No.250212

東方騒園義 えくすとら4 『天子の挑戦 妖夢剣道編』

藤杜錬さん

『東方騒園義』は私がサイトで展開している東方Projectの二次創作小説で、それの短編になります。
挿絵イラストは拝一樹さんによる物です。

2011-07-31 12:15:49 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:993   閲覧ユーザー数:939

 初夏の日差しが日々を照らしはじめた時。

 一学期の中間考査も終わり、ようやく落ち着きを取り戻してきた花映学園。

 その暖かい日差しの放課後の中、比那名居天子は校内を気持ちよく吹く風を楽しむかのようにのんびりと歩いていた。

「うーん、良い天気。 この時期はやっぱり風が気持ち良いわねー」

 剣道場の前に立つ花も散り緑色の葉をその枝一杯につけた大きな桜の木を見上げながら、そう言って大きく伸びをした。

 ひなたぼっこをする猫のように気持ちよさそうに笑みを浮かべる天子の背中に急に衝撃が走る。

 そしてその衝撃に突き飛ばされるように天子は尻餅をついた。

「な……何よっ!?」

「ご、ごめんなさいっ!? お怪我はないですか? てんこさん」

 天子にぶつかりそう言って謝ったのは、校舎の方から走ってきた一年生であった。

 頭を下げた後、一年生は天子が立つのを助ける為に手を差し出した。

 その差し出された手をはねのけると、天子は自分で慌てて立ち上がる。

「なによあんた。 走るならちゃんと前を見て走りなさいよ。 折角良い気分だったのに台無しじゃない。 それに私はてんこじゃないわ、『てんし』よ『てんし』、ひなないて・ん・し」

 自分の名前の読み方を訂正したところで、一年生が持っている竹刀袋に目が止まる。

「ねぇ、あなたこれから剣道部に行くの?」

 唐突な天子の質問に少し驚きながらも一年生は頷いた。

「ふーん、そうかぁ……」

 急に何かを閃いたのか、企んでいるような笑みを浮かべる天子を見て、一年生はどうしたのかと首をひねった。

「あの……、それがどうしました?」

 不安げな一年生に対し天子は『いやいやと何でもない』というように手をぱたぱたと振って見せた。

「大した事じゃないよ。 単にちょっと面白いことを思いついただけよ」

 ゆっくり歩き出した天子の向かう先には剣道場の入り口があった。

 

--バンッ!?

 

 

「たのもう!!」

 剣道場の扉を開けると天子はそう叫んだ。

 天子のその言葉に剣道場の中で練習をしていた剣道部員達はぎょっとしたような視線で天子の事を一斉に見つめた。

「練習の邪魔になりますから……」

 部員の一人が天子の側に歩いて行くと、天子はその部員の事を手で制しながらそれに答えた。

「私は剣道部に道場破りを申し込む!!」

「……は?」

 まるで予想もしてない言葉が天子の口から発せられ、咎めようとした部員は間の抜けた返答を返したその時だった。

「一体何をしてるの? 騒がしいですよ、てんこさん」

 天子達の後ろから声がかかる。

 声と共に剣道場に二つの影が姿を現した。

「誰よ!! それに私の名前はてんこじゃなくててんしよてんし、一体何度修正させるのよ」

 天子の呼び方を修正する声の先の剣道場に姿を現したのは、剣道部のエースである魂魄妖夢と現生徒会長の四季映姫であった。

「妖夢さん、この人がいきなり道場破りだとか言ってきたんですよ」

 先ほど天子を咎めようとした部員が天子の事を指さしながら説明をする。

「道場破りですか、また大時代な事を言いますね」

 半ば呆れたような口調の妖夢に対して、天子はむっとした表情を浮かべた。

「なによそれ。 道場破りをしたいと思ったからする、それだけじゃないの。 見たところあなたがこの部を仕切ってるみたいね、丁度良いわ。 あなたに勝てばこの道場をやぶった事と同じよね、そういう訳であなたに勝負を挑ませて貰うわ」

 話を勝手に進めまくる天子に妖夢は何か言おうと考えたが、隣にいた映姫がポンとその肩を叩いた。

 妖夢は映姫の事を見ると諦めなさいとでも言うように映姫は顔を左右に振った。

 半ばこの学園の名物になっている通称『天子の挑戦』だった。

 とにかく何か自分が気になった事に対し白黒ハッキリつくまで、場合によってはついた後もしつこく誰かに挑戦する天子の事は学園内でも有名なのだった。

 映姫の姿を見て妖夢は、がっくりと肩を落とし、ため息をついた。

 

 こうなってしまったら付き合うしかないというのがこの学園での常識となっていたのだった。

「……仕方ない。 その勝負には付き合ってあげるわ、それでどうやって決着をつけるの?」

 半ば投げやりな口調で聞いた妖夢に自信満々に天子は答える。

「それはこれから私とあなたとで、剣道の試合をして決めるのよ。 折角いるんだし生徒会長に白黒ハッキリ決めて貰うわ」

 当人達の気持ちや考えなどまるでお構いなしにそう天子は宣言した。

「すみません、会長」

 

 

 困ったような笑みを浮かべながら防具をつける妖夢は映姫に謝った。

「こんな事に巻き込みたい訳じゃないんですが、どうにも断り切れなくて……」

「いえいえ、たまにはこういう事をするのも良いですよ、良い気晴らしになります」

「そう言って貰えると助かります」

「ただ」

「ただ?」

「ただ私がジャッジをする以上、公正なジャッジをさせて貰いますからね? たとえ知り合いだからって妖夢さんにだけ有利なジャッジはしませんよ?」

 映姫の人となりを知っていれば、至極当たり前な事を言われ、妖夢は真剣な顔で答えた。

「判っています。 むしろ剣の事で手を抜かれたくないですよ。 もし贔屓でもされていたら私の方から文句を言いだすと思いますよ」

 生真面目な妖夢と映姫らしいとそれぞれが相手の事を思う。

 そんな生真面目な部分で波長が合うらしく映姫はたまにこの剣道部に顔を出しては妖夢と手合わせをしていたのだった。

 妖夢は大きく深呼吸をし、床に置いてあった面にゆっくり持ち上げるとその面をつけた。

 そんな中、退屈そうな声が二人に掛けられた。

「まだ終わらないの? こっちはとっくに準備は出来てるわよ」

 自分の物は持ってきていない為に防具や竹刀を剣道部から借り、準備をし終えていた天子が退屈そうに妖夢が準備を終えるのを待っていたのだった。

「今、終わります」

 小手の紐を結び終わり、妖夢がすっくと立ち上がって天子の事をキッと睨み付けるかのように見つめた。

「不本意ながらもする事になった勝負ではありますが、剣で勝負をする以上一切手抜きはしません。 それでよろしいですね?」

 先ほどまでのどこかに幼さを表情に残す妖夢ではなく、真剣な眼差しを向ける妖夢に対し、思わず天子は一歩後ろへとたじろぎ下がってしまう。

「ジャッジをするとは言ってしまいましたが、私はたまにここで運動程度に練習に付き合わせて貰ってるだけというのも先に断っておきますね」

 続いて天子と妖夢に映姫はそう言って確認をする。

「大丈夫。 私が圧勝するのに決まってるんだから」

 自信満々に答える天子に対し、妖夢はただ頷いただけであった。

「それでは制限時間は三分、二本先取した方が勝ちとなります。 始め!!」

 開始線に二人が立ったのを確認すると映姫の合図と振り下ろした手と共に試合は開始された。

「たぁぁっ!?」

 試合開始と共に天子はものすごい勢いで竹刀を繰り出した。

 剣道部に所属していないとはいえ、天子も剣道を少しはたしなんだ事のある経験者であった。

『思ったよりも鋭い剣撃……。 挑戦してきた事だけの事はありますね』

 妖夢は自分が心の中で予想していたよりも鋭い天子の太刀筋に半ば感心をしていた。

 しかしその天子の攻撃を妖夢は有効打にならぬようしっかりいなしていた。

『何で攻撃が当たらないのよっ!』

 攻撃を次々と繰り出しつつもその攻撃が有効打にならない事に天子は焦りを感じていた。

 剣道の事は深くは知らない映姫ですら、その二人の力には隔たりがあるように感じられた。 そして天子は一旦下がり、気合いを入れ直し大きく踏み込み竹刀を上段から振り抜いた。

「「タァァァァッ!?」」

 二人の気合いの声が道場に響き渡る。

 妖夢はその上段の攻撃を返す刀で弾き、そのまま天子の腕に竹刀を振り抜いた。

「小手っ!?」

 天子は何が起きたのか判らずに呆然と立ちつくした。

「……い……一本!!」

 慌てて映姫がその手を挙げて攻撃が有効だったというジャッジを下した。

「これでわかりましたか? 私の方が強いのは明らかです。 だから道場破りなんて馬鹿な事は……」

「馬鹿にしないで!!」

 妖夢の言葉を遮り、天子が叫び再び竹刀を構えた。

「……白黒はっきりしないと、どうしても納得しないんですね」

 妖夢はため息をついた。

 そして、今度は正眼に天子を見据え構えを取る。

「行きますっ!?」

 妖夢はすっと右足を前に出す。

 そしてそのまま一気に天子との距離を詰めると、その面へと竹刀を振り下ろした。

「面っ!?」

 気合いと共に天子の面へと綺麗に妖夢の竹刀が決まる。

「……一本、それまでっ!?」

 映姫のその宣言で試合は決着が付いたが、面を打たれた天子は未だ何が起きたのか判らずに呆然としていた。

「終わりましたよ」

 先ほどまでのどこか鋭刃な刃物のような気迫は既にどこかへ消え、普段の柔和な表情に戻った妖夢が天子の肩を軽く叩き試合が終わった事を教える。

「……ま……負けた?」

 天子は肩を叩かれて、ようやく事態を飲み込めたかの様にワナワナと肩を震わせる。

「む、無効よ無効っ!? こんな勝負無効よ」

 天子は竹刀の切っ先を妖夢に突きつけながら叫ぶ。

「こんなのいつもやっている妖夢が勝って当たり前じゃない。 だからもう一回よ!!」

「そんな事を言っても……」

 困ったような妖夢を全く気にせずに天子は竹刀を構え直した。

「問答無用!? 私が負けたと思わなければ負けじゃないのよ」

 そんな自分勝手な理論を叫ぶと天子は妖夢に向かっていった。

「はぁ……、やっぱりこうなりましたか」

 映姫は想像していた通りの展開になりこめかみに手を当てた。

「こうなったら仕方ありません。 とことん付き合うしかないですね」

 そしてその日の天子の挑戦は、天子が疲れて動けなくなるまで続き、すっと竹刀の音が響いたのだった。

「絶対に私が勝ってやるんだから!!」

 天子の叫び声が剣道場に響き渡ったのだった。

 

 

Fin

 

Written by RenFujimori 2009.January.

Copyrightc 上海アリス幻樂団様&藤杜錬


 
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