No.292527

対魔征伐係.37「廃工場捜索①」

シンヤさん

1P目に本文、2P目にその話に出てきた、関するものの設定紹介、小話など。あれば読者からの質問の答えなんかも。質問をする場合はお気軽に。回答は次回の2P目になります。質問内容は3サイズとか趣味とか好きな食べ物とか、設定に記載されていないもの、或いは紹介自体されていないものなど何でもOKです。但し、有耶無耶にしたり、今はネタバレ的な意味で回答できないよ!となる場合もあることをご了承ください。

2011-09-04 00:30:35 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3077   閲覧ユーザー数:348

-PM10:20・土野市某所-

 

 

「ここか・・・」

 

真司、雪菜、恵理佳の三人は日が沈んだ頃合を見て、とある廃工場前に来ていた。

至るところが薄汚れ、錆び付いており、長い間放置されているのが容易に想像できた。

入り口の門はしっかりと鎖で施錠されており、一般人の侵入を拒んでいる。

 

「どうやって入るの・・・?」

 

工場の正面入り口に居るこの場から周りを見回してみても他に入れそうな場所はない。

こういった現場には来たことがない恵理佳が真司に尋ねる。

 

「んー?入るって言うか・・・よじ登る?」

「・・・」

 

言うが早いか真司はさっさっと手馴れた手つきで硬く閉ざされた入り口横にある壁を登り始めた。

 

「これなら中村さんたちにも教えておいた方が良かったんじゃ・・・?」

「言ったろ?まだここに災忌が居るかどうか分からないし、もしも本当に居れば倒してから連絡入れればいいさ」

 

恵理佳も雪菜に続き壁を登り、敷地内へ進入する。

 

「ねぇしんじぃ~、あの娘の話って本当なのかなぁ?」

「それを確かめるために来たんだろ?」

 

いつもと違い、若干乗り気ではない雪菜がふてくされ気味に呟く。

 

 

-昨晩・真司の部屋-

 

 

「災忌が居る・・・?」

『そうそう、この間廃工場の付近を散歩してたら偶然見かけたのよ』

 

バイトも終わり、部屋へと帰ってきた真司に久しぶりの客が待っていた。

夕飯がまだだったのでコンビニで買って来た夕飯を食べつつ話を聞く。

 

「・・・それで・・・俺に退治してほしいと?」

『そう、だってそれが仕事なんでしょ~?』

「まぁ・・・そうなんだが・・・何でお前、成仏してないんだ・・・?」

『・・・まぁ、その、色々あってね?』

 

待っていた客とは以前出会った幽霊の凛香だった。

最後に見たのは修羅場だったので、別れ際も曖昧だったのだが・・・よもや再び会うことになるとは思ってもいなかった真司だった。

 

「・・・ま、いいけどさ・・・明日の日が沈んでからにでも調べに行ってやるよ」

『ありがと~♪これで夜の散歩も安心して出来るわ~』

 

正直面倒な話しだったが、コレも仕事なので断るわけにもいかなかった。

信憑性は謎だが、調査、捜索も仕事の内なのだ。

 

『ちゃんと無事退治してくれたらお礼もするから』

「・・・お礼・・・?」

 

幽霊にお礼と言われても現金などはありえないし、何があるのかと疑問だったが、問い詰める前に凛香は壁をすり抜け帰ってしまった。

 

「・・・頼むだけ頼んで・・・良い性格だな・・・」

 

この分では信憑性もだいぶ薄いが、一度引き受けてしまったので後には引けなかった。

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

「ここが怪しいね」

 

扉の前で雪菜が立ち止まる。

 

「・・・ここか」

 

夜の廃工場を捜索し始め、数十分。

リサイクルに出したのか移動したのか、工場内部は閑散としており、機械や工具などは見当たらなかった。

所々にある壁の落書きや割れた窓ガラスを見ると、過去にも誰かがここに侵入したようだ。

そうして三人はひとつの大きな扉の前で立ち止まった。

扉の上にある古ぼけたプレートにはうっすらと第三作業室と書かれている。

今現在は建物の最上階と思われる三階に居る。

下の階にも大きな部屋が二つあったことを思い出すと、ここがその三つ目なのだろう。

災忌が居るとすれば戦いやすく、好都合な場所だった。

 

 

ぎぃ・・・

 

 

埃塗れになっていたドアノブを回し、軋む扉を開けていく。

 

「・・・部屋の奥、多分居る」

「・・・遠すぎて見えないな・・・」

 

部屋の中はやはり階下にあった部屋と同じくとても広い空間だった。

学校の体育館ほどと言っても過言ではない。

床の痕などを見れば大きな機材があったのだろう。

今現在は何も視界をさえぎるものは無く、閑散としている。

だが、月明かりだけが頼りの夜の室内。

部屋の入り口からではとてもじゃないが奥に居る何かを見ることは不可能だった。

 

「・・・恵理佳はここで待ってろ」

「ん、分かった」

 

入り口近くというのも危ないので、しばらく中へ歩み進め、回りに程よく視界と遮るものがない場所に恵理佳を待たせる。

そして二人はある程度の距離を横に保ちながら部屋の奥に居る何かにゆっくりと近づく。

 

「シンジ、攻撃する?」

「・・・いや、待て・・・」

 

うっすらとシルエットだけは見えてきた。

だが、真司は違和感を感じていた。

今まで災忌は例外なく二メートル程の巨体だった。

身体はごつごつしており、人ではありえない身体のラインをしていた。

それに対して目の前に居るであろうシルエットは明らかに小柄で良いとこ真司と同じ程度である。

更にはシルエットだけ見ればどう見ても人間でしかない。

 

「・・・雪菜、本当にアレは災忌なのか・・・?」

「本当だってば~」

 

今まで感じたことのない妙な緊張感が走る。

刀の柄に手を開けてはいるが、抜くに抜けない。

 

「・・・人間・・・学生・・・?」

 

相当近くまで歩み寄った二人。

薄暗い室内でも服装まで判断できる距離にまで近寄っていた。

そして、そこで真司が見たものは信じられないことに鎮守高校の男子の制服だった。

顔は俯いており確認できないが、頭からつま先まで何処から見ても人間である。

 

「・・・おい、お前・・・」

「待って!コレは・・・」

 

 

ピシッ・・・

 

 

「な・・・にぃいいぃッ!!?」

 

足音から音がしたと思った、その刹那。

身体が傾き、気がついたときには目の前は天地が逆転していた。

 

「兄さん!雪菜ちゃん!」

 

頭上から恵理佳の心配する声が聞こえる。

 

「・・・これは・・・蔦・・・か?」

 

自分の身体を見ると植物の蔦のようなものが巻きついている。

身体にはがっちり巻きつけられ、簀巻きのような状態だ。

どうやらこの蔦に捕縛され、天井付近へと持ち上げられているようだった。

 

「もー!だから言ったじゃない!アレは作り物で餌よ、餌!!」

 

横を見ると真司と同じく雪菜も捕縛されていた。

どうやらあの人間に見えたものはフェイクで近寄って来た獲物を足元から捕縛する戦法だったようだ。

そしてまんまと引っかかってしまった。

 

「やられたわ・・・雪奈、こいつを何とか出来ないか?」

「・・・目標が見えないから~・・・むりぃ~・・・」

「・・・マジか・・・」

 

雪菜も真司と同じく恵理佳、入り口の方を向いている。

即ちあのフェイクだった人間の作り物に対して背中を向けている状態だ。

目標座標を目視し、その地点を氷結させる雪菜の力は現状では発揮出来ない。

 

「こんな・・・蔦くらいッ・・・!!」

 

真司は渾身の力を込めて強引に手を柄に伸ばし、刀を抜く。

蔦の締め付ける力は相当のものだったが、全力を出せば瞬間的には少しは動く程度だ。

後はこの刀で直径三十センチはあろうかと言う巨大蔦を切断するだけだ。

手首を上手く使っていけばそんなに時間は要せず切れる算段だった。

だが・・・

「ちょ、シンジ!何か変なの出てきてるぅ~!!」

 

隣から雪菜の悲鳴が聞こえる。

 

「・・・なんだ・・・?」

 

自分の身体に巻きついている蔦を見るとねっとりとした液状のりのような液体が滲み出していた。

蔦の締め付けにより、体中に液体は染み渡る。

無臭ではあったが、その感触は気持ち悪かった。

 

「・・・?ん・・・?」

 

一刻も早く蔦を切ろうと手首を動かしていたその時・・・

 

 

カッン・・・!

 

 

静かな室内に甲高い音が木霊する。

 

「兄さん・・・!?」

 

真司の手元にあった刀は眼科のコンクリート製の床に突き刺さっている。

 

「くっそ・・・握力・・・身体に力が入らねぇ・・・」

 

体中がまるで痺れたように言うことを聞かない。

指先を動かそうにも数センチやっと動かせるかどうかと言う程度だ。

当然、先ほどまで力んで蔦の巻き付きを抗っていたのも無抵抗になる。

 

 

ギッ・・・ギシッ

 

 

「力が入らなぁーいぃ・・・!しんじぃ、何とかしてぇー!!」

 

 

 

 

 

 

「何とか・・・したいのは山々だが・・・」

 

隣で同じように巻き付けられている雪菜の声を聞き、必死に力を入れてみるが一向に入る気配はない。

それどころか無抵抗となった身体に蔦が食い込んでくる。

その強さは徐々に増して行き、万力で身体を潰されていくような圧迫感を覚える。

体中の血流が鈍くなっていく感覚を覚え、更に指先すら動かせなくなるほどに液体が浸透していく感覚もある。

間違いなくこのまま行けば殉職決定だった。

 

(・・・これは、やばいか・・・)

 

徐々に感覚すら失っていく身体の心配はとりあえず置いておき、現状を打破する案を必死で考える。


 
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