No.22876

小さな幸せ-和希

時間旅人さん

学園ヘヴンの二次創作です。
CPは和希×啓太。
6月のCity大阪で少部数限定で頒布した作品です。

2008-08-02 15:36:33 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2175   閲覧ユーザー数:2142

 

【小さな幸せ-和希】

 

 

 

 先月の啓太の誕生日は、連休にもかかわらず(いや、連休だからか?)急ぎの仕事が入ってきた。

 休み無しで片付けて、どうにか啓太の誕生日のうちに終わらせることは出来たが、ゆっくりと過ごすことは出来なかった。

 だから、俺の誕生日こそはゆっくりと過ごそうと決めていた。

 誕生日当日は平日で授業があるから、前日の日曜に一日早い誕生日を二人で過ごすつもりで、仕事が残らないように土曜までに片付けたというのに…

 またもや、緊急の仕事が入ってきた。

 誰かが邪魔をしているとしか思えないようなタイミングで、仕事が入ってくる。

 仕事が嫌な訳じゃないが、こんな時は恨みたくなっても仕方がないと思う。

 日曜の朝から呼び出されて、学園に戻っても理事長室にこもったままで、啓太の声すらも聞けずにいる。

 こんなので仕事が捗るはずもなく、いつ終わるのか検討すらつかない。

 寮に戻ることも出来ず、ひたすら仕事をこなすしかなかった。

 そして、いつの間にか誕生日当日になっていた。

(九日になった…か。自業自得とはいえ、虚しいよな)

 啓太との学生生活を送るための皺寄せが、こんな風にやってくる。

 それが何の予定も入れていない休日なら構わないが、恋人と過ごしたいイベントの時に限って、こうして仕事に追われる羽目になる。

 啓太の運にも勝るとは…恐るべし、だな。

「………」

 溜息をつく。自分ではそんなつもりはなかったが、かなり大きな溜息だったらしい。石塚が俺の方に顔を向けた。

「和希様、キリの良いところまで終わりましたので、朝までお休み下さい。このままお続けになっても能率が落ちるだけですから」

 石塚が、疲れなど感じさせない顔で、言った。

 確かに、疲れが溜まると能率は悪くなる一方だ。それに、俺がずっと仕事をしていたのだから、当然、石塚も休まずに仕事をしていた事になる。

「…そうだな。少し休むとしよう。お前も休んでくれ」

「はい、休ませて頂きます。では、失礼致します」

「ああ、おやすみ」

「おやすみなさいませ」

 言って、石塚は部屋を出て行った。

 それを見送って、私室に向かう。

 椅子に背広とネクタイを放り投げて、ベッドに倒れこむ。

(…夢の中でなら、啓太に会えるかもな)

 

 

 

 

 

 

「………」

 小さな声が聞こえる。

「…ずき」

 とても、心地良い声。

「和希」

 今度はハッキリと聞こえた。

 ああ、啓太の声だ。

(…え?)

「起きて、和希」

(啓太!)

 その声に飛び起きる。

「わっ」

 そのことに驚いたのか、すぐ側で声がした。

 間違いなく、啓太の声だ。

 声の方に顔を向けると、啓太がいた。

「…啓太?」

「びっくりした。お前って、寝起きいいんだな」

「どうして…啓太がここにいるんだ?」

「どうしてって、いつまでも起きてこないから、起こしにきたんじゃないか」

 聞きたいのはそういう事じゃなかったけど、何となく訊きなおす気にはならなくて、時計に目を向けた。

 少し寝過ごしたらしく、予定していたよりも遅い時間だった。

「…授業、始まってる…よな?」

「まぁね」

 俺の呟きに、啓太が答えた。

「昨日、石塚さんに頼まれたんだ。和希の仕事が捗らないから、今日は理事長室に来て下さいって」

「え?」

「だから、俺は今日は理事長室で自習」

 そう言って、啓太が笑う。

「ったく、石塚の奴……」

(生徒に授業をサボらせる理事長秘書なんて、どこにいるんだよ)

 そう毒づきながらも、嬉しいには違いない。

 悔しいが、細かいところによく気の回る秘書だよな。

 その石塚が顔を出していないということは、暫くは二人でいてもいいという事か。

「ほら、顔洗ってきて。一緒にご飯食べよう」

 言われてよく見ると、部屋に置いてある小さなテーブルにサンドイッチとサラダとコーヒーが用意されていた。

「啓太が作ったのか?」

「そうだよ。…こんな簡単なのしか作れないんだけどさ」

 申し訳なさそうにちょっと視線をそらして話す啓太が愛しくて、自然と笑みが浮かぶ。

「嬉しいよ、ありがとう」

 本当に、たったこれだけのことが物凄く嬉しい。

「何か、新婚さんみたいだよな」

「な、何言って…」

「朝食用意して旦那を起こして、二人きりで朝食なんてさ、新婚家庭そのものじゃないか」

「…和希?」

「制服ってのがイマイチだけど…あ、そうだ、制服の上からでもいいからさ、これ、着けない?」

 言って俺が出したのは、フリルのついた純白の…いわゆるメイドエプロン。

「なんで、そんな物がここにあるんだよ……じゃなくて、何で俺がそんなことしなきゃならないんだよ!」

「すごく似合うと思うぞ」

「そんなこと聞いてない!…わかった、俺、授業に戻るよ。じゃあな、和希」

 言って、啓太は俺に背を向けて扉に向かった。

「ちょっ、待てよ、啓太」

 それを慌てて抱きとめる。

「ごめん啓太。あんまり嬉しくてさ、悪ふざけが過ぎた。もうしないから、側にいてくれ」

「…俺だって、本当は和希の側にいたいんだからな」

「うん、分かってる。ごめん」

 啓太がそう思ってくれていることは分かっている。でなければ、誕生日だからといって、授業を休んでまで側にいてくれはしないだろう。

「本当に、ごめん」

 もう一度謝ると、啓太が溜息をついた。

「もういいよ」

 言いながら、啓太が俺と向き合うように体を入れ替えた。

「大好きだよ、啓太」

 その言葉に、啓太が嬉しそうに笑う。

「俺も大好きだよ。それと、誕生日おめでとう、和希」

 言って、啓太が優しいキスをくれた。

 

[END]

 

 

 
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