No.296069

KISS

ちび太さん

○椎華小説です。

2011-09-08 23:58:08 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:797   閲覧ユーザー数:793

(どうしてこうなったんだろう…?)

 

 華は思わず苦笑いをした。

 たった数分前まで華は園の掃除を行っていたのだ。いつもの様に。

 それが、椎名の「蒼井華ぁぁぁ!!」の叫びと同時に担がれ、何処かへ連れ去られてしまった。多分、ここは園の隅の方にある雑木林。そこで何故か華は椎名に抱きつかれたまま10分近くも経っていた。

「園長、離して下さい」とお願いしても、うんともすんとも反応しない。

 まるで、小さな子供が大切なぬいぐるみを抱きかかえる様にして離してくれないのだ。

 華は諦めたのか、小さくため息をついて上を見上げた。木々が幾つも重なり、光を遮っている。日に当たっている所よりは当たり前だが涼しいし、良い休憩になる。時々吹く風が汗ばんだ身体を冷やし、髪や椎名のふわふわな体毛を掠める。ちょっと、くすぐったかった。

 

「えーんちょ、えんちょー」

 

 やはり、返事は無かった。

華は身体を少しよじって、椎名の表情を見ようとしたが、絶妙な角度で表情を見る事が出来ない。思いきって身体を動かし、椎名と向かい合わせになる様に膝立ちをしてみた。すると椎名は、顔を見られたくないのか理由は分からないが、華の胸に顔を埋めてきた。

 

「え、園長……!?」

 

 さすがの華もこの行動に戸惑いを隠せず、椎名を引き剥がそうと肩を力強く押したが、椎名の力が想像以上に強いのか、ビクともしない。

 又もや深いため息をつき、既に諦めモードに入っていた。

ビクともしない椎名を見下ろす。自分の身体に埋まっているせいで顔がいまだに見えない。

微かに身体が震えている様にも見えた。その姿を見ていると、段々と恥ずかしさも何処かに吹っ飛んでしまった。その代りにある感情が現れる。

 

――守ってあげたい、と。

 

 華が目覚めた一種の母性本能だ。

 怖い夢を見て眠れなくなってしまった子供の様に何かに脅えている椎名を何故か愛おしく、それ以上に守ってあげたいと思うようになった。

 ふと、手が椎名の頭を撫でる。優しく、あやす様に何度も何度も撫でた。

そして、頭にキスを落とす。触れるだけの。母親が子供におやすみのキスをするように。

椎名は驚いた様に顔を上げた。そして、華の顔をじっと見つめる。

華は「やらかした!」と思わず苦笑いになった。「嫌でした…?」

すると椎名は思いも知らない返事が返ってきた。

 

「もっと……して欲しい」

 

 面喰った様に華は目を丸くした。まさか、あの園長が。よっぽどの事らしい。

 力が抜けた様に口元を緩めてフッと笑った華は、何かスイッチが入った様に椎名に沢山のキスを落とす。

 額に、鼻先に、右頬に、瞼に……。

 椎名もそれに応える様に華にも自分がして貰っている事と同じ事をした。

 額に、華先に、左頬に、瞼に、耳たぶ……。

 お互いにキスをしていると、目が合った。椎名は「くすぐったいぞ」と笑う。すると華は椎名の両頬を優しく包み、そっと微笑んだ。

 

「ほら、元通り」

「……あぁ、そうじゃな」

 

 自分でも気づいていなかったのか、椎名はその言葉で自分が笑っている事に気付き、椎名も華の両頬を包んで微笑んだ。

 椎名にとって魔法の様だった。さっきまであんなにも不安だったのに、華がくれた一つの行為で今まで心に重く積もっていたものが一気に吹き飛んだのだ。

 笑い合っていた二人は見つめ合い、どちらともなくキスをする。

 不安と言うものは無くなって、今は胸に暖かな温もりを互いに感じていた。

 

 それ以降、椎名は何かと不安を感じると華を連れ出し、二人っきりになる事が多くなった。その度に、不安をかき消すようにキスをする。けして、滅多に唇にキスする事はなくても二人でいる、あやすようにキスをする、それだけでお互いの気持ちは満たされる。

 

 


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