No.235832

遠距離恋愛。

ichimaruruさん

一リカ。

2011-07-27 00:13:05 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:838   閲覧ユーザー数:834

 

「ねーねー、明日さぁ、買い物に付き合ってほしいんだけどぉ」

 だめかなぁ?と、彼氏に甘える猫なで声が聞こえた。横目でチラリとみると、綺麗に巻いた髪を揺らして、彼氏の腕にすり寄っている女子高生の姿があった。

 彼氏の男子生徒は、どうせ荷物持ちさせられんだろー?と言いつつ、満更ではなさそうだ。

 うらやましー。

 本屋で、レジに並んでいる間、ファッション雑誌のところにいるカップルを見て、私は純粋にそう思った。

 彼氏と一緒に下校して、彼氏に唐突なわがままを聞いてもらえて。きっと、今日の夜も電話しておやすみって言い合って、そして朝同じくらいの時間に起きれるんだろうな。

 チラリと左手にある腕時計を見る。16時45分。…まだ、間に合うだろうか。

 カチ、と携帯をひらく。そして0と1を交互に二回ずつ、そして10ケタの番号を入力する。

 出てくれるだろうか、いや、もしかしたらもう寝てるかもしれない。勝手な偏見だけど、スポーツ選手って寝るのが早いイメージがある。

『もしもし、リカ?』

 ぴ、という音がして、聞きなれた、高校生にしては少し高い声がした。

『リカ?どうしたの?何かあった??』

 そう聞かれて、はた、とそういえば何の用もなかっただけなのを思い出した。

 なんとなく。

 声を聴きたくて。

 でもそんなの恥ずかしくて言えるはずがない。

「いや・・・・・・・・・なんや、こう、つるーっと手がすべてしまったんや」

『手が滑ってうっかり国際電話なんて掛けるかな?』

「う」

『リカってそういうことしないタイプだよね、本当はどうだったの?』

「うう」

 見透かされてるやん…。

 きっと彼は、ニコニコとした表情がをしているに違いない。意地の悪い笑顔をを想像して、思わず顔が熱くなる。

『もし。…もしだけど、俺の声が聞きたくなって電話してくれたんなら、俺はすごくうれしいよ』

 ああ。

 もう。

 ああ、もうこの男は。

「そ、そんなこと言われたら、頷くしかないやんかあ…!だって、ちょと目の前でカップルが明日買い物行こうとか、いちゃついてて羨ましくなってしまったんやもん・・・!」

 同じ時間軸の中にいて、同じ地面を歩くことができて、手をつなげる距離にいる目の前にいたカップルがうらやましくて。私は全部できないし、私はこれからこんばんわなのにあっち

 

はもうおやすみなさいの時間だし、本当はかけるべきじゃなかったのに、欲望と寂しさに負けて思わず電話をかけてしまった。

 恥ずかしい、恥ずかしい。

 絶対に笑われるに決まってる。迷惑がられるに決まってる。でも、電話から聞こえてきたのは意外な一言だった。

『嬉しい。リカってさ、今まで何か用事があるときしか電話かけて来なかったから、こうやってなんでもないときにかけてきてくれて嬉しい。それってさ、純粋に俺の声が聞きたくて電

 

話してきたってことでしょ』

「迷惑、じゃない・・・?」

『何言ってるの、彼女が望むことなら、なんでも叶えたくなるのが彼氏だよ』

 そう言う彼の声音がやさしくて、耳からあふれたなにかが頭を通って目に伝わって、目の前があふれた何かで視界がゆがんでいく。

「はは、ダーリンかっこええなぁ・・・・」

『うん。だって俺はリカの“ダーリン”だからね』

「・・・・・なぁ、ダーリン。お願いがあるんや…。明日、買い物に行きたいんやけど、付き合ってくれる・・・?」

『リカが望むなら、もちろん。荷物持ちでも何でもするよ』

 そういってくれるダーリンが嬉しくて、愛しくて、そしてこの距離がちょっと辛くてくるしい。

 でも、こんな風に思えるのって、やっぱり遠距離恋愛だからこそなんやろうな。

「ありがとうダーリン、オヤスミ」

 元気でたわ、というと、よかった。オヤスミ、リカ。という声がして、電話の通話終了ボタンを押す。

 表示では5分間の、すごく短い時間だったのに、なんだか心がホカホカしてる。

 絶対、いつかダーリンと本当に「明日買い物に行こう」っていうんや。

 ついさっき本屋で買った、海外留学の本を握りしめながら、私はそう心に誓った。


 
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