No.228057

真恋姫無双 天遣三雄録 第二十三話

yuukiさん

反董卓連合編。
北郷軍と劉備軍の出会い。

2011-07-15 08:50:32 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:4815   閲覧ユーザー数:3695

 

始めに、主人公を始めとした登場人物の性格にズレがあるかもしれません。

なお、オリキャラ等の出演もあります。

 

そして、これは北郷一刀のハーレムルートではありません。

そういうものだと納得できる方のみ、ご観覧ください。

 

 

第23話 子曰、道不同、不相為謀 by于吉  

     どういう意味だ?    by左慈

     ググれ         by一刀

     

 

 

軍議が終わり、一度陣に戻った後、俺達は劉備の陣に向かっていた。

この先、進軍する際、対することになる汜水関攻略の策を立てる為に。

 

「、、、、、、、」

 

「なあ、北郷。仲達はどうかしたのか?」

 

「機嫌が悪そうですが、何かあったのですか?」

 

隣を歩く、左慈と于吉は小声で俺に問うてくる。

後ろに続く仲達の様子を心配しているようだ。

 

「なんか、劉備のところに居る軍師と訳ありみたいなんだよ。昔、なんかあったらしい。まあ、男女間のことだから、何が有っても不思議じゃないし。今は、そっとしておいてやろう」

 

「む、意外だな。普段なら、そういうものを面白おかしく引っ掻きまわすのに」

 

「どうも、仲君の顔がマジだからね。幾ら俺でも、その辺のことは弁えてるよ。実際、お前にしたって、春蘭や華雄とよろしくやってるのを邪魔したこと無いだろう?」

 

まあ、邪魔をしようとしたことはあるけど。

 

「そうだったな」

 

「私としては、全力で邪魔をして欲しいものですがね。一刀君、この世界に来てから甘くなっているのでは?現代では、情け容赦なく左慈に降りかかる幸福を握り潰していたではありませんか」

 

于吉はとても残念そうにため息をつきながら言う。

確かに、現代に居たころの俺はもっと、情け容赦がなかった気がする。

この世界に来て、俺は変わったのか?変わったことが有ったのか?

 

思い付くのは、華琳と出会ったことくらい。

もしかしたら、俺はこの世界で初めて恋というものを知ったのかもしれない。

真実の愛を知って、人の恋路を邪魔することに罪悪感を覚えるようになった?

、、、、ありきたりだ。ありきたり過ぎて、俺らしくない気がする。

 

という訳で、別の理由を考えてみよう。

 

「もしかしたら、、この世界じゃ年齢とか関係なく、言葉じゃ言えないようなことを出来るからかも知れない。俺が、現代で左慈の恋愛を邪魔していたのは、ひがんでいたのかも」

 

そう考えると、つじつまが合う気がする。

現代じゃ、結婚出来るのは16歳の女の子からって決まってたけど、法律で。日本国憲法で。

一応、季衣ちゃんとかは18歳以上だけど。この世界じゃ、ぶっちゃけ、年齢は関係無いしな。

ロリはおろか、ショタにすら寛容だし。

 

「そうか、そう言うことか。つまり、俺は束縛された世界から解き放たれたことによって、心が広くなっているのか」

 

「、、、なあ、于吉。俺の隣に居る親友に、俺の恋路の邪魔をしていたのは自分がロリコンで恋愛できなかったからだと、告白されたんだが。、、、俺はどうすればいいんだ?」

 

「さあ?まあ、いいんじゃないですか。一刀君の気持ちは、私にもわかります。大体、恋愛の自由を禁じる日本国憲法が間違っていたのですよ。良いじゃないですか。小さい子を好きになろうが、男の子を好きになろうが。人を愛していることに変わりは無いのですから」

 

「、、、、、、、、そう言えば、お前もそっち側の人間だったな」

 

「ヨーロッパ諸国では同性結婚が認められているのですよ?日本だって、南北朝時代や室町時代で花開き、江戸時代までは寛容だったというのに。今さら、偏見の目で見るなんて訳が分かりません。掌を返すとは正にこのこと」

 

ひきぎみの左慈を無視して、うんうんと俺は頷いていた。

于吉の言うことにも一理ある。基本的に、俺は俺に害が及ばない限りはあらゆる性癖に寛容なのだ。

 

「そうだよな。誰にも迷惑かけないなら、ロリだろうがゲイだろうがいいじゃないか」

 

「な、ほ、北郷までそんなことを言うのか。ま、まあ、ロリはまだ年齢は幼くても、女ならばと思えるが、、ゲイは、受け入れにくいぞ」

 

左慈の言葉を聞いて、于吉と共にため息をつく。

 

「な、なんだよ。二人して」

 

戸惑う左慈に于吉は諭すように喋り始める。

 

「良いですか、左慈。そういう偏見を生み、解り合おうとしない心が争いを生み、溝が広がり、次なる偏見を生みだすのです。正しく、悪循環。その悪しき思想が有るからこそ、200万年も前からホモサピエンスは争い続けているのですよ」

 

「む、むぅ」

 

于吉の言っていることは正しかった。

何故、いきなり人類の争いの歴史まで遡ったかは理解不能だが。

しかし、言っていることは一部の隙も無く正しい。

わかり合う心さえあれば、戦争もあらゆる恋愛に対する偏見も消えるだろう。

 

「そうだぞ、左慈。大体、少女愛好者も同性愛者も別に異常者じゃないんだ。個人的思考が世間一般と少し食い違ってるだけの普通の人だって、某学園の学年次席が言っていただろ」

 

「た、確かに。そう言われれば、そうだな。少なくとも、誰にも迷惑をかけないなら、非難されるいわれも無いし、人と違うってだけで非難するのは間違いだ」

 

ようやく納得した左慈を見て于吉と頷き合う。

相変わらず、流されやすい奴だ。

 

「そう!たとえ、男が好きだろうが幼い女の子が好きだろうが!恋愛は自由であるべきだろ!いいじゃないか!しょうがないじゃないか!好きなものは好きなんだから!」

 

思わず、叫んでから気が付いた。俺達は話しながら、随分と歩いていたようだ。

そして、思い出した。向かっていたのは劉備軍の陣。

、、、、そこまで遠くは無かったんだな。

 

「、、、、、、、、、、」

 

「、、、、、、、、、、」

 

「、、、、、、、、、、、」

 

ようやく、周りを見て。汗がダラダラと流れ始める。

俺達、3人は思わず、黙り込んでしまった。

 

「、、、あ、あはは」

 

「鈴々、こっちに来い。特に、真ん中の男には近寄るな」

 

「にゃ?なんでなのだ?」

 

「はわわ」

 

「あわわ」

 

「ふむ、、なるほど、長安の君主殿はとても心が広いのですな」

 

全てを聞かれ、周りで個々の反応をする劉備達を見て、もはや笑うしかなかった。

 

 

 

 

「あ、あはは。じゃ、じゃあ。作戦会議を始めましょうか」

 

劉備が努めて明るく言うが、天幕の中には何とも言えない沈黙が立ちこめていた。

俺の気分は最悪だった。関羽は張飛を背に隠しながら、俺を睨んでくるし。

諸葛亮と鳳統は俺と左慈、于吉の間を、はわわ、あわわ、とか言いながら見ているし。

趙雲にいたっては、ニヤケ顔が異常にむかつくし。とてつもなく居づらかった。

 

「もう駄目だ、、、ちょっとしたショックで自傷にはしってもおかしくない位、傷ついた。仲君。もう、俺達、帰るわ。寝るわ。記憶を忘却の海に投げ込むわ。後、よろしく。行くぞ、左慈」

 

「ああ、俺も一刻も早くここを立ち去りたくて仕方なかったぞ」

 

左慈と共に、立ち上がり帰るとするが。俺の服を仲達が掴み、とどめてくる。

左慈もまた、于吉に肩を掴まれていた。

 

「ふざけないで欲しいっす。悪いけど、今回だけは真面目にお願いします。そうすれば、それだけ早くここから出ていける。僕だって、早く帰りたいんすよ。こんなところ、本当なら一秒だって居たくない」

 

仲達は苦々しげに口を歪めながらそう言う、天幕内の空気が一層、気まずくなった。

ため息をつきながら、劉備の横に居る諸葛亮とその後ろに隠れている鳳統を見ると、目を逸らされた。

 

「なあ、仲君。いや、この場合、諸葛亮と鳳統にも聞いた方がいいのかな?三人は知り合いみたいだけど、ぶっちゃけ、空気がギスギスしてるよね?」

 

「、、、、、、、、」

 

「、、、、、、、、」

 

「、、、、、、、、」

 

、、、、だんまりかよ。

 

「えっと、どうしたの?朱里ちゃん。雛理ちゃん。司馬懿さんとは仲良しさんだって、来る前は言ってなかったけ?再開、楽しみにしてたんじゃなかったの?」

 

劉備の口から、新事実が飛び出した。

そうだったのか。別段、昔、喧嘩別れをしたとかそういう訳じゃなかったのか。

でも、此処で二人に合う前から仲達は機嫌が悪かったみたいだし。

どうなってるんだ?

 

「、、、えっと、その。何故か、仲達君の機嫌が悪そうで、それで、その、私たち何かしたかな?って、思って。その、」

 

諸葛亮は取れも言い難そうにしながら、チラチラと仲達を見ながら言う。

鳳統もまた、その隣で何度も小さく頷いていた。

 

聞けば、袁招の天幕で出会ったときから、仲達の機嫌が悪そうで、二人はそれを怖がっていたらしい。

機嫌が悪い理由は、わからないとのこと。

 

「で、仲君。二人の話を聞くと、悪いのは仲君の様な気がするけど。どうなんだ?俺としては、どっちかっていうと仲君の味方だし。正直なとこ、意味も無く仲君が人に悪意を向ける人間だと思ってないから、諸葛亮と鳳統の言葉を信じられないんだが」

 

「、、、、、、」

 

「、、、はぁ、まあ、言いたくないならいいや」

 

口を開かない仲達にため息をついてから、劉備の方に向き直り、座る。

なんか、進展しないみたいだし。空気も悪いから、さっさと終わらせて帰ろう。

 

 

 

 

「つまり、汜水関に籠る華雄将軍を罵倒し、外に引きずりだすということです。自分の分に誇りを持っている武人ならば、それを汚されることを何より嫌う筈ですから。どうでしょう」

 

仲達の機嫌が悪いから、軍議の進行は全て于吉が持ち、話し合いが続いていた。

于吉の出した策は、単純にして明快な物。引き籠っている華雄を怒らせて、引きずりだす、という物だった。

 

しかし、劉備軍の将達からの反応はあまり良くなかった。

 

「確かに、相手が猛将にして勇将、名の聞こえた華雄ならばその策にも乗ると思うが、、、」

 

「なんか、真正面から戦わないのはずるい気がするのだ」

 

「ふむ、確かに。同じ武人として、武人の武を穢すということに気が乗らないのは事実ですな」

 

関羽、張飛、趙雲の三人が眉を顰めながらそう言うのを聞いて、于吉はため息を吐いた。

 

「はぁ、まあ、貴方達の言い分もわかりますが。他に策が有るのですか?元来、籠城戦はどう戦おうと籠城する側が有利。故に、その理を破るなら絡めて手でなければならない。そうでしょう?諸葛亮、鳳統」

 

「は、はい。于吉さんの策は、単純な策ですが、案外いけると思います」

 

「効果があるのは、確かですぅ」

 

自軍軍師、二人の言葉に関羽たちは渋々ながら頷いた。

 

こうして、汜水関攻略の大まかな作戦と呼ばれるものは決まり。

後のことは、戦場も見えない天幕の中で決めても仕方がないのでは?という軍師達の言葉を聞いて、随時判断と言うことになった。

 

ようやく、この気まずい空気から解放されると、安堵のため息をつきながら立ち上がったのだが。

 

「まっ、待ってください!」

 

劉備は俺達をとどめてくる。何だ?そんなに俺を苛めて楽しいのか?

顔に似合わず、サドなのか?

 

「どうしたんだ、劉備」

 

「やっぱり、喧嘩したままじゃいけないと思うんです!何が有ったかはわからないけど、朱里ちゃんと雛里ちゃんは、司馬懿さんと仲直りして欲しいなって。思って」

 

軍議の終わった瞬間、軍議とは全く関係のない話を持ち出してくる。

ある意味、最高に空気を読んだ発言に、思わず笑みがこぼれた。失笑だ

俺はその表情のまま、仲達の方を見る。

 

「だってさ、そこのとこ、どうなんだ?」

 

軍議中の時間を精一杯使って、頭を冷やしたであろう仲達はしずしずと喋り出す。

 

「、、、、別に、僕は、朱里や雛里と喧嘩してるわけじゃないっすから」

 

軍議の時は諸葛亮、鳳統にいたっては名すら呼ばなかった仲達が二人のことを真名で呼んだことで、場に流れる空気が少し変わる。

諸葛亮と鳳統の顔が、目に見えて緩む。

 

「嫌ってる訳でもない。ただ、呆れてる。敵に虚実を織り交ぜてみせるのは、軍師として当然だけど、自分の主にすら虚をみせるなんて、軍師とは言えない。ただの詐欺師だ」

 

「っっ」

 

「、、、、」

 

「そういう訳っす。劉備さん。確かに、水鏡塾に居たころの軍師見習い、朱里、雛里とは仲が善かったし。好きでしたけど。そこに居る詐欺師二人とは、僕は何の関係も無い。だから、仲直りもなにもないんすよ」

 

温まりかけた空気は、即凍りつく。ツンドラだ。ツンデレならよかったのに。

 

「一刀さん。じゃあ、僕は先に戻ってます」

 

「ああ、うん。この空気を放置したまま逃げるのね。まあ、いいよ」

 

「、、、ごめんなさい」

 

謝るくらいなら、するなよ。

そんなことを思いながら、仲達が天幕を出て行くのを見送って。

振り返れば、地面を見つめる諸葛亮と鳳統が居た。

そして、劉備軍の面々はその二人ではなく、説明を求めるように俺を見ていた。

 

まて、確かに仲達が居なくなった今、主である俺に説明を求めるのはわかるし、見るからに傷ついている二人に話しかけずらいのもわかる。俺としても仲達の言いたいことも大体理解できたけど。

しかし、睨むのは止めて欲しい。俺が何か悪いことをやった訳じゃないんだから。

特に関羽、その視線は人を殺せるぞ。

 

「あ、あの、北郷さん」

 

「うん、うん。わかった。わかったから、説明するから。関羽に俺を睨むのを止めるように言ってくれない?」

 

「え?愛紗ちゃん?」

 

劉備が関羽の方に振り返ると、即劉備に笑顔を向ける関羽が居た。

 

「、、、、この、猫かぶり」

 

「何のことでしょう?」

 

思わず、口元をひきつらせた後、ため息をつき話し始める。

 

「はぁ、、、ものすごく本題からずれているように思うけど、関係あることだから答えてくれ。劉備。君は、どんな世界を目指す?」

 

「え?っと、、、みんなが、笑っていられる世界です」

 

最初だけ、戸惑いながら目を見開いた後、意志の強い瞳でそう言ってきた。

その瞳は輝いて見えたが、その輝きは何処か危なげに思えた。

 

「そっか、うん。俺もその理想には共感する。素晴らしいと思う。みんなが、幸せで居られる世界を思い描いて、思わず笑みが零れるよ」

 

「北郷さん、、、」

 

笑顔でそう言えば、劉備は喜びの表情を浮かべていた。

俺を睨んでいた関羽の視線も、変化している。

 

「けど、悲しいかな。君のソレは理想じゃなくて、幻想なんだ」

 

「え?」

 

「仲君は、それを教えようとしない。諸葛亮と鳳統に幻滅してるんだと思う」

 

そう言って、諸葛亮と鳳統を見れば。心なしか、先ほどより深く沈んでいるように見える。

 

「劉備、簡単に聞こう。君の言う、みんなってのは、誰のことだ?隣に立つ関羽か?張飛か?俺達も入っているのか?そして、董卓は、みんなとは言えないのか?もし、董卓が善人だとしても、敵だからと言って、みんなではないというのか?」

 

「あ、、、、」

 

「それは違うだろ?敵は全員悪人ってわけじゃない。善人だっている。君が敵と呼ぶ人を味方だという人が居て。その人を思う家族や恋人が居る。そして、その人たちから見れば君達こそが敵だ。つまり、誰かの敵である君には誰かの味方は救えない。」

 

「、、、、、、、」

 

「だから、君はどんなに願っても『半分しか救えないんだ。』そして、半分だけじゃ、みんなとは言えないよ。だから、君の叶わない願いは、理想じゃなくて幻想だ」

 

劉備の輝いていた目が、揺れる。瞳孔がどうにか、なってしまったかのように。

関羽もまた、俺を睨むどころかに見ることも忘れ、呆然としている。

唯一、趙雲だけは震えてはいるが、その眼で確かに俺を見据えていた。

そして、真実を知っていたであろう二人は、ただ、沈んだままだった。

 

「、、相変わらず、一刀君は優しいですね。優しすぎて、残酷すぎる」

 

「ふん、何時かぶつかる壁。つまらん、ぶつかった瞬間それか」

 

于吉と左慈はそう、捨て台詞を吐いて天幕から出て行った。

 

 

おい、待てよ。俺一人を残して行くなよ。

ほら!俺も続いて出て行こうと思ったら、劉備に袖を掴まれちゃったじゃんか!

 

「、、、、、、、」

 

「はぁ」

 

子供のように震えながら、俯く劉備が居た。

アイデンティティーの崩壊。幻想が現実に屈する瞬間。

ほんと、こう言うのも見ると上条さんに言いたくなるね。

誰も彼もが、幻想をぶち殺せるわけでもないって。

ぶち殺さない方がいい幻想もあるんじゃね?って。

 

震えている子供のような女の子を見て、手を振り払えるほど俺は出来た人間じゃなかった。

掴まれた手とは反対の手で、頭を撫でる。驚いたのか、劉備は顔を上げてきた。

 

「ん、、、」

 

「劉備。『しょうがないんだ。』君の思いが間違ってるわけでも、君の力が足りないってわけでもない。救えるのは、味方だけ、敵は救えない。『半分だけしか救えない。』それは、『しょうがないこと』なんだ」

 

したかがない、しょうがない。

どれだけあがいてみても、どれだけ頑張ってみても。

劉備が現実主義者と呼ばれる時代は来ない。

未来永劫、永久無限。劉備はただの理想主義者だ。

 

頭を撫でながら、そう甘言を呟くが。

劉備は小さく、首を振る。

 

「無駄に、強い子だな。劉備は」

 

「、、、、、、」

 

呆れながらそう言ったのだが、口元には笑みが浮かんでいた。

現実を受け入れない、劉備。けど、いいじゃないか。現実を、見てはいるのだから。

もし、このまま現実を見ることも無く進み続けていたとしたら、たぶん俺はこの子のことが大嫌いになっていただろうけど。

そうじゃないなら、十分好感が持てる。

 

「一つ言っておくと、劉備のそれはただの我が儘だ。君主としての立場も何もない、ただの自分勝手な我が儘に過ぎない」

 

「、、でも、私は!」

 

「でも、それは間違ってない。正しい。貫き通せよ。その自分勝手な我が儘を」

 

「え?」

 

笑いながら、顔に出るうれしさを隠さないで俺はそう言う。

劉備の瞳が、いや、関羽や趙雲、張飛の瞳も俺を見る。

まるで、苛められるのを覚悟していたのに、全く予想外の所から救いが来たとでも言いたげな眼で。

 

なんだって、俺が自分たちを傷つけるって決めつけるかな?

俺が女の子を苛めて喜ぶのは、布団の上でだけなのに。

 

「人間、誰だって納得したうえで自分のやりたいように好き勝手にやっている。そうだろう、どんな人間も自分のことしか分からないから。他人のことなんてよくわからない。だから自分のやりたいようにやる」

 

それの何が悪いって言うんだ?

自分勝手な劉備の願い。みんなに笑っていて欲しい、たとえ自分が傷つけた人々でも、自分に笑顔を向けて欲しい。

その願いは間違っている。けど、だからどうしたと笑う勇気が、多分劉備には足りてない。

 

「自分で考え、自分で納得したことをやる。だれもがそうやって真面目に生きている。御蔭で、世の中は面白い。皆が必死になって生きてる。劉備、君も本気で叶えたい願いが有るんだろ?作りたい世界があるんだろ?なら、遠慮なんてしなくていいだろ」

 

例え間違っていたとしても、どれだけ荒唐無稽で叶わない願いだとても。

だからと言って、諦める必要は無い筈だ。

正論だけが、正しい訳じゃない。

無論もまた、正しいじゃないか。

 

「頑張ってみたらどうだ?現実が幻想に屈する瞬間、世界の終わりまで。俺は、君を応援出来るぞ」

 

泣きながらでも、進むという女の子が居る。

 

その理想は破綻している。誰も傷つかない物語などおとぎ話だ。

などと、言えるほど。俺は人生の絶望を味わってはいない。

俺は正義の味方でも、英雄でも、ましては反英雄でもない。

 

「劉備の見る世界は間違っているけど、劉備の想う世界は間違っていないと思うから」

 

「北郷、、さん」

 

だから、泣き続けて、後悔と懺悔の果てで顔を上げた人が居るなら、応援したいと思う。

酷くて、優しくて、弱くて強い。俺は、普通の、何処にでもいる、凡人だ。

 

そして

 

感極まったのか、恥も外聞も無く子供のように泣きじゃくりながら抱きついて来た劉備。

俺は、そんな状況の中、感じられる二つの双璧の柔らかさに思わず。

 

「、、、別段、俺はロリコンってわけじゃなかったみたいだ」

 

と、途方も無く不謹慎だがそんなことを小さく呟いた。

 

 

 

 

そして、これはその後の話。劉備の陣を出て、明日の行軍に向けての準備を終えた夜の話。

出来れば、語りなくなどない。情けなさすぎる俺の話だ。

 

 

 

 

陣を張った外で夜空を見上げていると、見知った顔が近づいて来た。

 

「おお、秋蘭。何だ?俺に会いに来てくれたのか?」

 

「ああ、まあな」

 

「春蘭は一緒じゃないのか?てっきり、俺を殺しに来ると思ってビビってたんだけど」

 

「姉者は今、華琳様に宥められているよ。本当に、北郷を殺しかねないからな」

 

殺しかねない、の部分を強調して言われる。

どうやら、秋蘭も怒っているみたいだった。

気づいたこと一、美人が怒るとすごい怖い。

気づいたこと二、でも、やっぱり美人は美人。

気づいたこと三、秋蘭の怒り顔に興奮している俺が居る。

気づいたこと四、俺はマゾかもしれない。

 

「北郷。何故、軍議の時に華琳様にあのような態度を取った。顔には出さぬが、悲しんでおられたぞ」

 

「、、、、」

 

「北郷、何か言え。何故、お前は華琳様を遠ざけた。あまつさえ、劉備などと組むとは、、」

 

秋蘭に怒られた。陳留に居たころ、よく怒られたけど。

本気で怒られたのは、多分これが初めて。

 

「、、、はぁ。秋蘭。華琳の事を大切にする君は好きだ。けど、少しでも俺のことを思ってくれているのなら、俺のことも少し考えて欲しい」

 

「、、、、、」

 

「俺は、華琳に腹を立ててるんだ。だから、無視して誘いも断った。それだけだ」

 

荒げてしまいそうになる声を努めて、鎮めながら続ける。

 

「俺は、華琳のことが好きだ。好きだから、傍に居たいと思った。傍に居る為に努力をした。けど、華琳はその努力を無意味なことだと言ったんだ」

 

――私は、貴方のそれが許せない――

 

「無駄だと、腹が立つだけだと言ったんだ」

 

――どうして、その才を使おうと思わないのかしら――

 

「俺のことなんて考えもせず、俺の思いを否定した」

 

――なら、一刀、貴方は私に必要ない――

 

「俺を不要だと、そう言った」

 

――貴方より、誇りが大切。当然じゃない――

 

「自分でも小さい奴だと思う。笑って許せたらいいなと思う。けど、俺が華琳に腹を立てたら悪いのか!何でもかんでも、あいつの言う通りにしなきゃいけないのかよ!」

 

努めて、冷静にしていた心が熱くなる。思い出すだけで、涙が零れそうになる。

華琳に不要だと言われたあの時、俺がどれほど傷ついていたのかを誰にも知られずに居たのに、秋蘭に知られてしまった。

らしくない、笑っていない俺なんて俺じゃない。真面目は、嫌いだ。

 

秋蘭は何も言わない。その顔にはもう、怒りは無かった。

ただ、悲しそうに俺を見ていた。そんな顔で、見て欲しくなんて無かった。

 

美人の泣き顔は、綺麗じゃない。

 

「、、、わかった。すまない。私は、北郷の心を考えていなかった」

 

「止めろ、謝らないでくれ。これ以上、俺に惨めな思いをさせないでくれ」

 

「、、すまない」

 

謝るなって、言ってるだろ。

 

「お前の気持ちはわかった。お前の思いは、正しい。けど、けれど、それでも」

 

――私は、華琳様の味方だ――

 

そう言って、秋蘭は立ち去っていった。

その背中を見送りながら、追いたいと思いながら、俺は、動けない。

 

臆病だから。

 

「秋蘭。華琳を頼む。俺じゃ、その隣にいれないから。何時の日か、俺が華琳に届く日まで、隣にいてあげてくれ」

 

誰にも聞こえない様に、そう呟いた。

 

 

もしかしたら、俺が劉備の理想を応援したいと思ったのは、それが華琳とは真逆を行く物だったからかもしれない。

 

 

 

       後書き

 

トキメキタイが釣れない、、、いや、何でもありません。

 

そう言えば、第二回恋姫祭りが始まるそうですね。

俺は、こういう企画を思いつく方々はすごいな~と眺めている傍観者側ですけど、素直に楽しみです!

こういう企画が積み重なって、盛り上がっていけばいいですよねww

 

次回、遂に戦闘開始です!

様々な外史で成長を遂げる華雄は、果たして挑発に乗ってくるのか!?

気になってくれると嬉しいです。

 

 

 

 


 
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