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真・恋姫無双 黒天編 第9章 「第2回三国会議」後編

sulfaさん

どうもお久しぶりです。第9章後編になります。
今回は第一部のネタバレ要素がふんだんに盛り込まれているため、お気に入り登録者のみの閲覧とさせていただきます。
第一部が終了し、第2部が始まると同時に解禁とする予定です。
ご容赦ください

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2011-10-23 00:00:24 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:1389   閲覧ユーザー数:1076

真・恋姫無双 黒天編 裏切りの*** 第9章 後編「第2回三国会議」裏切り者

 

 

注意!!

 

 

この章は第一部の核心部分に触れたお話です。

 

第一部のネタバレがふんだんに盛り込まれています。

 

なので、この話を読む前に今までのお話を読んでおくことをお勧めします。

 

以上のことを了承した上で次のページへお進みください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

稟「今、この王座の間にいる者の中に、裏切り者がいるということですよ」

 

「「「「なッ!?」」」」 「「「「えッ!?」」」」

 

稟の宣言に王座の間に集められた一同は驚愕の表情を浮かべる。

 

先ほどまで会議に参加していた者たちも暗い表情を見せていた。

 

翠「おいおい・・・、こんな時に変な冗談はやめろよな・・・」

 

流琉「そ・・・そうですよ。この中に裏切る人なんて・・・」

 

驚愕の表情を浮かべながらも、それぞれが隣にいる者同士で顔を見合わせる

 

稟「冗談でこんなことは言いません」

 

冥琳「少なくとも、私と稟、詠に朱里はこの中に内通者がいると考えている」

 

稟はいつも以上に真剣な顔つきをしており、冥琳にいたっても重い雰囲気を発している。

 

華琳「皆、忙しい中悪いけど、話には付き合ってもらうわ。愛紗、お願い」

 

愛紗「・・・・・・承知した・・・」

 

華琳が王座に座りながら愛紗に声をかけると、愛紗はしぶしぶながらも王座の間の入り口の方へと歩いていく。

 

そして、出口の前で立ち止まり、振り返ると同時に偃月刀を取り出した。

 

愛紗は王座の間の唯一の出口を封鎖したのだ。

 

星「まぁ、主の話となれば誰も聞かずに外へ出ようと思う者はおるまい。後ろめたいことがある者以外はな・・・」

 

星はそこへさらに釘を刺すように言葉を発した。

 

ここで王座の間から出たがるようなものがいれば、たちまち怪しまれる立場になってしまう。

 

華琳「私だってこんなことはしたくないのだけど、一応念のためよ。気分を害したものがいるなら先に謝るわ」

 

思春「まぁ、当然の処置でしょう」

 

華琳「ご理解感謝するわ。それでは、始めましょう。冥琳、お願い」

 

冥琳「承知した。改めてこの話を聞く者が大半だと思う。なので、北郷失踪の状況を簡単に振り返ろうと思う」

 

冥琳は今まで居た位置から一歩前へ踏み出して、話を始めていった。

 

 

 

 

 

 

冥琳「まずは北郷失踪に初めて気がついたのは月と詠だった。当時のことを簡単に話してくれ」

 

詠「月、お願いできる?」

 

月「うん、分かったよ」

 

詠から話を振られた月に皆の視線が集まると、月は思い出しながら一言一言ゆっくりと話し始める。

 

月「あの朝もいつものと同じようにご主人様を起こしにお部屋へと向かいました。でも、そのときにはもうご主人様はお部屋に居なかったんです。黒い布もいつもの場所にありました」

 

あの朝、月と詠は洗面器や手ぬぐいなどをもって、一刀の部屋を訪れた。

 

そのときにはすでに、部屋に一刀の姿はなかった。

 

心配になった月と詠は城中を捜し回ったが、見つけることができなかった。

 

月「どこを捜してもいないので、おかしいなと思って・・・だんだん不安になってきて・・・桃香様や華琳様なら何か知っているかもしれないって思って、ご主人様のことを聞きに回ったんです」

 

華琳「その結果、私や桃香だけでなく、蓮華も知らなかったと言うわけね」

 

月「はい、その間にも会った人達にご主人様を一緒に捜してもらうようにお願いしていました」

 

月達は中庭や食堂などあちこち探し回ったが見つけることができず、三国の王に一刀の所在を訊ねに行っても誰も知らなかった。

 

冥琳「それで城中、町中、城外と捜したが、北郷が発見されることはなかったということだな」

 

春蘭や愛紗などが町中を捜したが一刀を見つけることはできず、城内においてもそれから進歩することはなかった。

 

冥琳「そして、その晩に緊急の三国会議が開始になったという運びになる。次はその会議の内容に移ろうか。春蘭、一刀失踪の晩の城の警備情報は覚えてるか?」

 

春蘭「なっ、何!?私がか?んん~~」

 

こんな時はいつも秋蘭の出番なのだが、肝心な秋蘭がこの場にいない。

 

急に話を振られた春蘭は驚きながらも、当時の晩の警備状況を思い出していく。

 

春蘭「・・・・・・・・・・・・、うん!あの晩に変わった報告は何もなかったぞ。もちろん、北郷の部屋の前にも行った。そのときはまだ北郷は部屋に居たと思うのだが・・・」

 

顎に手を当て、う~んと唸りながらあの時の状況を搾り出していく。

 

華琳「へぇ~、ちゃんとあの時話した内容覚えていたのね」

 

蓮華「あの春蘭が・・・珍しい・・・」

 

春蘭「なっ!?私だってあの頃から事務作業はしているのだ!!当然覚えているに決まっているだろう!!」

 

冥琳「まぁ、事務作業と春蘭の記憶力の関係はともかく、春蘭の報告通りだ。この報告と月、詠の報告をあわせて北郷がいなくなったのは春蘭、秋蘭が一刀の部屋を見回った後から月達が起こしに行くまでの間という結論に至ったわけだ」

 

夜の警備が一刀の部屋の前を通過してから、月達が一刀を起こしに行くまでの時間に一刀がいなくなった。

 

これが第一回目の一刀がいなくなったであろうおおよその時間を推測したものだった。

 

第一回目の会議に参加した者は当時の会議の状況を少しずつ、確実に思い起こしていく。

 

稟「その警備の状況の付け足しなのですが、実はあの会議の後、私が独断でその時間帯に門番をしていた者たちから詳しく話を聞きに行ったのです。その話によると、一刀殿失踪発覚の前夜には不審な報告もなく、誰も人を通していないとのことです」

 

稟は予め用意しておいた手元の資料を読み上げていく

 

つまり、北郷一刀失踪発覚の前夜においては城門からの出入りは誰もなかったということになる。

 

稟「会議の後は捜索隊の編制などで忙しくなったため、報告が遅れてしまいました。ですが、華琳様や冥琳殿、朱里には一度報告しています」

 

冥琳「ああ、確かにその話は聞いた。なら皆が次に思うことは“では、どうやって北郷は外に連れ出されたのか”と言うことだが、少し第一回の会議の内容がまだ残っている。そちらをまずは整理しよう」

 

冥琳はもったいぶるようにしながら、話を進めていった。

 

 

 

 

 

一刀失踪発覚当日の話が終わると、次はその前日の話に移る。

 

冥琳「北郷失踪発覚の前日に誰か北郷に会ったものがいるかという話をあの時の会議でもしたのだが・・・」

 

沙和「あっ!!は~~い!!沙和なの」

 

沙和は大きく手を振りながら返事をする。

 

冥琳「話してくれるか?」

 

沙和「分かったの。あの日は天気も良かったから、東屋で阿蘇阿蘇読もうと思って行ったら先に隊長がいたの」

 

冥琳「具体的な時間は覚えているか?」

 

沙和「う~~ん、お日様がまだ高い所にあったからお昼だったと思う」

 

沙和はその当時のことを淡々と話していく。

 

沙和「隊長、何か元気がなさげな感じだったから、大丈夫?って声かけたんだけど“大丈夫だ”って行ってどっかに行っちゃったの」

 

冥琳「それでその後、確か沙和は華琳のもとに来た商人の護衛へ向かったのだったな?」

 

沙和「そうなの~、凪ちゃんが護衛に行くって話を聞いたから沙和も一緒に行こうって思って」

 

あの時の沙和は非番の日だったため、特にすることもなかった。

 

だから、凪や真桜達と一緒に商人の護衛を手伝ったのだ。

 

冥琳「そうだったな。・・・・・・、他にも一刀を見たって報告した者がいなかったろうか?」

 

冥琳はあたりにいる者たちを一人ひとり見渡しながら、皆の返事を待った。

 

沙和「え~~と、冥琳様?最後に隊長を見たのは沙和だから、他には誰もいないと思うの。はじめの会議のときも誰も見てないって言ってたの」

 

冥琳「そうだったか?それはすまない。少し前のことだったから、うろ覚えでな・・・」

 

蓮華「どうしたの?冥琳らしくないわね?」

 

玉座に座っている蓮華は隣にいる冥琳の顔を心配そうに見上げる。

 

冥琳「心配には及びません。大丈夫です、蓮華様」

 

そして、その蓮華の言葉に、冥琳は淡々とした様子で答えた。

 

冥琳「それでは、最後に北郷失踪発覚前日から当日の朝までの城門からの部外者の出入りについてまとめようか。詠、あの資料を出してくれ」

 

詠「わかったわ」

 

詠は右側に置かれた一枚の資料を手に取り、皆に見えるようにする。

 

詠の手に持たれていたのは第一回目の三国会議でも使われた入城者記名表だった。

 

内容は以下の通り

 

 

 

 

一刀失踪発覚前日の朝方に陳情書を届けに来た使いの者が一人

 

昼ごろに商人が一人、荷馬車も供に通過。その後、楽進将軍、李典将軍、于禁将軍とともに出城。

 

その少し後に、洛陽酒造の親方とその弟子たちで一組。おおきな樽を持っていた。

 

そして、失踪発覚の朝方に生活雑貨を届けに来た商人が一人。牛車も供に通過

 

 

 

冥琳「この内容をさらに詳しく話すと、陳情書の男は朱里の見送りの下、昼過ぎには城を出ており、商人は凪たちと一緒に夕暮れには出城している」

 

稟「そして、洛陽酒造の者たちも華琳様が見送りをして、夜番が夕暮れ過ぎに出城しているのを確認しており、失踪当日の朝方に来た商人も季衣、流琉両方が見送りをして出城を確認しています」

 

城に何かしらの客人が来た場合、城門警備のものがその用事のある者がいるところまで案内し、帰る時はできるだけ客人を対応した者が城門まで見送るというのが白帝城の規則だった。

 

そして、このときも城内の者皆がその規則どおりの行動をしていた。

 

冥琳「入城時、出城時共に部外者の荷物検査を行ったが、特に変わったものはなかったとの報告も受けている」

 

これらの情報はすべて、稟が会議の場を出て行った後に城門警備の者たちの情報をもとにした者だ。

 

入城時の荷物検査、写真撮影、出場時の見送りの者すべてをその城門警備の者たちは見ていた。

 

それでも結果、怪しい行動をした者がいなかったという。

 

冥琳「以上が大体の北郷失踪前日、当日の城の情報をまとめたものだな・・・」

 

最後に冥琳がそう言って、第一回目の会議の内容を簡単な振り返りを終了する。

 

 

 

 

 

 

翠「ん~~~、あたしはその会議の内容は手紙でしか見てなかったから、よくわかんなかったんだけど・・・今、改めて話を聞いて思うんだけど・・・ご主人様を誘拐する隙なんかあるようには思えないんだよな~」

 

桔梗「わしもそうは思うのじゃが、実際、お館はいなくなっとるしな」

 

翠は首を左右交互に傾げながら、桔梗と話をしている。

 

王座の間にいる一同も近くにいる者同士で、今の話を踏まえて各々の意見を出し合っている。

 

そのなか、冥琳が一人顎に手を当て、なにやら一人で考え込んでいた。

 

蓮華「どうしたの、冥琳?何かあるのかしら?」

 

その様子に気付いた蓮華が冥琳に声をかける

 

冥琳「ん?いや・・・」

 

眉間にしわを寄せながら

 

冥琳「沙和、最後にもう一度確認したい」

 

沙和「??何ですか?冥琳様?」

 

冥琳「最後に北郷に会ったのは、沙和、お前なのだな?」

 

沙和「そうなの~。さっき話したとおりなの」

 

沙和は先ほどと同じように自身ありげに返答した。

 

冥琳「・・・・・・・・・」

 

冥琳は沙和の返事を聞いた後、また少し顔を伏せて考え込んだ。

 

雪蓮「本当にどうしたのよ?冥琳?さっき話してたじゃない」

 

冥琳が同じことを何回も聞くと言うことは珍しい

 

聞き逃したと言うこともないだろう

 

その様子にいつもの冥琳らしくないなと一同は感じていた。

 

 

 

 

 

冥琳「なぜ、断言できるのだ?」

 

 

 

 

 

すると、冥琳は突然一言、ボソッとつぶやいた。

 

蓮華「えっ・・・何?」

 

蓮華の言葉には答えないで、冥琳はスッと顔を上げる。

 

そして、沙和の瞳を強い視線で見つめる。

 

冥琳「なぜ北郷と最後に会ったのが自分であると言い切れるのかと聞いている」

 

沙和「め・・・冥琳様の言葉の意味が分からないの。だって、隊長が最後に会ったのは沙和だから・・・」

 

冥琳のあまりの真剣な顔つきに沙和は少し気おされてしまう。

 

沙和はおどおどしながらもまた、先ほどと同じ言葉を繰り返す。

 

冥琳「沙和よ。確か東屋で北郷と会い、話をした後、別れたといったな。ならば、その後の北郷の行動は知らないはずだな?」

 

沙和「そうなの。どっかに行っちゃったから、その後のことは知らないの」

 

冥琳「なら、沙和と会った後、北郷が女官や役人、他の誰かと会う可能性があるよな?夜ならまだ分からんでもないが、真昼に会ったんだろう?」

 

沙和「でも、実際に沙和以外に隊長に会ったって人は居ないの」

 

冥琳「そもそもそれがおかしいのだ。いかにこの城が大きいといえども、多くの者たちがここで働いている。それなのに沙和以外の目撃情報が全くない」

 

当たり前のように白帝城には女官や役人、兵士はもちろん料理人や庭師など多くの人たちが仕事をしている

 

特に昼ごろになると、それぞれの仕事が忙しくなり城の中もバタバタとしだす。

 

廊下に人がいなくなるということはほとんどない。

 

こんな状況の中、沙和以外誰もその日(一刀失踪発覚前日昼以降)は一刀の姿を見ていないという。

 

冥琳はこのことにずっと疑問をいだいていた。

 

蓮華「つまり・・・冥琳は何が言いたいの?」

 

沙和と冥琳の二人の会話が淡々と進んでいく中、蓮華は冥琳に話しかける

 

その場にいる者の半分は冥琳と沙和の会話についていけていなかった

 

それどころか、当事者である沙和も冥琳が何を言いたいのか分かっていなかったようだ。

 

それを見て冥琳は一つ、深くため息をついた。

 

 

 

 

 

 

冥琳「・・・・・・分からないならもっと分かりやすく言ってやろう。沙和、東屋で会った後の北郷の行動を知っているのではないか?」

 

沙和「!!!?そ・・・そんなの知らないの!!」

 

冥琳の言葉に沙和は心底驚いた様子を見せる。

 

そして、冥琳に対して大声で、戸惑った様子で声を荒げる。

 

冥琳「だが、お前は先ほどから何回も“最後に北郷に会ったのは自分だ”と言っているな。つまり、そう断言するには北郷が自分に会った後、他の誰とも“会わない”または“会えない”ということを知っていなければ出てくる言葉ではないと思うのだが?」

 

沙和「でも・・・・・・。でも!!隊長がお城で最後に会ったのは沙和なの・・・それは間違いないの!!」

 

冥琳「だから、そう断言できる理由を教えてくれるとありがたいのだがな・・・」

 

華琳「沙和・・・あなた・・・何か隠してるの?」

 

皆の視線が沙和に集中する。

 

そして、蓮華が何かを確かめるように沙和に問いただす。

 

依然として沙和は戸惑ったまま、辺りを見回していた。

 

沙和「何も隠してないの!!ホントなの!信じてなの!!」

 

そして、沙和は皆の視線が自分に集中していることに気付くとまた、声を荒げる。

 

凪「ちょっと待ってください!!」

 

すると、凪は沙和を庇うように前に立った。

 

そして、鋭い眼光で冥琳を見つめる。

 

冥琳「どうした?凪?」

 

凪「先ほどから聞いていれば、まるで沙和が内通者みたいな言い方をしているように聞こえてしまいます!!」

 

冥琳「・・・・・・、この際だからはっきり言っておこう。私は少なくとも沙和も北郷失踪に関係しているのではと考えている。だが、沙和が何故北郷と最後に会ったのが自分だと分かったのかを説明できれば、私は納得できるのだ」

 

冥琳の言い分はこうである。

 

一刀に“最後に”会ったのは自分(沙和)と断言できる理由は、自分(沙和)と会った後、一刀は誰とも会わないということを確信していたから

 

何故一刀は東屋であった後、誰とも会わないと確信したかというと、沙和自身が一刀を“人と会えない状況”に陥れたから

 

つまり、沙和が一刀失踪に加担している。

 

という以上の論法からなっている。

 

なので、『一刀と最後に会ったのは自分だ』ということを客観的に冥琳に証明することができれば、冥琳のこの論法は成り立たなくなるのである。

 

沙和「そんなの説明できないの!!でも、確かに隊長に最後に会ったのは沙和なの!!」

 

沙和は自分の頭を抱えながら、その場にしゃがみ込んでしまう

 

冥琳「だったら、悪いが沙和に対する私の疑いは晴れない」

 

凪「冥琳様!!」

 

凪は沙和を心配して一緒にしゃがみ込み、沙和の顔色を伺う。

 

その顔色は真っ青になっており、何か苦しむように頭を掻き毟っていた

 

 

 

 

 

 

真桜「冥琳様、悪いけど沙和が隊長失踪に関係してるってのはちょっと無理あるで」

 

凪の後ろ側にいた真桜がしゃがみ込んでいる二人を回りこむようにして二人の前に立つ

 

冥琳「どうしてだ?」

 

真桜「隊長がおらんようになったのは春蘭様、秋蘭様が隊長の部屋の前を通ってから、月達が隊長起こしに行くまでの間なんやろ?そん時、ウチと凪と沙和は商人の護衛に行っててんで?門番もちゃんと夕方にウチらが城から出て行くところは見とるわけやし、帰ってきたのは会議の最中やったわけや。その時間に隊長の誘拐に関わろうなんて無理な話ですわ」

 

前回の会議でも、そして今回の会議の前半でも述べられたこと

 

それは一刀がいなくなったのは夜の警備終了から月達が起こしに行くまでの間であるということ

 

この時間帯は確かにこの三人は商人の護衛に出かけており、城には居ない

 

真桜「冥琳様がこだわってる沙和の言葉やけど、やっぱり沙和の言い間違いかなんかとちゃうかな?今の沙和、いろいろ混乱しとるようやし・・・。第一、沙和が内通者のわけがありませんやんか」

 

凪「そうです!!沙和が内通者のわけがありません」

 

凪はまた、勢い良く立ち上がり真桜の言葉に同意する。

 

真桜「それに、春蘭様と秋蘭様も夜の隊長の部屋の蝋燭の明かりを見てるわけやろ?そんなん、隊長がまだその時、おったっちゅう証拠やないですか」

 

真桜は次々と言葉を紡いでいく。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

しかし、真桜が話をしていると、場の雰囲気が徐々に冷え込んでいくのを感じた。

 

そして、周りの真桜を見つめる視線も徐々に戸惑いのものに変わっていた。

 

その雰囲気に真桜は居心地の悪さを感じた

 

真桜「な・・・なんですか?ウチ・・・なんか変なこと言いましたか?」

 

真桜が戸惑いながら辺りを見回していると、王座に座っている華琳がボソッと一言つぶやいた。

 

華琳「・・・残念よ・・・・・・」

 

真桜「な・・・何がですか?」

 

華琳の横に控えていた稟も真桜たち三人を見下ろし、蓮華の横に控えている冥琳も厳しい視線を送っていた。

 

冥琳「実はな、先ほどの春蘭の報告では一つ重要な事柄が抜けていたのだ」

 

春蘭「何!?私はちゃんと報告したぞ?」

 

いきなり名前が出てきたため、春蘭は意表をつかれてしまう。

 

冥琳「春蘭、夜の警備の時、お前はなぜ部屋に北郷がいると思ったのだ?」

 

春蘭「それは、北郷の部屋の蝋燭の明かりが扉から漏れていたからだ。秋蘭も見ていると思うぞ?」

 

真桜「ほ・・・ほら、ウチの言うたとおりですやんか。なんもおかしいことないでしょ?」

 

冥琳「いや・・・どうしてお前がそれを知っている?」

 

真桜「へっ?」

 

冥琳の言葉が理解できず、真桜は気の抜けた声を上げてしまう。

 

冥琳「今回の会議では北郷の部屋の明かりについてなど、一言も言ってない。春蘭が言い忘れていたのだからな」

 

真桜「そ・・・それは・・・前回の会議で言ってたから・・・」

 

冥琳「確かに前回の会議では蝋燭の話題になった。だがな・・・、それはお前達が商人の護衛から帰ってきて、会議に参加する前に話し合われたことだ。お前達が一回目の会議のときにその話を聞けるわけがない!」

 

三人が商人の護衛から帰ってきたのは、会議の最中だった。

 

そして、一刀の部屋の明かりの話、蝋燭の話というのは三人が参加するまでに話し合われていた。

 

それなのに何故そのことを真桜が知っているのか?

 

一回目の会議に参加したもの達が真桜に送っていた視線の意味がまさしくそれだった。

 

真桜「そ・・・そうや!!誰かから聞いたんやったわ!!」

 

冥琳「具体的に誰からだ?」

 

真桜「そ・・・それは・・・、アレ・・・誰やったっ・・・け?」

 

冥琳「一回目の会議のとき、だれか真桜に蝋燭の件を教えた者はいるか?」

 

前回の会議参加者は皆“私ではない”と首を横に振る。

 

会議の翌日は一刀捜索隊の編成やその準備のために皆が忙しく城中を駆け回っていた。

 

なので、軍師以外のだれもが詳しい会議の内容をそのとき振り返らなかった。

 

冥琳「蝋燭の明かりのことを知っていたのは、お前自身が北郷の部屋の蝋燭の火をつけたからじゃないのか?」

 

真桜「ちょ・・・!?待ってや!!なんでウチが・・・」

 

冥琳「それ以外、お前が北郷の部屋の蝋燭のことを知る機会はあるまい」

 

翠「ちょ、ちょっと待ってくれ!!話が進みすぎて訳がわからない!!内通者は複数いるということか!?」

 

冥琳「私は先ほど『少なくとも沙和“も”内通者であると考えている』と言った・・・。今の真桜の言葉でより私の推測が確信へと近づいた・・・」

 

冥琳はメガネの縁を持って、クイッと位置を整える。

 

冥琳「沙和の言動のおかしさ、本来知りえるはずのないことを真桜が知っている。このことから、私は真桜、沙和そして・・・凪。お前たち三人が内通者であると考えている。このことから、北郷が失踪した時間も深夜から早朝までの間ではなく、失踪発覚前日の夕方・・・つまり商人の護衛の時に一緒に連れ出したのだろう」

 

蓮華「凪もなの!?」

 

蓮華は冥琳の更なる告白に驚きの声を上げる。

 

そして、冥琳の言葉により真桜に向いていた視線が、次は凪に集中する

 

凪「・・・・・・・・・」

 

凪は視線が自分に集中していることに気付きながらも、しっかりと冥琳の目を見ていた。

 

冥琳「そうです。私は会議での沙和の発言と、明命が“ある物”を見つけてきてから、沙和と真桜がそうではないかと疑い始めました。そして、凪は体(てい)よく利用された。そう考えていたのですが・・・蓮華様。白帝城へ戻ってくる際、賊に襲われたのは覚えていらっしゃいますね?」

 

蓮華「ええ・・・」

 

冥琳「蓮華様達が来援した時、途中で見かけた星が私のいる第三陣まで連れてきてくれたのだったな」

 

星「いかにも、仰るとおり」

 

冥琳は星に確認するように訊ねるとすぐに同意の言葉が返ってきた。

 

冥琳「蓮華様たちの援軍がこんなにも早く着くことは想定外でした。なので、呉の援軍の到着を知っていたのは援軍で来た者達を除けば、私と星、そして一緒に見かけたという翠と・・・もう一人・・・私に第一陣の報告に来ていた凪・・・お前だ」

 

星が蓮華たちを冥琳のもとへ案内した時、冥琳は凪から第一陣の戦闘報告を受けている最中だった。

 

冥琳「あの時の第三陣は最終防衛線だった。だから、私はそれより内側から奇襲を受ける可能性なんて考えていなかった。それに奇襲された地点は極めて白帝城に近づいてからだ。何者かの手引きがない限りあの位置の陣取りは不可能だ」

 

凪「その手引きを・・・私がやったというのですか?」

 

今まで黙っていた凪が辛うじて聞こえる声で話し始めた。

 

そしてその言葉に対して、冥琳は何も言わず、ジッと凪の顔を見つめる。

 

つまり、凪の言葉に否定しないということだ。

 

凪「私はその後、すぐに第一陣営に戻りました!!そのようなことはやっていません!!」

 

今までジッとしていた凪だが、遂に声を荒げる。

 

そのようなこと自分はやっていないと・・・

 

冥琳「蓮華様たちの奇襲においては確かに私の推測の域を出ない。だがな・・・お前たちが北郷失踪に関わったかもしれないという証拠ならある」

 

華琳「さっき言ってた明命の部下が見つけた“ある物”かしら?」

 

真桜「そんなんあるはずがないやろ!!ウチらはやってないんやから!!」

 

冥琳「・・・・・・・・・、明命、出してくれ」

 

明命「はい・・・、こちらです・・・」

 

いつの間にか冥琳の隣にいた明命が胸元から一枚の白い布を取り出した。

 

そして、それを蓮華へと手渡す。

 

蓮華はそれを手に取った瞬間、ピンと来るものがあった。

 

蓮華「これは・・・!!一刀の!!」

 

冥琳「この生地はまさしく北郷がいつも着ている白い服のものだと思われます」

 

蓮華はその布の手触りを確認し調べた後、その布を稟に手渡す。

 

そして、稟はその布を華琳へと手渡した。

 

華琳「どこから見つかったの?」

 

華琳はその布の感触を調べながら、明命に訊ねる

 

明命「真桜さんの部屋の・・・人一人くらい入れる大きな箱の中にあったそうです・・・。私の部下が発見しました・・・・・・」

 

明命は常時、顔を伏せながらゆっくりと報告していく。

 

真桜「なんやって!?そんなん・・・ウチ・・・知らん・・・・・・知らんで!!!」

 

冥琳「後々調べてみたら、その箱は・・・真桜の螺旋槍を入れるためのものだった。あの箱なら人一人ぐらいは入れるだろうし、持ちやすいようにいろいろと工夫もしたと真桜自身から説明してもらったからな」

 

冥琳は真桜たちが兵士の訓練をしている時にたまたま城壁の上から報告にあった箱を真桜が持っているのを目撃した。

 

そして、その箱がどういうものなのかそれとなく聞きだしたことがあった。

 

持ちやすいようにいろいろ工夫したり、軽い素材を選んだりといろいろ苦労したという話も真桜本人から聞いたのだ。

 

真桜「そんな布・・・ウチ・・・知らん・・・」

 

真桜は華琳が持っている布を一心に見つめている。

 

沙和「その布なら真桜ちゃんの部屋にあっても当然なの!!だって、前に隊長に服を送りたいって凪ちゃんから相談を受けたときに作った布があるの!!たぶん、華琳様が持っているその布はそのときに余った残り物なの!!」

 

蓮華「そういえば、そんな話・・・一刀から聞いたわね」

 

凪と警邏をしていた時、ちょっとしたハプニングで一刀の服が汚れてしまったことがあった。

 

凪はそれを見て沙和と真桜に相談し、どうせ服を送るならいつも着ているのと同じものを送ろうと計画したのだ。

 

一刀はいつも着ている服を凪からもらったと皆に自慢して回っていたことを一同は思い出した。

 

その布はそのときのあまりであると沙和は主張している。

 

冥琳「はい、そのことは私も聞きました。だがな・・・これはまさしく失踪当日に北郷が着ていた布だ」

 

沙和「何でそんなことが分かるの!?」

 

沙和はすでに気が動転してしまっているのか、冥琳や華琳に対して敬語を使わず、いつもの口調になってしまっていた。

 

冥琳「この破けている部分を見てみろ。黒ずんでいるだろ?」

 

冥琳が袖口ではないほうを指差す。

 

すると、そこは焼け焦げたように黒くなってしまっていた。

 

冥琳「一回目の会議の途中で明命が北郷の服を小川から見つけてきたことを覚えているか?その左袖の部分が黒く焼けたような跡が残っていた。もしかしてと思って合わせてみたら、ほぼ一致した」

 

華琳「その布が真桜の持ち物の中から出てきたということね・・・」

 

真桜「そんな・・・知らん・・・ウチは知らんで!!」

 

雪蓮「・・・・・・・・・・、それじゃあ具体的に、冥琳はどうやって一刀を連れ出したと考えてるの?」

 

いままで終始口を開かなかった雪蓮が遂にその方法についての話を切り出した。

 

冥琳「おそらく北郷はその螺旋槍入れの中に入れられたのだろうな。そして、堂々と城門を通って、城外に運ばれた」

 

雪蓮「でも、なら城門の荷物検査の時に・・・・・・・あっ!!」

 

冥琳「気付いたか?城門での荷物検査は来客の荷物に関してだけだ。城の関係者の荷物は確認しない。城門の警備の者も馬車に積まれていた将軍の荷物は検めていないといっている」

 

冥琳は稟が持ってきた警備員からの聴取の資料を手に取った。

 

そこには確かに将軍の荷物は検めていないという門番の証言が記載されていた。

 

冥琳「まぁ、螺旋槍入れだけは念を入れて三人のうちの誰かが担いでいたのだろうな・・・万が一というのもあるだろうし・・・・・・な」

 

もうだいぶ時間がたってしまっているため、螺旋槍入れを担いでいたかどうか当事の城門警備のものに聞いてもあやふやだろう。

 

だが、今までの冥琳の言葉により、皆が凪たち三人を疑い始めていた。

 

蓮華「なら・・・やっぱり・・・あなた達が・・・・・・」

 

沙和「知らないの・・・沙和は・・・何も・・・」

 

真桜「ウチも・・・知らん・・・知らん・・・その布も・・・知らん」

 

凪「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

沙和は再びしゃがみ込み、頭を抱えている。

 

真桜も“知らない”と言い続けながら立ち尽くしている。

 

凪は先ほどからずっと口を閉じ、肩を震わせていた。

 

冥琳「北郷失踪の“タネ”はこんな感じなるのだろうな・・・」

 

 

 

 

 

まずは沙和が東屋に北郷を呼び出す。

 

そして、なにか理由をつけて真桜の部屋へ連れて行くように仕向ける。

 

真桜の部屋に着いた北郷は首に手刀でも受けて気絶させられたのだろう。

 

そして、気絶した北郷を螺旋槍入れの中に入れて、隠蔽の準備を整えていった。

 

また、すぐに一刀の失踪がばれれば、自分達が疑われるかもしれないと思い、いろいろと裏工作を行う。

 

その一つが北郷の部屋の蝋燭が考えられる。

 

おそらく真桜が北郷の部屋へ向かい、蝋燭に火をつけたのだろう。

 

火をつけた理由は夜に一刀が部屋にいるように見せかけるため

 

そうすることで一刀が城からいなくなった時刻を誤認させるように仕向けた

 

白帝城で使われている蝋燭は特注のもので、一度火をつければ最高で半日燃え続ける代物だった。

 

真桜たちが城を出発したのが夕暮れ過ぎだったから、蝋燭に火が灯された時間帯も大体それぐらいと考えられる

 

夕暮れならまだ辺りも日の光で明るいだろうから、だれも北郷の部屋の蝋燭が夕方から灯されていることには気付かなかった。

 

夕暮れから半日時間が経過すれば、その翌日の早朝には燃え尽きる計算になる。

 

また、詠が蝋燭を新品の物に取り替えていたから計算も狂わなかったのだろう。

 

結果、夕方から夜の見回りまでは北郷の部屋の蝋燭が灯されていることには日の光によって気づかれず、春蘭達が一刀の部屋の前を見回りに来たときには一刀の部屋から明かりが漏れて、あたかも一刀がいるように見せかけることができた。

 

そして半日間蝋燭は燃え続け、月達が一刀を起こしにいった際、部屋の蝋燭は燃え尽きていた。

 

部屋もやけに小綺麗だったのは蝋燭の火が他の竹簡や紙に燃え移るのを防ぐために掃除したことが伺える。

 

そして、一刀の部屋での工作が終わった後、凪と合流、一刀が中に入れられた螺旋槍入れを持って商人と共に城外へと脱出を図った

 

また、城門での荷物検査のことはもちろん三人は知っている。

 

だが、城に深い関係のある人物の荷物検査は免除されることもまた知っていた。

 

しかし、城門の兵士たちは非常に優秀な者達がそろっていたため、油断することはできない。

 

念には念を入れ、商人の荷馬車の中にも自分達の荷物を積ませて、カモフラージュを行い、本命の螺旋槍入れは誰かが担ぐといったことをした。

 

もし“その中身は何か”と問われても“真桜の武器の螺旋槍が入っている”といえばよほど不審な動きをしない限り、中身は検められないだろう。

 

城門の兵士たちは古くから三国につかえている者達だ

 

螺旋槍と言われれば“ああ、あのことか”とすぐにピンと来て調べることもしないだろうと考えた。

 

そして、城門での荷物検査が終了したと共に、堂々と城門から一刀を連れ出し、脱出は成功

 

一刀失踪が完了することとなった。

 

 

 

 

 

 

冥琳「・・・と言うのが私の推理なのだが・・・、何か異論はあるか?」

 

冥琳はしっかりとした口ぶりで当時のことを推理していった。

 

その推理をおこなっている最中も凪、沙和、真桜は何も口を挟まず、ただジッと俯いていた。

 

翠「そんな・・・なんで・・・凪たちが・・・」

 

季衣「ウソだよね・・・・・・違うよね?」

 

春蘭「凪・・・、沙和・・・、真桜……」

 

凪たちの回りにいる者達は次々に凪たち三人に声をかけるも反応はない

 

稟「何も言わないということは・・・認めるということ・・・ですか?それとも・・・黙秘ですか?」

 

凪・沙和・真桜「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 

稟の言葉にもまるで三人に反応はない

 

すると、いままで扉の前に立っていた愛紗がツカツカと凪のほうへと歩いていく。

 

桔梗「愛紗・・・?」

 

その途中、目の前を通った愛紗に声をかけるもまったく反応が帰ってこなかった。

 

そして、凪の真正面に立つとそのまま両腕で凪の胸倉を勢いよく掴みあげた。

 

愛紗「ご主人様はどこだ・・・凪」

 

凪「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

愛紗「答えろ!!!!」

 

何も答えない凪に対して、愛紗はさらに凪を高く持ち上げようとする。

 

華琳「やめなさい!!愛紗!!」

 

星「落ち着け!愛紗!!翠、お前も引き剥がすのを手伝え!!」

 

翠「えっ・・・、あっ、ああ!!」

 

華琳の声を皮切りに、星と翠が愛紗と凪を引き剥がしにかかる。

 

そして、やっとのことで二人を羽交い絞め星が愛紗を、翠が凪を引き離す。

 

星「少しは落ち着け。主が心配なのは分かるが・・・」

 

愛紗「だが!!」

 

愛紗はまだ凪に食って掛かろうとする。

 

翠は凪を放してやるが、まるで何もなかったかのように顔色も変えず、ただジッと俯いているだけだった。

 

冥琳「愛紗。ここは私に任せてはくれないか?」

 

冥琳は星に羽交い絞めにされている愛紗の肩にポンと手を置いた。

 

愛紗「・・・・・・・・・ああ、すまない・・・・・・」

 

愛紗の了承を得ると、冥琳はそのまま三人の前へと歩みを進める。

 

愛紗「もう大丈夫だ・・・。すまない・・・星」

 

落ち着いた様子の愛紗を見て、星は愛紗から手を離した。

 

その間に冥琳は凪たち三人の目の前に立つ。

 

冥琳「・・・何も言わないのなら・・・悪いがお前たち三人を幽閉させてもらう。もう少し詳しい話を聞かせてくれ。まぁ、牢の中ではなくそれぞれの部屋の中でな・・・。入り口には見張りの兵を立たせてもらう」

 

地下牢に放り込まないということから、冥琳の少しの気遣いが感じ取れる。

 

凪・沙和・真桜「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 

冥琳「お前たちが何の理由なしに裏切るなんてことは私も考えていないんだ・・・なにか・・・話せない事情があるのか?」

 

凪・沙和・真桜「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 

冥琳が落ち着いた声色で三人に話しかけるも、三人が返事を返すことはない。

 

冥琳「・・・・・・、何も話してくれないのなら仕方がない。誰か・・・彼女らを部屋まで―――」

 

冥琳が衛兵に凪たちを任せようと言葉を発したその時・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

???『ならば、私が答えてあげましょう』

 

 

 

 

 

 

 

愛紗「!!!!誰だ!!」

 

王座の間に聴きなれない声がこだまする。

 

???『この御三人が答えないのでしたら、私が代わりに話しましょうかと言っているのです』

 

春蘭「どこにいる!!!!!!」

 

愛紗や春蘭は辺りを見回しながら声が発せられている出所を捜す。

 

???「どこを見ているのですか?こちらですよ」

 

言葉と供に王座の間の柱の影から黒いドレスを着た淑女が姿を現した。

 

雪蓮「き・・・貴様は・・・」

 

???「お久しぶりですね、孫策さん」

 

蓮華「誰なのか知ってるの!?姉様!!」

 

カガミ「皆様、初めましてこんばんは、私の名前はカガミと申します。以後、お見知りおきを」

 

そう言ってドレスの裾を掴み、丁寧にそして優雅に礼をしてみせる。

 

蓮華「カガミって・・・姉様と祭が言ってた・・・幻術士!!」

 

春蘭「どうやってここへ入ってきた!!」

 

すぐさま春蘭と愛紗、さらに思春がカガミを取り囲むよう位置取りをする。

 

その他の武官もまた、武器を構えカガミを取り囲んでいく。

 

この状況の中でも凪、沙和、真桜はピクリとも動かず、俯いたままだった。

 

カガミ「それは話をしても仕方がないこと・・・もっと有意義なお話しましょう・・・」

 

春蘭「ふっ!ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

春蘭がカガミに斬りかかろうとしたその時

 

春蘭「なっ・・・。あ・・・足が動かん」

 

愛紗「こ・・・これは・・・・・・・・」

 

春蘭は自分の右足の異常な重さに気がつく

 

いや、脚が重いというよりかまるで地面と脚が引っ付いて動かなくなってしまっていた。

 

そしてその感覚が体全体へと渡っていく。

 

愛紗も同じ感覚に陥っているようだった

 

愛紗「あ・・・足が上がらん・・・」

 

春蘭「ちっ・・・貴様・・・何をした!!」

 

その感覚が手にまで及ぶと指先の感覚がなくなっていき、手に持っていた武器を落としてしまう。

 

王座の間にカランカランと武器が落ちていく音が反響した。

 

カガミ「ご心配には及びません。あなた方だけでなく他の方々も・・・ね」

 

愛紗「何?」

 

愛紗が辛うじて動く首をひねり他のみんなの方を見ると、自分達と同じように動けない状態でいることが分かった。

 

王座に座っている蓮華や華琳もまるで強い力で押さえつけられているように立ち上がることができなかった。

 

カガミ「いまあなた方が騒がれては、お話ができないではありませんか。あまりうるさくすると口も動かなくしますよ」

 

カガミはゆっくりと王座の間の中央へと移動する。

 

そして、カツン、カツンとヒールの音を立てながら王座の方へと向かっていった。

 

春蘭「きさまぁぁぁぁ!!華琳様に何かしてみろ!!ただじゃ済まさんぞ!!」

 

思春「蓮華様!!お逃げください!!!蓮華様!!!!」

 

蓮華「ちっ・・・立てない・・・」

 

華琳「どうなってるの・・・よっ!!!クッ!!」

 

春蘭、思春が声を上げるもまだ華琳、蓮華は王座から立ち上がることができなかった。

 

そしてゆっくりとカガミは蓮華の座っている王座と華琳の座っている王座の間に立ち、皆が見える位置まで移動した。

 

カガミ「心配せずとも何も危害は加えません。ですが・・・」

 

そう言ってカガミは右手の人差し指を立て、その指で雪蓮を指差した。

 

そして、その指をゆっくりと下へ下ろしていく。

 

雪蓮「なっ!!また・・・重く・・・」

 

すると、雪蓮の体はその指に合わせて下に吸い寄せられるように徐々に重くなっていく。

 

いままでの重さは辛うじて体を支えられる程度のものだった。

 

しかし、今の雪蓮は体を支えることも困難なほどの重さを感じていた。

 

そして、肩膝を着き、最終的には床に這いつくばる形にまでなってしまう。

 

雪蓮「た・・・立てない・・・ガハッ!!」

 

必死で立とうとする雪蓮だが、まるで自分の体が言うことをきかない。

 

蓮華「姉様!!貴様!!!!姉様に何を!!!!」

 

蓮華はカガミに襲い掛かろうとするも、椅子から立ち上がることができない

 

カガミ「あなたの持つ『南海覇王』だけは脅威です。すみませんが、その状態でお話を聞いてください」

 

雪蓮はその言葉を聞きながらも必死に立とうとするが、遂に指一本も動かせなくなってしまった。

 

カガミ「さて・・・先ほど周瑜さんの推理を聞かせていただきましたが・・・ギリギリ及第点といったところでしょうか」

 

そういった雪蓮の様子をよそにカガミは冥琳の方を向き話を始める。

 

冥琳「・・・・・・なに?」

 

冥琳はもはやその場から動くことを諦め、少しでも情報を得ようとカガミの話に耳を傾けていく。

 

愛紗や春蘭などの武官筆頭でも動くことが出来ないのに、自分が動けるはずがない。

 

ならば、その場の状況から一つでも多くの情報を得るのが今の自分のやるべきことと感じたからだ。

 

カガミ「あなたの推理は一見、筋が通っているように見えますが・・・それはあの三人が大した異議申し立てをしなかったからです・・・まぁ・・・話せるわけがないんですが・・・ふふふっ」

 

カガミは口元に手を当て、妖艶にクスクスと笑う。

 

冥琳「どういうことだ・・・?」

 

カガミ「この子達があなたの言ったように北郷一刀失踪の計画を立て、遂行したとしましょう。では・・・その動機は?」

 

冥琳「動機・・・だと?」

 

カガミ「はい、人は何か物事を成す時にはなぜそれを成すのか・・・その理由があります。この子達が北郷一刀失踪に関わった動機は・・・なんですか?」

 

冥琳「そんなもの・・・今の状況から考えればお前に脅迫されたか、幻術で操られてやったというのが考えられるが?」

 

カガミ「ふふふっ・・・ハズレです」

 

カガミはまた口元に手を当て、クスクスと小さく笑う。

 

冥琳「ハズレ・・・だと?まるで、なぜ凪たちがこのようなことをやったか知っているような口ぶりだな」

 

カガミ「ええ、知ってますよ。ですが、それを考えるのはあなた達です」

 

カガミは当然のように冥琳の言葉に対しての返事をしてみせる。

 

カガミ「それに・・・怪しいといえば・・・曹操さんも怪しくありませんか?酒造の方々と犯行に及んだかもしれませんよ?」

 

そういいながら、カガミは玉座から動けない華琳の肩に手を置いた。

 

稟「それはありえませんね。私が捜索隊で洛陽に向かった時にしっかりと確認しました。仲間からも随時報告を受けていますが、特に不審な行動もない。この可能性は消えたといってもいいでしょう」

 

体こそ動かせないが稟は洛陽に着いた時の風の報告をもとに述べていく。

 

カガミ「ですが・・・、曹操さんですよ?」

 

一同「・・・・・・・・・」

 

華琳なら手段を選ばず、何でもやるかもしれない。

 

一同の心の中には乱世の奸雄と呼ばれたときの印象は確かに残っていた。

 

そのことが心のどこかにあったため、カガミのこの一言に誰もすぐに言い返すことはできなかった。

 

一同の視線は一気に華琳に集まっていく。

 

しかし、華琳に動じた様子は見られない。

 

華琳「稟、可能性として・・・私が犯人かもしれないとも考えていたの?」

 

稟「・・・・・・・・・・・・・はい、申し訳ありません」

 

稟は申し訳なさそうに、重い口調で返事する。

 

華琳「別にいいわよ。それに私が一刀をどうにかするならもっと堂々とやるわよ。姑息な手は使わない」

 

稟「それは重々承知しています」

 

カガミ「ふふふっ、曹操さんには疑いの目は向けないですか。・・・・・・まぁ、何も知らないというのも面白くはありませんね。そうですね・・・」

 

カガミはわざとらしく何か考えているようなしぐさを取る。

 

カガミ「北郷一刀失踪に関わったのはこの三人であることは間違いありません。北郷一刀を連れ去った方法も7割は正解です。あと、内通者に関してもこの三人で間違いありませんよ。援軍の情報や作戦などは筒抜けでした。まぁ、どうやってこちらに情報を伝えたのかはお教えしませんけど・・・。以上を踏まえ、平均して及第点ギリギリなのです」

 

カガミはそう断言してみせた。

 

蓮華「私達をだますつもりじゃ・・・」

 

カガミ「私、ウソは下手ですから」

 

蓮華の言葉にカガミは答えながら笑みを浮かべる。

 

蓮華「それじゃあ・・・やっぱり・・・凪たちが・・・」

 

華琳「敵の言葉を全て鵜呑みにしちゃだめよ!!蓮華!!」

 

華琳はもはや体を自由に動かすことができず、首を横にひねり、隣の王座に座っているはずの蓮華の表情を見ることも困難となっていた

 

しかし、蓮華の声色から蓮華がどう思っているのかと言う感情は少なくとも汲み取ることができる。

 

華琳は蓮華に対して活を入れる意味を込めて、声を発した。

 

カガミ「あらあら・・・よっぽどこの三人のことを信じているのですね」

 

華琳「あたりまえでしょ。この子達・・・特に凪は自分の私利私欲のために動くことなんてまずしないわ!!ましてや、一刀を独占するなんて・・・」

 

カガミ「ふふふっ・・・、ほんとに面白いですね、曹操さん。独占なんて言葉・・・今まで一言も出てないのに・・・北郷一刀を誰かに取られるのがそんなに心配ですか?」

 

華琳「なっ!?」

 

カガミの言葉に華琳の頬が少し赤くなる。

 

そして、華琳はこんな時にまで何を考えているのかとちょっとした自己嫌悪感に襲われる。

 

カガミ「そもそも北郷一刀は“あなた達のもの”なのですか?」

 

華琳「どういう意味よ?」

 

華琳の言葉に、カガミは少し表情を曇らせた。

 

そして、カガミは表情を読み取らせまいと後ろへ振り返る。

 

カガミ「・・・・・・ちょっとお喋りが過ぎましたか・・・さて、話をもとに戻しましょう。あなた達は気付きませんでしたか?この三人の異変に・・・」

 

カツン、カツンとヒールをならしながら王座をぐるりと回るように歩き始める。

 

カガミ「なにか話のつじつまが合わない・・・知らないはずのことを知っている。知っているはずのことを知らない・・・関羽さん、前にこんな経験・・・しませんでしたか?」

 

愛紗「何・・・・・・!!!!漢中襲撃の報告に来た兵士か!!」

 

愛紗は少し考えるそぶりを見せる

 

そしてすぐに成都で会議をおこなっている時に漢中襲撃の報を知らせに来た兵士のことを思い出した。

 

カガミ「そうです。その方と同じ記憶の操作をこの三人には施させていただいています」

 

愛紗「なら、やはりお前が幻術で凪たちを操ってご主人様を―――」

 

カガミ「それは違います・・・。断じて・・・ね」

 

王座をぐるりと回っていたカガミはちょうど冥琳の前で立ち止まり、鼻と鼻が引っ付きそうになるぐらいまで顔を近づけ、こう言った。

 

そして、少しずつ顔を離しながら

 

カガミ「まぁ、そうはいっても今のこの三人が私の駒であることには変わりありません。回収させてもらいますね」

 

そう言ってカガミは再び右人差し指を立てて、凪のほうへと向ける。

 

すると、凪の後方の風景がゆがみ始めた。

 

そして、おおきな黒い穴が展開した。

 

その中に凪は一歩ずつ、ゆっくりとした足取りで進んでいった。

 

凪の目からは光がなく、ただ虚ろな表情を浮かべているだけだった。

 

華琳「凪!!待ちなさい!!!凪!!!」

 

華琳は凪の名を呼ぶも、凪はまるで反応せずにそのまま黒い闇の中へと消えていった。

 

続いて沙和、そして真桜と穴の中へと入っていった。

 

カガミ「さて、私の仕事はこれで終了です。では、そろそろ失礼させていただきます」

 

そう言うと再びカガミは王座の間の扉の方へと歩いていく。

 

そして、扉の前に着くと少しだけ振り返って

 

カガミ「あっ、そうそう。今までの戦闘はほんの小手調べ・・・明日の戦いであなた達のすべてを終わらせます」

 

そう一言、言い残してカガミは堂々と扉を開け、外へと出て行った。

 

王座の間に残された恋姫たちはただ、それを見送るしかできなかった・・・

 

 

 

END

 

 

 

 

あとがき

 

どうもです。

 

いかがだったでしょうか?

 

やっと仕事の方も落ち着いてきまして、書く方に時間がまわせそうです。

 

いや~、長かったです。ホントに今年はいろいろありました。

 

ですが、以前のように7日~10日間の定期更新はもう少し先になるかもです。

 

ストックが貯まり次第、定期更新に移行しますので

 

それまではどうかご容赦を・・・

 

それと予めここに明記させていただきますが

 

ここで書かれたトリックは私が一から考えた物ではありません。

 

某有名同人ゲームをプレイしている際に、ある一文を読んでピーンと閃きまして、このような形になりました。

 

別にこのトリックがその物語のタネの核心というわけでも、まるっきり同じ表現(ネタ)を使用しているというわけではないので、そのあたりは心配しないでください。

 

それとネタバレになるので詳しい表記は避けますが

 

まだ全て終わっていない

 

と言うことだけは明言しておきます。

 

あと、今回のお話で“北郷一刀失踪発覚”という言葉がかなり出てきます。

 

それは具体的にいつなのかと言いますと“月・詠が北郷一刀を起こしにいった時”です。

 

その時より前の出来事なのか、それ以降の出来事なのかはこれを基準にしていただけると分かりやすくなると思います

 

長々とあとがきを書いてしまい申し訳ありません。

 

 

 

では、次回のタイトルだけ予告として

 

次回 真・恋姫無双 黒天編 第10章 「黒天」 前編

 

この話の前に外伝を一つ投降することを考えています。

 

では、この辺で失礼します・・・

 


 
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