No.321658

外史異聞譚~反董卓連合篇・幕ノ十九/虎牢関編~

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2011-10-21 14:17:48 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2512   閲覧ユーザー数:1512

≪同時刻・虎牢関/劉玄徳視点≫

 

私達は本初さんのいなくなった本陣で、陛下の使者からの言葉を聞くことになりました

 

首実検を兼ねた、事実上の査問会です

 

一応、身分に関わらず随員は二名まで許可されるとの事で、各諸侯が人員選抜をしているみたいです

 

私は伯珪ちゃんにお願いして、星さんと雛里ちゃんを同行させてもらうようにしました

私は愛紗ちゃんと朱里ちゃんが同行です

鈴々ちゃんは残念だけどお留守番

どうせごはんもないし恐いだけの席だから、それが一番かな、と思います

これは私の考えではなく、朱里ちゃんと雛里ちゃんの希望で、特に随員の予定のなかった伯珪ちゃんは快諾してくれました

 

「その代わり、謁見後の評定には私も混ぜろよな」

 

こう言って笑う伯珪ちゃんはやっぱり優しいなあ、と思います

 

 

孟徳さんは妙才さんと仲康ちゃんを連れていく事にしたようです

元譲さんが最後まで騒いでいたそうですが、もしも間違って暴れられたら全部台無しになるからだそうです

 

元譲さんは

「そんな事はない!」

とか胸を張っていたそうですが、多分孟徳さんが頭を下げたりしてたらそれなりにあれになりそうなので、私から見てもお留守番が正解かな~、とか思っちゃいました

 

元譲さん、孟徳さん大好きだもんね~

 

 

あと、伯符さんは妹の仲謀さんと軍師の公謹さんを連れていくと言ってました

 

なんでも、今は天譴軍と名乗る漢中の人達を見ておきたいんだとか

 

本当は客将ということで資格はないんだそうですが、公謹さんがいうには

「袁術相手に伯符がゴネてな…

 麾下の豪族代表という事で纏めたらしい」

と溜息をついてました

 

やっぱり伯符さんは色々な意味で凄い人みたいです

 

 

ちょっと可哀想だったのは本初さんの部下だった季徳さんと叔敬さんで、本初さんの身体を仮葬してからもずっと泣きっぱなしです

 

これは孟徳さんから聞いたんですが、私達も反乱の時に会った仲業さんが間に入って、本初さんの首は無理だけど遺髪は、という事で色々と便宜を図ってくれたんだそうです

その遺髪は、今は本初さんが使ってた油に浸してあるんだそうですが、後で干して飾り紐にする、とふたりは言っているそうです

 

確かに悪い人じゃなかったもんね…

 

何かが違ってたらお友達になれたのかな?

 

首実検との事でふたりも謁見には参加します

 

 

あとは涼州の馬孟起さんとか、一応諸侯連合の代表になった袁公路さんとか、全部で100人くらいが謁見に赴くそうです

 

私は末席なのですが、華将軍に槍をつけた軍ということで、かなり席次を上げられるそうです

うう~…

許してもらえるといいなぁ…

 

せめて失礼な事をしたりドジを踏まないように気を付けなくちゃ…

 

 

今夜は色々な意味で緊張して眠れそうにありません

≪同時刻・虎牢関/曹孟徳視点≫

 

とりあえず色々とムカムカする事が多かったけれど、この連合もそろそろ終焉を迎える事が決まったようだ

 

何がムカついたかというと、袁術のところの張勲の態度とかなんだけど

 

確かに、麗羽がいなくなった今となっては、袁術が実質的には袁家の当主なのは理解もするんだけど、あそこまで露骨に麗羽に全てを押し付ける気満々というのを見せつけられると流石に不愉快にもなるってもんよね

 

ホント、あの場に文醜と顔良のふたりがいなくてよかったわよ…

 

麗羽から頼まれた手前、私が実務的な部分を引き受けて諸侯豪族を纏めるのは構わなかったんだけど、麗羽の兵は現在袁術の下に組み込まれている

 

これがまた表向きは立派な言い訳で、麗羽直属の将軍に兵権を預けておくのは陛下に対しての印象がよろしくないから、という、呆れるくらい真当なものだ

 

こうやって諸侯を牽制しつつ、しっかりその後の布石を打つ手腕は褒めてあげたいくらいだけどね

 

まあ、そこのところは今はどうでもいいというか、忘れてはあげないけれど後回しにしてもいい問題だわ

 

 

私にとってやはり問題なのは、明日の詮議の事

これに尽きる

 

私は元々、随員を認められると思っていなかったので桂花に後を任せて残った訳だけど、こうなるとあの子がいないのは少々痛いところだ

 

なにしろ、桂花は麗羽のところにいた時点でかなり積極的に宮中に人脈を作っていたらしく、色々なところに顔が利く

その人脈が有利に働いて、先の反乱で私の予定以上に地位があがったという事実もある

 

今回はそれらが生きてくるのは詮議の後に領地に戻ってからになると思っていたのだけれど、この調子だとすぐに桂花の力が必要になるかも知れない

宮中の位階という点だけでいうなら、春蘭もいるんだけれど、戦場ではこれ以上なく頼りになるあの子も、こういう事になると全く役に立たない

 

まあ、理性も常識も何もかもを犠牲にして得られたと言える天与の武才だけで十分ではあるのだけれど

 

ともかく、これらいくつかの状況と僅かな情報から推測できるのは、この連合を事実上瓦解させたのは、今は天の御使いと天譴軍を名乗る漢中の連中だろうという事

 

こんなえげつない方法は、あのバカ何進にいいように利用されていた董卓に取れる方法では決してない

董卓にこれだけの事ができるなら、宮中をもっと上手に泳ぎきっていただろうし、そもそも何進程度に利用されて涼州の片田舎からのこのこと出てきたはずがないからだ

 

そうであるならば、私が明日の詮議で本当に警戒しなければならないのは、陛下でも董卓でもなく、漢中の連中だという事になる

 

秋蘭がいるのは心強くはあるけれど、恐らく秋蘭では手に余るだろう

あの子はやはり武人であり将帥であって、そういった謀略策略に向いた思考はしていないからだ

これは知性や知識ではなく個性の問題なので、秋蘭にそれを求めるのが間違っている

 

こうなるとやはり、私と桂花だけでは足りないと痛感する

 

ひとつの局面、いや、桂花の才覚なら3つや4つの局面は支えてみせてくれるだろう

今回も私の代わりに陳留をまとめ、事後に備えさせるために先に戻した、という程度には、私は桂花の力量に信を置いている

しかし、多数の方面に対処し、より確実に物事を行うには複数の考え方が絶対に必要になる

 

人間の思考思索には必ずその個性からくる“穴”があり、それは私も桂花も同じなのだ

 

そうなれば、私と桂花、あと軍事的な面でいうなら秋蘭を含めてもたったの3人

 

絶対にその“穴”を突かれる時がやってくる

 

それが手遅れになる前に、どうにかしなければならない

 

 

この詮議そのものは既に詰みの状態で、私は負けた分の目をどう減らすか、ただこれだけを考えればいいだけだ

最悪を極めても階位が落ちるだけで、平民にまで落とされる事はまずない

私にそれが適用されるなら、他の諸侯豪族悉くを平民にしなければならず、それはさすがに不可能だからだ

転封は覚悟しなければならないだろうが、それとても自分が育てた兵馬まで奪われる事もまずありえない

なぜなら、地方に飛ばすという事は、難しい統治や荒れた場所を押し付けられるということで、兵馬を奪っては統治もままならなくなるからだ

 

恐らく袁術は河北に転封となり、汝南を奪われる事でその勢力を削られるだろう

 

後は、的になるとすれば劉備と公孫瓚

大半の諸侯は租税の増加か官位の下落程度で収まるはず

涼州には漢室の立場では手が出せず、恐らくは据え置きとなるだろう

 

あくまで常識的に考えればだ

 

 

漢中の天譴軍がどう動くか…

 

私は延々と思考を走らせる

 

 

普段は眠るのには邪魔で鬱陶しい持病の頭痛だが、今に限っては有難いといえるものになっていた

≪同時刻・虎牢関/馬伯瞻視点≫

 

私は眠れないでいる

 

お姉さまはぐーすか寝てるけど…

 

こういう時だけは、お姉さまの脳筋なところを見習いたいと思う

 

お姉さまはすっごく気楽に

「涼州に恥じるところは何もないんだから、堂々としてればいいんだよ!」

とか胸を張っていたけど、本当にそうなんだろうか?

 

私に限らず諸侯連合の最初の予想では、汜水関も虎牢関も激戦が予想されていた

 

まあ、結果としてどっちもある意味激戦だった訳なんだけど

 

 

私はどうしても嫌な予感が拭えないでいる

 

五胡との戦闘で挟撃にあって必死で逃げなきゃいけない時のような不安感

 

お姉さまを罠に嵌めたと思って笑いながらいってみたら叔母様だった時のあの恐怖感

 

 

本当にこのまま悠然と構えて、ただ単純に涼州の立場とそこに非がない事を主張するだけで大丈夫なんだろうか?

 

 

星空を眺めながらそんな不安を抱えている私に答えてくれる人は誰もいない

 

これはある意味涼州勢が取った方策のせいでもある

 

諸侯連合に同行を希望し、実際の戦闘を拒否するという立場をとった私達は、便宜上は叔母様の名代という事で冷遇はされなかったんだけど、必要以外では声もかからないという状態になっていたからだ

 

はっきりいってこれはお姉さまの杜撰さが原因だ

 

同じ事を言うにしても、もう少し言い方があるのに…

 

つくづくズボラで大雑把な従姉を持った自分が恨めしい

 

まあ、こまめに気がついてそつがないお姉さまなんて、気持ち悪いだけなんだけど……

 

 

ともかく、謁見の時には気を付けないといけない

 

お気楽極楽なお姉さまならともかく、私はそこまで楽観視してないし!

 

 

明日は何かあってもお姉さまに喋らせないようにしないといけないよね!

 

 

私はそう気合を入れ直して星空を見上げる

 

 

澄み切った星空がとても綺麗で、でも今の私にはとても恐ろしいものに感じられた


 
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