No.227184

真・恋姫無双 ~黒天伝~ #23

cherubさん

第二十三話
『天災殺戮』

Oh・・・読ミヅライ

2011-07-09 19:55:41 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:2584   閲覧ユーザー数:2203

 

 

 

ものすごく読みづらいとは思いますが、ご了承ください。。。OTL

 

ちなみに四字熟語は誤字なんかじゃないんだからねっ!

 

 

 

戦火の中にたたずむ一人の異形。

その身全てを漆黒に包み、その剣すらも漆黒に染まっている。

その男を中心にして二十人弱の女がみな等しく腹を押さえて倒れ伏す。

何の前触れもなく倒れる自分の上官を前に、兵たちは動揺を隠せない。

 

しかし、目の前には殺気を全く感じさせない敵武将。

己が戦功を挙げんとして、大群をなして男に襲いかかる。

 

その数十万以上。

 

とはいえ、現在の状況を把握しているのは最前線のごくわずか。

残りの大半は前線に合わせて行動するのみ。

そこに自分の意思はない。

ただ漫然と、自分たちの勝利を確信し、前進するのみ。

 

しかしそこで異形が異常を引き起こす。

第一波が男と接触する前に後方から矢の雨が降り注ぐ。

その矢が男に到達する直前

 

「『命響止水(めいきょうしすい)』」

 

バリリリリリリリ・・・・

 

男が呟いたとたん、乾いた木の枝が折れるような轟音が響き渡り、あたりが粉塵に包まれ視界を失う。

兵士たちは間違いなく絶命したと信じ、速度を落とす。

 

徐々に視界が回復してくる。

第一波の兵たちは驚愕に目を見開く。

男は全く変わらぬ態勢でその場に立っていて、その周りに大量の折れた木の棒、矢の残骸が散らばっている。

放たれた矢の数は数百。

そのすべてを一瞬で斬り落としたのだ。

 

そして兵たちはもう一つあることに気づく。

男の雰囲気が変わっていた。

いや、正確にいえば、男の周りの雰囲気が変わっていた。

男を中心とした球状の空間が、異様な雰囲気を感じさせる。

その範囲はちょうど男の剣より腕一本分長いぐらい。

 

よく見ればその範囲内には矢の残骸は全く落ちていない。

その周りに輪を描くように散らばっている。

 

兵たちはこのことに驚き、不思議に思うがこれに恐怖を感じることはない。

名高い武将と共に戦場を駆ける兵たちばかりの最前線。

誰もが殺気を感じることができる。

しかしこの男からは微塵も殺気を感じられない。

 

このことが思考を麻痺させてしまった。

目の前で起こった、数百の矢が全て斬り落とされるという事も流してしまう。

 

この場の誰も気づかない、いや気づけないのだ。

男から発せられる強大な殺気を。

純粋すぎるがために、武を極めたものにしか感じられないその殺気に。

 

故に武を極めた武将たちは、この異常な殺気を感じ取り本能が死を想像させてしまった。

今現在攻撃を仕掛けている三勢力は、どこも優秀な人材を埋没させることなどない。

この殺気を感じられる者は、皆須らく武将の位を与えられている。

つまりその者たちは今、男を前に意識を失っている者のみ。

 

だれも突撃を止めることはできない。

姿を現した男に再び速度を上げ、接触する。

 

最も足の速い者が男の空間に入った。

 

その兵の足が空間に入ったとたん、その足首より先が存在しなかった。

しかし男は全く動いていない。

突然、足が斬れてしまったのだ。

それにつられて体全体が後ろに吹き飛ばされる。

 

だが誰もそんなことを気にも留めずに突撃を続ける。

 

後に続いた者たちも、先ほどの一人目と同様に空間に入ろうとした瞬間に斬り飛ばされる。

斬られた者の血の一滴すらその空間に拒絶される。

それでもなお、男は全く動かない。

 

武将級が一人でもこの男を見ていれば気づけたのかもしれない。

常人には捉えられられないほど、高速で振るわれる男の剣に。

 

どんどん周りに負傷兵が増えていき、それを突撃の邪魔に思った兵たちが肩に担いで後方へと送り返す。

こんな光景が二刻ほど続き、十万を超す大軍だった筈がすでに三万足らずに減った。

 

漸く兵士たちの間に不安が広まり始める。

もう勝った気でいた後方へと、次々と体の一部を失った負傷兵が運ばれてくる。

既に自軍の半数以上が戦闘不能になっている。

 

前方に戦闘が見えてくる。

自軍の兵士たちが大勢で何かを取り囲んでいる。

その中にいたのは、一人の男。

特に何をするでもなくただただその場に佇んでいる。

 

両腕に握られた特徴的な二振りの細身の黒剣。

この大陸では見たこともない形をしていた。

その上そのどちらもが人の身長を超えるほどの長さ。

 

そんな男が醸し出す独特な空間が、ありとあらゆる侵入者を拒絶し続けているその様についに恐怖を覚え始めたのだった。

 

 

本陣の後方で指揮を執っていた曹操もまた、一人の異形に翻弄されていた。

 

普段はこの上なく統率のとれた自軍が、いまや混乱、いや混沌としている。

将がいないのも原因の一つかもしれないが、曹操には最も大きな原因が感じ取れた。

 

曹操には異形の殺気を感じ取ることができた。

しかしかなり前線から離れていたために、徐々にその殺気に慣れるように進むことができた。

このために曹操は、他の将のように死を強く想像することはなかった。

 

この殺気に気づけたところで曹操にはどうすることもできなかった。

自慢の兵士たちは、あの異形に吸い寄せられるように攻め込んでいく。

三軍師が必死に声を張り上げ、正気に戻そうとするがそれも徒労に帰す。

 

始めのうちはこの大軍なら、あの異形も疲れが出るだろうと思った。

しかしもうすでに二刻もたつが全く疲れを見せていない。

 

ただただ絡繰りのように、目にもとまらぬ速さで敵を斬り飛ばしている。

未だにあの空間に入ることを許されたものは何一つない。

 

ここへきてようやく兵士たちに冷静さが少しずつ戻ってきている。

取り囲んでいた兵士たちが異形から距離をとる。

 

すると異形の周りに何もなくなり、代わりに現れたものがあった。

 

 

 

異形の足元には、大輪の真紅の『蓮の花』が咲いていた。

 

 

 

 

真紅の血の花弁が現れたころ、漸く武将たちが意識を取り戻し始めた。

 

最初に覚醒したのは、孫策。

さすがは王の器とも言えるのかもしれない。

それに続いて次々と武将たちが目を覚ましていく。

 

最後の于禁が目を覚まし、全員が自分が見た『死』の正体に気づく。

 

そしてゆっくりと蓮の上に佇む異形に近づいていく。

 

全員が激減した連合軍に驚愕の表情を浮かべていたが、その感情を原動力へと昇華させて自らを奮い立たせる。

誰もがこの異形の強さを理解している。

殺気だけで自分たちを戦闘不能の状態まで陥らせた。

それがこの異形の強さの証明だった。

 

「思春・明命下がってなさい」

 

「しかし、雪蓮さま!」

 

「興覇!貴方にも判っているでしょう」

 

「・・・はい。ご武運を」

 

孫呉の王・孫策の指示に渋々甘寧が下がっていき、その後を周泰が追っていく。

 

「焔耶!お前も下がっておれ」

 

「蒲公英!お前もだ」

 

「桔梗様・・・わかりました」

 

「分かった。お姉さま気をつけてね」

 

厳顔の言葉に悔しそうな顔をする魏延。

そして従姉を心配する馬岱。

二人も後方へと下がっていく。

 

「我らは二人で相手をせねばならんようだな」

 

「季衣たちは下がっていろ。いくら私でもお前たちを庇うことはできん」

 

「春蘭さま、秋蘭さま、頑張ってね」

 

必死な形相で許緒が残る二人へ声をかける。

二人はそんな許緒に優しく答えることも、笑顔を向ける余裕もなかった。

 

 

残ったのは関羽・張飛・趙雲・黄忠・厳顔・孫策・黄蓋・夏侯惇・夏侯淵の九人。

呂布と共闘した時と人数はほとんど変わらない。

しかし今回は主戦力が全員まとまっている。

それにこれ以上の人数になると、かえって邪魔になってしまう。

 

つまりこれが反董卓連合の、いやこの大陸の最高戦力といっても過言ではない。

だが、大陸の最強の武は今蓮の花びらの中心で意識を失っている。

それに目の前の異形は確実に呂布をも上回っている。

 

誰もが恐怖を感じている。

目の前のたった一人の男に対して。

三人の弓の名手は既に矢を番えていて、狙いも定まっている。

 

誰がこの戦いの火ぶたを切るのか、そんな緊張感が走る。

 

自身の心臓の鼓動さえ聞こえそうなほどの静寂の中、まるで示し合わせたように三本の矢が放たれる。

この場にいる誰にもこの矢には対応に苦しむだろう。

それぞれが足、腰、心臓の高さを狙っている。

上下の運動では到底よけられない。

 

普通の弓兵のそれより早い三人の矢は、一本斬り落とすのがせいぜい。

しかし三本は違う方向から来るため避けるのも不可能。

 

普通なら重傷を確信するのだが、この場にいる誰もがこの異形なら何とかすると思っていた。

 

その予想通り、三本の矢は空間の境界にまるで壁でもあるかのように破壊される。

これまでの兵士たちには理解できなかったが、今回は違う。

この九人には何とか異形の剣筋を見ることかできた。

 

この攻撃はこのためのものだった。

どれほどなのかを正確に測るための囮だった。

 

 

しかし、ここで誰にも予想できなかった出来事が起こる。

 

 

「友哉・・・もう・・・やめて」

 

血を流しながら呂布が異形の腰にすがりついていた。

あの空間は外からの侵入者は拒むが、内側のものには一切関係なかった。

 

「友哉」

 

もう一度、呂布がかすれた声で呼びかける。

しかし、異形は全く反応を見せない。

 

九人はだれも呂布の邪魔はしなかった。

これで異形が正気に戻り、『天城』へと戻ってくれればそれが最善だった。

もっとも流れる血の少ない方法だった。

 

「友哉!」

 

さっきより大きな声で呼びかけ、思い切りその腰に抱きついた。

 

ブシャアア!!

 

突然、血の花弁の内側の地面がさらされている部分に、新たな血が流れ落ちる。

その元をみな呂布だと想像したが、呂布の体には新たな傷はなかった。

 

呂布を見ていた九人の視界には先ほどまでなかった物体を見つける。

 

そしてその物体に焦点を合わせる。

 

 

 

 

 

蒼い剣・「蒼天」が異形の脇腹から生えていて、その顔は以前のように優しい表情をしていた。

 

 

 

つづく

 

 

 

 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
8
1

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択