No.219613

真・恋姫†無双 桃園に咲く 3

牙無しさん

一ヶ月半ぶりののんびり更新。覚えていた人がいれば天の御使い様なんだと思う。

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追記:3pの誤字を訂正。『武術に地震』があったらそれはもう女将さんの特技だよ……

2011-05-30 15:29:07 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:3111   閲覧ユーザー数:2642

 

 失言だった。

 一刀は内心で冷や汗をたらす。

 いやこの場合、失言になってしまった。といったほうがより正確な表現なのだろうが、目の前で気まずそうに目をそらした3人を見ると、そういった些細な言葉の違いに過ぎない。

 意図しない形で受け取られる一言ほど、場を凍てつかせるものはなかった。

 

「それでこれからどうするの?」

 

 行動を共にするにあたって、新参者が今後の方策を尋ねるということは、ある種当然のことだが、碧色に投げたはずの問いは曖昧に受信され、見つめ合っていたはずなのにいつの間にか視線が壁の品書きへとスライド。

 あれ? 琥珀色もそろりと入り口へと逃げていき。青い瞳は食卓テーブルに落ちていた。

 誰とも目が合わない早速の疎外感。

 隠していた恥ずかしいものが見つかったような気まずい空気が、なんだか居心地悪い。

 その話題に対する手詰まり感を雄弁に語っていた。

 

「……そりゃ、どうすればわからないからあんな山麓に来たわけだからね」

 

 肩をすくめてみせても、どうにも空気が軽くならない。

 占い師の予言なんて眉唾ものにすら縋らなければならなかったのだから、先の見通しなんか立っているはずもないのだ。

 同調するような、誤魔化すような劉備の乾いた笑いが白けた空気をよりいっそう強調するかのように響いた。

 気持ちばかりが先走っているのだろう。なんだからしいと思うし、好感も持てるが、さすがに少し気が抜けるような感情も捨てきれない。

 料理が片付けられて広くなったテーブルに両手を伸ばしてうなり声を上げた。

 暢気に唸ってみるが、打開案を考える頭の中で熱暴走が起きかけている。

 

 

 ここで本当に霊験あらたかな、それこそ神様のような『天の御使い』様であれば、天啓のひとつぐらい授けられるんだろうけど。

 

 

 海を割ることもできなければ、先を見通す千里眼もないのだから、彼女たちと一緒に頭を悩ませるしかない。

 要は頭数が3から4に増えただけ。

 ただ一刀は、少しだけ別の方向に思考を巡らせた。

 目を瞑って回帰するのは、過去に見た三国志演義という物語の断片。こことは少し違うかもしれないけれど、ベースが一緒なら、なにか流用できないだろうか。

 

 初期のころの劉備といえば、どんな感じだったっけ。

 

 

 

 

「……やっぱり最初は誰かの下についたほうがいいんじゃないかな?」

 

 湯気が出るほど考えても、出てきた最善はやっぱりオーソドックスなものだった。

 ぼそりと呟いた言葉に反応を示した関羽が首をかしげる。それにあわせてポニーテールが揺れる。

 

「仕官する、ということですか?」

「まぁ義勇軍として、でもいいだろうし。ただ何もないところからはじめるのはやっぱりきついでしょ?

 今までどおり三人だけじゃ高が知れてる。たくさんの敵に対するには、多くの味方が必要で、だったら軍を作らなければいけないけれど」

 

 同じ歴史舞台の主役、曹操や孫権らは血縁関係による強い基盤があった。けれど劉備にはそれがない。歴史の最初から最後まで、蜀は慢性的な人材不足だったはずだ。それこそ義兄弟という擬似的な絆を作らなければならないほど。

 後ろ盾がない。先代に及ぶ功績や地位がまったくない。というのは、こういった場面で大きなハンディになる。

 戦国とはいえ、自国の下克上の風習なんかはあまり聞かない話だ。

 というか現状はそこにすら至っていない。

 

「今までのように目先の村落を救うんじゃなくて、大陸の争いを鎮めたいのなら、ずっと先のことを考えなきゃいけないんじゃないかな。

 そうなると、どこかの下について武勲を挙げるのが、やっぱり一番の近道なんじゃないかと思う。それでも気の遠くなるような時間がかかるかもしれないけど……」

 

 ぼんやりと思うがままに話していたら、ふと不自然なほどの静寂が降りていた。

 静まり返った空間は、なんだかさっきの気まずさを再現してしまったかのような、空気の固まり方をしている。

 冷えた風が吹き抜けるような。

 目を丸くした6つの瞳に、穴が開くほど見つめられている。

 おそらく驚きを語っている視線は、どう捉えればいいのか判断に困って正直、背中がピリピリしてくる。

 

「えっと……」

 

 結局偉そうなこといって、知ってる話のとおりに進めているだけだ。

 強者のもとに身を寄せ、立身出世を目指すなんて三国志の時代では常識ではないか。

 けれど斬新な発想や魔法のような導きは、どう頑張っても出てこない。

 

 失望されただろうか。

 『天の御使い』がこの程度か、などと思われただろうか。

 

 

「すごいよ! さすが天の御使い様!」

 

 萎縮しかかった一刀の懸念に反して、目から流星を飛ばしながら桃香が黄色い声を上げた。

 そのまま握手しかねないほどに身を乗り出してきて、思わずのけぞる。

 人懐こい笑顔に気が緩む反面、え、これでいいの。と思わなくもない。

 確認するように、関羽を見やると、視線が温かい。

 

「確かに、この世界は一朝一夕で変わるほど簡単なものではない。力を持てど、知略を弄せど、大陸全土にまで影響を与えるとなれば、長き道のりを歩かねばなりませんね」

「ま、まぁ。そうだと思うけど。張飛はどう思う?」

「鈴々は悪いやつを倒して、みんなが平和に暮らせればいいのだ! そのためにお姉ちゃんだちについていくのだ」

 

 ここまで全肯定されると、それはそれで不安だ。

 さっきとは一転、肯定的なムードに再び一刀は内心で怯んだ。

 こうも大きく響いては、責任が取れるはずもなく、そもそもが情勢についてだって、理解しているとはいえないのだ。

 

「一応、確認したいんだけど。たとえば、ここの偉い人ってどんな人?」

 

 苦い笑顔を作りながら、ひとまず話を逸らしてみる。

 そうでなければそのまま採用されてしまいそうな勢いは、あまり都合の良い結果には落ち着きそうにない。

 

「ここ、って幽州の?」

「幽州はこの国北端の州で、異民との交戦も激しい地。兵の錬度も高いと聞きます。確かここいらを治めているのは……」

「公孫賛様さ」

 

 関羽の言葉を引き継いだのは一刀の背後、カウンターの向こうから顔を出していた女将だった。

 並を頼んでもやや多く飯を盛ってくれたその豪気さを表現するような恰幅のよさで、三角巾を締めた頭部は劉備たちの1.5倍は優にある。

 

「話はさっきから聞いていたんだけどね。ずいぶんと大きな話をしてるじゃないか」

「公孫賛……」

 

 公孫賛といえば、物語の初頭に登場する人物だ。

 白馬将軍を異名に持った華北の雄。董卓討伐の連合に従軍した後、群雄割拠に突入してすぐ袁紹に滅ぼされてしまったが。

 先立つ知識を思い起こして、はたと彼の交友関係に思い当たることが。

 

「あれ? 公孫賛といえばたしか……」

「えーっ! 白蓮ちゃんがこの辺の太守様なの!?」

 

 

 案の定、というかわざわざいう手間が省けた。

 食卓を叩いて、突然立ち上がった劉備の声に、呆れた顔が2つ。

 

「桃香様……」

「あっ! そういえば白蓮ちゃんこの付近に赴任するっていってたっけ?」

「そういうことはもっと早く仰って、そもそももう少し早くお気づきになってください」

「あぅ、ごめ~ん」

「まったく。お姉ちゃんは天然過ぎるのだ」

「やっぱり天然なんだ」

 

 こういっては何だが、見た目どおりというか、予想通りというか。

 必死に否定をする劉備を尻目に、他2人からの容赦ない天然エピソードが零れ落ちる。

 何もないところで転ぶ、寝ぼけて水辺に落ちる、ぶつかる、滑る、エトセトラ。

 間の抜けたものから、少し痛々しいものまで。すべて自業自得なできごとなのだからちょっと感心してしまう。

 劉備が半泣きになるまで逸れに逸れた話を軌道修正したのは、いつのまにやら近づいていた女将だった。

 

「ちょうど今、ここいらを荒らしてる盗賊を懲らしめるために義勇兵を募っているらしいからね。あんたら武芸に自信はあるんだろ?」

「うむ。私と張飛に勝てるものは、そういないだろう」

「鈴々超強いのだー」

「それなら大丈夫だね。公孫賛様を助けてやってくれよ」

 

 

 

 

「それで、どうするのだ? お兄ちゃん」

「ん? どうするって?」

「お兄ちゃんは鈴々たちの主人になったのだから、行き先を決めるのはお兄ちゃんの仕事なのだ」

 

 さも当然のように言い放った張飛の台詞を、しっかり受け止めて把握するまで数秒。

 誰がご主人様?

 その間に関羽もそうですね、なんてさも当然のようにいい始める始末だから流石に慌てた。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ。主人は劉備でしょ?」

「桃香様も私たちの主人ではありますが、貴方もまた人々を束ねる立場にあるべきかと。乱世を鎮める者として」

 

 そうだった、そういう立場だったんだ。

 わずかな疑問も挟まない返答に、改めて思い知らされる。

 

 とはいえ別世界からやってきたものがそんな安易に介入していいものなのか。

 裏でチョコチョコ動き回るならまだしも、表立ってあれこれするなんて。

 そもそもがそんな立ち回りができるほど頭が切れるわけではないし、ましてや帝王学なんて習っているわけでもない。

 何度もいうが、元の世界では一般ピープルなのだ自分は。

 けれど話を聞く限りで、この娘たちをそのままにするのは不安になってきたのもまた事実。お互い様かもしれないし、失礼かもしれないが、現実味的な思考とかの面で。

 あぁ、なんだか同じようなジレンマばかりだ。

 不安げに見つめられる視線が痛い。

 

 

「……わかった。たださっきも言ったように、天の御使いだなんて証拠はないんだから、俺は神輿にしかなれないよ。

 重要な決定をするのは俺じゃだめだ」

 

 

 そこが最低限の譲歩だろう。

 天からの使者の導きを気取った視線に、劉備が身を硬くした気がした。

 求心力としての存在価値は認める。それは今の自分にできる最低限の役目だろうし。けれどそれ以上はやっぱり手を出してはいけない。

 身勝手な自己束縛だけど、それは皮膚感覚でわかるような第六感だった。

 

「そんな顔しないでよ。俺は俺で何かあれば意見ぐらいできるから」

 

 仲間なんだから、というと、3人揃ってホッとした顔をするものだから、ほんとに血がつながっているんじゃないかとすら思う。

 

 

 

 

 桃色の風が吹いている。

 そう錯覚してもやむを得ないほどに舞う桃の花びらに、一刀は息を呑んだ。

 見上げても、空の青がほとんど残されていない。

 桃の樹は互いに枝葉を結んで、天然の天井を作り上げている。

 無秩序で乱立した木々が織り成す幻想的な空間は、何かが始まる場所としてはおあつらえ向きであるようにすら思えた。

 

「すごいな……」

「だねー」

「まさに桃園と呼ぶにふさわしい美しさです」

 

 ひたすら感心することしかできない。

 圧倒的なまでの、絶景。

 

「御苑の桜みたいだな」

「ご主人様のいた天にも、これほど美しい場所があったのですか?」

「まぁ、咲いていた樹は違うけどね」

 

 狂い咲く薄紅色が、少し前までの世界を思い起こさせる。

 実際にこの目で見たのは数度しかないけれど、同じようにその壮大さに息を詰まらせたものだ。

 懐かしむと同時に、なんだか(たぶん)数時間前までいたその場所が、ひどく遠くなってしまったような感情は、あまりいいものと呼べないものだった。

 少なくとも門出にはよくない湿っぽい気分だ。

 

 

「さぁ、酒なのだ!」

 

 

 既に桃に見飽きてしまった張飛が、樹々に囲まれたど真ん中に座り込む。

 その手には自身の身の3分の1はある一升瓶。先ほどの店の女将が譲ってくれたものだ。

 荒廃していく世を憂い、次代に希望を託したと。

 

 どこか憔悴したようなその笑顔を見ても、やはり未だ現実味は沸いてきやしない。

 だって今のところ出会ったのは彼女たちだけで、それらしい物事は一切起こっていないのだ。

 この娘たちから三国志の時代を感じるというのは、残念ながら不可能に近い。

 川下の小川を眺めながら、川上の清らかな眺めを想像しろといわれているのと同じだ。

 ただ渡された酒瓶の重さが、確かに自分がここにいるのだと思い知らせる。

 きっと今は、それだけで十分だろう。

 

「一人、ものの雅もわからぬものもいるようですが」

「鈴々ちゃんらしいね」

「いいんじゃないか。『花より団子』って言葉もあるし」

「花より団子、ですか?」

「言葉のままの意味。花を愛でるより、団子でも食ってたほうが腹が膨れていいっていう人を指す言葉」

「なるほど」

 

 今の張飛を言い表すにはぴったりだろう。

 くるくると舞う花びらの中で、人数分の酒を杯に注いでいる気の早い少女に、そろって苦笑をこぼした。

 用意されたその数は、4つ。

 自分の知る物語より、ひとつ多い。

 

 

「そういえばお兄ちゃん。お兄ちゃんは鈴々たちの仲間になったんだから、真名で呼んでほしいのだ」

「まな?」

 

 聞きなれない単語に、眉をひそめる。

 

「我らの持つ、本当の名前です。家族や親しき者にしか呼ぶことの許されない、聖なる名」

「その名を持つ人の本質を包み込んだ言葉なの。だから親しい人以外は、たとえ知っていても口にしてはいけない本当の名前」

 

 劉備の真名は『桃香』、関羽の真名は『愛紗』、張飛の真名は『鈴々』。

 要は忌み名ということか。字とはまた別にそんな名前が用意されているなんて、いよいよをもって知らない世界の様相を呈してきた。

 果たして無事帰ることができるのか、なんて心配は今は野暮なんだろうが。

 

「あぁ、それで張飛はずっと自分のこと鈴々とかいってたのか」

「そうなのだ! 鈴々は鈴々なのだ。けどその名で呼んでいいのはお姉ちゃんたち、そして今からお兄ちゃんだけなのだ」

 

 無垢に笑う鈴々の笑顔が、なんだかくすぐったい。

 うれしそうに笑う声は、まさに鈴を転がすような音色だ。

 

「ご主人様も、真名とかあるの?」

 

 興味津々といった様子の桃香に、小さく首を振った。

 結局のところ、呼び名はなぜかご主人様になった。

 むず痒いところの騒ぎではないが、人を募る分には自分が上であるように見せたほうがいいのかもしれない。

 なんて愛紗に言いくるめられただけなのだが。

 思考する片手間、手に持った杯をくるりと回す。桜の花びらの小船が小波に揺らめいた。

 

「字や真名、といった名前はないよ。姓と名だけで『北郷一刀』。きっと真名の役割をしているのは名の『一刀』になるのかな?」

 

 一振りの刀。

 その名がどんな想いでつけられたのか、今となっては聞けなくなった。

 おそらく剣道場を開いている祖父あたりが名付け親なのだろうが。

 その由来を知るのは、帰る宛が見つかるまでお預けなんだろう。

 

 

 

 この行動は軽率だったのかもしれないと、今更になって思ってしまう。

 けれど出会ってしまったのだ。

 知っているようで知らない、少し狂った世界で、これから羽ばたこうとしている大徳と双翼。なんだかほうっておくと危なっかしい3人組。

 けれど大きな志を胸に、歩んでいこうとしている。

 その姿は冷たい風の中に春を感じた花のような。

 物語の始まりの高揚感、といってしまったら不謹慎だろうか。

 

「我ら四人!」

 

 凛とした愛紗の声が、掲げた杯より高らかに響く。

 

「姓は違えども兄姉妹の契りを結びしからは」

「心同じくして助け合い、みんなで力なき人々を救うのだ!」

 

 応ずる桃香、鈴々の声が桃園の風に溶ける。

 

「同年、同月、同日に生まれることを得ずとも!」

「願わくば同年、同月、同日に死せんことを!」

 

 

 

「乾杯」

 

 

 

 言うだけのことを言われて、乾杯の音頭をとる。

 有名すぎる名台詞に水を差す一言が、なんだか妙におかしかった。

 

 お久しぶりです牙無しです。

 「そんな遅筆で大丈夫か?」なんて問いもかけられないほど、細々と更新しております。

 

 

 3話分かけてようやく原作の1章終了。

 一刀と三人娘のファーストコンタクトですが、牙無し的にはどう考えても恋姫の登場人物で「タイムスリップした!」という気分にはなれません。

 性転換云々以前に、服がね……。ぽりえすてーるとか、そういう次元とは違う意味でありえない方向性ですから。

 ということで、我が家の一刀も「いやいや、ねーよ」的な感じです。

 達観というより、現実離れした現象についていけていないだけです。そして3人(厳密には2人)のお花畑っぷりに軽く眩暈。

 当座のところは同行したほうが、お互いのためじゃね? とこれまた打算的な思考の果ての結盟な気がしなくもない。

 情熱はないことはないですが、客観性というか、どこか醒めた思考の先行した脳内構造になっています。

 原作一刀が3人に囲まれているようなイメージなら、こちらははしゃいで先いく3人の後をおっついていくような、保護者&傍観者。助言はするけど、決定権はもとうとしない。そんな立ち回りにできたらいいです。

 

 今後も気が向けばのマタリ更新になりますが、暇つぶしに見ていただければ幸いです。

 


 
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