No.260868

真・恋姫無双 EP.80 冒険編(4)

元素猫さん

恋姫の世界観をファンタジー風にしました。
楽しんでもらえれば、幸いです。

2011-08-05 21:46:27 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:3169   閲覧ユーザー数:2914

 紫苑と華雄は、それぞれ別々にある村に立ち寄り、誘拐の現場に居合わせた。二人で協力して犯人を捕縛し、アジトについての情報を得たのである。

 

「私も子を持つ親として、放ってはおけなかったのよ」

「私は卑劣な行為が嫌いな性分でな。理由はそれだけだ」

 

 理由は異なるが、お互いに息が合うこともあって紫苑と華雄は一緒に行動をすることにしたのだ。そしてアジトに向かう途中で、小蓮たちと出会ったのである。

 

「私たちも似たようなものかな。私が誘拐されそうになって、それで犯人から情報を得てここまで来たんだ」

 

 小蓮が代表して自分たちの事を説明する。本当は積極的に事件に関わっていたのだが、あえてそれは話さなかった。子供扱いされてきた、今までの経験もあったのだろうが、すべてを説明しようとすると姉の孫策が行方不明だということも話さなければいけなくなるかも知れない。一応、病気で伏せっているという事になっており、行方不明というのは秘密なのだ。

 

「ね、目的が同じなら協力しようよ! その方が絶対、いいって!」

 

 少しはしゃぎながら小蓮がそう言うと、困ったように紫苑と華雄は顔を見合わせた。

 

「でもね、シャオちゃん」

 

 紫苑は膝を曲げて小蓮と目線の高さを合わせると、諭すように言った。

 

「相手は盗賊で、何人いるかもわからないし、どんな卑怯なことをしてくるかも知れないわ。とっても危ないのよ?」

 

 仮に霞だけならば、紫苑たちも協力することに異議はなかっただろう。だがやはり、共に行くには小蓮は幼かった。しかし黙って従うような小蓮ではない。

 

「だったらいいもん。一人でだって行くんだからね!」

「シャオちゃん……」

 

 結局、紫苑が折れた。一行は連れだって、アジトを目指すこととなったのである。

 

 

 アジトは話に聞いていた通り、高い岩壁によって囲まれていた。

 

「駄目だな、周囲を見てきたがあの洞窟以外に入れそうなところはない」

 

 華雄はそう言いながら、いくつかの木を見る。

 

「この木から岩壁に飛び移れそうだ」

「あれを登るの?」

 

 紫苑が岩壁を見上げながら訊ねると、一緒に見上げていた霞が言う。

 

「行けそうや……」

「本当?」

 

 驚いた小蓮に、霞が頷いた。

 

「では、私と霞が上から行こう。中に忍び込み、騒ぎを起す」

「そうしたら、私とシャオちゃんは洞窟から入ればいいのね?」

「そうだ」

 

 紫苑と華雄が細かな作戦を話し合い、小蓮はそれを黙って聞いていた。霞はすぐに飽きてしまい、三匹の猫たちと遊んでいる。

 

「じゃあ、上に着いたら合図をお願い」

「鳥の鳴き真似をする。それが合図だ」

 

 華雄が言うと、小蓮が身を乗り出してくる。

 

「すごい! ね、今聞かせて!」

「……」

 

 わずかに照れた様子の華雄は、指を曲げて軽く咥える。そして――。

 

 ピーッ!

 

 どこかで聞いたことがあるような、鳥の声が見事に奏でられる。

 

「わあっ! それ、何て鳥なの?」

「知らん。以前、試しにやったら出来ただけだ」

 

 ぶっきらぼうに言い、華雄は霞の肩をポンと叩いて歩き出す。

 

「ほな、またな」

 

 手を振る霞に手を振り替えし、小蓮は紫苑と二人を見送った。

 

 

 草むらに潜み、木の幹を背にして座る。同じように腰を下ろした紫苑を、小蓮は横目で見た。体の大きい大喬と小喬は、別の場所にそれぞれ隠れている。三匹の猫たちは、霞が連れて行った。

 

「ねえ、紫苑」

「なあに、シャオちゃん?」

「紫苑には、子供がいるんでしょ? 今はどうしているの?」

「今は……」

 

 紫苑は言葉を詰まらせ、キュッと唇を結ぶ。その表情から、何か事情があることを小蓮は察した。

 

「あの子……璃々は今、行方不明なの」

「えっ?」

 

 驚いた小蓮に、紫苑は悲しそうな笑みを浮かべて、それ以上は何も言わなかった。身内が行方不明になる思いは十分すぎるほど理解できる小蓮も、それ以上は問いかけない。

 二人はしばらくの間、黙ったままだった。

 

「璃々はね、シャオちゃんよりも少し小さいかしら……」

 

 不意に、紫苑が口を開く。

 

「女の子なのに、男の子みたいな遊びが好きで、いつも山の中を走り回ってばかりいたわ」

「私も、そうかも。大喬、小喬と一緒に遊ぶことが多かったから」

「ふふふ、それじゃ璃々も大きくなったら、シャオちゃんみたいになるかしらね」

 

 紫苑の優しい笑顔に、釣られて小蓮も微笑む。

 

(母様がいたら、こんな感じなのかな)

 

 母の事は、姉たちから色々と聞かされていた。けれど実感がない。幼い頃の記憶もなく、母の温もりを思い出すことすら出来なかった。だから想像だけが、小蓮にとって母親の面影を蘇らせる行為なのだ。そんな想像の母親は、紫苑みたいに優しい。

 紫苑が小蓮に我が子を重ねて見ているように、小蓮も紫苑に母親の面影を見ていた。

 

(母様か……)

 

 小蓮は紫苑を盗み見て、離れていた二人の距離をほんの少しだけ詰める。腕が触れるかどうかという近くで、気配だけを感じた。

 

 

 岩壁を確認するように見上げた紫苑は、立ち上がってお尻の砂をはたき落とした。

 

「シャオちゃん、そろそろ準備をしましょう」

「うん!」

 

 元気に返事はしたものの、小蓮は特に武器を持って来てはいない。最初から霞頼みだったので、自分は大喬にでも背負われているつもりだったのだ。弓の準備をする紫苑を横目に、何となく屈伸をして時間を潰した。

 

「合図が聞こえたら、私が先に行くからシャオちゃんは後から来てちょうだい」

 

 紫苑がそう言うと、小蓮は大きく首を振る。

 

「ダメよ、そんなの。私が大喬と一緒に先頭を行くんだから」

「危険なのよ? 大喬ちゃんが一緒でも、それは承諾できないわ」

 

 だが、小蓮も頑として譲らない。

 

「常に先頭に立って戦え……これは、孫家の家訓みたいなものなんだから」

「孫家……? もしかして……」

 

 顔色の変わった紫苑を見て、小蓮は『しまった』という表情を浮かべる。この界隈で、孫の名を知らぬ者はない。そしてその名が持つ意味を、小蓮も幼いながらによく知っていた。その名を名乗るだけで、皆が掌を返すように態度を一変させるのだ。

 

(紫苑には知られたくなかったな……)

 

 紫苑には、孫家の娘ではなく、ただの小蓮として接して欲しかった。だが、紫苑の顔色が変わったのは、小蓮が思うのとは別の理由だ。

 

「もしかして、孫策さんって……」

「うん。私の姉様よ」

 

 諦めたようにそう言って寂しく微笑む小蓮の顔を、紫苑は真っ直ぐに見ることが出来なかった。

 視界が暗くなり、音が遠ざかる。早鐘のような自分の鼓動だけが、やけにハッキリと聞こえた。


 
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