No.251389

タイニータイニー(レンリン)

つつのさん

レンリン。現代設定でピュアッピュアです。こんな健全な話を書いていたころもありました…。

2011-07-31 22:26:55 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1085   閲覧ユーザー数:1066

 

 

 

 

 

「日曜日の午後四時。赤い屋根が目印の喫茶店の前で」

 何度も何度もくりかえし呟いた言葉は、今ではあたしの胸を一秒ごとに突き刺す時計の針みたいに鋭く尖っていく。

 

 

「あー、もうっ!」

 癇癪起こした子供みたいに叫んでベッドにぼすんと顔をうずめると、干したばかりでお日様の匂いがするふかふかのシーツの心地良さに、そのまま朝まで眠ってしまいそうになる。

 だけどそういうわけにもいかなくて、あたしはベッドに横になったままの状態でチェストの上にある黄色い鳥の形をした時計に目をやった。約束の時間まで、もう二時間を切っている。

「うー…………」

 ベッドの上には持っているだけのお化粧道具(って言っても子供用のコロンとか色つきのリップとかパステルカラーのアイシャドウとか、そのくらいのものだけど)、クローゼットの中に入っていたお気に入りの服を全部並べきって、ああでもないこうでもないと頭を悩ませていた。

 

「観たいって言ってた映画の試写会の券が当たったんだけど……。その、一緒にいかない?」

 そう言って誘ってきたのは、前からちょっと気になっていた同じクラスの男の子。背はあたしとそう変わらないし、意地っ張りなところもあるけど、だけど優しくてかっこいい男の子。

 

「じゃあ、日曜日の午後四時。赤い屋根が目印の喫茶店の前で」

 

 二人きりのデートなんてはじめてで、その約束をしたときは日曜日が来るのが待ち遠しくてたまらなかったのに、いざ約束の日が近づいてくると色んなことが不安でたまらなくなってしまった。

 最初はデートなんだからとびきりオシャレにしていかなきゃと張りきっていたけど、いざ可愛らしい服に身を包んだ自分を鏡で見てみると、あまりの似合わなさに呆然とした。

 そして学校ではどちらかというと男の子っぽいカジュアルな格好ばかりしている自分がこんな格好をしていったらきっと笑われてしまうと、すぐに着ていたものを脱ぎ捨ててしまった。

 それからどんな服を着ても自分に似合うと思える服なんてなくて、時間ばかりが残酷に過ぎていった。

「もう、やだ……」

 なんでこんなに可愛くないの。どうしてもっと可愛くなれないの。

少し泣きそうになりながら枕に顔を突っ伏していると、ふいに部屋の扉が開く音がした。

「リンちゃん、何やってるの?」

「ミ、ミクお姉ちゃん…………」

 わずかに開いた扉の隙間からこっちを見ていたミクお姉ちゃんは、おもにベッドの上やその周りの 惨状を見るなり、呆れ顔で部屋の中に入って来た。

「もー、こんなに散らかして……、って」

 だけど普段はあたしが着ないような服やお化粧道具が散らばっているのを見て、勘のいいミクお姉ちゃんはすぐに何かを察した様子だった。

「もしかしてデート?」

「ち、違うもん……」

「リンちゃんは可愛いから何でも似合うよー」

 何も知らないのに能天気にそんなことを言ってくるミクお姉ちゃんに、あたしは怒るよりも先に泣きたい気持ちでいっぱいになった。

 ミクお姉ちゃんは自分が可愛いからそんなことが言えるんだ。

 可愛くてきれいで細くて──…性格だって素直で優しくって。きっと誰だって好きになる。

 どうしてこんなに違うんだろう。神様なんて、ちっとも平等なんかじゃない。

「……可愛くなんかないもん」

 ふてくされた声でそう呟いたあたしに、ミクお姉ちゃんは不思議そうに首を傾げて、だけどすぐに何かを思いついたような、楽しそうな表情を浮かべる。

「ようし、お姉ちゃんがリンちゃんをとびっきり可愛くコーディネートしてあげる!」

「え? ちょ。えええっ!?」

 

 

 赤い屋根が目印の喫茶店の前で、腕時計を何度もちらちらと見ているその子の──…レンの姿が目に入って、あたしは駈け寄る足に力を込めた。

「お、遅れてごめんっ!」

「やっと来た。遅い……ぞ……」

 約束の時間よりも少し遅れて来たあたしに、レンは少しだけ意地悪そうな笑みを浮かべていたかと思うと、待ち合わせ場所に現れたあたしの姿を見るなり真顔で固まってしまった。

「何か、いつもと雰囲気が……」

「えっ。や、やっぱり変……?」

 あたしはあらためて自分が着ている服に視線を落とした。

 ふわふわのフリルが胸元についた白いワンピースの上に、淡いピンクのジャケット。あんまり可愛いからつい衝動買いしてしまったはいいけど、家に帰って実際に合わせてみると自分のイメージからはあまりにかけ離れたデザインで、ずっとクローゼットの奥で大事に仕舞われていたものだ。

「変じゃない、けど……」

 頭のてっぺんに結んだお気に入りの白いリボンから靴のつま先まで、何度も視線を往復させて何だか気まずそうに口元を手で覆っているレンを見て、やっぱり変なんだ、と思った。

 あたしにこんなフリフリの服なんて似合わないって言ったのに。絶対に可愛いよ! なんて、ミクお姉ちゃんが断言するから……。

 ああもう。恥ずかしいはずかしいはずかしい。

 似合うはずないのに。可愛いはずなんてないのに。そうおだてられて勘違いしちゃったあたしが、一番恥ずかしい。

 逃げ出してしまいたかった。約束なんて放り出して、今すぐここから逃げてしまいたかった。

だけど、顔を真っ赤にして涙目で俯いているあたしに、しばらく黙りこんでいたレンが言葉を続けた。

 

「っていうか。な、なんか……いつもより」

「……いつもより?」

 あたしが目をじっと見つめ返すとレンはうっ、と言葉が喉に詰まったような様子で、少しだけ顔を赤くした。

「かわい……っ! なな、何でもない!」

「え?」

 え? なに。今のって、もしかして。

……かわいい、って。

 

「ほ、ほら! 早く行かないと、映画始まるぞ!」

 本当は強引にでもその続きを聞きたかったけれど、映画の時間が迫っていることも確かだった。

「行くぞ!」

「う……うん」

 ぶっきらぼうに差し出された手に、あたしは少しだけ戸惑ってから自分の手をそっと重ねた。

 

 冷たくて少し汗ばんだ手のひら。

 もしかしてキミも、あたしと同じくらい緊張していたのかな、なんて。

 やけにうるさい鼓動にかくれて、胸をチクリと刺す痛み。それは、まだ自分では気付かないくらい小さなものだけれど。

 

 小さな、とっても小さな。

 

 

 

 

 

                                  End.

 

 

 

 

Tiny-tiny

小さな、小さな。

 

 

 

  レンリンでピュアッピュアなのが書きたくて(そして読みたくて)、思いっきり恥ずかしい方向に弾けてみました。100%趣味です、はい。反省も自重もしない。

 

 

 

 

 

 
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