No.246760

もう一人の僕へ

織月さん

3/2はシンジ×アスカの日!
2011/03/02 Pixivへ投下。

2011-07-30 04:32:57 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1200   閲覧ユーザー数:1153

買い物の時に美味しそうな苺を見つけた。

ただそのまま洗って出すのは芸が無い。

依って、生クリームを一緒に買ってロールケーキにする事にした。

出来はまぁまぁ?

焦げなかっただけでも上出来かな?

取り敢えず出来上がったので、お茶を淹れてアスカを呼ぶ事にした。

 

「アスカ? アスカ? お茶にしようよ」

 

部屋の前で呼んでみるけれど、全く反応が無い。

 

――おかしいな? 玄関に靴はあったから出掛けてはいない筈なんだけど。

 

「アスカ?」

 

部屋の襖は閉じられたまま。

依然として中から反応は返って来ない。

どうしよう?

咄嗟に柱を見てしまう。

以前は許可無く立ち入り禁止のボードが掛けられていたけれど、それも無くなって久しい。

 

――覗いてみるか。

 

そっと襖を開けてみた。

 

 

 

 

 

中を覗くと、机に突っ伏して眠っているアスカが居た。

 

「あーあ……風邪引いちゃうよ」

 

あんまり気持ち良さそうに寝ているみたいなので、起こすのは諦めた方が良さそうだ。

でも幾ら気温が高いと言っても、眠ってしまっては体を冷やす。

仕方ないなぁ、とベッドの上のブランケットを彼女の肩に掛けようと近付いた。

 

その時僕の目に映った物には苦笑を隠せなかった。

机の上に置かれている物自体は何の変哲も無い物だ。

 

ネルフのロゴの入った封筒。

赤いサインペン。

付箋の束。

そして数枚の写真。

僕とアスカが写っている。

何時写したんだろう?

封筒の中を覗いてみると、同じ様な遠景の物ばかり。

背後に写っている物から推測すると、どうもネルフの中の様。

 

――迂闊な事は出来ないね、これじゃ。

 

どうやらMAGIの監視画像をプリントアウトした物みたい。

真横に居ないとどう考えても写せないだろうというアングルの物迄混じっている。

 

机の上にばら撒かれた一枚を手に取る。

僕の顔の部分に赤いペンでバカシンジなんて書かれてる。

バカシンジはないんじゃないかな、と思いつつよく見ると、付箋に文句が書いてある。

ああ、休憩時間に食べてたチョコを一口強請った時の物か。

別に良いじゃないか。

シンクロテストの後って、結構甘い物が欲しくなるんだから。

 

――そうだ、こうすれば……。

 

僕は付箋を手に取り、文句への返事を書き込んだ。

 

 

 

 

 

しかし、アスカも案外子供みたいな事をするんだな。

まぁこうして写真にペンで書き込んだりするのは女の子がよくしてる事だけど。

クラスの女の子同士でインスタント写真の話題が出ても知らん振りしてるから、そういう事には余り興味が無いと思ってた。

けれど、普通に他の娘と変わらないんだなと思うと、その行動には思わず笑いが込み上げて来ると言うか。

 

おっといけない。

声を出すと目を覚ますかも知れないな。

僕は笑いを押さえ込み、アスカの肩にブランケットを掛けて部屋を後にしようとした。

 

その時目の端に入った物に驚いた。

その写真は一枚だけ写真の束から避けられていた。

写真自体は変哲の無い物だ。

やはり僕とアスカが写っている。

けれど、その写真に貼られている付箋に書き込まれた文は――。

 

小さな付箋への遠慮がちな小さな文字。

I need you.と一言だけ。

 

――私には貴方が必要です、か。

 

誰も必要としない、と周囲の手を払い除けていた頃が懐かしかった。

いつもアスカは一人だけで高みを目指して、前だけを見て、先に進む事を望んでいた気がする。

でも今はそうじゃない。

けれどそれは、僕にしても同じ事。

同じ様に傷付けられる事を恐れ、傷付ける事を恐れて周囲の手を必要としていなかった僕の手を必要としてくれた。

だから僕はメッセージが書かれた付箋を手に取った。

そしてYou too.と返事を横に書き込み、写真にペタリと貼り付ける。

 

君は他人を必要としなかった至らない僕を必要だというけれど、それは違うと思う。

それでも他人に必要とされる事を、他人を必要とする事で生まれる温かさを君が教えてくれた。

だから、僕は君の側に居る。

僕も、いや僕の方こそ君が必要なんだよ。

そんな思いを込めて、僕は重なった写真の上に大きくハートマークを書き込んだ。

 

 

 

 

 

一連の悪戯を終えても、アスカはすやすやと眠ったままだ。

 

もし目が覚めた後に悪戯に気付いたらどんな顔をするんだろう?

多分、バカシンジ、と怒られるのは間違いない。

暫くは臍を曲げてしまう可能性だってある。

でもきっと、最後には苦笑しながら悪戯を許してくれる筈。

 

そんな一寸先の未来を予想しながら、僕は機嫌を直す為のお茶の用意をする為に、彼女の部屋を後にした。


 
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