No.259475

真・恋姫夢想 桂花EDアフター その二

狭乃 狼さん

はい。

舌の根も乾かねえうちに、というやつですw

だってしょうがないじゃない。

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2011-08-04 22:59:40 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:17709   閲覧ユーザー数:13521

 とんとんとん……。ことことこと……。

 

 リズミカルな包丁の音と、お鍋の中で煮物が煮える音。厨(くりや)からする、そのとても心地の良い音色は、食事を待つ者にとっては最高の前菜だと。いつだか華琳さまからそう、私は聞かされた。けどまさか、その最高の前菜となる音を、この私が不器用ながらも立てられるようになるなんて、正直昔は思ってもいなかった。

 

 「桂花ちゃ~ん、そっちのお醤油とってくれる~?」

 「は、はい!えっと……あ、これですか?」

 「そう、それそれ。……はい、ありがとう」

 

 にっこり、と。お醤油の入ったその容器を笑顔で受け取った女性は、それをお玉に一杯だけ移してから、煮物の入った鍋の中へと居れ、少しだけかき回した後小皿に少量すくい、その口をつける。

 

 「……ん。味付けはこれでいいわ。ふふん♪今日も完璧」

 「……」

 

 ふんふんと、上機嫌で鼻歌を歌いながら、また別の料理へと取り掛かる彼女を、サラダ用の野菜を慎重に切りながら、横目でちらりと見る。

 

 (……この人が、“西楚の覇王”としてその名を歴史に残している、あの項羽だなんて、正直、誰も信じないでしょうね……。私と一刀以外は)

 

 現在、北郷家の厨に立ち、とても楽しそうに料理をしているその人は、この家の主である北郷一虞(ほんごうかずすけ)の細君で、北郷燐華(ほんごうりんふぁ)という人。見た目は三十台半ばぐらいにしか見えない、とても若々しい姿をしているけれど、お爺様の年齢を考えると、多分すでに……あ、いえ。なんか、この先をはっきり言ったら怖い事になりそうだから止めておくけど、まあ、とてもそうは見えないお年であることに違いは無い。……ゴホン。それはまあともかく、だ。

 

 西楚の覇王・項羽。その正式な名は、項籍。羽というのは字であり、項羽という呼び方は、俗称だと思ってもらうといい。前漢の高祖である劉邦と、大陸の覇権を競った希代の将軍。一度は天下に覇を唱え、その号令をかける立場になったけど、最後には亥下の戦いにおいて劉邦に敗れ、その愛妾である虞美人と共に、『長江に身を投げてその命を絶った』、悲運の英雄。

 

 なお、項羽のその最期についてだが。私も後から知ったのだけど、私の知るあの世界の歴史と、この正史の歴史とでは、その点のみ微妙に食い違っていた。正史において、項羽と虞美人は、長江に身を投げてなどおらず、共に自決して果てているのだ。

 

 (……そのあたりの微妙な違い。そこが、あの世界が外史たる所以……なんでしょうね)

 

 そんな事を考えながら、燐華さんを見ていたら、不意にこちらを振り向いた彼女と目が合ってしまった。ちなみに、一番最初に彼女のことを“お婆様”と、呼んだら、もう、それはものすっごい笑顔で微笑まれました……華琳様のそれよりはるかに怖かったです。……ガクブルガクブル。

 

 「ん?どうかしたのかしら?」

 「え?!あ、いえ、その……お料理、お上手なんですねと、そう思っていたんです」

 「あらそう?ふふ、ありがとうね。……ま、初めのころは三枚おろしすら、何のことか分からないくらいだったけど、慣れれば何でもできるようになるものよ」

 

 ……私も全くおんなじでした、はい。

 

 え?そんな私がよく料理の手伝いなんか出来るなって?……一人で旅をしていれば、必然、必要に迫られるってわけよ。……え?そうじゃない?現代の料理器具とかは使えるのかって?……まあ、一応、この世界に来たその日のうちに、身の回りの最低限のものに関しては、一刀から使い方を教わってはいるわよ。

 

 そう言えば、その日のことを話すのをすっかり忘れていたっけ。……あんまり思い出したいことでもないけど、隠すほどのことでもないし、じゃあ、あの日のことをちょっとだけ伝えておくわね。

 

 

 「……そか。みんな、元気でやってるんだ」

 「ええ。……ただ、直接会ったのは風だけなんだけど…ね。皆のことは、あの娘から話を聞いただけよ」

 

 泰山の頂上から一刀の世界にやって来たその日。それまでの経緯を大雑把に教えた後、華琳様や他の魏の面子は、向こうで元気にやっていることを、彼に話して聞かせた。

 

 「……でさ。一つだけ、一応聞いておきたいんだけど」

 「何?」

 「いや、さ。こんな事言ったらまた殴られるかもしれないけど、桂花はその……良かったのか?一人で、こっちに来てしまって、さ」

 「……もしかして、家族のこととかの事?」

 「ん」

 

 ……確かに、あっちの世界には、両親も妹も、そして少し年下の叔母も、いまだ健在ではある。彼はそんな、自分が会ったこともない、私の家族を心配してくれている。……その優しさは嬉しいし、私もみんなを心配していないわけじゃあない。でも。

 

 「……血の繋がった家族も確かに大切よ。けど、今の私は、それ以上に、あんたに会いたかった。あんたの顔が見たかった。あんたの声が聞きたかった。……北郷一刀の、その隣に居たかった。だから、私は私の選択を後悔していない」

 「……桂花……俺の事、そこまで……」

 「そうよ。私はあの時気づいたの。私はあんたが好きなんだって。荀文若は、北郷一刀を愛しているって。だから……」

 「……俺も、だ」

 「……え?

 

 そ、と。彼が私の頬にその手を添えて、じっと瞳を見つめてきた。

 

 「……こっちに戻ってきて、一番最初に頭に浮かんだ顔は、華琳でも他の誰でもない。桂花の、あの、別れ際の泣き顔だった……よ」

 「かず、と……」

 「だから、こうしてまた会えて、俺は今本当に幸せだ。また、桂花と一緒に居られる、その事が」

 「……私、も」

 「桂花……」

 「一刀……」

 

 自然と、互いに近づけあう、私と彼の顔。その唇が、そっと触れ合おうとした……その瞬間。

 

 ちゃらりらりら~♪

 

 『ッ!?』

 

 とってもすばらしいタイミングで、それは思いっきり鳴りだし始めた。……あとちょっとだったのに、なんていう……ッ!!

 

 「……ケータイか。びっくりした……誰だよ、いい雰囲気の時に」

 

 ぴっ、と。ケータイを操作して電話に出る一刀。まあ、ケータイについては、向こうにいた時にも彼は持っていたので、その用途については一応、知識としては頭にあるにはあった。……まあ、実際自分も持つ事になって、でもってそれに慣れるまでには、結構時間かかったけど、その話はまた今度ってことで。

 

 

 

 「はいもしもs」 

 『お~かずぴ~か~?わいや~!』

 「……ただいまおかけになった電話番号は現在つかえません。あしからず」

 

 ぷつっ。

 

 「……あの、かず……と?」

 「間違い電話だったよ。さて、それじゃあさっきの続きを……」

 

 ちゃらりらりら~♪

 

 「……(ぴっ)なんかようか」

 『何か用かは無いやろ?!何でいきなり切るねん!?』

 「取り込み中だ。大した用じゃないなら後にしろ」

 『うん、かずぴ~のいけず~。親友に向かってそれは無いやろ~?大事な話があるんやて~』

 「……大事な話って?」

 『合コン行かへんか?』

 「却下」

 

 ぶつっ。

 

 「ったく。そんなつまらん事でかけて来るなっての。もう、合コンなんて、今の俺には無用の長物だ」

 

 ……合コン、ってなんだろう?なんだかよく分からないけど、何となく、あんまり面白いものではなさそうである。……あとでちゃんと問いただしておこう。うん。

 

 「……まあいいや。なんかさっきの雰囲気も流れちゃったし。……でさ。桂花はこれからどうするつもりなんだ?」

 「どう……って。そりゃ、あんたとこのまま」

 「……このまま一緒に暮らすってのは、正直難しいかな?」

 「な、なんで?!」

 「……あのな。この世界は向こうと違って、ちゃんと生活して行くには、“戸籍”ってものが必要なんだ。桂花が何処の生まれで、親はどうなっているのかとか、身元をきちんと証明するものが、さ」

 

 ……そういえば。向こうに居た時、一刀から聞いた事があったっけ。天の世界……正史のこの世界には、そういうものがあるってこと。

 

 「しかも、だ。この部屋は俺個人の所有物じゃあないんだ。ここは学校の寮なんで、誰かと一緒に住む事は許されていないんだよ。……まあ、一晩誰かを泊めるぐらいなら、大丈夫だとは思うけど」

 「じゃあ、私これから、一体どうすれば」

 「……しょうがない、か。じいちゃんに相談してみるか、な?」

 「お祖父さん?」

 「ああ。……ちょっと事情があって、今は離れて暮らしてるけど、何かと頼りになる人ではあるよ。理由までは知らないけど、なんだかこの国のお偉いさんとパイプ……繋がりを持ってるらしいし」

 「……お爺様って、土地の有力者とか、有名人とか何か?」

 「うんにゃ。ただのえろじじいだよ。……まあ、実家は確かに、五百年以上続く由緒正しい家柄ではあるらしいし、山をいくつか持っては居るそうだけど。それだけさ」

 

 ……土地持ちならそれだけで結構十分だと思うけど?それに、五百年も続く家って……何者なの?一刀の実家って。

 

 

 「まあ、さすがに今すぐ出かけるってわけにはいかないから、今日のうちに身の回りで最低限必要な物を揃えておくか。服とか洗面具とか……その、下着……とか」

 「そ、そうね。……私、思いっきりその辺りの事、失念していたわ」

 「……それじゃあこれから買い物に……あ、でもその格好だとちょっと目立つ……かな?」

 「……そう?」

 

 向こうに居た時の格好のままなんだけど。

 

 「……デザインが結構特異だからな、向こうの服。珍しい意匠のものだと、周りの目を引きやすいんだ。ん~、どうするかな~?さすがに女物の服なんか持ってないし」

 「……別に、あんたの服貸してくれれば、それでいいけど?」

 「……男物しかないよ?それに、サイズ…大きさだって」

 「ちょっとぐらい大きくたって、裾をまくったりすれば大丈夫よ。男物でも、別に気にならないしね」

 「……分かった。ちょっと待ってくれよな」

 

 そうして、私は一刀から上着とTシャツ、ズボンを借り、それに着替えて買い物へと出かける事になった。……一刀の普段着ている服、か。……なんだか、一刀の匂いがするみたい……えへへ。なんて感じで、一人でこっそりにやけながら。

 

 で。そうして一刀と二人で街へと繰り出したんだけど。

 

 「ねえ、この地面何?土じゃないわよ?」

 「これはアスファルト。緑青っていったら分かるかな?土の上にこれを敷いて、舗装してあるのさ」

 「じゃあ、じゃあ、あの鉄の箱は?中に何か並んでるけど?」

 「自動販売機。お金をあれに入れると、中に入ってる物……飲み物とか食べ物がいつでも買えるからくり」

 「柱で空に引いてある線は?」 

 「柱は電柱な。んで、線は電線って言って、電気…雷みたいな力を、各家々に送るためのもの」

 「家にその…でんき?を送ってどうするの?」

 「俺の部屋にもいくつかあったと思うけど、その電気で動くからくりを動かすために必要なんだよ。夜になったら、そこらじゅうにある街灯にも電気が通って、昼間みたいに明るくなる光を点けるんだ」

 「へえ~。そんなに便利なんだ、この世界って。……ちょ!何よ今通ったあの車輪のついた箱!すっごい速さで走って行ったわよ!?」

 「あれは自動車。油を燃やして、その熱で走るからくりだよ。人とか物を運ぶ為の。……くくっ」

 

 ……笑われちゃった///

 

 だってしょうがないじゃない!目に付くもののその全てが、私の人生で初めて見るものばかりなんだから!おのぼりさんと言われようがなんと言われようが、珍しい物は珍しいんだもの!

 

 と、そんなわけで、何か新しい物を見つけては、まるで小さな子供みたいに目を輝かせて、一刀にあれやこれやと質問の嵐をする私。……そんな私を、とっても微笑ましく見ている彼は、嫌な顔など全く見せず、笑顔のまま逐一、出来る範囲で私の問いに答えてくれた。

  

 ……まあ、さすがに?買い物に行った先の10……何だったかな?とにかく、そこの下着売り場では、ちょっと恥ずかしそうに私から離れていたけどね。で、あらかた買い物が終わって、そのまま外で夕食をという事になったんだけど、この世にあんな美味しいものがあったなんて……!!

 

 ……また食べに行きたいな、はんばーがー♪

 

 そして夜。

 

 久しぶりの彼との“こと”を済ませた後。寝台の中で一緒に寝ている彼が、私にこうぽつりと言った。

 

 「……明日、実家の鹿児島に、新幹線で行くわけだけどさ。……なあ、桂花?」

 「……何?」

 「……頼むから、新幹線を見て、間違っても、妙な事は口走らないようにな?」

 

 ……はい。思いっきり口走りました。ごめんなさい。しかも、その時近くに居たほかの乗客の、その視線と堪えた感じの笑い声が、さらに恥ずかしさを増大させてくれました。……あぅぅ。

 

 

 とまあ、そんな感じのやり取りが、私がこの世界に来た当日の、大体のあらましです。

 

 それよりも、今は何より気になるのが、お爺様と燐華さんの馴れ初めとも言うべき、過去のあの世界で起こった出来事のほう。お爺様が、『長くなるから、食事でもしながらにしようか』と、そう言われたので、私も燐華さんの手伝いをかって出ての、先ほどの夕餉の準備とあいなったわけである。

 

 「……これ、ほんとに桂花が作ったの?一人で?」

 

 私が作った青椒肉絲(ちんじゃおろーすー)を一口食べた一刀が、その第一声で放った感想である。

 

 「あによ?信じられないとでも?」

 「……いやだってさ、魚の三枚おろしも知らなかった桂花がさ、まさかこんなに旨いものを作れるなんて、正直びっくりしたよ。……おいしいよ、とっても」

 「そ、そう?……よっしゃ!」

 

 ……思わず声に出して喜んでしまった///

 

 「はっはっは。二人は本当に仲が良いようだな」

 「そうですね。なんだか昔の私たちを見ているみたい」

 「……“向こう”に居たときはそうでもなかったんだけどね」

 「……そうなのか?」

 「ん。……毎日、やれ『種馬』だの『自動孕ませ機』だの、『歩く性欲魔人』だの言われてたし」

 「全部事実でしょうが」

 「……」

 「……蛙の孫は蛙、ね?すけちゃん」

 「……昔の話じゃ」

 

 女二人にそんな事を言われ、小さくなる男二人。……なるほど、ちょっと合点がいったわ。一刀の女たらしは祖父譲りだったわけだ。

 

 「あの頃のすけちゃんは、ほんと見境無かったものねえ。うちの軍の将軍のほとんどに、手を出していなかったかしら?……桜香……劉邦軍の将たちにも」

 「……おい、こら。このえろじじい。いったい何してたんだよ、あんたは。あの世界の過去で」

 「……だからこそ、当時の戦乱も事無く終えられたんじゃろうが」

 「……ま、最終的には、ちゃんとあたしを選んでくれたし、そのことはもう怒ってないですけどね」

 

 (……いや、あれは絶対、まだ根に持ってる顔だ)

 

 一刀とお爺様が、そんな事を心の中で思っているとも知らず、燐華さんは優雅に味噌汁をすすってなんかいたりするわけで。ていうか、やっぱりこの人、正真正銘、一刀のお祖父さんだわ。やってる事なんかそのまんまじゃない。

 

 「……さて。そろそろ余談はこれくらいにして、じゃ。本題に入るとするが……一刀」

 「……何?」

 「その前にもう一人、お前に会わせねばならん者がおる。……わしとお前、双方に関ってくる者じゃ」

 

 そう言って、お爺様は懐からケータイを取り出し、どこかへとかけ始めた。

 

 「……そうじゃ。今からその話をするところじゃ。……うむ。早う来いよ」

 「……なあ、俺に合わせたい人物って、一体誰さ」

 「すぐに分かる。……ん、来おったな」

 『??』

 

 ……………どどどどどどどどどどどどどっっっっ!!ばったあーーん!!

 

 「ぅあいたかったわあ~~~~~ん!!ごぉしゅじんさまあ~~~~!!」

 「んぎゃああああああああっっっっっ?!?!」

  

 化け物キターーーーーーーーーーーーっ!!

 

 「……って!なんっっっっであんたがここにいるのよ!!ていうか、一刀から離れなさいよ!貂蝉!!」

 

 ……一刀にしがみつき、全力で頬ずりしている、そのビキニパンツ一丁の筋肉だるまこと、自称絶世の美人踊り子、貂蝉という名のその化け物に、私は思いっきりツッコミを入れた。

 

 ……今夜は色々、長い夜になりそうである……。

 

 TU☆DU☆KU☆

 

 


 
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