No.275123

八雲紫の多世界解釈

紫とメリーの関係性を自分なりに考えて書いてみました。多世界解釈とパラレルワールドは厳密にはイコールで繋げませんが、一般的な認識はそんな感じなのでそのように使っています。間違えて消してしまったので、再投稿しました、申し訳ありません

2011-08-16 11:51:35 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2108   閲覧ユーザー数:2090

 昼近くになってもまだ薄暗い魔法の森の中を二人が歩いていた。一人は日傘をさした長い金髪の少女、もう一人は黄金色の九本の尻尾を持っているため一目で人外、それも相当に力を持った妖狐だと分かる。

「藍、少しくらいの結界の破れならあなただけでも直せるでしょう」少女は不満げに九尾の狐に言った。

「紫様、それが…ただの結界の破れではないようなのです」と藍と呼ばれた九尾の狐は少女に答えた。どうやらこの二人は主従関係にあるようだ。しかも少女の方が主人であり、この少女も妖怪らしい。九尾の狐が妖獣の中でも最強であることを考えると、紫と呼ばれた少女は相当な力を持っているらしい。

「どういうことかしら?」

「結界が自然に弱くなった訳でも、無理矢理こじ開けようとした訳ではないのです。つまり…結界にスキマを作られているようです。紫様の能力のように…」

紫は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにあることに思い至って、いつもの表情に戻ってこう言った。

「ああ、それなら多分大丈夫よ。きっとあの娘の仕業だわ」

「あの娘?紫様の古いお知り合いですか?」藍は不思議そうに尋ねた。

「向こうは私のことを知らないけど、私はよく知っているわ。それにあなたも良く知っているとも言えるわね」

「どういうことですか?」

全く思い当たる人物がいなかったので、藍は尋ねるが、主人は答えない。肝心なことを教えてくれないのはいつものことであるので、藍はそれ以上問い詰めることはしなかった。

それでも立ち止まって考えている藍を置いて紫が先にいってしまったので、藍は仕方なくその後ろを追いかけて行くのだった。

 

 この紫と藍の会話の少し前

二人の向かう先に少女が現れた。彼女は歩いてきた訳でも、幻想郷でよくあるように飛んできたのではない、文字通り突然現れたのである。歳は15,6くらいだろうか、金髪で紫色の服を着ていた。どうやってここに現れたのかは分からないが、彼女はどうやら人間であるらしい。そして少女は紫によく似ていた。顔や服装がよく似ているというのではなく、雰囲気とでも言うようなものが似ているのである(顔も多少似てはいるのだが)。

「自分の部屋の布団で寝ていたはずなんだけど…また夢の世界に来ちゃったのね。蓮子が言うには現実の世界らしいけど、夢も現実も変わらないわね」と少女は落ち着いて独り言をつぶやいた。蓮子というのは彼女の名前ではなく、友人の名前であるようだ。

「薄暗くてジメジメした森ね。どうせ来るのだったら、あの紅いお屋敷の方が良かったけれど…夢の世界に文句はつけられないわね。せっかくだし蓮子にお土産を持っていこうかしら。こういう所には茸がよく生えているって本で読んだことがあるわ。以前、本物の筍を見つけたのだから、茸があってもおかしくないはずよね」とまた少女が独り言を呟いた。そして彼女が歩き出そうとした時、二つの人影、日傘をさした人と何やら尻尾のようなものが九本も生えた、が目に入ってきた。

 

「紫様、結界の破れのあたりに誰かいます。幻想郷では見かけない格好なので、外の世界から入ってきてしまったのかもしれません」

「予想通り、やっぱりあの娘だったのね。前に来た時は勝手に帰っちゃったし、せっかくだから挨拶しておきましょう」紫は少し楽しそうに言った。

そして「あの娘」の方はというと、藍に尻尾があるのを認めたために多少身構えたが、紫の方を見ると何故だか安全だと確信してすぐに緊張感を解き、その場で紫たちが近づいてくるのを見ていた。

お互いに手を伸ばせば触れ合えるほど近づいて紫は「初めまして、メリー」と言った。

「こちらこそ初めまして、えーと…あなた。なんであなたは私の名前、それも愛称を知っているのかしら」と「あの娘」が答えた。どうやら彼女の名前は「メリー」というらしい。

「名前以外もよく知っているわよ。だってあなたは『私』なんですもの」と紫が答えを返した。

「どういう意味かしら?」と紫の意味不明な返答に不安を抱きつつメリーが言ったが、紫それに答えず、胡散臭いとしか形容できない笑みを浮かべ続けていた。すると突然メリーの足元にスキマが開いて、メリーは一瞬のうちにそれに呑みこまれていった。

「さようなら、メリー。蓮子にもよろしくね。今度は二人でいらっしゃい。歓迎はしないけど」と紫はスキマに向かってつぶやいた。

 

「紫様、さっきのはどういうことですか」と自分に何も教えずに理解できない行動をとる主に対する怒りを滲ませながら藍が聞く。

「何がどういうことなのかしら?」それに紫はとぼけたように答えた。

「紫様がメリーと呼んでいた彼女についてですよ。メリーが『私』だとか、それにもう一人、蓮子とかいうのもお知合いなんですか?」とぼけた返答にさらに語気を強めて聞き直した。

「ところで藍、あなたは多世界解釈って知っているかしら?」

「…は?まあ、知っていますが。エヴェレットという学者の提唱した量子力学における解釈の一つでしょう。実用的でないばかりか多世界なんていう確かめようのない絵空事を前提に置いているせいで、向こうでもあまり重視されていない解釈でしょう」

「あなたはなかなか頭は良いけど、頭が固いわね。多世界解釈こそが真理なのよ。」

「はあ…、それよりそんな解釈問題は今は関係ありません。私の質問に答えてください」

「解釈問題はたしかに今はどうでもいいわね。でも、多世界は存在するのよ。私の能力を使えば別の世界を感知することも、行くことも出来るわ。それが証拠よ。それに幻想郷に流れ着くものは外の世界だけじゃなくて別の世界のものも混じっているのよ。他にも幻想郷には多世界を感知することが出来る者が何人かいるわ」藍の言葉を無視して紫はさらに続けた。

「別の世界、所謂パラレルワールドでは全く別の人生を歩む私達が存在しているのよ」

「何が言いたいのかは分かりました。つまり、メリーは別の世界の紫さ…痛ッ!」紫が藍を日傘で叩いて発言を中止させたのだ。

「理解が早いのは良いけど、話の腰を折らないの」と紫。

「すいません…」と藍。

「別の世界では霊夢とか白黒の魔法使いが普通の女の子として暮らしていたりするのよ。色々あるけど、彼女たちがこの世界以上に不思議な生活をしている世界は存在しないわね。でもあの紅魔館のメイドだけは別ね。あの娘は他の世界だと倫敦の殺人鬼だったり、吸血鬼ハンターだったり、逆に自分が時間を止める能力を持った吸血鬼になってある一族に退治されたりしているわね」

「もしかしてレミリアの『運命を操る程度の能力』は多世界に関係あるのですか?」とまた話の邪魔をする藍だったが今回はお咎めなしのようだ。

「そこに気づくとは流石私の式ね。あの吸血鬼の能力はいくつかの多世界の人間を一つにしてしまうのよ。「運命を操る」というのは言いかえれば、多世界を引き寄せる能力なのよ。だからあのメイドは他の世界の自分と混じってしまっているから、人間のくせにあんなに残忍でナイフの名手かつ時を操れるのよ。あれだけの能力を人間が持つことは普通できないはずなのよ。レミリア自身はあの能力を無自覚的に使っているみたいだけれどね」

「あとは稗田一族も多世界を認識しているはずよ。どうやらあそこは転生するたびに他の世界の記憶も混じっているようなのよ。だから放っておくと彼女たちの纏める歴史はどんどん間違っていって幻想郷の歴史ではなくなってしまうわ。私があそこを訪れるのもその多世界の歴史を消すためにしているのよ」

「あれにはそのような意味があったのでしたか、てっきり暇つぶしかと…止めてください!」言うまでもなく、紫に日傘で叩かれる藍なのであった。

「話を戻すわね。そしてもちろん多世界にも『私』はいるのよ。でも多くの世界があっても幻想郷があるのはこの世界だけだわ。何故なら『八雲紫』はこの世界にしかいないもの。ほとんどの世界の私は日本の幻想を愛した西洋人ラフカディオ・ハーンつまり小泉八雲として歴史に残るだけの存在なのよ。メリーはさっきあなたが言ったように他の世界の『私』だわ。他と違うのは彼女が私と非常に近しい存在で、似たような能力を持つことね。彼女ならもしかしたら『八雲紫』になって、もうひとつの幻想郷を作ってくれるかもしれないわ。ここに来るごとに彼女の能力が強くなっているみたいだから、来るのは拒まないのよ。でも私のように愛される存在は一人で十分だから住むのは許さないわ。それに別の世界の同じ人間が出会うと消滅しちゃうしね」

「それは外の世界の漫画の設定じゃないですよ。しかもその設定通りなら紫様は何人出会っても大丈夫じゃないですか」と呆れ気味に藍が言った。

「あら、ちょっとした冗談じゃないの。本当に頭が固いわね」

「それで蓮子ってなんなんですか?」紫のおちょくりを無視して藍が言った。

「なんでそこは分からないのかしら。蓮子はメリーの世界、つまり別の世界のあなたに決まっているじゃない」

 

「30分24秒の遅刻。メリーが遅刻するなんて珍しいじゃない」とボーイッシュな雰囲気をした少女がメリーに言った。

「いつも蓮子が遅刻している分で今日の遅れは帳消しよ。つまり私は遅刻していないということね」と謝るでもなくよくわからない理屈を言った。どうやらこのボーイッシュな少女が蓮子らしい。

メリーが紫にスキマで元の世界に戻された時、つまりメリーが目を覚ました時、すでに蓮子との約束の時間であり、急いで来たのだったが遅刻してしまったのである。メリーの理屈からすれば、彼女は遅刻していない訳だが…

「それでなんで遅刻したのよ」蓮子が興味ありげにメリーに聞く。

「だから遅刻じゃな…まあいいわ。夢の世界に行っていたのよ」とメリー。

「また一人で行っていたの!ズルイじゃない!」と蓮子は怒りながら言った。

「仕方ないじゃないの、夢なんだから行きたい時に行ける訳じゃないのよ」とメリーは反論した。

「だからそれは夢じゃないって…そんなことより今回も何か『夢の世界』から持ってきたの?」蓮子は以前の主観と客観の論争を蒸し返そうとしたが思いとどまり、今回のメリーの『夢の世界』での収穫を聞くことにした。

「茸を取ってこようとしたけど、すぐに目が覚めてしまったのよ。でもすごい人にはあったわ」

「誰に会ったのさ、アインシュタイン?それとも我らが夢美教授かしら?」と蓮子は茶化してみた。

「私に会ったのよ。それに多分あの狐は蓮子ね」

「はい?メリーあんたドッペルゲンガーにでも会ったの?ならもうすぐ死んじゃうわね。あなたのことは忘れないわ、メリー。それに私が狐?意味が分からないわ」

「多世界解釈よ、蓮子。あの世界はきっとパラレルワールドなのよ。だから私がいても、あなたが狐でもおかしくないわ」

「多世界解釈とかあんな与太話を信じてる訳?それにパラレルワールドとかSFの読み過ぎかしら?」

「実在するんだから仕方ないわ。今度は蓮子も一緒に来ればいいのよ。そうすれば信じるわ」

「さっき好きな時に行けないから私を連れていけないって言ってたじゃない。」

「今度は一緒に行けるわ。だって向こうの世界の私が『今度は二人でいらっしゃい』といっていたもの」

「だからもう一人のメリーをまだ私は信じてないって言ってるでしょ。だから結局はいつも通りの入り口を探す活動をしないいけないわね、二人で向こうの世界に行くために」

「それで蓮子はどこか入口らしき場所の目星は付いてるの?」

「当然じゃない!今度はここよ、突然消えた神社と湖、しかもほとんどの人は気付いてないのよ、明らかに怪しいじゃない」と蓮子は以前「守矢神社」という名前の神社があった場所を地図で指し示した。

 


 
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