No.320725

外史異聞譚~反董卓連合篇・幕ノ参/汜水関編~

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2011-10-19 14:49:03 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2470   閲覧ユーザー数:1549

≪河北北平/公孫伯珪視点≫

 

 

本初のやつ、思い切ったなぁ…

 

私はひとり、机の前で頭を抱える

 

私は元々、あまり中央の事には興味がない

 

北方の騎馬民族なんかと小競り合いどころか頻繁にやりあっている状態だし、正直そんなことに構っていられる状態じゃないのもある

 

そりゃあ、自分でも特徴もなにもない田舎娘だってのはわかってるけどさ…

 

いかんいかん!

ここで落ち込んでどうする!

 

 

ともかくもこの檄文は悩みの種だ

 

本初がいるのが南皮ってこともあって、割とあいつの考え方は読める

 

実際はそんな悪い奴じゃなくて、ちょっと家柄を鼻にかけるところとあの笑い方さえ我慢すれば、まあまあ扱いやすいというか、付き合うのにそんなに困る奴でもない

 

なので不本意ながら、この檄文に至った本初の思考が、私には手に取るようにわかってしまう

 

確かに私がこういうのもなんだけど、涼州の田舎豪族が天の御使いなんていう如何わしいものと一緒になって宮廷にのさばってるというのが気に入らないのは本音だと思う

 

でも、これが困ったことなんだけど、今の本初の行動の原動力は“義憤”だと思うんだよ

 

家柄を鼻にかけるっていうのは、見方を変えれば自分の家や血筋に絶対の誇りを持ってるってことだ

そして袁家は三公を輩出してきた名門中の名門

当然、色々と滅茶苦茶をやっても、根っこのところでは漢室を最後に支えられるのは自分だっていう誇りがある

むしろ、宦官連中が邪魔をするから今みたいになっちまった、という可哀想な部分もあるんだよ

 

本初としては、董卓がやった宦官粛清なんかは、本当は自分がやりたかったところだろうし、多分色々と悔しいんだとも思う

 

その悔しさがあるところに、三公に匹敵する“相国”なんて位に董卓がついて、しかもどこの馬の骨とも知れない、怪しい占いに出てた“天の御使い”なんてのが漢室を支えるとか言い出した

 

私でも多分、名門の生まれだったら黙ってはいられないだろうな、と思うよ

 

 

そんな訳で割と同情に値するというか、そんな訳なんだけど

 

それと私がこの檄文に賛同できるか、というのは別の問題だ

 

心情的には与したいところではあるんだけど、本音を言えば静観したいってところ

 

仮にも相手は漢室ってことになると、やっぱり私の立場としては二の足を踏まざるを得ない

大義名分としては成り立っているんだけど、もしもをどうしても考えてしまう

 

はあ…

こんなだからダメなのかな…

 

田舎にいるのが災いして、洛陽の情報なんてさっぱり入ってこないのも問題なんだよなぁ…

 

 

結論としてはこの檄文に乗るしかないんだけどね

 

やっぱりどうしても悩んじゃうよなぁ

 

 

まあ、私にできるかどうかは判らないけど、なるべく上手く立ち回って、この機会に漢室がどうなっているのか確かめにいく、というのが私がとれる手段だもんな

 

この檄文が本当なら私にも感じる部分はあるし、仕方ないかな

 

 

はあ…

せめて子龍のやつが残ってくれてればなぁ………

≪涼州武威/馬孟起視点≫

 

正直なところを言えば、アタシら涼州にとって、この檄文はどうでもいい部分が多い

 

母様は

「漢室の臣として事の仔細を見極めるために連合に参加する」

と言っているけど、正直それどころじゃないんだよな

 

五胡の襲撃が頻発になってきて、アタシらとしてはそれどころじゃない、という気持ちが大きい

 

母様は、だからこそ今の漢室がどうなってるかを見極めなきゃいけないって言うんだけど、それなら素直に洛陽に出向けばいいと思うんだよな、アタシはさ

 

ただまあ、母様がそれを選べないのもアタシにも解る

 

母様は漢室の信も篤いしそれを裏切らない活躍をしてきたわけなんだけど、とにかく宮中の宦官やら役人やらが大嫌いで、基本的にそういう連中と関わりあおうとしなかった

そういう点だけだったら、喝采を贈るべき事をやってのけた董卓に多分母様は与したと思う

 

母様が気に入らなかったのは、多分“天の御使い”ってやつだ

 

そうでなくても訳の判らない宗教だかのせいで反乱が起きたばかりだっていうのに、漢室までそんなもんに毒されたのか、と思ったんじゃないかな

 

正直アタシも天の御使いなんて胡散臭いものはどうかと思う

 

多分、涼州諸侯もみんなそう感じたんだろう、母様が連合に与するというのに反対意見が全く出なかった

元々、董卓がその御使いとやらが出た漢中と仲がよく、交易とかをはじめていたのもあったと思う

 

今のアタシらにとって、天水の董卓に与する豪族はちょっとした鼻摘み者だ

 

 

そんな状態なんで、アタシらは気乗りしないながらも、真先に連合参加を決めたって訳

 

ただし、アタシは前線には出ないつもりだ

 

アタシら涼州が参加するのはあくまで“見極め”のためで、内実がどうなっているかっていうのがその建前だからだ

 

この中途半端具合はアタシの好みじゃないんだけど、蒲公英は気楽にこんな事を言ってる

 

「だって~、これで本気で戦ったりしたら、色々と大変だよ?」

 

そりゃ確かにそうなんだけどさ…

 

ただ、蒲公英は気になることを言っていた

 

「ん~…

 どうしてかなぁ…?

 なーんか姉様も叔母様もアタシも、何かを間違ってる気がするんだよね」

 

感のいい蒲公英の言葉なんで、アタシもそれを確認してみたんだけど

 

「なんていうかな~?

 上手に罠を仕掛けたはずなのに、なにか見落としてて自分がその罠にかかっちゃうような、そんな感じ?」

 

なんていう、さっぱり要領を得ない返事が帰ってきた

 

何かを間違ってる、か…

 

 

元々考えるのが苦手なアタシは、この事をよく考えずに忘れてしまうんだけど

 

後にアタシは蒲公英と一緒に、その事を心底後悔することになる

≪河北南皮/袁本初視点≫

 

日々続々と参加を表明する諸侯に、わたくしは満足していました

 

むしろこれは当然の事ですので、満足などというのは間違っているのですけれど

 

とりあえず、董卓とかいう田舎娘と天の御使いとかいう詐欺師に対して制裁を加える準備は、これでほぼ整いました

 

そもそも、このわたくしを差し置いて宦官共を排除し宮中の秩序を回復しました、などという専横が許されるはずもないのですわ

そういった栄誉ある役割は、この名門であるわ・た・く・し・の、役割なのですから

 

「お~っほっほっほっほっほっほ!

 ざまあごらんあそばせですわ董卓に天の御使いとやら!

 この袁本初が本気になれば、貴方達など塵芥にも等しいのだと思い知りなさい!!」

 

そして、見事陛下をお救いし、わたくしには名門の当主として相応しい、華麗で優雅で雄々しい官職が与えられる事でしょう!

具体的には三公を歴任ですとか、そういうのが宜しいですわね

 

まあ、これに参加してくださる諸侯の方々にも、わたくし程のものではありませんが、しっかりとした地位を差し上げないといけませんが、これは貴族の義務というものです

皆が納得できるよう、この袁本初が計らって差し上げなくてはいけませんわね

 

嗚呼、この完璧なるわたくしに相応しい、栄光に輝く未来が見えますわ!!

 

「姫ー、準備終わりましたよー」

 

「あら文醜さん、なんですの?」

 

折角わたくしが、素晴らしい未来を想像しておりましたのに、気が効かないですわね

 

「だから、集合地点に向けて出発する準備ですってば…

 アタシらが遅刻する訳にはいかないでしょ」

 

まあ確かにそうですわね

 

この諸侯連合の盟主として、わたくしは皆を出迎えて差し上げなくてはいけませんものね

 

「それで文醜さん

 いったいどれくらいの軍勢を用意しましたの?」

 

文醜さんはそれにしばし考え込んでいます

もしかして、忘れてしまったとかではありませんわよね?

 

「えっと…

 斗詩がいうには、親衛隊も含めて10万だったかな…?

 姫の従妹の公路のとこが5万とかいってたそうなんで、その倍はないと姫が怒るだろうからって…」

 

さすがは顔良さん、よく理解してらっしゃいますわね

わたくしがあのチンクシャと同程度の軍しか持たないなどありえませんもの

その倍はないとわたくしの沽券に関わりますからね

 

「素晴らしいですわ!

 わたくしは連合の盟主として、名門の長として、諸侯にその威風を示し誇らねばならない

 それをよく理解していますのね!

 おーっほっほっほっほっほっほっほっほ!!」

 

なんだか文醜さんがげんなりしているようですが、どうしましたのかしら

 

「いや、まあ…

 姫がそういうだろうってのは判ってたんだけど…」

 

「?

 なんですの?」

 

「いえ、こっちの事なんで気にしないでください」

 

おかしな文醜さんですわね

 

「ともかく、出陣の準備が整いましたんで、姫にはみんなに激を飛ばして欲しいって斗詩がいってました」

 

なるほど、それは急がなくてはいけませんわね

皆に華麗で優雅な雄々しい、名門に相応しい軍でいてもらうには、やっぱり私が直接声をかけねばなりませんものね

 

わたくしは文醜さんを伴って、顔良さんが待つ城門へと向かいます

 

 

「さあ!

 名門たるに相応しい、わたくしの栄光がこれからはじまりますわよ!!」


 
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