぬ場所でカテリーナが、強大な存在に対して刃を向けている。彼女が勝つ事は出来ないならば、彼女は、そして世界は一体どのようになってしまうというのか。

 私の見る限り、大剣を構え、ゼウスに立ち向かうカテリーナは、臆する事も、目の前の巨大な力に対して恐れを抱く様子を、寸分たりとも見せていない。

 彼女とゼウスの戦いはまず、剣を打ち合う所から始まっていた。カテリーナはその剣を使い、ゼウスに立ち向かうが、ゼウスの方は、腕をそのまま使って彼女の剣を防ぎ、また攻撃に転じていた。

 ゼウスの腕はカテリーナの剣でも斬る事ができないほどに硬いものであり、私から見ても黒い金属の機械であるようにさえ見える。

 カテリーナがゼウスに剣を振り下ろすたびに、彼の腕からは火花さえも飛び散っていたが、それでもゼウスの体は微動だにしない。

 彼は更にカテリーナの剣を防ぐがままに、彼女の剣を抑え込み、逆の手で刃を掴んでしまった。

「何故だ?カテリーナよ?何故我に贖う?お前を、次なる世界の英雄にしてやろうというのだぞ?」

 ゼウスはカテリーナの剣を防ぎ、彼女に顔を近づけてそう言った。

 その巨大な顔を目の当たりにしても、カテリーナの眼は揺るがなかった。ゼウスの方へとその攻撃的な視線を向けて立ち向かう。

 ゼウスに掴まれていた剣を無理矢理にカテリーナは引き抜き、ゼウスの体を蹴って、そのまま彼から距離を取り、剣を構えなおした。

 そして彼女は言い放つ。

「そんなものは、誰も望んではいない。望んでいるのはお前達だけだからだ!」

 カテリーナはそう言い放っていた。剣を構えなおしたカテリーナはそのままゼウスに向かって突っ込んでいく。彼女の持つ剣からは火花が飛び散っており、それが、ゼウスの体に炸裂しようとしていた。

 だが、ゼウスはそんなカテリーナの剣を片手で受け止めようとしていた。カテリーナの突き出した剣は、もはや刃としての形状をしておらず、あたかも稲妻の塊であるかのような姿をしている。それは今までに私達が見た事の無い、カテリーナの人間離れした力だった。

 閃光は塔の屋上から一気に放たれ、まるで落雷が起こったかのような様相を見せる。カテリーナの突き出した剣とゼウスとの衝突はほんの数秒続いた。

 ゼウスはうめき声を漏らしたかと思うと、さすがに片手でその衝撃を防ぐのは限界を感じたのだろうか。両手でカテリーナの剣の衝撃を封じるに出た。

 彼の体は踏ん張った脚が数メートル後ろへと下がる。塔の屋上の床は抉れ、更に一部の壁面が舞い上がった。

 カテリーナは全力をもってしてゼウスに突撃していったのだろうか。カテリーナは鬨にも似た声を上げ、ゼウスはうめいた。だが、ゼウスは、自分の肉体そのものから、衝撃波のようなものを放ち、カテリーナの剣ごとその衝撃を跳ね飛ばした。

 カテリーナの体は、何メートルも後ろに吹き飛ばされてしまった。彼女の体が、塔の屋上を転がっていく。

 だがカテリーナは怯む事無く、すぐさまその体制を立てなおした。しかしながら、すでに彼女の着ている甲冑の一部が損傷しており、カテリーナが受けた負傷を示していた。

 カテリーナは体勢を立て直したが、直後にやってきたゼウスの攻撃に、思わず目を見開き、横に跳びのいた。ゼウスは、あたかも突風のようにカテリーナの方へと迫って来て、その腕を突き出してきた。

 鷲の脚であるかのように爪の伸びたゼウスの腕は、カテリーナをかすめ、床を打ち砕く。

 しかもゼウスの攻撃はそれだけで終わりではなく、彼の攻撃を避けたカテリーナに向けて、翼から光の弾のようなものを発射した。

 堂々たる姿勢から放たれた光の弾。カテリーナはそれを避ける術もなく、ただ防御の姿勢に入るしかなかった。

「ああ!カテリーナ!」

 私はどうする事も出来ない、水面の向こう側に展開する光景に、思わず声を上げるしかなかった。

「お父様は、本気ですわ。あの銀色の娘はどうする事もできないまま、無残に散っていくでしょう…」

 背後から聞こえてきた声に、私は思わず振り向く。すると、そこにはいつの間にこちら側の世界にやって来たのか、ガイアがいた。

「あなた達は、カテリーナが必要なんでしょ?あの様子じゃあ、カテリーナが!」

 私はとにかく、手の届かぬ場所で起こっているカテリーナの危機の事しか頭に無い。ガイアに向かってそう叫びかける。だがガイアはその眼を見開き、まるで当然の事であるかのように言ってきた。

「別に、わたくし達は、あの銀色の娘に死なれても構わぬのですよ。お父様の力があれば、あの娘は転生する事ができます。そうすれば、よりわたくし達にとって操りやすい、操り人形となって、お父様の言う事に従います。

 今までもわたくし達は、そうして、とても、とても巨大な歯車を回してきました」

 それはとても恐ろしい言葉だった。言葉の意味は理解できたが、ガイアの言ってくる言葉の響きがあまりに恐ろしい。

「本当なんですか、ロベルトさん!あなたもこんな事に加担してきたのですか!」

 私はロベルトに向かって、まるで訴えかけるようにそう言った。だがロベルトは、じっと外の世界で展開している出来事に目を向けたまま、じっと不動の姿勢だった。

「カテリーナが死んでしまってもいいんですか!」

 私はそう訴える事しかできない。

 ロベルトは数呼吸程度の間をおいて答えてきた。

「今の私達にはどうする事も出来ない。この戦いを見守る事以外には何もできない」

 ロベルトはそう言って来た。彼はやはりその場から動かぬまま、じっと目の前に展開する、手の届かない場所での出来事を見守っている。

 彼の瞳は揺れ動く事も無く、全てを悟り、しかもそれを受け止めてしまっているかのようだった。

 私達の外の世界では、ゼウスの放った光の弾が、《シレーナ・フォート》の街の一部で弾け、建物も何もかも消失してしまった姿が映されていた。

 《シレーナ・フォート》の街の一部が消失し、そこは瓦礫の破片程度のものしか残されていない。街を徘徊していた怪物達も、逃げ遅れていた人々をも呑み込み、ゼウスが翼から放った光はその場にいた者達を消失させてしまったのだ。

 だが、カテリーナはその瓦礫の上にいた。彼女は倒れた姿勢のままであったが、すぐにその身を起こす。彼女の象徴の一つでもある、銀色の髪を止めていたバンダナも千切れ飛んで、身にまとっていた甲冑もかなり損傷していた。

 しかしカテリーナは瓦礫をどけ、その場から起きあがろうとする。辺り一面を消失させてしまうほどの威力の攻撃を受けながらも、彼女はまだ立ち上がる事が出来た。だが、剣を構えようとする姿は、相当の負傷を物語っていた。

 ゼウスは、そんなカテリーナの目の前へと飛来する。彼は金属のようなものでできた翼で実際に飛び、彼女の前へとやって来ていた。

 カテリーナとは距離を開けた位置に立ち、堂々たる声でカテリーナに言った。

「どうだ、カテリーナよ。破滅の時は見えてきたか?この地から全てが始まる。無駄な抵抗は止めておいた方が身のためであるぞ」

 ゼウスは全くその口調を衰えもせず、圧倒的な迫力でカテリーナに迫った。

 だがカテリーナは幾ら負傷を受けていているとしても、その表情を崩さず、毅然としてゼウスに立ち向かった。

「いいや、諦めない。私はお前に贖う!」

 そう言うなり、カテリーナはゼウスに向かって一気に歩を進め、その走りの勢いさえも利用してゼウスに全力で斬りかかろうとしていた。

 ゼウスはカテリーナの刃を右腕で受け止めようとした。彼女の鉄骨のような大剣を右腕で受け止める事ができてしまうゼウスの力も凄まじい。まるで金属同士が激しくこすれるかのようにして、激しく火花が飛び散り、衝撃波が周囲の瓦礫を津波のように吹き飛ばしていった。

 ゼウスはうめいた。さすがの彼も、全力でカテリーナに斬りかかられては、その攻撃を防ぎきる事ができないのだろう。カテリーナの剣は岩をも砕き、大地をも引き裂く。ゼウスの体が幾ら強靭な肉体であっても、それを防ぎきる事はできない。

 ゼウスは、片腕での防御から両手を使い、カテリーナの剣に掴みかかろうとした。

 だが、カテリーナは剣を引き、一歩身を引いた。彼女の攻撃を防御していたゼウスは、突然その攻撃が止んだことで思わず姿勢を崩してしまう。

 そこに隙ができた。カテリーナは素早く剣を突き出し、ゼウスに向かって突進しようとする。落雷が起きたかのような音が破裂し、カテリーナの周囲に再び嵐のような衝撃波が噴出された。

 カテリーナの剣をまともにゼウスは食らった。その衝撃で、巨人のような彼の肉体は背後に向かって一気に吹き飛ばされた。

 ゼウス自身が吹き飛ばした瓦礫を更に吹き飛ばし、彼の体は背後へと何百メートルも吹き飛ばされていく。だが、ある地点で彼は翼を使い、上空へと舞い上がった。

 今まで冷静であったゼウスの顔に、どことなく焦りと怒りのようなものを見て取ることが出来た。今のカテリーナの攻撃がそこまで大きなダメージを与えたのだろうか。

 だがカテリーナの攻撃は止まない。上空に飛び上がったゼウスに向かって、カテリーナは大きく飛翔し、彼へと更に斬りかかった。

 大剣が上空で振るわれ、まるで天地を切り裂くかのように、落雷が起こり、それがゼウスを撃つ。だが、ゼウスはその剣も落雷をも体で防いでしまった。

 カテリーナは更に幾度も上空で剣を振るうが、それらもゼウスの防御によってことごとく遮られる。

 彼女は大きく剣を振りかぶって、そのまま落下の速度も合わせ、全力でゼウスに斬りかかった。同時に彼女の剣には稲妻の閃光が輝き、それも同時にゼウスに向かって振り下ろされた。

 凄まじい落雷だった。闇に包まれている《シレーナ・フォート》の全てを呑み込まんかというかのような凄まじい落雷が起こり、それがゼウスに向かって襲いかかる。

 カテリーナに与えられた力とはこの事なのか。あまりにも絶大な力が、人の姿にしか見えない彼女に籠められていたという事実に、私は唖然としてしまう。だが、ゼウスはそんなカテリーナの攻撃をも防御しようとしているのだ。

 ゼウスはカテリーナの剣による斬激を、両手を盾にするかのようにして防ごうとしている。そんな事で彼女の落雷を抑え込む事ができるとでも言うのか。

 落雷がゼウスに直撃した。実際に起こる落雷よりも遥かに強烈な、まるで天から振り下ろされた鉄槌のような落雷がゼウスの体を直撃した。

 彼の体は上空から一気に地上へと突き落とされていく。このまま彼の体をも押しつぶしてしまうのではないのかと私は思った。

 猛烈な衝撃が周囲に吐き散らかされた。瓦礫を一気に巻き上げ、衝撃波が瓦礫の山と化している建物さえもなぎ倒す。カテリーナが起こした落雷は、天から地を引き裂くかのような衝撃を私達の前で見せていた。

 彼女はここまでの力を有していたのか。私の想像を超えていた。今までに私が見てきたカテリーナは、幾ら勇ましく強靭ではあったとしても、あくまで人間としての彼女だった。だが今見せているカテリーナの姿はあまりにもそれとはかけ離れている。あたかもそれは、人間を超越した存在、神であるかのような有様だった。

 カテリーナの体からは青白い光、電流のようなものが迸り、周囲に飛散している。その場に人が立とうものならば、一瞬にして灰にされてしまうだろう。

 だが、ゼウスはそのカテリーナのもたらす衝撃さえも抑え込もうとしていた。どれだけの衝撃がぶつかり合っているのかは、ゼウスの足元の地面が陥没していっている事からも分かる。

 超巨大な鉄槌を思い切り振りおろしているようなものだ。《シレーナ・フォート》の瓦礫と化した街の地盤ではそれを抑えきる事ができず、大きく地面を陥没させてしまっているのだ。

 だが、ゼウスは大きく呻き、やがてそれを咆哮のような叫び声に変えた。凄まじい咆哮だ。そのゼウスの声だけで周囲に嵐さえも起こりそうなほどだった。

 彼はカテリーナの起こした落雷の衝撃を、一気に咆哮と共に跳ね返した。

 カテリーナは今までゼウスを押していたというのに、彼の咆哮と衝撃によって一気に吹き飛ばされる。彼女の体は何百メートルも離れた、《シレーナ・フォート》の分厚い城壁に、大きな陥没を作りながら激突した。

 ゼウスは呻き、今まで冷静さと威厳に満ちていたその表情を変えつつある。その顔はまるで忌むべきものを見つめるかのような視線となり、吹き飛ばした先のカテリーナの姿を見ていた。

 カテリーナはと言うと、陥没した城壁から、すぐさま飛び出した。もう彼女の姿はぼろぼろになっているというのに、まだ戦う意志があるらしい。剣を持つ腕も何もかも痛々しい姿にはなっているが、まだゼウスに立ち向かえる覚悟も、力もあるようだ。

 カテリーナはゼウスに向かって一気に跳躍し、剣を構えながら迫る。

 ゼウスも、カテリーナに対して身構えた。今度は両手を突き出し、カテリーナに向かって突進していく。

 両者は再び激突し、衝撃波が周囲に吐き散らかされた。

 カテリーナは落雷と共に大剣を振るい、ゼウスに向かって刃を振り下ろす。ゼウスはその刃を受け止め、拳を突き出してカテリーナに向かって応戦する。

 両者の攻撃の応酬は、巨大な衝撃波を伴い、目視さえもできぬほどの巨大な現象が巻き起こっていた。その場に人がいようものならば、竜巻に巻き込まれるかのようになすすべもないだろう。

 カテリーナとゼウスの戦いは、ほぼ両者が互角であるかのようにも見えていた。だが、攻撃の応酬が段々とカテリーナの方が防御的になっている。受けている負傷も、明らかにカテリーナの方が多い。

 ゼウスの体は、カテリーナの刃が当たったとしてもそれを弾き返してしまい、ほぼ攻撃の効果が無いように見えた。

 やがてカテリーナは竜巻のような激突の中で、防戦一方になってしまう。彼女は剣を正面に構え、ゼウスの攻撃を防ぐ事しかできない。

 もっと、カテリーナには力が隠されていないのか。私は、祈るように期待をした。だが、カテリーナにはもう何も力が残されていないかのようだ。

 ゼウスは攻撃の手を止めない。次々と拳が繰り出され、やがてゼウスはカテリーナの大剣を掴みかかるに至った。

「雷神の名を冠する剣。トール・フォルツィーラか。この剣から得られる力こそ、お前を英雄にするにふさわしい力だった。だがそれももはや、必要が無いようだな」

 そう言うなり、ゼウスはカテリーナのその大剣を、冷徹な眼の下で折ってしまった。

 カテリーナの持つ剣、トール・フォルツィーラはその根元の部分から砕け、破片を飛散させながら折れてしまった。

 カテリーナは目の前で自分の武器となる剣を折られ、その戦う術を無くした。

 カテリーナが目を見開き、唖然とした表情を浮かべる。そんな彼女の表情を、私は今だかつて見た事が無かった。

 彼女のそんな姿が意味しているものは、ただ一つ。それは決定的な敗北だった。

「終わりだ。カテリーナ・フォルトゥーナよ。お前の全ての贖いは無駄に終わるのだ。そして、我にひれ伏せ」

 そう言うなり、ゼウスは、カテリーナに向かってその巨大な掌を突き出した。

 まるで竜巻のような衝撃がカテリーナに襲いかかる。ゼウスの突き出した掌からは、真っ白な光が輝き、それは巨大な衝撃となって、周囲のものを巻き込んで行く。《シレーナ・フォート》の瓦礫と化した街の四分の一ほどがその光によって、木っ端みじんに粉砕されていく。

 カテリーナの体も、その衝撃に呑まれていってしまう。彼女は防御しようという姿勢を見せたが、とても耐えきれない。彼女の纏っている損傷した甲冑さえもその衝撃で更に打ち砕かれていき、カテリーナは巨大な竜巻のような衝撃の中に呑み込まれていくのだった。

「カテリーナ!」

 私は越える事ができない世界の境界線の壁を叩きながら、そのように叫んだ。だが、どうあがこうとも無駄だった。カテリーナは私の手の届かぬ所で、圧倒的な力の前にひれ伏すしかなかったのだ。

 


 
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