No.319896

G×T・海鳴の空に羽は舞う~四話目~

さん

四話目更新。

遅くなって申し訳ないです。

この作品はにじファンにも投稿しています。

2011-10-17 21:21:43 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:4837   閲覧ユーザー数:4604

 

 

「アルバイト?」

「はい。学費や生活費は何とかなるんですけどおこずかいなどはやっぱり自分で稼がないと」

 

横島は耕介にバイト先の相談をしていた。

生活費などはキーやんとサっちゃんが肩代わりしているが(どうやって人間界の金を得ているのかは不明)自分自身が使うこずかいなどは自分で稼ごうという訳だ。

元来横島はそう言う所は結構気真面目だった。

 

ちなみに今はさざなみ寮の中なので女性の姿である。

 

 

「そう言えば翠屋がバイトを募集してたな」

「翠屋?」

「高町さんのお母さんが経営している喫茶店です。ケーキやシュークリームなどの洋菓子が大人気のお店です」

 

横島の隣に座っていた那美が耕介の代わりに答える。

 

「お揚げのお菓子は無いの?」

「!! コンコンッ!!」

「…ある訳ないでしょ」

「ぶ~~」

「コン……」

 

ソファーに横たわり横島の膝にじゃれ付いていたタマモはそう言いながらむくれ、横島の頭に乗っていた久遠も不満そうに項垂れていた。

どうやら厳密な話し合いの結果、膝と頭を交替々(こうたいこうたい)で甘える事にした様だ。

 

「とにかく、翠屋は男手が少ないらしいから君には丁度いいんじゃないかな。男の姿で働ける訳だし」

「ありがとうございます、耕介さん!!」

 

横島は滝の様な涙を流しながら耕介の手を握りしめる。

寮内と学校では必然的に女性の姿で過ごさなくてはならないので男として働けるのは願ったり叶ったりの様だ。

 

「じゃあ、私が案内しますね」

「うん、お願いね那美ちゃん」

 

 

そうして那美の案内で横島とオマケに付いて来るタマモと久遠は翠屋へと歩いて行く。

 

そこで起こる騒動を知る由も無く。

 

 

第四話「対決!お兄ちゃんvsお兄ちゃんなの」

 

 

 

「ここが翠屋です」

「へー、雰囲気のいい店だな」

 

男の姿に戻った横島は那美の案内で翠屋までやって来た。

タマモと久遠はと言うと…

 

「油揚げが無いなら別にどうでもいい」

「コン」

 

拘るなーと、苦笑いを浮かべながらも横島達は店の中に入って行く。

 

「こんにちはー」

「ちわっス」

 

 

「はーい。あら、那美ちゃんじゃない。いらっしゃい」

「こんにちは、桃子さん」

 

 

出迎えて来たのは翠屋のオーナー、高町桃子。

見た目も若く、美人なのだが体から溢れる様な母親オーラにさすがの横島も飛びかかる様な事はしなかった。

 

那美も恭也となのはには出会ったばかりだが、さざなみ寮の皆とよく食べに来ていて桃子とは顔見知りだった。

 

「あら那美ちゃん、その人は?…もしかして良い人?」

 

桃子はニヤニヤしながら那美に聞いて来る。

 

「ち、違いますよ。横島忠夫さん、最近知り合った人です。バイトを捜していると言うので案内して来たんです。たしか男手が欲しいと言ってましたよね」

「よろしく頼みます」

 

「う~ん」

 

桃子は値踏みをするように横島を見つめる。

 

「確かに男手は欲しいけど…、横島君だっけ、どんな事が出来る?」

「自分で言うのも何ですけど、手先は結構器用な方だから大抵の事は出来るつもりっス」

「ふ~ん。そっちの娘は?」

 

「私の名前はタマモ、ヨコシマの付き添いよ。まあ、簡単な手伝い位なら出来るけど」

「コン、コーン!」

 

自分も手伝いがしたいのか久遠はタマモの頭の上で鳴くがそれを見た桃子は申し訳なさそうに語りかける。

 

「ごめんね。タマモちゃんはいいけどさすがに動物をお店に出す訳には……」

「こ~~ん……」

 

そう言われ、久遠は残念そうに項垂れる。

人間形態にはなれるのだが、それは那美達に固く禁じられているので余計に残念そうだった。

 

そんな久遠の頭を優しく撫でてやると桃子は横島に向き直る。

 

「じゃあ、試しにこれらのデコレーションを真似して見てくれる?」

 

桃子は商品棚から取り出したエクレアやケーキを並べてその通りにやって見せてくれと言う。

 

「了解っス」

 

横島はそれらを色んな角度から観察してからエクレアやケーキにデコレートションを施して行く。

 

 

 

……それを桃子やアシスタントコックの松尾達は呆然としながら見つめている。

 

何しろ行き成りやらせたにも拘らず見事なまでの完成度の上、明らかに横島のやった方が美味しそうに見えるのだから。

 

 

「お、驚いたわね」

「凄いわ、横島君……」

 

「じゃあ、OKっスか?」

 

「そうね、此処まで出来るのなら逆にお願いしたいほどだわ」

 

そんな時、店の中に一人の女の子が元気そうに駆けこんで来た。

 

「お母さーーん、ただいまーー」

「あら、なのは。お帰りなさい」

 

駆けこんで来たのは学校帰りの高町なのは、桃子の娘である。

 

「あれ?確かなのはちゃんだっけ」

「ふふふ、こんにちはなのはちゃん」

 

「あ、那美お姉さんに…、忠夫お兄ちゃんだ」

 

横島と那美の姿を見たなのはは、笑顔で駆け寄って行く、

 

「く~~ん♪」

「あっ、くーちゃんも居たんだ」

 

久遠はタマモの頭の上からなのはの腕の中に飛び移り甘えている」

 

「あら?なのはは横島くんと知り合いなの」

「うん、忠夫お兄ちゃんのおかげでくーちゃんと仲良しになれたんだよ」

 

実際にあれからなのはは何度も久遠に会いに八束神社に行き、今ではすっかり仲良しなのである。

 

「そうだったの。じゃあ、横島くんには何かお礼をしなくちゃね」

「お礼……、ですか?」

「ええ、私はお店が忙しいし、兄の恭也と姉の美由希も何かと用事があって中々なのはの相手が出来ないでいたの。この所なのはが嬉しそうにしていたのはこんな可愛いお友達が出来たからなのね」

 

桃子はそう言うと久遠の頭を優しく撫でた。

 

「うん、くーちゃんはとても素敵なお友達だよ♪」

「こーーん♪」

 

「だから横島くんにはとても感謝してるのよ。そうだ、今日お夕飯を御馳走してあげるというのはどうかしら?」

「ナイスアイデアだよ、お母さん。なのはもお手伝いするね」

「お願いね、なのは。那美ちゃんと…、タマモちゃんだったわね、貴女達もいらっしゃい」

「いいんですか?」

「お揚げ、ある?」

「こん、こーん」

「お前達はまた……」

 

横島は呆れかえる様に頭を掻くが桃子はそんなタマモと久遠を微笑ましそうに見つめる。

 

「じゃあ、お稲荷さんにお揚げを使ったお料理をたくさん作りましょうね」

「ほんと?ありがとう桃子♪」

「こーん、こーーん♪」

 

横島と那美はそんな二人を窘めようとするが肝心の桃子が何も気にしてない様なのであえて黙っていた。

 

そして横島達は夕食を高町家で御馳走になると寮に連絡し、桃子も店を早終いして横島達を連れて家へと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「このおさるーーーっ!!」

「何だと、このカメがっ!!」

 

 

高町家の中庭では二人の少女達が恒例の対決(大ゲンカ)をしていた。

 

城島晶(じょうしまあきら)と鳳蓮飛(ふぉう れんふぇい)、通称レン。

自分を師匠と呼ぶ二人の対決を高町恭也は盆栽の世話をしながら眺めている。

 

 

盆栽が並んでいる棚には一つだけ隙間があり、恭也はその隙間を見ると「はぁ~~」と重い溜息を吐くのだった。

 

 

「…お師匠、また溜息吐いとるで」

「仕方ないだろ、師匠があれだけ楽しみにしていた松の盆栽が買えなくなったんだから」

 

 

楽しみにしていた松の盆栽、それは恭也が金を貯めてようやく買えるかと思ってた矢先に学校で見知らぬ女性に言い寄られた事で恋人の忍の怒りを買い、彼女の趣味である機械関係の部品などを買わされた事で目当てだった盆栽が買えなくなったのだった。

 

 

 

「ただいまーーっ!!」

 

「お、なのちゃん帰って来たで」

「なら勝負は食後に持ち越しだな」

 

 

 

そして二人はなのはを出迎えに玄関に行くが其処にはなのはの他に、桃子と見知らぬ顔があった。

 

「桃子さん、今日は早いんですね」

「ええ、今日はお客さんを連れて来たから」

「お客って…、その人達?」

 

 

晶とレンの目線の先に居るのは横島と那美にタマモ、そして久遠。

 

「そうだよ、忠夫お兄ちゃんに那美お姉さん、タマモお姉ちゃん、そしてお友達のくーちゃん」

「ども、おじゃましまーす」

「お邪魔します」

「こんばんは」

「こーーん」

 

挨拶していく横島達だが、其処に恭也もやって来た。

 

「なのは、お客さんか?……お前は…」

 

 

恭也は横島を見ると途端に怪訝な表情になる。

そして傍にはあの殺気を放っていたタマモも居るのだから余計に怪しんでいる。

 

 

「何をしに来た?」

「もー、お兄ちゃん。そんな事言っちゃダメだよ」

「そうよ恭也。忠夫君のおかげでなのはにお友達が出来たんだからそのお礼に食事に招待したのよ」

 

そんな時、恭也を見ていたタマモが口を開いた。

 

「結構強そうだけどヨコシマ程じゃないわね」

「こらタマモ、余計な事は言うな」

 

「な、何だと!?」

「お師匠がこんなのほほんとした兄ちゃんより弱い言うんかい!!」

 

「ええ、そうよ」

 

そう言われて黙っていられないのか、弟子の二人は攻める様に聞き返すがタマモはあっさりと言い返す。

 

「そいつは聞き捨てならないな。ならどれだけ強いのか試させてもらおうか」

「恭ちゃん、止めといた方が。ほら、なのはのお客さんだし…」

 

親指で道場の方を指差し、横島を挑発する恭也を美由希は止めさせようとする。

もっともこれは恭也を心配しての事では無く、なのはの客でもある横島に怪我をさせまいとしての事だ。

彼女も横島より恭也の方が強いと信じて疑って無い。

 

「ほら見ろ、コイツも妙にその気になってるやないか」

 

横島はそう言いながら勝負を無効にするように仕向けようとするが、恭也が放った言葉が横島の感情に火を付けた。

 

「ふっ、まあ止めておこう。御神の剣は護る為にある剣術だ。そんな逃げ腰の臆病者の相手をしても時間の無駄だからな」

 

 

ピクッ!

 

“逃げ腰の臆病者”

そう言われた横島の目に怒りの炎か灯った、だがそれだけならまだ我慢も出来た。確かにあの時まではそうだったのだから。

 

だが、次の言葉が起爆剤になった。

 

 

「そんな事じゃ誰も護る事なんか出来ないだろ」

 

 

横島はズカズカと歩き出し、恭也の前に出ると

 

「何処で闘(や)る?」

 

と、恭也を凍るような視線で射ぬき、恭也もまた、

 

「面白い。ついて来い、こっちだ」

 

と、同じような視線で見返す。

 

 

 

 

 

 

「あわわ、お兄ちゃんも忠夫お兄ちゃんもどうしちゃったの?二人とも何だか怖いよ」

 

 

場の雰囲気に怯えるなのはにタマモも凍りつく様な目で答える。

 

 

「あの恭也って奴はヨコシマの決して触れちゃいけない傷に触れちゃったのよ」

 

那美や美由希達はその目を見て何も言えずにいた。

 

 

「じゃあ私は食事の準備をするけど皆はどうする?」

 

桃子はそんな空気をどこ吹く風と言う様に吹き流し、自分は食事の準備をすると言って来た。

 

「うちはお師匠の勝負を見たいです」

「俺も」

 

「じゃあ、私がお手伝いするよ」

「うん、なのはお願いね。貴女達は恭也達の勝負を見学して来なさい」

 

「す、すみません。御馳走になるのにお手伝いしなけりゃいけない筈なんですけど、横島さんの闘い方に興味があって」

 

「いいのよ、誘ったのはこっちなんだから。じゃあなのは、行きましょう」

「うん」

 

 

台所に向かう二人を見送り、道場に行くと既に恭也と横島は勝負を始めていた。

 

 

横島は木刀で、恭也は二本の小太刀の木刀で、其々手加減無しといった感じだった

 

美由希達は邪魔にならない様に道場の隅に正座して勝負の行方を見守っていた。

 

 

 

 

そんな中、二人の心境は………

 

 

 

 

 

――気にいらねえ…気にいらねえ!!

何だコイツは?何なんだ、コイツのこの何もかもを見通すような目は!?

貴様なんかに何が解る、俺がどんな思いで闘ってきたか、何が解るっていうんだ!!

父さんが殺されて、御神の剣を継ぐ為にどれだけの苦難の道を歩いて来たか…

なのにこんな目で俺を見やがって……

 

叩きのめしてやる!!

 

 

 

 

 

 

 

――気にいらねえ…気にいらねえ!!

何だコイツは?何なんだコイツの闇に囚われた暗い目は!?

あの時の俺と同じ目じゃねえか!!

力のみに囚われた、力だけを求める…力だけを見ている目。

周りから注がれている想いに気付きもしねえ盲目の目。

丁度いい、コイツがあの時の俺と同じだっていうんなら……

 

叩き直してやる!!

 

 

 

 

 

目標だった父を亡くした恭也、

恋人だったルシオラを亡くした横島、

 

だが、二人の強さへの求め方には明確な違いがあった。

 

 

 

 

 

数十合打ち合った頃恭也は、そして周りの皆も気付き始めた。

受け身だった横島が徐々に恭也を圧倒し始めた事に。

 

 

「そろそろ頃合いかしらね」

 

タマモはそう呟くと道場の壁に掛けてある二本の小太刀の木刀を手に取ると横島に向けて放り投げる。

 

「ヨコシマ」

「おう!!」

 

横島は後ろを振り向く事無く手にしていた木刀をタマモに放り投げてから小太刀を受け取り、そしてそのまま恭也に切りかかる。

 

……御神流剣術で。

 

 

 

 

御神流で打ちかかって来る横島に対して恭也の怒りはさらに膨れ上がる。

 

「なっ!? ば、馬鹿にしやがって……。舐めるのもいい加減にしやがれ!!」

「そいつは……どうかなっ!!」

 

それが横島の狙いだと気付く事無く。

 

 

 

 

 

 

そしてさらに数合打ち合っていると逆に恭也が横島に討ち負かされ始めていた。

 

 

 

「う、嘘やろ……」

「お、お、お師匠が…押されとる」

 

晶とレンは信じられないといった表情でそれを見ている。

そしてそれ以上の驚愕の表情をしているのが美由希である。

 

当然であろう、何年も恭也にしごかれた自分より遥かに完成された御神の剣を今日初めて恭也と打ち合った横島が振るっているのだから。

 

 

 

 

横島はGS世界において、反デタントを掲げる過激派神魔族と何度も闘っていて、実戦経験や霊的戦闘力なら恭也を上回る。

だが、それ以外の純粋な剣術だけならば恭也の方が横島を遥かに上回り、ましてや御神の剣術のみなら横島が恭也に勝てる筈が無かった。

 

しかし恭也は初めから横島を舐めてかかり本気を出さずにいて、それ故に恭也は、勝てる機会を自ら棒に振っていたのだった。

 

そして、自分の剣が上手くいなされた挙句に見よう見まねで身に付けた御神の剣を振るわれた事で怒りに我を忘れ実力を出し切れずにいた。

 

それに横島は妙神山での修行で小竜姫や猿神との修行を受けている。

その小竜姫達の動きに慣れている横島にしてみれば恭也の剣術から見とり稽古で御神の剣術を会得するのはそれほど難しい事では無かった。

 

 

「くっ!こうなれば……」

 

そして恭也は奥の手である神速を発動させ横島に斬りかかる。

 

「これで終わりだ!!」

 

タマモ以外の誰の目にも神速で消え去った恭也が勝利を掴み取ると思っていた。

 

しかし、横島の頭と胴体を打ち抜こうと恭也が放った二本の小太刀は、まるで待ち構えていたかの様に其処に横島が構えていた小太刀に阻まれる。

 

「「「「なっ!?」」」」

 

美由希達はそれを信じられないかのように目を見張っていたがタマモはまるで当たり前の様に整然としていた。

 

 

「な、何故だ?……」

「いくら速く動いた所で狙った場所に殺気が集中していれば「今から其処に打ち込むぞ」と宣言しているみたいなもんだ。後はその場所を防御していればそちらから勝手に撃ち込んでくれるという訳だ」

 

そして横島は自分の奥の手であった「神速」での一撃を防がれ、呆然としている恭也の首筋に小太刀を宛がう。

 

絶対の急所である首に攻撃を受けた事でさすがの恭也も負けを認める他は無かった。

 

 

「……俺の…、負けだ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何が敗因だったか解る?」

「敗因か……、横島の実力を侮っていた事だろうな」

 

タマモは項垂れたままの恭也に尋ね、恭也も自分の敗因をそう判断した。

 

「侮っていたというより見下し過ぎていた所ね。言っとくけど最初から横島の事を認めて真剣に闘っていたら勝っていたのはアンタの方よ」

「そ、そうなのタマモちゃん?」

 

見下す事無く真剣に闘っていたら恭也が勝っていたと聞き、美由希は驚きながら聞き返す。

 

「もっとも、純粋な剣術のみでの話だけどね。ヨコシマも剣術はかなり使えるけど剣術だけならコイツの方が圧倒的に実力は上だったわ。だけどヨコシマの事を見下して本気を出さずにいたから勝つどころか逆に剣術を盗まれる事になった訳よ」

「……俺もまだまだ修行不足だった訳だ」

「そう言う事ね。ま、取り返しがつかなくなる前に気付く事が出来て良かったじゃない」

「はははは、まったくだ。(結局、俺は“あの時”から成長してないって事か)」

 

「そして敗因はもう一つ、ヨコシマを本気で怒らせた事。触れてはいけない傷に触れてね」

「触れてはいけない傷?」

 

恭也はそう言われ、タマモを見てみるとその悲しみに満ちた瞳から目を離せないでいた。

 

 

「臭いから解るわ、アンタは何か大切な物を護れないでいたのね」

「……ああ…」

「でもそれはヨコシマも同じなのよ。ヨコシマも大切な人を護れなかった、私が言えるのは此処まで」

「なっ……」

 

恭也は愕然として横島に目をやる。

横島もその目を軽く笑いながら見返す。

 

そして何故此処まで横島に突っかかっていたのかようやく理解した。

 

“同族嫌悪”

 

何処となく同じような心を持っていた、同じような闇を持っていた相手が気にいらなかっただけなのだ。

 

お互いに……

 

 

 

 

「じゃあ、勝負が終わった事だしそろそろ食事にしましょうか」

 

其処に食事の用意を終えた桃子となのはがやって来た。

 

「す、すみません桃子さん」

「うちらも手伝わないけんかったのに」

「いいのよ、どうせ手伝ってても恭也の事が心配で手につかなかったでしょ」

 

桃子は笑いながらそう言うと晶とレンの二人は赤くなって俯いた。

 

「桃子さんは師匠が心配じゃ無かったんですか?」

「ん~~?別に」

「別にって…何で?」

「勝てば勝ったでいいし、負ければ負けたで何か得る物はあったでしょ。殺し合いをしてたわけでもないんだから」

 

桃子が恭也を見ながらそう言うと恭也も「ああ」と言いながら頷いた。

その表情は何処となく爽やかで晶達はその顔に見惚れていた。

 

 

 

「まあ、それはそれとして。ヨコシマ、これからお世話になるんだしあの事も教えといた方が良いんじゃない?」

「あ、それは私もそう思います。さざなみ寮や学校の事もどうせ隠し切れないんだし」

「ん~~、やっぱりそうか。仕方ねーなー」

「あの事って何?」

「何と言うか、ややっこしいけど俺にはもう一つ別の本当の姿があるんスよ」

「もう一つの別の本当の姿???」

 

桃子にそう答えると、横島はポケットの中で文珠に『開』と刻んで封印具のブレスレットにはめ込む。

 

そして横島は神魔人形態へとその姿を変える。

HGSの事がある為、翼は魔力を調整して隠したままにしておき、声も文珠を上手く隠しながら使い変えておく。

 

そうして横島は自分が別の世界から来た事を話し、霊波刀などを見せて霊能力などがある事、しばらくはこの世界で過ごす事などを説明した。

 

 

「と、まあ他にも色々話せない事もあるけど、さざなみ寮に居る時や学校に通う時はこっちの女の姿で過ごす事になるので改めてよろしく」

 

晶にレン、美由希になのは、そして桃子は女性の姿になった横島を見て唖然としていた。

何しろ、さっきまで男だったのに今は見惚れる様な美少女なのだから。

 

(余談ではあるが、その時桃子の口元がニヤリと軽く笑いを浮かべたのに気付いたのはタマモだけであった)

 

 

恭也はと言うと………

 

 

「は、ははは……ははハハハHAHAHAHA………、き…」

「き、恭ちゃん?」

 

「貴様だったのかぁーーーーーっ!!」

 

おもむろに立ち上がった恭也は横島を睨みつけながら叫び、何時の間にか手にしていた小太刀(真剣)で切りかかって行く。

当然であろう、忍を怒らせた原因の女が横島であったのだから。

 

「きゃああーーーっ!!」

 

横島はそれをよけながら道場から逃げ出して中庭へと飛び出し、『封』の文珠で男の姿に戻る。

 

「行き成り何するんじゃ!!」

「やかましい!! 貴様の…貴様のせいで、貴様のせいでぇーーーーーっ!!」

 

問答無用と言わんばかりに恭也は横島に襲い掛かる。

 

「俺の盆栽を返せーーーーーっ!!」

「何のこっちゃい!?」

 

 

二本の小太刀から繰り出される剣撃を横島は先ほどまでとはまるで違うオーバーアクションで次々にかわして行く。

 

「よ、は、た、と、何の、こりゃさと、ほい」

 

 

「な、何だあれ?」

「何であんな出鱈目な動きでお師匠の攻撃をかわせるんや?」

「忠夫お兄ちゃん、すごーい」

 

なのはは何故か、横島の方を応援している様だ。

 

 

「かわすんじゃねえーーーっ!! 大人しく切られろ」

「無茶言うな、死んでまうやないか!!」

「殺すと言ってるんだ!!」

「ヤバい、あの目は本気だ。こうなれば……」

 

 

横島は霊波刀を出して恭也へと駆け出す。

 

「蝶の様に舞いーーーーっ!」

「やっとその気になったか」

 

恭也は駆けて来る横島を迎え撃とうと小太刀を構えるが…

 

横島は恭也の直前で反転、勢いよく逃げ出す。

 

「ゴキブリの様に逃げーーーるっ!」

 

 

だああああーーーーーーーっ!!

 

恭也を含め、見物していたタマモ以外の全員はそれを見てずっこける。

 

 

「ふ、ふざけやがって……#」

 

湧きあがる怒りを隠そうともしない恭也が立ちあがった瞬間。

 

「と、見せかけて蜂の様に刺ーーす!」

 

何時の間に回り込んだのか、横島が恭也の後ろ頭を霊波ハリセンで思いっきりはたく。

 

スパァーーーーンッ

 

「ぐはあっ」

「そんでもって、ゴキブリの様に逃げーーる!」

「き、貴様ぁーーっ!!」

「わははははははっ!正義は勝ぁーーつ!」

「何が正義だ、正々堂々真面目に闘え!!」

「勝てば官軍、負ければ賊軍、所詮負け犬の遠吠えじゃーー!」

「そのダミ声、首を切り落として消してやる!!」

 

そう言って小太刀を振り上げると。

 

「いやーん、恭也くん怖ーい」

 

女の姿で瞳を潤ませながら恭也を見上げる横島。

 

「ぐっ…」

「隙あり!」

 

すぐさま男に戻り、霊波ハリセンでアッパーカット。そして、逃亡。

 

「よ、横島…許さぁーーーーん!!」

 

「ほほほほほ、捕まえてごらーん♪」

 

逃げながら女の姿で挑発、もの凄い文珠の無駄使いである。

 

 

 

 

 

「き、恭ちゃぁ~~ん…」

 

憧れの兄のあまりにも崩れっぷりの闘いに、涙目の美由希であった。

 

そしてそれは、恭也の弟子の二人も同様である。

 

「な、何なんや、あの兄ちゃんは?」

「さっきまでのあの強さは何だったんだよ?」

 

その疑問に答えるのはタマモ。

 

「あ~、何と言うか…。“アレ”がヨコシマの本来の闘い方なのよ」

「「あれが!?」」

 

 

本来の闘い方、そう言われてもアレの何処が闘いなのか?

そう突っ込みたくてたまらない二人であった。

 

 

 

 

「サイキック猫だまし!!」

「がはあっ!目がぁーー!」

 

スパーーンッ

 

道場裏から閃光が走り、ハリセンの音が鳴り響く。

 

 

 

「ねえ、タマモちゃん」

「何?」

「アレが横島さんの闘い方って言ったよね」

「そうだけど」

「じゃあ、もし恭ちゃんが最初から真面目に闘っていたら」

「当然ヨコシマもあの戦法を使ってたって事ね」

「つまり……」

「どの道アイツは負けてたでしょうね」

「恭ちゃぁ~~~ん」

 

 

美由希は不憫な兄に一人涙した。

 

 

 

 

 

数日後……

 

 

 

「いらっしゃいませー」

 

 

翠屋は新しく入ったアルバイト店員目当ての“男性客”で大繁盛していたとさ。

横島の女性形体を見た桃子はアルバイトの条件として女性の姿で接客をするように仕向けたらしい。

 

「うう~~、貴重な男でいられる時間が~~~」

 

 

そんな涙ぐむ姿を見て、

 

「ざまあ見やがれ」

 

そう、ほくそ笑む恭也がいたらしい。

 

 

続く。

 

 

 

あとがき

 

 

やっと完成、難産でした。

 

 

前半の闘い、横島が本気で怒ればこれくらいの闘いは見せるんじゃないかと私は思っています。

丁稚時代からも潜在能力や才能だけはありましたからね。

 

そして後半のギャグバージョン、やはりこの闘い方は外せない。

これこそ僕等の横島忠夫。

 


 
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