No.233859

ねむねむぐーぐー【帝人愛され】

折原臨也視点でちょっと不思議なほのぼの睡眠話。みんな帝人君大好き!!

2011-07-26 14:20:58 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1638   閲覧ユーザー数:1621

 

 

※みんな仲良し

 

 

 

 臨也は「ただいまー」と帝人の家へとやってきた。

 勝手に合鍵を作らせてもらっている。

 誰でもそうだろう。

 先ほどまでチャットをやっていたので起きているのは知っている。

 寝ていたところで構うこともない。

 勝手知ったる人の家で我が物顔をする情報屋。

 靴を脱いで上がればもぞもぞと動く影。

「イザイザ、布団は渡さないわよ」

 瞼が半分ほど落ちきっている狩沢が布団から顔を出した。

 平気だというように臨也はうなずく。

 異論はない。早いもの勝ちだ。

「渡さないもなにも僕のですけど」

「だから新しいの買ってあげるって」

「そういう問題ではなくて・・・・・・人口密度高すぎです」

 布団の中に狩沢絵理。

 壁により掛かり遊馬崎ウォーカー。

 枕を抱えた矢霧波江。

 いつものメンバーだと思って帝人をよくよく見れば膝の上に平和島静雄。

 眠っているようで臨也の訪れなど気づいていない。

 異常事態だ。

 二人は今までブッキングしたことはない。

 門田や遊馬崎たちが気を利かせてくれていた。

 別に臨也も争いに帝人の家に来ているわけではないので構わない。

 だが。

『う、うらやましいっ』

 声をひそめて口にすれば遊馬崎がスケッチブックに「一番乗りでした。やられたっす」と書いた。

 遊馬崎の細目は寝ているのか起きているのか分からない。

 文字のふるえからして眠いのは伺える。

 帝人はパソコンで作業しながらときおり静雄の髪をすくっている。

 暴君が起きる気配はない。

 臨也は気に入らないながら何も言わず帝人の背中にもたれる。

 小さく「重いです」と文句を言われたが知ったことではないと目を閉じる。

 狩沢から「蹴らないで」と間延びした声が聞こえる。

 ほぼ寝ているのだろう。

 謝りながらも帝人の部屋が狭いのが悪いのだと告げれば枕が飛んできた。

 波江も起きていたらしい。

 いや呻きかたからすれば寝ぼけている。

 うるさいという苦情だ。

 ここにいるみんな眠くて眠くて仕方がない。

 気が立ちながらもそれより眠さが勝る。

 安眠妨害が何よりの敵だ。

 狭かろう広かろう眠れないなら意味はない。

 

 眠らない街、東京。

 

 昔ながらのキャッチコピーが現実のものとなった昨今。

 大多数の人間が不眠症を患っている。

 臨也も例に漏れずに眠れなくて趣味という名の情報業に支障をきたしている。

 対処法として劇的だったのが「帝人のそばにいること」だった。

 不思議なことに帝人の近く、できれば触れたりするとこれ以上なく自然に眠れる。

 それに気づいたのは遊馬崎が帝人に嫁という名の抱き枕になって欲しいと頼み込んでいたのを妨害してからだ。

 帝人に抱きつくと驚くほど簡単に眠れた。

 遊馬崎のいうように嫁とは言わないが生活必需品レベルの家具として家にいて欲しい。

 もちろん断られた。

 ほかの奴らもみんな断られたのだろう、それでも眠りたいからこそ帝人の家はたまり場と化したのだ。

 臨也は遊馬崎と狩沢とほぼ毎日帝人の家で顔を合わせている。

 特に何も生まれることもなく全員静かに就寝。

 床が抜けると最初は思っていたが案外平気だ。

 四畳半も意外と広いのではないのかと錯覚する。

 

「あの、またこのまま寝る気ですか?」

「帝人君は特に眠くないでしょ。明日は学校休みだし不健康に徹夜でもしてなよ。朝ご飯は俺の金で出前とっていいから」

 臨也は帝人の背中の体温に半ば意識は持って行かれている。

 少年の声は心地いい子守歌だ。

「露西亜寿司ですね」

「トロは俺の」

「静雄さんが起きる前に帰ってください」

「ひーきだ、えこひいき反対っ」

 後頭部を帝人にこすりつけて主張すれば「静かに」と怒られる。

「眠るの三日ぶりだって言ってたんです。かわいそうじゃないですか」

「三日ぐらいシズちゃんは余裕余裕。三年ぐらい寝ないで動くよ」

「そんなわけないでしょ」

「いいじゃないか、脳細胞死滅しているようなヤツなんだから眠らないで死ね」

 人間にとって睡眠というのは重要だ。

 肉体を休めて調整する期間がないと繊細な肉の塊は簡単に腐りただれ落ちるように活動を停止する。

「寝不足で頭痛いんですか?」

 振り向くことなく手だけで帝人が臨也の頭に触れる。

 眠気が増す。

「おやすみ」

「おやすみなさい」

「・・・・・・みかプー、あとで私も撫でて」

「私も」

「俺も」

 寝ぼけている人々の声に帝人は疲れながらも同情を滲ませて「はい、おやすみなさい」と答えた。

 カタカタとキーボードを打ちながら帝人は溜め息をつく。

(東京の生活って大変なんだなあ)

 膝と背中の重みにすこし不思議な気分になりながら二人が喧嘩し出すころにちょうど出前がきてくれるだろうことを期待して帝人は欠伸をかみ殺した。

 バイトとダラーズの管理はちょうどいい時間潰しだ。

 

 

 

 

 

 

 布団を引き剥がして現れたのは狩沢絵理華と矢霧波江、女性二人に挟まれて困りながらも寝ようとする竜ヶ峰帝人。

 掛け布団を掴んだままでいる臨也に帝人は眠たげな瞳で「寒いです」と告げた。

「なに羨ましいことしてるの? 代わりなよ」

「うるさい」

 揺り起こそうとする臨也の手を波江は払いのける。

 強く帝人に抱きついてまぶしさから逃れるかのようだ。

「退け」

「駄目っすよ」

 殺気立つ臨也に壁に寄りかかった遊馬崎が言う。

「彼女きたばっかっすから。寝せてあげて下さいよ」

 自分も寝ていない癖に人を思いやるような言動は激しい違和感だ。

 特に遊馬崎は現実の人間になど興味がなさそうだというのに。

「遊馬崎さんは優しいですね」

 やわらかな声音で「臨也さんとは大違いですね」と直接的なトゲが付け加えられた。

 遊馬崎はいつもの表情が分かりにくい細目。狙っているのか分からない。

 勝ち負けは知らないが臨也が不眠のための偏頭痛で苛立ちを晒してしまっているのは事実だ。

「臨也さんが眠いのはわかりますけど……僕も眠いですから」

 付き合っていられないと年下に突き返される屈辱。一瞬にして意識は空白。

「重いのは我慢しますから」

 帝人がそう言って臨也に両手を差し出した。

 固まっている臨也に「左右は埋まってるんだから仕方がないでしょう?」と自分の上に乗るように言ってくる。

「寝心地悪くても諦めて下さい」

「寝心地はちょーいいっすよ。保証します。羨ましいっす」

 遊馬崎の言葉に帝人が自分だから言っているわけではないことを知る。

 胸にわき上がるものを見定める臨也の耳に満足そうな唸り声が聞こえる。

「うふふ、いいわねぇ。どんどんみかプーにハマっちゃえばいいわ」

 うふふというより、ぐふふの笑い声だ。

「ゆまっち」

「うっす! 待ってました」

 身体を起こす狩沢と入れ替わりに遊馬崎が帝人の隣に滑り込む。

「臨也さん。寒いですから、早く布団ごと来て下さい」

 言われて臨也は胸中の戸惑いを隠すように帝人を下敷きにする。

 波江に邪魔そうに頭を叩かれる。

 臨也の髪の毛が波江の顔に掛かったようだ。

「あぁ、もう少し下に。足出ちゃうっすけど胸の下とか腹に顔を埋めると気持ちいいっすよ」

 遊馬崎の言葉に従えば少し息苦しいが気持ち良かった。

 足は寒いが帝人の両脇の二人だって布団はほとんどかからず寒いはずだ。

 臨也が居なくてもそもそも小さな布団で三人は眠れない。

「布団買おうよ」

「吐息がくすぐったいんで黙ってください」

 素っ気ない。

 が、そんなのは小さなことだ。

 これでやっと安らかな眠りが手にはいる。

 

 

 

 

後日。

 

「帝人君っ!」

 帝人は臨也に簀巻きにされた。

 パソコンにしか注意を向けていなかった帝人は簡単にブランケットにくるまれ転がされた。

 不平を言う前に抱きつかれて帝人は苦い笑いを浮かべる。

「眠いんですね」

「だから来てるんじゃないか」

 帝人を横向きに寝かせて身体全体を抱きしめる。あたたかで臨也の目蓋はすぐに重くなった。

 息を吸い込むと感じる香りは体臭とするにはわずかすぎた。

「おやすみなさい」

 すでに眠りの中に足を入れた臨也は「あぁうん」と言葉にならない声を返すだけ。

 

 

 起きた臨也は一言「はあ?」と不満気な声をあげる。

 理解出来ない。

 帝人の背中部分のブランケットが引き裂かれて遊馬崎が抱きついていた。

 起き上がる臨也に「おはようござまーす」とかかる声。

 起きていたのだろう遊馬崎だ。

「服一枚ありますけど直接の方が気持ちいいんすよ」

 悪びれたとこなどない堂々とした態度に臨也は言葉を失う。

「帝人君はまだ寝てますんで」

 顔の前に人差し指を立て表情の読めない遊馬崎に臨也は色々な気持ちを噛み殺す。

「他人がいる場所でよく眠れるね」

「お互い様っす。まだ朝方っすから帝人君も仕方ないっすよ」

 窓の外を見て納得する。まだ朝日は遠そうだ。

 遊馬崎が帝人の腰に手を回しているのが気になりながらも臨也はいつもの黒いコートを羽織る。

 何か口にすべき気にもなったが帝人が寝ているのなら口を開くことはしない。

 後ろ髪を引かれながら立ち去る臨也に「いってらっしゃい」と寝ぼけた声がかかる。

 玄関の扉を閉める前に「行ってきます」と返したのは無意識の産物だ。

 外に出て吐き出した息は白いのにどこかが温かかった。

 

 

 

 蛇足的な余談。

 

 げんなりという表現が似合う帝人の顔とは対称的に遊馬崎は興奮を隠さない。

「超レアのラブリーシーツじゃないっすか!! 赤仕様はイベント売り限定で個数制限にも拘らず30分で完売っ。再販の告知はなしという公式のせいでヤフオクが高騰中のプレミアアイテムっすよ」

「再販はするらしいよ。これがそれ」

「新宿にいるのになんで煎餅焼かないんだろうと思ってすんません! アンリ・マユ希望のツンツン白鷺かと思ってましたが意外や意外、夢と希望を届けてくれるサンタさんでしたか?」

「慌てすぎて早いどころか遅くなったんですね」

 遊馬崎の言葉は半分も理解していないだろう帝人はそれでも相槌を打つ。

「臨也さんはこういう趣味があったんですか?」

「ないよ」

 ビニール袋を開けて中身を取り出そうとする臨也を遊馬崎は突き飛ばす。

 予期しない攻撃に思わずたたらを踏む。

 遊馬崎を見れば目を見開いてすごい形相だ。

「何するんすかッ!」

 人を弄んでネタばらしをして嘲った時に「殺してやる」と罵られた時の数倍の殺気がある。

 キレた人間ではあったが自分に危害がないならそう無茶はしないと思っていた。

 勘違いだったのかと臨也はナイフの位置を確認する。

「なんでビニール破るんすかッ!! ってコレ値札のラブリーステッカーもとってますねっ! なんて、ことを。なんて、ことを……。あぁああ、人間じゃないっす」

「なんでそこまでのこと言われないといけな――」

「臨也さん、これは臨也さんが悪いです」

 呆然とした臨也に帝人は困りながらも苦笑いで告げる。

「これは鑑賞して楽しんだり、手に入れて所有欲を満たすもので実際に使用するのは3つめを手に入れてからなんだそうですよ」

「なにそれ」

 ついて行けない世界の話だ。

 使うつもりでわざわざツテで手に入れたのにこれではどうしようもない。

 殺してでも奪いとると言わんばかりの遊馬崎の顔にため息。

 臨也は鞄の中から同じようなものを取り出す。

「通常版っ!」

 臨也が包装を解いていっても遊馬崎は何も言わない。

 呆気に取られてる帝人をシーツでくるめて転がす。

「あの?」

 答える変わりに髪を撫でて臨也は欠伸する。

「それあげる。通販限定で百販売、一週間後。告知は三日前サーバーパンクは必死だね」

「ツンデレだー! ツンデレがいるっ」

 狩沢がどこから聞いていたのか、キャッキャッとテンション高く現れる。

「ゆまっちの操はみかプー行きだからだめよ」

「またそういう冗談は……」

「二人とも静かに」

 帝人の言葉に黙ればゆるやかな寝息が聞こえた。

 狩沢が小さな声で「眠りに落ちるの早くなってる?」と口にする。

 たぶん事実だ。

 背中を擦りながら帝人が二人を見れば首を横に振られる。

 狩沢は微笑み「おやすみなさい」と掛け布団を二人にかけた。

 

 

 眠りは誰に邪魔されるものでもない。

 

 

 

 

 

 

 
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