No.221530

真・恋姫無双SS ~この地に生きるものとして~ 第3話「少女の願い」

SYUUさん

3話目になります。
盗賊を追い払った後の話になります。

2011-06-08 22:50:57 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:5151   閲覧ユーザー数:4596

真・恋姫無双SS ~この地に生きるものとして~

 

 

第3話「少女の願い」

 

 

少女を託された一刀は焼失を免れた家屋の一室に少女の看病をしていた。

 

あの後、男の遺体に泣きついていた少女をいさめ、

盗賊の襲撃によってしんでしまった村の人々を二人で埋葬した。

しばらくして全員の埋葬が終わった後、少女が倒れたからだ。

 

肉体的にも精神的にも追い詰められた反動によるものだろう。

少女はそのまま高熱を出し寝込んでしまった。

少女を移送する手段を持たなかった一刀は焼失を免れた家屋で看病をすることにした。

熱にうなされる少女の看病をしながらも養母のように医術を行使できないことに

一刀は自身の無力さを悔やんでいた。

 

 

一刀は生まれて間もない頃に益州のある屋敷の前に厚手の布に包まれた状態で捨てられていた。

 

家主が彼の地で類稀なる医者として有名であったことから、

貧困に喘ぐ者が我子の拾われることを願いながら置いていったのだろう。

一刀を拾った家主は医師として培った伝手を駆使して赤子の両親を

探し出そうと手を尽くしたが、見つけだすことはできず、

唯一の手がかりであった布地に書かれた文字から

姓を北、名を郷、真名を一刀と名づけ、養子として育てるのだった。

 

そんな一刀ではあったが、養母の愛を受けすくすくと育っていった。

成長の過程で稀有な気才を見せたことから、

医術についても教えられたが気の性質が向いていなかったのか、

術を行使できるようにはならなかった。

しかしながら一刀の有していた気才は惜しむべきもがあった為、

才をおしんだ養母が別の道を探すためにと幽州に住む親友の元へと送り出したのだった。

 

そこで武の才を見出された一刀は、

師が驚くほどの早さで上達していき、先だって11歳という若さで師に皆伝を言い渡された。

一刀自身は、まだまだ師から多くの物を学びたいと思っていたが、

これ以上は自身が実戦の中で培うほかないと言われてては、一刀も口を噤むしかなかった。

そんなやり取りの後、これからのことを相談すると師の友人が荊州で私塾を開いており、

その人物の元で知を磨いてはどうかと進められた。

 

それらのことを養母に伝えるため、帰郷の途についたのである。

 

 

一刀の献身的な看護もあり、少女の様態は数日で回復したが、

家族を失ったことに少女はしばらく自失状態が続いた。

そんなある日のこと、少女が始めて自分から一刀に声をかけた。

 

「あの、お願いがあります・・・私に武術を教えてください」

 

そういって一刀を見つめる少女の瞳は失意に曇ったものではなく、

確かな決意がみてとれた。

少女の始めてみせる強い意志に驚きを覚えつつもその事を微塵も感じさせぬ態度で、

一刀は少女に言葉を投げかける。

 

「それはなんの為にですか」

 

復讐や怨嗟のためでない事は瞳を見て判っていたが、

それでも、ただの村娘でしかなかった少女が武を志すことに疑問があった一刀は

少女に問わずにいられなかった。

 

 

「私は兄から武を学んでいて多少なりともそれに自信を持っていました。

しかし、いざ盗賊に襲われた時になって私は震えるばかりで何もすることができなかった・・・

もう嫌なのです、大切なものが奪われていく中でなにもできないのは」

 

村が襲われたときの事を思い出したのだろう、

最後には涙を流しながら少女は叫んでいた。

 

「・・・わかりました。

ですが、俺では貴方に満足な指導をすることはできないでしょう。

代わりにといってはなんですが自分の師を紹介しましょう。」

 

「あ、ありがとうございます」

 

感謝の言葉と共に頭を下げようとした少女を一刀が制す。

 

「感謝の言葉はまだはやいかもしれません・・・

師を紹介はしますが、弟子になれるかどうかは保障できません」

 

「それはどうして・・」

 

「師は弟子を選ぶんですよ。

こればかりは、俺が言ってもどうこうできる類のものでもありません。」

 

 

「そ、そんな」

 

「そんなにガッカリしないでください。

絶対にとまでは言えませんが、亡くなった人達の為に思い悩み、

涙を流せる貴方でしたら、師もきっと受け入れてくれますよ。」

 

肩を落とした少女の頭をやさしく撫でながら笑顔を向ける。

向けられた一刀の笑顔に少女は顔を紅め一瞬固まってしまうが、

慌てて一刀から離れ姿勢を正す。

 

「そ、そういえば、まだ名も名乗っていませんでしたね。

私の名は関羽。真名を愛紗と言います。」

 

「真名までいいんですか?」

 

「命を助けていただいたのですから、これくらいは当然です!」

 

関羽の強い物言いに強引に言い含められた感はあるが、

謝意を無下にできないかと一刀は納得することにして自らも名乗った。

 

「俺は姓を北、名を郷、真名を一刀と、

歳は同じくらいですから北郷でも、一刀でも好きなように呼んでください」

 

「そ、それでは・・・その・・・あ、義兄上とお呼びしても・・・」

 

顔を真紅にしてモジモジとしながら上目遣いで尋ねる関羽に、

兄が亡くなって寂しいんだなと勘違いした一刀はそれを快く承諾した。

 

「私の事は愛紗って呼んでくださいね義兄上♪」

 

 

互いに名乗りを終えた後、

旅支度を済ませ師の居る幽州へと村を後にするのだった。

 


 
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